木の葉も紅く染まってきて陽の光も優しくなってきた時分、魔法の森の傍にポツリと寂れた異国風の道具屋が佇んでいた。
これといって特別な予定もない朝、いつもと同じように茶を沸かしながら物思いに耽る。考えることは大体外から流れ着いた品物のことだが…
先日拾った棚に収まるかどうかの大きさの黒い箱…これは”てれびじょん”と言い、世界中を覗き見ることができるらしい。一応名前と用途は分かるが、どうすれば覗き見が出来るのか、その肝心な方法が分からない。
そんなことを考えていたら、ちょうど茶が沸いた。湯呑に茶を注いでいるとカランカランと店の扉が開いた音がした。
「よう、香霖今日も来てやったぜ」
「魔理沙…うちにはもう金目の物は残ってないよ」
「人のことを質の悪い強盗みたいに言うのはやめた方がいいぜ。今日はお客さんを連れてきたんだからな」
そう言うと魔理沙の後ろから金髪の少女が顔を出した。
「ずいぶんと魔理沙と仲がいいのね、道具屋さん」
「君はアリス・マーガトロイドだね?里でよく人形劇をしているとか」
「えぇ、その通りよ。結構私の名前も広まってるのね」
「この前そこの棚を漁ってる魔法使いから聞いてね」
棚を漁り続けている魔理沙を止めながら来客に用件を聞いてみる。
「今日はどのようなご用件で?」
「実は新しい人形の繰り糸を探しているのだけど、なかなか良い塩梅の糸がないのよね」
「一応糸ならあるけれど見てみるかい?」
「えぇ、是非」
どんな形であれこんな風に客と接するのは久しぶりだな。
彼女を糸の置いてある棚に案内すると裏から派手な破壊音が聞こえた。
「少し糸を見ていてくれ。裏を見てくる」
「フフッ魔理沙ね」
とてつもなく嫌な予感がする。異常に逸る鼓動と共に早歩きで音の方へ向かう。
何が破壊されたかは予想していたが、改めてその場面に出くわすとさすがの僕も地に膝をついてしまった。
結論から言うと壊されてしまったのはやはりあの”てれびじょん”だった。
箱は見事に横転し、粉々になったガラスの破片が床に飛び散ってしまっている。箱の裏からは太かったり細かったりする赤い糸のようなものが飛び出てしまっている。
「こ、香霖?うずくまってないで何か言えよ…?」
さすがの魔理沙も焦っているようだが、僕にはもう立ち上がる気力も残っていなかった。そのまま胡坐ともうつ伏せともつかない体勢でしばらく絶望の味を噛みしめていた。
「…魔理沙、どうしてこんなことを?」
「わ、わざとじゃないんだぜ?持ち運ぼうとしたら以外と重かったというか…
「とにかく悪いとは思ってるんだぜ?とりあえず掃除しなきゃだな!」
そう言うと魔理沙は自己完結してさっさと掃除道具を取りに行ってしまった。
「そうか…あの箱は機械だったのか、河童になら直してもらえるかな」
人は落胆している時も意外と冷静になれるんだな。僕は半人半妖だけども。
「なに独り言言ってるの?」
顔を上げるとアリスが不思議そうにこっちを見ている。
「見ての通りさ、魔理沙に店の物を壊されてしまってね」
「あら、この太い糸なかなかいいわね」
”てれびじょん”の中をいじりながらアリスは自分の話を進める。なるほど魔法使いというのは自分の興味が最優先らしい。
「この糸まだあるかしら?」
「いや、それはその機械の部品だからうちにはそれしか無いよ」
「残念ね、新しいゴリアテ人形に使おうと思ったのだけれど」
ゴリアテ人形?ずいぶん物騒な響きの人形だな。
「もしこの部品が要り様なら妖怪の山の河童に聞いてみたらいい。多分同じようなものを持っていると思うよ。たしか魔理沙は河童とも顔見知りのようだし」
「ずいぶんご親切にしてくれるのね」
「そりゃあ大事なお客様だからね」
「ふーん、まぁいいわ。なかなか良い糸があるようだし、また来させてもらうわ」
「今後とも香霖堂をご贔…」
「話はまとまったようだな!それじゃあアリス早速山に向かおうぜ!」
挨拶も終わらないうちに魔理沙が横から割り込んできた。そのまま半ば強引に久しぶりの客人は連れていかれてしまった。虎視眈々と店から逃げ出すタイミングを窺っていたらしい、二人はすぐに見えなくなってしまった。
さてあの可哀想な箱を片付けるとしよう。
がらんとした店内に乾いた箒の音が響き始めた。
これといって特別な予定もない朝、いつもと同じように茶を沸かしながら物思いに耽る。考えることは大体外から流れ着いた品物のことだが…
先日拾った棚に収まるかどうかの大きさの黒い箱…これは”てれびじょん”と言い、世界中を覗き見ることができるらしい。一応名前と用途は分かるが、どうすれば覗き見が出来るのか、その肝心な方法が分からない。
そんなことを考えていたら、ちょうど茶が沸いた。湯呑に茶を注いでいるとカランカランと店の扉が開いた音がした。
「よう、香霖今日も来てやったぜ」
「魔理沙…うちにはもう金目の物は残ってないよ」
「人のことを質の悪い強盗みたいに言うのはやめた方がいいぜ。今日はお客さんを連れてきたんだからな」
そう言うと魔理沙の後ろから金髪の少女が顔を出した。
「ずいぶんと魔理沙と仲がいいのね、道具屋さん」
「君はアリス・マーガトロイドだね?里でよく人形劇をしているとか」
「えぇ、その通りよ。結構私の名前も広まってるのね」
「この前そこの棚を漁ってる魔法使いから聞いてね」
棚を漁り続けている魔理沙を止めながら来客に用件を聞いてみる。
「今日はどのようなご用件で?」
「実は新しい人形の繰り糸を探しているのだけど、なかなか良い塩梅の糸がないのよね」
「一応糸ならあるけれど見てみるかい?」
「えぇ、是非」
どんな形であれこんな風に客と接するのは久しぶりだな。
彼女を糸の置いてある棚に案内すると裏から派手な破壊音が聞こえた。
「少し糸を見ていてくれ。裏を見てくる」
「フフッ魔理沙ね」
とてつもなく嫌な予感がする。異常に逸る鼓動と共に早歩きで音の方へ向かう。
何が破壊されたかは予想していたが、改めてその場面に出くわすとさすがの僕も地に膝をついてしまった。
結論から言うと壊されてしまったのはやはりあの”てれびじょん”だった。
箱は見事に横転し、粉々になったガラスの破片が床に飛び散ってしまっている。箱の裏からは太かったり細かったりする赤い糸のようなものが飛び出てしまっている。
「こ、香霖?うずくまってないで何か言えよ…?」
さすがの魔理沙も焦っているようだが、僕にはもう立ち上がる気力も残っていなかった。そのまま胡坐ともうつ伏せともつかない体勢でしばらく絶望の味を噛みしめていた。
「…魔理沙、どうしてこんなことを?」
「わ、わざとじゃないんだぜ?持ち運ぼうとしたら以外と重かったというか…
「とにかく悪いとは思ってるんだぜ?とりあえず掃除しなきゃだな!」
そう言うと魔理沙は自己完結してさっさと掃除道具を取りに行ってしまった。
「そうか…あの箱は機械だったのか、河童になら直してもらえるかな」
人は落胆している時も意外と冷静になれるんだな。僕は半人半妖だけども。
「なに独り言言ってるの?」
顔を上げるとアリスが不思議そうにこっちを見ている。
「見ての通りさ、魔理沙に店の物を壊されてしまってね」
「あら、この太い糸なかなかいいわね」
”てれびじょん”の中をいじりながらアリスは自分の話を進める。なるほど魔法使いというのは自分の興味が最優先らしい。
「この糸まだあるかしら?」
「いや、それはその機械の部品だからうちにはそれしか無いよ」
「残念ね、新しいゴリアテ人形に使おうと思ったのだけれど」
ゴリアテ人形?ずいぶん物騒な響きの人形だな。
「もしこの部品が要り様なら妖怪の山の河童に聞いてみたらいい。多分同じようなものを持っていると思うよ。たしか魔理沙は河童とも顔見知りのようだし」
「ずいぶんご親切にしてくれるのね」
「そりゃあ大事なお客様だからね」
「ふーん、まぁいいわ。なかなか良い糸があるようだし、また来させてもらうわ」
「今後とも香霖堂をご贔…」
「話はまとまったようだな!それじゃあアリス早速山に向かおうぜ!」
挨拶も終わらないうちに魔理沙が横から割り込んできた。そのまま半ば強引に久しぶりの客人は連れていかれてしまった。虎視眈々と店から逃げ出すタイミングを窺っていたらしい、二人はすぐに見えなくなってしまった。
さてあの可哀想な箱を片付けるとしよう。
がらんとした店内に乾いた箒の音が響き始めた。
こんなものなのでしょうが。
がっくりうなだれる霖之助がよかったです
ドンマイ香霖