「ふう……」
長いため息をついて、彼は腕を組んで椅子の背に寄りかかった。天井の蛍光灯を見つめてひとりつぶやいた。
「ぜんぜんだめだ、だめだ」
昨日の午後11時からこのパソコンの画面を見つめたまま、日付が変わって午前1時になっても、彼は一向にキーボードを動かせなかった。今まで一体何をしていたんだろう、と彼は今までのことを思い返した。
決して体調が悪いわけでもないし、頭も今日は冴えている。さらに言えば気力も充実しているし、何より明日は日曜日だからこうやって東方二次SSを書くにはうってつけの日だ。表面的な条件で言えば、これほどいい日はなかなかない。
彼はインスタントコーヒーを啜り、パソコンの画面の前に己の身体を戻した――が、それでも彼の頭の中にはイメージが浮かんでこない。
これほどのことは、彼の今までのSS人生では一度もなかったことだった。今まではどんなスランプに陥っても、どこかには必ず希望のひとかけらがあった。自分の目指すゴールを見失うこともなかった。だから、どんなに時間がかかろうとも書こうと思った作品は必ず書きあげてきた。
それなのに、今回は何も、彼の前にはないのだ。何も。彼はパソコンの画面をぼうっと見つめて、思った。
やっぱり無謀だったんだろうか。やっぱり別の作品を書くべきなんだろうか。彼は深い深いため息をついた。
「やっぱり、俺には秋姉妹のSSなど書けないのかね?」
『れっつごー秋姉妹!』
そもそもの始まりは、彼の大好きな秋姉妹の話が東方創想話の中に少なすぎる、と彼が気づいたことだった。
彼はそれまで東方創想話の読者でしかなかった。投稿される作品の中で適当に目についたものを読み、ほのぼのした作品や、腹を抱えて笑った話、涙を思わず流した作品、さまざまなものに出会ってきた。最初はそれで満足だったのだ。
だが、そうやって読んでいくうちに、彼はだんだん物足りなさを感じはじめた。作品のひとつひとつが悪いのではない。いいものはいつでも必ずある。だが、こう、創想話全体に何か、彼にとっては物足りない雰囲気がしたのだ。
その物足りなさを抱えていたある日、創想話にタグ機能がついた。そのおかげでどんなキャラクターが出るか、だいたいは一目でわかるようになり、彼もそれを重宝した。タグ機能がついてから1ヶ月、作品集が二つほど埋まったあたりで彼は気がついたのだった。
あれ、秋姉妹の話……少なくないか?
検索機能がついたときに、分類で「秋」と入れて検索してみて彼は愕然とした。7000を超える作品の中に、検索でヒットしたのはたったの二十ちょっと。タグがつきはじめたのは最近とはいえ、あまりにも少なすぎる。
比較対象に「咲夜」と入れてみると、二百弱がヒットした。
なんだ、こりゃあ。
彼はその結果に絶望した。秋姉妹がここまで空気だとは、秋姉妹の空気の薄さを認知している彼も予測していなかった結果だった。そうか、俺が物足りないと思っていたのは、秋姉妹のSSが少ないことだったのか。だが、さすがに、これはひどすぎるだろう。もっと秋姉妹のSSがあってもいいじゃないか。
彼はひどく不満を抱き、だが、それが彼を前進させるきっかけにもなった。
そうだ、秋姉妹の良さを誰もわかってくれないなら、俺が最高の秋姉妹のSSを書いてやるよ! 秋姉妹で一万点越えの作品を書いてやろうじゃないか!
自分でも短絡的だと思ったが、いつでも道を切り開いてきたのはそういう短絡的発想だということも、彼は知っていた。地球が丸いことを証明するために、命を賭して航海に出たマゼランとかもいるじゃないか。結局死んだけど。
かくして、彼は読者から作家になった。だが、すぐに秋姉妹のSSを書くようなことはなかった。デビューしていきなり秋姉妹のSSを書くのは時期尚早だと思ったのだ。そもそも、彼が小説の類を書くことじたい、生まれて初めてといってもいい。
そんな状態で創想話に投稿したら、いきなりバッシングを受けるかもしれない。とっておきの秋姉妹のSSは、俺がまわりに認められてからにしておこう。他の作品を書いているうちに実力も上がっていくだろうし。
その考えのもとに、最初に投稿した作品はレミリアが主人公のギャグSSだった。タイトルは『チィスウデ』。自分でもだいぶ内容を忘れてしまったが、確かヤクザのまねをするレミリアの話だったような気がする。
デビュー作でいきなり危ない内容だったが、彼のタマはとられることなく、そこそこの評価を受けた。レートで言えばだいたい9ぐらいで、点数で言えばだいたい900ぐらいだった。
そのあとも、彼は作品を4作投稿した。ギャグものを2作、シリアスものを2作。タイトルがそれぞれ、『危ない橋』、『Wanderland』、『老いたくないものよ』、『焼ける手』。
今になって、『老いたくないものよ』はまずかったんじゃないか、と彼は思う。内容は紫の年齢考察で、結論としては地球誕生以前説で落ち着いた。だが、「ゆかりんはそんなババァじゃねえ」とか「論理破綻してる」とか「いいぞ、もっとやれ」とか、だいぶコメント欄が荒れた記憶がある。9件のコメントのやり取りを「だいぶ」というかは別にして。
しかし、最新作の『焼ける手』は高評価だった。お空とお燐の新しい境地を拓いた、と彼は今でも自負している。評価はレートで言えばだいたい11.92で、点数で言えばだいたい4030だった。今でも彼はその作品に点数がついていないかチェックしている。
『焼ける手』の評価を受けて、彼はいよいよ本命を出す機会だと思った。俺の評価は決して悪くない。ここで一発、秋姉妹の感動作品を出せば、秋姉妹を認めさせることができるんだ。そう考える彼の胸は希望にときめいていた。
そう考えたのが先週だった。それから秋姉妹が主人公のSS作品にとりかかったものの、現在にいたるまで、何もイメージが浮かんでこない。いかん、これは本当にまずい、と彼は思った。
「どげんかせんといかん」
死語をつかうほどに彼は焦っていた。大本命がこんなことでは、結局、彼の目的は果たされずに終わってしまう。秋姉妹が最終目標なのだ。他のことは二の次だ。
どうしてこんなに何もできないままでいるのだろう。彼はそこから考えはじめた。
そもそも、彼は書きたい作品のイメージが浮かばない、ということがあまりない。だいたいは、キャラクターのイメージの中からありそうな場面をピックアップして、それを膨らましていく。それが彼の執筆スタイルだった。シリアスものを書くときも、だいたいはキャラクターと場面からスタートして、そのあとにテーマを決めていったりする。
そうだな、俺はキャラクターのイメージからぜんぶ始まっているんだ。つまり、今回も秋姉妹のイメージから始めればいいわけだ。
彼は秋姉妹の像を頭の中に浮かべた。至極簡単なことだった。あの特徴的ないわゆる「ZUN帽」、カエデ、紅葉をイメージされた服。静葉なら白い靴下と黒い靴、穣子なら裸足。
だが、いつもここでつまってしまう。イメージが浮かぶ。はい、おしまい。それ以上、秋姉妹がどこかのシーンで動いているところを想像できないのだ。SSで秋姉妹を出してる作家さんはすごいなあ、と彼は今さら感心した。よくあんなにいきいきと秋姉妹を書けるなあ。
しかし、そういった作品がなければ、公式で秋姉妹が出ている場面が少なすぎる。そのためにイメージが膨らまないのだ、と彼は思った。
キスメはどうだ? ヤマメは? 彼女たちは地霊殿でしか出てないじゃないか。そう思って創想話の検索にかけたところ、ヤマメは10件そこそこ、キスメにいたっては10件以下。やはり、公式で出てないとイメージは膨らみにくい、という分析結果。まあ、そうだろうな、と彼は一人で納得した。
しかたない。これは新しい作品の宿命だ。台詞からイメージを膨らまそう。そう思い、彼は秋姉妹のゲーム中でのセリフを思いだしていった。台詞があるのは穣子しかいないのだが。
とりあえず秋姉妹でネタになるような台詞といえば、「笑止千万、不届き千万!」。
ふむ、まずこれでいってみようか。彼はとりあえず、気の向くままにキーボードを叩いた。
◆
笑止千万、不届き千万だと秋穣子は思った。
◆
書かれた文章を、彼は難しい顔をして見つめた。
いや、これはないだろう。面白くもなんともない。もっと、こう、刺激的な使い方をしなくては。
彼はたった今自分が書いたものを消し、新しい文を打ちこみはじめた。
◆
笑止千万、不届き千万な秋穣子は、なんとビキニ姿でした。
◆
……できることなら、この文章とともに自分も消してしまいたい、と彼は心から思った。刺激的すぎるだろ。なんだ、ビキニ姿って?
鼻血ものだが、あんまりにも突拍子すぎる。万が一投稿しようものなら「幻想郷に海はありませんよ?」と絶対にコメントされる。
彼はすぐに今の文を消し去り、闇に葬った。
だが、これで終わってもしかたがない。なんとかイメージを膨らませないといけないのだ。キャラクターが動くような場面が想像できないなら、キャラクターに合うテーマでいってみようか。
そこで彼はテーマを考えた。俺が読んでくれるひとにいちばん伝えたいこと。彼はしばらく考えて、ふと気づいた。
あれ、何かあったか?
彼は自分自身に驚いた。あれほど秋姉妹に執着していたはずの自分が、実は伝えたいことが何もないなんて。シリアスものを書いたときは「人の絆」とか「希望」とか、伝えたいことは必ず盛り込んでいた。
今度の秋姉妹の話もシリアスものがいい、と思っている。そうすれば秋姉妹が魅力的に見えるからだと彼は考えていた。だが、結局、「秋姉妹」という目的ばかりがあって、そこに達するための「テーマ」という手段がない。
いや、ならばいっそ、秋姉妹が魅力的に見えることをテーマにしよう、と彼は思った。要するに、秋姉妹の美しさを謳いあげればいいのだ。これならばいけそうだ。
そうすると、テーマはこうなるかな。彼はメモ用紙にシャーペンで文字を書きつけた。
「裸足と美」
そう、古代から人間は裸足であった。『走れメロス』でもメロスは裸足だったに違いない。そうだ、これすごくね? こんな芸術すごくね?
だが、そんな自惚れが醒めると、彼は頭を抱えてうずくまり、そのまま「うぐう」とうめいた。壁にぶち当たったのだ。「裸足と美」がテーマになると、秋静葉――奴が邪魔だ。いやいやいや、奴と言ってはいけない。静葉だよ、静葉。そうだ、彼女はゲームで靴をはいていた。うっかり忘れていた。
しかし、やはり穣子の魅力的な裸足も捨てがたい。しばらくのあいだ、彼は悩みに悩み、ひとつの結論を得た。
「裸足」を推すならば、ここは多少強引にでも、静葉には靴と靴下を脱いでもらおうではないか。そうだな、そうすれば話が進んでくるかもしれないぞ。
新たな希望を得て、彼は顔を上げ、キーボードを叩いた。
◆
「お姉ちゃん」
「何、穣子」
顔を赤らめ、うつむきかげんに穣子は言った。
「裸足に……なろ?」
静葉も顔を赤らめた。
◆
なんて百合小説? 書かれた文章を見て、彼はパソコンの前でのたうちまわった。
いかん、これはひどい、美しすぎる。刺激が、刺激が強すぎる。なんで裸足になるというだけでこんなにもエロくなるんだ?
頭を掻きまわしながら、彼は「メモ帳」に書かれたこの文章を「おもちゃばこ」フォルダに葬り去った。それから、一息つくために冷めきったコーヒーを啜った。もう午前2時を回ろうとしている。
そもそも、裸足をテーマにしたことが間違いだった。よく思い出してみれば、神奈子だって裸足じゃないか。
彼は神奈子に憤った。靴をはけ、神奈子よ。……いや、それもそれで気持ち悪いな。
とにかく、裸足では秋姉妹のキャラクターを際立たせる理由にはならない。同様の論理で、帽子も目立つ要素ではない。やはり秋姉妹は季節の秋というのが特徴的なのだ。そこを伸ばしていかないと。
秋、か。秋のネタなら色々ある。「食欲の秋」「読書の秋」「スポーツの秋」、「紅葉」「枯れ葉」……。ギャグものでもシリアスものでも、ネタには事欠かない。
まあ、とりあえず、秋から連想されるものを書いてみるか。彼はそう思って、文字列を入力していった。
◆
食欲の秋で食べすぎた穣子ダイエット大作戦!
紅葉が枯れ葉となって落ちるまでのわずかなあいだに痩せることができるのか!?
汗と勇気と涙のスポーツ根性感動巨編SS!
ダイエットをする穣子をほくそ笑んで眺めながら、読書をする静葉も見逃すな!
◆
最悪だ……今までの中でも最低の出来だ、と彼はしみじみ思った。もう自分に突っ込む気力も起きない。
とりあえず、こんな内容で投稿してみろ。「東方でやる意味あるの?」とか「お前が痩せろ」とか「マ○クロダイエットでやれ」とか絶対に突っ込まれる。だいたい、好きなはずの秋姉妹を貶める話になってしまうし、俺はかなり痩せている。これはないないない。
彼は長いため息をついた。
どうして、秋姉妹はこんなにも難しいんだろう。
同じ姉妹で考えてみよう。スカーレット姉妹。どちらも紅魔郷出演で、ラスボスとエクストラボスだ。
あの二人を間違える人を今まで見たことがない。「レミリアとフランドールを間違えて覚えてたんだけど」、と白状した人を見たことがない。その原因は何だろう。
それを考えるに、理由は明確だった。キャラクターが違いすぎるのだ。服装にしたって、レミリアはピンクのなんかフワフワしたやつで、フランドールは赤い服の短いスカートで羽根もカラフルだ。
それに出演するステージも違う。区別する材料は十分にある。
だが、秋姉妹はどうだろう。この前、「どっちが穣子で、どっちが静葉だったか、いまだにわかんないんだよね」と友人が白状したので、彼はその友人に対し、小一時間ほど説教をしたことがある。しかし、今考えると彼の言い分も少しわかる、と彼は感じた。
スカーレット姉妹に比べ、秋姉妹は区別するのが少々難しい。どちらも赤い服を着ているし、髪の色も同じだし、同じステージに出る。それに何かと「秋姉妹」とセットにされがちで、下の名前を呼ぶ機会もそう多くはない。
じゃあ、同じ一面のヤマメとキスメはどうだろう。あれだってわりとキャラクターが立っていないような気もする。彼は「東方地霊殿」フォルダの「キャラ設定.txt」ファイルを開き、能力のところを見て、思わずうなった。キスメは鬼火を落とす程度の能力、ヤマメは病気を操る程度の能力。シリアスものを書くにはもってこいの能力じゃないか。
対する秋姉妹はどうだろう。静葉が紅葉を司る程度の能力、穣子が豊穣を司る程度の能力。
地味。
この二文字で彼は片づけた。
もうだめだ。好きだったはずの秋姉妹なのに、その秋姉妹で作家おしまい、ああくだらない。
彼はパソコンの画面から離れて、ぐったりとうなだれた。だめだ、書きたいことがわからなくなってきた。どうすればいいんだ。
書きたいものを書くのが作家だ、それが理想に決まっている。だが現実は違う。それだけでは、創想話に投稿することはできない。需要と供給のバランスがこんなところにまで来たのか、と彼は何度も何度も見たはずの現実に押しつぶされそうだった。
書きたいものをただ書いて投稿する。そんな自己満足は許されない、他人に見せる以上はあたりまえの事実だ。投稿すれば必ず他人の目に触れる。だから、他人にとって不愉快なものを書くことはできない。最低限のルールだ。
だが同時に、作家として自分が書きたいものを書かなければ、ただの駄作になってしまうということも、彼は本能的にわかっていた。世の中では「スイーツ(笑)」という言葉がはやっているらしいが、あれを狙って書かれたものの多くは駄作だということを彼は知っていた。ただ受けるものだけを書いても、わかる人にはわかってしまう。狙いどころが見え見えなのだ。
作家として自分を押し殺すのか、それとも多少傷ついてもいいから自分を押し通すのか。彼はその狭間にいるような気がして、どこにも動けなくなりそうだった。
そもそも、俺はどうして秋姉妹を好きになってしまったんだろう。そして、どうして秋姉妹のSSを書きたいと思ったのだろう。彼は秋姉妹との出会いを、ふと思いだした。
秋姉妹に出会ったのと、彼が東方Projectにハマり込んだのは、同じ瞬間だった。東方Projectのゲームで彼が最初にプレイしたのは、東方風神録だった。東方の世界観。彼は身体に電流が走ったかのような感覚を覚えた。こんなゲームがあって、その中にこんなキャラクターたちがいるのか。
主人公の霊夢と魔理沙を操作していたはずなのに、彼の脳内には秋姉妹の印象が焼き付けられた。最初に見た敵キャラクターが静葉だったからなのか、それとも穣子のセリフが面白かったからなのか、彼はよくわからなかった。だが、確かに彼は秋姉妹に惹きつけられたのだ。
ちなみに、神奈子は彼の中でトラウマとなっている。
他の東方Projectのゲームをやっても、最初の印象が彼には強烈に残っていた。紅魔郷をやって、妖々夢をやって、それ以外もすべてやり通して様々なキャラクターに出会った。だが他のどんなキャラクターよりも、やはり彼にとって、秋姉妹が最高のキャラクターだった。
新参者はこれだから、と誰かに言われたことがあるが、そんなことはない、と彼は思う。東方Projectの印象なんて人それぞれじゃないか。
誰もが自分の中の世界観を持っていて、その中でキャラクターが生きている。だから、古参だろうと新参だろうと、その世界観を否定する理由なんてないだろ?
そして、自分の好きなものを語り合えること、それこそが幸せなんじゃないのか?
そこまで考えて、椅子でうなだれていた彼は、ゆっくりと顔を上げた。
そうか、そんな簡単なことだったんだ。
とても簡単じゃないか。東方の世界を知るものはみんな平等だ。各々の世界も平等だ。
俺が秋姉妹に憧れたのも、そんな理由だった。神様でありながら、霊夢や魔理沙に対してとてもフランクに接している。いや、秋姉妹だけじゃない。幻想郷の住民すべてが、すべての人に平等だ。だけど、いちばん最初にそれを教えてくれたのが秋姉妹だったから、俺は秋姉妹が好きなんだ。
パソコンの画面を見つめる。そこに浮かんでいる真っ白なメモ帳のウィンドウは、彼が文字を入力してくれるのを待っているように彼には見えた。
彼は体を起こした。メモ帳に彼が書くはずの文字列が、うっすらと透けて見えた。絶望の中から希望を見つける――作家ならこういう感じで希望を見出すんじゃないだろうか、と彼は思った。
創想話だって同じだ。作家が偉い、読者が偉い、そんなことはまったくない。
作家と読者はコミュニケーションをしなければいけない。作家は一方的に読者に押しつけてはいけない。読者は作家の何かを感じなくてはいけない。そうして生まれるのが、ひとつの作品なんじゃないか。作者の伝えたいこと、それに対する読者の理解、そのどちらが欠けてもいけない。そうだろう?
そして、それをやることはそんなに難しい事じゃない。
秋姉妹のSSを書ける、と彼は思った。時計を見ると、午前3時だった。だが、彼の決心は揺らがなかった。今なら書ける、秋姉妹の最高のSSが。
冷え切ったコーヒーの残りを一気に飲み干した。彼に気力が戻ってきた。彼の目が輝きはじめ、その指には力がこもっていた。キーボードを打つ音が部屋に軽快に響く。
俺にはできる、書くことができる。
俺に大切なことを教えてくれた秋姉妹の魅力が伝わる、最高の作品を――。
そうして翌日の朝に出来上がった作品を彼は創想話に投稿した。
タイトルは、こうだった。
『地味だよ! 秋姉妹さん!』
哀れな秋姉妹に+20点
秋姉妹の話なのだから秋姉妹を見たかったです。筆者と秋姉妹に10点ずつ。
よう、俺
せっかくだからこのSSの中でももっともっと秋姉妹の魅力が出ていたらよかったかも