皆様こんにちわ。
命蓮寺の尼、聖白蓮です。
長かった法界での封印より解放されてから、かれこれ数日。
再び集ったかつての仲間達と共に、現代の幻想郷に馴染もうと苦労する日々です。
右も左も分からない幻想郷での暮らしは少しばかり不安もありますが……それでも、共に目標へ向けて歩んでくれる仲間が居るから、私は頑張れます。
妖怪が表立って虐げられる世ではなくなった現代ではありますが、それでもやはり人々の中には妖怪への恐れは根強く残っています。
何か新しい方法で人と妖怪が共に手と手を取り合う世を作る事が出来れば良いのですが……そんな名案が簡単に浮かぶはずも無し。
今日も今日とて地道な信仰獲得と説法で、人々に御仏の教えを伝える私なのでした。
……まあ、今はそんな事よりもお庭のお掃除をせねばならないのですけどね。
今日の掃除当番は私なので、手早く済ませないといけません。
弟の名前を取った、この命蓮寺。
何時如何なる時であっても、最高の状態であって欲しいと思いますから。
◇ ◆ ◇
「~~♪」
退屈なお掃除の時間でも、鼻歌を歌っていると自然と陽気な気持ちになれます。
箒を振るペースはリズムに合わせて軽快に。
時には足踏みを交えながら。
時にはその場でクルッとステップを踏みながら。
スカートの裾を踏まない様に気をつけるのも忘れずに……ですけどね。
「~~♪ ~~♪」
ちょっとした退屈しのぎのつもりで歌い始めた鼻歌ですけれども、やっている内にどんどん楽しくなってきました。
歌詞も何も無い、リズムとハーモニーだけの単調な音楽。
けれども、その単調な音楽が私の気分を心地よくしてくれます。
無作為で無造作だったお掃除に一定のリズムが加わる事で、楽しさと遊び心が芽生えた……とでも言うのでしょうか?
お掃除とは退屈で辛い修行の一環であるはずなのに、何故かそれが楽しくなっているのです。
自然と顔もほころんで、口元には笑みがこぼれてしまいます。
こんな風に皆が笑顔で居られる世界とは、きっと争いも起こらない平和な世界なののでしょう。
そんな世界で妖怪と人間が、共に手と手を取り合える未来を目指して――……
「――そうです! これですよ!」
瞬間、私の脳裏に一筋の閃光が迸りました。
音楽です! 音楽ですよ!
言語や常識、文化や風習の壁があろうとも、音楽を愛する心は種族の隔たりを乗り越えられるはず!
世界中の人々が手と手を取り合うには、延々とお話をするよりも共に歌を歌った方が早いとも聞きました。
音楽の力は人々の隔たりを超えるのです!
これです! これならきっと世界を良くする事が出来ます!
人間も妖怪も神も幽霊もその他諸々も、手と手を取り合って笑顔で歌を歌いあう世を目指すのです!
音楽って素晴しい! 音楽ってば素敵!
ついつい興奮してしまった私は、どの様な音楽を奏でるべきかを考えていました。
合唱? クラシック? 演歌? オペラ? それとも……?
ふと、手元を見ればそこには箒が。
箒って、何処と無くギターに似ている気がします。
……と、言う事で。
「となると……えーっと、確かこれを、こう……」
気分が良くなった私は、少々はしたないかもしれませんが箒を二本の腕で抱えていました。
左手で柄の上部を。右手で柄の下部、藁を束ねて膨らんでいる部分を握ります。
柄の上部はネック部分。藁が束ねられた箇所は弦の部分に当たります。
左手の指をクイクイと捻り、右手を勢い良く下ろす!
……確か、ギターの演奏ってこんな感じでしたよね?
弦を弾いて音を鳴らして、音楽を奏でる感じですよね?
「じゃかじゃーん♪ いぇいっ♪」
見よう見まね。記憶頼りの滅茶苦茶な演奏の真似かもしれませんが、今の私はちょっとだけギタリスト気分です。
思わずその場でジャンプなんかして、架空のお客さんにウィンクなんかしてみちゃったり……
こうなるともう、お掃除なんてしていられません!
見えます! はっきりと見えます!
私には、ホールを満たす大勢の人妖が私の演奏に熱中している姿が見えています!
◇ ◆ ◇
「皆ー! 今日はひじりんのファーストライブに来てくれて、ありがとー!」
ホールを満たすのは、ファンの皆さんの歓声。
イェアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! だとか、ひ――――じ――――りぃ――――ん――――――っ! だとかそれは様々。
共通しているのは、皆が私の演奏に夢中になってくれていると言う事!
人妖の隔たりを乗り越えた、音楽が紡ぐ愛が其処にはあるのです!
私の背後に控えるのは、共に音楽を奏でてくれる仲間達。
ギターを務めるのはこの私、聖白蓮!
ちょっぴりお茶目でドジなお姉さんだけど、皆が楽しめる時間を作る為に精一杯頑張っちゃいますっ!
ドラムを務めるのは毘沙門天的音楽センスの申し子、寅丸星!
正義を奏でるそのドラムは、ステージに躍動感をもたらしてくれます。でも、スティックの紛失癖は直してね?
キーボード担当のムラサちゃんは舟幽霊!
雄大な海、荒ぶる波、静かな海風――ありとあらゆる海原をキーボードで奏でる、私達にとって無くてはならない存在ですっ!
ベース担当は一輪ちゃん。
ベースが地味? ノンノン! そんな事はありません!
彼女が奏でる低音は、音楽に重厚感をトッピングしてくれるんですから!
そして、照明係のぬえちゃんとホールスタッフのナズーリンも加えて……私達、"MYO-RENG-JI!!"のファーストライブの始まりですよっ!
「今日は、ひじりん頑張っていーっぱい演奏しちゃうからー! 楽しんでねーっ!」
ステージから観客の皆さんへメッセージを送れば、その声が何万倍にもなって跳ね返って来ます!
これが、共にライブを作ると言う事。
演奏者も観客も一体となって場を作ると言う事。
そこには隔たりも何も無い!
あるのは唯、一緒に盛り上がりたいと言う気持ちのみ!
「聖、行きましょう」
「私達のファーストステージ……始まりますね!」
「姐さんに寅丸、それにムラサも……本当に、ここまで来るのに長い年月が掛かりました。ついに、それが報われる時です!」
「ええ! 行くわよー! まずは一曲目、『ナムサンなんて呼ばないでっ』から! 盛り上がっていこー!」
イェアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
星のドラムがステージに爆音を鳴り響かせ、それと同時に会場のボルテージも最初から最高潮!
ムラサちゃんのキーボードも良い滑り出しで、一輪ちゃんのベースも手堅くステージに厚みを持たせてくれる!
ああ、このバンドで演奏が出来て良かった!
ああ――音楽で世界を一つに出来て、本当に良かった!
ライブハウスに歓声が満ちる!
時には客席へマイクを向け、パフォーマンスだって忘れない!
星の放つ光のアート! ムラサちゃんの錨投げパフォーマンス! 一輪ちゃんと雲山のスモーク!
そして、私の超高速ヘッドバンギング!
観客席がレーザーとか錨とか拳とか、あとヘッドバンギングで発生した衝撃波で大変な事になっちゃってるけど、これはこれで盛り上がってるから良し!
誠に昂く、音吐朗朗である! これこそ我が目指した世界! いざ――ステージ上で、南無三!
「しぇけなべいびー! いえーい! うおーう、いえーいっ!
わーたしっはかわいいぎたりすとー! じゃかじゃーん!
みーんなー! 次はひじりんのセカンドシングル、『恋のメイルシュトローム』いっくよー! 一緒に盛り上がって、歌おうねー!」
既に脳内ライブは最高のボルテージ!
でも、それでも現状に満足しちゃダメ!
もっともっと燃え上がって、盛り上がって、最高のライブにしようよ!
「ひゅー! どうしたどうしたー! もっともっと盛り上がるぞー!
六曲目はひじりん初のデスメタル『魔神復誦』っ! スペシャルゲストには、一緒に作詞をした神綺ちゃんも呼んじゃってまーす!
皆、拍手でお迎えしてあげてねー! せーのっ、しんきちゃーん!」
時にはデスメタルだって歌っちゃいます。
本場魔界仕込の悪魔的デスメタル! 聞かせてあげるんだからぁっ!
「いよいよライブもクライマックス! 皆とお別れしちゃうのは悲しいけど、最後だから精一杯盛り上げちゃいます!
最後はやっぱり、天狗オリコンで八週間連続ウィークリー一位になった『ふらいんぐ☆ふぁんたすてぃっく』!
これで終わるのは悲しいけど……ファンの皆と一緒に楽しい時間を過ごせて、本当に楽しかった! だから、最後の最後まで盛り上がろう!」
そして……ついに脳内ライブもクライマックス……悲しいけれど、これで皆ともお別れ……
だから、最高の別れにしよう!
最後の最後まで、皆と一緒に音楽で通じ合いたいから!
「……と、ここでアンコールが入って…………ふふふっ、こっそりステージ袖で衣装を着替えた後、ステージへ戻ってさらに盛り上げちゃうと!
みんなありがとー! アンコールに答えて……何と! 今日は新曲も用意してきました! 本日初発表の新曲、『ホワイト・ホワイト・ホワイトロータス』! いっくよー!」
と、ここでアンコール!
こんな事もあろうかろ既に新衣装だって用意しています!
さあ、ラストスペルはこれからだぜっ!
「……あの、聖? そろそろお昼ごはんの時間、なの、です……が……?」
瞬間。
背後から。
聞きなれた、声が。
ギギギと、壊れかけのゼンマイみたいに首を回してみると、其処には居づらそうにしている星とムラサちゃんの、姿、が……
「…………え…………? あ……え……?」
「……あ、あの……お邪魔、でしたか?」
「…………あ、あはは……聖も、その……お掃除中に遊んだり、するんですねー。意外、だなー……あははー」
オロオロとしている星と、額から汗を流しながら半笑いになっているムラサちゃん。
見られた?
って言うか、無意識の間に歌ってた!?
「え、えっと……ちなみに、どの辺り、から……?」
「……『今日は、ひじりん頑張っていーっぱい演奏しちゃうからー!』の辺りから……です」
「あ、あはは……聖が余りにも楽しそうだったから、その、声が掛け辛くて…………え、えっと……私、頑張ってキーボードの練習しようかなー……?」
「私も、その、ドラムの練習をしてみようかなー、なんて……」
目の前の星とムラサちゃんは、反応に困っている様な半笑いを浮かべています。
いたたまれなくて、相手の気持ちが何となく分かってしまうだけに反応に困っている……そんな顔。
対照的に、私の顔には血が上っていて――どんどん恥かしくなってしまって――――空想ライブのパフォーマンスを全部見られていて、腕の中にはギターではなく箒が抱かれていて。
整然としていたはずの庭園は、散々ジャンプやらヘッドバンギングやらをしたせいでグチャグチャになっていて。
ああ。
私の心に。
羞恥が満ちる。
その後、私が自室に半月程引き篭もったのは……言うまでも、無いかも知れません。
ぐすん。
ひじりんと同じような恥ずかしさにも国境はありません。
剣道部員だったけど牙突ぐらいするよするともさ
俺は二重の極だったな
それよりも星ちゃん、ドラムを練習するなら俺が手取り足取り教えてあげるから家においで。
というわけで星ちゃんはちょっと借りていきますね。
ひじりんのライブなら是非とも行ってみたい。
ヒテンミツルギスタイルやワトウジュツゼツギ、某和尚の破壊の極意や三刀流…、挙げればキリないアレやらコレやら…ついついやっちゃうんだ。
しかし、なぜか解散した昔のバンドの復活コンサートが
思い浮かびました。
日常生活では普通に暢気そうだよな聖って。
寺は綺麗にしても私室とかは散らかってそうなイメージある。
「……『今日は、ひじりん頑張っていーっぱい演奏しちゃうからー!』の辺りから……です」
ほぼ全部見てたのかいwww
ひじりんはアイドルっぽいほうが似合うと思います。
『ふらいんぐ☆ふぁんたすてぃっく』ってひじりんが可愛く言ったの想像したらキュンときました。
やっちまったな!
聖の気持ち解らんでもないwwww
ラ〇ナ〇レ〇ドなら記憶に……。
一輪がベース担当なのが完璧だと思いました