私は騒霊。
幽霊のようにふわふわと飛び回る事もなく、亡霊のように強い念を抱く事もない曖昧な存在。
曖昧な存在の騒霊には、その存在意義を補完する為に、拠り所という物がある。
私の拠り所は、私が今居るこの古びた洋館。
私以外は誰も居ない、この古びた洋館。
ここに人が住まなくなってから、一体、どれだけの月日が流れた事か。
もう良く思い出せない。
でも、1つだけ確かな事は、それだけ永い時間が経ったという事。
そんな私に出来る事はたった1つ。
シャンデリアにテーブル、ティーカップにお皿。
ここに残る僅かな生活の痕跡を揺り動かす。
それが私に出来る最大の、そして唯一の意思表示。
たったそれだけ。
この洋館から住人が居なくなった後も、時々人間はやってきた。
ある者は降りしきる雨を凌ぎに。
ある者は好奇心に揺り動かされて。
また、ある者は住処になるかどうかを調べに。
人間が来る度に、私は張り切った。
私の存在を認めて欲しかったから。
人間が来る度に、私は必死に動かした。
壊れたティーカップを、埃まみれのシャンデリアを。
でも、人間が来る度に、私は悲しい思いをした。
気味の悪い洋館で起きた、気味の悪い現象。
逃げ出すなという方が土台おかしな話だったのだ。
もうため息すら起こらないくらい、それは当たり前の出来事だった。
当たり前に時は過ぎ去り、
当たり前に忘れ去られていく。
そう、私は忘れ去られし騒霊。
もはや、自身の姿さえ見てもらえなくなってしまった、忘れ去られし騒霊。
私の名はカナ=アナベラル。
「あら~、こんなところにもお仲間さんが居るのね~」
突然の声で眠りから覚める。
肌に感じる温かで穏やかな風、耳に届く朗らかな小鳥のさえずり。
目を開けずともわかる、幻想郷の昼下がりの様子。
「ねぇねぇ、姉さん達!!! この洋館面白そうだよ!!」
少し遠くの方でまた別の声がする。
この部屋の外、廊下の向こう辺りだろうか。
「リリカ、今は彼女の事が先でしょう?」
彼女? 彼女とは私の事だろうか。
「はーい、ごめんなさい、ルナサ姉さん」
ちょっと、気落ちした声が私の耳にも届く。
そこで、ふと、私はある事に気付いた。
私は騒霊、忘れ去られし騒霊。
なのに、どうして彼女達に私が見える?
意識が急速に覚めていく。
私が、閉じていた目を開けると、
青い帽子を被った女の子が、ぐぃっと私の顔を覗き込んでいた。
「あ、姉さん、気が付いたみたいよ~」
そう言いながら、彼女は廊下の方へと消えていく。
そんな彼女の姿をぼぅっと視界に収めながら、
私は改めて、ぐるりと周りを見渡してみた。
まずは、閉め切られていたはずの窓は開け放たれていて、穏やかな風が吹きこんでいる。
そして、その窓の外には、温かな木漏れ日と爽やかにざわめく木々が見えていて、
時折、小鳥のさえずりも聞こえていた。
ここも、昼間は案外心地良い場所なんだけどな……
ふと、心の中で、一人ごちてみる。
その時、先程の青い帽子の女の子が、黒い服を着た女の子と、赤い服を着た女の子を連れてやってきた。
青い帽子の女の子も良く見れば、青い服を着ている。
「貴方達は誰?」
「私の名はルナサ・プリズムリバー。妹達とプリズムリバー楽団という楽団を結成しているの。
えーと、こっちが次女のメルランで、こっちが三女のリリカ」
「貴女と同じ、騒霊よ」
「そう……」
その割には、存在もしっかりしているし、別段、忘れられているというわけでもなさそうだ。
日に日に存在が薄まっている私とは違って。
「私は、カナ・アナベラル。ポルターガイストが起こせるだけの騒霊よ」
騒霊に騒霊と言っても仕方が無いのに……
と、再び心の中でごちてみる。
でも、悲しい事に、本当にそうとしか言いようがなかったのだ。
彼女達のように何か特別な事をしているのではないのだから。
ポルターガイストなど、彼女達にしてみれば、取るに足らない事にすぎないだろう。
「そこの黒い貴女、ルナサって言ったっけ? 楽団って言ってたけど、貴女は何の楽器を使っているの?」
「私の担当は、弦楽器よ。鬱の音を操っているわ。せっかくだから、メルランとリリカにも紹介させたいんだけど」
良いかしらと、確認を取る彼女。
不意に目が合った彼女に対し、私はコクンと頷いた。
「じゃあ私から~。えーと、担当は管楽器で、操るのは躁の音、好きな物はぐるぐるしたものね~」
「メルラン姉さん! いつも言ってるけど、それ意味わかんないよ! ぐるぐるって何よ、ぐるぐるって!」
「リリカちゃん何言ってるの~、ぐるぐるはぐるぐるじゃない~!」
「あ、私の担当は鍵盤楽器だよ! 私が操るのは幻想の音、『想い』の音なの」
私には、三人は本当に楽しそうで、希望に満ち溢れているように見えた。
存在が薄まりがちな騒霊とはいえ、音楽という強い目的があるから、確かに存在する事を許される。
――私とは違うのだ。
今の私には、最早そんな目的などはない。
――そう、同じ騒霊でありながら。
その時、私の中に、ゆらりと黒々とした感情が沸き起こってきた。
「私は貴女達のようにはいかないわ」
「貴女達は同じ騒霊だから見えるのかもしれないけど、私は既に誰からも忘れ去られた存在なの」
気まずい沈黙が、場を支配する。
しばらくして、それを打ち破ったのは、ルナサと名乗る少女の一言だった。
「貴女、もし良ければ、私達の演奏を聴いてもらえないかしら?」
それは、余りに突然の申し入れだった。
「鎮魂曲(レクイエム)のつもりかしら?」
精一杯の強がりを込めて、私は言葉を返す。
しかし彼女は、優しげな微笑みでその言葉を受け止めて、こう口にしたのだ。
「いいえ、ただの合奏曲(アンサンブル)よ」
「出会いの記念に貴女に贈る、ね」
そうして、演奏の準備が開始される。
それぞれが手にする楽器は、ヴァイオリン、トランペット、キーボード。
楽器を持った彼女達が所定の位置に付く。
互いに目で合図を送り合うその表情は、真剣そのもの。
まさに正真正銘の本気の演奏である事を予感させるものであった。
その中で唯一、不思議な点はと言えば、その彼女達の立ち位置。
三人が1対2に分かれていて、その真ん中がぽっかりと空いている事だった。
「私達が演奏する時のポジションは、いつもこんな感じよ~」
度々、疑問を投げかけられるのだろう。
私の視線に気づいたメルランと名乗る少女は、笑顔を浮かべて、そう口にした。
ほどなくして、音が紡がれ始める。
まず流れ始めたのは、静かなキーボードの旋律。
それが、今まで私が体験した事がなかった高揚感の始まりだった。
しばらくすると、ヴァイオリンの重厚な音が合わさって、
儚げな音色のキーボードと共に、より深みを増した音が紡がれていく。
そして、サビの部分を盛り上げる華やかなトランペット。
三者三様の特徴が、個性が、奏で合って生まれるハーモニー。
音楽が良くわからない私には上手く説明は出来ないけれど、
そんな私でも、只々聞き惚れたそれは、まさに綺麗な調和で魅せる合奏曲(アンサンブル)だった。
「……御静聴、感謝します」
あっという間に演奏は終わり、彼女達がペコリ、とお辞儀をする。
「す、凄い……かも」
口から出たそれは、偽らざる私の本音だった。
先程沸き起こった黒い感情など、綺麗に消えて無くなってしまうほどの演奏。
まぎれもなく、心からの拍手を送るに相応しい演奏だった。
「かも、じゃなくて凄いんだよ♪」
「こら、リリカ」
「えへへ、ごめん姉さん」
「どんなきっかけがあれば、そんなに上手な演奏が出来るようになるのかしら?」
何気なく疑問に思って、私が呟いた一言。
決して悪気があったわけではない。
私としては、どんな華やかなきっかけがあるのだろうか、と期待して発した一言だった。
しかしその瞬間、彼女達三人は、それまでの嬉しそうな表情をさらにほころばせるどころか、
一転して、少し憂いを帯びた寂しげな表情で顔を見合わせたのだった。
その瞬間、彼女達三人は、少し憂いを帯びた寂しげな表情で顔を見合わせた。
「実は、私達姉妹には四女が居たの。レイラ、という名前のね」
その昔、レイラという名の少女が居た。
彼女は、名家プリズムリバー家の四女として三人の姉と共に幸せな日々を送っていた。
だが、ある日突然、プリズムリバー家は離散の憂き目にあってしまう。
その時にバラバラになってしまった姉妹が再開を果たせる可能性は、もはや限りなくゼロに近かった。
だけど、それでもレイラは会いたかった。
そして、現実で会う事が叶わぬのなら、せめてそれに類した物に、と考えた。
四女のレイラはそれほど強い想いを持っていた。
レイラ・プリズムリバー。
つまりそれは、プリズムリバー姉妹の四女にして、彼女達三人の「生みの親」の名前。
「何だか……その……ごめんなさい」
私は、気まずさから、謝罪の言葉を口にした。
「良いのよ~、気にしないでちょうだい」
「えぇ、こちらこそ、変な思いをさせてしまってごめんなさい」
そう言いつつ彼女達は再び穏やかな、そして懐かしむような表情を浮かべながら、
しみじみとこう切り出したのだ。
「私達が存在しうるのはレイラのおかげなんだよね」
「さっきの質問に答えるとね、レイラちゃんの為に、私達は音楽を覚えたの」
「あの子は、亡くなる直前まで、私達に笑顔で接してくれたわ」
「だから、亡くなった後は、私達がレイラちゃんを楽しませてあげたかったのよ」
言わずともわかる。
彼女、レイラ・プリズムリバーは、最後まで笑顔を絶やさなかった。
騒霊である彼女達に、生き別れた「本物の姉妹」の影を重ね合わせて。
だから、彼女のその笑顔は、ひどく寂しげだったに違いない。
決して叶う事の無い願いを抱いて、決して叶わない夢の為に。
彼女は命が尽きるその時まで、再開を果たす為の準備を絶やさなかったはず。
どんなに叶わぬと解っていても、笑顔を絶やさないでその時を待つ事が、
再開を果たす事が出来る手段だと信じていたに違いない。
何故、私にこんな事が言えるのか。
それは私が、私の知っている「ある騒霊」の事を思い出したからだ。
決して叶う事の無い願いを抱いて、決して叶わない夢の為に。
相手にされなくなってもなお、忘れ去られてもなお、自身の存在を認めてもらおうとした騒霊が居た。
どんなに叶わぬと解っていても、生活の痕跡を揺り動かし続ける事が、
誰かに気付いて貰う事が出来る手段だと信じた騒霊が居たからだ。
「レイラは歌が好きだったよね」
「そうね~、みんなに好かれる子だったわね~」
遠く懐かしい物を見るように、話す二人。
「そうね、あの子はさしずめ……」
ルナサと名乗る少女は少し考える様子を見せた後、
「…………愛の音」
そう小さく呟いた。
「あの子が今もなお、音を奏で、歌を紡ぐ事が出来るとしたら、それは愛の音かもしれないわね」
そう、彼女達にとってもまた、「彼女」はかけがえのない存在だったのだ。
「あの子はもう居ないけれど、あの子の帰ってくる場所はあるわ」
「私達が演奏し続けているのはその為でもあるのよ~」
「あの子は、みんなの笑顔が一番好き、といつも言ってたわ」
「だから、今度は私達がレイラの帰りを待ってあげなくちゃ」
「笑顔で、ね」
「そうだわ!」
しんみりとした静けさを破るようにして、ひときわ明るい声が響き渡った。
「貴女も一緒に演奏してみないかしら~?」
さっきよりさらに唐突な提案。
発言の主は、一番明るそうなメルランと名乗る少女だった。
「それ、良いね! うん、偶にはメルラン姉さんも良い事言うじゃない!」
「“偶には”は余計よ~、リリカちゃん」
「で、でも、私は何も……」
そう、この少女達と違って、私には楽器なんか扱う事は出来ない。
しかし、さも名案とばかりに、話はどんどん先へと進んでいく。
「そうね、貴女に担当してもらうのは打楽器、リリカのような鍵盤楽器ではなくて、普通の打楽器よ」
「いや、だから楽器なんて私には……」
「構わないわ。貴女はポルターガイストを起こしてくれるだけで良いんだから」
え? ポルターガイストを起こせって……
確かに私に出来る事と言えば、そんな事くらいしかないけれど……
「ポルターガイストっていうのは~、色々な物が動いて壁や床にぶつかるでしょ~」
「そう、私達は貴女の出す音に合わせて音を出すわ。だから、貴女は好きなように音を奏でてくれるだけでいい」
す、好きなようにって。
そんな滅茶苦茶な音楽があるだろうか。
「あ、貴女達は楽団なんでしょ?」
そう問わずにはいられなかった。
でも、そんな私の懐疑と戸惑いとは裏腹に、
彼女達は心底、嬉しげに、体中からやる気を満ち溢れさせながら口々に言ったのだ。
「私達、プリズムリバー楽団を舐めないでよねっ!」
「どんな音でも、良い演奏にしてあげるわ~」
「音楽の本質は騒がしさ、つまり、音を出す事こそが最も重要なの。そして、貴女にはそれが出来るわ」
こうして、彼女達に気圧される形で二度目の演奏の準備が始まった。
無論、楽器もろくに扱えない私を新たに入れてである。
「隊形を変えましょう、前に二人、後ろに二人」
早速、指示が飛んで、前列左でヴァイオリン、真ん中が空いて、同じく右にトランペット。
そして、後列中央左寄りに私、同じく中央右寄りにキーボード、という形を取る。
「ふふ、姉さんにリリカちゃん、何だかこうしてると、レイラちゃんが居るみたいね」
例えられたのは、彼女達の大事な大事な妹。
さっきあんな話を聞いた直後なだけに、少し緊張が走る。
「じゃあ、始めましょうか、準備は良い?」
「う、うん」
そして、合図を聞いてもなお、決心の付かない私の心を押すかのように、
リリカと名乗る少女の元気な声が響き渡った。
「ほら、早く早く♪ どんな音でも大丈夫だから!」
かくして、本日二度目の演奏が始まった。
重厚なヴァイオリンの音色、華やかなトランペットの音色、儚げなキーボードの音色。
そして、カチャン、ガタンッというポルターガイストで生み出される騒々しい音。
はっきり言って、私の耳には、到底まともな音楽には聴こえない。
それは、先程の三人による演奏とはまるで違って、ひどく不格好で稚拙極まりない音楽。
それは確実に、私の出している“騒音”のせいだ。
彼女達は私の出す騒音に合った音を奏でているのだから。
でも、演奏している彼女達の表情は、とても満足そうで、楽しそうで。
まるで、音を出す事自体を楽しむ幼子のように。
正直なところ、私も少しだけ楽しいと思っていた。
何故なら、誰かと一緒に、「四人」が一緒に音楽を奏であう。
そこには確かに、私が久しく感じていなかった「他者との関わりから生まれる幸福」があったからだ。
幸福感に酔いしれたその中で、再び脳裏に浮かんできたのは、さっき聞いたばかりの「彼女」の事。
皆が笑っているのが一番好きと言っていた「彼女」が、レイラという女の子が。
ずっと望み続けていた世界、一度で良いから取り戻したいと願った世界はこんな感じだったのかな、と。
――そう思った時だった。
左右で2対2に分かれたちょうど真ん中。
思えば、姉妹による最初の演奏の時にも、不思議に空けてあった空間。
もしかしたら、いかなる演奏の時にも「必ず空けてあったスペース」
そこに「彼女」が居た。
両手を胸の前で軽く握し締め、顎をほんの少しだけ上げ加減にした、
あたかも歌っているかのような仕草をした女の子の姿が。
緑色の髪をした女の子の姿が。
そして、不思議な事に、奏でられる音色は五重になっていた。
相変わらずの拙い音楽の中で、確かに五重になっていた。
ふと、気付くと私を含む全員が「そこ」を見ていた。
温かな雰囲気を纏った緑色の髪の少女の方を。
でも、しばらくして私は気付いた。いや、気づいてしまった。
彼女達、三姉妹が五本目の旋律を生み出していた事を。
レイラを喜ばせたいと願って、身に付けた技によって。
そして、その瞬間、そこに女の子の姿は無くなった。
相変わらず、拙い演奏は続いていく。
やがて騒音混じりの拙い演奏は終わった。
あの時、皆が意識していた事は間違いないはずだ。
つまり、あの時、あの瞬間、五本目の音が奏でられた時点で、
「彼女」が居た事は、全員が認識していたに違いない。
はたして、彼女達が五本目の旋律を生みだしたから、「彼女」がそこに居るように見えたのか。
それとも、「彼女」がそこに居たから、彼女達は五本目の旋律を新たに奏でたのか。
あるいは、五本目の旋律を奏でたのは、実は「彼女」自身だったのか。
「何よ、全然出来るじゃない!」
「良い演奏だったわね~」
「でも、私が出した音なんて……」
そう、私はポルターガイストを起こして、ただ闇雲に音を掻き鳴らしていただけ。
そこにはおごそかな響きも無ければ、軽やかなリズムも無い、本当に取るに足らない騒音。
しかし、ルナサと名乗る少女がそれを打ち消す。
「楽譜なんて枝葉末節にすぎない。音楽の本質は“音楽を真似る事”ではなく“音を出す事”よ」
「“そして、貴女にはそれが出来ていたわ” ふふ、ルナサ姉さんのそれ、口癖よね!」
「リ、リリカ、貴女にも口癖はあるわ。“幻想の音を使える私は偉い”って」
「そうよ~、リリカちゃん、いつも言ってるわ~」
「むぅ~、メルラン姉さんの“音楽はぐるぐるよ!”よりはマシだと思うんだけど!」
「それについては同感ね……」
「うぅ、姉さんもリリカちゃんもひどいのね」
そして……
「楽しかったでしょ?」
彼女達は私にそう問いかけてきた。
「そうね」
「……悪くはなかったわ」
我ながら、素直ではない答えだと思う。
本当はとても楽しくて幸せだった。
何故なら、生活の痕跡を動かす、すなわち、ポルターガイストを起こした事で、
こんなに温かな気持ちになれたのは初めてだったから。
決して役に立つわけでもなく、誰かの為になるわけでもない。
だけど、誰かに気味悪がられるでもなく、恐れられるでもなく。
「ありがとう、こっちも楽しかったよ!」
「貴女の演奏も良かったわ~」
「またの機会があれば、ぜひというところね」
こうして、私の存在を認めてくれる存在があったのだから。
それに、もしかしたら、ほんの少しは誰かの為になったのかもしれない。
それを裏付けるように彼女達はこう付け足す。
「レイラもきっと喜ぶと思うわ」
「“みんなが笑っていて欲しい”というのがあの子の願いだったのだから」
「レイラちゃんの願いが叶えば、私達も嬉しいものね」
ならば、彼女の願いは叶ったに違いない。
何故なら、あの時私だって確かに、幸せな気持ちを味わったんだから。
幽霊のようにふわふわと飛び回る事もなく、亡霊のように強い念を抱く事もない曖昧な存在。
曖昧な存在の騒霊には、その存在意義を補完する為に、拠り所という物がある。
私の拠り所は、私が今居るこの古びた洋館。
私以外は誰も居ない、この古びた洋館。
ここに人が住まなくなってから、一体、どれだけの月日が流れた事か。
もう良く思い出せない。
でも、1つだけ確かな事は、それだけ永い時間が経ったという事。
そんな私に出来る事はたった1つ。
シャンデリアにテーブル、ティーカップにお皿。
ここに残る僅かな生活の痕跡を揺り動かす。
それが私に出来る最大の、そして唯一の意思表示。
たったそれだけ。
この洋館から住人が居なくなった後も、時々人間はやってきた。
ある者は降りしきる雨を凌ぎに。
ある者は好奇心に揺り動かされて。
また、ある者は住処になるかどうかを調べに。
人間が来る度に、私は張り切った。
私の存在を認めて欲しかったから。
人間が来る度に、私は必死に動かした。
壊れたティーカップを、埃まみれのシャンデリアを。
でも、人間が来る度に、私は悲しい思いをした。
気味の悪い洋館で起きた、気味の悪い現象。
逃げ出すなという方が土台おかしな話だったのだ。
もうため息すら起こらないくらい、それは当たり前の出来事だった。
当たり前に時は過ぎ去り、
当たり前に忘れ去られていく。
そう、私は忘れ去られし騒霊。
もはや、自身の姿さえ見てもらえなくなってしまった、忘れ去られし騒霊。
私の名はカナ=アナベラル。
「あら~、こんなところにもお仲間さんが居るのね~」
突然の声で眠りから覚める。
肌に感じる温かで穏やかな風、耳に届く朗らかな小鳥のさえずり。
目を開けずともわかる、幻想郷の昼下がりの様子。
「ねぇねぇ、姉さん達!!! この洋館面白そうだよ!!」
少し遠くの方でまた別の声がする。
この部屋の外、廊下の向こう辺りだろうか。
「リリカ、今は彼女の事が先でしょう?」
彼女? 彼女とは私の事だろうか。
「はーい、ごめんなさい、ルナサ姉さん」
ちょっと、気落ちした声が私の耳にも届く。
そこで、ふと、私はある事に気付いた。
私は騒霊、忘れ去られし騒霊。
なのに、どうして彼女達に私が見える?
意識が急速に覚めていく。
私が、閉じていた目を開けると、
青い帽子を被った女の子が、ぐぃっと私の顔を覗き込んでいた。
「あ、姉さん、気が付いたみたいよ~」
そう言いながら、彼女は廊下の方へと消えていく。
そんな彼女の姿をぼぅっと視界に収めながら、
私は改めて、ぐるりと周りを見渡してみた。
まずは、閉め切られていたはずの窓は開け放たれていて、穏やかな風が吹きこんでいる。
そして、その窓の外には、温かな木漏れ日と爽やかにざわめく木々が見えていて、
時折、小鳥のさえずりも聞こえていた。
ここも、昼間は案外心地良い場所なんだけどな……
ふと、心の中で、一人ごちてみる。
その時、先程の青い帽子の女の子が、黒い服を着た女の子と、赤い服を着た女の子を連れてやってきた。
青い帽子の女の子も良く見れば、青い服を着ている。
「貴方達は誰?」
「私の名はルナサ・プリズムリバー。妹達とプリズムリバー楽団という楽団を結成しているの。
えーと、こっちが次女のメルランで、こっちが三女のリリカ」
「貴女と同じ、騒霊よ」
「そう……」
その割には、存在もしっかりしているし、別段、忘れられているというわけでもなさそうだ。
日に日に存在が薄まっている私とは違って。
「私は、カナ・アナベラル。ポルターガイストが起こせるだけの騒霊よ」
騒霊に騒霊と言っても仕方が無いのに……
と、再び心の中でごちてみる。
でも、悲しい事に、本当にそうとしか言いようがなかったのだ。
彼女達のように何か特別な事をしているのではないのだから。
ポルターガイストなど、彼女達にしてみれば、取るに足らない事にすぎないだろう。
「そこの黒い貴女、ルナサって言ったっけ? 楽団って言ってたけど、貴女は何の楽器を使っているの?」
「私の担当は、弦楽器よ。鬱の音を操っているわ。せっかくだから、メルランとリリカにも紹介させたいんだけど」
良いかしらと、確認を取る彼女。
不意に目が合った彼女に対し、私はコクンと頷いた。
「じゃあ私から~。えーと、担当は管楽器で、操るのは躁の音、好きな物はぐるぐるしたものね~」
「メルラン姉さん! いつも言ってるけど、それ意味わかんないよ! ぐるぐるって何よ、ぐるぐるって!」
「リリカちゃん何言ってるの~、ぐるぐるはぐるぐるじゃない~!」
「あ、私の担当は鍵盤楽器だよ! 私が操るのは幻想の音、『想い』の音なの」
私には、三人は本当に楽しそうで、希望に満ち溢れているように見えた。
存在が薄まりがちな騒霊とはいえ、音楽という強い目的があるから、確かに存在する事を許される。
――私とは違うのだ。
今の私には、最早そんな目的などはない。
――そう、同じ騒霊でありながら。
その時、私の中に、ゆらりと黒々とした感情が沸き起こってきた。
「私は貴女達のようにはいかないわ」
「貴女達は同じ騒霊だから見えるのかもしれないけど、私は既に誰からも忘れ去られた存在なの」
気まずい沈黙が、場を支配する。
しばらくして、それを打ち破ったのは、ルナサと名乗る少女の一言だった。
「貴女、もし良ければ、私達の演奏を聴いてもらえないかしら?」
それは、余りに突然の申し入れだった。
「鎮魂曲(レクイエム)のつもりかしら?」
精一杯の強がりを込めて、私は言葉を返す。
しかし彼女は、優しげな微笑みでその言葉を受け止めて、こう口にしたのだ。
「いいえ、ただの合奏曲(アンサンブル)よ」
「出会いの記念に貴女に贈る、ね」
そうして、演奏の準備が開始される。
それぞれが手にする楽器は、ヴァイオリン、トランペット、キーボード。
楽器を持った彼女達が所定の位置に付く。
互いに目で合図を送り合うその表情は、真剣そのもの。
まさに正真正銘の本気の演奏である事を予感させるものであった。
その中で唯一、不思議な点はと言えば、その彼女達の立ち位置。
三人が1対2に分かれていて、その真ん中がぽっかりと空いている事だった。
「私達が演奏する時のポジションは、いつもこんな感じよ~」
度々、疑問を投げかけられるのだろう。
私の視線に気づいたメルランと名乗る少女は、笑顔を浮かべて、そう口にした。
ほどなくして、音が紡がれ始める。
まず流れ始めたのは、静かなキーボードの旋律。
それが、今まで私が体験した事がなかった高揚感の始まりだった。
しばらくすると、ヴァイオリンの重厚な音が合わさって、
儚げな音色のキーボードと共に、より深みを増した音が紡がれていく。
そして、サビの部分を盛り上げる華やかなトランペット。
三者三様の特徴が、個性が、奏で合って生まれるハーモニー。
音楽が良くわからない私には上手く説明は出来ないけれど、
そんな私でも、只々聞き惚れたそれは、まさに綺麗な調和で魅せる合奏曲(アンサンブル)だった。
「……御静聴、感謝します」
あっという間に演奏は終わり、彼女達がペコリ、とお辞儀をする。
「す、凄い……かも」
口から出たそれは、偽らざる私の本音だった。
先程沸き起こった黒い感情など、綺麗に消えて無くなってしまうほどの演奏。
まぎれもなく、心からの拍手を送るに相応しい演奏だった。
「かも、じゃなくて凄いんだよ♪」
「こら、リリカ」
「えへへ、ごめん姉さん」
「どんなきっかけがあれば、そんなに上手な演奏が出来るようになるのかしら?」
何気なく疑問に思って、私が呟いた一言。
決して悪気があったわけではない。
私としては、どんな華やかなきっかけがあるのだろうか、と期待して発した一言だった。
しかしその瞬間、彼女達三人は、それまでの嬉しそうな表情をさらにほころばせるどころか、
一転して、少し憂いを帯びた寂しげな表情で顔を見合わせたのだった。
その瞬間、彼女達三人は、少し憂いを帯びた寂しげな表情で顔を見合わせた。
「実は、私達姉妹には四女が居たの。レイラ、という名前のね」
その昔、レイラという名の少女が居た。
彼女は、名家プリズムリバー家の四女として三人の姉と共に幸せな日々を送っていた。
だが、ある日突然、プリズムリバー家は離散の憂き目にあってしまう。
その時にバラバラになってしまった姉妹が再開を果たせる可能性は、もはや限りなくゼロに近かった。
だけど、それでもレイラは会いたかった。
そして、現実で会う事が叶わぬのなら、せめてそれに類した物に、と考えた。
四女のレイラはそれほど強い想いを持っていた。
レイラ・プリズムリバー。
つまりそれは、プリズムリバー姉妹の四女にして、彼女達三人の「生みの親」の名前。
「何だか……その……ごめんなさい」
私は、気まずさから、謝罪の言葉を口にした。
「良いのよ~、気にしないでちょうだい」
「えぇ、こちらこそ、変な思いをさせてしまってごめんなさい」
そう言いつつ彼女達は再び穏やかな、そして懐かしむような表情を浮かべながら、
しみじみとこう切り出したのだ。
「私達が存在しうるのはレイラのおかげなんだよね」
「さっきの質問に答えるとね、レイラちゃんの為に、私達は音楽を覚えたの」
「あの子は、亡くなる直前まで、私達に笑顔で接してくれたわ」
「だから、亡くなった後は、私達がレイラちゃんを楽しませてあげたかったのよ」
言わずともわかる。
彼女、レイラ・プリズムリバーは、最後まで笑顔を絶やさなかった。
騒霊である彼女達に、生き別れた「本物の姉妹」の影を重ね合わせて。
だから、彼女のその笑顔は、ひどく寂しげだったに違いない。
決して叶う事の無い願いを抱いて、決して叶わない夢の為に。
彼女は命が尽きるその時まで、再開を果たす為の準備を絶やさなかったはず。
どんなに叶わぬと解っていても、笑顔を絶やさないでその時を待つ事が、
再開を果たす事が出来る手段だと信じていたに違いない。
何故、私にこんな事が言えるのか。
それは私が、私の知っている「ある騒霊」の事を思い出したからだ。
決して叶う事の無い願いを抱いて、決して叶わない夢の為に。
相手にされなくなってもなお、忘れ去られてもなお、自身の存在を認めてもらおうとした騒霊が居た。
どんなに叶わぬと解っていても、生活の痕跡を揺り動かし続ける事が、
誰かに気付いて貰う事が出来る手段だと信じた騒霊が居たからだ。
「レイラは歌が好きだったよね」
「そうね~、みんなに好かれる子だったわね~」
遠く懐かしい物を見るように、話す二人。
「そうね、あの子はさしずめ……」
ルナサと名乗る少女は少し考える様子を見せた後、
「…………愛の音」
そう小さく呟いた。
「あの子が今もなお、音を奏で、歌を紡ぐ事が出来るとしたら、それは愛の音かもしれないわね」
そう、彼女達にとってもまた、「彼女」はかけがえのない存在だったのだ。
「あの子はもう居ないけれど、あの子の帰ってくる場所はあるわ」
「私達が演奏し続けているのはその為でもあるのよ~」
「あの子は、みんなの笑顔が一番好き、といつも言ってたわ」
「だから、今度は私達がレイラの帰りを待ってあげなくちゃ」
「笑顔で、ね」
「そうだわ!」
しんみりとした静けさを破るようにして、ひときわ明るい声が響き渡った。
「貴女も一緒に演奏してみないかしら~?」
さっきよりさらに唐突な提案。
発言の主は、一番明るそうなメルランと名乗る少女だった。
「それ、良いね! うん、偶にはメルラン姉さんも良い事言うじゃない!」
「“偶には”は余計よ~、リリカちゃん」
「で、でも、私は何も……」
そう、この少女達と違って、私には楽器なんか扱う事は出来ない。
しかし、さも名案とばかりに、話はどんどん先へと進んでいく。
「そうね、貴女に担当してもらうのは打楽器、リリカのような鍵盤楽器ではなくて、普通の打楽器よ」
「いや、だから楽器なんて私には……」
「構わないわ。貴女はポルターガイストを起こしてくれるだけで良いんだから」
え? ポルターガイストを起こせって……
確かに私に出来る事と言えば、そんな事くらいしかないけれど……
「ポルターガイストっていうのは~、色々な物が動いて壁や床にぶつかるでしょ~」
「そう、私達は貴女の出す音に合わせて音を出すわ。だから、貴女は好きなように音を奏でてくれるだけでいい」
す、好きなようにって。
そんな滅茶苦茶な音楽があるだろうか。
「あ、貴女達は楽団なんでしょ?」
そう問わずにはいられなかった。
でも、そんな私の懐疑と戸惑いとは裏腹に、
彼女達は心底、嬉しげに、体中からやる気を満ち溢れさせながら口々に言ったのだ。
「私達、プリズムリバー楽団を舐めないでよねっ!」
「どんな音でも、良い演奏にしてあげるわ~」
「音楽の本質は騒がしさ、つまり、音を出す事こそが最も重要なの。そして、貴女にはそれが出来るわ」
こうして、彼女達に気圧される形で二度目の演奏の準備が始まった。
無論、楽器もろくに扱えない私を新たに入れてである。
「隊形を変えましょう、前に二人、後ろに二人」
早速、指示が飛んで、前列左でヴァイオリン、真ん中が空いて、同じく右にトランペット。
そして、後列中央左寄りに私、同じく中央右寄りにキーボード、という形を取る。
「ふふ、姉さんにリリカちゃん、何だかこうしてると、レイラちゃんが居るみたいね」
例えられたのは、彼女達の大事な大事な妹。
さっきあんな話を聞いた直後なだけに、少し緊張が走る。
「じゃあ、始めましょうか、準備は良い?」
「う、うん」
そして、合図を聞いてもなお、決心の付かない私の心を押すかのように、
リリカと名乗る少女の元気な声が響き渡った。
「ほら、早く早く♪ どんな音でも大丈夫だから!」
かくして、本日二度目の演奏が始まった。
重厚なヴァイオリンの音色、華やかなトランペットの音色、儚げなキーボードの音色。
そして、カチャン、ガタンッというポルターガイストで生み出される騒々しい音。
はっきり言って、私の耳には、到底まともな音楽には聴こえない。
それは、先程の三人による演奏とはまるで違って、ひどく不格好で稚拙極まりない音楽。
それは確実に、私の出している“騒音”のせいだ。
彼女達は私の出す騒音に合った音を奏でているのだから。
でも、演奏している彼女達の表情は、とても満足そうで、楽しそうで。
まるで、音を出す事自体を楽しむ幼子のように。
正直なところ、私も少しだけ楽しいと思っていた。
何故なら、誰かと一緒に、「四人」が一緒に音楽を奏であう。
そこには確かに、私が久しく感じていなかった「他者との関わりから生まれる幸福」があったからだ。
幸福感に酔いしれたその中で、再び脳裏に浮かんできたのは、さっき聞いたばかりの「彼女」の事。
皆が笑っているのが一番好きと言っていた「彼女」が、レイラという女の子が。
ずっと望み続けていた世界、一度で良いから取り戻したいと願った世界はこんな感じだったのかな、と。
――そう思った時だった。
左右で2対2に分かれたちょうど真ん中。
思えば、姉妹による最初の演奏の時にも、不思議に空けてあった空間。
もしかしたら、いかなる演奏の時にも「必ず空けてあったスペース」
そこに「彼女」が居た。
両手を胸の前で軽く握し締め、顎をほんの少しだけ上げ加減にした、
あたかも歌っているかのような仕草をした女の子の姿が。
緑色の髪をした女の子の姿が。
そして、不思議な事に、奏でられる音色は五重になっていた。
相変わらずの拙い音楽の中で、確かに五重になっていた。
ふと、気付くと私を含む全員が「そこ」を見ていた。
温かな雰囲気を纏った緑色の髪の少女の方を。
でも、しばらくして私は気付いた。いや、気づいてしまった。
彼女達、三姉妹が五本目の旋律を生み出していた事を。
レイラを喜ばせたいと願って、身に付けた技によって。
そして、その瞬間、そこに女の子の姿は無くなった。
相変わらず、拙い演奏は続いていく。
やがて騒音混じりの拙い演奏は終わった。
あの時、皆が意識していた事は間違いないはずだ。
つまり、あの時、あの瞬間、五本目の音が奏でられた時点で、
「彼女」が居た事は、全員が認識していたに違いない。
はたして、彼女達が五本目の旋律を生みだしたから、「彼女」がそこに居るように見えたのか。
それとも、「彼女」がそこに居たから、彼女達は五本目の旋律を新たに奏でたのか。
あるいは、五本目の旋律を奏でたのは、実は「彼女」自身だったのか。
「何よ、全然出来るじゃない!」
「良い演奏だったわね~」
「でも、私が出した音なんて……」
そう、私はポルターガイストを起こして、ただ闇雲に音を掻き鳴らしていただけ。
そこにはおごそかな響きも無ければ、軽やかなリズムも無い、本当に取るに足らない騒音。
しかし、ルナサと名乗る少女がそれを打ち消す。
「楽譜なんて枝葉末節にすぎない。音楽の本質は“音楽を真似る事”ではなく“音を出す事”よ」
「“そして、貴女にはそれが出来ていたわ” ふふ、ルナサ姉さんのそれ、口癖よね!」
「リ、リリカ、貴女にも口癖はあるわ。“幻想の音を使える私は偉い”って」
「そうよ~、リリカちゃん、いつも言ってるわ~」
「むぅ~、メルラン姉さんの“音楽はぐるぐるよ!”よりはマシだと思うんだけど!」
「それについては同感ね……」
「うぅ、姉さんもリリカちゃんもひどいのね」
そして……
「楽しかったでしょ?」
彼女達は私にそう問いかけてきた。
「そうね」
「……悪くはなかったわ」
我ながら、素直ではない答えだと思う。
本当はとても楽しくて幸せだった。
何故なら、生活の痕跡を動かす、すなわち、ポルターガイストを起こした事で、
こんなに温かな気持ちになれたのは初めてだったから。
決して役に立つわけでもなく、誰かの為になるわけでもない。
だけど、誰かに気味悪がられるでもなく、恐れられるでもなく。
「ありがとう、こっちも楽しかったよ!」
「貴女の演奏も良かったわ~」
「またの機会があれば、ぜひというところね」
こうして、私の存在を認めてくれる存在があったのだから。
それに、もしかしたら、ほんの少しは誰かの為になったのかもしれない。
それを裏付けるように彼女達はこう付け足す。
「レイラもきっと喜ぶと思うわ」
「“みんなが笑っていて欲しい”というのがあの子の願いだったのだから」
「レイラちゃんの願いが叶えば、私達も嬉しいものね」
ならば、彼女の願いは叶ったに違いない。
何故なら、あの時私だって確かに、幸せな気持ちを味わったんだから。
5本の音、というのが5線譜を連想させて、美しい!
面白かったです。次も期待して待ってます。
お褒めの言葉をありがとうございます。
これからもまずは読んでいただける方に満足していただけるように頑張ると共に、
その中で自分の思い描く幻想郷を描いていければと思っております。
お読みいただきありがとうございました。
>6 爆撃! 様
この構図は、東方求聞史紀の三姉妹の項で、音楽の本質について語っている部分が印象に残っていて、そこから着想させていただきました。
挙げていただいたシーンから彼女たちの音楽へのプライドを感じていただけたのであれば幸いです。
お読みいただきありがとうございました。
>7 もんてまん 様
良い雰囲気とおっしゃっていただき嬉しく思います。
幻想郷という世界の魅力を少しでも描いてお伝えできればと考えております。
お読みいただきありがとうございました。
いや本当もっとスポットライト当たってもいいと思うんだけどなぁ。