「村紗。ぬえの苦手な物って何でしょうか?」
村紗水蜜がお酒を楽しんでいると、聖白蓮が尋ねにきた。村紗は酒瓶を置いて、それに応じる。
聖が割烹着を着ているところを見るに、苦手な食べ物についてのことだろう、と当たりをつける。
ぬえと付き合いの長い村紗なら、食べ物の好みくらい知っているだろうと。
……実際は、私とぬえのどちらもあまり食事を必要としない妖怪という存在なので、そういったことはほとんど把握していないのだが。
しかし食べ物に限らなければ、ぬえの苦手なものは知っている。
それは、
「……ほら、これですよこれ」
指で作った円に別の指を出し入れするジェスチャーを見せた。割と高速で。
超人的空手チョップを頭蓋に頂いた。
まだ残動のある聖はひとつ溜め息を吐いてから言う。
「女の子がそういうことをするものじゃありません。それに、私は真面目な話をしているのです」
まあ私もお酒が入って気分が良くなっているのかもしれない。反省する。
しかし前者は納得しておくが、後者については、
「私も真面目な話をしていますよ。
地底に居た頃からそうみたいで。……ああ、多分食べ物の好き嫌いはないと思いますけど」
それを聞いた聖は、面持ちを少し険しくした。少し考えるような表情でもある。
やはり誰か他人の持っている影を知るということは楽しいことではない。
そして聖にとっては、
「トラウマは、どうにかして取り払ってあげられないものかしらね……」
救済しなければならないと考えてしまうんだろうなぁ。
聖の考えていることはまさにその通りのようで、予想が当たったことに思わず苦笑してしまう。そして、ならば私は聖の手助けを……いや、これに関して言うと、自分の友人のために働かなければならないなあ、と思った。
それに、ぬえの苦手を直そうとしたことは初めてではない。今までにだって何度も取り組んできたことだ。
だから私には既にその用意が出来ていた。
「なら、良いものがありますよ!」
そう言って、私は自室にそれを取りに行った。
□
「これこそはぬえの苦手克服器械、人呼んで――ニヌリヤ四號です!」
私はキュロットの右の裾から突き出しているそれを見せ付けた。
それは下着に木製の棒状の突起を付けたものだ。今は突起だけがキュロットから姿を見せている。
その突起は全長150ミリ直径35ミリで、全体的に赤黒く塗られており反り返るような傾斜がある。
我ながら良い出来だ。出来れば聖にお褒めの言葉を頂きたいところである。
「どうですか!?」
超人的握力で握り潰された
「ぬおおおわああああ! 結構エグいですよこれは! 画的に! というか未使用で殉教とは酷すぎます!」
「女の子がそういうこと言うものじゃありません」
ぴしゃりと言い切られてしまった。聖は眉を立てている。
流石にふざけすぎたかと思う。
けれど、これくらいしなければならないと思う。
何故なら、
「こうやって、似ている物に少しずつ慣れ親しんでいくのが一番良い解決方法だと思うんですよ」
「あれ、そう言われてもあまり良いことに思えないのは何故かしら……?」
響きの問題です、と私は言い切ってしまう。
冗談ではなく、私はこれでぬえのトラウマを解決してあげるべきだと考えていた。
これはそのためにいくつも作ってきた。当代が四號だ。今しがた機能不全になったけど。
トラウマと相対するにはトラウマを直視しなければならない。これがその方法だ。それは聖も解っているのだと頷く。
「けれど、私が壊してしまいました。直すにしてもボロボロです。でも、四號というからには、他に三機あるのでは?」
「旧作は主にぬえに噛み砕かれました。そちらも画的に酷かったです」
突起単体の一號と、一號に加えて振動機能をつけた二號がそれだ。内部機構に水鉄砲を採用した三號は内からの圧力に耐えられず爆発した。それからトリッキー路線を取りやめて装着式にしたのが四號だったが、男性の身体の弱点を再確認するだけに終わってしまった。
秘密兵器ニヌリヤは破壊され、無くなってしまった。それはあたかも希望が潰えたかのように思えた。
しかし、
「今こそ、以前から構想していたニヌリヤ五號を完成させる時ですね……!」
自らを鼓舞するように叫ぶ。
それを聞いて、聖の顔もぱあっと明るくなった。やはり自分の突発的な行動から壊してしまったことに後悔の念を抱いていたのだろう。聖は口を開き、
「そうですか! 私にも手伝えるなら何でも言ってください!」
あ、良いんですか? だったら。
「今回の材料である赤こんにゃくは既に準備してあるので、それをアレの形に切ってくれませんか?」
「えっ」
「アレです」
「えっ、いや……」
「出来るだけ詳細にお願いします。私は基部の方を作ってきますので……ああ、資料とか後で持ってきます」
「そ、そんなもの要りません!」
「いや、一応基部に填め込むには設計図通りに作ってくれないと困るんですが」
聖の顔は少し赤くなっていた。
聖はほぼ千年生きていても、ほとんど魔界にひとりで閉じ込められていたんだった。するとまだまだ中身はそれほど擦れていないのかもしれない。
まだまだからかい甲斐があるなあ、と思いつつ、私は部屋を後にした。
□
寅丸星は台所に立つ聖白蓮を見つけた。何か懸命に取り組んでいるように見え、邪魔するのは悪いように思えた。
が、流石に声をかけないのも気まずいと思い、
「聖、食事の支度ですか? 私に何か手伝えることがあれば――」
「どわああああああああああ!!」
「ど、どうしたんですか聖!? 貴方がそこまで焦っているところ生涯始めて見た気がするんですが!」
「いいいいいいえ何でもありませんから! ここは私に任せて早く行ってください!」
「ええと、了解しました!」
そして、寅丸星は足早にその場を立ち去った。
□
聖は周りの目を気にしながらも、ようやくこんにゃくから突起を彫り出した。包丁の角を使って溝を掘り、血管の膨らみも表現している。色が赤こんにゃくそのものだけなので再現度は低くなるが、造形だけは本物と見紛うほどだと自負できるものだった。誰にも自慢できないことなのだが。
「ああ、我ながらかなり完成度の高いものを作ってしまいました。封印されている間手持ち無沙汰だったのもあって、凝り性になったのかしら?」
自問する。が、答えは無い。
他にやる事も無い。
あとは村紗が基部を完成させてやって来るのを待つだけだ。
聖は暇だったので、根元を持って揺らしてみた。硬いような柔らかいようなこんにゃくがぐにゃぐにゃと自重と慣性をもって曲がりくねっている。
……これ、結構面白いですね。
男の形になったこんにゃくを水平にして、上下に振ってみる。すると、
「あら、筆が曲がって見えますわー現実に曲がってますけどー」
それから、気分が良くなってその場で回ってみた。
四分の三回ったところでその場にいたナズーリンと目が合った。
何故いる。
言いたいことはあったが、何も言えなかった。言っては駄目なような空気が二人を苛んでいた。
ただ押し黙り、見詰め合う二人。その間で揺れ動く赤こんにゃくはとってもリアル。
「ナズーリン?」
問うように、相手の名を呼んでみる。
その相手、ナズーリンの肩は振るえ、瞳は不規則に揺れている。
が、その目ははっきりと己の手の中のそれを捉えているようであった。
ふむ、やはりこれが原因か。
「あのね、ナズーリン、これはね」
「い、いや、私は、小ネズミたちが空腹でうるさいから何か貰おうと……っ」
声も震え、所々上ずっていた。それをどうにか諭さなければならない。
何か上手い言い訳を!
「いえいえ、ほら、料理していると、ときたまに凝ってみたくなる衝動に駆られたりとかしません? 煮物を長い時間煮込んでみたりとか、野菜とか色んな形に切ってみたりとか」
「野菜でもやってるんですか!? それで切り出したものを使ったりして……!」
「違います! これはたまたまです! 普段はもっと真面目にやっています!」
「真面目にそんなことをやってるだって……!?」
あれ、なんというか、どんどん二人の溝が深くなっている気がするんですが。これなんて言うんでしたっけ。墓穴?
「すみませんしばらく食事は要りませんから考えさせて下さい!!」
ナズーリンはそれだけ言うと、走って台所を去っていった。
あとには自分と赤こんにゃくだけが、その場に取り残された。
□
村紗が台所に戻ってくると聖がかなりやつれて見えた。
「何かあったんですか、聖」
「いえ、何も……まさか他人のトラウマをひとつ作ってしまうとは」
「はい?」
聖が何を言っているのかさっぱり理解できないので捨て置くことする。
……気にせず、私は既に装着済みのそれを突き出して見せる。
「私の方もちゃんと作ってきましたよ」
キュロットを履いているという点では四號と変わりない。しかし、キュロットのしかるべきところに円形の穴を開け、そこからニヌリヤの基部を出せるようになっている。
「ポジションも完全実現です。さっきのようなはみ出し状態ではありませんよ!」
「もう無駄にたくましいのは良しとしておきましょう……」
ニヌリヤ五號の基部は円形の台だ。その台にはこんにゃく部を取り付ける小さな鍵爪が二つ向かい合って付いている。こんにゃく部にはそれに合わせて穴と、九十度回転させられる溝が掘り込まれている。穴から差しこみ、そこから鍵爪ぴったりの形の溝に通すことで、鍵爪が返しになって抜け防止になるという寸法だ。
「では、早速合体させてみましょう」
これ一人で合体というのも不思議な話だが捨て置くことにする。
私は加工されたこんにゃくを聖から受け取ると、基部の鍵爪に合わせて押し込もうとする。が、
「……上手く入らないんですが、これ。外見だけに拘らず、穴の方もちゃんと設計図通りに作ってくれましたか?」
「な、何を言ってるんですか! 大体そうやって握ってるから穴が小さく変形しているのです。私に貸してみなさい」
聖は私からこんにゃくを奪い取ると、腰を下ろして私の股間と向かい合った。左手で私の腰を押さえ、右手でこんにゃくを柔らかく握り鍵爪に押し込む。しかしなかなか収まらず、またこんにゃくが手に滑るようで何度も持ち替えながら試す。
「むう、これはもっと穴を大きくした方が良かったのではありませんか?」
「いや、そうすると引っ張ったときに抜けちゃうじゃないですか。もっと実用に耐えるように――痛い痛い根元を引っ張らないで下さい! もっと優しくして!」
……しかし、前を弄られるのってちょっと不思議な気分が。
これ誰かに見られたら流石にまずいだろうなあ。
「ああ、聖。あれから冷静になって考えてみたんだが、よく誰かと一緒に料理してるしきっと何かのまちが――」
ナズーリンが現れた。私と聖の行為を見た途端に固まっている。
仕方ないのでこちらから声をかけることにする。
「――ナズーリンも手伝ってくれると嬉しいな!」
「あああああああ! 私のことは放っておいてくれえええええ!!」
「そんなに驚くことないでしょ!? 大体ねえ……星ならきっと喜んで手伝ってくれるわ!」
「ご主人様が!? そ、そんな……」
ナズーリンがやたらと意気消沈している。何故だか分からない。星が手伝うというところに愕然としているようだが。
とりあえず適当にでもフォローしておいた方が良いだろうか。
「ええと、ほら……星って優しいじゃない。見た目はエグいから強要すると断られるかもしれないけど、ちゃんと段階踏めば聖と一緒になってやってくれると思うわ」
「ご主人様はそんな人じゃない! もう何も言わないでくれ! 何も聞きたくない!」
「な……ちゃんと話を聞けば、ナズーリンだって一緒にやってもいいと思うはずよ!」
「嫌だ……私は混ざりたくない……」
ナズーリンは踵を返し、走り去って行こうとする。
このまま行かせてはいけない気がした。このままでは、ナズーリンは一人になってしまう。
一人にさせてはいけない。
だから、背が小さくなっていくナズーリンに声を掛ける。
「私たちは貴方を省いたりしないわ! きっと一緒になれるはずよ! 待ってるから――!」
私はナズーリンの走り去る足音に、泣くような叫び声が追加されるのを聞いた。
□
「私の言葉はナズーリンに届いたでしょうか。というかずっとだんまりでしたよね聖?」
「何かを為すためには罪を背負わなければならないこともあるのです」
「分かりました、いえ、分かっています聖。その貴方の信念に惹かれて私たちは貴方の後を付いて行っているのですから」
お互いの意志を確かめ合う。やはり聖は良き理解者である。私は出来るだけ聖を支えていこう、そう思った。
そう考えているうちにニヌリヤ五號の合体も完了した。私のキュロットの前からまるでそこに自生しているかのように突起がそそり立っている。
「状態も良好です。これですぐにでもぬえのトラウマを治してあげられます」
「むしろ現時点でトラウマ級のビジュアル……」
「いえ、これこそが私たちが背負わなければならない罪の形なのです」
私は聖を諫める。それに、ここまで来たのだからもう引き下がるわけにはいけないのだ。
「では、早速行ってまいります」
ひとつ敬礼をし、踵を返す。そこに背から聖の声が聞こえた。
「村紗。分かっているでしょうが、これはトラウマを加速させる可能性もある危険な方法です。
ですから、決して押し付けてはなりませんよ」
「それは物理的な意味でですか」
「どっちでもいいからさっさと行きなさい」
言われ、私は走り出す。善は急げと、ぬえの元へ。
私は振り向かなかった。前のニヌリヤ五號が揺れて少し走りにくかった。
□
ぬえの部屋に向かう途中で本人を発見した。
予想できていたことだが、私を見た途端ぬえは叫びながら逃げ出した。
ぬえは速かった。私からどんどん遠ざかっていった。
駆け回っているうちにも引き離されていってしまう。
――私の気持ちはぬえには届かないのだろうか?
少しの絶望を覚える。もう、ぬえの姿を見えなくなってしまった。
大体、ぬえが拒絶していることを、わざわざしなくてはいいのではないだろうか?
これは行為の押し付けではないだろうか?
その考えが、私の走る速度を緩めてしまう。
もういいのではないだろうか。
ぬえに弱点があったとしても、私たちが守っていければ、何も問題ないじゃないか。
それでいいじゃないか。
私は脚を止めてしまう。
もういいじゃないか、と。
「……でも」
それでも、と思う。
ぬえをそのままにしておいて良いのだろうか? おんぶに抱っこのままにしておいて良いのだろうか?
ぬえは地底から私を追ってここまで来てくれた。ぬえは私を頼ってここまで来てくれた。
でもいつでも一緒に居られるわけじゃない。私が守っているだけじゃ、いつか一緒にいられなくなった時、ぬえは駄目になってしまう。
守っているだけじゃいけない。
救ってあげなくちゃいけない。
ぬえの弱点を直してあげなくちゃ、ぬえが私を頼ってきてくれた意味が無い。
だから私は走り出す。
もう、ぬえの姿は見えない。どこにいるかも解らない。それでもぬえを探す。
私を信頼してくれたぬえのために……!
走る。
駆けている。
床を蹴り、廊下を曲がり、柱を掴んで身を投げる。
そして、見つける。
――ぬえはリビングで聖に捕縛されていた。
□
「手間をかけさせてくれたわねぇ、ぬえ」
「悪役! こいつ悪役!」
聖を立会人としてどうにか私とぬえは向かい合っている状況がある。
が、まだ私のことをぬえは信用しきっていないらしい。聖さえいなければ今すぐにでも逃げ出してしまいそうな様子だった。
「私はぬえのためを思ってやっているの」
「股間にそんなものぶら下げて言うことじゃない」
そんなことはない。こうすることがぬえにとって第一なのである。
とにかく余計な問答をしていても先に進まない。私は核心に迫ることにする。
「ぬえはこれ、苦手でしょ」
「むしろ好きと言ったら駄目な気がする」
「そうじゃなくてさ。少しでも慣れておいた方が後々困らないと思うの」
私はぬえの目をまっすぐに見る。彼女は、少し困った顔をして目を背けた。
出来ればその手を取ってあげたかった。けれどそうやって強制してはいけない。聖にも言われたことだ。
だから私は待つことにする。
その場に、それを突き出すように身体を少し背の方に反らして座る。
「……ほら、ちょっとでもいいから触ってみてよ」
ぬえはそれを見て逡巡する。戸惑い、迷い、考えてくれている。それは興味からだろうか、それとも前向きに弱点克服を考えてくれているからだろうか。ぬえのためになるのなら今はどちらでも良かった。
彼女は一歩こちらに近づく。
「その、……ちょっとだけなら……」
言って、私の前にちょこんと座る。
そして、おずおずと手を伸ばし、
「ん……」
それの先に指で突いた。反動で少し揺れている。
棒が根元に向かって押し込まれる感覚は、
「ちょっとむず痒いから、丁寧に触って……」
「え、あ、ごめん」
ぬえは謝り、目を伏せた。それを見ていると、何か急かしているようでどこか悪い気もした。
急にしおらしくなった彼女は、避けるようにそれから目を逸らす。しかしたまにちらと見ては位置を確認し、今度はそれを掴めるところまで右手を持ってくる。
その右手が確かめるように人差し指が短く触れ、そして確実に手の中に収めるために五指を広げ、私の棒を手の平で包み込んだ。その棒を剣の柄とするなら、それは逆手の握りだ。
ん、と彼女は小さく声を漏らした。
それでも手は離さない。適度な力で握っている。その手は僅かに震えを持っていた。
「うう……気持ち悪い……」
そして、私に視線を送ってきた。それは懇願するようなものだ。
もういいでしょ、と。
けれど私は首を横に振った。まだやめてはならない、と。
まだ貴方なら踏み込んでいけるはずだと。
それを確かにするために、私は言葉を口にする。
「……今度は両手で握ってみてよ」
そう言うと、彼女は驚いたように私を見た。それから、私と私の棒を交互に見て、自らの覚悟を決めているようだった。
彼女の決定は、触れることだった。
ぬえは少し前屈みになりながら左手を伸ばし、私の棒を握った。ぬえの両手が私のものを包み隠してしまった。
緊張からか、ぬえの呼吸は少し乱れていた。それだけでなく私の呼吸も乱れていた。これくらいのことで大事だなあ、と心の中で苦笑する。
私の動きと、ぬえの動きが交差するごとに、ぬえの手の中から粘着質の音が聞こえた。
「うう、村紗……なんか、変な気分になってきた」
「それは、嫌な気分?」
私は問う。彼女は少し考えて、
「……ううん、嫌じゃない」
そう言ってくれた。僅かな笑みを添えて。
だから、私も笑みで返した。私の中で、少しずつ気が楽になっていくような、そんな感じだった。
「それじゃあさ、ぬえ。次は擦ってみてよ」
「こ、擦る?」
「うん、上下に。ゆっくりでいいから」
すると、ぬえは黙って頷いた。彼女は随分素直になっていた。
神妙な面持ちでその突起に向かい、深呼吸する。
そして、ぬえはその両手を根元に向かって動かした。
同時、独特の膨らみを持った先端部が、絞り出されるように顔を出した。
「あ……」
ぬえが、緊張の糸が切れたような、間抜けな声を上げた。そんなぬえの様子は可愛らしかった。
今度は、ぬえの手は先端に向かって動く。先端が手の中に沈む。
それから、根元へ。先端へ。それが交互に、断続的に繰り返される。
それが擦るという行為だ。
その行為は何かを塗りつけるような音を伴っている。それを聞いていると、己の気分が高まっていくのを感じた。
……ぬえが私のものを擦っている。それも、言葉を掛けたとはいえ自発的な行いだ。
ぬえは私に目もくれずただひたすらに棒を擦っていた。それがどうにも愛おしい。
お互いの呼吸が聞こえてしまうほどに、お互いの息遣いがはっきりと判ってしまうほどに、二人は昂ぶっている。
溜まらなくなって、私はぬえの頭にそっと手を置いた。
「ひゃう……!」
驚いて私の顔を見るぬえ。その顔は真っ赤で、照れたように笑った。そういえば、私の顔も熱い。頭も熱い。
私はもう、どうにかなってしまいそうだった。
ふと、顔を上げる。
見ると、聖が居た。彼女は複雑そうな、しかし優しい笑みを浮かべていて、
「もう私はいいでしょうか?」
見守っていなくても、二人でやっていけるだろうか?
その問いに、私は頷いた。もう二人は大丈夫だと。安心させるように。
それを見た聖は笑って、部屋を出て行った。
残ったのは私とぬえの二人だけだ。
ぬえはただ、私の棒を擦るのに夢中になっていた。まるで猫じゃらしにじゃれている猫のようだった。小動物的な動きをしているのだ。その代わりの施しに、私はぬえの頭に置いた手を動かす。つまり、撫でる、ということだ。ぬえの髪に手を差し込み、ゆっくりと外へ向かって撫でていく。そうすると、私は気分が良かった。
私は呼びかける。
「ねえ、ぬえぬえ」
「……ん」
彼女は息を小さく吐いたような相槌を打った。彼女の顔は満ち足りていた。それを確認して、私は言葉を続ける。
「今度は、舐めてくれないかな」
「……え?」
少しの驚きをもって、ぬえは私を見た。この状況ならいけると思ったのだがやはり抵抗があるようだ。
それでも私はめげずに、言う。
「先っぽだけでいいから、さ」
「それは……うう……」
ぬえは私を見ながら、唸る。でも、嫌そうな顔ではなかった。
彼女はゆっくりと身体を倒し、私のそれに顔を近づける。恐る恐るといった感じだ。
「なんか、臭い」
ちょっと酷いなあ、ぬえは。
それでも、私の脚の間に顔を埋めるような体勢のぬえを見ていると、そのまま抱え込みたくなる衝動に駆られてしまう。それを押さえるので私の理性は精一杯だ。
そんな葛藤の中で、ぬえは私の突起の先端に顔を近づけ、
「……!」
キスをした。
すぐに顔を上げ、私に視線を送る。どうだ、やったぞ、と。けれども私は何も言い返さない。衝動を堪えるのにいっぱいいっぱいだったし、何よりもまだ舐めてはいないからだ。
それを分かってくれたのか、ぬえはまた突起に向かう。
そして、大きく口を開くと――口をすぼめてその先端を咥えた。
「ぁ――っ!」
咥えられるなんて予想外だった私は、思わずぬえの頭を押さえてしまった。ぬえはそんなことも意に介さず、舌を使って先端を舐める。その振動が伝わってきて、まるで私自身を舐められているような気分だった。背筋に電撃が何度も走った。
「ぬえ……駄目だよぬえ……それ以上は」
息も絶え絶えに、私は告げる。もう私は我慢出来そうにない。
それを好機と思っているのか、ぬえは手を根元にずらし、さらに深く咥え込んだ。
そして、私を舌で絡めるように舐めてくるのだ。
「あぁ……! ぬえ可愛いよぬえ……!」
瞬間、私の理性ははち切れた。
□
寅丸星は姿が見えなくなっているナズーリンを捜していた。寺の中のあらゆる場所を捜し歩き、軒下まで見て回った。
小さな穴があればその中を覗くようにまでしたのだが見つからなかったので、一服を入れるためにリビングにやってきた。
そこで村紗とぬえの二人を見つけてしまった。
頭を押さえつけられ無理矢理上下させられるぬえの声にならない悲鳴と、村紗の怒号のような掛け声と、何かを掻き混ぜるような音だけが辺りに響いていた。
ふと、顔を上げた村紗と目が合った。
その目は不気味なほどに見開いており、瞳孔が開いて興奮状態だった。
星は己の身に危険を感じた。触れてはならないような気がした。それは本能が伝えるものだ。
だから目を逸らし、リビングを通り過ぎていった。
□
台所に入ったところで聖を見つけた星。さっきのこともあって行き場のない不安を覚えていた星は、
……聖も、先ほどは物凄い慌てふためいていましたが、良いのでしょうか?
それを少し気にしながら、聖に声を掛ける。
「あの、聖。今、大丈夫でしょうか?」
「はい、いいですよ」
聖は普通の対応だった。それに安心を覚え、思わず息を吐く。
それから、さっきのことを問いかける。
「聖、あの二人は放っておいて良いのですか?」
……あんまり付き合い長くないので判らないのですが、公序良俗的にアウトだと思うのですが。
問うと、聖は達観したような面持ちで言う。
「あれは、ぬえが越えねばならない試練なのです」
「大層なこと言っておられますが基本的に放置ですよね。了解しました」
やはり触れてはならないことなのだ、と一人納得しておく。
聖は調理台に向かう。さっきは手元を見せてもらえなかったのだが、今は食事の支度をしているようだ。
ふと、聖は思い出したように言葉を口にした。
「……そういえば、ぬえの苦手なものって何でしょうか?」
ぬえの苦手なもの。それは、鵺の弱点という意味でだろうか。
聖ともあろう方が知らないというのも意外だが、これは一般的な知識で、
「鵺の苦手なものは弓ですよ。何でも、矢で射られて退治されたそうで……」
そこまで言ったところで気付く。
多分、恐らくなのだが、いくつかの点が線で繋がったような感覚を覚えた。それは、
「さっきの二人は鵺の苦手を克服させようとしているのですね」
「……そうですけど、それがどうして?」
どうして、というのは、弓とさっきの二人の関係性を聖は解っていないところから来る問いだろう。
その関係性。点と点が繋がる線は、
「――丹塗矢(ニヌリヤ)です。古くから伝わる神々の非常識求婚伝説の一つ、丹塗矢伝説に見立てているんですよ。矢のイメージとして丹塗矢を用い、ぬえの弱点を克服しようとしているのですね」
その説明で、聖も頷いてくれた。しかし、聖は首を捻る。
聖には納得がいかない点があるようだった。それは私の持つ一般的な知識から言えば意外なことで、しかし聖にとっては当然の疑問だったのだろう。
「ぬえは矢で倒されたから矢や弓が苦手なのでしょうか? だったら、剣で斬られた者は皆剣が苦手になるのでしょうか?」
「それは……解りませんが」
聖の言うことも最もな気がして、次の言葉が思い浮かばなかった。
そこに雲居一輪が現れる。目が据わっているところを見ると、村紗とぬえの絡みを見てしまったのだろう。
一輪は、こちらの姿を認めると、言う。
「村紗はまたやっているんですね」
「……また、とは?」
聖の問いに、一輪はああ、と相槌を打つ。
「地底にいた頃、村紗が弱点克服とか言ってぬえを強襲しましてね。ぬえにとってはそれ以来トラウマになっているみたいですよ。それを今でも克服出来てないと村紗は思っているみたいですが」
すると、ちょっと待ってください、と聖が手で制する。
「トラウマは、地上で退治されたときに出来たものじゃないんですか?」
「いや、さあ? もうかなり昔の話なので記憶が曖昧なので」
それを聞いて、聖は意外そうな顔をした。何が意外なのかは判らなかった。
しかしそれは、親が先か子が先か、にも似た話だと思う。
まあ経過はどうであれ、実際にぬえはトラウマを作ってしまっているのだろう。そして経過から言って、
「これは、村紗がいる限り解決しないような気がします」
「奇遇ですね、星。私も同様のことを考えていました」
むしろ、と思う。
「どうしてぬえは村紗を遠ざけたりしないのでしょうか? あそこまでやられていたら、お互いただの友人という関係なのだし、普通何らかの対処をするでしょう」
その問いに、ぬえと村紗のかつてを見てきた一輪は実情を述べる。
「それは、あれですよ。……彼氏は酒癖が悪くて酔うといつも彼女を殴っちゃうんですが、彼氏が後で泣いて謝ると彼女はつい許しちゃうような、そんな関係なんですよ」
「典型的な駄目関係ですよねそれは。――聖、この問題は解決した方が良いのでは?」
「いや、まあ、その、いいんじゃないですか? 利害関係が一致しているというか」
「基本的に放置ですよね」
そう言うと、聖は遠くを見て、ぽつりと言う。
「そりゃあ、何百年も続いてきた関係ですからね。今更私が言うことはありませんよ」
聖は何かを考えている風だった。彼女はずっと封印されていた。その彼女にとって、何百年も続いてきた関係というものはあるのだろうか。彼女はその何百年もの関係を続けてきた二人をどう感じているのだろうか。
それは誰にも解らないことだった。
だから、この話は続けないことにする。聖にとって自分達が長い関係というものになっていければいいのだから。
そう考えて、別の話を振ろうと思い、あることを思い出した。
「そういえば」
村紗とぬえのインパクトが強くて忘れていたことがある。
それは、
「ナズーリンを知りませんか? 先ほどから捜しているのですが見つからなくて」
問う。
すると、聖はこちらの目を見た。それは哀れむような、慈しむような視線だ。
「……星。貴方は、ネズミの弱点を知っていますか?」
聖は手に持った赤こんにゃくを左右に振りながら尋ねた。
悪くはないのだが、下品すぎてかわいさが大分殺されてるなと感じました。
うーん。これはこれで意図した結果か。
なんだろう、このギリギリ感がたまらない
相変わらずぬえとナズがかわいいなぁ。船長は自重するように。
場所的にマジで自重しとくべき
マイナスあればマイナス点けてた
こういったギリギリを狙おうとする作品が増えると全体の規制が厳しくなるかもしれないからもうやめてほしい。
けど、これはびみょんにアウトかも。。
ここまでやるならKENZEN突き破ってイカロにおとした方が…俺がうれしい
話としては楽しかったです。
よそでやるべきだと思いますが…
もっとやりすぎてイカロに行くか自重するべき
どんな内容でも万人に受け入れられるというのはあり得ないのですが、ある程度はお考え頂けますようお願いします。
管理人様のブログの、2008年一月五日の記事より引用させていただきました。
ギャグ?にこれをいうのもどうかと思いますが、話の展開も支離滅裂で笑えない。
ここまでいってしまうのはちょっと引く。
読んだ書き手が「このくらいの描写はOKなのね」と思ってどんどん
境界超えの作品が増えそうなのは勘弁してほしい。
もっと無難でも全然面白いと思うよ!
まぁぬえがかわいいだけの点は入れとくけど
でもウブなぬえは最高だ
ナズーリン早く逃げてーww
これは楽しんだ者の勝ち…いや、負け……?
固有名詞が出てないだけで使っちゃってる
でも聖たちのやりとりとかおもしろかったかな