雲山は考えていた。
女の子になりたい――と。
◇ ◆ ◇
命蓮寺と言えば、幻想郷でも有数の美少女スポットである。
こんな場に男の自分が居るのは不釣合いではなかろうか。
可能ならば、自分もまた少女になりたい! そんな事を雲山は考えていた。
雲山は、命蓮寺の面々を思い描く。
寺の中心人物である尼僧・聖白蓮は一言で言うならば大人の女性。
柔らかな物腰と、常に笑顔を絶やさない性格。
豊かな胸とくびれた腰は彫刻芸術の女神の如し。
紫と茶のコントラストが艶やかなロングヘアには軽くウェーブが掛かり、彼女のミステリアスな雰囲気の演出に一役を買っている。
人妖を問わずに誰もを愛するその性格は、博愛と言う言葉だけで表現するには言葉足らずであろう。
さらには魔法の腕前も超一流。
時には力無き者の盾となり、時には力無き者の矛となる。
掲げる理想は妖怪の救世。
イバラの道と知りながらも、彼女はその為に出来る努力を惜しまない。
正しく、立派な大人の女性である。
そんな白蓮の補佐を務める妖怪・寅丸星は一言で言うならばドジっ娘だろうか。
金と黒が交わった髪は、さながら虎の如く。
掲げる宝塔は、言うなれば絶対なる正義の象徴。
毘沙門天を模した煌びやかな衣装は彼女のカリスマ性の演出に一役を買っているのだろう。
なのに、何処か抜けた様な性格が実に愛らしい。
頑張り屋さんなのに、うっかり屋さん。
見た目からは几帳面な印象を受けるものの、実は案外いい加減で物を無くす事が多いのだ。
前述の毘沙門天の宝塔を紛失してしまうのだから、そのうっかりはお墨付きである。
しかしながら、そこが彼女の魅力なのだろう。
相反しそうな二つの属性を兼ね揃えた彼女には、矛盾しそうでしていない不思議な魅力がある。
寅丸星と言う妖怪は、言うなればドジっ娘。
しかしながら、ドジっ娘の裏側に厳しさやたくましさを備えた奇妙な少女でもあるのだ。
星蓮船の船長を務める村紗水蜜も忘れてはいけない。
舟幽霊と言う哀しい存在でありながら、彼女はそんな雰囲気を周囲に与えない。
むしろ、どんよりとした空気や沈黙を嫌い、そんな場に遭遇しようものなら率先して場を盛り上げるタイプである。
船長である彼女は、船内の雰囲気の変化に特に敏感なのだ……気が利くタイプ、とでも言うべきなのだろうか。
セーラー服とキュロットと言う衣装も実に良い。
キュロットから伸びる脚線美は、彼女の健康的な美しさを伝えてくれる。
黒のショートヘアは、舟幽霊であるが為か湿り気を帯びており、潮の香りを周囲に振りまいている。天然の香水とでも言うのだろうか?
しかしながら、戦闘となればそんなムラサは一騎当千の兵としての側面を見せてくれる。
少女の細腕で扱えるとは到底思えない大きさの錨を振り回し、敵を撃墜する。
健康的にして暴力的。
しかし、船長として周囲への気配りも忘れない。
村紗水蜜とは、そう言う少女なのだ。
星の部下の鼠であるナズーリンも大切な仲間だ。
小柄な体躯。あどけない表情。大きくて可愛い耳。
一見すると、その存在は子供そのものに見えてしまうかもしれない。
しかしながら、その中身は狡猾にして俊英。
侮ってはいけない。鼠は意外と賢いのだ。妖怪ならば、さらに賢くてもおかしくは無い。
何匹もの鼠の大群を従えるその姿は、正しく賢将と呼ぶに相応しい姿である。
ペンデュラムとロッドで物を探す手腕も名人級。
彼女の活躍が無ければ、白蓮の封印が解かれる事は無かっただろう。
小柄ながらに知恵が回り、カリスマ性も持った鼠の妖怪。
山椒は小粒でもぴりりと辛い。ナズーリンは小柄でも意外と強い。
可愛いと表現すれば彼女はあまり良い表情をしないだろうから、あえてこの様に表現しておこう。
新入りの妖怪・封獣ぬえも魅力的な少女だ。
歪な形の羽と、何処か人を小馬鹿にした様な表情。
しかしながら、言葉の所々には相手に依存したがっている寂しがりやの一面も見え隠れしている。
正体不明の妖怪だった彼女は、きっと人と触れ合う機会が少なかったのだろう。
己の正体を明かす事が許されないと言うのは即ち、誰とも正面から向き合えないと言う事だからだ。
だから、彼女は何処か寂しそうな表情を浮かべる事が多い。
少女さながらの、何かに依存したがっている様な表情だ。
瞳の奥には愛情を求める哀しさと、自分の正体を明かす事の出来ない寂しさが時に見えてしまう。
そして、そんな瞳に見つめられると――ついつい保護欲を掻き立てられてしまいそうになる。
封獣ぬえとは、不思議な少女だ。
保護したいのに、本人がそれを嫌がっている。
なのに、そんな本人もまた、自分が変われる事を心の何処かで願っている。
ミステリアスでアンバランス。未確認で正体不明。
そんな、不思議な少女だ。
そして、絶対に忘れてはならないのが雲山の相棒である雲居一輪。
頭巾と被り、地味な尼僧の格好をしたその姿は……あまり、目立たないかもしれない。
命蓮寺の他のメンバーと混じってしまえば、その存在は埋没してしまうのかもしれない。
けれども、雲山は知っている。
彼女が、実は誰よりも気立ての良い、縁の下の力持ちであると言う事を。
誰かに命じられた訳でもなく、自発的に星蓮船の護衛をしたのは紛れも無く彼女の働きである。
彼女は、誰かに指示をされるよりも早く、自分が何をするべきなのかを考え、行動に移す事が出来る。
自分が動く事で他の誰かが少しでも楽になれるのならば、例えそれが苦行や危険な行いであったとしてもそれを厭わない。
だからこそ、雲山もまたそんな一輪を信頼しているのだ。
確かに地味な存在かもしれない。
けれども、命蓮寺にとって無くてはならない存在なのだ。
「………………………………」
命蓮寺の各々の事を思い出した後、雲山は思案に耽っていた。
この面子に交わるならば、どんな姿になれば良いのだろうか、と。
大人のお姉さん。ドジっ娘。健康的な少女。小柄な賢将。正体不明のミステリアス娘。縁の下の力持ち。
皆、違った魅力を持った大切な仲間である。
可能ならば、彼女達とはキャラが被らない方が良い。お互いの為にも。
「………………………………………………!」
何か名案が思いついたのだろうか。
雲山の頭の上に電球が灯り、その瞬間に雲山は二人に分裂していたのだ。
古典的なアイデアが思いついた時の表現だが、その辺りが何とも頑固な雲山らしいと言えばらしい。
「………………」
「………………」
二人になった雲山は、それぞれ姿を変える。
片方は、ポニーテールの活発風な娘に。
そしてもう片方は、ストレートロングヘアで眼鏡を掛けた大人しそうな娘に。
「………………!」
「………………!」
雲山は気付いたのだ。
双子キャラ――それも、双子で対照的なキャラは今のところ命蓮寺に居ないと。
元より雲山は入道雲。
二人に化け、姿形を変えるのは彼――否、彼女の得意分野である。
片方は、スポーツを愛する元気な姉と言う設定だ。
ムラサとキャラが被らない様に、あえてポニーテールにしている。
少女的な髪型だが、時折見えるうなじがポイントが高いのだろう。
もう片方は本を読むのが大好きな大人しい妹と言う設定。
元気な姉を影からこっそり支えるおしとやかな妹である。
紅魔館の魔女とややキャラが被ってしまうが、そこは妹キャラと言う事でカバーが可能。
ちなみに、雲山の中では「普段は姉の方がアドバンテージを持っているが、恋の話題では妹に分があり姉はからかわれている」との設定が完成していた。
「……………………」
「……………………」
残る問題は一つ。
名前である。
「雲山」と言う名前は、少女の名前としてはあまりにも厳つ過ぎる。
もっと女の子らしい名前が欲しい――そう、雲山は考えていた。
「……………………」
「……………………」
二人になった雲山姉妹は考える。
少女らしい名前。
元気な姉と、大人しい妹に相応しい名前は無い物かと。
元より考え方の古い雲山の事。
あまり、現代的な名前は避けたいと考えていた。
出来れば、昔から使われていて定番になっている様な名前が良いと考えていた。
「……………………!」
「……………………!」
瞬間、二人の雲山の頭上に同時に電球が灯る。
女の子の名前ならば、「~子」とすれば良いではないか、と閃いたのだ。
花子だとか、智子だとか、あるいは聡子だとか。
女の子ならば定番となる名前である。
古風ながらも一文字目でアレンジが利くのだから、個性の表現も可能。まさしく雲山の求めていた名前。
雲山は考える。
自分は雲だ。
となれば、やはり「雲」の字を入れるべきだろうと。
つまり、雲山の「雲」に「子」を付けて「雲子」となる。
これで完璧だ!
ずばり読み方は「うんk――
その夜、雲山は寝室で人知れず泣いた。
最初から、女の子になるのは適わぬ夢だったのだ。
布団にうずくまりながら涙を流す雲山の背中には、哀愁が漂っていた。
とんでもない。よいお話でした。
寺のキャラクターの特徴を良く書き出せていたと思います、
特にぬえの描写は秀逸でした。
オチもいい感じ(?)についてよかったと思います。
面白かったです。
脱字かと。
「大くて可愛い耳」→「大きくて」
ではないかと。
細かい事ですいません。
雲山女の子になるのは止めておけ。男に告白されまくって余計に泣くことになるぞ。
しかし二人になってセルフネチョネチョができるのは羨ましいなwww
でもオチが読めてしまったのでその分引いときますw
雲山泣かないで!
オチが酷過ぎる。
あと、ドジっ娘星ちゃんが彼の偉大なる毘沙門天の代理という尊い存在であることを書いといて欲しかった
着眼点は悪くないけど、名前のくだりで、ああアレだなと読めたのが残念といえば残念か。
「雲○だと思っただろ? ところがぎっちょん!」てな感じで更に一つ落としてくれたら、文句無しの100点だった。
泣かないで雲山! 男手と言うのはどこにでも必要なものです!
でも笑えるからいいや(ぇ