Coolier - 新生・東方創想話

とある夏の日の話

2009/09/26 23:19:42
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「紅魔館のパーティに行ってきます」

突然現れた衣玖がそんなことを言ったのは、よく晴れた日だった。
もっとも、天界には天気などないのだが、そこはまあ気分である。

「パーティって、今日? 私も行くわ。暇だし」

そう、暇なのだ。
地上では宝船が空を飛んでいたり、船ではないよくわからないものが飛んでいたり、バザーがあったりしていたらしいのだが、全く気づけなかったのが悔やまれる。
特にバザーに行けなかったのは痛い。
暇すぎるからと何もせずに自堕落な毎日を過ごしていたことが、これほどまでに勿体無いことだったとは。

「およ、総領娘様もお呼ばれされていたのですね」
「え? 別にそんなことはないけど……。あなたは呼ばれたの?」
「ええ、先日、神社の宴会の際に。いつも神社の分、たまにはという事らしいですよ」
「宴会って……。いつの間にあったのよ。私誘われてないわよ」
「まあ、そういうものなんじゃないですか?私もたまたま参加していただけですし」

――むう、と唸る。
確かに神社ならいつ宴会が始まってもおかしくないかもしれない。だがこの私を呼ばないとはどういうことなのだ。衣玖も誘ってくれてもいいのに。

「ともかく、そういうことなので。ではこれで。」
「え、ちょっと、誘いにきてくれたんじゃないの?」
「…? いえ、たまたま通りかかったら総領娘様がいたので。パーティというからには、勝手に人数を増やす訳にも
 いかないでしょうしね。――それでは」
「……あ」

――行ってしまった。
まったく、それでも誘ってくれたっていいじゃないか。
パーティなんて人数が多い方が楽しいに決まっているし、それに一人や二人増えたところで問題ないではないのか。
ましてや紅魔館。使用人が多い分たくさん食べ物だって用意するだろうし、そもそも――

「――そうじゃない、わよね……」

色々あるけれど。
たった一言、私が素直に言えばよかったのだ。

―― 一緒に行きたい、と。

パーティにどうしても行きたいという訳ではなく、単純に一人はつまらないから。寂しいから。

「神社にでも行こうかな……」

紅魔館に出向く気にもなれないし、かといって再び自堕落を繰り返すのもアレだし。

知らず知らずのうちについた溜め息は天界を走る風に融けるように消えていき、結局気付く者はいなかった。




博麗神社には、霊夢と魔理沙がいた。
暑さでぐったりとしながらも、いつもの様に縁側でくつろいでいる。
というか、他にやることはないのだろうか。

「あなたたち、いつもお茶飲んでない?」
「失礼な。私は紅茶も飲むぜ。まあ酒が一番だがな」
「お酒なら出さないわよ。 いいじゃない、お茶。自分へのご褒美」
「掃除はまだ終わってないように見えたが」
「ああいうのは定期的にやることに意味があるの。別に終わらせる必要はないのよ」
「そうかい」
 
まあ、いつも通りである。
私は内心ほっとした。神社に誰もいなかったとしたら――そんなことはほとんどないのだが――、
どこも時間を潰せるような場所が思いつかなかったのである。
ふと自分の行動範囲の狭さを思い知ったが、そもそも天人は地上には来ないので当然といえば当然である。

「ところで、天人様が何の用? 異変なら間にあってるけど」
「そんなことしないわよ。油を売りにきたの。あ、私はお茶でいいわよ」
「……はあ」

とりあえず、二人の隣へと腰を下ろす。
天界にいるときとやっていることは変わっていない気もするが、こういうのは場所を変えるだけでも違ってくるのだ。多分。

「――にしても、お前が一人とは珍しいな」
「そう言えばそうね。あんたがここに来るときはいつも衣玖がいたような」

どきり、とした。
自分ではあまり一緒にいる気はしていなかったが、確かに――
言われてみれば、異変を起こして地上に行くようになってからは、衣玖もついてきているような気がした。
一人で神社に来るのは、異変のとき以来かもしれない。
別に付き人と言う訳でもないのに――考えてみると不思議だった。

「そういう日もあるわよ。まあ、それで暇になっちゃったから来たんだけど」
「暇、ねえ……。天人に仕事はないの?」
「仕事っていうか、天界は完成した閉じた世界だから特にやることはないのよね。私にはそれが耐えられない訳だけど」
「そして神社を壊した、と」
「う……。――まあ、反省はしてるわよ」
「私は面白かったけどな」

じろり、と霊夢は魔理沙を見た。無言の圧力である。
どうも私はこれが苦手だ。地味に怖い。しかし当の魔理沙は全く動じずお茶を飲んでいる。これが慣れか。
もっとも、彼女の場合は性格なのかもしれないが。

「ところで、宴会よ! 私を誘わないなんてどういう了見?」
「宴会……? あー、この前の?」
「そうよ。聞けば衣玖は来てたらしいじゃない。宴会をやるなら事前に誘っておいて欲しいわ」
「事前にって言われてもね……。私は宴会なんて滅多なことがなければひらかないわよ。気づいたら皆勝手に酒盛り」
「いいじゃないか。酒は大勢で呑んだ方がうまいだろ? まあ、宴会の気分の日は宴会なんだよ」
「まったく、片付けるこっちの身にもなりなさいよ……。――とにかく、こればっかりは空気を読むしかないわね」
「空気を読むと言えば衣玖よね……。ってことは、何となく気づいた、と」

少し安心した。衣玖が誘われて私が誘われず、衣玖はしょっちゅう参加していたなんてなれば、どうしようかと思っていたのだが、偶然なら仕方ない。わざわざ私を誘いにくる必要もないだろう。
衣玖自身も言っていたことだが、こればかりは聞きたくなるのは人のサガ、というものだ。天人だけど。

「ふう……、このお茶、なかなかおいしいわね」
「そりゃそうよ、外の世界では有名なお茶らしいんだから。
 紫から貰ったんだけど、ここでは手に入らないから貴重で……」
「おかわり」
「お、私も頼むぜ」
「……。――まあ、淹れる楽しみってのもあるけど」

はあ、と溜め息をつきながら霊夢は立ち上がった。
どうも彼女は、冷たいのか優しいのか……いまだによくわからないのだが、なぜか近くにいると落ち着く。
――これが巫女なのかな、とも思うけど、彼女の周りを見る限り、それだけでもないのだろう。

「そういえば、今日紅魔館でパーティがあるらしいけど、やっぱりあなたたちも行くの?」
「うん? そうなのか? 聞いてないぜ」
「え、そうなの? この前の宴会のときに誘ってたみたいだけど」
「いや、誘われてないな。まあ紅魔館には行くつもりだったが、それなら時間を遅らせたほうがいいかもな」

どういうことだろう。衣玖は、いつもは神社だから――と言っていたが、あまり誘ってはいないのだろうか。
しかし変わりに行うというのなら、魔理沙たちを誘っていないのはおかしい気もする。それとも勝手に参加するのを見越してのことなのだろうか。
ただ、自分の記憶にあるあの吸血鬼なら、そこらじゅうに招待状を送りそうなものだが。

「あんたも懲りないわね……。いいかげんパチュリーも怒るわよ?」
「いつものことだぜ。それに死んだらちゃんと返すしな」

はい、と戻ってきた霊夢にお茶を渡される。一応お礼を言って一口飲む。うん、おいしい。

「で、パーティだけど。あんたも行くの?」
「あんたも、って……。行くことはもう前提なのね……。でも、招待とかされてないわよ?」
「別にいいじゃない。そんなもんでしょ。ここだってそうなんだし」
「あそこは人数が多いしな。少しくらい増えたって大丈夫だ」
「まあ、それもそうよね、うん。でも、衣玖は招待されたらしいのよ」

そう。どうせ行くにしても、衣玖は招待されていて私は招待されていない。
まあ確かに、私は招待されるような間柄じゃないにしても、なぜ衣玖は誘われたのか。
宴会の席での軽い発言だとしても、それなら霊夢たちも誘われているはずだろう。

「ああ、それで暇だって言ってたのか。でもまだ昼間だぜ?」
「確かに、普通に考えたらあいつはまだ寝てる時間よね」

沈黙。お茶をすする音と蝉の声だけが鳴り響く。――岩に染み入るっていうか、頭に染みるからこういうときくらい静かにして欲しい。
ふむ、という声がした。見ると魔理沙が、不敵な、としか表現しようのない笑みを浮かべている。

「これは面白そうな匂いがするぜ」




 
――そういう訳で、紅魔館に来た。
森の中にたたずむ悪魔の館というが、日中のこの明るさでは立派なお屋敷、という風にしか見えない。
暇だったのと、魔理沙が元々本を借りに行く――という名の強奪だが――、という予定があったので行ってみることにしたのだ。暇だったし。
衣玖が気になったとかそういう訳ではなく、私は暇だったのだ。他にやることもないし。
霊夢は、面倒臭い、パーティは夜からだからいい、と神社に残っている。おそらく前者が8割だろうが。

「そういえば――」

門番の様子をうかがっているとき、魔理沙がふと思い出したようにいった。

「前にレミリアが、咲夜は珍味が好きだから気をつけろ、って衣玖に言ってたな」
「なっ――」
「冗談だぜ」

本気で勘弁してほしい。驚愕するやら焦るやらほっとするやらで自分でも意味がわからない。
どうにも彼女は苦手だ。というか、こっちの顔を見てにやにやしないでほしい。

「あなたね……」

抗議しようと思ったが、門番の所へと向かってしまったので、しぶしぶついて行くことにする。
正面から行くらしい。

「おーい門番、今日は起きてるんだな」
「――っ! 人がいつも寝てるような言い方しない!」
「違うのか?」
「別にいつもじゃ……うー……」

なにやらいきなり相手をからかっている。いつもこいつはこうなのだろか……と思ったが、考えるまでもないことのような気もするのでひとまず合流する。

「……? あら、あなたは?」
「はじめまして。私は比那名居 天子。天人ですわ」
「はあ、どうも……。紅 美鈴と申します」
「なんだ、随分と大げさだな。まあいいや、ここに衣玖が来てないか?」

客として入るのだから、それなりの態度の方がいいと思ったのだが――、大げさだったらしい。勉強不足だった。やっぱり慣れないことはするものじゃないな、と思う。
美鈴と名乗った彼女は、人当たりの良さそうな妖怪?に見えた。

「ああ、彼女ならしばらく前に来たわよ。咲夜さんが迎えにきたから、客として通したけど」
「うん? 知ってるのか」
「ここに来るのは二度目だから。門番たる者、一度きた者の顔は忘れないのよ。
 まあ、名乗られたのは初めてだし、一度目は気づかなかったんだけどね……」

どうも触れてはいけないところだったらしく、ぶつぶつと何かを呟き始めた。どう見ても自爆だと思うが。
一度目というのは多分、異変のときのことだろう。

「そもそもお客さんが来るならあらかじめ言っておいてくれたって……」
「あー、そんなことより咲夜が迎えに来たって?」
「ん、どうも咲夜さんが招待したとかで」

――咲夜が、招待した。
いや、たいした意味はないのかもしれない。でも――

『咲夜は珍味が好きだから気をつけろ』

「――っ!」

もう、嫌な予感しかしなかった。
いや、確かに咲夜は人間としては強かったが、衣玖が遅れをとるなんてことはない。きっと。
しかし、一度考えてしまうと、それを頭から振り払うことはできなかった。

「おい、さっきのは冗談だよ、まだ気にしてるのか?」
「でも――」
「はあ、私が悪かった、うん。すまん。――まあ、ともかく入るか」
「ちょっと、ここは通す訳には……」
「なんのための能力だ。それにいつも通ってるじゃないか」
「気を遣う……って、漢字が違うわよ!勝手に通して怒られるのは私なんだから……」
「別に私は何も言われないぜ」

この掛け合いすらも焦れったい。強行手段にでるしかないか、と緋想の剣に手をかけようとする――が、様子がおかしい。
門番の彼女もなにやら追い詰められたような顔を――

「竜宮の使いの彼女が言ってたんだけどね」
「……?」
「屋敷の人が、本気で門を閉め切ろうと思っていると思いますか、って」

彼女とは初対面だが、こんな取り乱すことはないような気がした。
隣で魔理沙が、ひどく焦っているからだ。
そして私はというと、焦ってる人を見ると逆に冷静になれるのかもしれないな、と思うほどには落ち着いてきた。
そう、ここは幻想郷なのだから、命の危険はないだろうと思う。だからといって、急がない理由にはならないが。

「私だってそう考えたことはあるわよ。あなたに入られて、巫女に入られて。
 なのに館の人は私を少し諌めるだけで、あまり気にした様子もない。
確かに色々な人と手合わせできるのは楽しい。けど、追い払えるのはたまに来る弱い妖怪や妖精だけ。
 人間の魔女には毎日の様に入られているのにね」

いまや魔理沙はひどくバツの悪そうな顔をしていた。いや、今にも泣き出しそうな、かもしれない。
意外な光景に、もう自分の動揺はほとんど消えていることに気づいたが、同時に思う。
――この空気、まずいかもしれないわね……
誰もが暢気で自由奔放でこその幻想郷だ。こういうのはなんていうか――嫌だ。

「私は、長い間門番として生きてきた。屋敷の主人が亡くなって、気づいたら幻想郷にいたときは、
どうにかなりそうだった。それからしばらくして外からお嬢様たちががやってきて、パチュリー様も一緒で、
住む屋敷を探してるから、ってまた主人ができたときは本当に救われた。」

きつい。重い。いくら私でもこの空気には耐えられない。割と本気で助けてほしい。

「あくまでも契約の上だったけど、ここが私の居場所、っていうのがあったから、私は立ち直れたの。
なのに今の私は何の役にも立てていない。私はもう必要ないのよ! ――そうね、もう、通りたければいいわよ……」

門番はぼろぼろと泣いていた。涙を流すつもりなどなかった、弱音を吐くつもりなどなかった。
それなのに、止められなくなってしまった――そういう、表情だった。
妖怪は、体は強いが心は弱い。天人の自分にはとても思いもよらないような過去が、私には重すぎた。

「そんなつもりは、なかったんだけどね」
「――っ!? 咲夜、さん……すみません、私……!」

いつの間にか、門番の隣に紅魔館のメイド長が現れていた。
いつも突然現れるのは心臓に悪いし気味が悪い、と思っていたが、今ばかりは救世主にしか見えなかった。

「お嬢様は暇だからって、あなたに勝つ者を楽しみにしていたのよ。
止まっていた館の時間も、また動き始める、って……。そんなに思いつめていたなんて、気づけなくてごめんなさい」
「…………」
「それに、守る守らないじゃなく、あなたは必要なの。なんだかんだでここの人は、
あなたが頑張っているのを見るのが好きで、ちゃんとあなたのことが好きなんだから」
「……はい」
「だから、自分が必要ないなんて、もう言わないで?」
「はい……」
「あなたの、居場所は」
「紅魔館の、門番、です……」
「よろしい」

相変わらずきまずい空気だったが、もう、どんよりとした重いものではなくなっていた。
人間とはすごい、と思う。寿命も短く儚い存在なのに、なんて強いんだろう。
もうちょっと周りを見てみようか、なんて――そう、思った。





予想通り、というかなんというか、あのあとふと扉の方を見ると衣玖が佇んでいた。
あんなことがあったせいか、何しにきたとか何があったとかそういうことは誰にも聞かれなかったけど、多分あの場にいた人は皆、わかっていたのだと思う。
あとから起きてきた吸血鬼が、運命がどうだとか何とか言ってたけど、多分、そういうものだったのだ。
起こるべくして起きて、そして解決した。衣玖がそこにいたのも私がいたのも。
『そうだった』というのは、『そうなるこということだった』のだ。
始めから固まることがわかっていた場合、雨降って地、固まるということわざは、雨を災いとすることができるのだろうか。
そういえば彼女は、霧雨だったなあ、なんてふと思い出して、そんなことを思った。

ところで衣玖だが、聞いてみると、以前咲夜の料理を褒め、ご馳走してくれと頼んだことがあるらしく、それならパーティの前に、というに至ったというなんともつまらない話だった。
そのパーティはというと、開催はするが特に知らせず、来るもの拒まず、ということだったらしい。
そういう訳で、今私は紅魔館のパーティに参加しているのだ。

「うん、たまにはこういうのも悪くないわね。ワインなんて久しぶりに呑んだわ」
「そうですね。やはり、ワインにはワインに合う料理というものもありますし。
――それにしても、彼女を誤解していたようです。先ほどのやりとりを見る限り、
 彼女はその人となりもちゃんと評価されていたみたいですね」
「うん?」
「なんでもないです」

聞こえなかった振りをしたのは、嫉妬かもしれない。衣玖がここまで人を褒めるのは珍しかったから。あのメイド長が羨ましい、と。
それが自覚できるくらいには、私も素直になれたらしい。
もっとも、『振り』だったのも、衣玖には気付かれていそうだが。

ふと見ると、今回一番、骨折り損のくたびれ儲け、だった彼女がいた。
私も門番も、彼女の行動力に救われた訳だが、彼女自身はどうだったんだろうか。
人に気を回している自分に驚きつつ様子を観察してみるが、どうも魔法使いたちで会話しているようだ。
風のうわさでは、彼女たちはあまり互いを好まず、魔法使いらしい利害関係があるだけ、なんて耳にしていたが、普通の友人同士に見えた。
そこには人間も妖怪もなく、ただ、繋がりがあるだけだった。
それともやはり、彼女にもなんらかの変化があったのだろうか。
多分、いやきっと確実に、『友人』としてそばにいてくれる衣玖を隣に感じながら、私は空を見上げた。
満天の星空に、大きな月の浮かぶ、暑い、夏の夜だった。
プロットを書いては投げ書いては投げ……
しかしそれでも衣玖さんが書きたい!と完成した処女作です
でも気付いたら衣玖さん全然出てきてない……
美鈴の過去に無理がありますが、そこはお許しください
拙い作品ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました!


一部空白等、修正しました
くしゅあ
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コメント



0.1430簡易評価
6.80カギ削除
天子が語っている?のかナレーションなのか、いまいちはっきりしない感じを受けました。
それ以外は特に違和感などはなかったです。
19.70名前が無い程度の能力削除
『―――』、を多く使っているのが少しばかり気になりました。
でも、お話は面白かったです。