ナイトバード
群雄割拠の戦乱の世の、栄光ある武士たちの戦いの果てに、取り残された村々は、馬の蹄に踏みつけられて、荒廃も荒廃、この世の終わりがそこにはあった。
すでに村から青年は消え、田の水は枯れて、畑の土は荒れて、だが年老いた村民はそれを放っておくばかり、動く気力も無く、いや、動かねばならぬことはわかるのだが、動く体力が無く、救いを待つような瞳で、救われない世界を見つめる。残された、ごく幼い子供たちも、日差しに晒され雨に濡れ、鍬と鋤を手に、骨を粉にして働かされるが、今日食う芋に困り、明日食う芋は無い。
その少女にとって世界は、この荒れた村の中、そしてその外を取り巻く藪、たったその二つしかない。鳥籠の鳥が空へは飛び立てないように、少女もまた、閉じた世界で弱っていくだけの小鳥。腰を悪くした母親と、どこかへ消えてしまった父親と、失ったものは何より多く、しかし、何を失ったかなんてことは少女はまだ知らない。何も知らない。それでも世界が、何も知らない少女が、汗を流して働くことを強いるのだ。腹を空かして働くことを強いるのだ。
日が沈む時だけ、少女はひと時の安らぎを得る。鍬や鋤が恨めし気な目をしても、日が沈めば蚊帳の外。何も知らない少女でも、知ってることは少しあった。空に輝くお天道の、ぎらぎら照らすまぶしさが、皆の笑顔を吸い取って、悲しげな大人たちの顔を、お腹の底の鈍い痛みを、この村に振りまいている。少女にとって、宵闇こそが本当の明かりで、いっそずっと夜なら、何も見えない闇の中なら、そう思っても日は昇る。まぶしいばかりで目がくらむ白さから少しでも逃げられるよう、強く目を閉じ母の隣に眠るのであった。
少女の母親は、昔はずっと美しかった、太陽が彼女から力を奪って、腰に呪いを巻きつけた。家には食べ物も無い、そればかりか、あれだけたくさんあった美しい服も、全て無くなってしまった。売ってしまったか夜盗に遭ったか、そんなことはどうでもよくて、母はただ、昔の自分がしたように、少女に着飾る楽しさを、嬉しさを、教えることができないのを、何より気にやんでいた。自分の体は動かないけれど、心だけは悲しく動く、少女は自分の身代わりに、昼には、太陽の下で痩せ細り、夜には、倒れるように眠っている。涙も枯れた母の手が、懐から取り出すのは、自分が好きだった赤い帯の、一切れ残したきれの端。着物も着れない少女のために、せめての小さな償いに、震える指で、髪を一束、震える指で、赤い花、影地に咲いた彼岸花、頭を撫でて、結び終え、悲しい世界に目を瞑る。
夜の安らぎを蹴散らして、大きな顔をした太陽が馬に乗ってやってきた。やかましく戸を叩く日光、少女は目を覚ます。いつもと同じ朝が始まって、そこで感じる違和感、何かが違う。頭を触って、何かがある。隣の母が、笑っている。いつぶりかはもうわからないけど、母が笑っていた。自分の頭に咲いた一輪の花が、母を笑顔にして、自分も笑顔になった。真っ白で何も見えない世界に、咲いた花。その花を、少女はすぐに、摘み取った。花はほどけてただの布になって、はらりと手から垂れ下がった。母の悲しむ顔をよそに、少女は母に帯を返す。私は、これを汚したくない。静かな夜に、またお花を咲かせて頂戴。熱い日差しの下に散った花は、笑顔の種を残して、満足げだった。
大人たちがやかましく何か言い合っている。鍬の重たいざくざくという音の横で、大人たちは冷や汗を流す。横目でちらりとそちらを見ると、ツンとした痛みで手の豆が潰れて、鍬がざくざくと怒り声を上げる。村の外の藪には。仕事を続けないと、また鍬が怒るような気がする、でも言葉は耳に届いている。恐ろしい妖怪が潜んでいる。妖怪とは何か、少女はすぐに思い出せなかった、鍬を握る手の痛みが、仕事を続けてくれと訴える。これ以上痛くされるのは嫌か。手の平にできた三つ子の豆も、気づけばもう皆消えていて、子供を失った親のように、きりきりと悲しげな痛みを伝える手の平に、擦れる鍬が鞭打つ。太陽はまだ真上にある。お腹が空いても日が照らす、土にまみれて忘れていた空腹が首をもたげ、いや、妖怪とは何だったか。まとまらない頭の中で少女は、思い出した。かつて美しい母がしてくれた話。人をさらう鬼。人を惑わす天狗。その時は恐ろしいと思ったのに、彼らのような力があれば、お腹いっぱい飯を食べれるのかと、うすぼんやりな視界で、世界の果ての藪の中に思いをはせた。
夜になった。ふらふらと家に帰る、母の隣に寝転がる、母は頭を撫でてくれる。そしてまた、影地に美しい花が咲いた。少女がそのまま眠ろうとすると、母が珍しく引き止めて、闇夜に犬が放たれたのだと、少女に伝える。昼間に聞いた妖怪が悪さをしているから、犬が嗅ぎつけて退治するそうだ。外を出歩くことなんてないだろうけど、とりあえず伝えておく、と。お腹を空かせた少女は本当は鬼にさらってもらいたかったが、それを母に伝える前に睡魔にさらわれ、どろりと真っ暗な闇の世界に落ちて行った。
次の朝、放たれた犬たちは死んでいた。大人たちは騒いだが、だからと言ってどうすることもできず、少しおろおろして、けれども本当のことは見えてこない。
次の日も、また次の日も、その次、その次、またその次。ずっと前から続いたように、いつまでたっても日が昇り、鍬を振り下ろす手は止められない。大人も子供も息絶え絶えに、その日をしのぐ必死な暮らし。汗に血肉が溶け出して、骸骨が皮をかぶって歩いているような人間ばかりになっていく。そんな中、少女はその生活に慣れてきたことを感じた。鍬を握る手の硬さも、腕だってしっかりしてきて、少し背が伸びた少女は、村のためを思って毎日働いた。生活は一向に良くならない、けれど、心の中にしまってある帯の花が、少女に力を与えているようだった。周りの子供たちが倒れたり、大人だって倒れるが、そうしたことに、少女は手を差し伸べる、その日一日、夜が来るまで、一生懸命に鍬を振り下ろす、やがて空が赤く染まって、うす暗がりが漂うと、西の空を少し睨んで、今日の仕事を終える。そして、夜になる。闇が辺りを包む。早く、家に帰って寝たい、早く。少女を仕事に動かすのは、もはや飢えより眠気だった。太陽が居なくなる、その安心感に包まれて、一刻も早く眠りに就きたかった。
夢を見た。ひどく不思議な夢。少女は藪の中にいた。藪の中をゆらゆらと歩いている。今まで一度も入ったことのない藪の中を、何か明確な目的を持って、ゆらゆらと、歩く。獣道とも呼べないような、草だらけの藪の中を、真っ暗闇の中を、何かを頼りに、迷わず進む。何を頼っているかはわからないし、けれどもこの先どうなるかは知っていた。進むと、道が開ける、開けたそこに、目的がある。知っていた。そして進んだ。道は開けた。そこには。そこには。
開けたそこには、たくさんの人がいた。たくさんのではなく、夥しい数の人、いや、夥しい数の、死体。去年から見なかった顔、ひと月前から居なくなった顔、鎧武者、犬、骨。それらがそこに、まき散らされ、集められていた。動くものは、あたりの草木だけで、ざわめく草木が、開けたそこに闇を湛えていた。突然、闇の中に、影が立ち上がった、近づいてくる、ゆっくりと近づいてきた影、うっすらと月明かりに照らされて、それが人の形をしていると気付く。少女と、影、向き合った。少女は急に不安に駆られる。今までは夢の中でぼやけていた視界が、急に鮮明になって、夢が夢と思えないような、はっきりとした映像。はっとして頭に手をやると、結んでいた帯は無い。影が、手を動かして、自分の頭を指さすと、果たしてそこに帯が結ばれている。そして少女ははっきり見た。自分と同じ顔の少女が、月明かりに照らされ、こちらを見ながら笑っているのを。
耳を刺す怒号に飛び起きた。大人たちが皆々に、鍬や鋤をかかえて、少女の周りを取り囲んでいた。外はまだ暗い。そして違和感、帯が外れていた。何が起きているかわからぬうちに、集団の中の気の弱そうなやつが言う。こいつが、仏様を食い漁っているところを見た、と。少女には、大人たちの声が遠くから聞こえている。まるで夢の中の出来事かのように、ぼんやりと焦点が定まらない、ので、こいつ黙っていれば許されると思っているのか、や、罰当たりな妖怪め、といった言葉は、とても遠くから聞こえてくる、母が、少女をかばって何か言って、蹴られているのも遠くの出来事。なにが、何が起きているのか、よくわからないけど、母が少女の髪を撫でて、くるりと慣れた手つきで帯を結び、その後どうなったか、意識が急に鮮明になって、夢が覚めたようだ、何で母が血を流しているのか、理解するのにほど時間はかからず、けれどもそれは重要なことではなかったように感じて、痩せ衰えた大人たちなど、奪った鍬の一振りで、真っ赤になってしまった。急激に空腹を覚え、目の前がくらむ、心地よい真っ暗だ。バキバキという大きな音と小さな満足。少女はゆらゆらと家を出る。
もともとこの村のことなど気にかけている人などいなかったかもしれない。誰かがこの村のことを覚えていたかもしれない。どちらにせよ、この村は終わってしまった。鳥籠の中は枯れ果てた。欲深き愚者たちも、罪の無い聖者たちも、いずれ連鎖の中で淘汰される。少女はそれをすべて見ていた。太陽が追いかけてくる前に、藪の外へ進まなくては、宵闇に消えなければならないと、少女は強く思う。鳥籠の中の鳥は、夜の闇へと消えていった。
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群雄割拠の戦乱の世の、栄光ある武士たちの戦いの果てに、取り残された村々は、馬の蹄に踏みつけられて、荒廃も荒廃、この世の終わりがそこにはあった。
すでに村から青年は消え、田の水は枯れて、畑の土は荒れて、だが年老いた村民はそれを放っておくばかり、動く気力も無く、いや、動かねばならぬことはわかるのだが、動く体力が無く、救いを待つような瞳で、救われない世界を見つめる。残された、ごく幼い子供たちも、日差しに晒され雨に濡れ、鍬と鋤を手に、骨を粉にして働かされるが、今日食う芋に困り、明日食う芋は無い。
その少女にとって世界は、この荒れた村の中、そしてその外を取り巻く藪、たったその二つしかない。鳥籠の鳥が空へは飛び立てないように、少女もまた、閉じた世界で弱っていくだけの小鳥。腰を悪くした母親と、どこかへ消えてしまった父親と、失ったものは何より多く、しかし、何を失ったかなんてことは少女はまだ知らない。何も知らない。それでも世界が、何も知らない少女が、汗を流して働くことを強いるのだ。腹を空かして働くことを強いるのだ。
日が沈む時だけ、少女はひと時の安らぎを得る。鍬や鋤が恨めし気な目をしても、日が沈めば蚊帳の外。何も知らない少女でも、知ってることは少しあった。空に輝くお天道の、ぎらぎら照らすまぶしさが、皆の笑顔を吸い取って、悲しげな大人たちの顔を、お腹の底の鈍い痛みを、この村に振りまいている。少女にとって、宵闇こそが本当の明かりで、いっそずっと夜なら、何も見えない闇の中なら、そう思っても日は昇る。まぶしいばかりで目がくらむ白さから少しでも逃げられるよう、強く目を閉じ母の隣に眠るのであった。
少女の母親は、昔はずっと美しかった、太陽が彼女から力を奪って、腰に呪いを巻きつけた。家には食べ物も無い、そればかりか、あれだけたくさんあった美しい服も、全て無くなってしまった。売ってしまったか夜盗に遭ったか、そんなことはどうでもよくて、母はただ、昔の自分がしたように、少女に着飾る楽しさを、嬉しさを、教えることができないのを、何より気にやんでいた。自分の体は動かないけれど、心だけは悲しく動く、少女は自分の身代わりに、昼には、太陽の下で痩せ細り、夜には、倒れるように眠っている。涙も枯れた母の手が、懐から取り出すのは、自分が好きだった赤い帯の、一切れ残したきれの端。着物も着れない少女のために、せめての小さな償いに、震える指で、髪を一束、震える指で、赤い花、影地に咲いた彼岸花、頭を撫でて、結び終え、悲しい世界に目を瞑る。
夜の安らぎを蹴散らして、大きな顔をした太陽が馬に乗ってやってきた。やかましく戸を叩く日光、少女は目を覚ます。いつもと同じ朝が始まって、そこで感じる違和感、何かが違う。頭を触って、何かがある。隣の母が、笑っている。いつぶりかはもうわからないけど、母が笑っていた。自分の頭に咲いた一輪の花が、母を笑顔にして、自分も笑顔になった。真っ白で何も見えない世界に、咲いた花。その花を、少女はすぐに、摘み取った。花はほどけてただの布になって、はらりと手から垂れ下がった。母の悲しむ顔をよそに、少女は母に帯を返す。私は、これを汚したくない。静かな夜に、またお花を咲かせて頂戴。熱い日差しの下に散った花は、笑顔の種を残して、満足げだった。
大人たちがやかましく何か言い合っている。鍬の重たいざくざくという音の横で、大人たちは冷や汗を流す。横目でちらりとそちらを見ると、ツンとした痛みで手の豆が潰れて、鍬がざくざくと怒り声を上げる。村の外の藪には。仕事を続けないと、また鍬が怒るような気がする、でも言葉は耳に届いている。恐ろしい妖怪が潜んでいる。妖怪とは何か、少女はすぐに思い出せなかった、鍬を握る手の痛みが、仕事を続けてくれと訴える。これ以上痛くされるのは嫌か。手の平にできた三つ子の豆も、気づけばもう皆消えていて、子供を失った親のように、きりきりと悲しげな痛みを伝える手の平に、擦れる鍬が鞭打つ。太陽はまだ真上にある。お腹が空いても日が照らす、土にまみれて忘れていた空腹が首をもたげ、いや、妖怪とは何だったか。まとまらない頭の中で少女は、思い出した。かつて美しい母がしてくれた話。人をさらう鬼。人を惑わす天狗。その時は恐ろしいと思ったのに、彼らのような力があれば、お腹いっぱい飯を食べれるのかと、うすぼんやりな視界で、世界の果ての藪の中に思いをはせた。
夜になった。ふらふらと家に帰る、母の隣に寝転がる、母は頭を撫でてくれる。そしてまた、影地に美しい花が咲いた。少女がそのまま眠ろうとすると、母が珍しく引き止めて、闇夜に犬が放たれたのだと、少女に伝える。昼間に聞いた妖怪が悪さをしているから、犬が嗅ぎつけて退治するそうだ。外を出歩くことなんてないだろうけど、とりあえず伝えておく、と。お腹を空かせた少女は本当は鬼にさらってもらいたかったが、それを母に伝える前に睡魔にさらわれ、どろりと真っ暗な闇の世界に落ちて行った。
次の朝、放たれた犬たちは死んでいた。大人たちは騒いだが、だからと言ってどうすることもできず、少しおろおろして、けれども本当のことは見えてこない。
次の日も、また次の日も、その次、その次、またその次。ずっと前から続いたように、いつまでたっても日が昇り、鍬を振り下ろす手は止められない。大人も子供も息絶え絶えに、その日をしのぐ必死な暮らし。汗に血肉が溶け出して、骸骨が皮をかぶって歩いているような人間ばかりになっていく。そんな中、少女はその生活に慣れてきたことを感じた。鍬を握る手の硬さも、腕だってしっかりしてきて、少し背が伸びた少女は、村のためを思って毎日働いた。生活は一向に良くならない、けれど、心の中にしまってある帯の花が、少女に力を与えているようだった。周りの子供たちが倒れたり、大人だって倒れるが、そうしたことに、少女は手を差し伸べる、その日一日、夜が来るまで、一生懸命に鍬を振り下ろす、やがて空が赤く染まって、うす暗がりが漂うと、西の空を少し睨んで、今日の仕事を終える。そして、夜になる。闇が辺りを包む。早く、家に帰って寝たい、早く。少女を仕事に動かすのは、もはや飢えより眠気だった。太陽が居なくなる、その安心感に包まれて、一刻も早く眠りに就きたかった。
夢を見た。ひどく不思議な夢。少女は藪の中にいた。藪の中をゆらゆらと歩いている。今まで一度も入ったことのない藪の中を、何か明確な目的を持って、ゆらゆらと、歩く。獣道とも呼べないような、草だらけの藪の中を、真っ暗闇の中を、何かを頼りに、迷わず進む。何を頼っているかはわからないし、けれどもこの先どうなるかは知っていた。進むと、道が開ける、開けたそこに、目的がある。知っていた。そして進んだ。道は開けた。そこには。そこには。
開けたそこには、たくさんの人がいた。たくさんのではなく、夥しい数の人、いや、夥しい数の、死体。去年から見なかった顔、ひと月前から居なくなった顔、鎧武者、犬、骨。それらがそこに、まき散らされ、集められていた。動くものは、あたりの草木だけで、ざわめく草木が、開けたそこに闇を湛えていた。突然、闇の中に、影が立ち上がった、近づいてくる、ゆっくりと近づいてきた影、うっすらと月明かりに照らされて、それが人の形をしていると気付く。少女と、影、向き合った。少女は急に不安に駆られる。今までは夢の中でぼやけていた視界が、急に鮮明になって、夢が夢と思えないような、はっきりとした映像。はっとして頭に手をやると、結んでいた帯は無い。影が、手を動かして、自分の頭を指さすと、果たしてそこに帯が結ばれている。そして少女ははっきり見た。自分と同じ顔の少女が、月明かりに照らされ、こちらを見ながら笑っているのを。
耳を刺す怒号に飛び起きた。大人たちが皆々に、鍬や鋤をかかえて、少女の周りを取り囲んでいた。外はまだ暗い。そして違和感、帯が外れていた。何が起きているかわからぬうちに、集団の中の気の弱そうなやつが言う。こいつが、仏様を食い漁っているところを見た、と。少女には、大人たちの声が遠くから聞こえている。まるで夢の中の出来事かのように、ぼんやりと焦点が定まらない、ので、こいつ黙っていれば許されると思っているのか、や、罰当たりな妖怪め、といった言葉は、とても遠くから聞こえてくる、母が、少女をかばって何か言って、蹴られているのも遠くの出来事。なにが、何が起きているのか、よくわからないけど、母が少女の髪を撫でて、くるりと慣れた手つきで帯を結び、その後どうなったか、意識が急に鮮明になって、夢が覚めたようだ、何で母が血を流しているのか、理解するのにほど時間はかからず、けれどもそれは重要なことではなかったように感じて、痩せ衰えた大人たちなど、奪った鍬の一振りで、真っ赤になってしまった。急激に空腹を覚え、目の前がくらむ、心地よい真っ暗だ。バキバキという大きな音と小さな満足。少女はゆらゆらと家を出る。
もともとこの村のことなど気にかけている人などいなかったかもしれない。誰かがこの村のことを覚えていたかもしれない。どちらにせよ、この村は終わってしまった。鳥籠の中は枯れ果てた。欲深き愚者たちも、罪の無い聖者たちも、いずれ連鎖の中で淘汰される。少女はそれをすべて見ていた。太陽が追いかけてくる前に、藪の外へ進まなくては、宵闇に消えなければならないと、少女は強く思う。鳥籠の中の鳥は、夜の闇へと消えていった。
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けれどそれでいいんでしょうね。これは
ルーミアこわいな。
貧困生活の語り方が力強くて好き
リズミカルな語り口が味でもあり読みやすさにもつながっていて、とても楽しめました
陰惨な物語ですが軽快な文体でそれをあまり感じさせないのは賛否別れるかもしれませんが
自分は好印象に思えました
次の作品も期待しています