Coolier - 新生・東方創想話

君の瞳に現世斬

2009/12/22 02:05:21
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妖怪として存在し幾星霜、私、射命丸 文は遂に確信に至りました

夢かと疑うほどに白く艶やかな肌、天鵞絨も裸足で逃げだす程に滑らかに煌めく銀の髪

果てしなく吸い込まれそうになる深淵な知と情熱を灯す瞳、少女と女性の境界で揺れる紅潮した頬

私を悩ませる、その存在の全てが愛おしいのです

のべつ幕なしに脳裏に浮かび上がる、私に向けられた笑顔。……想像のモノですが

呼ばれている気がします。私を求めているのですね、妖夢さん

目にも映らぬ速さで翔けましょう。貴女のために、風を超えて翔けつけましょう






 伸びすぎた枝の剪定しながら私は私は考える
どうしてこうなってしまったのだろう。どうすればこの地獄のような日々から抜け出せるのだろうと
そんな私の懊悩を知ったことではないと言わんばかりに、奴は今日も強風と共にやってきた

「こんにちは、妖夢さん」

 背後から優しく抱きしめられる。
いつの間に現れ、いつの間に背後にいたのか。自らの不覚に情けなさを感じつつ、えぐるような肘打ちを放ったが、するりと逃げてしまった
不快から、もはやお約束への期待にまで昇華された複雑な気持ちで詰問する

「何者だ」
「あやや。毎度おなじみ、清く正しい恋する射命丸です」

 あぁ、やっぱり。そしてさようなら
 振り向き様に首を狙い、一閃。しかしそれも一歩下がってギリギリで避けられてしまう

「つれないですね、妖夢さん」
「あなたに愛想を振りまく必要はありませんからね」

 努めて冷酷に言う。それが少しは効いたのか、悲しげな表情になった
少々罪悪感めいたものを感じてしまうのは私の甘さ。好意を持つものを攻撃するというのは辛いものだ。少しばかり言葉を補うべきか

「私はこんなにも、貴女を愛しているのに」
「あっ……」 

 あまりに優しく、本当に慈しむように頬を撫でられた
言葉に出さなくとも気持ちが伝わるような感触、そして微笑。初めてあった時の笑顔とは大違いだ。
 なんてことだろう。この人は本当に、私のことが好きなんだ

「だが斬る」

 本気で体を二つにしてやろうと満身の力を込めて一刀両断する。今度はギリギリでなく、大きく間合いを離すように避けられた。
素早いとかいう域ではない。言い訳をさせてもらえるなら、私でもあの素早さを体現はできる
だがそれは前準備に時間をかけて集中し、かつ直線的で一瞬だけ、その速さを上回るのみ
いつでもその速さを出し、なお自由自在に動けるこの天狗を認めざる得ないだろう

「素晴らしい速さですね、文さん」
「妖夢さんに褒められたから今日はみょん記念日ですね」
「勝手に記念日作らないでください。あとみょんっていうな!」

 天狗は冗談めかして言っていたが、本当にうれしそうに顔を紅潮させていた

「参考までに聞きます。完全に間合いで斬ったと思ったのですが、何故避けられたのですか?」

 ちょっと前なら適当にはぐらかされていたけれど、今は真面目に答えてくれる
好意を利用しているようで気がひけるのですが、この人も迷惑顧みずに侵入するのでおあいこでしょう

「それは風を利用してるからです」

 やはり、素直に教えてくれた
聞いてみると、単純な射命丸さんの速さに加え、私の太刀筋を鈍らせ、ずらす風を発生させていたらしい

「その扇の力ですか?」
「えぇ、私の能力を使うための小道具みたいなものです。家を薙ぎ倒し、大木を倒し、旅人の外套を吹き飛ばすほどの風を起こせますが……」

 芝居がかった溜息をついて、扇を地に捨てた。ちらりと流し目で見てくる
嫌な予感はするが、聞かなければならないでしょう

「大切なものではないのですか?」
「はい……ですがこの扇では、旅人の外套を脱がせることはできても、貴女の心の鎧を脱がせることはできません……。そんな物に価値は…」
「私の心にあるのは鎧じゃなくて鳥除けの案山子です」
「でも貴女を物理的に全裸にさせることは出来ますよ。これ完璧だと思いませんか」
「えぇ、そうですね。不可能という点を除けば」 
「あぁ、確かに不備がありました。私も服を脱がないといけません」
「重要なのは何故全裸なのか、いうとこです」
「あ、ご安心を。靴下は脱がせません」
「どんだけ器用な風ですか!もっと私の視点で物をみてください」
「……?着衣えっちの方が良かったですか?」

 もうやだこの鳥。
なにより恐ろしいのは、このようなやりとりが、もう長い月日で続いているということです
どうしてこうなったのか。私が何をしたというのか
あぁ、確かに原因を作ったのは私です。でもこんな仕打ちはひどいんじゃないでしょうか……


 それは、終わらない夜の一件を幽々子様と私で解決して数日経った時のことです
まがりなりにも異変を解決することができ、幽々子様からも労いの言葉をかけてもらった私は正直少々浮かれていました
 柄にもなく三姉妹が演奏していた曲を口ずさんだり、軽くステップを踏んだり。
だからでしょう。侵入者の存在に気づくのに、一瞬の間ができてしまいました

「あややや。これは面白い場面を――」

 見敵必殺。瞬間一閃。
背後の敵の存在を感知してためらうことなく一振り浴びせる
遅れたとはいえ、まだ刹那の範疇。避けられるはずがない

「いきなり斬りつけるなんて、霊夢さんの言っていた通りの方ですね」

 しかし必殺の一撃は空を振り、そいつは余裕しゃくしゃくで間合いの一歩外にいた
その上、へらへらした笑顔で、なにやらすごいスピードで手帳に書きこんでいる
私は初撃を避けられたショックを隠す意味も込めて詰問する

「貴女、何者ですか。いえ、失礼しました。貴女が何者かなどどうでもいい。斬ればわかることです」

 まずは自らの弱気を殺す。このへらへらした妖怪が如何なる目的をもって白玉楼に侵入したのかは知らないが
この桜観剣、斬れぬものなどあんまり――

「あややや。いきなり近づいてしまってすみません。謝罪しますので刀を納めていただけませんか」

 と平身低頭に頭を下げられてしまい、私はやや毒気を抜かれた。しかし私はまだ警戒を緩めない。成長したものです

「如何なる御用でここに?」

 それを聞くと、そいつは一層の笑顔となり一歩近づいてきた。警戒を強め、集中力を高める

「少し前に起こった終わらない夜の件について取材していまして」

 取材というと、この人は記者なのだろうか。
天狗たちが新聞を作っているという話をきいたことがあるが、よくよく見れば背中に羽もあり、出で立ちも天狗に見える
ふふ、集中しすぎるのも困りものです。そのようなことすら見えなくなっていました
決して未熟者だからではありません。ありませんからね

「申し遅れました。私、記者をやってる清く正しい射命丸と申します」

 自分のことを清く正しいとか言う奴は、黒白並に信用できない 

「射命丸……天狗の方ですか」
「はい、おっしゃる通り妖怪の山の天狗です」

 あっ、呼ぶ時は気楽に文と呼んでください、などと、やっぱりへらへらしている
これが噂に名高い天狗の一族なのだろうか。さっきのスピードを見せつけられただけに少々落胆した
素晴らしい能力は素晴らしい人に備わるものではないのだ

「そうですか。しかし射命丸さんのご用件についてですが、私では一切答えかねます」
「あやー。そう言わずに教えていただけませんか?この件については巫女も口が堅くて堅くて」

 やっと白玉楼の方が詳しく知っていると教えてもらった程度です。困っちゃいますね、と苦笑しながら同意を求めてくる。知らんがな
あの一件、月の人達が起こした異変については、緘口令というほどでないにしても一応口止めされている


「あの夜の話については幽々子様も真実が広がることを良しとしていません。だのに私が話すわけにはいきません」
「うーん。そうですかぁ……」

 宙に浮きながら足を組んで真剣に考え始めた。その顔は真面目で、さっきまでヘラヘラしてた顔とは似ても似つかないモノだった。
不覚にも、本当に不覚にも格好いいとすら思ってしまった。最初からその顔で来たらよかったのに
 天狗は、とりあえずその日は納得して帰ってくれたが、以降毎日私のもとに訪れるようになった
来るたびに追い返そうとするものの、一撃も与えられたことがなく、質問させる隙を与えてしまうのだ
まぁそれに律儀に答える私も私ですが
 天狗の質問は夜の一件だけに留まらず、徐々に私自身に関することが増えていきました
気のせいかとも思ったが、天狗自身それを認めていたので間違いないでしょう

「夜の一件自体もですが、それに関わった女の子の取材が中心ですので」

 とのことだ。
 あの夜の事は話せないので、私に関する質問の方が幾ばくか話しやすくはあった
それにこの天狗は話していて飽きさせない論調、そして豊富な話題を持っていた。正直なところ、話していて不快ではない
ふと手を握られたりした日などもあったが、まったく嫌な感じはせず、むしろ嬉しい気分になった。もちろん、おくびにも出さないが
 そんなだから、ついつい甘えて連日の侵入を許したり、話し込んだりしてしまった。今に思えば、その甘えこそは今日の悲劇を招いてしまったのだ


 夏も終わりに近づいてきたが、天狗は未だ毎日欠かさずに私のもとへ来ていた
射命丸さんはいつも大体昼過ぎくらいに現れる。几帳面な性格なのか、大きく時間がずれたことはなかった
しかし、今日は夕方近くになっても姿を現さない
射命丸さんの一族は社会的な集団らしいから、何か外せない用事が出来たのだろう
そう自分に言い聞かせたが、何とも言えない寂しさが募る。しかし冷静に考えてみれば、何も思い悩む必要なのないではないか
なにせ射命丸さんは私に興味があるわけでなく、あの夜の一件に関わった私に興味があるのだ
言うなれば取材の対象であって、そこに他意はない。寂しいだと不安だの、私の一人相撲ではないだろうか
そんな考えを吹き飛ばすかのような風と共に、奴はやってきた

「すみません妖夢さん、遅れてしまいました」
「……別に、謝る必要はないですよ。約束してたわけじゃないですし」

 吹き飛ばなかった。粘りのある悩みだった

「あややや。でもこんな時間なのに待っててくれたじゃないですか」
「そっ、それは!」
「私はそれが、とても嬉しい」

 待たせてしまったのに喜んじゃってすみませんね、と言う彼女の笑顔は、初めての頃の笑顔とは全く別のモノだった
その顔を見ていると小さなことがどうでもよくなるような、優しい気持ちになれた

「……待ってないと言っているでしょう?そもそも私はただの取材の対象なのでしょう?なのに、そんな友人みたいに……」

 粘りのある悩みだった。

「……そうですね……清く正しい射命丸としては、少々深入りしすぎたかもしれません」
「……そうですよ。清くも正しくも、ないです」
「ですが、それでもまだ貴女を取材がしたいと言ったら怒りますか?」
「っ!」

 お話したいや、一緒にいたいだったら、どんなに良かったことか
当初、話に付き合う仕方ない理由としての言葉だった「取材」が、ひどく重くのしかかる

「駄目です!これっきり白玉楼に来ないでください!」

 自分で言ってて整合性がないのがわかる。しかし壊れてしまった堤防は、後はとどめなく水を流すのみだ

「落ちついてください、妖夢さん」
「至って落ち着いています」
「あの、取材といってもですね」
「それ以上聞く気はありません!」

 態勢を低く構え抜刀の構えをとる。勿論脅しで、本当に斬るつもりはない

「あややー……」

 射命丸さんは苦笑しながら、弱ったなぁと頭をかいた

「こういうことは、極力避けたかったのですが」
 
 言い終わるかどうかの刹那、射命丸さんの姿が消えた
 それが見えたのは、仮にも集中して抜刀の構えをしていたおかげだろう。いや、そのせいで。
射命丸さんが、剣に鞘に手をかけた一瞬が見えて、反射的に刀を抜き攻撃してしまった

「…っ!」

 その短い悲鳴は、私があげたのか、射命丸さんのモノかは分からない
わかるのは、射命丸さんの腕に赤い一筋がたらり、たらり

「あ、あわわわ……!すっ すみません大丈夫ですかっ!?」

 血を見て咄嗟に謝ってしまう。
 どうかしている。私は何を熱くなっているんだ。らしくもない、全然らしくないじゃないか

「…………」
「あ、あの、すみません……」
「………」

 茫然としている射命丸さんをみて罪悪感が芽生える
ぽとりと、射命丸さんの手から何かが落ちた。いつも大事にもっている手帳だ
それを拾いあげて、手渡そうとする。

「本当に、すみません。実はですね、その」
「妖夢さん」
「はっ、はい!?」
「大好き」

 脳が事態を処理する前に、唇に柔らかい何かを感じた
それがキスされたのだと完全に理解したのは、縁側に押し倒されて、あらぬところに触れられた頃だった

「ちょ、と!」
「妖夢さん……」

 陶酔したような射命丸さんの紅潮した顔が現れる。
それが、ふっと消えたと思ったら、胸元から首筋にかけて何度もキス。短く音を鳴らして徐々に、徐々にせりあがってくる
ついに耳元で射命丸さんの乱れた息遣いが聞こえはじめた時には、全身の力が入らなくなっていた

「やめてください……しゃめいまるさん……」
「つれないですね、妖夢さん。文って呼んでください」
「んっ!……あ、あのですね……ひゃっ!?」

 私が必死に言葉を紡いでいる間に、隙間から胸の突起に触れられた

「かわいいですね……本当に、愛おしい……」

 痺れるような衝撃が全身を跳ねる。一刻も早くこの感覚から逃げ出したいという気持ちと、もっと深く身を委ねたいと思う気持ちが相克する
だが射命丸さんの手は私を逃がしてはくれない。優しく私を撫でる手と、あまがみされた耳から、逃走の決意が失われていく

「ん……し、射命丸さん……もうやめてください……」
「本当に、やめてほしいですか?」

 情けなくも逡巡してしまう。それに見かねたのか、射命丸さんが提案してくれた

「ふむ、でしたら私のことを文って呼んでくれたらやめてあげます」
「ほんとう……ですか」
「えぇ、本当です。やめてほしいのなら、ね」

 紅潮した頬、誘うような笑顔。からみあった足から感じる体温。答えを待つ間も首筋から頬にかけて愛撫してくれる手
抗いがたいモノはあった。全てを任せて未知の先に行きたかった。この人なら構わないと思う自分がいた

「やめてください……、文さん……」

 だが、出た言葉は否定だった。言った自分が驚いた
ひどく後悔する。その言葉一つでこの体温、この手が自分のモノでなくなることに耐えられない

「そうですか」

 とか言いながら私の服の留め具を外していく

「ちょ、ちょっと文さん!やめてくれるんじゃなかったんですか!
「あれはウソになりました」
「えぇー!」
「妖夢さんが悪いんですよ?……この手を離してくれないから」

 文さんがあげた左手首には、しっかりと私の手が掴まっていた

「あ……」

 自分でも顔が紅くなっていくのがわかる。体温が軽く5度は上がった気がする

「これはぁ……そのぉ……」
「妖夢さん、貴女の心根は清廉で、まさに研いだ刀のように美しいです。英華発外、その美しさは妖夢さんの全身にも現れるのですね」

 梳かすように髪を撫でた後、その手を滑らして頬、首から胸、腰から足となぞるように文さんの手が私を触れていく
私はあがった体温を吐き出すような深い吐息を吐き、身をよじらせる

「ですが、今の貴女に似合うのは刀ではありません」

 私の足から腰に下げていた桜観剣を手に取り、傍に置いた

「お気づきですか?今の貴女の瞳は、すごく女の子っぽいですよ」
「……文さんは、獣みたいな目をしてます」
「あやや。鳥だって獣なのです」

 頬に手を添えられ、軽く上向きにされる
 何をされるか分かっていた。どうなるかわかっていた。その上で、私は目をつむり、文さんのそれを待った。
それは期待通りにやってきて、私の全身が満たされる
 まだ夜は明けそうにない




「熱い夜でしたねぇ、妖夢さん」

 人の回想をのぞかないでほしい。
文さんは背後から抱きついて、頭の上ですんすんと鼻をならしている

「いい匂いです」

 半ばあきらめながら離れるように言ったが、離れる様子はない 

「あれは一生の不覚です」

 えぇ、本当に3回ほど生まれ変わらないと払拭できない不覚です
正直いって私は文さんに嫌いでない。だから、あの行為に至ったこと自体は後悔はしていない。
 ただあの時、もうちょっと冷静になるべきだったのだ。なぜ突然文さんは、あの流れからあの行為に及んだのか。自然で美しい流れが、そこにはない
私が文さんを受け入れられないのは、その後に原因ともいうべき事が分かってしまったからだ。
 一夜を共にした後、私は文さんよりも先に起きた。
文さんは寝顔も格好良くて、ではなくて。事の始末をしようと身辺を確認していた時だ
庭に渡しそびれた手帳が開いて落ちていた。別に見ようとは思わなかったけれど、紙面に私の名前が見えたのが気になって、そのページだけ覗き見してしまったのだ
 そこには取材内容ではなく、文さんの手記のようなことが書き綴ってあった
内容は、文さんが一人の取材対象に固執することは珍しく、それを部下に「恋しているみたいだ」と言われて妙に納得してしまった
しかし私は迷った。これはあくまで取材であるべきなのだから、妖夢さんにかかりきりになる訳にはいかない。しかし妖夢さんから離れられない自分もいる。
時間は遅いが、今から妖夢さんに会いにいって自分自身と向き合おう……といった感じだ
 私は思いあたることがあった。昨夜、私が文さんを斬った件だ
推測ではあるが、私は文さんの恋してるかどうかわからない、という迷いを白桜剣で斬ってしまったのはでないだろうか
恋と仕事で揺れていた比重が一気に恋に傾き、あのような、まさに記者らしく一気呵成にやっちゃった、というとこだろう
 そう考えると、斬ってしまった瞬間にああなった説明がつくというものだ
面倒な言い方だけれど、私を好いていてくれる今の文さんは、厳密には私が好きな文さんではないのではないか
元々好感は持っていてくれたようだけれど、今の文さんの行動は、どうしても白桜剣によって作られた感情のような気がしてすっきりしない
 私はもう、素直に文さんを受け入れることはできない
「それは作られた感情なんです」と言って突き離せるのなら、どれだけ楽か。そうするには、私は少々文さんの体温を知りすぎてしまった。
手放す勇気は、ない。

「どうしました?浮かない顔をして……」

 かぷ。
 
「ひゃっ!?」

 耳朶をあまがみされて変な声を出してしまう。
幽々子様にふざけてされたことはあるけれど、こんな気持ちはならなかった

「真っ赤になっちゃって、かわいいですね」
「ななな、なにするんですか!」
 
 突き離そうとしても抱きつかれて離れない。離せない
文さんは器用に正面に回ってくると、見蕩れるほどの笑顔がそこにあった

「よかった。いつもの妖夢さんだ」
「え?」

 隙を見せた瞬間に額に口づけをされた。びっくりして振り払ってしまったが、文さんはそれをするりと避けて上空へと飛んで行った
大空に文さんが映える。途中でくるりと振り返ると、大きな声で叫んだ

「妖夢さん!また来ていいですか!?」

 ずるい言い方だ。本当にこの人は、 清々しいほど私をかき乱してくれる

「……二度とこないでください!!」

 ある種の信頼と、もはやお約束にまで昇華された感情で答えた。
まぁ、つまり、要するに、言ってしえば、私は文さんが好きだったりするのだ。誰にも内緒です








 私、射命丸文は見てしまったのです

 終わらない夜が訪れた日、私は深い闇の中、原因を探っていました

夜は目がきかないのですが、それでも真実を追い求めるのは記者の性といえましょう。我ながら見あげた記者精神です

しかし闇雲に探していても見つかるはずもなく、まずは博麗神社に赴きました。残念ながら巫女は不在。いつもはぐうたらな癖に異変の時は素早いものです

 次は人里へ急ぎます。しかし人里は影も形も消えていました。これは終わらない夜と関係があるのでしょうか?後ほど調べましょう

翔けて周囲を探りますと、霊夢さんが倒れていました。話を聞くとどなたかに邪魔されたそうです。

あまり多くは語ってくれませんでしたが、話の断片から整理するに迷いの竹林の方に何かありそうです。ただちに向かいましょう

途中、大きな帽子を被った人間と魔法使いの組み合わせにすれ違いました。興味は引きましたが、とりあえず終わらない夜から急ぎ解明しましょう

 しばらく飛んでいると大きな屋敷を見つけました。ここが主犯の隠れ家でしょうか?潜入したいと思います

うさぎが口をばってんにして倒れていました。取材を、と思いましたが疲れて気を失っているようです

 さらに気の遠くなるような長い廊下を抜けると、色鮮やかな弾幕が見えてきました。間に合いました!これを写真に収めなければなんのために走ってきたのか!

そう意気込んで、シャッターをかまえ、ベストショットを狙います。フレームを合わせた瞬間、それが目に映ったのです

 透き通るような白い肌、月に映える銀の髪、闇の中にあってなお輝く瞳、少女らしさと女性らしさを兼ねた紅潮した頬

その時私は、長年やってきたシャッターを押すという行為さえ忘れて、少女の動きに見とれてしまったのです

居合の瞬間、それこそ私を超えるような速さだったというのに、その一瞬で私の全てが彼女に奪われた気持ちでした

覚えのない感情が私を支配します。近づきたいような遠ざけたいような。これを私は、悔しさだと認識しました。

後に巫女やらに話を聞いた時、その居合の技を教えていただきました

現世斬、彼女に斬れぬものはあんまりないとのことです。まさに彼女は、私の瞳を斬ってしまったのだと思いました

そして私は、彼女にだけ盲目となってしまったのです



 彼女の名前は魂魄妖夢。巫女から手に入れた情報です

 開かれた門となった白玉楼で庭師をしているとのことで、いつも通りに取材しにいくことにしました

一晩たって冷えた私の頭は、あの不覚を悔いていました。よりにもよって写真を撮り忘れるなどあってはならないことです

あの夜の件について取材するのであって、魂魄妖夢の存在はいつも通り、真実に対する加味にすぎません

 しかし私のそんな決意は、わずか一週間ばかりで崩れ去りました

気づくべきだったのです。部下に言われるまでもなく、私が一つの事柄にここまで執心するなんて、今までなかったのですから

 この気持ちを確かめるために、などと決意して手を握ってみましたが、なんのことはありません。私の彼女に対する好意を再認識したにすぎませんでした

 次第に質問を妖夢さんに対するものに絞ってみたりして興味を示してみましたが、特に反応はありませんでした

触れ合いも多くして意識をさせようとがんばってみましたが、これも効果的とは言えませんでした。もしかして慣れてるのでしょうか?妬けます

 どうにも機を逸してしまったようです。なんとなしに毎日会う関係を続けていますが、大進展が欲しくなってきました

そう考えてたあくる日、少々仲間内の問題が起こり、いつもの時間に遅れてしまいました。時間に遅れたことは過去に一度ありますが、夜間近になったのは初めてです

まさかこんな時間まで待っていてはくれないだろうと不安と期待でもって向かった先には、なんとまだ妖夢さんがいるではないですか

私は嬉しさのあまり小躍りせんばかりでした。当然しませんけどね

 私はありのままの気持ちを述べましたが、妖夢さんはお怒りのようでした。仕方ないことです

確かに私らしくもない、乱暴なやり方をしてきたかもしれません。それというのも可愛すぎる妖夢さんが悪いのですが

もちろん、手詰まりとはいえ妖夢さんを諦める気は毛頭ない。しかし言葉を重ねても妖夢さんは頭に血が上っているようだった

実力行使はあまり好きじゃないのだけれど、いえ好きだけど、怒っている妖夢さんにはやりたくなかった

とはいってもこのままじゃ妖夢さんの性格を考えるに、本当に二度と敷居をまたがせてもらえなくなるかもしれない。それは困る

 仕方なく、刀をとりあげるべき動いたが、さすが私の妖夢さんです。寸前のところではねのけられてしまいました

その際、少々手傷を負ってしまいました。瞬間、さまざまな思惑が駆け巡ります

 策の一、謝っている妖夢さんの良心を責めて私のモノにします

これは下策かもしれません。妖夢さんは笑顔が素敵なのです。それが失われるのは痛い
 
 策の二。手当をしてもらい、優しく慰めることで私を意識させ好感度を稼ぎます

これは正直効果的とは言い難い気がします。今までの経験から進展は望めないと思われます

しかし普段であれば二を選んだでしょう。しかしこの時私は天啓を受けたのです

 策の三。妖夢さんの剣は迷いを断つ剣らしいので、それによって私が妖夢さんともっと親しくしたいが二の舞を踏んでいる、という迷いを斬ってもらったことにする

こうすれば無理なく、夜の妄想欲望の通りに妖夢さんに襲い掛かる理由もできるし、拒否されたら良心に訴える策の一に変更して次に賭けることもできます

難点は私が斬られた剣が、正直なとこ迷いを断つ白桜剣だったのか、そうではない桜観剣だったのか、わからないことです

もし桜観剣だったりしたら、ただの暴走になってしまう。しかも斬られて恋心が暴走なんて変態とかいう域ではない

悩んでる暇はない。えぇい、策の三でいってしまおう。

 結果は大成功。あこがれの妖夢さんの心づもりもわかりましたし、まさに心も体を思う存分堪能できました

まさかあの妖夢さんがあんな性癖だなんて、なんて私得。思う存分いじめてしまいました

そう、なにもかも大成功。この後も二人は幸せに、えろえろに暮らせるはずだったのです

 読みが甘かった。いや、ちゃんと妖夢さんの性格を考えればありえたことです

妖夢さんは私の心が白桜剣で作られたものだと勘違い、もとい策通りに思いこんでしまい、私の気持ちを受け入れなくなってしまったのです

本当に誤算です。私たちは好き合っているのに、小細工を弄したせいで……。斬られたのも後日確認したら桜観剣でしたしね

かといって、あれは私の計算通りだったんです!なんて言ったら嫌われるかもしれない。妖夢さんは変なとこで潔癖だからなぁ

問題ない気もしますが、嫌われるかもしれない可能性は万が一でも避けたいところです

本当に、妖夢さんことばかり考えてしまいます。愛おしい、妖夢さん




 季節は秋となり、妖怪の山は紅葉で彩られた。この山に住まう天狗、射命丸 文は色彩美しい山々をみて溜息をついた
しかしそれは多くの人が美しさに感嘆した溜息ではなく、恋焦がれている者のそれだった

「妖夢さんに比べたら、紅葉も枯れ葉みたいなものですねぇ」
「呼びましたか?」
「いえいえ椛。気のせいですよ」

 くるくると弄んでいた紅葉を地に捨て、射命丸は大きく空に跳ねた

「椛、白玉楼に取材に行ってきますね」
「了解です文さん。お気をつけて」

 返事もろくに聞かずに、射命丸はまさに風のような速さで飛んでいった。その余波で、まだ木を彩っていられるはずだった紅葉が舞い上がる。
冷静、社会的、紳士的。そんな言葉が似合うはずの彼女に似つかわしくない突発的な行動だった
それほどまでに彼女を狂わせる存在がいるのだと、椛は最初は驚いていた。とはいえ、もう慣れっこだ。
白玉楼にいる魂魄妖夢に射命丸文がぞっこんだというのは、本人が秘密のつもりでも、もはや妖怪の山では常識のように扱われている
そんなことも分からずにいるほど、理知的であるはずの射命丸は魂魄妖夢に入れ込んでいるということだ
 しかし噂の中心である片割れ、魂魄妖夢の態度についてはいまいち要領を得なかった
デレデレだという話もあるし、ツンケンしているという話もある。一貫性がまるでない
噂とはそういうものだと椛は思っていたが、妖夢の態度に安定感がないのは事実だった
 白玉楼、そこに魂魄妖夢はいた。噂通り一貫性のない態度で。
射命丸の到来を心待ちにしてるようでもあり、来てほしくないようでもある。来なかったら至極残念そうにするのに、来たら仏頂面になる。
不安定を絵に書いたような態度だった。実際彼女の心は揺れに揺れていた
 一度だけ共に迎えた夜を思い出すたびに切なそうに胸を抱え、その原因を考える度にさらに胸を抱え、最終的に布団にくるまった
そんな彼女の生活サイクルも、いい加減限界に近付いていた

「こんにちは。毎度おなじみ清く正しい恋する射命丸です」

 ご機嫌いかがですか妖夢さん、と文はいつも通り闊達に話しかけた。妖夢の決意も知らずに

「こんにちは、文さん。今日は早いのですね」
「あや?今日は少し愛想良くしていただけるのですね。うれしいです」
「まともに来ていただければちゃんと挨拶しますよ!いっつも抱きつてきたり、その、キスしてきたりするじゃないですか」
「愛ゆえです、妖夢さん。抑えきれぬ恋慕があふれてしまうんです」
「……」
「……?どうしました?妖夢さん?」

 文は違和感に気がついた。妖夢が思いつめたような、決意したようなそんな顔をしていたからだ

「いえっ!?別になんでもないですよ!」

 とはいっても明らかにそわそわしてるし、周りをうかがってきょろきょろしたり、挙動不審だった
何か企んでいるのかな、と文は思ったが本格的な別離を考えているのならもっとストレートに言ってくるだろうと思い、とりあえず様子をみる
妖夢が何を考えているのか興味があったのだ

「ふむ、そうですか。ならいいのですが」
「えぇ!なんでもありませんから!」

そういうとさらにソワソワし始めた。かわいい生物をみているようで文はにやけはじめた
知ってか知らずか、妖夢は「よしっ」と小さく気合いを入れると縁側に座って剣を手入れを始めた
これは何の企みだろうかと文は興味深々だ

「おや。それは白桜剣ですか?」
「はい。迷いを断つ剣です。迷いを」

 やけに強調した。ここで文はある予感がして、ふきだしそうになった
まさか、いや、しかし、でも……ありえる。
文は確信に至る。妖夢さんは、私の時の逆の状態を意図的に再現しようとしているのだ

「あっ!あやさん……」
「なんでしょうか?」

 まずい。にやけが止まっているか自信がない

「う、うわぁ。手がすべって白桜剣で指をきっちゃった~」

 上ずった声で妖夢が言った。顔が真っ赤である。ちらっとこちらを見てくる 
 文は自分で自分を励ます。こらえろ文、この三文芝居は必要なんだ。

「だっ…ぶっ……大丈夫で……すか…?」
「は、白桜剣できっちゃったから~……」

 続けて何か小さな声で言ったが、文には聞こえない。
とはいえ、文には分かっていた。つまるところ、あの時の文の状況を再現して原因を明らかにさせるか、それに失敗しても白桜剣のせいにして文といちゃつけるという算段だ
朱に交われば赤くなるというが、どうやら妖夢は射命丸に染められたようだ。まるで同じ考えを実行してしまったのがその証拠だろう

「あ、文さん……その……」
「はい、どうしました?」
「あ、あああああ…!!」
「?」
「愛してます!!!!」

 文もびっくりの速さで抱きつき、しがみつく
妖夢の体は少し震えていた。文はそれを慈しむように抱きしめる
妖夢を受け止めた文の顔は、本当に幸せそうな、満たされた笑顔だった

「えぇ、私も愛してますよ。妖夢さん」
「あ、文さん……」
「でもね妖夢さん」
「はい……?」
「私を斬った剣、桜観剣でしたよ?」
「へ……?」

 目が点という表現があるが、本当に人ってそうなるんだな、と文は思った 
そんな顔もかわいいと思ってしまうあたり、文も重病だ

「私はね、あの夜の前から、ずーっと、妖夢さんとこういう関係になりたいって思ってたんです」
「は、はわ、はわわ…それじゃ私の芝居は……」
「妖夢さんだってわかってたんじゃないですか?白桜剣だって、そこまで器用に迷いは斬れないでしょう」
「そ、そうですけど、そうとしか思えなかったんだもん……」
「ごめんなさい。いい機会だと思って暴走しちゃいました」

 てへっ、と赤い舌をだした

「あやさんの……ばか」
 
 その舌に妖夢が自身の舌を絡ませる
息をするのも忘れるくらい二人は求めった。息継ぎすら惜しいと言わんばかりに
ふと離れ、熱のこもった瞳で見つめ合う。二人はもつれ合い、縁側で溶けあった
駄文最後まで読んでいただきありがとうございます
最初の怪文は縦読みです。気づいてくれたらうれしいな

地球爆発しろ☆
お時間拝借
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コメント



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あまあまですな
15.90名前が無い程度の能力削除
うわなんかエロい
けしからん、じつにけしからん
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椛「あ~幻想郷崩壊しないかな~」
19.100ずわいがに削除
ぅわなにこの少女漫画チックラブコメディ、こういうの大好きなんですけど。
これが「ツボにハマった」ってやつですかね。
21.90名前が無い程度の能力削除
なんかエロちっく!いいぞ、もっとやれ。
23.無評価名前が無い程度の能力削除
文末に句点(。)を付けたり付けなかったりするのには何か意味が?
26.無評価作者削除
>>句点
事情あって投稿を急いだために見直しが足りませんでした…
つまりただのミスです!見苦しくてごめんね!
30.無評価aki削除
げんせいざんまじ怖いです
31.100名前が無い程度の能力削除
文さん、笑いをこらえる前に白桜剣で切れた妖夢の指をくわえてあげなさい
てか、その辺で幽々子様と紫様が覗き見してそうだぞ
33.90名前が無い程度の能力削除
おおエロいエロい
34.70名前が無い程度の能力削除
桜ではなくて楼では?
白楼剣、楼観剣。

あやみょんは正義。