※短いです。暇つぶしにでもサクッとどうぞ
「現実ってこの紅茶みたいな物よね」
紅魔館の主、レミリア=スカーレットは紅茶の入ったティーカップを、自分の目の高さまで持ち上げながらそんな事を呟いた。
その声は決して大きいわけではなかったが、今まで本をめくる音以外に一切の音が存在しなかった図書室だけにまるで教会の鐘を鳴らしたかのように響き渡った。
突如として鳴り響いた雑音に横で聞いていた少女、パチュリー=ノーレッジは読んでいた本を閉じ、訝しげな顔をしながら彼女の方向へと向き直る。
「……どうしたのいきなり?」
「パチェはそうだとは思わない?」
パチュリーの質問を無視するがの如く、レミリアは言葉を続ける。
一見すると何とも一方的……いや、事実一方的な会話なのだが、お互いの性格を知り尽くした彼女達にとっては、そんなやり取りですらも一種の挨拶のように当然な事だった。
「紅茶ってそのままだと苦くて飲めたものじゃないでしょ」
別にそんな事はないでしょう……とパチュリーは思ったが、話の腰を折るのも何なので形だけでも頷いておく。
彼女が頷くのを満足そうに眺めていたレミリアは、手元にあった角砂糖をまるでどばどばーという音が聞こえそうな程、躊躇いなく紅茶の中へと投下した。
耐性のない者がみれば、それだけで気持ちが悪くなる事請け合いだろう。
「だからこうやって砂糖を入れて味を誤魔化す訳。……うん、美味しいわ」
溶け切らなかった砂糖がカップの底に沈殿しているが、レミリアは気にせず言葉を続ける。
「現実だって同じよ。退屈でくだらない暮らしを弾幕ごっこと言う砂糖で誤魔化してる」
「……なるほどね」
そもそも「幻想」郷で現実を語るというのも中々にシュールな光景なのだが、二人は気にする風でも無く紅茶を口へと運ぶ。
結局の所レミリアは退屈なのだ。彼女の言うところの紅茶の苦さに耐えかねたため、パチュリーに砂糖とまでは行かなくてもそれを紛らわして欲しくてこんな話を始めたのだ。
その事を既に理解していたパチュリーは、その後も延々とレミリアの婉曲した愚痴を聞いてやるのだった。
「失礼します」
二人の声だけが響き渡っていた図書室に、ノックの音と共にもう一つの声が侵入する。
その声の主が一体誰何なのかわかっていたレミリアは扉に向かって「どうぞ」と一声掛け、自分の忠実な従者である十六夜咲夜を招きいれた。
「あら、咲夜。貴女は砂糖を持ってきてくれたのかしら?」
「お砂糖……ですか? そこの容器にまだたっぷり入ってますが……」
「気にしなくて良いわ。それよりお茶のおかわりを貰えるかしら」
「かしこまりました、パチュリー様。ですがその前にお嬢様にお伝えしたい事が……」
咲夜はそう言ってパチュリーに一礼すると、自分の主である吸血鬼の方向へと向き直る。
対するレミリアはその報告が自分の退屈を紛らわしてくれるのではないかと言う期待からか、待ちきれない様子で従者に先を促した。そして従者の運んできた報告はレミリアの期待に応えるには十分だった。
「霊夢がお嬢様にお目通りを願っています」
「やった! 最高の砂糖だわ!」
まさに永遠に幼き……という言葉が適当といえるであろう、子供のように無邪気な笑顔を浮かべるレミリア。咲夜は自分の主のそんな姿を見て、少し複雑そうな顔をしながら付け足した。
「何やら随分と怒っていたようですが……」
「レミィ、貴女一体何をしたの?」
「さぁ? 心当たりが多すぎてわからないわ」
呆れた様子の友人と溜息を吐く従者を尻目に、紅魔館の主はすくっと立ち上がった。
これから彼女は自分のティーカップに砂糖を満たしに行くのだろう。
それこそ、溶け切らず沈殿してしまう程にたっぷりと。
「ああ、そうだ。レミィ……聞き忘れてたんだけど」
パチュリーの言葉に、まさに今図書室の扉を開けようとしているレミリアは彼女へと振り返る。
早く砂糖を入れたいという様子を隠せないレミリアに対し、恐らくストレートティーも行けるであろう彼女は最後にこう尋ねた。
「砂糖の入った紅茶の事は……貴女はどう思っているの?」
ガチャッという扉の音とレミリアの不敵とも無邪気とも取れる笑い声が室内に響き渡る。
事態を上手く呑み込めていない咲夜を置き去りにして、レミリアとパチュリーは二人顔をあわせて笑いあった。
最後のレミリアの答えは聞くまでも無かったのかもしれない。
「当然、大好きよ」
「現実ってこの紅茶みたいな物よね」
紅魔館の主、レミリア=スカーレットは紅茶の入ったティーカップを、自分の目の高さまで持ち上げながらそんな事を呟いた。
その声は決して大きいわけではなかったが、今まで本をめくる音以外に一切の音が存在しなかった図書室だけにまるで教会の鐘を鳴らしたかのように響き渡った。
突如として鳴り響いた雑音に横で聞いていた少女、パチュリー=ノーレッジは読んでいた本を閉じ、訝しげな顔をしながら彼女の方向へと向き直る。
「……どうしたのいきなり?」
「パチェはそうだとは思わない?」
パチュリーの質問を無視するがの如く、レミリアは言葉を続ける。
一見すると何とも一方的……いや、事実一方的な会話なのだが、お互いの性格を知り尽くした彼女達にとっては、そんなやり取りですらも一種の挨拶のように当然な事だった。
「紅茶ってそのままだと苦くて飲めたものじゃないでしょ」
別にそんな事はないでしょう……とパチュリーは思ったが、話の腰を折るのも何なので形だけでも頷いておく。
彼女が頷くのを満足そうに眺めていたレミリアは、手元にあった角砂糖をまるでどばどばーという音が聞こえそうな程、躊躇いなく紅茶の中へと投下した。
耐性のない者がみれば、それだけで気持ちが悪くなる事請け合いだろう。
「だからこうやって砂糖を入れて味を誤魔化す訳。……うん、美味しいわ」
溶け切らなかった砂糖がカップの底に沈殿しているが、レミリアは気にせず言葉を続ける。
「現実だって同じよ。退屈でくだらない暮らしを弾幕ごっこと言う砂糖で誤魔化してる」
「……なるほどね」
そもそも「幻想」郷で現実を語るというのも中々にシュールな光景なのだが、二人は気にする風でも無く紅茶を口へと運ぶ。
結局の所レミリアは退屈なのだ。彼女の言うところの紅茶の苦さに耐えかねたため、パチュリーに砂糖とまでは行かなくてもそれを紛らわして欲しくてこんな話を始めたのだ。
その事を既に理解していたパチュリーは、その後も延々とレミリアの婉曲した愚痴を聞いてやるのだった。
「失礼します」
二人の声だけが響き渡っていた図書室に、ノックの音と共にもう一つの声が侵入する。
その声の主が一体誰何なのかわかっていたレミリアは扉に向かって「どうぞ」と一声掛け、自分の忠実な従者である十六夜咲夜を招きいれた。
「あら、咲夜。貴女は砂糖を持ってきてくれたのかしら?」
「お砂糖……ですか? そこの容器にまだたっぷり入ってますが……」
「気にしなくて良いわ。それよりお茶のおかわりを貰えるかしら」
「かしこまりました、パチュリー様。ですがその前にお嬢様にお伝えしたい事が……」
咲夜はそう言ってパチュリーに一礼すると、自分の主である吸血鬼の方向へと向き直る。
対するレミリアはその報告が自分の退屈を紛らわしてくれるのではないかと言う期待からか、待ちきれない様子で従者に先を促した。そして従者の運んできた報告はレミリアの期待に応えるには十分だった。
「霊夢がお嬢様にお目通りを願っています」
「やった! 最高の砂糖だわ!」
まさに永遠に幼き……という言葉が適当といえるであろう、子供のように無邪気な笑顔を浮かべるレミリア。咲夜は自分の主のそんな姿を見て、少し複雑そうな顔をしながら付け足した。
「何やら随分と怒っていたようですが……」
「レミィ、貴女一体何をしたの?」
「さぁ? 心当たりが多すぎてわからないわ」
呆れた様子の友人と溜息を吐く従者を尻目に、紅魔館の主はすくっと立ち上がった。
これから彼女は自分のティーカップに砂糖を満たしに行くのだろう。
それこそ、溶け切らず沈殿してしまう程にたっぷりと。
「ああ、そうだ。レミィ……聞き忘れてたんだけど」
パチュリーの言葉に、まさに今図書室の扉を開けようとしているレミリアは彼女へと振り返る。
早く砂糖を入れたいという様子を隠せないレミリアに対し、恐らくストレートティーも行けるであろう彼女は最後にこう尋ねた。
「砂糖の入った紅茶の事は……貴女はどう思っているの?」
ガチャッという扉の音とレミリアの不敵とも無邪気とも取れる笑い声が室内に響き渡る。
事態を上手く呑み込めていない咲夜を置き去りにして、レミリアとパチュリーは二人顔をあわせて笑いあった。
最後のレミリアの答えは聞くまでも無かったのかもしれない。
「当然、大好きよ」
何気ない日常風景がよく描けていると思いました。
面白かったですよ。
紅茶という変わらない日常に、砂糖という何かを混ぜるという例えは面白いものでした。
中々、面白い内容のお話でした。
それは世界そのものが変わってしまうということになるんだろうか
紅茶を世界に喩えたお話は中々に興味深かった
作者さんのもうちょい長めの話を読んでみたいな。
良いですねぇ、大好きですこういうの。
少しのティータイムでも十分に糖分を摂取して安らげる、本当に紅茶のような作品だったと思います。
短くても話がしっかりしてて面白かったです。
明日は紅茶でも飲もうかな。
サクッと読ませていただきましたぁん!
またの機会も期待してます!