「じゃあそろそろ暗くなってきたし……」
空を見上げてそう言うと蓮子はこっちを見た。
「うん、七時十四分。 それじゃ今日はここまでにしましょ」
さらっと時計を見るわけでもなく時間を正確に告げてくる友人に、ため息をつきながらも頷く。
「今日の活動内容書かないとね」
蓮子は懐から手帳を取り出し、貸したペンを走らせ始める。開始当時から既に蓮子はこういう風にまとめを書いていた。内容を見せてもらうことは時々あったけど、やけに抽象的だったり、気になったらしいお店の名前が書かれていたり、私たちの活動目的が謎深まるものになるほど中身は滅茶苦茶だった。そういう形でオカルトサークルしてるわけでもないのに。
空を見上げながら書き終わるのを待つ。これが開始当時から私がしていることだった。
「うむ」
聴こえた声に反応して目線をそちらに向ける。
「どうしたの?」
不思議そうな顔した蓮子が、不思議なことに私をじっと見ていた。
変なものでもついてるのかしら、と伝統的な反応をしようかと私が迷っていると蓮子は急に手帳を私へと差し出した。
「……えっ、なに?」
これには思わず私も苦笑い。突飛な行動はよく見ているけれど。
「一緒に書くのよ。これを」
これを、とはまあ手帳のことよね。手帳を書く、で合っているはず。ごめんなさい、よく分かりません。
「一応、見せてもらえるかしら」
手渡された手帳を開いて、さっきまで書いていたページを見る。なんらおかしな所は……あるけれど、レギュラーな面に触れるのは今必要なことじゃない。やっぱり書くのに疲れたとか書くことが無いとかではなさそう。
「べつに内容に不満って様子でも無いみたいだけど、どうして私も?」
「いつも私が書いている間待たせてるし、一緒に書くほうが楽しそうじゃない?」
「でも一緒にって、貴女だけでだいぶ書かれちゃうわ」
「そんなこと……うん、あるかも。 じゃあ交互に書けばいいのよ」
そう言って、指で私の持っている手帳を指した。
「今日は私が書いたから明日はメリーね。その次はまた私。以下循環で」
「ちょ、ちょっと!?」
こっちが引き止める声をあげたのにも構わずに、蓮子は足早に家へと帰ってしまった。
「書く内容なんて無いわよ……」
どうしようか悩みながら本日書かれた活動内容にまた目を通す。
「……あ、そういえばペン返してもらってないわ」
翌日も活動は始まった。
蓮子の予測と他愛のない話から始まり、予測した場所を探索して、何事も無く帰り道。何事も無く。ええと。
「……なにを書けばいいの?」
手にペンを持って私は悩んでいた。蓮子がコンビニに用があると言って入っていくのを待つ間に書こうと思ったはいいものの、全くなにも思いつかない。
「他のページにはなんて書いて……なんでアイスの味なんて書いてるのよ」
参考にならないわ。いっそこれを真似しようかしら。
頭を痛めつつコンビニの店内に目を向ける。アイスを眺めている蓮子が見えた。もうこれでいいでしょう。
『いつもと変わらず。結界も見えず。帰り、蓮子はアイスを買っていた。』
なんの活動よ。 自分でもよく分からない日誌につっこんでしまった。
「あれ、書けた?」
いきなりの声に少し驚いて顔を上げると、蓮子がアイスを食べながら私を見ていた。
「書けたっていうか……」
言い淀みながら手帳を渡す。彼女はアイスを口に加えて手帳を受け取ると、中身を見て笑いをこらえ始めた。
「だっていきなり言われたんだもの!」
肩を震わせている友人に少し不満そうな様子を見せたけど、相手は変わらず笑いそうなままだ。
アイス落とすわよと警告しようとしたけど、直後に食べていたことを思い出したようですぐに口をぎゅっと閉じた。
「そうね……でもこれは無いかな」
再びアイスを食べ始めながら言葉を返してくる。手帳を返されたので、もう一度その笑いのネタを見る。
「まあ別に、今日のこと書けばそれで良いとは思うけど……」
蓮子は食べ終わったらしいアイスの棒を片手で揺らしながら言い続けた。
「メリーから観た活動内容が知りたいのよ」
私から観た、活動?
その言葉に違和感は無かった。妙な台詞だけど、この台詞は私にも言えることだった。
「蓮子から観た活動は何を書いてるかさっぱりだけど、面白いし好きよ」
小さな一ページに書かれている単語や数字の意味なんて理解できないし、所々にある変なアイコンは落書きかと思ってしまった程だけど。
それでも、一緒にやってきたことが書かれているのだと知っていると、観るのが楽しくなる。
「……帰ってから書き直すわ」
ふう、と一息ついて手帳を鞄に入れる。それがいいわ、と蓮子は笑った。
そうして交換日記をやり始めた日から数週間が経った。
『蓮子が寝ぼけて私の帽子を被って受講しに行ってた。』
『あの結界の中はちょっと綺麗過ぎたわね。もう少し居たかった気がする。ねえ蓮子?』
『頼むから、次に怪物がいる所に行く時は装備を忘れないでいきましょう。』
自分の書いてきた部分を見返しながら、たった少し前のことを懐かしいと思い返す。
急ぎ気味に歩いてくる音が聞こえてきた。
「今日も暑いわね……」
待ち合わせ場所にていつも通り遅刻してきた蓮子に手帳を差し出す。
「うん? なに、今日はメリーが書く日じゃ?」
「いいえ。やっぱり難しいのよ、書くのって。それに手帳だし」
「せっかく面白かったのに」
不満気に言いつつも受け取ってくれた。
「ありがとう。さて、行きましょう。……活動の前にちょっと寄りたい場所がね」
「寄りたい場所? じゃあ先にそこに行きましょうか。どこに?」
せっかく残すならやっぱり。
「文房具屋かしら。新しいノートをね」
まとめられなかった部分も書きたいでしょう?
空を見上げてそう言うと蓮子はこっちを見た。
「うん、七時十四分。 それじゃ今日はここまでにしましょ」
さらっと時計を見るわけでもなく時間を正確に告げてくる友人に、ため息をつきながらも頷く。
「今日の活動内容書かないとね」
蓮子は懐から手帳を取り出し、貸したペンを走らせ始める。開始当時から既に蓮子はこういう風にまとめを書いていた。内容を見せてもらうことは時々あったけど、やけに抽象的だったり、気になったらしいお店の名前が書かれていたり、私たちの活動目的が謎深まるものになるほど中身は滅茶苦茶だった。そういう形でオカルトサークルしてるわけでもないのに。
空を見上げながら書き終わるのを待つ。これが開始当時から私がしていることだった。
「うむ」
聴こえた声に反応して目線をそちらに向ける。
「どうしたの?」
不思議そうな顔した蓮子が、不思議なことに私をじっと見ていた。
変なものでもついてるのかしら、と伝統的な反応をしようかと私が迷っていると蓮子は急に手帳を私へと差し出した。
「……えっ、なに?」
これには思わず私も苦笑い。突飛な行動はよく見ているけれど。
「一緒に書くのよ。これを」
これを、とはまあ手帳のことよね。手帳を書く、で合っているはず。ごめんなさい、よく分かりません。
「一応、見せてもらえるかしら」
手渡された手帳を開いて、さっきまで書いていたページを見る。なんらおかしな所は……あるけれど、レギュラーな面に触れるのは今必要なことじゃない。やっぱり書くのに疲れたとか書くことが無いとかではなさそう。
「べつに内容に不満って様子でも無いみたいだけど、どうして私も?」
「いつも私が書いている間待たせてるし、一緒に書くほうが楽しそうじゃない?」
「でも一緒にって、貴女だけでだいぶ書かれちゃうわ」
「そんなこと……うん、あるかも。 じゃあ交互に書けばいいのよ」
そう言って、指で私の持っている手帳を指した。
「今日は私が書いたから明日はメリーね。その次はまた私。以下循環で」
「ちょ、ちょっと!?」
こっちが引き止める声をあげたのにも構わずに、蓮子は足早に家へと帰ってしまった。
「書く内容なんて無いわよ……」
どうしようか悩みながら本日書かれた活動内容にまた目を通す。
「……あ、そういえばペン返してもらってないわ」
翌日も活動は始まった。
蓮子の予測と他愛のない話から始まり、予測した場所を探索して、何事も無く帰り道。何事も無く。ええと。
「……なにを書けばいいの?」
手にペンを持って私は悩んでいた。蓮子がコンビニに用があると言って入っていくのを待つ間に書こうと思ったはいいものの、全くなにも思いつかない。
「他のページにはなんて書いて……なんでアイスの味なんて書いてるのよ」
参考にならないわ。いっそこれを真似しようかしら。
頭を痛めつつコンビニの店内に目を向ける。アイスを眺めている蓮子が見えた。もうこれでいいでしょう。
『いつもと変わらず。結界も見えず。帰り、蓮子はアイスを買っていた。』
なんの活動よ。 自分でもよく分からない日誌につっこんでしまった。
「あれ、書けた?」
いきなりの声に少し驚いて顔を上げると、蓮子がアイスを食べながら私を見ていた。
「書けたっていうか……」
言い淀みながら手帳を渡す。彼女はアイスを口に加えて手帳を受け取ると、中身を見て笑いをこらえ始めた。
「だっていきなり言われたんだもの!」
肩を震わせている友人に少し不満そうな様子を見せたけど、相手は変わらず笑いそうなままだ。
アイス落とすわよと警告しようとしたけど、直後に食べていたことを思い出したようですぐに口をぎゅっと閉じた。
「そうね……でもこれは無いかな」
再びアイスを食べ始めながら言葉を返してくる。手帳を返されたので、もう一度その笑いのネタを見る。
「まあ別に、今日のこと書けばそれで良いとは思うけど……」
蓮子は食べ終わったらしいアイスの棒を片手で揺らしながら言い続けた。
「メリーから観た活動内容が知りたいのよ」
私から観た、活動?
その言葉に違和感は無かった。妙な台詞だけど、この台詞は私にも言えることだった。
「蓮子から観た活動は何を書いてるかさっぱりだけど、面白いし好きよ」
小さな一ページに書かれている単語や数字の意味なんて理解できないし、所々にある変なアイコンは落書きかと思ってしまった程だけど。
それでも、一緒にやってきたことが書かれているのだと知っていると、観るのが楽しくなる。
「……帰ってから書き直すわ」
ふう、と一息ついて手帳を鞄に入れる。それがいいわ、と蓮子は笑った。
そうして交換日記をやり始めた日から数週間が経った。
『蓮子が寝ぼけて私の帽子を被って受講しに行ってた。』
『あの結界の中はちょっと綺麗過ぎたわね。もう少し居たかった気がする。ねえ蓮子?』
『頼むから、次に怪物がいる所に行く時は装備を忘れないでいきましょう。』
自分の書いてきた部分を見返しながら、たった少し前のことを懐かしいと思い返す。
急ぎ気味に歩いてくる音が聞こえてきた。
「今日も暑いわね……」
待ち合わせ場所にていつも通り遅刻してきた蓮子に手帳を差し出す。
「うん? なに、今日はメリーが書く日じゃ?」
「いいえ。やっぱり難しいのよ、書くのって。それに手帳だし」
「せっかく面白かったのに」
不満気に言いつつも受け取ってくれた。
「ありがとう。さて、行きましょう。……活動の前にちょっと寄りたい場所がね」
「寄りたい場所? じゃあ先にそこに行きましょうか。どこに?」
せっかく残すならやっぱり。
「文房具屋かしら。新しいノートをね」
まとめられなかった部分も書きたいでしょう?
けどまあ、蓮メリちゅっちゅ!