日々の薬調合には時間がかかる。入れるものの重さがわかっているといっても、薬さじで適当にどんぶり勘定で入れていくわけにもいかない。薬というのは製剤、つまり薄めたり混ぜたりと手を加える必要があるわけで、再現性良く作ることが求められる。品質の安定化というやつだ。より良い薬をたまに作れることに意味はなく、毎回、品質が担保されている薬を作り続けることに真の意義がある。100人を救えて1人を殺したらそれは毒扱いだ。それ故に、良薬というものは苦くとも効果と安定した品質が求められる。調合ミスは、当然許されるものではない。
今日は常備薬の調合だ。必要量の薬を量り取る。月には精密に重さを量れる機械があったが、地上ではそんなに機器はない。どうしても目分量に頼ることもあり、時間もかかる。ずらりと並んだ量り終えた材料を横目に、薬さじで最後のぎりぎりの重さの調整をした。薬さじに粉がへばりついた。粉をはたき落とすように薬さじを叩く。最後の調整になると値の振れが激しいのだ。風が入り込むと重さが正確に計れないので、戸は閉め切っている。今日も外はいい天気であった。
「よし、これでおしまい」
薬の秤量が終わり、滴りそうな汗をタオルで拭う。不純物が入ってしまったら大変である。後は薬たちを混ぜて、分配して薬包紙に包むだけだ。慣れれば慣れるほど機械的になり、手際は良くなる。今となってはすっかり薬包紙を綺麗に折り込めるようになった。何度も折る練習をした甲斐がある。薬包紙に移す前の最後の工程だ。量り終えた薬達を混ぜるため、すり鉢に移す。粉が舞わないように慎重に移していかねば。あの慎重に計っていた作業が無意味になる。
「鈴仙。入るよー」
てゐの声が聞こえる。戸には「調合中!いきなり入るな!」の張り紙がしてあり、いたずら好きのてゐも、このときばかりは邪魔をしてくることはあまりない。
「ちょっと、まって。今丁度調合中なの。粉が舞ったら、困るわ」
手元に神経を集中させているため、自然に処理能力が落ちてゆっくり話してしまう。それでも、てゐにはなんとか伝わったようだ。
「ふーん。姫様がさっき鈴仙を呼んでたから、それを伝えたかっただけ」
「わかったわ。後で行く。ありがとう」
「はいよ」
声色だけでてゐの表情を頭に浮かべつつ足音が離れていくのを聞きながら、ようやく最後の薬をすり鉢に移し終えた。後は混ぜるだけだ。これが最後だ。これまでの作業の集大成である。終われば私はこの閉め切った暑苦しさからの解放を感じる事ができる。故に、妙にハイなテンションになっていた。勿論、手元が狂って混ぜているときに勢い余って薬を撒き散らすなどという素人な真似などはしない。優しく、しかし、力強く円運動をさせるようにすりこぎ棒を動かす。
「いなばー、まだかしらー?待ちわびて私自ら来ちゃったわ」
姫様の声。そして勢いよく開けられるふすま。丁度よく吹き込む風。私は新鮮な空気が部屋に入り込むのを感じた。
「今日も良い天気だわ」
私は手に持ったすりこぎ棒をそっと近くの机に置いた。
今日は常備薬の調合だ。必要量の薬を量り取る。月には精密に重さを量れる機械があったが、地上ではそんなに機器はない。どうしても目分量に頼ることもあり、時間もかかる。ずらりと並んだ量り終えた材料を横目に、薬さじで最後のぎりぎりの重さの調整をした。薬さじに粉がへばりついた。粉をはたき落とすように薬さじを叩く。最後の調整になると値の振れが激しいのだ。風が入り込むと重さが正確に計れないので、戸は閉め切っている。今日も外はいい天気であった。
「よし、これでおしまい」
薬の秤量が終わり、滴りそうな汗をタオルで拭う。不純物が入ってしまったら大変である。後は薬たちを混ぜて、分配して薬包紙に包むだけだ。慣れれば慣れるほど機械的になり、手際は良くなる。今となってはすっかり薬包紙を綺麗に折り込めるようになった。何度も折る練習をした甲斐がある。薬包紙に移す前の最後の工程だ。量り終えた薬達を混ぜるため、すり鉢に移す。粉が舞わないように慎重に移していかねば。あの慎重に計っていた作業が無意味になる。
「鈴仙。入るよー」
てゐの声が聞こえる。戸には「調合中!いきなり入るな!」の張り紙がしてあり、いたずら好きのてゐも、このときばかりは邪魔をしてくることはあまりない。
「ちょっと、まって。今丁度調合中なの。粉が舞ったら、困るわ」
手元に神経を集中させているため、自然に処理能力が落ちてゆっくり話してしまう。それでも、てゐにはなんとか伝わったようだ。
「ふーん。姫様がさっき鈴仙を呼んでたから、それを伝えたかっただけ」
「わかったわ。後で行く。ありがとう」
「はいよ」
声色だけでてゐの表情を頭に浮かべつつ足音が離れていくのを聞きながら、ようやく最後の薬をすり鉢に移し終えた。後は混ぜるだけだ。これが最後だ。これまでの作業の集大成である。終われば私はこの閉め切った暑苦しさからの解放を感じる事ができる。故に、妙にハイなテンションになっていた。勿論、手元が狂って混ぜているときに勢い余って薬を撒き散らすなどという素人な真似などはしない。優しく、しかし、力強く円運動をさせるようにすりこぎ棒を動かす。
「いなばー、まだかしらー?待ちわびて私自ら来ちゃったわ」
姫様の声。そして勢いよく開けられるふすま。丁度よく吹き込む風。私は新鮮な空気が部屋に入り込むのを感じた。
「今日も良い天気だわ」
私は手に持ったすりこぎ棒をそっと近くの机に置いた。
鈴仙の真剣さが伝わってきてよかったです
集中してる感がよくわかりました
簡潔な描写がとても上手で、部屋の様子が目に浮かぶようです。直接書かれてはいないけれど、うどんげの項垂れる姿が見える見える。
全体としても、作品の自己紹介・前振り・オチと綺麗に序破急が決まっていてとても気持ちのいい構成だと思いました。
そしてもっと読みたかったです