「わー、すごい雪だね、お姉様」
「そうね、クリスマスらしさは微塵も感じられないけど」
「お嬢様、妹様。お茶が入りましたよ」
「あら、ごくろうさま」
「あったかーい」
今年も年に一度のクリスマスが幻想郷に訪れました。
それだと言うのに、外はお昼頃からの猛吹雪で、お嬢様の仰る通りクリスマスらしさ
なんて感じられません。
まぁ、この紅魔館でクリスマスなんて言葉はそもそも似つかわしくありませんけれど
も、それは御愛嬌ということで一つよろしくお願いします。
「確かに、すごい吹雪ね」
「あらパチェ、出てきたの?」
「風の音がうるさくて読書に集中できないから息抜きにね。咲夜、私にもお茶を貰える
かしら…、と思ったら。流石に仕事が早いわね」
「瀟洒ですから」
私の能力をもってすれば求められたことに即対応できます。既にパチュリー様の紅茶
は用意しておりました。
これくらいは瀟洒で完璧なメイドとして当然です。他の誰にも出来ないことですよ、えっへん。
それにしても紅魔館のリビングに皆が勢揃いするなんて珍しいです。
「みんなでお茶なんて久しぶりだわ。そうは思わない、レミィ?」
「そうねぇ…。フランも今日は大人しくしてるし」
「むー、私はいつだって大人しいもん」
みんなでほのぼのとした空気を楽しんでいるようです。とても居心地がいいですね。
みなさん口に手を当てて上品に笑っています。
外の壮絶な天気とは裏腹に、紅魔館は今日も温かです。
ですが何か違和感があります。みんな、と言うには誰かがいないような、そんな気持ち
が沸々と込み上げてきました。皆さんはまったく気になっていないようですが、一応聞い
てみることにしましょう。
「あの…、差し出がましいとは思いますが、誰か足りなくないですか?」
「小悪魔なら本の整理をしているわ」
「あぁ、あの子がいなかったのね。私も少し気になってたのよ」
「お茶おいしー」
「確かにそれもそうなんですけど、誰か他に忘れてるような…」
「ここにみんな揃ってるじゃない。まだ誰がいると言うのよ」
「ほかほかー」
「何と言いますか…、いつもより紅さが足りないような気がするんですよ」
「私たち姉妹がいるのに、言うに事欠いて『紅さ』ですって?」
「ぬくぬくー」
「無礼は承知です。ですが、足りないんです」
「むぅ、そこまで言われると私もなんかそんな気がしてきたわ」
「ねぇねぇお姉様ー」
「なに、フラン? 今少しだけ真面目な話をしているの。後にして」
「めーりんどこー?」
「「それだッ!」」
そんなわけで、どうして見当たらないのか気になったお嬢様の命令で、私は今美鈴を
探している真っ最中です。お屋敷の中を探し回っても彼女の姿は全く見当たりません。
まったくどこにいるのやら。
まさかとは思うけど…、
「…外、なんてことないわよね。まさかね…」
とは言ったものの、その可能性が無いと言い切れない自分もいます。美鈴は妙なところ
で仕事熱心な部分があるので、なんだか不安になってきました。
この猛吹雪の中で外にいることは自殺に等しい行為です。いくら妖怪とはいえ、この天
候ではさすがに耐えられないでしょう。
それでもとりあえず門の入口あたりまで見に行くことにしました。パチュリー様のおか
げで敷地内は穏やかな天候ですが、門の一歩外はもはや別世界と言っても過言ではないほ
ど凄まじく吹雪いています。そして美鈴は門の外での勤務です。
わずかな期待を抱いて門の内側を見ても、やはり美鈴はいません。埒が明かないので思
い切って門を開くと、目を開けるのすら困難なほどの豪雪が私を襲います。
ぶっちゃけすごく寒いです。
「うわっ、なにこれ! ありえなくない!?」
思わず言葉遣いが乱れるほど凄い吹雪です。さっさと探してお屋敷に引っこみたい気持ち
でいっぱいです。
そんな思いで辺りを見渡してみると、門の傍には粗末な雪だるまがあるだけ。他に目に
入るものと言えば一面の銀世界でした。
「こんな物作って…。遊ぶ気満々じゃないのよ、まったく…」
やはり美鈴はいないみたいです。きっとお屋敷なり敷地内に避難していることでしょう。
心配して損しました。
「さっさと戻りましょう。あ~…、寒い」
「―――――……て…」
「…声? でも誰もいないし、空耳かしら?」
「―――――…けて……い…」
どうも空耳ではないようです。ですが周囲に人影は一切見当たりません。それでも声は
するという不思議。まさかこれが紅魔館七不思議の一つ…?
それは置いときまして、声はどうやら美鈴の遊び心から聞えます。試しに少しだけ崩し
てみると、赤い糸の様なものが姿を現しました。
え、マジで?
「ちょ、まさか美鈴ッ!?」
「………す…けてー……」
「あなた何してんの!? 大丈夫、ってそんなこと聞いてる場合じゃないわね。今出して
あげるわ!」
雪だるまを崩すとあらビックリ。玉のような美鈴が産まれましたとさ。
ともあれ美鈴の救出に成功はしたものの、彼女の体は冷え切っていて息も絶え絶えでし
た。とりあえず安全地帯に移動させて、彼女の体についた雪を丁寧に払ってやりますが、
勿論それだけでは失われた体温は取り戻せません。
急いでお屋敷の中に連れて行き、暖炉で温まった部屋に叩き込み、ありったけの毛布で
包みました。雪だるまから毛布だるまに進化、ですね。
とりあえずの応急処置を済ませた私は、お嬢様方に報告をしに行くことにしました。そ
して、報告が終わるとお嬢様は大きなため息を吐きました。
「雪だるまになってたって…。門の内側に引っこむという発想はなかったのかしら…」
「なかったからこその雪だるまでしょう、レミィ?」
「雪だるまー。私もつくりたいなー」
「それはそうなんだけどね。あの子ももうちょっと賢く生きてもいいんじゃないかって思っ
てね…。呆れるわ…」
「ねぇ咲夜ぁ、めーりん大丈夫なの?」
「とりあえず温かい格好をさせて寝かせてあります」
とは言ったものの、正直なところあれだけでは不十分な気がします。
美鈴の顔は真っ青で、いつもは艶やかなその唇まで紫色に染まっていました。おそらく、
今この時も部屋で震えているのでしょう。
なんだかますます心配になってきました。
「咲夜、ソワソワしてどうしたの?」
「へ? い、いえ、何でもありません、お嬢様」
「何でもありませんって態度じゃないわよ。いつもの瀟洒な態度はどうしたというの?」
「ですから何でもありませんよ。お気になさらず」
「………美鈴」
今まで静かにお茶を飲んでいたパチュリー様が、突然口を開きました。不意に飛び出した
その単語に、思わず体が反応してしまいます。
有り体に言って、ビクッとなりました。脊髄反射ですね。
「美鈴? 美鈴がどうしたの、パチェ?」
「いいえ、特に何もないわ。美鈴にはね…」
パチュリー様は美鈴の部分を特に強調させて言葉を発しました。それだけではなく、お嬢
様の美鈴連発にも体が反応してしまいました。
パチュリー様は静かに私を見やると、やがて眼を細めました。どう見ても私の反応を楽し
んでやがります。性悪魔女ですよ、本当に。
「どういう意味よ、要領を得ないわね」
「そうねぇ…、なら試しに美鈴って十回言ってごらんなさい。面白いから」
「それで私が言い終わったら肘を指差して『ここはどこでしょう?』って言うつもりでしょう?
さすがに引っかからないわよ」
「そんなことで引っかかったら紅魔館はおしまいね。いいから言ってみなさい。咲夜に向かって
言うならモアベター」
「わかったわよ。やればいいんでしょ」
「私もやるー」
「ええ、どうぞ」
そうして始まる姉妹による二重奏。そして反応する私の体。
途中からお嬢様の目つきがだんだん怪しげに歪んできて、ニヤニヤといやらしい顔をし始め
ていました。
妹様はただひたすら無邪気に美鈴を連呼しています。私の様子を不思議そうに眺めているだ
けで、私が何をしているのか分かっていらっしゃらないのでしょう。
そしてフィニッシュと同時に私の体は吹き飛びます。どこぞのストリートなファイターたち
も真っ青のやられっぷりでした。しかし、これしきで膝などついていては拳王…、いえメイド
は務まりません。持ちこたえます。
「む、しぶといわね。天に帰る時がきたんじゃないの?」
「なんの、まだまだですよ。お嬢様はまだ哀しみを背負っておられません」
「脱線し過ぎよ。それでレミィ、面白かったでしょう?」
「ええ、とってもね」
「あんまり面白くなかったー」
「そりゃあ、美鈴って言ってるだけじゃねぇ」
お二人は非常にいい笑顔をしていらっしゃいます。普段であれば見惚れてしまうほど綺麗な
笑顔なのですが、状況が状況だけにとても見惚れるなんて出来ません。
「そんな訳で、咲夜」
「はい、何でございましょうか、お嬢様」
「もう休んでいいわよ。下がりなさい」
「は? いえしかし――」
「これ以上主の前でそんな醜態を晒すというのかしら? 見苦しいだけだわ」
醜態って…、いや確かにそうだったかも知れませんが原因はお嬢様だと声を大にして言いたい
ところですが言えない立場なんです、これが。
それでも、下がれと言われるほど情けない姿は見せていないはずです。これくらいのことは
日常茶飯事、とまではいかないものの結構やってますし。
お嬢様の真意を測りかねていると、パチュリー様が助け船を出してくれました。何でしょう?
「レミィは美鈴の看病してきなさい、って言ってるのよ」
「…そうなんですか、お嬢様?」
「か、勘違いしないでよねッ! 別にそんな意味で言ったんじゃないんだか
らッ! 今の咲夜が本当に目障りだったんだからね!」
「お姉様ツンデレー」
お手本のような台詞ですね。思わず感動してしまいました。
ところで妹様、どこでそんな知識を手に入れたんですか…、いえ、犯人は一人ですね。どうせ
あの黒白の仕業でしょう。
「…それはいいとして、いいから下がりなさい。これは命令よ」
「はぁ…、ですが本当によろしいのですか?」
「私がいいと言っているの。これ以上の理由が必要かしら?」
お嬢様の顔がほんのり赤く染まっているのが見受けられました。どうやら照れていらっしゃる
ようです。
これ以上主に恥を掻かせるのはメイドとして失格ですね。ここは大人しくお嬢様のご厚意に
甘えるとしましょう。
「それでは今日はこれで休ませていただきます。無様な姿をお見せしてしまいましたことを
深くお詫びいたします」
「構わないわ。明日にはいつもの完璧で瀟洒なメイドに戻っていることを期待するわね」
「はい、必ずや」
「ああ、咲夜」
「何でしょうか、パチュリー様」
退室しようとした私を引き止めるパチュリー様。どうしたのでしょうか。
「人肌って…、いいらしいわね」
「ふぇッ!?」
この人はいきなり何をとんでもない爆弾発言かましてくれるのでしょうか!
この状況で人肌って…、それしかないじゃないですか! この魔女め!
「人肌の何がいいのー?」
「妹様は知らなくてもいいことです」
「ぶー、つまんない」
「それなら今度魔理沙に迫ってみるといいですよ。『魔理沙の肌で…、温めて?』とか言い
ながら。上目遣いをお忘れなく」
「わかった、やってみるね」
「咲夜、いつまでそんなところで呆けてるの。さっさと行きなさい」
「は…はい、それではお嬢様、お休みなさいませ」
「………人肌」
お嬢様まで! 私を弄ってそんなに楽しいのですか!?
…聞くまでもなかったですね。私が動揺している時のあの楽しそうな顔…。思い出すだけで
小憎らしいです。主が相手とはいえこれだけは言わせていただきます。いえ、声には出しませ
んけど。
そんなこんなで今は美鈴が寝ているであろう部屋の前にいます。
パチュリー様とお嬢様が余計な事を言ってくれやがったおかげで妙に意識してしまってい
ます。簡単に言うと、ガチガチに緊張しているのです。
「相手は美鈴よ…。何を緊張することがあるの。しっかりしなさい、私」
自己暗示はバッチリです。加えて大きく深呼吸すれば、いつものパーフェクト咲夜の出来上がり。
後は人という字を呑み込むだけですね。人、人、人…っと。よし、戦闘準備完了。いざ出陣!
「…ダメだ。緊張しててよくわかんない行動してるわ…」
とにもかくにも、まずは扉を開けないことには話が進みません。
そんなわけで意を決して一歩を踏み出すことにしました。どこかの凄い人も言ってましたよ。
『危ぶむなかれ。行けば分かるさ』って。
「ありがとうございます…、師匠。私、頑張ります!」
心の師匠ですけどね。
思い切って扉を開くと、暖炉の程良い熱気が私を包んでくれます。これなら美鈴もある程度
暖まったことでしょう。
彼女を起こさないように静かに近寄り顔色を窺ってみると、若干いつもの血色を取り戻した
ようですが、それでもまだ寒そうにしています。体を丸めて歯を鳴らしていて、とても苦しそう
な表情です。
「これだけ温かくしても駄目なの…?」
どれ程の時間を雪だるまでいたのか。少なくとも人間ならばとっくにお陀仏だったのでしょう。
こんなになるまで門番を続けていたなんて…、
「本末転倒じゃないのかしら?」
でもまあ、確かに哀れという気持ちもあります。それと、彼女の職務に対する生真面目な姿勢
にも心打たれたのも事実です。でなければ、この私がこれ程までに美鈴の事を気にかける訳があり
ません。ええ、絶対に!
…それにしても本当に寒そうです。どうしたら…。
『人肌って…、いいらしいわね』
脳内パチュリー様は少し黙ってて下さい。お願いですから。
しかし、私にはこれ以上手立てがないのも事実です。となると…、やはり、その…、文字通り
一肌脱ぐしかないのでしょうか…?
「…これは別にあなたの為にやるんじゃないんだからね。あなたが早く元気になって門番やって
くれないと、私たちが困るから…、それだけなんだから。勘違いしないでよね」
…見苦しい言い訳にしか聞こえませんね。
動悸が速くなり、飛びだしてしまいそうなほど暴れる胸を押さえながら自分の衣服に手をかけ
ます。静かで仄暗い部屋の中に、衣擦れの音がやけに大きく響き、美鈴が起きてしまうのではな
いか、などと意味のない心配をしてしまいました。ですが、美鈴が起きる筈もありません。当然
のことです。
今の私はそれくらい緊張しているのです。
ややあって、衣服を脱ぎ終わった私は次に美鈴の服に手を描けました。あ、ちゃんと下着はつ
けてますので悪しからず。とりあえず上着を脱がそうとして服をはだけさせると、それ以上の布地
は見当たらず、肌色だけが目につきました。これには心底ビックリです。とりあえず服を戻しました。
「…なんでアンダーウェアを着ていないの…?」
しかし、いくら言葉を濁したところで下着は下着なのでした。そして、彼女がそれを普段から
身につけていないというのも事実なのでした。どうしよう?
そんなことを言っていても現状は変わりません。やるしかないのですね…。
「これは美鈴じゃなくて丸太か何か別のものであって私は決してやましい思いでこんな事をしている
のでもなくて…」
とまあこんな感じの事をブツブツと呟きながら美鈴の脱衣完了です。今は改めて毛布に包めて
あります。さすがに直視ができませんので。
ここまでくれば後は私が彼女に添い寝するだけなのですが、そんな簡単にできることでもあり
ません。その…、気持ち的にやっぱり恥ずかしいですし…。
「…うぅっ……」
「美鈴…、寒いの?」
それはそうでしょう。ただでさえ震えていたのに、服まで脱がせたのですから寒くないはずが
ありません。
…覚悟しました。恥ずかしがっている場合ではないのですね。これも人助けです。それに美鈴
には早く元気になってもらわないといけません。最悪の場合命にもかかわる状況ですので、これ
で美鈴が助かるならば安いものです。
「それじゃあ美鈴…、入るわよ…?」
当然の事ですが返事はありませんでした。なので勝手にお邪魔します。
冷えた美鈴の体が直に肌に触れて少し驚いてしまいましたが、これで彼女の苦しみが和らぐならば
と思い、精一杯我慢することにしました。
それでも寒そうな美鈴を見て、私は思い切り体を寄せて彼女に抱きつきました。すると少しだけ
彼女の表情が和らぎ、寝息も少しずつ落ち着き始めたのです。それを見て、私も少しだけ安心しました。
安心して所為か、私も眠くなってきてしまいました。
ゆっくりと鼓動する美鈴の心音を子守唄に、私は深い眠りに落ちて…――
◆
「えええぇぇぇーーーーッ!?」
――…美鈴の大声に叩き起こされました。正直五月蝿い。
体を起こして周りを見ると、窓から朝日が差し込んでいますどうやら夜が明けたみたいです。
外の吹雪も止んだ様ですね。よかったです。
他に見受けられるのは、大口開けて呆けている美鈴くらいです。
ところで美鈴、どうして私と同じベッドにいるの?
それにどうしてはだ…か……?
「き……きゃあああぁぁーーーッ!!」
完全に覚醒しました。そして、昨夜に何があったのかも完全に思い出しました。さらに思わず
大声をあげてしまいました。改めて思い返すと、なんと大胆なことをしたものかと、穴があったら
入りたいくらい恥ずかしいです…。
美鈴の顔は真っ赤です。そして、私の顔もそれに負けないくらい赤いことでしょう。
「さささ咲夜さんッ!? どうして!?」
どうしても何も、あなたが原因なのよ…と、いつもの私なら簡単に返せたのでしょうけれど、
今の私にそんな芸当が出来そうにありません。
口をもごもごさせて、しどろもどろな返答だけが私にできる唯一の行動でした。
「それは…その…、あなたが昨日外で倒れて…、それで心配になったから……、私があなたと…
えっと…、添い寝をして…」
私の必死の返答にも、美鈴は呆けたままでした。いえ、むしろ今の方がより呆けているような
気がします。
その沈黙がとても痛いです。何でもいいから何か喋って欲しいところですね。
「じゃ…じゃあ、咲夜さんが助けてくれたんですか…?」
「他に誰がいるのよ…? それとも、私に助けて欲しくはなかった?」
「そんな意味で言ったんじゃありませんって! ただ、ここまでしてくれて少し意外だったなー、
なんて…」
意外とは割と失礼な言葉ではないでしょうか。仮にも命の恩人に向かって吐いていい台詞とは
思えませんね。
私がジトっとした目つきで美鈴を睨むと、彼女は面白いくらいに慌て始めました。どうやら私の
考えていることが理解できたようです。
「いえいえ! 咲夜さんが冷たい人だなんてこれっぽっちも思ってないです! 私の様な一門番
の為にそんなことをして下さったというのが意外だっただけで…、その…」
「わかった、わかってるから落ち着きなさい」
「は、はい」
少し苛め過ぎたみたいですね。それにしても美鈴は本当に面白いくらい感情の起伏が激しいです。
からかい甲斐があると言うか何と言うか…。
「見つけたのは私だから、最後まで面倒みてあげようと思っただけよ。他意はないんだからね。
そこら辺勘違いしないように」
「あ…、はい…」
今度は目に見えてしょんぼりしてしまいました。
なんででしょうか、それを見ると私の胸の奥の方がチクリと痛みます…。
「…まあ、クリスマスだしね。この気遣いがプレゼントだと思っときなさい」
「ありがとう…ございます…」
…これでもまだフォローが足りなかったのでしょうか、美鈴は沈んだ顔のままです。これはいけ
ない、早く次の言葉を考えないと…!
ところで、なんで私がここまで焦らないといけないのでしょうか…。
「何を落ち込んでいるのか知らないけど…、好きでもない相手にこんなことは絶対にしないんだか
らね。ちゃんと分かってるの?」
「え…? 咲夜さん…、それ本当ですか…?」
「こんな時に嘘なんかつかないわ」
そう言うと美鈴は、今度は目に見えて明るい顔になりました。…それにしても私は今、結構な
問題発言をしたのではないでしょうか…?
しかし、前言をいまさら撤回するのもどうかと思いますし、それに美鈴の笑顔を見ていると、
そんなことは何だかどうでもよくなってきました。
とにかく今は、彼女が元気になってくれて良かったと素直に思います。
「それじゃあ美鈴、行くわよ」
「え、どこにですか?」
「朝食よ。温かいスープでも飲みましょう」
「……はいっ!」
冷たく澄んだ空気が満ちた朝の紅魔館に、美鈴の元気一杯の声が響きました。
-了-
「そうね、クリスマスらしさは微塵も感じられないけど」
「お嬢様、妹様。お茶が入りましたよ」
「あら、ごくろうさま」
「あったかーい」
今年も年に一度のクリスマスが幻想郷に訪れました。
それだと言うのに、外はお昼頃からの猛吹雪で、お嬢様の仰る通りクリスマスらしさ
なんて感じられません。
まぁ、この紅魔館でクリスマスなんて言葉はそもそも似つかわしくありませんけれど
も、それは御愛嬌ということで一つよろしくお願いします。
「確かに、すごい吹雪ね」
「あらパチェ、出てきたの?」
「風の音がうるさくて読書に集中できないから息抜きにね。咲夜、私にもお茶を貰える
かしら…、と思ったら。流石に仕事が早いわね」
「瀟洒ですから」
私の能力をもってすれば求められたことに即対応できます。既にパチュリー様の紅茶
は用意しておりました。
これくらいは瀟洒で完璧なメイドとして当然です。他の誰にも出来ないことですよ、えっへん。
それにしても紅魔館のリビングに皆が勢揃いするなんて珍しいです。
「みんなでお茶なんて久しぶりだわ。そうは思わない、レミィ?」
「そうねぇ…。フランも今日は大人しくしてるし」
「むー、私はいつだって大人しいもん」
みんなでほのぼのとした空気を楽しんでいるようです。とても居心地がいいですね。
みなさん口に手を当てて上品に笑っています。
外の壮絶な天気とは裏腹に、紅魔館は今日も温かです。
ですが何か違和感があります。みんな、と言うには誰かがいないような、そんな気持ち
が沸々と込み上げてきました。皆さんはまったく気になっていないようですが、一応聞い
てみることにしましょう。
「あの…、差し出がましいとは思いますが、誰か足りなくないですか?」
「小悪魔なら本の整理をしているわ」
「あぁ、あの子がいなかったのね。私も少し気になってたのよ」
「お茶おいしー」
「確かにそれもそうなんですけど、誰か他に忘れてるような…」
「ここにみんな揃ってるじゃない。まだ誰がいると言うのよ」
「ほかほかー」
「何と言いますか…、いつもより紅さが足りないような気がするんですよ」
「私たち姉妹がいるのに、言うに事欠いて『紅さ』ですって?」
「ぬくぬくー」
「無礼は承知です。ですが、足りないんです」
「むぅ、そこまで言われると私もなんかそんな気がしてきたわ」
「ねぇねぇお姉様ー」
「なに、フラン? 今少しだけ真面目な話をしているの。後にして」
「めーりんどこー?」
「「それだッ!」」
そんなわけで、どうして見当たらないのか気になったお嬢様の命令で、私は今美鈴を
探している真っ最中です。お屋敷の中を探し回っても彼女の姿は全く見当たりません。
まったくどこにいるのやら。
まさかとは思うけど…、
「…外、なんてことないわよね。まさかね…」
とは言ったものの、その可能性が無いと言い切れない自分もいます。美鈴は妙なところ
で仕事熱心な部分があるので、なんだか不安になってきました。
この猛吹雪の中で外にいることは自殺に等しい行為です。いくら妖怪とはいえ、この天
候ではさすがに耐えられないでしょう。
それでもとりあえず門の入口あたりまで見に行くことにしました。パチュリー様のおか
げで敷地内は穏やかな天候ですが、門の一歩外はもはや別世界と言っても過言ではないほ
ど凄まじく吹雪いています。そして美鈴は門の外での勤務です。
わずかな期待を抱いて門の内側を見ても、やはり美鈴はいません。埒が明かないので思
い切って門を開くと、目を開けるのすら困難なほどの豪雪が私を襲います。
ぶっちゃけすごく寒いです。
「うわっ、なにこれ! ありえなくない!?」
思わず言葉遣いが乱れるほど凄い吹雪です。さっさと探してお屋敷に引っこみたい気持ち
でいっぱいです。
そんな思いで辺りを見渡してみると、門の傍には粗末な雪だるまがあるだけ。他に目に
入るものと言えば一面の銀世界でした。
「こんな物作って…。遊ぶ気満々じゃないのよ、まったく…」
やはり美鈴はいないみたいです。きっとお屋敷なり敷地内に避難していることでしょう。
心配して損しました。
「さっさと戻りましょう。あ~…、寒い」
「―――――……て…」
「…声? でも誰もいないし、空耳かしら?」
「―――――…けて……い…」
どうも空耳ではないようです。ですが周囲に人影は一切見当たりません。それでも声は
するという不思議。まさかこれが紅魔館七不思議の一つ…?
それは置いときまして、声はどうやら美鈴の遊び心から聞えます。試しに少しだけ崩し
てみると、赤い糸の様なものが姿を現しました。
え、マジで?
「ちょ、まさか美鈴ッ!?」
「………す…けてー……」
「あなた何してんの!? 大丈夫、ってそんなこと聞いてる場合じゃないわね。今出して
あげるわ!」
雪だるまを崩すとあらビックリ。玉のような美鈴が産まれましたとさ。
ともあれ美鈴の救出に成功はしたものの、彼女の体は冷え切っていて息も絶え絶えでし
た。とりあえず安全地帯に移動させて、彼女の体についた雪を丁寧に払ってやりますが、
勿論それだけでは失われた体温は取り戻せません。
急いでお屋敷の中に連れて行き、暖炉で温まった部屋に叩き込み、ありったけの毛布で
包みました。雪だるまから毛布だるまに進化、ですね。
とりあえずの応急処置を済ませた私は、お嬢様方に報告をしに行くことにしました。そ
して、報告が終わるとお嬢様は大きなため息を吐きました。
「雪だるまになってたって…。門の内側に引っこむという発想はなかったのかしら…」
「なかったからこその雪だるまでしょう、レミィ?」
「雪だるまー。私もつくりたいなー」
「それはそうなんだけどね。あの子ももうちょっと賢く生きてもいいんじゃないかって思っ
てね…。呆れるわ…」
「ねぇ咲夜ぁ、めーりん大丈夫なの?」
「とりあえず温かい格好をさせて寝かせてあります」
とは言ったものの、正直なところあれだけでは不十分な気がします。
美鈴の顔は真っ青で、いつもは艶やかなその唇まで紫色に染まっていました。おそらく、
今この時も部屋で震えているのでしょう。
なんだかますます心配になってきました。
「咲夜、ソワソワしてどうしたの?」
「へ? い、いえ、何でもありません、お嬢様」
「何でもありませんって態度じゃないわよ。いつもの瀟洒な態度はどうしたというの?」
「ですから何でもありませんよ。お気になさらず」
「………美鈴」
今まで静かにお茶を飲んでいたパチュリー様が、突然口を開きました。不意に飛び出した
その単語に、思わず体が反応してしまいます。
有り体に言って、ビクッとなりました。脊髄反射ですね。
「美鈴? 美鈴がどうしたの、パチェ?」
「いいえ、特に何もないわ。美鈴にはね…」
パチュリー様は美鈴の部分を特に強調させて言葉を発しました。それだけではなく、お嬢
様の美鈴連発にも体が反応してしまいました。
パチュリー様は静かに私を見やると、やがて眼を細めました。どう見ても私の反応を楽し
んでやがります。性悪魔女ですよ、本当に。
「どういう意味よ、要領を得ないわね」
「そうねぇ…、なら試しに美鈴って十回言ってごらんなさい。面白いから」
「それで私が言い終わったら肘を指差して『ここはどこでしょう?』って言うつもりでしょう?
さすがに引っかからないわよ」
「そんなことで引っかかったら紅魔館はおしまいね。いいから言ってみなさい。咲夜に向かって
言うならモアベター」
「わかったわよ。やればいいんでしょ」
「私もやるー」
「ええ、どうぞ」
そうして始まる姉妹による二重奏。そして反応する私の体。
途中からお嬢様の目つきがだんだん怪しげに歪んできて、ニヤニヤといやらしい顔をし始め
ていました。
妹様はただひたすら無邪気に美鈴を連呼しています。私の様子を不思議そうに眺めているだ
けで、私が何をしているのか分かっていらっしゃらないのでしょう。
そしてフィニッシュと同時に私の体は吹き飛びます。どこぞのストリートなファイターたち
も真っ青のやられっぷりでした。しかし、これしきで膝などついていては拳王…、いえメイド
は務まりません。持ちこたえます。
「む、しぶといわね。天に帰る時がきたんじゃないの?」
「なんの、まだまだですよ。お嬢様はまだ哀しみを背負っておられません」
「脱線し過ぎよ。それでレミィ、面白かったでしょう?」
「ええ、とってもね」
「あんまり面白くなかったー」
「そりゃあ、美鈴って言ってるだけじゃねぇ」
お二人は非常にいい笑顔をしていらっしゃいます。普段であれば見惚れてしまうほど綺麗な
笑顔なのですが、状況が状況だけにとても見惚れるなんて出来ません。
「そんな訳で、咲夜」
「はい、何でございましょうか、お嬢様」
「もう休んでいいわよ。下がりなさい」
「は? いえしかし――」
「これ以上主の前でそんな醜態を晒すというのかしら? 見苦しいだけだわ」
醜態って…、いや確かにそうだったかも知れませんが原因はお嬢様だと声を大にして言いたい
ところですが言えない立場なんです、これが。
それでも、下がれと言われるほど情けない姿は見せていないはずです。これくらいのことは
日常茶飯事、とまではいかないものの結構やってますし。
お嬢様の真意を測りかねていると、パチュリー様が助け船を出してくれました。何でしょう?
「レミィは美鈴の看病してきなさい、って言ってるのよ」
「…そうなんですか、お嬢様?」
「か、勘違いしないでよねッ! 別にそんな意味で言ったんじゃないんだか
らッ! 今の咲夜が本当に目障りだったんだからね!」
「お姉様ツンデレー」
お手本のような台詞ですね。思わず感動してしまいました。
ところで妹様、どこでそんな知識を手に入れたんですか…、いえ、犯人は一人ですね。どうせ
あの黒白の仕業でしょう。
「…それはいいとして、いいから下がりなさい。これは命令よ」
「はぁ…、ですが本当によろしいのですか?」
「私がいいと言っているの。これ以上の理由が必要かしら?」
お嬢様の顔がほんのり赤く染まっているのが見受けられました。どうやら照れていらっしゃる
ようです。
これ以上主に恥を掻かせるのはメイドとして失格ですね。ここは大人しくお嬢様のご厚意に
甘えるとしましょう。
「それでは今日はこれで休ませていただきます。無様な姿をお見せしてしまいましたことを
深くお詫びいたします」
「構わないわ。明日にはいつもの完璧で瀟洒なメイドに戻っていることを期待するわね」
「はい、必ずや」
「ああ、咲夜」
「何でしょうか、パチュリー様」
退室しようとした私を引き止めるパチュリー様。どうしたのでしょうか。
「人肌って…、いいらしいわね」
「ふぇッ!?」
この人はいきなり何をとんでもない爆弾発言かましてくれるのでしょうか!
この状況で人肌って…、それしかないじゃないですか! この魔女め!
「人肌の何がいいのー?」
「妹様は知らなくてもいいことです」
「ぶー、つまんない」
「それなら今度魔理沙に迫ってみるといいですよ。『魔理沙の肌で…、温めて?』とか言い
ながら。上目遣いをお忘れなく」
「わかった、やってみるね」
「咲夜、いつまでそんなところで呆けてるの。さっさと行きなさい」
「は…はい、それではお嬢様、お休みなさいませ」
「………人肌」
お嬢様まで! 私を弄ってそんなに楽しいのですか!?
…聞くまでもなかったですね。私が動揺している時のあの楽しそうな顔…。思い出すだけで
小憎らしいです。主が相手とはいえこれだけは言わせていただきます。いえ、声には出しませ
んけど。
そんなこんなで今は美鈴が寝ているであろう部屋の前にいます。
パチュリー様とお嬢様が余計な事を言ってくれやがったおかげで妙に意識してしまってい
ます。簡単に言うと、ガチガチに緊張しているのです。
「相手は美鈴よ…。何を緊張することがあるの。しっかりしなさい、私」
自己暗示はバッチリです。加えて大きく深呼吸すれば、いつものパーフェクト咲夜の出来上がり。
後は人という字を呑み込むだけですね。人、人、人…っと。よし、戦闘準備完了。いざ出陣!
「…ダメだ。緊張しててよくわかんない行動してるわ…」
とにもかくにも、まずは扉を開けないことには話が進みません。
そんなわけで意を決して一歩を踏み出すことにしました。どこかの凄い人も言ってましたよ。
『危ぶむなかれ。行けば分かるさ』って。
「ありがとうございます…、師匠。私、頑張ります!」
心の師匠ですけどね。
思い切って扉を開くと、暖炉の程良い熱気が私を包んでくれます。これなら美鈴もある程度
暖まったことでしょう。
彼女を起こさないように静かに近寄り顔色を窺ってみると、若干いつもの血色を取り戻した
ようですが、それでもまだ寒そうにしています。体を丸めて歯を鳴らしていて、とても苦しそう
な表情です。
「これだけ温かくしても駄目なの…?」
どれ程の時間を雪だるまでいたのか。少なくとも人間ならばとっくにお陀仏だったのでしょう。
こんなになるまで門番を続けていたなんて…、
「本末転倒じゃないのかしら?」
でもまあ、確かに哀れという気持ちもあります。それと、彼女の職務に対する生真面目な姿勢
にも心打たれたのも事実です。でなければ、この私がこれ程までに美鈴の事を気にかける訳があり
ません。ええ、絶対に!
…それにしても本当に寒そうです。どうしたら…。
『人肌って…、いいらしいわね』
脳内パチュリー様は少し黙ってて下さい。お願いですから。
しかし、私にはこれ以上手立てがないのも事実です。となると…、やはり、その…、文字通り
一肌脱ぐしかないのでしょうか…?
「…これは別にあなたの為にやるんじゃないんだからね。あなたが早く元気になって門番やって
くれないと、私たちが困るから…、それだけなんだから。勘違いしないでよね」
…見苦しい言い訳にしか聞こえませんね。
動悸が速くなり、飛びだしてしまいそうなほど暴れる胸を押さえながら自分の衣服に手をかけ
ます。静かで仄暗い部屋の中に、衣擦れの音がやけに大きく響き、美鈴が起きてしまうのではな
いか、などと意味のない心配をしてしまいました。ですが、美鈴が起きる筈もありません。当然
のことです。
今の私はそれくらい緊張しているのです。
ややあって、衣服を脱ぎ終わった私は次に美鈴の服に手を描けました。あ、ちゃんと下着はつ
けてますので悪しからず。とりあえず上着を脱がそうとして服をはだけさせると、それ以上の布地
は見当たらず、肌色だけが目につきました。これには心底ビックリです。とりあえず服を戻しました。
「…なんでアンダーウェアを着ていないの…?」
しかし、いくら言葉を濁したところで下着は下着なのでした。そして、彼女がそれを普段から
身につけていないというのも事実なのでした。どうしよう?
そんなことを言っていても現状は変わりません。やるしかないのですね…。
「これは美鈴じゃなくて丸太か何か別のものであって私は決してやましい思いでこんな事をしている
のでもなくて…」
とまあこんな感じの事をブツブツと呟きながら美鈴の脱衣完了です。今は改めて毛布に包めて
あります。さすがに直視ができませんので。
ここまでくれば後は私が彼女に添い寝するだけなのですが、そんな簡単にできることでもあり
ません。その…、気持ち的にやっぱり恥ずかしいですし…。
「…うぅっ……」
「美鈴…、寒いの?」
それはそうでしょう。ただでさえ震えていたのに、服まで脱がせたのですから寒くないはずが
ありません。
…覚悟しました。恥ずかしがっている場合ではないのですね。これも人助けです。それに美鈴
には早く元気になってもらわないといけません。最悪の場合命にもかかわる状況ですので、これ
で美鈴が助かるならば安いものです。
「それじゃあ美鈴…、入るわよ…?」
当然の事ですが返事はありませんでした。なので勝手にお邪魔します。
冷えた美鈴の体が直に肌に触れて少し驚いてしまいましたが、これで彼女の苦しみが和らぐならば
と思い、精一杯我慢することにしました。
それでも寒そうな美鈴を見て、私は思い切り体を寄せて彼女に抱きつきました。すると少しだけ
彼女の表情が和らぎ、寝息も少しずつ落ち着き始めたのです。それを見て、私も少しだけ安心しました。
安心して所為か、私も眠くなってきてしまいました。
ゆっくりと鼓動する美鈴の心音を子守唄に、私は深い眠りに落ちて…――
◆
「えええぇぇぇーーーーッ!?」
――…美鈴の大声に叩き起こされました。正直五月蝿い。
体を起こして周りを見ると、窓から朝日が差し込んでいますどうやら夜が明けたみたいです。
外の吹雪も止んだ様ですね。よかったです。
他に見受けられるのは、大口開けて呆けている美鈴くらいです。
ところで美鈴、どうして私と同じベッドにいるの?
それにどうしてはだ…か……?
「き……きゃあああぁぁーーーッ!!」
完全に覚醒しました。そして、昨夜に何があったのかも完全に思い出しました。さらに思わず
大声をあげてしまいました。改めて思い返すと、なんと大胆なことをしたものかと、穴があったら
入りたいくらい恥ずかしいです…。
美鈴の顔は真っ赤です。そして、私の顔もそれに負けないくらい赤いことでしょう。
「さささ咲夜さんッ!? どうして!?」
どうしても何も、あなたが原因なのよ…と、いつもの私なら簡単に返せたのでしょうけれど、
今の私にそんな芸当が出来そうにありません。
口をもごもごさせて、しどろもどろな返答だけが私にできる唯一の行動でした。
「それは…その…、あなたが昨日外で倒れて…、それで心配になったから……、私があなたと…
えっと…、添い寝をして…」
私の必死の返答にも、美鈴は呆けたままでした。いえ、むしろ今の方がより呆けているような
気がします。
その沈黙がとても痛いです。何でもいいから何か喋って欲しいところですね。
「じゃ…じゃあ、咲夜さんが助けてくれたんですか…?」
「他に誰がいるのよ…? それとも、私に助けて欲しくはなかった?」
「そんな意味で言ったんじゃありませんって! ただ、ここまでしてくれて少し意外だったなー、
なんて…」
意外とは割と失礼な言葉ではないでしょうか。仮にも命の恩人に向かって吐いていい台詞とは
思えませんね。
私がジトっとした目つきで美鈴を睨むと、彼女は面白いくらいに慌て始めました。どうやら私の
考えていることが理解できたようです。
「いえいえ! 咲夜さんが冷たい人だなんてこれっぽっちも思ってないです! 私の様な一門番
の為にそんなことをして下さったというのが意外だっただけで…、その…」
「わかった、わかってるから落ち着きなさい」
「は、はい」
少し苛め過ぎたみたいですね。それにしても美鈴は本当に面白いくらい感情の起伏が激しいです。
からかい甲斐があると言うか何と言うか…。
「見つけたのは私だから、最後まで面倒みてあげようと思っただけよ。他意はないんだからね。
そこら辺勘違いしないように」
「あ…、はい…」
今度は目に見えてしょんぼりしてしまいました。
なんででしょうか、それを見ると私の胸の奥の方がチクリと痛みます…。
「…まあ、クリスマスだしね。この気遣いがプレゼントだと思っときなさい」
「ありがとう…ございます…」
…これでもまだフォローが足りなかったのでしょうか、美鈴は沈んだ顔のままです。これはいけ
ない、早く次の言葉を考えないと…!
ところで、なんで私がここまで焦らないといけないのでしょうか…。
「何を落ち込んでいるのか知らないけど…、好きでもない相手にこんなことは絶対にしないんだか
らね。ちゃんと分かってるの?」
「え…? 咲夜さん…、それ本当ですか…?」
「こんな時に嘘なんかつかないわ」
そう言うと美鈴は、今度は目に見えて明るい顔になりました。…それにしても私は今、結構な
問題発言をしたのではないでしょうか…?
しかし、前言をいまさら撤回するのもどうかと思いますし、それに美鈴の笑顔を見ていると、
そんなことは何だかどうでもよくなってきました。
とにかく今は、彼女が元気になってくれて良かったと素直に思います。
「それじゃあ美鈴、行くわよ」
「え、どこにですか?」
「朝食よ。温かいスープでも飲みましょう」
「……はいっ!」
冷たく澄んだ空気が満ちた朝の紅魔館に、美鈴の元気一杯の声が響きました。
-了-
それはともかくさくめーは良い。
サンタさんありがとう
素敵なさくめーのプレゼントをありがとうございます。
いじられて動揺しまくりの咲夜がかわいすぎてもう。
ニヤニヤしてしまったw
素敵なさくめーをくれてありがとう!w