Coolier - 新生・東方創想話

ある日、森の中で

2008/04/19 08:48:12
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 魔法の森には二人の魔法使いがいる。


「ねえ魔理沙、ちょっと貴女の髪を貸してちょうだい」
「勝手に持って毛」
 アリスの突然の申し出に、魔理沙は一瞥もくれず気だるそうに答えた。視線は先ほど悪魔の館の引きこもりから借りた(死んだら返す)魔道書に向けられている。
「なにそれ……くだらなすぎて恐ろしいわね」
 霧雨 魔理沙とアリス・マーガトロイド。二人とも金髪の少女で魔法使いで蒐集家。だが性格までは同じでは無い。それも絶望的なまでに。
 アリスは魔理沙の頭髪に手を伸ばすと、魔理沙は少し頭を動かしそれを避ける。
「ちょっと、魔理沙動かないでよ」
 それには答えず、避ける。避ける、避ける、避ける。
「よぉく考えたら、お前に何かあげるのは危険な気がしてきたぜ」
「ちょっ……どういうことよ!いいでしょ髪の毛の一本ぐらい!」
 魔理沙はそう言って魔道書を閉じ、好戦的な笑みを浮かべた。アリスはそれだけで察した。
(新しい魔法の実験台にしようって魂胆ね)
 それはアリスとて一緒だった。両者の決定的な違いは、その新しい魔法を戦闘に用いるか、自身の研究に役立てるか。
「表へ出ようぜアリス」
「上等よ、私が勝ったら髪の毛一本どころか暫く貴女を借りるからね……」
「……」
 アリスのやたら熱のこもった発言に、魔理沙は少し薄ら寒いものを感じつつ外へ出た。



ある日、森の中で



 魔法の森には相も変わらず瘴気が漂い、薄暗い。それを照らすように魔理沙の掌に光が集まっていく。
 対峙するアリスは魔力が込められた人形で陣を組み、展開されていく。
 一人にして軍隊。その数はなおも増えていき優に十を越す。
「いくぜアリス」
 拳から放たれたのは不気味な緑色の光を放つ礫。お得意のマジックミサイル。まずは小手調べといったところか。
 小手調べとはいえ破壊に特化した魔理沙の魔法、その威力のほどはアリスも良く知るところである。アリスの人形とて魔の呪物。刀による斬撃を弾き、矢で十発射られようと耐えれる強度を誇る。
 しかしアリスは人形を盾とせず、傍らで佇む上海人形に下知をくだす。蓬莱人形はその小さな口を開き、不吉な紫色の光線を吐き出した。
 レーザーはマジックミサイルを相殺する事は叶わなかったが、弾道を逸らすことには充分成功した。
 軌道を外したミサイルは樹木に命中し、爆ぜた。その爆風で大木が2、3本ミシミシと悲鳴をあげ倒れ、土煙を上げる。
 総勢50体の人形に魔力を込め終わったアリスは、反撃に打って出る。
 己の身の丈以上の長さの槍を構えた人形達が、突進を仕掛ける。後方からは投げ槍と矢による支援射撃で、空の退路を断つ。軍団が一丸となり攻撃する古代ギリシアに用いられた密集陣形、ファランクスである。
 一人の人間に対して行われるには、あまりに非効率極まりない人形達の戦争。過剰殺傷とも思えるアリスの采配、だがしかしそう楽観視できるものでは無い事も重々承知していた。
 それはすぐに再認される事になる。
「ハッ!上等だぜアリス、真っ向勝負だ!」
 そう言って箒に跨る魔理沙。上方は槍や矢が飛び、退路など無い。となれば行く道は一つ。―――俄かに信じられない話だが、正面戦闘に特化した敵陣を正面から突破するつもりなのだろうか。
 アリスの危惧通り、魔理沙は特攻した。己の身体そのものを一個の弾丸として槍衾に飛び込む。
 少女の華奢な身体など瞬く間に無残な肉塊に変えてしまう筈の、魔力で練られた利器は、より強い魔力に当てられ消し飛んでいく。
 弾丸なんてものじゃない。今や魔理沙は黒い砲弾となり陣形を突き破っていく。
「もう無茶苦茶……っ」
 アリスの戦闘は、相手よりも少しだけ上の力を出しながら戦う。弱い相手に全力で叩き潰すのは面白くない。
 そしてアリスは決して全力は出さない。出して負ければ後が無いからだ。
 アリスは今、魔理沙の猛攻をどう対処すべきか、扱いあぐねていた。
 丸太を意味するファランクスを突貫した魔理沙を待っていたのは焦燥した様子のアリス、ではなく。
「んのヤロ……ッ!」
 ふざけた顔をしたピエロ。その胸には『ざんねんでした』と文字が躍っていた。
『リターンイナニメトネス』
 アリスの呪詛に呼応して、残留していた人形達から生気が抜けていく。代わりに魔力が漲っていくのを感じる。いや違う、これは漲るというよりも膨張……もしくは暴走。
 意図を察した魔理沙は急ぎ上空を目指す。なるべく高く、なるべく速く!
 瞬間、周囲の音全てが飲み込まれるような錯覚。白く染まる視界。遅れて轟音と衝撃。それら背に受けて魔理沙は森の彼方へ吹き飛ばされた。
 ―――自爆。
 総勢五十の人形達は、魔理沙に貫かれた人形を含めて全部爆発した。
「ふう……」
 安全な場所に退避していたアリスは嘆息する。この技は人形が全部オシャカになる上、魔力も還元されないのでなるべく使いたくはなかったのだ。
 だがその甲斐あって魔理沙の撃退に成功した。
 これであとは魔理沙の髪の毛を剥ぎ取って、その後魔理沙と一緒に買い物に行ったり、魔理沙と一緒にお食事したり、魔理沙と一緒に散歩したり、魔理沙と一緒に寝る前に好きな子の話をしたりなんかしちゃったりなんかしたりとかして、はぁはぁ、魔理沙と一緒に寝たり、魔理沙と魔理沙と魔理沙と魔理沙と魔理沙が魔理沙を魔理沙して魔理沙する魔理沙魔理沙魔理沙……
 アリスの整った顔にとても歪んだ笑みが浮かび、本人は意識してないが暗い哄笑が漏れ、綺麗な鼻筋には一本赤い線が走っていた。
 パリッ
 暗く深い森の奥、幽かな大気の震えを感じとったアリスは軌道から退避する。それは魔法使いとして培われた感覚が本能的に「逃げろ」と警鐘を鳴らしていたが為である。
 大気の震えがやがて、―――歪みに変わる。
 間違いなかった。アリスは知っていた。その歪みを、その魔法の正体を。魔理沙が常に口にしている「弾幕はパワー」を体言する、まともに受けて無事でいられる者などいない文字通りの『必殺技』を。
『…………のォ……マスタースパークッッ!!』
 遠く、宣言と共に、魔砲が放たれる。
 極光。樹木も瘴気も大気も、そして空間すらも。全てが悲鳴をあげ光の奔流に飲み込まれていく。
「きやあああああああッ!」
 輝線から逃れていたアリスだが、その尋常ならざる大振に恐慌していた。
(たかだか『人間』の魔法使いがこんな魔力を放つことが出来るなんてっ……!)
 アリスと魔理沙は魔法使いだが、アリスは後天的にではあるが既に寿命という枷から解き放たれた、所謂魔法使いという種族である。
 それに対し魔理沙の魔法使いというのは謂わば、職業である。
 人である事を捨て去ったアリスの矜持は文字通り、揺らいだ。
 (人間にしてこの魔力。なら私は何の為に人を捨てたのか。人間相手にこの体たらく。情けない、まったくもって情けないわねアリス・マーガトロイド……!!)
 アリスは秘奥中の秘奥の人形を展開する。魔力を込めるまでも無く、その人形は一目で禍々しい気を放っていた。
 これぞアリスの蒐集した人形の中でも最凶最悪の呪物『首吊り蓬莱人形』。不死を望みながらも死に臨み続け、永遠に苦しみ続ける、果ての無い呪い。
 蓬莱人形の首にかかる紐が勝手に釣りあがり、小さな身体が宙に舞う。苦悶の声を喉から漏らしながら標的である魔理沙を赤く鬱血した目で見定める。
「げ……またなんとも気持ちの悪い人形だぜ」
 森の奥から出てきた魔理沙はボロボロに焦げていたものの、なお健在であり悪びれずに素直な感想を口にした。
 蓬莱人形の髪の毛は伸びに伸び始め、血の涙を滝のように流し、口からは血の泡と一緒に、極太の光線を噴出した。
 魔理沙は赤黒い光線を寸でのところで避ける。カスった三角帽はぶくぶくと膨らんで溶け出した。
「うげ……マジかよ」
 ひしひしと肌で感じる危険。不気味なアレは呪殺の法としては最高峰なのだろう、触れればただでは済まないのは容易に想像出来る。最悪、死すら有り得る。だが内心の焦りとは裏腹に魔理沙の顔には、笑みが浮かんでいた。
 それに比べアリスは優位に立っているのにも関わらず、その表情は硬かった。むしろ、というべきか。アリスに本気を出させているのに、まだ笑みを浮かべる余裕を持つ魔理沙に対し、言いようのない不安に駆られる。
 極太赤黒呪殺光線を、箒でバレルロールを決めながら避けている魔理沙だが、突如襲い掛かってきた銀糸までは防げなかった。
「がっ……!」
 銀糸―――アリスの手繰る糸が魔理沙の箒を止め、魔理沙の身動きを止める。蓬莱人形は呪いを充填している。チェックメイト、という状況だった。
「さあ魔理沙、負けを認めなさい。私の方が弱いですって!私はアリス・マーガトロイドより弱いですって!引き篭もりの魔女より好きだって言いなさい!私のモノになりますって言いなさい魔理沙ァアあぁあアアアッ!!!」
「……ヤなこった」
「……え?よく聞こえなかったわ」
「まだ勝負は……着いてないぜ」
「蓬莱、足だけ吹き飛ばしてあげて」
 下知をくだされた蓬莱人形は、容赦無く赤い呪いを魔理沙目掛けて吐き出す。それと同時に魔理沙が両の手首だけを動かし、低く叫んだ。
『撃滅のォ……ダブルスパークッッ!』
 再び放たれた稲光は銀糸を焼き、呪いすらも焼き消した。アリスは興奮し気付いていなかったが、魔理沙のその手には八卦炉という魔力を増幅させる魔道具が握られていた。彼女の数少ない有益な蒐集物の一つである。
 銀の戒めから解き放たれた魔理沙は、再び八卦炉を構え宣言する。
「勝負は着いてないぜアリス。これで……終いだ」
 そう言い不敵に笑った。
 じゃれ合いから始まったこの戦いで、アリスの驕慢は根こそぎ奪われていた。魔法使いとしての矜持も自身の主義も無く、今や彼女の意中は活路を開くための一手のみ。
 (至近距離からでは、初撃のように逃げる事は出来ない……ならば真っ向から迎え撃つのみ……!)
 そう判じてからのアリスは素早かった。博愛の仏蘭西人形、オルレアン人形、紅毛の和蘭人形、白亜の露西亜人形、霧の倫敦人形、輪廻の西蔵人形、春の京人形、魔彩光の上海人形、そして首吊り蓬莱人形。
 自慢の人形の一括起動。文字通り、これがアリスの全身全霊の本気であった。
『抹殺のォ……ファイナルスパークッッ!!!』





「ねえ魔理沙……」
「なんだアリス」
「結局あんたの試したかった魔法って何だったの?新しい魔法は見なかったと思うんだけど……」
 二人の激突した一帯は焼け野原の様相を呈していた。死力を尽くした二人は倒れ、空を仰いでいた。
 アリスは指向性の違い、と断じた。
 最初から分かっていた事だった。破壊力だけを、その一点だけを追求したのが魔理沙の魔法なのだ。
 例えるなら徒競走。魔理沙とアリスとでは走り始める地点が違う。そういう事だ。
「新しい魔法……?あぁ違う違う」
 魔理沙にしては珍しく照れた調子で笑う。
「魔法撃つ前に掛け声をつければ、威力が上がるかなと思ってさ。いやあ強くなった気分はするけど、どうだった?」
 知るかよ。アリスは呆れてそれ以上モノが言えなくなってしまう。そんなアリスの気も知らず魔理沙が続ける。
「付き合ってくれてありがとな」
 そう言って立ち上がった魔理沙は、髪の毛を一本抜いてアリスに渡す。
「コイツは報酬だ。……あんまり怖い事には使うなよ?」
 アリスは赤面し、ぼそぼそと「ありがと……」と呟いた。
 仰ぎ見る空は、誰かのように澄み渡っているように思えた。



 後にこの髪で、若い女の髪を巻きつけて動く『畜生人形』という、これまた呪物っぽい自立型人形が作られる事になるのだが、それはまた別の機会に。


はじめまして、じじいでした。今後トモヨロシク……


それにしても、おかしい。
魔理沙とアリスのゲロ甘な蒐集ライフを書こうとしていたのに、なんなのこれ。


最後に、蓬莱人形スキーな方には謝らなければいけないと思いました。
じじい
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コメント



0.860簡易評価
1.-10名前が無い程度の能力削除
決して全力は出さないと言いつつ、あっさりと本気を出したアリスに違和感。
2.70野狐削除
いやよろしいのではないかとw
久方ぶりにがちがちの弾幕ごっこを堪能させていただきました。ただ付け加えるならば、魔理沙やアリスの細かい設定を並べるのはいらなかったかと思います。あと魔理沙はイナニトメスを知っているようなのに、アリスがマスタースパークを知らないような振る舞いをしているのに違和感が。
それだけです。

弾幕ごっこにしては強い緊迫感の作品でしたが、いい話だと思いますよ。とりあえず、アリスは少し自重しようw
3.100名前が無い程度の能力削除
ギャグでバトルでラブコメ。
なんか東方らしくて良かったです
5.-20名前が無い程度の能力削除
単純に面白くないです。
9.-10名前が無い程度の能力削除
髪の毛を抜こうとしていただけなのに魔理沙の魂胆に気づいたアリスに違和感。
10.50三文字削除
冒頭では、二人は長い付き合いの友達の様な描写だったのに、弾幕シーンではお互い始めて戦うような口ぶりなのに違和感。
でも、必殺技に掛け声は必須ですねw
11.80名前が無い程度の能力削除
戦闘描写がとても読みやすく、上手だと思いました。
弾幕勝負におけるキャラの躍動感が読んでいて気持ち良かったです。
短編という難しい構成の中でこれだけ煮詰めて書けるのは素直に凄いと思いました。
次回作、凄く期待してます。アリスは人形ファンネルとか使えるのかなあ…
12.50名前が無い程度の能力削除
戦闘の展開が先にありきで、それに合うようにふたりが行動させられている感じがしました。冒頭の魔理沙の挙動は彼女らしくてすごく好きなんですけどね。戦闘シーンって難しいんだろうな。
16.60電気羊削除
戦闘シーンなどの描写が上手で、書きなれているんだなという印象を持ちました。

首吊り蓬莱人形はわりと可愛く書かれることが多い思うんですが
言われてみたら不気味ですよね、首を吊ってる人形なんて。
思い込みをいい意味で壊された気分でよかったです。

最後に欲を言えば、もう少し長いものを読みたかったですねー。
次回作も楽しみにしています。あとスクライド自重w
17.70朝夜削除
戦闘シーンの描写力が皆無に近い私にとっては尊敬できるような描写力で、とにかく素晴らしかったです。
今日最初に読んだ作品がこちらでしたが、いいスタートを切ったように思いました。
これからも作品をお待ちしております。
点数の通り、あなたに感謝しています。

よければ戦闘シーンの描写力を私にくださいw
22.90名前が無い程度の能力削除
面白いと思いますv
29.-10名前が無い程度の能力削除
戦闘がつまらなかったです。
アリスが簡単に本気を出したのも残念でした。