心霊スポット巡りに、境界探索とドタバタと遊び回って、やれ首を手に持った少女だの火の玉を身にまとったピンク髪の女だの現実だか幻想だか、はたまた夏の暑さにやられただかによって盆休みが終わった。
そして、当然のように仕事が始まる。
「カバンが重いわ……」
靴を履こうとしていると後ろからバタバタ音がする。
蓮子が後ろを向くと、
「蓮子、忘れ物! 定期忘れてるわ!」
「ありがと、メリー」
「もう忘れ物はない?財布は?」
仕事カバンを指して私は答える。
「もった」
「携帯は?」
スーツのズボンから、飾りっ気のないスマホを取り出し苦笑いする。
「持ったわ」
「定期は?」
手に持っていた定期をひらひらさせてニンマリと笑う。
「かわいい女の子から貰った」
「うん、死にはしないわね」
呆れた顔をして靴べらを渡してくれる。
「どうだか。まぁ、行ってくる。鍵はかけたあと郵便受けから室内に投げといて」
「了解したわ。実験頑張って、体気をつけてね」
「はいはい」
「インスタントやレトルトばっか食べてちゃダメよ?」
「う、なぜわかった」
あらかじめゴミは始末しておいたはず。回収時間もメリーが来る前じゃ……。
「ふふ、連休初日にごみを処理したんでしょ?」
「な……」
「蓮子ちゃんたら、冷蔵庫賞味期限切れのものばっかりだったわよ」
かわいらしい顔でカラカラと笑う。
「名探偵めちくしょー!」
あんたは私の嫁か?それともかーちゃんですか……。
ひとしきり楽しんだのか、笑うのをやめ、名探偵は諭すように言ってくる。
「疲れて何も作りたくない気持ちもわかるけど、安いし体にいいから自炊したほうがいいわよ」
「はいはい、了解しましたよ先生」
「わかればよろしい蓮子くん」
「メリーも気をつけて。今度はパワースポットの山だから体力つけておくのよ?」
「くっ、仕返しとばかりに吹っかけてきたわね」
しばらく二人で笑い、別れを告げる。
「それじゃ、ほんとに行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ま、次の休みまでがんばりますか。
--------------------------------------------------
その夜。終電ギリギリに滑り込み、なんとか帰ってくることができた。
「くそったれめ。理論通りに評価結果が出るわけないじゃない……」
いつもより重たい扉を開け、
「ただいまー」
………………。
「メリー帰っちゃたんだな」
果実の実った枯れ木もまた山の賑わいなのだと痛感していると、
「ん? いい匂い。これはカレー?」
玄関入ってすぐにある、キッチンと言うには狭すぎる場所に目をやると、IHクッカーの上にオレンジの鍋が置かれていた。
「メリーのやつ、なんやかんや甘いなぁ」
フタを開けると、鍋の口ギリギリいっぱいのところまでカレーが入っていた。
「ヴェエエエッ!?」
「この鍋、2.5Lあったよね!? 流石に腐るまでに食べ切れる気がしないわ……」
「ま、後で考えるか。カバン重いし」
ドアを開けてリビングにカバンを下ろす。
「よっこらせ。……ん? 手紙?」
「メリーからか……」
『愛弟子蓮子くん
お仕事お疲れ様。とりあえず冷蔵庫の生き残りを使って作りました。
タッパーを買い足してあるので、2日分くらいを残してあとは冷凍してね。
甘口なのでお好みで調味料足してください。
追伸
あんまり冷凍すると、野菜がスカスカになって美味しくないから、早めに食べてね。
メリー大先生より』
「ふふっ。メリー大先生って……」
しばらく手紙を読み返し、
「……汗臭いしお風呂すませてからいただきますか」
据え膳いただく前に風呂入れってね。
---------------------------------------------------
普段じっくり浴槽に浸かるところを、シャワーで済ませいそいそと準備に入る。
ご飯はすでに炊飯ジャーいっぱいに炊かれており、冷蔵庫には冷えたカフェオレも用意されていた。
「完璧だ。何ヶ月ぶり?まともなご飯」
メリーと再開したゴールデンウィーク以降、『自炊しなきゃお金が貯まらないわ』だの『健康に気をつけないとお金があっても活動できないわ』だの言われていたこともあり、コンビニは控えていたが、
「なんせ6月からは一気に業務負荷あがったからなぁ……」
しみじみとしつつ、準備を終える。
「よっこいせ。いざ実食ね。いただきます!」
もぐもぐ――。
「ふぁぁぁ……っ! 豚肉の旨味が染み出してるぅ!」
人参はやわらかすぎず、噛むたびに甘みが滲みでて、ルーに溶け出した玉ねぎ、最初こそ抵抗するもののすんなりと口で砕けていくじゃがいも。
辛口だと消えがちな食材の風味も甘口では大暴れね!
「最っ高ぉぉぉ……」
そしてそして!しっかりとカレーを味わったら、これよね?
「カッフェオーレ!」
マイルドで500mL。キンキンに冷えた紙パックにストローを突き立て、
――――。
「……ぷはぁ!」
甘い! 甘いわ!
「雪の印よりも控えめで、しかし70円そこそこの安っぽい味なんかと比べ物にならないこの液体こそカレーの相棒ね!」
甘み甘みで仕事の疲れを消化する食事は最高だと知った私であった。
---------------------------------------------------
後日。
『れぇぇんこぉぉぉ!』
「もしもし? メリー? 久しぶり。どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ! あなたでしょ、10.8Lの寸胴鍋にカレー作ったの!』
「あぁ、貴重な有休使っちゃったけど、礼はいらないよ。この間のカレーほんとに美味しかっ
た!」
『何が礼はいらない……よ! どうするのよこれ!』
「1Lタッパーたくさん買っといたはずだけど……。あ、野菜がスカスカになる前に――――」
『冷蔵庫入らないわよ!ばかぁっ!』
どうやらカレーも多すぎると迷惑らしい。
大事なことを今日もまた一つ学んだ私であった。
そして、当然のように仕事が始まる。
「カバンが重いわ……」
靴を履こうとしていると後ろからバタバタ音がする。
蓮子が後ろを向くと、
「蓮子、忘れ物! 定期忘れてるわ!」
「ありがと、メリー」
「もう忘れ物はない?財布は?」
仕事カバンを指して私は答える。
「もった」
「携帯は?」
スーツのズボンから、飾りっ気のないスマホを取り出し苦笑いする。
「持ったわ」
「定期は?」
手に持っていた定期をひらひらさせてニンマリと笑う。
「かわいい女の子から貰った」
「うん、死にはしないわね」
呆れた顔をして靴べらを渡してくれる。
「どうだか。まぁ、行ってくる。鍵はかけたあと郵便受けから室内に投げといて」
「了解したわ。実験頑張って、体気をつけてね」
「はいはい」
「インスタントやレトルトばっか食べてちゃダメよ?」
「う、なぜわかった」
あらかじめゴミは始末しておいたはず。回収時間もメリーが来る前じゃ……。
「ふふ、連休初日にごみを処理したんでしょ?」
「な……」
「蓮子ちゃんたら、冷蔵庫賞味期限切れのものばっかりだったわよ」
かわいらしい顔でカラカラと笑う。
「名探偵めちくしょー!」
あんたは私の嫁か?それともかーちゃんですか……。
ひとしきり楽しんだのか、笑うのをやめ、名探偵は諭すように言ってくる。
「疲れて何も作りたくない気持ちもわかるけど、安いし体にいいから自炊したほうがいいわよ」
「はいはい、了解しましたよ先生」
「わかればよろしい蓮子くん」
「メリーも気をつけて。今度はパワースポットの山だから体力つけておくのよ?」
「くっ、仕返しとばかりに吹っかけてきたわね」
しばらく二人で笑い、別れを告げる。
「それじゃ、ほんとに行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ま、次の休みまでがんばりますか。
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その夜。終電ギリギリに滑り込み、なんとか帰ってくることができた。
「くそったれめ。理論通りに評価結果が出るわけないじゃない……」
いつもより重たい扉を開け、
「ただいまー」
………………。
「メリー帰っちゃたんだな」
果実の実った枯れ木もまた山の賑わいなのだと痛感していると、
「ん? いい匂い。これはカレー?」
玄関入ってすぐにある、キッチンと言うには狭すぎる場所に目をやると、IHクッカーの上にオレンジの鍋が置かれていた。
「メリーのやつ、なんやかんや甘いなぁ」
フタを開けると、鍋の口ギリギリいっぱいのところまでカレーが入っていた。
「ヴェエエエッ!?」
「この鍋、2.5Lあったよね!? 流石に腐るまでに食べ切れる気がしないわ……」
「ま、後で考えるか。カバン重いし」
ドアを開けてリビングにカバンを下ろす。
「よっこらせ。……ん? 手紙?」
「メリーからか……」
『愛弟子蓮子くん
お仕事お疲れ様。とりあえず冷蔵庫の生き残りを使って作りました。
タッパーを買い足してあるので、2日分くらいを残してあとは冷凍してね。
甘口なのでお好みで調味料足してください。
追伸
あんまり冷凍すると、野菜がスカスカになって美味しくないから、早めに食べてね。
メリー大先生より』
「ふふっ。メリー大先生って……」
しばらく手紙を読み返し、
「……汗臭いしお風呂すませてからいただきますか」
据え膳いただく前に風呂入れってね。
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普段じっくり浴槽に浸かるところを、シャワーで済ませいそいそと準備に入る。
ご飯はすでに炊飯ジャーいっぱいに炊かれており、冷蔵庫には冷えたカフェオレも用意されていた。
「完璧だ。何ヶ月ぶり?まともなご飯」
メリーと再開したゴールデンウィーク以降、『自炊しなきゃお金が貯まらないわ』だの『健康に気をつけないとお金があっても活動できないわ』だの言われていたこともあり、コンビニは控えていたが、
「なんせ6月からは一気に業務負荷あがったからなぁ……」
しみじみとしつつ、準備を終える。
「よっこいせ。いざ実食ね。いただきます!」
もぐもぐ――。
「ふぁぁぁ……っ! 豚肉の旨味が染み出してるぅ!」
人参はやわらかすぎず、噛むたびに甘みが滲みでて、ルーに溶け出した玉ねぎ、最初こそ抵抗するもののすんなりと口で砕けていくじゃがいも。
辛口だと消えがちな食材の風味も甘口では大暴れね!
「最っ高ぉぉぉ……」
そしてそして!しっかりとカレーを味わったら、これよね?
「カッフェオーレ!」
マイルドで500mL。キンキンに冷えた紙パックにストローを突き立て、
――――。
「……ぷはぁ!」
甘い! 甘いわ!
「雪の印よりも控えめで、しかし70円そこそこの安っぽい味なんかと比べ物にならないこの液体こそカレーの相棒ね!」
甘み甘みで仕事の疲れを消化する食事は最高だと知った私であった。
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後日。
『れぇぇんこぉぉぉ!』
「もしもし? メリー? 久しぶり。どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ! あなたでしょ、10.8Lの寸胴鍋にカレー作ったの!』
「あぁ、貴重な有休使っちゃったけど、礼はいらないよ。この間のカレーほんとに美味しかっ
た!」
『何が礼はいらない……よ! どうするのよこれ!』
「1Lタッパーたくさん買っといたはずだけど……。あ、野菜がスカスカになる前に――――」
『冷蔵庫入らないわよ!ばかぁっ!』
どうやらカレーも多すぎると迷惑らしい。
大事なことを今日もまた一つ学んだ私であった。
蓮子が出かけるシーンの夫婦っぷりがよかったです
楽しい連メリでした