※この作品は同作品集
"私が私であるために"と
"あなたがあなたでいるために"の連動作品の続きとなっています。
見ていないと分けが分からないと思います。
0.歪
私は藍が言っていた境界の修復をしていた。
しかし、そのときあるものをみた私は、驚きのあまり修復作業をしていた手が止まる。
「何てことなの……」
視線の先、そこに広がっていたのは博麗大結界の歪だった。
1.管理者
マヨヒガに訪れていた霊夢は記憶をなくしていた。
霊夢から話を聞いてたとき、冷静な表情をしていたつもりだが、内心は色々と考えが錯綜していたので、それが表情にでていないか不安だった。
確かに博麗大結界は弱まっていたが、それついては問題ない。
ただ、それ以上に何かがあったときのこと、そっちのほうが問題だった。
そして、その問題が起きたときの最悪の方法。
それは、博麗の巫女の力を、次代の巫女に継承することだったのだ。
そうすれば、何も考えずすぐことは解決する。
だが、私はそれをしたくなかった。
理由は簡単、私が霊夢のことを気にいってるから。
幻想郷を管理する身でありながら、そういう考えをしてしまうのは不味いのかもしれない。
しかし私は神ではない、一妖怪でしかないのだ。
もちろん、最悪の事態が起こる前に、非情な決断をしなければならないかもしれないが、今はまだ時間がある。
ギリギリまで、足掻いてみるのもいいかもしれないと思った。
2.奔走の始まり
霊夢に幻想郷のことを教えるのが終わったあと、霊夢は藍にまかせ私はアリスの家へと訪れていた。
霊夢が記憶をなくしているのなら、魔理沙ももしかしたら、と思ったのだ。
その考えは当たってしまったのだが、運がよかったのはまだアリスが魔理沙に幻想郷について説明していなかったことだろうか。
家の壁に背中をつけ、首を落とし落ち込んでいたときのアリスをみたときは、少し可哀想にもおもったが、同情している余裕は無かった。
「こんにちわ、アリス」
「八雲紫……」
「どうやらその顔だと、私の考えはあたっているようね」
「え、それじゃまさか霊夢も?」
「ええ、そうよ。だから少し話しておきたいことがあるの」
アリスが霊夢のことを知っていたのは、魔理沙をアリスに預けるときに、神社で霊夢が倒れていたことと、魔理沙がまた何かしたかもしれないということを伝えていたからだ。
私は、アリスが魔理沙に幻想郷のことを説明するとき、八雲紫は幻想郷の管理者でめったに人と会うことはなく、会えるものではないということと、明日永遠亭に行き永琳と話しをすること、そして霊夢のことは話さないようにと伝えた。
伝えることを伝え終えた私は、マヨヒガに戻るため境界を開く。
アリスはまだ気持ちが整理できていないのか、まだ首を落としていた。
そんなアリスの姿を見ながら、私は境界へと入っていった。
3.3つの条件
マヨヒガに戻ってくると、霊夢と橙が遊んでいた。
藍はどうやら結界を修復しにいっているようだ。
「橙、少し霊夢とお話するから、あっちへ行っててもらるかしら」
「分かりました」
それだけ言うと、橙は元気よく外へと飛び出していく。
私と霊夢はその姿を見送り、話を始めた。
「紫話ってなに?」
「ええ、そのことなんだけどね」
そう切り出し、条件について簡単に話した。
その条件とは
条件1.神社には定期的に戻り、掃除など必要なことをしてくる
条件2.出来る限り橙や藍の手伝いをする。
手伝いに限らず必要とされたときは、相手をする。
条件3.無理に記憶を思い出そうとしない。
というものだったが、その全ての条件は幻想郷のために決めた条件だった。
条件1は、博麗神社が結界の境であるため、一番何かが起こる可能性があるので、定期的に帰ることで結界の安定をはかるため。
条件2は3に関係してくるのだが、出来るだけ私や藍、橙と一緒にいることで余計なことを考える時間をなくすことだった。
「分かったわ。3つ目以外はもともとそのつもりだったし」
まだ記憶を失ってそれほど時間も経っていないからなのか、表情はまだ強張っていたけど、それでも笑顔を作りそう言って条件を飲んでくれた。
「それじゃ、私橙のところに行ってくるわ」
霊夢がそう言って、外へ飛び出していった橙のところへ向かっていくのを見送ると、私は自室へと戻った。
4.本当の笑顔
藍にご飯に呼ばれ食卓についたとき、私は霊夢の顔を見て少し驚いた。
さっき条件を話していたときは強張った表情をしていたのに、その表情は柔らかくなり笑顔を浮かべていたのだ。
藍が何をしたのかしらないが、なかなかいい仕事をしているようだ。
食卓についてすぐは、霊夢はじっと私達の方をみて箸を動かしていなかったが、声をかけるとパクパクと食べはじめた。
その姿を見ていて、私はまた驚く。
今までは笑顔は作っても、それは作り物の笑顔だったのに、今は本当に楽しそうに笑顔を浮かべ、ご飯を食べていたから。
まるで子供のように、好きなものは好きだというように。
こんな表情をしている霊夢は、見たことがなかった。
そう、平等でなければいけない霊夢は、誰と付き合いをするときも、一線は越えなかったのだ。
確かに博麗の巫女は平等であるべきだった。
しかし、正直そこまで硬くなることもないとは思っていたのだが、霊夢は平等であり続けた。
そもそも博麗の巫女の役目は、異変を解決し、結界を維持すること、それが出来ればいいのだ。
完璧に平等にしなくてもいい、少しくらい誰かに気持ちを許してもいい。
少しくらい気持ちを許しても、役目をこなせなくなることなんてなかったのだから。
まあ、さすがに群を抜いて気を許し、結界の維持が疎かになるのは困るのだが。
そんなことを思いながら、私は食事を続けた。
5.理由
食事を終えて自室に戻っていた私は、博麗大結界の強さが弱まった理由を考えていた。
いや、理由はなんとなく分かっていたのが、それをきっちりまとめる余裕がなかった。
あの条件をだしたのだって、この理由が当たっていたときの布石なのだ。
大結界の強さが弱まった理由、それは記憶喪失による霊夢の記憶のぶれ。
記憶を失う前の霊夢と、記憶を失った後の霊夢の記憶の軸がぶれ、大結界に影響を与えているのだと思う。
記憶が戻ればその軸のぶれは戻るのかと聞かれれば、それはノーだ。
戻るかもしれないが、逆に急に記憶を取り戻すことで、さらに軸がぶれてしまう可能性もある。
だから、あの条件をだすことで、記憶が戻ることを避けることにした。
今は、他からの極端な接触は避け、記憶が戻っても気持ちが揺らがない強い精神を取り戻したら、そのとき記憶を取り戻すように促そう。
そのときとは、霊夢が自らマヨヒガから出て行き、神社へ戻ることを決意したときだ。
もし、霊夢がそれを決意しなかったときは、博麗の巫女の力を次代に継承させるだけ。
そして、霊夢はそのままマヨヒガに住めばいい。
そう考えた。
6.ついで
考えをまとめた後、再びアリスの家を訪れていた。
魔理沙は居なかったので、家の中に入れてもらうと、椅子に座り用意してくれた紅茶を飲んだ。
アリスの話を聞くところによると、魔理沙は何か思い出してるようだったらしい。
だが、魔理沙はそれをアリスに言わなかったし、言う気もなさそうだったということだ。
魔理沙が何を考えているのかは分からないが、もしかしたら魔理沙は霊夢ほど記憶を戻すのに苦労はしないのかもしれない。
それなら、基本的に霊夢のために動こうとおもっていたけど、魔理沙のためにも少し動くかと考える。
もし、霊夢が記憶を取り戻すように動くとき、魔理沙の記憶が戻っていた方がいいに決まっているし。
「しかし、面倒なことになったわね」
「こっちはそうでもないけど、そっちは大変そうね」
話を終えた後私がそう言うと、アリスはそう返してきたが、とてもそうは見えなかった。
確かに魔理沙が記憶を失おうが私には関係ないが、アリスにとっては何か重要な問題が出来てしまっているように感じたのだ。
しかしそう感じているだけかもしれないし、やぼなことはするまいと、余計なことを突っ込むのはやめる。
「それじゃ、今日は帰るわ。また、定期的に様子を見にくるから、何か変わったことがあったら教えてちょうだい」
そして、私は紅茶を飲みほし境界を開くと、それだけ言ってマヨヒガへと帰った。
7.月姫
私は朝から奔走していた。
まずは一番に永遠亭に訪れ、永琳に魔理沙の診察をするようにお願いした。
記憶を取り戻すためには、過去に関係していた場所へ行くなどの方法があるのだが、その行く場所にマヨヒガの名前をださないように頼んだ。
万が一にも魔理沙がマヨヒガにきて、霊夢と出会わないようにするためだ。
その後永遠亭に住んでいるものたちに、そのことを伝えるように頼むと、私はこう言った。
「八意永琳、蓬莱山輝夜に会いたいんだけど」
「姫にですか?」
「ええ、少し話したいことがあるから」
「分かりました、ではこちらへ」
そういうと、永琳は私を案内するために歩き出し、それについて私も歩き出した。
「姫様、姫様おられます?」
「……」
輝代の部屋であろう前まで来ると、永琳は中に向かって声をかけたが、その声に対する反応は返ってこなかった。
「……」
「……」
二人して黙りこんで反応を待つが、やはり反応ない。
居ないのだろうか。
「あそこにいるのかも」
そのとき永琳がそういうと、続けて、
「こっちです」
と言って、また歩き出した。
そして、連れられてきた場所は永遠亭の庭だった。
そこでは、輝代がウサギと遊んでいた。
それはもう楽しそうに。
「姫」
「あ、永琳、仕事終わったの?」
「いえ、八雲紫が姫に会いたいということなので」
それを聞いた輝代が、永琳のとなりにいた私に視線を向けこういう。
「こんにちわ、私に会いたいとは一体どういうことなの?」
「少し頼みたいことがありまして」
「それじゃ姫、私仕事に戻りますので、後はよろしくお願いします」
「ああ、八意永琳、これはあなたにも話したいことなのよ」
「そうなんですか?」
輝代と話している途中で永琳が戻りそうになったので、永琳を止めると話を始める。
「分かったわ。力になりましょう。いいわよね永琳」
「姫様がそう決めたなら、異論はありません」
話を終えたあとの二人の答えは、私が望んでいる答えだった。
8.それぞれの思い
永遠亭を後にした私は、次に妹紅と話しをし、さらに白玉楼と妖怪の山にも向かった。
そして最後に向かったのが紅魔館だったのだが……。
「その話は受け入れられないわね」
そう言ったのは、私の前でも臆することなくふんぞり返る紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。
まあ、来る前からそんな気はしていたのだけど。
だから最後に回したというのもある。
「では、レミリア・スカーレット、あなたは私の考えに賛同できないというわけね」
「ええ、その通りよ。何故記憶を思い出さないように動かないといけないの。さっさと記憶を戻すよう動くべきでしょうが」
予想以上にわがままだった。
レミリアは、自分さえ良ければ幻想郷がどうなってもいいのだろうか。
いや、そうじゃないな。
たぶん私と同じだ。
レミリアも霊夢のことが気にいってるんだろう。
だから、私の考えを受け入れると、霊夢に会うことが出来なくなる。
単純にそれが嫌だったのかもしれない。
「仕方がないわね。今回はとりあえず帰るけど、また来るわ」
「何度こようが答えは同じだけどね」
どうやら、ガンとして意見を変えることはないようだ。
私はレミリアのその言葉を受けながら、境界へと入り込むとマヨヒガへと帰ってきた。
それから数日おきに、紅魔館から使者がやってきたのだが、最終的には主本人がくることになる。
9.二つの結界
そして、奔走を終えた私は、藍が言っていた結界の修復にきていたときに、博麗大結界の歪みを見つけたのだ。
見た感じ、歪の広がり方はそんなに早くない。
まずはこっちの結界、幻と実体の境界の修復をしてから、大結界の修復を行う。
そう決めてからの私の作業は断然と速度を増した。
それもそのはず、藍に言われていた方の結界は確かに面倒ではあったが、私が本気でやればたいしたほどじゃなかったのだから。
だが、大結界のほうの歪、あれはまずい。
あの歪が全体に広がってしまったら……。
それを考えたとき、頬に冷や汗が流れたが、汗を拭い作業を続けた。
結界の修復を終えた私は、大結界のほうの修復に移っていた。
まだ歪み事態は大きくなっていなかったので、簡単に直せたのだが。
それは完全に直っては居なかった。
歪みは直したのに、また徐々に広がり始めていたのだ。
やはり、大結界のほうは博麗の巫女が管理しているもの。
私では完璧に直せない。
予想以上の深刻さに、やはり新たな巫女を、という考えが浮かぶ。
だが、その浮かんだ考えをすぐに消し、
「あまり意味はないかもしれないけど……」
そう呟いて、大結界にあらたな式を組んだ。
ともあれ、修復は可能だし、定期的に直しにくればいいだろう。
それから、私の結界の修復と睡眠をとるだけの日々が始まった。
時折余裕があったら霊夢と話すこともあったが、ほとんど藍か橙にまかせていた。
正直なんでここまで必死になっているんだろう、と考えたときもあるが、食卓について霊夢の顔を見ると、そんな考えはすぐになくなった。
10.永遠に幼き紅き月
その後月日は流れ、歪みの広がる速度は日が経つにつれ速くなっていった。
それにともない、修復をする期間が3日から2日、2日から1日と短くなっていき、修復が追いつかなくなるのも、何時になるか分からない、というところまで来ていたが、あるとき、ピタリと歪みの広がる速度が一定となったのだ。
おそらく、霊夢の力が戻ってきたことに関係があるのかもしれない。
だがそんなとき、やはりというかなんというか紅魔館のお嬢様はやってくれた。
すぐに異変に気づき、幽々子に頼んで一緒に紅魔館へ行ってもらうが、そこには魔理沙とアリスの姿もあった。
実をいうと、アリスには定期的に会っていたとき、もし何か起きて私と敵対することになったとして、私の考えが正しかろうが、魔理沙につくように頼んでいたのだ。
どうやらアリスはお願いしていたとおり、魔理沙の方へついたようだった。
狙いはレミリアだけ、向こうも同じだし、後は藍や幽々子達に任せよう。
そう考え、向かってくるレミリアに私は戦いを挑んだ。
レミリアは強かった。
ずっと結界を直していたからという言い訳なんかしても無駄だろうが、私は負けた。
しかし、レミリアはただ霊夢に会いたいだけなのよ、とだけ言ってきた。
そういえば弾幕戦をはじめる前に、お互いが求めることを言っているので、そんなことを言っていたような気がする。
どうせ、そろそろ限界だったし、まだ回りで弾幕戦が続いているなか、レミリアをマヨヒガへと招待した。
11.八雲紫は誰がため
レミリアが霊夢に魔理沙のことを話した次の日。
私は結界の歪みをみて驚いた。
広がる速度が落ちているのだ。
さらに霊夢と魔理沙があった後も、歪みが広がる速度は落ちていた。
もしかしたら、すでに時は満ちているのかもしれない
後は霊夢が決意をするのを待つのみだ。
もし霊夢が決意することなく、ずっとマヨヒガにいるのならば、もしまた歪みの広がる速度が上がったとき、そのときは……。
いや、もう今は考えるのはやめよう。
私はそのときがこないように願いながら、明日の修復をするために力を蓄えるため、眠りについた。
幻想郷のために
幻想郷を愛するもののために
私は動く
"私が私であるために"と
"あなたがあなたでいるために"の連動作品の続きとなっています。
見ていないと分けが分からないと思います。
0.歪
私は藍が言っていた境界の修復をしていた。
しかし、そのときあるものをみた私は、驚きのあまり修復作業をしていた手が止まる。
「何てことなの……」
視線の先、そこに広がっていたのは博麗大結界の歪だった。
1.管理者
マヨヒガに訪れていた霊夢は記憶をなくしていた。
霊夢から話を聞いてたとき、冷静な表情をしていたつもりだが、内心は色々と考えが錯綜していたので、それが表情にでていないか不安だった。
確かに博麗大結界は弱まっていたが、それついては問題ない。
ただ、それ以上に何かがあったときのこと、そっちのほうが問題だった。
そして、その問題が起きたときの最悪の方法。
それは、博麗の巫女の力を、次代の巫女に継承することだったのだ。
そうすれば、何も考えずすぐことは解決する。
だが、私はそれをしたくなかった。
理由は簡単、私が霊夢のことを気にいってるから。
幻想郷を管理する身でありながら、そういう考えをしてしまうのは不味いのかもしれない。
しかし私は神ではない、一妖怪でしかないのだ。
もちろん、最悪の事態が起こる前に、非情な決断をしなければならないかもしれないが、今はまだ時間がある。
ギリギリまで、足掻いてみるのもいいかもしれないと思った。
2.奔走の始まり
霊夢に幻想郷のことを教えるのが終わったあと、霊夢は藍にまかせ私はアリスの家へと訪れていた。
霊夢が記憶をなくしているのなら、魔理沙ももしかしたら、と思ったのだ。
その考えは当たってしまったのだが、運がよかったのはまだアリスが魔理沙に幻想郷について説明していなかったことだろうか。
家の壁に背中をつけ、首を落とし落ち込んでいたときのアリスをみたときは、少し可哀想にもおもったが、同情している余裕は無かった。
「こんにちわ、アリス」
「八雲紫……」
「どうやらその顔だと、私の考えはあたっているようね」
「え、それじゃまさか霊夢も?」
「ええ、そうよ。だから少し話しておきたいことがあるの」
アリスが霊夢のことを知っていたのは、魔理沙をアリスに預けるときに、神社で霊夢が倒れていたことと、魔理沙がまた何かしたかもしれないということを伝えていたからだ。
私は、アリスが魔理沙に幻想郷のことを説明するとき、八雲紫は幻想郷の管理者でめったに人と会うことはなく、会えるものではないということと、明日永遠亭に行き永琳と話しをすること、そして霊夢のことは話さないようにと伝えた。
伝えることを伝え終えた私は、マヨヒガに戻るため境界を開く。
アリスはまだ気持ちが整理できていないのか、まだ首を落としていた。
そんなアリスの姿を見ながら、私は境界へと入っていった。
3.3つの条件
マヨヒガに戻ってくると、霊夢と橙が遊んでいた。
藍はどうやら結界を修復しにいっているようだ。
「橙、少し霊夢とお話するから、あっちへ行っててもらるかしら」
「分かりました」
それだけ言うと、橙は元気よく外へと飛び出していく。
私と霊夢はその姿を見送り、話を始めた。
「紫話ってなに?」
「ええ、そのことなんだけどね」
そう切り出し、条件について簡単に話した。
その条件とは
条件1.神社には定期的に戻り、掃除など必要なことをしてくる
条件2.出来る限り橙や藍の手伝いをする。
手伝いに限らず必要とされたときは、相手をする。
条件3.無理に記憶を思い出そうとしない。
というものだったが、その全ての条件は幻想郷のために決めた条件だった。
条件1は、博麗神社が結界の境であるため、一番何かが起こる可能性があるので、定期的に帰ることで結界の安定をはかるため。
条件2は3に関係してくるのだが、出来るだけ私や藍、橙と一緒にいることで余計なことを考える時間をなくすことだった。
「分かったわ。3つ目以外はもともとそのつもりだったし」
まだ記憶を失ってそれほど時間も経っていないからなのか、表情はまだ強張っていたけど、それでも笑顔を作りそう言って条件を飲んでくれた。
「それじゃ、私橙のところに行ってくるわ」
霊夢がそう言って、外へ飛び出していった橙のところへ向かっていくのを見送ると、私は自室へと戻った。
4.本当の笑顔
藍にご飯に呼ばれ食卓についたとき、私は霊夢の顔を見て少し驚いた。
さっき条件を話していたときは強張った表情をしていたのに、その表情は柔らかくなり笑顔を浮かべていたのだ。
藍が何をしたのかしらないが、なかなかいい仕事をしているようだ。
食卓についてすぐは、霊夢はじっと私達の方をみて箸を動かしていなかったが、声をかけるとパクパクと食べはじめた。
その姿を見ていて、私はまた驚く。
今までは笑顔は作っても、それは作り物の笑顔だったのに、今は本当に楽しそうに笑顔を浮かべ、ご飯を食べていたから。
まるで子供のように、好きなものは好きだというように。
こんな表情をしている霊夢は、見たことがなかった。
そう、平等でなければいけない霊夢は、誰と付き合いをするときも、一線は越えなかったのだ。
確かに博麗の巫女は平等であるべきだった。
しかし、正直そこまで硬くなることもないとは思っていたのだが、霊夢は平等であり続けた。
そもそも博麗の巫女の役目は、異変を解決し、結界を維持すること、それが出来ればいいのだ。
完璧に平等にしなくてもいい、少しくらい誰かに気持ちを許してもいい。
少しくらい気持ちを許しても、役目をこなせなくなることなんてなかったのだから。
まあ、さすがに群を抜いて気を許し、結界の維持が疎かになるのは困るのだが。
そんなことを思いながら、私は食事を続けた。
5.理由
食事を終えて自室に戻っていた私は、博麗大結界の強さが弱まった理由を考えていた。
いや、理由はなんとなく分かっていたのが、それをきっちりまとめる余裕がなかった。
あの条件をだしたのだって、この理由が当たっていたときの布石なのだ。
大結界の強さが弱まった理由、それは記憶喪失による霊夢の記憶のぶれ。
記憶を失う前の霊夢と、記憶を失った後の霊夢の記憶の軸がぶれ、大結界に影響を与えているのだと思う。
記憶が戻ればその軸のぶれは戻るのかと聞かれれば、それはノーだ。
戻るかもしれないが、逆に急に記憶を取り戻すことで、さらに軸がぶれてしまう可能性もある。
だから、あの条件をだすことで、記憶が戻ることを避けることにした。
今は、他からの極端な接触は避け、記憶が戻っても気持ちが揺らがない強い精神を取り戻したら、そのとき記憶を取り戻すように促そう。
そのときとは、霊夢が自らマヨヒガから出て行き、神社へ戻ることを決意したときだ。
もし、霊夢がそれを決意しなかったときは、博麗の巫女の力を次代に継承させるだけ。
そして、霊夢はそのままマヨヒガに住めばいい。
そう考えた。
6.ついで
考えをまとめた後、再びアリスの家を訪れていた。
魔理沙は居なかったので、家の中に入れてもらうと、椅子に座り用意してくれた紅茶を飲んだ。
アリスの話を聞くところによると、魔理沙は何か思い出してるようだったらしい。
だが、魔理沙はそれをアリスに言わなかったし、言う気もなさそうだったということだ。
魔理沙が何を考えているのかは分からないが、もしかしたら魔理沙は霊夢ほど記憶を戻すのに苦労はしないのかもしれない。
それなら、基本的に霊夢のために動こうとおもっていたけど、魔理沙のためにも少し動くかと考える。
もし、霊夢が記憶を取り戻すように動くとき、魔理沙の記憶が戻っていた方がいいに決まっているし。
「しかし、面倒なことになったわね」
「こっちはそうでもないけど、そっちは大変そうね」
話を終えた後私がそう言うと、アリスはそう返してきたが、とてもそうは見えなかった。
確かに魔理沙が記憶を失おうが私には関係ないが、アリスにとっては何か重要な問題が出来てしまっているように感じたのだ。
しかしそう感じているだけかもしれないし、やぼなことはするまいと、余計なことを突っ込むのはやめる。
「それじゃ、今日は帰るわ。また、定期的に様子を見にくるから、何か変わったことがあったら教えてちょうだい」
そして、私は紅茶を飲みほし境界を開くと、それだけ言ってマヨヒガへと帰った。
7.月姫
私は朝から奔走していた。
まずは一番に永遠亭に訪れ、永琳に魔理沙の診察をするようにお願いした。
記憶を取り戻すためには、過去に関係していた場所へ行くなどの方法があるのだが、その行く場所にマヨヒガの名前をださないように頼んだ。
万が一にも魔理沙がマヨヒガにきて、霊夢と出会わないようにするためだ。
その後永遠亭に住んでいるものたちに、そのことを伝えるように頼むと、私はこう言った。
「八意永琳、蓬莱山輝夜に会いたいんだけど」
「姫にですか?」
「ええ、少し話したいことがあるから」
「分かりました、ではこちらへ」
そういうと、永琳は私を案内するために歩き出し、それについて私も歩き出した。
「姫様、姫様おられます?」
「……」
輝代の部屋であろう前まで来ると、永琳は中に向かって声をかけたが、その声に対する反応は返ってこなかった。
「……」
「……」
二人して黙りこんで反応を待つが、やはり反応ない。
居ないのだろうか。
「あそこにいるのかも」
そのとき永琳がそういうと、続けて、
「こっちです」
と言って、また歩き出した。
そして、連れられてきた場所は永遠亭の庭だった。
そこでは、輝代がウサギと遊んでいた。
それはもう楽しそうに。
「姫」
「あ、永琳、仕事終わったの?」
「いえ、八雲紫が姫に会いたいということなので」
それを聞いた輝代が、永琳のとなりにいた私に視線を向けこういう。
「こんにちわ、私に会いたいとは一体どういうことなの?」
「少し頼みたいことがありまして」
「それじゃ姫、私仕事に戻りますので、後はよろしくお願いします」
「ああ、八意永琳、これはあなたにも話したいことなのよ」
「そうなんですか?」
輝代と話している途中で永琳が戻りそうになったので、永琳を止めると話を始める。
「分かったわ。力になりましょう。いいわよね永琳」
「姫様がそう決めたなら、異論はありません」
話を終えたあとの二人の答えは、私が望んでいる答えだった。
8.それぞれの思い
永遠亭を後にした私は、次に妹紅と話しをし、さらに白玉楼と妖怪の山にも向かった。
そして最後に向かったのが紅魔館だったのだが……。
「その話は受け入れられないわね」
そう言ったのは、私の前でも臆することなくふんぞり返る紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。
まあ、来る前からそんな気はしていたのだけど。
だから最後に回したというのもある。
「では、レミリア・スカーレット、あなたは私の考えに賛同できないというわけね」
「ええ、その通りよ。何故記憶を思い出さないように動かないといけないの。さっさと記憶を戻すよう動くべきでしょうが」
予想以上にわがままだった。
レミリアは、自分さえ良ければ幻想郷がどうなってもいいのだろうか。
いや、そうじゃないな。
たぶん私と同じだ。
レミリアも霊夢のことが気にいってるんだろう。
だから、私の考えを受け入れると、霊夢に会うことが出来なくなる。
単純にそれが嫌だったのかもしれない。
「仕方がないわね。今回はとりあえず帰るけど、また来るわ」
「何度こようが答えは同じだけどね」
どうやら、ガンとして意見を変えることはないようだ。
私はレミリアのその言葉を受けながら、境界へと入り込むとマヨヒガへと帰ってきた。
それから数日おきに、紅魔館から使者がやってきたのだが、最終的には主本人がくることになる。
9.二つの結界
そして、奔走を終えた私は、藍が言っていた結界の修復にきていたときに、博麗大結界の歪みを見つけたのだ。
見た感じ、歪の広がり方はそんなに早くない。
まずはこっちの結界、幻と実体の境界の修復をしてから、大結界の修復を行う。
そう決めてからの私の作業は断然と速度を増した。
それもそのはず、藍に言われていた方の結界は確かに面倒ではあったが、私が本気でやればたいしたほどじゃなかったのだから。
だが、大結界のほうの歪、あれはまずい。
あの歪が全体に広がってしまったら……。
それを考えたとき、頬に冷や汗が流れたが、汗を拭い作業を続けた。
結界の修復を終えた私は、大結界のほうの修復に移っていた。
まだ歪み事態は大きくなっていなかったので、簡単に直せたのだが。
それは完全に直っては居なかった。
歪みは直したのに、また徐々に広がり始めていたのだ。
やはり、大結界のほうは博麗の巫女が管理しているもの。
私では完璧に直せない。
予想以上の深刻さに、やはり新たな巫女を、という考えが浮かぶ。
だが、その浮かんだ考えをすぐに消し、
「あまり意味はないかもしれないけど……」
そう呟いて、大結界にあらたな式を組んだ。
ともあれ、修復は可能だし、定期的に直しにくればいいだろう。
それから、私の結界の修復と睡眠をとるだけの日々が始まった。
時折余裕があったら霊夢と話すこともあったが、ほとんど藍か橙にまかせていた。
正直なんでここまで必死になっているんだろう、と考えたときもあるが、食卓について霊夢の顔を見ると、そんな考えはすぐになくなった。
10.永遠に幼き紅き月
その後月日は流れ、歪みの広がる速度は日が経つにつれ速くなっていった。
それにともない、修復をする期間が3日から2日、2日から1日と短くなっていき、修復が追いつかなくなるのも、何時になるか分からない、というところまで来ていたが、あるとき、ピタリと歪みの広がる速度が一定となったのだ。
おそらく、霊夢の力が戻ってきたことに関係があるのかもしれない。
だがそんなとき、やはりというかなんというか紅魔館のお嬢様はやってくれた。
すぐに異変に気づき、幽々子に頼んで一緒に紅魔館へ行ってもらうが、そこには魔理沙とアリスの姿もあった。
実をいうと、アリスには定期的に会っていたとき、もし何か起きて私と敵対することになったとして、私の考えが正しかろうが、魔理沙につくように頼んでいたのだ。
どうやらアリスはお願いしていたとおり、魔理沙の方へついたようだった。
狙いはレミリアだけ、向こうも同じだし、後は藍や幽々子達に任せよう。
そう考え、向かってくるレミリアに私は戦いを挑んだ。
レミリアは強かった。
ずっと結界を直していたからという言い訳なんかしても無駄だろうが、私は負けた。
しかし、レミリアはただ霊夢に会いたいだけなのよ、とだけ言ってきた。
そういえば弾幕戦をはじめる前に、お互いが求めることを言っているので、そんなことを言っていたような気がする。
どうせ、そろそろ限界だったし、まだ回りで弾幕戦が続いているなか、レミリアをマヨヒガへと招待した。
11.八雲紫は誰がため
レミリアが霊夢に魔理沙のことを話した次の日。
私は結界の歪みをみて驚いた。
広がる速度が落ちているのだ。
さらに霊夢と魔理沙があった後も、歪みが広がる速度は落ちていた。
もしかしたら、すでに時は満ちているのかもしれない
後は霊夢が決意をするのを待つのみだ。
もし霊夢が決意することなく、ずっとマヨヒガにいるのならば、もしまた歪みの広がる速度が上がったとき、そのときは……。
いや、もう今は考えるのはやめよう。
私はそのときがこないように願いながら、明日の修復をするために力を蓄えるため、眠りについた。
幻想郷のために
幻想郷を愛するもののために
私は動く
ホントひどい話だけど、意外。レミリアが勝ってたのもなんか安心しました。
本編の感想は完結編にて。