Coolier - 新生・東方創想話

ふと目を向けると

2010/02/08 00:54:05
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 ――さわさわ さわさわ――

 小さな青色の花が風でそよぐ。

 ――さわさわ さわさわ――

 「ようやく暖かくなってきたぜ」
 「本当ね。これでやっと巫女服がつらい時期から抜け出せるわ」
 「つうか何でそんな寒そうな服着てんだよ?」
 「仕方ないじゃない。これが正装なんだから」
 「ねぇねぇ、それより花見はいつやるんだい?」
 「お前の場合花を見るんじゃなくて酒を飲みたいだけだろう?」
 「いやいや、風流を楽しむのも重要だよ」
 「酒がなくても?」
 「いや、それは困る。まず酒有りきだから」
 「というか、歩きながら飲むのはやめなさい」
 「私にとって飲むというのは息をするのと一緒だからやめられないねぇ」
 「この、酔っ払いが」
 「にゃはははは」

 ――さわさわ さわさわ――

 「リリーの姿をだいぶ見かけるようになったな」
 「ええ、彼女を見るとようやく春が来たって感じがしますね」
 「まぁ、少し前に春でもないのにリリーが出てきたこともあったがな。そういえばその時黒い服のリリー見たという奴がいるのだが」
 「黒い服のリリーですか?そういえば彼岸の方にはそんなリリーがいるというのを聞いたことがありますね」
 「ふむ、彼岸というと転生の間に見たりとかは?」
 「いえ、ないです。流石に完全な彼岸にはいないと思いますよ?彼等妖精に死の概念は無いですから」
 「それもそうか。そういえば何故今更神社に?」
 「幻想郷縁起の再編のために。最近また新しい妖怪などが出ているみたいなので話を聞きに行こうと」
 「なるほどな」
 「さぁ、急ぎましょう。あまり遅いと帰りが暗くなってしまいますから」
 「ああ」

 ――さわさわ さわさわ――

 「おなかすいたな~」
 「だからって人里で人間を襲わないでね~?」
 「わかってるよ~。でもなんで私に頼んだの?」
 「たまたま近くにいたから~♪」
 「明るいところは苦手なのに」
 「いや~屋台の修理用の木材は一人じゃ運べなくてね~、本当に感謝しているんだよ?こういうこと頼みやすい妖怪ってあんまりいなくて~」
 「リグルは?」
 「あれは冬眠明けの虫の管理で忙しいって~♪」
 「はぁ、後でしっかりおごってもらうからね」
 「はいは~い、任しといて~♪」

 ――さわさわ さわさわ――

 「最近やっと暖かくなってきましたね」
 「そうだな、紫様もようやく冬眠から目覚められたし」
 「そういえば、霊夢達が花見をやるとかいってましたけどどうします?」
 「おそらく冥界で行うだろうから紫様はまずご出席なさるだろう。となると我々も行かないとな」
 「花見かぁ、私は桜よりも春先に咲く花のほうが好きですね」
 「ほう例えば?」
 「そうですね~福寿草や梅、ホトケノザやヒメオドリコソウ。あとそこに咲いているオオイヌノフグリとか」
 「なるほど」
 「そういえば、オオイヌはわかりますけどフグリってどういう意味なんです?」
 「えっ?」
 「多分大きな犬のふぐりに似ているって意味だと思うんですけど、ふぐりってどこを指すのかなぁって。花びらが三角だから耳ですか?」
 「いや、あ~・・・まぁ後で花の図鑑を渡すから自分で調べてみなさい」
 「はいっ、わかりました!」

 ――さわさわ さわさわ――

 青い花は何も言わずに足元で道行く人々の声に耳を傾ける。

 ――さわさわ さわさわ――





 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 雨上がりに七色の橋が空に映る。

 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 「はぁ、やっと雨が上がりましたね」
 「ええ、風を纏わなければずぶぬれでした。ありがとうございます」
 「いえいえ、香霖堂の外の道具について教えてもらうのですからそれぐらいは当然です」
 「でも、わざわざ香霖堂まで行かなくても・・・」
 「いえいえ、現物を前に説明してもらったほうがわかりやすいですし。写真も撮れますからね」
 「はぁ」
 「そういえば、あなたは奇跡の力で天候をある程度操れるときいてますが、何故雨を降らしたままだったのですか?」
 「ああ、天候というのはなかなかデリケートなのであまり変えるといろいろと影響が出てしまうんです。だからよほどのことがなければ天候操作はしませんよ」
 「なるほど」
 「それに、ああいったものも見れなくなりますしね」
 「・・・入道雲と虹ですか。確かに」
 「綺麗ですよね」
 「ええ、ついでに一枚っと」
 「あ、後で見せてください」
 「いいですよ」

 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 「あ、ほら見てみなよ!」
 「うにゅ!空に橋がかかってる~!?」
 「あれは虹って言うらしいよ。さとり様が言っていた」
 「へぇ~地獄じゃ見たことないね」
 「雨が降らないと駄目みたい。あたいも初めて見たよ」
 「ちょっと触ってみたいな~」
 「ん~でも確か虹って触れないって聞いたことがあるよ」
 「そうなんだ?」
 「うん、光の反射がどうこうとかで近づくことが出来ないんだって」
 「へぇ~」
 「あ、それよりも頼まれ事さっさとしないと!」
 「うにゅ、そうだった!」
 「なにするか忘れていないね?」
 「・・・なんだっけ?」
 「あ~・・・」

 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 「あら、虹だわ」
 「本当ね」
 「そういばあなた七色とか言っているけど、それって虹から取ったのかしら?」
 「ううん違うわよ。いろいろな色、つまり多種多様な魔法を使うって意味からよ」
 「のわりには人形しか見ませんけど?」
 「人形からいろいろな魔法が出ているでしょう。そっちよ」
 「ふぅん」
 「虹といえばむしろそっちの門番のほうがそれっぽいいんじゃないかしら?」
 「美鈴?ん~確かにそうかもしれないわね」
 「そういえば、虹って龍に関係するわね。あの門番の額の文字も龍じゃなかったっけ?」
 「そうね」
 「案外本物の龍が化けていたりして」
 「それなら紅魔館は安泰ね。なにせ龍が門番だから」
 「違いないわね」

 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 「あ、虹だ」
 「ん、確かに」
 「虹の下でライブをやったら楽しそうね~」
 「あ、それいいかも!」
 「おいおい、虹は近づけないぞ。それに雨の後じゃあ湿気で楽器が傷む」
 「雨の後じゃなくて滝とかでも虹ができるじゃない。それを使ってやろうってことだよ」
 「となると妖怪の山かな~」
 「いやいや、やっぱり楽器が傷むし、なによりそう簡単に妖怪の山には入れないぞ?」
 「え~けち~」
 「けち~♪」
 「いや、私のせいじゃないぞ」
 「あの烏天狗に言ってどうにかならないか聞いてみようかな?姉さん、その横で演奏してくれない」
 「いいけど何で?」
 「そうすればハイになって言うこと効いてくれるかもしれないし」
 「わかった~」
 「・・・」

 ――ぽたぽた ぽたぽた――

 七色の橋は何も言わずに天から道行く人々の姿を見下ろしている。

 ――ぽたぽた ぽたぽた――





 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 木の下で白い花が茎一本で揺れている。

 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 「もうすっかり秋ね」
 「そうねぇ」
 「こうしてあなたと話せるのも後どれくらいかしら?」
 「まだまだ大丈夫よ」
 「そう言っても寒くなったらさっさと冬眠するんでしょう?あなたはそういう性格だものね」
 「まぁ、そんな薄情な女だと思われていたのね」
 「ええ」
 「ふふふ」
 「うふふ」
 「でも、最近は冬でも暖かくなってきたわね。冥界でも昔に比べて雪の量が減ったわ」
 「外の世界はもっと暖かいわよ。雪すら降らないなんてことも多いみたい」
 「あら、そうなの?」
 「ええ、逆に夏は相当暑いわ」
 「どれくらい」
 「常に温泉の中にいるくらい」
 「・・・それは嫌ねぇ」
 「ええ」
 「あ、でも温泉には行きたいかも」
 「じゃあ行く?」
 「そうね、行きましょうか」

 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 「疲れた~」
 「そっちはいいじゃない。薬の殆どは私が持っているんだから」
 「でも、販売は私がメインだったでしょう?」
 「うっ・・・まぁそうだけど」
 「人見知りしすぎなんだよ~」
 「そんなこといわれても・・・あら?」
 「どうしたの?」
 「ほら」
 「あ、白い彼岸花」
 「珍しいわね」
 「彼岸花かぁ、これ毒あるんでしょう?」
 「あ、でも毒を抜いて食べる方法があるって前に師匠が言ってたわ」
 「へぇ~」
 「でも白い彼岸花は初めてみたなぁ」
 「私は結構見たことあるよ」
 「・・・まぁそっちは長生きしているからねぇ」
 「まあね、でも四葉のクローバーよりは珍しいかな」
 「ふ~ん・・・さて、休憩終わり。いくわよ」
 「は~い」

 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 「今年も結構豊作みたいね」
 「ええ、何とかね」
 「収穫祭も盛り上りそうね」
 「そうだといいわね。あなたも偶には来ればいいのに」
 「知っているでしょう?私は人の近くには行かないほうがいいって」
 「でも、行けないってわけじゃないでしょう?」
 「まあね。でも私は人からしても近づいて欲しい神ではないし」
 「人のために頑張っているのにねぇ」
 「いいのよ、そういうものだから。そういえば静葉は?」
 「姉さんは山で頑張っているわ」
 「あ~そういえば静葉の活動範囲は人里じゃないものねぇ」
 「そういうこと」
 「それじゃあ私はここで」
 「ええ、じゃあね」

 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 「ご主人、そんなそわそわしていると挙動不審ですよ」
 「わかっていますが、人里の収穫祭というのは初めてで」
 「それはみな一緒ですよ」
 「そうそう」
 「はぁ・・・でも良かったのですか?一輪、雲山、ぬえを置いてきて」
 「ええ、一輪と雲山は興味ないみたいですし、ぬえはああいう人ごみの中に入るのは好きではないようですしね」
 「正体がばれるようなことは好きじゃないのでしょう」
 「ああ、確かにそうかもしれないね」
 「私も残っておけばよかったかな」
 「何をいっているんだいご主人」
 「そうだよ。せっかくの祭りなんだから楽しまなくちゃ」
 「そうですよ」
 「はぁ」

 ――ゆらゆら ゆらゆら――

 白い花は何も言わずに道端で人々の話を聞いている。

 ――ゆらゆら ゆらゆら――





 ――ふわふわ ふわふわ――

 曇り空から白い欠片が舞うように落ちてくる。

 ――ふわふわ ふわふわ――

 「とうとう降ってきたな」
 「へぇ~これが雪か」
 「ああ、地底じゃ降らないか」
 「場所によっては降らないわけでは無いんだけどね」
 「ふぅん。さて、本降りになる前に永遠亭に急ぐか。私ならともかくそっちはつらいだろう」
 「そうだねぇ。寒いと菌の増殖も悪くなるし」
 「ある病原菌を届けるのが役目だっけ?」
 「そうそう。あそこの薬師に頼まれてね」
 「なるほどねぇ。あ、寒いなら火でもつけようか?」
 「ん~私としてはありがたいけど、病原体にとって火は天敵だからなぁ」
 「寒いより暑いほうが駄目なのかい?」
 「そうだよ。寒い分には動かなくなるだけだけど、暑すぎると死んじゃう」
 「ふうん」
 「さて、急ぐんでしょう?案内屋さん」
 「ん、ああ、そうだね」

 ――ふわふわ ふわふわ――

 「雪ね」
 「ええ、降ってきましたね」
 「寒いわね」
 「火鉢でも持ってきましょうか?」
 「いいわ。偶には冷たい風に当たりながら雪を見ていたいのよ」
 「あまり身体を冷やさないでくださいね。死なないとはいえ身体の調子は崩れるんですから」
 「そしたらすぐに治してくれるでしょう?」
 「そういうのを当てにされても困ります」
 「あら残念」
 「全く、あなたは自分の身体について無頓着すぎます」
 「あなたは風流について無頓着すぎるわね」
 「それで身体が壊れたら元も子もありません」
 「それで身体を壊すのが人よ」
 「全く、ああいえばこういうんですから」
 「ふふふ」
 「まぁほどほどにしといてくださいね」
 「はいはい」

 ――ふわふわ ふわふわ――

 「お、雪見酒かい?」
 「ん、そうだよ」
 「どれ、私も相伴にあずかろうかな」
 「早苗は?」
 「もう寝てるよ」
 「そっか」
 「ん、何やってるんだい?」
 「雪を一片酒に溶かしているんだよ」
 「へぇ~」
 「何となく雪を呑んでいるみたいじゃない」
 「なるほどね、どれ私も」
 「・・・静かだね」
 「うむ」
 「そして穏やかだね」
 「そうだな」
 「悪くないね」
 「ああ、悪くない」

 ――ふわふわ ふわふわ――

 「何やっているの?」
 「ん、雪を見ているだけよ」
 「珍しい、月じゃなくて雪を見るなんて」
 「別にいいじゃない、雪は雨と違って当たっても痛くないし」
 「解けたら痛いわよ?」
 「吸血鬼の体温は低いからそう解けないわよ。お茶飲む?」
 「そうね、頂こうかしら」
 「そういえばそっちこそどうしたの?普段なら呼ばない限り図書館から出てこないのに」
 「何となくよ。偶には動くこともあるわ」
 「ふうん」
 「それにしてもちょっと寒いわね」
 「テラスだからねぇ。まぁそれも偶にはいいかなって」
 「カーディガンを持ってくれば良かったわ」
 「じゃあ丁度いい、これを使えば?咲夜が置いていったものだ」
 「あら、ありがとう」
 「吸血鬼にはいらないものなのだけど一応ってな。まぁ実際役に立ったわけだが」
 「さすが完全で瀟洒なメイドね」
 「確かにな」
 「ふふ」

 ――ふわふわ ふわふわ――

 白い欠片は何も言わずに空から人々の顔を眺めている。

 ――ふわふわ ふわふわ――
楸(ひさぎ)です。
今回初の単発ものです。
まぁ内容は屋台の会話と同じ落ちなし山なしの会話系なので、目新しさは無いかもしれません。いや、屋台の会話以上に起伏が無いのでそれ以上に退屈な文章かもしれません。
いやぁ~都市伝説を書いていたら行き詰っていつの間にかこれを書いていました。
まぁそれはどうでもいいことですね。
では、拙い文章ですが楽しんでいただけたら幸いです。

非常に重要な誤字を修正。情報ありがとうございます。
いろいろ修正…なんだかなぁ、もう。

[email protected]
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コメント



0.750簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ゆったりと風流を楽しめることは、とても幸せなことなのだと思いますね。
ああ……いつからだろう。桜で、虹で、紅葉で、雪で。楽しめる余裕が無くなってしまったのは。


誤字でしょうか?
穣子の活動範囲は… → 静葉の活動範囲は… ?
2.100名前が無い程度の能力削除
詩的ですね

会話、人数共に多いですけど
特に引っ掛かりもないです
現代は豪雪ですし
少し雪景色に意識を傾けてみようかと思います

でも白い彼岸花は始めて見たなぁ
→初めて
7.100奇声を発する程度の能力削除
これはとっても素晴らしい春夏秋冬
ジブリ系の曲を聴きながら読むと凄く良い!!!
心が落ち着きます。良いお話をありがとう。
10.100名前が無い程度の能力削除
良い雰囲気だ

完璧で瀟洒←完全で瀟洒じゃなかったっけ…?
あれ、どっちでもいいのかな
11.100名前が無い程度の能力削除
フグリとは「不遇裏」つまり、「不遇の裏に活路あり」という哲学のことだよ
15.90名前が無い程度の能力削除
四季の移り変わりがいい感じですね

あと一応
地霊殿のアリマリ三面で降雪描写があります
19.無評価削除
皆様感想&評価ありがとうございます。
>>1,2,10様
誤字の報告ありがとうございます。なんかもうぐだぐだな感じで読んでくれた方々は申し訳ありません。
>>15様
ご指摘ありがとうございます。その台詞聞いたことがあったのに失念するなんてもう自分が情けないです。
と言う訳でちょこちょこ修正させていただきました。誤字以外の修正は好きではないのですが今回は仕方ないです。
重ね重ね報告して下った方々ありがとうございます。
22.80ずわいがに削除
おぉ、なんか凄いリラックスした。ビックリ。