道端に密やかに咲く彼岸花を何とはなしに眺めながら、僕は茫洋と歩き続けていた。
その真紅の花弁に、季節外れの黒い蝶が止まるのを目で追いつつ、単純に綺麗だなぁと思った。
話は旅立つ少し前まで遡る。
玄じいと僕は、何故かにらみ合っていた。
何の武芸も術の心得も無い子供でしかない僕が、大人でさえ尻込みする集落の外に旅立とうと言うのだから。
良識ある大人ならば、顔色を変えて押し止めるのが当然だ。(あの玄じいにもそんなものが在ったとは驚きだ)
こんな状況だというのに、相変わらず玄じいの家は酒臭い。不謹慎に思い尋ねると玄じいはニヤリとして
「こんな状況だからこそ、さ」
とわけのわからないことを言っていた。
そして、僕がここに来た目的を話し始めると、ニヤニヤしていた顔がどんどん険しくなっていった。いつもちゃらけてる玄じいが真剣になるなんて・・・・・・正直怖くて帰りたくなってきた。でも・・・。
何度目かの繰り返しを玄じいは問う。
「どうしても、か?」
僕も繰り返す。
「どうしても、です。」
難しい顔で黙り込む僕たち。なんと言われようが、退くきは・・・無い。
数刻後、ついに玄じいは折れた。
「ふん、強情な奴め。いいだろう、そこまで言うのならば行くがいいさ。けどな、おまえ・・・死ぬぞ?」
「か、覚悟の上です。僕は死んでも姉さまを・・・助けるんだ。」
「言うじゃねぇか、ひょっこが。俺の若い頃を思い出すぜ・・・。よし、待ってろ。」
そう言うと玄じいはいつも大事そうにしまってある亀甲羅を持ってきて、その裏に手を突っ込んだ。出てきた手には、三枚の御札が握られていた。
「それは・・・?」
尋ねる僕に玄じいは得意げに話し始める。
「ふふふ・・・こいつはな、俺が若い頃・・・そう、まだこの姿になる前だな。そのときに一人の巫女と血沸き肉踊る冒険をしていた頃に、そいつからちょろま・・・いや、感謝の印にと託された『スペルカード』っていう有り難いもんなんだぜ?くくく、こいつがあれば、その辺の有象無象どもなんぞ肉片も残らねぇ。いわば、俺の切り札だな。こいつをお前に貸してやる。」
「・・・そんな大切なものを・・・いいんですか?」
すると玄じいは待ってましたとばかりに交換条件をだす。
「無論、ただって訳じゃねぇ。もし、お前が無事あの医院に辿り着き、永琳さまに会うことが出来たなら・・・この手紙を渡して貰いたいんだ。」
そう言うと床板を一枚ひっぺがし、一通の手紙を取り出した。
「・・・いいか、お前はぜっつつたいに中身見るんじゃねぇぞ?本来なら俺が直接行きたいんだがな、生憎いまの俺の力では、この集落を外敵から守る『玄武結界』を維持するので手一杯だ。ここの奴らには恩があるからな・・・・・・見捨てる訳にはいかんのよ・・・。」
初耳だ。確かにこの集落には何故か妖怪が寄り付かない。人は見かけによらないものだ・・・。
「はい、わかりました。無事その・・・永琳さまにお届けします。」
「うむ。では行って来い。竹林までの道は俺の地図があれば迷うこともあるまい。手ごわい奴にあったら即転進が基本だ。どうしょうもなくなったら『スペルカード』を使え。ただ、三回しか使えんからな、無駄遣いするなよ?ああ、それから・・・・・・ええぃ!とにかく無事に戻ってくるんじゃぞ!!」
少し照れたように怒鳴る玄じい。しっしっと手を振り追い払う仕草が、なんだかじぃんときた。
「・・・・・・では、行ってきます。玄じい・・・ありがとう。」
「~~~っ!いいからいけ!!」
そして僕は集落を後にした。旅の準備は万全とは言い難い、でも懐には頼もしい相棒が居る。
危険な道中だが、きっと大丈夫だ。・・・・・・僕は一人じゃない。
文章を読む限り、そう思えるのですが………。
玄爺は純度100%の亀です、飛行仙を身につけている博識の。
霊夢が何処からか捕まえてきて、神社の池で飼っている筈です。
旧作から東方をプレイしている身として気になったので、
疑問を述べさせていただきました。
老村医者役に東方関連のキャラ出したいな。と思ったんであの亀様しか思いつきませんでした。ですから、そのまんま「玄爺」とするのも気が引けたので「玄じい」としました。気分を害されたのならご容赦を。
旧作もってらっしゃるんですか・・・羨ましい。Zun神主はリニューアルして出す気は無さそうだし・・・いいですなぁ。