きっかけは、宴会での一幕であった。
いつものように博麗神社で開かれたその宴会は、いつもの面々に比べ普段あまり参加しない四季映姫、地霊殿の面々、そして新規勢力である命蓮寺の面々が集まるという大規模なものとなった。また珍しいことに、いつもならば各勢力ごとに集まって飲んでいることが多いのだが、今日に限っていえばあらゆる勢力の面々がバラバラに入り乱れて好きなように飲んでいた。その結果、各勢力のトップ達が集まって酒を飲むという、カリスマ溢れる空間が誕生したのである。
「今日は私達命蓮寺の面々もお招き頂きありがとうございます。」
穏やかな空間の中、白蓮が皆に頭を下げる。幽々子が、それに気楽に返事をした。
「かしこまらなくていいのよ~。今日は無礼講なんだから。」
「本当に盛り上がってますね、いつも宴会はこんな感じで?」
「いや、いつもはもう少し落ち着いているんだけれど、今日は一段と盛りあがってるねぇ。」
神奈子が周りを見渡しながら言葉を発する。視線の先には、霊夢にやたらと絡んでいる酒に酔った早苗の姿と、チルノとキャットファイトをしている諏訪子の姿があった。
「普段来ない私や映姫も来てますからね。ほぼ全勢力が集まっているんじゃないですか?」
「ええ、それに今日はいつもに比べて集まりがバラけています。でなければ私達だけがここに集まるなんてこともない。」
「咲夜も美鈴もいつも私の傍にいるのに、今日は別の奴と飲んでるしねぇ。まあそれでいいのさ、宴会の時ぐらい自分の好きなように楽しんでもらいたいよ。」
レミリアがその光景に満足そうに頷き、他の面々も同意する。自分と同じ場所に住んでいる者とはいつでも接することが出来るのだから、こういう宴会の場では普段接しないメンバーと接することで交友を広めるのも一つの宴会の楽しみ方である。その見解はここにいる面々で共通していた。
「ねえ皆さん、ひとつ、面白いことを考えたのですけど……」
そして紫が、各勢力のトップ達に、ある提案をした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『はい、というわけで始まりました!幻想郷第一回ドラフト会議!アナウンスは私、大妖怪ばかりで正直ビビッている射命丸文がお送りします!』
射命丸の始めのあいさつが終わると、その場には拍手が鳴り響いた。
ここは紫のスキマによって連れてこられた空間であり、テーブルがいくつもあり、壁には大きな画面が用意されている。
まあつまり、ドラフト会議のそれである。
『えーそれでは、今回の企画の趣旨を説明したいと思います!今回の企画はドラフト会議!各勢力が自分の面々に入れたいと思うメンバーを指名して、新しい組織を作ろうという企画です!もちろんそれが永遠に続くわけではなく、期間は一週間。つまり、言いかえれば軽いお泊り会のようなものとも言えるでしょう!では詳しいルールを説明します!』
まずは射命丸がルールの説明をした。それは以下の通りである。
手順
1、 各勢力順番に、一番組織に入れたいと思う人物を『1位指名』として挙げる。
2、 それぞれ確認し、問題なければ2位指名へ。
3、 指名が被った場合にはくじ引きを行い、当たりを引いた者がその人物を加えることができる。
4、 ハズレを引いた者は、もう一度他の人物を指名しなくてはならない
5、 それを、5位指名まで続ける。
さらに、細かい決まりごとも決められた。
ルール
・ 基本的に、自分の勢力の人物は指名してはならない。
・ 5位指名まで行われるが、途中で指名を止めることも出来る。その場合は止めたい順番の時に『指名なし』と宣言する。
・ 現在、勢力に属していない人物を指名することも可能。
・ 今この場にいる者を指名することは出来ない。
『……さて、以上のルールで始めたいと思います!では今回の参加者の方々の意気込みをうかがいたいと思います!まずは委員長である八雲紫さん、どうぞ!』
射命丸が紫にマイクを向ける。紫はそのマイクを受け取り、立ちあがった。
「この前の宴会を見て思ったわ。確かに今の私達の組織はどれも素晴らしい。だけど、新たな人間関係を構築することが、幻想郷のためになると。期間はたったの一週間だけど、そこで培った絆は永遠に続くはずよ。皆、後悔のない指名をしましょう!」
紫の発言の後、各々からは自然と拍手が沸き起こった。
盛り上がる雰囲気の中、射命丸は他の参加者達にも次々とマイクを向けた。
『紅魔館代表、レミリア・スカーレットさん!』
「もちろん今の紅魔館が最高のものだと思ってるけど、今回もそれと同じくらい優れた組織を作るつもりよ。私に指名されるのを楽しみにしててほしいわ。」
『白玉楼代表、西行寺幽々子さん!』
「私はすごしやすい環境が出来ればそれでいいわ~。あんまりがっつく気はないわよ。」
『永遠亭代表、蓬莱山輝夜さん!』
「永遠亭はイナバが多いからね、しっかり考えて指名しないと組織がまわらないわ。頑張らないとね。」
『彼岸代表、四季映姫・ヤマザナドゥさん!』
「やはり仕事が出来る人材がほしいですね。あとサボらないことが大前提!私に指名されることがあなた達に出来る善行よ。」
『守矢神社代表、八坂神奈子さん!』
「やはり信仰だね、そういう意味で早苗を指名できないのは痛い。ま、そこは考えてるさ。」
『地霊殿代表 古明地さとりさん!』
「私が考えてる方針は一つです。今日はそれ一本で行きます。」
『命蓮寺代表、聖白蓮さん!』
「私のところだけではなく、他の皆さんのところも良くしていけるような指名をしたいと思ってます。よろしくお願いしますね。」
この7名に紫を加えた8名で、ドラフト会議が行われる。フルで指名されれば40名が指名されるわけだが、途中で指名を止める者もいるはずなのでそこまでにはならないであろう。ここで、この場にいる面々が一切触れていないことが一つある。指名された者の、拒否権である。
そんなものは、無い!
なにぶん自分勝手な組織のトップばかりが集まったのである、それは仕方のないことであろう。そんなこんなで説明も終わり、1巡目の指名が始まろうとしていた。
――1巡目――
指名の順番は、レミリア、幽々子、紫、輝夜、映姫、神奈子、さとり、白蓮の順。基本的に作品順と思ってもらってよいだろう。被った場合はくじ引きで決められるのだから、順番による不公平はない。まずは最初のレミリアの1位指名がアナウンスされ、画面にも大きく表示される。
『紅魔館、1位指名………八意 永琳』
いきなりの大物の指名に、場は大きくどよめいた。
「大きく出たね、レミリア・スカーレット。」
「咲夜並みの働きを期待できるのは、こいつぐらいなものよ。それに、カリスマもある。」
驚きはしたが、皆納得はしていた。下手をすれば輝夜以上の実力と言われる永琳は人気カードであり、どこかの1位指名は確実であろうと皆思っていたはずである。
『白玉楼、1位指名………十六夜 咲夜。』
「咲夜か……まあ、1位は当然だな。」
レミリアが嬉しそうにつぶやく。咲夜もまた、人気カードの一人である。人間ながらその職務遂行能力は従者の中でもトップクラス。競合が予想される人物である。
「時間を止めれば、庭掃除とかもすぐ終わりそうだしね~。」
『八雲 1位指名………博麗 霊夢。』
始めての、組織に属していない者の指名。
この指名に、意外そうな顔をしたのは輝夜だった。
「霊夢?霊夢はあんまり働き者って感じしないけど。」
「藍がいなくなるからね、とにかく結界を扱える者が必要なのよ。多少の怠けぐせには目をつぶるわ。」
(どの口がそんなことを言うのでしょう……)
さとりはそれを聞きながら、紫の自分自身の棚上げっぷりに呆れていた。
『永遠亭、1位指名……十六夜 咲夜。』
始めての指名かぶり。
輝夜と幽々子の目があった。輝夜は余裕そうな笑みを浮かべながら幽々子に語りかける。
「妖精メイド達をまとめあげるリーダーシップ、あれならウチのイナバ達もまとめあげることが出来るでしょう。白玉楼に置いておくのは、もったいないわね。」
そんな輝夜の挑発にも、幽々子は動揺せずただ扇子で顔を隠すだけであった。
『彼岸 1位指名……魂魄 妖夢。』
「あら!」
声をあげたのは幽々子である。自分が愛する従者であるが、指名されるとは思ってなかったようである。
「妖夢でいいのかしら?閻魔さん。」
「彼女はとても真面目で、きっと職務を一生懸命やってくれることでしょう。
私が求めているのはそういう人材です。さらに霊との繋がりも強い、言うことなしです。」
その言葉を聞いて幽々子は思わず笑みがこぼれた。他者から自分の従者を誉められると、自分のことのように嬉しいものである。
『守矢神社 1位指名……博麗 霊夢。』
またしても指名被り。今度は霊夢を巡って紫と神奈子が争う形となった。
「悪いね、ウチも巫女が必要なんだ。巫女がいない神社なんて格好がつかないだろう?」
「あら、あなたなんかに霊夢はあげないわよ?」
早くも火花が散っている模様である。
『地霊殿 1位指名……チルノ。』
「!!??」
この指名には、さとり以外の全員が驚いた。
ここまで、ある意味まっとうな指名が行われてきたというのに、まさかのトンデモ指名である。
「さ、さ、さとりさん?何考えてるんですの?⑨になった?」
「え?だって、かわいいじゃないですか。」
動揺しながらたずねる紫に、さとりはしらっとして答えた。
確かにチルノは空と似ている。さとりの好みにマッチしていると言えるが……
「そんなんで決めていいんですか?旧地獄の管理とか、霊の管理とかあるでしょう。」
「そんなもの一週間ほっといてもどうにでもなりますよ映姫。それよりも大事なのはかわいさです。かわいいis 正義!」
あまりに堂々とした態度に他の面々は口を挟むことを諦めた。そもそもさとりは身の回りの家事などをほとんど自分でやってしまう。むしろペットに対して養う側であり、それに喜びを感じる気質の持ち主なのだ。そう考えれば、この指名も納得と言えよう。
『命蓮寺 1位指名……紅 美鈴』
この指名もまた、他の面々にとっては意外だったようだ。
「これはまた……意外な人を1位にしたわね。」
「そうですかね?彼女は実力もあるし、何より穏やかです。皆さん彼女を過小評価しすぎですよ。私は最初から彼女を1位指名するつもりでしたよ?」
にこやかに言う白蓮。レミリアも自慢の門番を誉められいい気分になっていた。
他の面々も美鈴を過小評価していたわけではない。ただ1位指名には来ないと思っていたので、2位や3位などでの指名を考えていたのだ。だからこそ、白蓮の一人勝ちという結果が生まれたのである。
こうして、一巡目の指名は全て終了したが、十六夜咲夜を巡って幽々子と輝夜が、霊夢を巡って紫と神奈子が争う形となった。敗れた方が、再び指名をしなくてはならない。所謂『ハズレ1位』というものだ。
まずは幽々子と輝夜がくじを引いた。その結果は……
「……やった!当たりだわ~!」
「く、ちくしょう!」
幽々子が当たりを引いた。よって輝夜は再び1位指名をしなくてはならなくなる。
一方の霊夢争いでは……
「ふっ、ゆかれいむは私たちのロードよ!」
「ば、ばかな……」
紫が当たりクジを引いていた。
この結果輝夜と神奈子だけが、再び1位指名を行う。
――1.5巡目――
『永遠亭 1位指名……火焔猫 燐』
「へえ、ウチの燐ですか。咲夜さんの代わりは難しいのでは?」
さとりが疑問を投げかける。しかし輝夜は余裕を持って返した。
「もともと2位指名するつもりだったわ。彼女は動物属性を持っているから、ウチのイナバ達とも相性がいいでしょうしね。」
『守矢神社 1位指名……八雲 藍。』
ここに来て再び大物が指名された。むしろここまで誰も指名しなかったのが不思議なほどのカードである。
「どちらか迷って霊夢にしたんだけどねぇ。まあ過ぎたことはしょうがない、藍なら家事もしてくれるし実力も申し分無し、文句はないよ。」
以上をもって1巡目は終了。2巡目へと移る。
――2巡目――
『紅魔館 2位指名……寅丸 星。』
レミリアが指名したのは毘沙門手の弟子、寅丸星。命蓮寺の実質ナンバー2である。
命蓮寺からは、これが始めての指名になる。
「いいのですか?星は優秀ですが、たまにうっかりをやらかしますよ?」
「構わんさ。私が重視しているのは、カリスマ!毘沙門手の弟子というからにはそれだけのカリスマがあるはずだ。カリスマ溢れる紅魔館を楽しみにしていてくれ。」
どうやらレミリアの方針は、ひたすらカリスマがある人物を集めることのようである。
『白玉楼 ……指名なし』
アナウンスの後、ふたたび場がざわめいた。五人全て指名しなくてもよいルールではあったが、まさか2巡目で終了宣言が出るとはまったくの予想外であった。
一方の幽々子は涼しい顔をしている。
「ちょ、幽々子!もう終わりでいいの?」
紫が慌てて問い詰めるも、幽々子はにこやかに言った。
「もともと妖夢と二人だったし、私は妖夢の代わりさえ居ればそれでいいわ~。」
幽々子としては咲夜を勝ち取った時点で既に満足したようだ。
災難なのは咲夜である。たった一人で幽々子の世話、広大な庭の掃除をしなくてはならないのだから。レミリアは内心咲夜に合掌した。
『八雲 2位指名……東風谷 早苗』
「なんだ、霊夢の上に早苗まで?巫女マニアかい?」
神奈子が霊夢と早苗を取られた腹いせに紫に絡む。
「霊夢は結界の仕事はしてくれるでしょうけど、私の世話はしてくれないわ。その点、早苗だったらやってくれると思ってね。二人あわせて藍、といったところかしら。」
またまた自分で働くという気はないらしい。
どうやらこの妖怪、楽をするためのドラフトをしているようである。
『永遠亭 2位指名……パチュリー・ノーレッジ』
「へえ、パチェを?言っておくけど、本を読むことしかしないわよ?」
レミリアが不可解そうに輝夜に尋ねる。しかし輝夜としてはそれでも問題は無かった。
輝夜のこの指名の意図はブレインにある。パチュリーを入れることによって永琳が抜けた穴を埋めようという算段だ。
「なんか暇つぶしの本とか持ってそうだしね~。」
もちろん、娯楽も忘れない。
『彼岸 2位指名……村紗 水蜜。』
映姫が指名したのは村紗。星に続いて2人目の命蓮寺勢である。
キャプテンと呼ばれているだけあって、船の扱いにはたかけているはず。多少やんちゃな部分もあるものの、一週間であればしっかりと働いてくれると見た上での指名である。
「映姫は真面目ですね。こんな時ぐらい娯楽に走ってもいいのに。」
と、娯楽に走りまくっているさとりが言うが、映姫はそれを全力で無視した。
『守矢神社 2位指名……ルナサ・プリズムリバー』
「おお?これは意外な名前が。」
レミリアは首をかしげる。しかしこれは神奈子にとってはしっかりと計算された指名であった。神奈子は信仰を重視した指名をしている。人気者であるプリズムリバーを抱え込むことが出来れば、信仰もアップすると見こんでいる・
「ま、ルナサなのは私の好みだけどね。あとの2人はうるさすぎる。」
『地霊殿 2位指名……橙。』
「念のため聞くけど、指名理由は?」
「ねこ。かわいいですよね。」
「やっぱり……」
さとり的には、チルノが空ポジションで橙が燐ポジションのつもりなのであろう。問題なのはこの2人だとまったく旧地獄の仕事が出来ないことであるが、さとりの脳内ではこの2人を愛でることしか考えていない。ゴーイングマイウェイである。
『命蓮寺 2位指名……上白沢 慧音。』
ここで人里を守る半獣が指名された。これもまた有効なカードである。従者タイプではないものの、その誠実さは組織において非常にプラスに働くであろう。
「新勢力のくせして……なかなか手堅いねぇ。」
「そうですかね?うふふ。」
神奈子が警戒心を持って白蓮を見た。
ただのぽややんとした女性だと思っていると、痛い目を見ると考えを改めながら。
こうして2巡目が終了した。今回は指名被りは無し。
幽々子が早々に降りたため、次の3巡目では7人による指名となる。
――3巡目――
『紅魔館 3巡目 星熊 勇儀。』
「ふふふ、奴のカリスマには目をつけていたのよ。奴には門番をやってもらうわ。カリスマ溢れる鬼が守る門……ふふ、誰も通れなくて困っちゃうでしょうね?」
勇儀が門番をしている姿を想像して一人にやつくレミリア。
一方他の面々は違う心配をしていた。果たしてあの勇儀がおとなしく門番などをするか……?という疑問である。
もっともレミリアはそんなことまったく心配していなかったが。
『八雲 3位指名……多々良 小傘。』
「小傘?なに紫、あなたもさとりみたいにかわいいもの集めに走り出したの?」
「まさか、アレとは違うわよ。」
幽々子が紫に問い掛けるが、紫はすぐさま否定した。
アレ呼ばわりされたさとりが怪訝な表情を浮かべるが、皆見なかったことにしていた。
「でも愛らしさで選んだのは確かよ。言うならば彼女は橙のポジション。本当は燐が良かったんだけどもう指名されちゃったからね。霊夢と早苗で藍、小傘で橙ってわけ。」
どうやら紫の方針は、八雲一家の再現らしい。
とすると、4巡目の紫の行動は予想がついてくる。それは他の面々もわかっていた。
『永遠亭 3位指名……小悪魔。』
まさかの中ボス!?と動揺する面々。しかし輝夜はパチュリーを入れた時点で小悪魔を入れることも視野に入れていた。戦闘力は弱いものの、あの広大な図書館の司書を一人で勤め上げる能力は必ず役に立つ、パチュリーのご機嫌取りもできて一石二鳥の指名と考えていた。輝夜は今のところ割と真剣に、永遠亭のことを考えた指名をしている。さとりとは大違いである。
(へにょりイナバみたいにいじって楽しめるタイプだしね~)
もちろん娯楽も忘れない。
『彼岸 3位指名……ナズーリン。』
まさかの1ボスであるが中ボス指名の後であるから周りもそれほど驚かなかった。むしろナズーリンの仕事っぷりを考えれば納得の指名である。
映姫はとにかく、仕事が出来る人物をひたすらに集めていた。
「ナズーリン……狙ってたのに……ねずみさん……」
さとりが物惜しげな顔をしていたが映姫は相手にしないことにした。
ナズーリンを愛玩目的にするなど宝の持ち腐れもいいとこであると思いながら。
『守矢神社 3位指名……アリス・マーガトロイド。』
「なんだかんだで、人里じゃあ人気だからね、あの娘は。」
アリスはあまり外に出るタイプではないが、よく人里に出て人形劇を披露していて、人里では絶大な支持と人気を得ている。そのアリスを抱え込むことが出来たならば、信仰も多いにアップするだろう。要はルナサの時と同じ要領である。
「あざとい……」
ぼそっとしたつぶやきが聞こえたが無視をした。
『地霊殿 3位指名……ミスティア・ローレライ。』
もちろん愛らしさ重視なのは変わらないが、今回はほんの少しだけ別の要素もある。
「彼女は屋台を経営してるらしいですからね、一度食べてみたかったんですが、そのために地上に行くのはそれはそれでめんどくさい。しかし、これなら一週間食べ放題じゃないですか!」
娯楽一直線。彼女を止める者は誰もいない。
『命蓮寺 3位指名……永江衣玖。』
命蓮寺が3位に指名したのは竜宮の使い、永江衣玖。ここまでくれば他の面々も白蓮の指名の方針が掴めてくる。
美鈴、慧音、衣玖、そして白蓮……ひたすらに「いい人」ばかりが集まっている。
きっとそういう方針なんだろうと他の面々は納得していた。
しかし、白蓮には別の狙いがあった。
3巡目が終わり、それぞれの指名の傾向が見えてきた。
紅魔館はカリスマ傾向、ひたすらにカリスマのある人物を集めたがる。
白玉楼、八雲は再現傾向。もともとの組織を再現するような方針を取っている。
永遠亭は戦略傾向。より効率的な組織を作ろうとしていた。
彼岸は仕事重視傾向。仕事の出来る面々をひたすら集めることに終始している。
守矢神社は人気傾向。信仰を集めるため、人気のありそうな面子を揃えている。
地霊殿は愛玩傾向。ゴーイングマイウェイでかわいいものばかりを集めている。
そして命蓮寺は現時点では雰囲気重視傾向。「いい人」ばかりを集めているが……
そして後半戦、4巡目に入る。
『紅魔館 4位指名……洩矢 諏訪子』
レミリアが指名したのは、守矢の2柱の片割れ、洩矢諏訪子であった。
「実力も申し分なし、カリスマも充分にあるんだが、難点が一つ。」
「なんだい?」
相棒に難点があるといわれ、少し不機嫌そうに尋ねる。
「幼女姿なことだよ!それではせっかくのカリスマも半減だ!
ああ、もっと外見にカリスマがあれば1位で指名してやったというのに!」
「……」
「お前鏡見てみろ」とはこの場にいるレミリア意外全員の心の中でのツッコミである。
しかし仕方ない、吸血鬼は鏡に映らないのだから。
『八雲 ……指名なし』
「と、いうことで私はここでストップよ。」
紫はここで指名をストップした。今までの指名の傾向、そして3巡目での言葉を考えれば周りの面子にもこの行動は予想出来た。
紫は八雲一家を再現するかのような指名をしてきた。そしてそれは、小傘を指名した時点で完成していた。となれば、もう指名はしないことは明白である。
「じゃあ私は、高みの見物とさせてもらうわね?」
『永遠亭……4位指名 河城にとり。』
「やはり永遠亭にも、河童のメカニズムを入れるべきなのよ。」
既に永遠亭では高度な月の文明が生かされているが、もし仮に河童の技術を参考にできれば相乗効果でさらに発展できる可能性もある。なにより、これまであまり交流の無かった河童と同盟を結ぶいいチャンスである。輝夜は一週間という期間だけではなく、長期的な戦略からの指名をしていた。
(PCの不具合、にとりならなんとかしてくれるかも!)
長期的な娯楽も忘れないのだ。
『彼岸 4位指名……鈴仙・優曇華院・イナバ。』
これまでの傾向通り、映姫は仕事の出来る真面目な人物を指名した。
しかし5ボスにしては順位が低いのは、ドジ属性、そして過去の行動から割とすぐ投げ出しがちな性格をしていると見ていたからだ。
しかしそれでも映姫は、鈴仙の誠実さを評価していた。
「鈴仙があなたの職場で耐えられるかしら……?」
輝夜が不安げにつぶやくので、映姫は力強く言い放った。
「耐えさせますよ。」
『守矢神社……指名なし。』
幽々子、紫に続いて神奈子も指名をストップした。
順調に人気者を集めていた神奈子が指名を止めた理由は一つである。
「ウチもそんな広くないからねぇ。あんまり多いと狭いんだよ。」
もともと神奈子・諏訪子・早苗の3人でちょうどよかった環境に、すでに4人入っている。
まだまだ人気も欲しいとこではあるが、やはり過ごしやすい環境が一番であると感じていた。
『地霊殿 4位指名……リグル・ナイトバグ。』
「念のため……」
「むしさんが……」
「もういい……」
もはや説明するのも面倒なのである。
『命蓮寺 4位指名……古明地こいし。』
3位あたりからある程度勢力ごとの傾向が見えてきたため、指名によって場がどよめくようなことはしばらくご無沙汰であった。しかしこの指名で、久々に場がどよめいた。
紫がみんなの思いを代弁して白蓮に問い掛ける。
「白蓮……どういうこと?」
「何がでしょう?」
「今までずっと『いい人』を集めてきたじゃない。なのに急にこいし。さとりの前で言うのは悪いけど……こいしは『いい人』じゃないわ。」
「考えがあるのです。次の指名で分かりますよ。」
白蓮はただ単に「いい人」を集めていたわけではない。
ある目的のために、必要な人材を集めていたのである。そのためにはこれまでの3人、そしてこいしは必要不可欠であった。
(なるほど……そういうことですか。)
さとりだけが、白蓮の考えを読みとっていた。
そして、5巡目の最後の指名で場が荒れるであろうことも予測していた。
波乱の予感を感じつつ、最後の5巡目が始まる。
――5巡目――
『紅魔館 5位指名……比那名居 天子』
レミリアにとって、これは相当迷った上での指名であった。
現に周りからは、「うわーこいつやっちゃったよー」的な視線が飛んできている。
うるさい!自分が一番わかっているんだ!と言いたい声を抑えて、レミリアは周りに説明する。
「いいかしら?私がカリスマを集めているのはただ単にカリスマグループを作りたいんじゃないの。私がカリスマ達を従えることが重要なのよ!そういう意味で天子という存在のカリスマも認めてやった上で、征服してやるのよ!どうよ、完璧でしょ?」
レミリアは無い胸を張って威張るように言い放った。
他の面々はある意味感動していた。こいつは永琳や勇儀といった化け物達を従えて見せると自信を持って言ったのだ。これだけの無鉄砲さ、なかなか持てるものではない。
紫達は声をそろえて、レミリアにエールを送った。
『無理だろうけど、頑張って!』
「無理ってゆーな!!」
『永遠亭 5位指名……藤原 妹紅。』
再び場がざわめいた。輝夜と妹紅の関係は既に皆知っている。なのにどうして指名するのだろうか。永遠亭の一員となってしまうというのに。
「フフフフッ!みんな私の高度な作戦がわからないようね!じゃあ説明してあげるわ!」
皆が顔に?マークを浮かべているのを見て、輝夜は高笑いをしながら得意げに説明した。
「つまり全ては妹紅への嫌がらせなのよ!私が考えに考えた最高のグループの中で、5位指名という最下層としてこき使ってやるの!そして言ってやるのよ、5位でも選ばれただけ感謝しなさい、ってね!オ~ッホッホッホッホ!」
高らかに笑う輝夜を見て、皆は思った。
「これまでのカリスマっぽい指名、全部台無しだよ。」と……
『彼岸 5位指名……犬走 椛。』
結局映姫の指名は最後までブレることなく一貫であった。今回もまた仕事が出来る真面目妖怪を指名した。若干力は弱いものの、その仕事っぷりには定評がある。
「これで一安心ですね。むしろ小町に戻った時のギャップが怖い……」
小町を見放すつもりはないものの、この5人による仕事効率に慣れすぎたら自分の気持ちはどうなるかわからないなと感じていた。
『地霊殿 5位指名……因幡てゐ。』
この指名には周りも全力で止めようとした。
「やめなさいって!絶対かわいくないから!」
「心めっちゃ醜いよ!大丈夫なの!?」
「瞳閉じたくなっちゃいますよ!!」
しかし、さとりの心は硬かった。
「うさみみは譲れません!!!」
周りの面子は、さとりの潔さに感動の涙を流した。
こいつ、漢(おとこ)や……少女だけど。
ほのぼのとした空気。しかしそれは、次の白蓮の指名で崩れることになる。
白蓮の指名した人物は……
『命蓮寺 5位指名……フランドール・スカーレット。』
――ガタン!
そのアナウンスが流れた瞬間、レミリアが勢い良く立ちあがった。
怒りの表情を浮かべたまま白蓮に詰め寄り問い詰める。
「……どういうつもりだ。ウチの事情を知らないとは言わせないぞ。」
「だからこそですよ。一週間、妹さんはウチで預かります。
あなたの妹さんに必要なのは、人との触れ合いです。合宿のようなものと思ってくださいな。」
「だが、あいつの能力は……!あいつは人を傷つける!そして、その後自分自信も傷ついてしまうんだ!だから……!」
「大丈夫です、そのために必要なメンバーをずっと指名してきたのですから。」
白蓮が何故フランドールの事情を知っているのか、それは命蓮寺に住む封獣ぬえからの情報である。最近、古明地こいしと封獣ぬえとフランドールの3人で遊ぶことが増えたという。そして、フランドールの情緒不安定な部分やあまり外に出してもらえないという事情を知ったのだ。それを聞いて白蓮はなんとかしてやりたいと思った。しかしコンタクトを取る機会に恵まれない。そこに、今回の企画が舞い込んできたのである。
白蓮は恐らくフランドールを指名する者はいないと踏んで、4位までをフランドールを迎えるために必要なメンバーで揃えた。
「1位指名の美鈴さんは、紅魔館で一番フランちゃんと触れ合っている人です。
2位指名の慧音さんは、子供の扱いに非常にたかけている。
3位指名の衣玖さんは、空気を読むことでフランちゃんと上手く付き合ってくれる。
4位指名のこいしちゃんは、フランちゃんの数少ない友達。
どうですか?まだ不安がありますか?」
「……ダメだ。」
フランドールを迎えるために万全な体制は整っている。
しかし、レミリアは首を縦に振ることは出来なかった。
「……フランが仮に暴走したとき、止める者がいない。
あいつの暴走を止められるのは、私しか……」
「それなら安心してください。」
聖母のような、それでいて力強い微笑みでレミリアを見つめる。
「私がやります。」
その言葉を聞いて、レミリアは決心した。
許していたのは短期間の外出だけ。それがいきなり一週間のお泊りなど不安ばかりであるけども……自分の妹のためにここまでしてくれた白蓮を、レミリアは信じることにした。
「フランを……頼んだ。」
こうして、幻想郷第一回ドラフト会議は終了した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、ここからは後日談である。
それぞれの勢力がドラフト会議の結果集まったメンバーで一週間過ごした。
各陣営の一週間の様子を、それぞれ簡単に見ていこう。
――紅魔館――
結論から言うと、レミリアはカリスマ負けした。
一番最初から
「お前達は私の手下だ!何も言わずに私についてこい!!」
などとのたまったのが悪かったのだろうか、忠誠心は始めからゼロ、誰にも相手してもらえず、永琳達が勝手に館を仕切っていく。
悔しさと歯がゆさと寂しさに我慢できたのは、3日が限界であった。
「うわ~~ん!しゃくやああああ!もどってきてええええ!!」
4日目の朝、自分の部屋で大泣きするレミリア。慌ててやってきた5人は、そのれみりゃ化した姿に、お母さん的な何かをたいそう刺激された。その結果……
「レミちゃん、痛いとこない?すぐ薬作ってあげるわね?」
「あ、レミリアさん、キャンディー食べますか?」
「昨日までは悪かったな!今日は遊んでやるよ、何して遊ぶ?それとも呑むか?」
「あーうー、いいんだよ~?もっと子供っぽく振舞ってもさ!」
「しょ、しょうがないわね!私が相手してやるわ!感謝しなさい!」
といった具合に、残りの4日間をたいそう可愛がられて過ごしたらしい。
ある意味、カリスマ溢れるこの5人を征服するという目的は達成されたのかもしれない。
――白玉楼――
幽々子は退屈していた。
「咲夜~!おなかすいたわ~!」
「どうぞ。」
「咲夜~、あれどこに……」
「持ってきましたわ。」
「咲夜~、庭の掃除は……」
「終わりましたわ。」
といった具合に仕事は完璧だ。完璧すぎるのだ。
もっとこう、未熟な部分とか、からかいがいがある部分とかが一切ない。
たまに天然ボケをすることもあるけれど、本来ツッコミでない幽々子にそれを気付けというのも酷な話である。
つまりは、「みょん分」が無ければ幽々子は生きていけないのだ。死んでるけど。
「ね、ねえ咲夜、期限まであとどれぐらいだったかしら?」
「あと3日と7時間46分22秒ですわ。」
「いやああ!こんなきっちりした返答いやああ!!はやく戻ってきてええ!!」
―――新・八雲一家―――
「あー、もー、小傘はかわいいわねー。」
「やーめーてー!」
紫はひたすら小傘を愛でていた。
周りの人妖からは藍が橙を溺愛しているという認識がされていたが、何を隠そう、紫の方が橙を溺愛していたのだ。
「紫さーん、ご飯できましたよー。」
そして食卓からは早苗の声が響く。早苗もまた出来た娘であった。女子高生ながら、ぐーたらな神二人の世話をしていたせいか、既にお母さん属性を身につけている。
そして紫、小傘、早苗の3人で卓袱台を囲む。
紫は幸せをかみ締めていた。もちろん藍と橙が一番なのは言うまでもないが、
この環境もまた新鮮味があって幸せだと。3人は手を合わせた。食事前の挨拶。
いただきま~~~~……
「……っと待ったぁ!!!!」
と、全力で障子を開けたのはボロボロになった霊夢であった。
「何、どうしたの霊夢。」
「どうしたもこうしたもないわよ!なんで私だけ結界の仕事に追われなきゃなんないの!
そんでなんで私がいない間にほのぼの家族ライフ送ってるのよ!!」
「あなたの仕事が遅いからよ。藍なら一時間で終わらせるわ。」
「しょうがないじゃない!私は人間であいつは大妖怪なんだから!」
「……あ、ほら、あっちの結界にも綻びが残ってるわよ?いってらっしゃい。」
「……ねえ、私1位指名よね?なんでこんな扱い受けなきゃいけないのかな?かな?」
「しょうがないわね、スキマで送ってあげるわよ。」
「ちょ、おま!一週間後、おぼえてろおおおぉぉ……」
霊夢の声がエコーで遠ざかっていくのをBGMにしながら、3人は先ほど言い損ねた「いただきます」を斉唱した。
――永遠亭――
輝夜がドラフト会議で見せた、カリスマ的戦略指名は……
「おらああ!!死ねえええ!!」
「おほほほ!やってみなさいよ!!」
全て無駄になった。1日で妹紅がキレた後、ずっと殺し合いが続いているからだ。
いつもならば止めるはずの永琳・慧音は、紅魔館と命蓮寺に出張中である。
よって止める者はおらず、誰にも邪魔されぬ殺し合いが5日間も続いていた。
パチュリーは医学書を読み漁り、小悪魔はそのお世話。にとりは部屋に篭もって輝夜のPCをいじっているため、実質働いているのは燐だけである。
その燐は動物的カリスマを発揮して、イナバ達の臨時リーダーにのぼりつめていた。
「あ、そこ入念に掃除してね」
「ウッサー!」
「食事班!そろそろお米を研ぐ準備しといて!」
「ウッサー!」
しかし燐は充実していた。こうした仕事は始めてで楽しかったし、最後にはとっておきの楽しみが待っている。
「はやく、あの二人の死体を持ちかえりたいなー!」
―――彼岸―――
映姫は死んでいた。
「も、もう勘弁して……」
よくよく考えれば分かることだった。
小町がやっていた仕事は霊をこちらに船で渡すこと。そして自分がそれを裁く。
そしてあの5人が小町の仕事を引きついだ。つまりあの5人が働けば働くほど、自分の仕事量が増える。ここはそういう仕事場なのだ。
つまるところ、あの5人が働きすぎているせいで、自分が寝れない。
「はい!有罪!はい!無罪!はい!有罪!……あ、無罪!」
流れ作業的裁判、それでもまったく間に合わない。
あの5人は上手い具合にシフトを組んでいるらしく適度に休みも入れているらしいが、裁判は映姫一人である。ついていけるわけがない。
「ああ、小町の時はよかったなぁ……寝たいなあ……」
あと2日。映姫はクマのできた目つきで、ひたすら裁判をし続けている……
―――守矢神社―――
守矢神社は、それはそれは多いに湧いていた!
「さー、始まるよ!プリズムライブwith守矢!まずはもちろんおなじみの私達!
プリズムリバー三姉妹!!」
うおおおおお!!
大きな歓声が湧き上がる!ルナサが二人を呼び寄せたため、結局はハイテンションな二人も守矢に住みついていた。ルール的に微妙だが、三人セットということで許していただきたい。
「そして~!魅惑のハイパードラマー、アリス!」
「(ドコドコドコドコドコドン!!)」
到底人では押せないような量のドラムを人形達が叩く!アリス自身は無表情で何もしていないが、それが逆にクールさを際立たせている!らしい。
「九尾のスーパーダンサー、テンコー!!」
「私の回転についてこれるか!!」
と言って、くるくる回るとまた観客は大いに湧いた。
踊っているというより回っているだけのような気がするが、ブレイクダンス的なアレでライブ的にはアリらしい。
そして……
「ニューボーカル、KANAKO!!」
「私の魂の叫びを聞けえええ!!」
神奈子はボーカルになっていた。ハスキーなボイスがメンバーの演奏とフィーリングして、観客の心を盛り上げる!そしてライブはスタートした。
「まずは一曲目!『サーティーツーで何が悪い!』」
ちなみに、守矢神社の信仰はまったく増えなかった。
―――地霊殿――
「ああ、しあわせ……」
さとりは、幸せの絶頂にいた。
チルノをひざに乗せ、ミスティアが後ろから寄りかかり甘えてくる。
これほどの幸せがあるだろうか、否!
なにやらてゐが自室を漁っているようだが、そんなことはどうでもよかった。
さらに、右からは橙がゴロゴロと甘えてきて、左からはもじもじとしながらリグルが擦り寄ってくる。さとりの表情はさらに緩む。ああ、もうほんと幸せすぎて困る……
旧地獄は亡霊達でエラいことになっていたが、そんなこともさとりにはどうでもよかった。
――命蓮寺――
一週間。白蓮の人選のおかげもあり、フランドールは問題なく楽しい時間を過ごすことが出来た。美鈴がフランドールに付き添い、慧音が勉強を教え、衣玖がコミュニケーションレッスンをする。こいしは積極的にフランドールと遊び、白蓮はフランドールに毎日おいしい料理をごちそうした。
そして、ついに最終日。別れの時がやってきたのだ。
「今度は是非寺小屋に来てくれ。大丈夫、チルノやルーミアも参加してるんだ、フランだって参加できるさ!席を空けて、待ってるからな。」
慧音がフランドールの頭を撫で、去っていった。
「あなたは元々、とても空気の読める方でしたよ。私が教えることもないくらい。
あと必要なのは人と接する勇気です。頑張ってくださいね。」
衣玖もフランドールと握手して空へと戻っていった。
「じゃーね!また遊ぼう!今度はうちにおいでよ!」
こいしは元気に、地底へと帰っていく。
そして残ったのは、白蓮と美鈴とフランドールだけになった。
「あの……」
フランドールが、おずおずと口を開いた。
「ありがとう白蓮さん。よくわかんないけど、私のためにやってくれたんでしょ?」
「違いますよ?」
「え?」
「私が、あなたと過ごしたかった。ただそれだけです。」
母のように微笑む白蓮。そしてフランドールはその言葉を聞くと、我慢していたものが破裂したように目に涙を浮かべ、白蓮に抱きついた。白蓮はフランを優しく撫でてやる。
「ありがとうございました。妹様も楽しめたみたいです。」
「いえ、私もとても楽しかったですから。」
美鈴が白蓮にお礼を言った。白蓮はそれに微笑みで返す。
フランドールは顔をあげ、白蓮を見つめた。
「ねえねえ、また来てもいい?」
その目には不安が写っていた。楽しかったからこそ、終わるのが怖い。
もう2度とここには来れないんじゃないかという不安が。
白蓮はフランドールを抱きしめながら、その不安をぬぐってやった。
「大丈夫、一週間の合宿をやりきったあなたです。お姉さんも認めてくれるでしょう。
あとはあなたの心次第。怖がらずに、いろんな人と触れ合いましょうね?」
そして白蓮は、フランドールのおでこにキスをした。
「私は、いつでも待ってますから。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上が、ドラフト会議の後日談である。成功した場所、失敗した場所とさまざまであったが、元々の組織を否定するほどというような事態にはならなかった。皆、やはり自分の組織を一番愛しているのであろう。
さて、一番酷かった場所というのはどこであろうか。白玉楼?彼岸?紅魔館?守矢神社?
……実はそのどれでもない。一番酷かった場所は……
――博麗神社――
博麗神社。主は八雲へと出張しているので居ない。
ここにいるのは伊吹萃香、そして……
「うわああん!四季様ぁぁ!見捨てないでえええ!!」
「うにゅ……さとりさまぁ……」
「ぬぇぇん!ぬぇぇん!!」
「やっぱり……地味なのかしらね……雲山に持ってかれて……」
組織に入っているにも関わらず、誰にも指名されなかったため、一時的にここに避難することになった、通称『パ○プロだったらゲームオーバー』組である。
指名されなかった連中はそれはもうひどいもので、酒は飲むは暴れるわ泣くわ騒ぐわで、留守を頼まれている萃香としてはもうたまったものではないのである。
「あーもう!お前ら黙れ!メソメソすんなぁ!暴れるな!脱ぐな!」
いつもは酔っ払って回りに止められる立場の萃香が、今は必死になって周りを止めている。
しかし、指名されなかった者の負のオーラはとどまることを知らない。
「指名された奴らが妬ましいわ……!」
「チルノちゃんどこに居るの……ねえチルノちゃん……」
「はぐれ者なのかー」
「春じゃないから……」
「「秋じゃないから……」」
「冬なのに……真っ盛りなのに……」
「厄いわぁぁ!!」
「最強の私を指名なんかするわけないでしょ?まったく……な、泣いてないわよ!」
しかも組織に入ってないので、避難する必要もない者まで集まり始めている。
2日目からぽつぽつと集まり始め、今は4日目。あと3日はこの状況に耐えなければいけない。
萃香はありったけの声を振り絞り、やるせなさを込めて叫んだ。
「れいむぅぅ!!はやく帰って来てくれよぅぅぅぅ!!」
了
いつものように博麗神社で開かれたその宴会は、いつもの面々に比べ普段あまり参加しない四季映姫、地霊殿の面々、そして新規勢力である命蓮寺の面々が集まるという大規模なものとなった。また珍しいことに、いつもならば各勢力ごとに集まって飲んでいることが多いのだが、今日に限っていえばあらゆる勢力の面々がバラバラに入り乱れて好きなように飲んでいた。その結果、各勢力のトップ達が集まって酒を飲むという、カリスマ溢れる空間が誕生したのである。
「今日は私達命蓮寺の面々もお招き頂きありがとうございます。」
穏やかな空間の中、白蓮が皆に頭を下げる。幽々子が、それに気楽に返事をした。
「かしこまらなくていいのよ~。今日は無礼講なんだから。」
「本当に盛り上がってますね、いつも宴会はこんな感じで?」
「いや、いつもはもう少し落ち着いているんだけれど、今日は一段と盛りあがってるねぇ。」
神奈子が周りを見渡しながら言葉を発する。視線の先には、霊夢にやたらと絡んでいる酒に酔った早苗の姿と、チルノとキャットファイトをしている諏訪子の姿があった。
「普段来ない私や映姫も来てますからね。ほぼ全勢力が集まっているんじゃないですか?」
「ええ、それに今日はいつもに比べて集まりがバラけています。でなければ私達だけがここに集まるなんてこともない。」
「咲夜も美鈴もいつも私の傍にいるのに、今日は別の奴と飲んでるしねぇ。まあそれでいいのさ、宴会の時ぐらい自分の好きなように楽しんでもらいたいよ。」
レミリアがその光景に満足そうに頷き、他の面々も同意する。自分と同じ場所に住んでいる者とはいつでも接することが出来るのだから、こういう宴会の場では普段接しないメンバーと接することで交友を広めるのも一つの宴会の楽しみ方である。その見解はここにいる面々で共通していた。
「ねえ皆さん、ひとつ、面白いことを考えたのですけど……」
そして紫が、各勢力のトップ達に、ある提案をした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『はい、というわけで始まりました!幻想郷第一回ドラフト会議!アナウンスは私、大妖怪ばかりで正直ビビッている射命丸文がお送りします!』
射命丸の始めのあいさつが終わると、その場には拍手が鳴り響いた。
ここは紫のスキマによって連れてこられた空間であり、テーブルがいくつもあり、壁には大きな画面が用意されている。
まあつまり、ドラフト会議のそれである。
『えーそれでは、今回の企画の趣旨を説明したいと思います!今回の企画はドラフト会議!各勢力が自分の面々に入れたいと思うメンバーを指名して、新しい組織を作ろうという企画です!もちろんそれが永遠に続くわけではなく、期間は一週間。つまり、言いかえれば軽いお泊り会のようなものとも言えるでしょう!では詳しいルールを説明します!』
まずは射命丸がルールの説明をした。それは以下の通りである。
手順
1、 各勢力順番に、一番組織に入れたいと思う人物を『1位指名』として挙げる。
2、 それぞれ確認し、問題なければ2位指名へ。
3、 指名が被った場合にはくじ引きを行い、当たりを引いた者がその人物を加えることができる。
4、 ハズレを引いた者は、もう一度他の人物を指名しなくてはならない
5、 それを、5位指名まで続ける。
さらに、細かい決まりごとも決められた。
ルール
・ 基本的に、自分の勢力の人物は指名してはならない。
・ 5位指名まで行われるが、途中で指名を止めることも出来る。その場合は止めたい順番の時に『指名なし』と宣言する。
・ 現在、勢力に属していない人物を指名することも可能。
・ 今この場にいる者を指名することは出来ない。
『……さて、以上のルールで始めたいと思います!では今回の参加者の方々の意気込みをうかがいたいと思います!まずは委員長である八雲紫さん、どうぞ!』
射命丸が紫にマイクを向ける。紫はそのマイクを受け取り、立ちあがった。
「この前の宴会を見て思ったわ。確かに今の私達の組織はどれも素晴らしい。だけど、新たな人間関係を構築することが、幻想郷のためになると。期間はたったの一週間だけど、そこで培った絆は永遠に続くはずよ。皆、後悔のない指名をしましょう!」
紫の発言の後、各々からは自然と拍手が沸き起こった。
盛り上がる雰囲気の中、射命丸は他の参加者達にも次々とマイクを向けた。
『紅魔館代表、レミリア・スカーレットさん!』
「もちろん今の紅魔館が最高のものだと思ってるけど、今回もそれと同じくらい優れた組織を作るつもりよ。私に指名されるのを楽しみにしててほしいわ。」
『白玉楼代表、西行寺幽々子さん!』
「私はすごしやすい環境が出来ればそれでいいわ~。あんまりがっつく気はないわよ。」
『永遠亭代表、蓬莱山輝夜さん!』
「永遠亭はイナバが多いからね、しっかり考えて指名しないと組織がまわらないわ。頑張らないとね。」
『彼岸代表、四季映姫・ヤマザナドゥさん!』
「やはり仕事が出来る人材がほしいですね。あとサボらないことが大前提!私に指名されることがあなた達に出来る善行よ。」
『守矢神社代表、八坂神奈子さん!』
「やはり信仰だね、そういう意味で早苗を指名できないのは痛い。ま、そこは考えてるさ。」
『地霊殿代表 古明地さとりさん!』
「私が考えてる方針は一つです。今日はそれ一本で行きます。」
『命蓮寺代表、聖白蓮さん!』
「私のところだけではなく、他の皆さんのところも良くしていけるような指名をしたいと思ってます。よろしくお願いしますね。」
この7名に紫を加えた8名で、ドラフト会議が行われる。フルで指名されれば40名が指名されるわけだが、途中で指名を止める者もいるはずなのでそこまでにはならないであろう。ここで、この場にいる面々が一切触れていないことが一つある。指名された者の、拒否権である。
そんなものは、無い!
なにぶん自分勝手な組織のトップばかりが集まったのである、それは仕方のないことであろう。そんなこんなで説明も終わり、1巡目の指名が始まろうとしていた。
――1巡目――
指名の順番は、レミリア、幽々子、紫、輝夜、映姫、神奈子、さとり、白蓮の順。基本的に作品順と思ってもらってよいだろう。被った場合はくじ引きで決められるのだから、順番による不公平はない。まずは最初のレミリアの1位指名がアナウンスされ、画面にも大きく表示される。
『紅魔館、1位指名………八意 永琳』
いきなりの大物の指名に、場は大きくどよめいた。
「大きく出たね、レミリア・スカーレット。」
「咲夜並みの働きを期待できるのは、こいつぐらいなものよ。それに、カリスマもある。」
驚きはしたが、皆納得はしていた。下手をすれば輝夜以上の実力と言われる永琳は人気カードであり、どこかの1位指名は確実であろうと皆思っていたはずである。
『白玉楼、1位指名………十六夜 咲夜。』
「咲夜か……まあ、1位は当然だな。」
レミリアが嬉しそうにつぶやく。咲夜もまた、人気カードの一人である。人間ながらその職務遂行能力は従者の中でもトップクラス。競合が予想される人物である。
「時間を止めれば、庭掃除とかもすぐ終わりそうだしね~。」
『八雲 1位指名………博麗 霊夢。』
始めての、組織に属していない者の指名。
この指名に、意外そうな顔をしたのは輝夜だった。
「霊夢?霊夢はあんまり働き者って感じしないけど。」
「藍がいなくなるからね、とにかく結界を扱える者が必要なのよ。多少の怠けぐせには目をつぶるわ。」
(どの口がそんなことを言うのでしょう……)
さとりはそれを聞きながら、紫の自分自身の棚上げっぷりに呆れていた。
『永遠亭、1位指名……十六夜 咲夜。』
始めての指名かぶり。
輝夜と幽々子の目があった。輝夜は余裕そうな笑みを浮かべながら幽々子に語りかける。
「妖精メイド達をまとめあげるリーダーシップ、あれならウチのイナバ達もまとめあげることが出来るでしょう。白玉楼に置いておくのは、もったいないわね。」
そんな輝夜の挑発にも、幽々子は動揺せずただ扇子で顔を隠すだけであった。
『彼岸 1位指名……魂魄 妖夢。』
「あら!」
声をあげたのは幽々子である。自分が愛する従者であるが、指名されるとは思ってなかったようである。
「妖夢でいいのかしら?閻魔さん。」
「彼女はとても真面目で、きっと職務を一生懸命やってくれることでしょう。
私が求めているのはそういう人材です。さらに霊との繋がりも強い、言うことなしです。」
その言葉を聞いて幽々子は思わず笑みがこぼれた。他者から自分の従者を誉められると、自分のことのように嬉しいものである。
『守矢神社 1位指名……博麗 霊夢。』
またしても指名被り。今度は霊夢を巡って紫と神奈子が争う形となった。
「悪いね、ウチも巫女が必要なんだ。巫女がいない神社なんて格好がつかないだろう?」
「あら、あなたなんかに霊夢はあげないわよ?」
早くも火花が散っている模様である。
『地霊殿 1位指名……チルノ。』
「!!??」
この指名には、さとり以外の全員が驚いた。
ここまで、ある意味まっとうな指名が行われてきたというのに、まさかのトンデモ指名である。
「さ、さ、さとりさん?何考えてるんですの?⑨になった?」
「え?だって、かわいいじゃないですか。」
動揺しながらたずねる紫に、さとりはしらっとして答えた。
確かにチルノは空と似ている。さとりの好みにマッチしていると言えるが……
「そんなんで決めていいんですか?旧地獄の管理とか、霊の管理とかあるでしょう。」
「そんなもの一週間ほっといてもどうにでもなりますよ映姫。それよりも大事なのはかわいさです。かわいいis 正義!」
あまりに堂々とした態度に他の面々は口を挟むことを諦めた。そもそもさとりは身の回りの家事などをほとんど自分でやってしまう。むしろペットに対して養う側であり、それに喜びを感じる気質の持ち主なのだ。そう考えれば、この指名も納得と言えよう。
『命蓮寺 1位指名……紅 美鈴』
この指名もまた、他の面々にとっては意外だったようだ。
「これはまた……意外な人を1位にしたわね。」
「そうですかね?彼女は実力もあるし、何より穏やかです。皆さん彼女を過小評価しすぎですよ。私は最初から彼女を1位指名するつもりでしたよ?」
にこやかに言う白蓮。レミリアも自慢の門番を誉められいい気分になっていた。
他の面々も美鈴を過小評価していたわけではない。ただ1位指名には来ないと思っていたので、2位や3位などでの指名を考えていたのだ。だからこそ、白蓮の一人勝ちという結果が生まれたのである。
こうして、一巡目の指名は全て終了したが、十六夜咲夜を巡って幽々子と輝夜が、霊夢を巡って紫と神奈子が争う形となった。敗れた方が、再び指名をしなくてはならない。所謂『ハズレ1位』というものだ。
まずは幽々子と輝夜がくじを引いた。その結果は……
「……やった!当たりだわ~!」
「く、ちくしょう!」
幽々子が当たりを引いた。よって輝夜は再び1位指名をしなくてはならなくなる。
一方の霊夢争いでは……
「ふっ、ゆかれいむは私たちのロードよ!」
「ば、ばかな……」
紫が当たりクジを引いていた。
この結果輝夜と神奈子だけが、再び1位指名を行う。
――1.5巡目――
『永遠亭 1位指名……火焔猫 燐』
「へえ、ウチの燐ですか。咲夜さんの代わりは難しいのでは?」
さとりが疑問を投げかける。しかし輝夜は余裕を持って返した。
「もともと2位指名するつもりだったわ。彼女は動物属性を持っているから、ウチのイナバ達とも相性がいいでしょうしね。」
『守矢神社 1位指名……八雲 藍。』
ここに来て再び大物が指名された。むしろここまで誰も指名しなかったのが不思議なほどのカードである。
「どちらか迷って霊夢にしたんだけどねぇ。まあ過ぎたことはしょうがない、藍なら家事もしてくれるし実力も申し分無し、文句はないよ。」
以上をもって1巡目は終了。2巡目へと移る。
――2巡目――
『紅魔館 2位指名……寅丸 星。』
レミリアが指名したのは毘沙門手の弟子、寅丸星。命蓮寺の実質ナンバー2である。
命蓮寺からは、これが始めての指名になる。
「いいのですか?星は優秀ですが、たまにうっかりをやらかしますよ?」
「構わんさ。私が重視しているのは、カリスマ!毘沙門手の弟子というからにはそれだけのカリスマがあるはずだ。カリスマ溢れる紅魔館を楽しみにしていてくれ。」
どうやらレミリアの方針は、ひたすらカリスマがある人物を集めることのようである。
『白玉楼 ……指名なし』
アナウンスの後、ふたたび場がざわめいた。五人全て指名しなくてもよいルールではあったが、まさか2巡目で終了宣言が出るとはまったくの予想外であった。
一方の幽々子は涼しい顔をしている。
「ちょ、幽々子!もう終わりでいいの?」
紫が慌てて問い詰めるも、幽々子はにこやかに言った。
「もともと妖夢と二人だったし、私は妖夢の代わりさえ居ればそれでいいわ~。」
幽々子としては咲夜を勝ち取った時点で既に満足したようだ。
災難なのは咲夜である。たった一人で幽々子の世話、広大な庭の掃除をしなくてはならないのだから。レミリアは内心咲夜に合掌した。
『八雲 2位指名……東風谷 早苗』
「なんだ、霊夢の上に早苗まで?巫女マニアかい?」
神奈子が霊夢と早苗を取られた腹いせに紫に絡む。
「霊夢は結界の仕事はしてくれるでしょうけど、私の世話はしてくれないわ。その点、早苗だったらやってくれると思ってね。二人あわせて藍、といったところかしら。」
またまた自分で働くという気はないらしい。
どうやらこの妖怪、楽をするためのドラフトをしているようである。
『永遠亭 2位指名……パチュリー・ノーレッジ』
「へえ、パチェを?言っておくけど、本を読むことしかしないわよ?」
レミリアが不可解そうに輝夜に尋ねる。しかし輝夜としてはそれでも問題は無かった。
輝夜のこの指名の意図はブレインにある。パチュリーを入れることによって永琳が抜けた穴を埋めようという算段だ。
「なんか暇つぶしの本とか持ってそうだしね~。」
もちろん、娯楽も忘れない。
『彼岸 2位指名……村紗 水蜜。』
映姫が指名したのは村紗。星に続いて2人目の命蓮寺勢である。
キャプテンと呼ばれているだけあって、船の扱いにはたかけているはず。多少やんちゃな部分もあるものの、一週間であればしっかりと働いてくれると見た上での指名である。
「映姫は真面目ですね。こんな時ぐらい娯楽に走ってもいいのに。」
と、娯楽に走りまくっているさとりが言うが、映姫はそれを全力で無視した。
『守矢神社 2位指名……ルナサ・プリズムリバー』
「おお?これは意外な名前が。」
レミリアは首をかしげる。しかしこれは神奈子にとってはしっかりと計算された指名であった。神奈子は信仰を重視した指名をしている。人気者であるプリズムリバーを抱え込むことが出来れば、信仰もアップすると見こんでいる・
「ま、ルナサなのは私の好みだけどね。あとの2人はうるさすぎる。」
『地霊殿 2位指名……橙。』
「念のため聞くけど、指名理由は?」
「ねこ。かわいいですよね。」
「やっぱり……」
さとり的には、チルノが空ポジションで橙が燐ポジションのつもりなのであろう。問題なのはこの2人だとまったく旧地獄の仕事が出来ないことであるが、さとりの脳内ではこの2人を愛でることしか考えていない。ゴーイングマイウェイである。
『命蓮寺 2位指名……上白沢 慧音。』
ここで人里を守る半獣が指名された。これもまた有効なカードである。従者タイプではないものの、その誠実さは組織において非常にプラスに働くであろう。
「新勢力のくせして……なかなか手堅いねぇ。」
「そうですかね?うふふ。」
神奈子が警戒心を持って白蓮を見た。
ただのぽややんとした女性だと思っていると、痛い目を見ると考えを改めながら。
こうして2巡目が終了した。今回は指名被りは無し。
幽々子が早々に降りたため、次の3巡目では7人による指名となる。
――3巡目――
『紅魔館 3巡目 星熊 勇儀。』
「ふふふ、奴のカリスマには目をつけていたのよ。奴には門番をやってもらうわ。カリスマ溢れる鬼が守る門……ふふ、誰も通れなくて困っちゃうでしょうね?」
勇儀が門番をしている姿を想像して一人にやつくレミリア。
一方他の面々は違う心配をしていた。果たしてあの勇儀がおとなしく門番などをするか……?という疑問である。
もっともレミリアはそんなことまったく心配していなかったが。
『八雲 3位指名……多々良 小傘。』
「小傘?なに紫、あなたもさとりみたいにかわいいもの集めに走り出したの?」
「まさか、アレとは違うわよ。」
幽々子が紫に問い掛けるが、紫はすぐさま否定した。
アレ呼ばわりされたさとりが怪訝な表情を浮かべるが、皆見なかったことにしていた。
「でも愛らしさで選んだのは確かよ。言うならば彼女は橙のポジション。本当は燐が良かったんだけどもう指名されちゃったからね。霊夢と早苗で藍、小傘で橙ってわけ。」
どうやら紫の方針は、八雲一家の再現らしい。
とすると、4巡目の紫の行動は予想がついてくる。それは他の面々もわかっていた。
『永遠亭 3位指名……小悪魔。』
まさかの中ボス!?と動揺する面々。しかし輝夜はパチュリーを入れた時点で小悪魔を入れることも視野に入れていた。戦闘力は弱いものの、あの広大な図書館の司書を一人で勤め上げる能力は必ず役に立つ、パチュリーのご機嫌取りもできて一石二鳥の指名と考えていた。輝夜は今のところ割と真剣に、永遠亭のことを考えた指名をしている。さとりとは大違いである。
(へにょりイナバみたいにいじって楽しめるタイプだしね~)
もちろん娯楽も忘れない。
『彼岸 3位指名……ナズーリン。』
まさかの1ボスであるが中ボス指名の後であるから周りもそれほど驚かなかった。むしろナズーリンの仕事っぷりを考えれば納得の指名である。
映姫はとにかく、仕事が出来る人物をひたすらに集めていた。
「ナズーリン……狙ってたのに……ねずみさん……」
さとりが物惜しげな顔をしていたが映姫は相手にしないことにした。
ナズーリンを愛玩目的にするなど宝の持ち腐れもいいとこであると思いながら。
『守矢神社 3位指名……アリス・マーガトロイド。』
「なんだかんだで、人里じゃあ人気だからね、あの娘は。」
アリスはあまり外に出るタイプではないが、よく人里に出て人形劇を披露していて、人里では絶大な支持と人気を得ている。そのアリスを抱え込むことが出来たならば、信仰も多いにアップするだろう。要はルナサの時と同じ要領である。
「あざとい……」
ぼそっとしたつぶやきが聞こえたが無視をした。
『地霊殿 3位指名……ミスティア・ローレライ。』
もちろん愛らしさ重視なのは変わらないが、今回はほんの少しだけ別の要素もある。
「彼女は屋台を経営してるらしいですからね、一度食べてみたかったんですが、そのために地上に行くのはそれはそれでめんどくさい。しかし、これなら一週間食べ放題じゃないですか!」
娯楽一直線。彼女を止める者は誰もいない。
『命蓮寺 3位指名……永江衣玖。』
命蓮寺が3位に指名したのは竜宮の使い、永江衣玖。ここまでくれば他の面々も白蓮の指名の方針が掴めてくる。
美鈴、慧音、衣玖、そして白蓮……ひたすらに「いい人」ばかりが集まっている。
きっとそういう方針なんだろうと他の面々は納得していた。
しかし、白蓮には別の狙いがあった。
3巡目が終わり、それぞれの指名の傾向が見えてきた。
紅魔館はカリスマ傾向、ひたすらにカリスマのある人物を集めたがる。
白玉楼、八雲は再現傾向。もともとの組織を再現するような方針を取っている。
永遠亭は戦略傾向。より効率的な組織を作ろうとしていた。
彼岸は仕事重視傾向。仕事の出来る面々をひたすら集めることに終始している。
守矢神社は人気傾向。信仰を集めるため、人気のありそうな面子を揃えている。
地霊殿は愛玩傾向。ゴーイングマイウェイでかわいいものばかりを集めている。
そして命蓮寺は現時点では雰囲気重視傾向。「いい人」ばかりを集めているが……
そして後半戦、4巡目に入る。
『紅魔館 4位指名……洩矢 諏訪子』
レミリアが指名したのは、守矢の2柱の片割れ、洩矢諏訪子であった。
「実力も申し分なし、カリスマも充分にあるんだが、難点が一つ。」
「なんだい?」
相棒に難点があるといわれ、少し不機嫌そうに尋ねる。
「幼女姿なことだよ!それではせっかくのカリスマも半減だ!
ああ、もっと外見にカリスマがあれば1位で指名してやったというのに!」
「……」
「お前鏡見てみろ」とはこの場にいるレミリア意外全員の心の中でのツッコミである。
しかし仕方ない、吸血鬼は鏡に映らないのだから。
『八雲 ……指名なし』
「と、いうことで私はここでストップよ。」
紫はここで指名をストップした。今までの指名の傾向、そして3巡目での言葉を考えれば周りの面子にもこの行動は予想出来た。
紫は八雲一家を再現するかのような指名をしてきた。そしてそれは、小傘を指名した時点で完成していた。となれば、もう指名はしないことは明白である。
「じゃあ私は、高みの見物とさせてもらうわね?」
『永遠亭……4位指名 河城にとり。』
「やはり永遠亭にも、河童のメカニズムを入れるべきなのよ。」
既に永遠亭では高度な月の文明が生かされているが、もし仮に河童の技術を参考にできれば相乗効果でさらに発展できる可能性もある。なにより、これまであまり交流の無かった河童と同盟を結ぶいいチャンスである。輝夜は一週間という期間だけではなく、長期的な戦略からの指名をしていた。
(PCの不具合、にとりならなんとかしてくれるかも!)
長期的な娯楽も忘れないのだ。
『彼岸 4位指名……鈴仙・優曇華院・イナバ。』
これまでの傾向通り、映姫は仕事の出来る真面目な人物を指名した。
しかし5ボスにしては順位が低いのは、ドジ属性、そして過去の行動から割とすぐ投げ出しがちな性格をしていると見ていたからだ。
しかしそれでも映姫は、鈴仙の誠実さを評価していた。
「鈴仙があなたの職場で耐えられるかしら……?」
輝夜が不安げにつぶやくので、映姫は力強く言い放った。
「耐えさせますよ。」
『守矢神社……指名なし。』
幽々子、紫に続いて神奈子も指名をストップした。
順調に人気者を集めていた神奈子が指名を止めた理由は一つである。
「ウチもそんな広くないからねぇ。あんまり多いと狭いんだよ。」
もともと神奈子・諏訪子・早苗の3人でちょうどよかった環境に、すでに4人入っている。
まだまだ人気も欲しいとこではあるが、やはり過ごしやすい環境が一番であると感じていた。
『地霊殿 4位指名……リグル・ナイトバグ。』
「念のため……」
「むしさんが……」
「もういい……」
もはや説明するのも面倒なのである。
『命蓮寺 4位指名……古明地こいし。』
3位あたりからある程度勢力ごとの傾向が見えてきたため、指名によって場がどよめくようなことはしばらくご無沙汰であった。しかしこの指名で、久々に場がどよめいた。
紫がみんなの思いを代弁して白蓮に問い掛ける。
「白蓮……どういうこと?」
「何がでしょう?」
「今までずっと『いい人』を集めてきたじゃない。なのに急にこいし。さとりの前で言うのは悪いけど……こいしは『いい人』じゃないわ。」
「考えがあるのです。次の指名で分かりますよ。」
白蓮はただ単に「いい人」を集めていたわけではない。
ある目的のために、必要な人材を集めていたのである。そのためにはこれまでの3人、そしてこいしは必要不可欠であった。
(なるほど……そういうことですか。)
さとりだけが、白蓮の考えを読みとっていた。
そして、5巡目の最後の指名で場が荒れるであろうことも予測していた。
波乱の予感を感じつつ、最後の5巡目が始まる。
――5巡目――
『紅魔館 5位指名……比那名居 天子』
レミリアにとって、これは相当迷った上での指名であった。
現に周りからは、「うわーこいつやっちゃったよー」的な視線が飛んできている。
うるさい!自分が一番わかっているんだ!と言いたい声を抑えて、レミリアは周りに説明する。
「いいかしら?私がカリスマを集めているのはただ単にカリスマグループを作りたいんじゃないの。私がカリスマ達を従えることが重要なのよ!そういう意味で天子という存在のカリスマも認めてやった上で、征服してやるのよ!どうよ、完璧でしょ?」
レミリアは無い胸を張って威張るように言い放った。
他の面々はある意味感動していた。こいつは永琳や勇儀といった化け物達を従えて見せると自信を持って言ったのだ。これだけの無鉄砲さ、なかなか持てるものではない。
紫達は声をそろえて、レミリアにエールを送った。
『無理だろうけど、頑張って!』
「無理ってゆーな!!」
『永遠亭 5位指名……藤原 妹紅。』
再び場がざわめいた。輝夜と妹紅の関係は既に皆知っている。なのにどうして指名するのだろうか。永遠亭の一員となってしまうというのに。
「フフフフッ!みんな私の高度な作戦がわからないようね!じゃあ説明してあげるわ!」
皆が顔に?マークを浮かべているのを見て、輝夜は高笑いをしながら得意げに説明した。
「つまり全ては妹紅への嫌がらせなのよ!私が考えに考えた最高のグループの中で、5位指名という最下層としてこき使ってやるの!そして言ってやるのよ、5位でも選ばれただけ感謝しなさい、ってね!オ~ッホッホッホッホ!」
高らかに笑う輝夜を見て、皆は思った。
「これまでのカリスマっぽい指名、全部台無しだよ。」と……
『彼岸 5位指名……犬走 椛。』
結局映姫の指名は最後までブレることなく一貫であった。今回もまた仕事が出来る真面目妖怪を指名した。若干力は弱いものの、その仕事っぷりには定評がある。
「これで一安心ですね。むしろ小町に戻った時のギャップが怖い……」
小町を見放すつもりはないものの、この5人による仕事効率に慣れすぎたら自分の気持ちはどうなるかわからないなと感じていた。
『地霊殿 5位指名……因幡てゐ。』
この指名には周りも全力で止めようとした。
「やめなさいって!絶対かわいくないから!」
「心めっちゃ醜いよ!大丈夫なの!?」
「瞳閉じたくなっちゃいますよ!!」
しかし、さとりの心は硬かった。
「うさみみは譲れません!!!」
周りの面子は、さとりの潔さに感動の涙を流した。
こいつ、漢(おとこ)や……少女だけど。
ほのぼのとした空気。しかしそれは、次の白蓮の指名で崩れることになる。
白蓮の指名した人物は……
『命蓮寺 5位指名……フランドール・スカーレット。』
――ガタン!
そのアナウンスが流れた瞬間、レミリアが勢い良く立ちあがった。
怒りの表情を浮かべたまま白蓮に詰め寄り問い詰める。
「……どういうつもりだ。ウチの事情を知らないとは言わせないぞ。」
「だからこそですよ。一週間、妹さんはウチで預かります。
あなたの妹さんに必要なのは、人との触れ合いです。合宿のようなものと思ってくださいな。」
「だが、あいつの能力は……!あいつは人を傷つける!そして、その後自分自信も傷ついてしまうんだ!だから……!」
「大丈夫です、そのために必要なメンバーをずっと指名してきたのですから。」
白蓮が何故フランドールの事情を知っているのか、それは命蓮寺に住む封獣ぬえからの情報である。最近、古明地こいしと封獣ぬえとフランドールの3人で遊ぶことが増えたという。そして、フランドールの情緒不安定な部分やあまり外に出してもらえないという事情を知ったのだ。それを聞いて白蓮はなんとかしてやりたいと思った。しかしコンタクトを取る機会に恵まれない。そこに、今回の企画が舞い込んできたのである。
白蓮は恐らくフランドールを指名する者はいないと踏んで、4位までをフランドールを迎えるために必要なメンバーで揃えた。
「1位指名の美鈴さんは、紅魔館で一番フランちゃんと触れ合っている人です。
2位指名の慧音さんは、子供の扱いに非常にたかけている。
3位指名の衣玖さんは、空気を読むことでフランちゃんと上手く付き合ってくれる。
4位指名のこいしちゃんは、フランちゃんの数少ない友達。
どうですか?まだ不安がありますか?」
「……ダメだ。」
フランドールを迎えるために万全な体制は整っている。
しかし、レミリアは首を縦に振ることは出来なかった。
「……フランが仮に暴走したとき、止める者がいない。
あいつの暴走を止められるのは、私しか……」
「それなら安心してください。」
聖母のような、それでいて力強い微笑みでレミリアを見つめる。
「私がやります。」
その言葉を聞いて、レミリアは決心した。
許していたのは短期間の外出だけ。それがいきなり一週間のお泊りなど不安ばかりであるけども……自分の妹のためにここまでしてくれた白蓮を、レミリアは信じることにした。
「フランを……頼んだ。」
こうして、幻想郷第一回ドラフト会議は終了した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、ここからは後日談である。
それぞれの勢力がドラフト会議の結果集まったメンバーで一週間過ごした。
各陣営の一週間の様子を、それぞれ簡単に見ていこう。
――紅魔館――
結論から言うと、レミリアはカリスマ負けした。
一番最初から
「お前達は私の手下だ!何も言わずに私についてこい!!」
などとのたまったのが悪かったのだろうか、忠誠心は始めからゼロ、誰にも相手してもらえず、永琳達が勝手に館を仕切っていく。
悔しさと歯がゆさと寂しさに我慢できたのは、3日が限界であった。
「うわ~~ん!しゃくやああああ!もどってきてええええ!!」
4日目の朝、自分の部屋で大泣きするレミリア。慌ててやってきた5人は、そのれみりゃ化した姿に、お母さん的な何かをたいそう刺激された。その結果……
「レミちゃん、痛いとこない?すぐ薬作ってあげるわね?」
「あ、レミリアさん、キャンディー食べますか?」
「昨日までは悪かったな!今日は遊んでやるよ、何して遊ぶ?それとも呑むか?」
「あーうー、いいんだよ~?もっと子供っぽく振舞ってもさ!」
「しょ、しょうがないわね!私が相手してやるわ!感謝しなさい!」
といった具合に、残りの4日間をたいそう可愛がられて過ごしたらしい。
ある意味、カリスマ溢れるこの5人を征服するという目的は達成されたのかもしれない。
――白玉楼――
幽々子は退屈していた。
「咲夜~!おなかすいたわ~!」
「どうぞ。」
「咲夜~、あれどこに……」
「持ってきましたわ。」
「咲夜~、庭の掃除は……」
「終わりましたわ。」
といった具合に仕事は完璧だ。完璧すぎるのだ。
もっとこう、未熟な部分とか、からかいがいがある部分とかが一切ない。
たまに天然ボケをすることもあるけれど、本来ツッコミでない幽々子にそれを気付けというのも酷な話である。
つまりは、「みょん分」が無ければ幽々子は生きていけないのだ。死んでるけど。
「ね、ねえ咲夜、期限まであとどれぐらいだったかしら?」
「あと3日と7時間46分22秒ですわ。」
「いやああ!こんなきっちりした返答いやああ!!はやく戻ってきてええ!!」
―――新・八雲一家―――
「あー、もー、小傘はかわいいわねー。」
「やーめーてー!」
紫はひたすら小傘を愛でていた。
周りの人妖からは藍が橙を溺愛しているという認識がされていたが、何を隠そう、紫の方が橙を溺愛していたのだ。
「紫さーん、ご飯できましたよー。」
そして食卓からは早苗の声が響く。早苗もまた出来た娘であった。女子高生ながら、ぐーたらな神二人の世話をしていたせいか、既にお母さん属性を身につけている。
そして紫、小傘、早苗の3人で卓袱台を囲む。
紫は幸せをかみ締めていた。もちろん藍と橙が一番なのは言うまでもないが、
この環境もまた新鮮味があって幸せだと。3人は手を合わせた。食事前の挨拶。
いただきま~~~~……
「……っと待ったぁ!!!!」
と、全力で障子を開けたのはボロボロになった霊夢であった。
「何、どうしたの霊夢。」
「どうしたもこうしたもないわよ!なんで私だけ結界の仕事に追われなきゃなんないの!
そんでなんで私がいない間にほのぼの家族ライフ送ってるのよ!!」
「あなたの仕事が遅いからよ。藍なら一時間で終わらせるわ。」
「しょうがないじゃない!私は人間であいつは大妖怪なんだから!」
「……あ、ほら、あっちの結界にも綻びが残ってるわよ?いってらっしゃい。」
「……ねえ、私1位指名よね?なんでこんな扱い受けなきゃいけないのかな?かな?」
「しょうがないわね、スキマで送ってあげるわよ。」
「ちょ、おま!一週間後、おぼえてろおおおぉぉ……」
霊夢の声がエコーで遠ざかっていくのをBGMにしながら、3人は先ほど言い損ねた「いただきます」を斉唱した。
――永遠亭――
輝夜がドラフト会議で見せた、カリスマ的戦略指名は……
「おらああ!!死ねえええ!!」
「おほほほ!やってみなさいよ!!」
全て無駄になった。1日で妹紅がキレた後、ずっと殺し合いが続いているからだ。
いつもならば止めるはずの永琳・慧音は、紅魔館と命蓮寺に出張中である。
よって止める者はおらず、誰にも邪魔されぬ殺し合いが5日間も続いていた。
パチュリーは医学書を読み漁り、小悪魔はそのお世話。にとりは部屋に篭もって輝夜のPCをいじっているため、実質働いているのは燐だけである。
その燐は動物的カリスマを発揮して、イナバ達の臨時リーダーにのぼりつめていた。
「あ、そこ入念に掃除してね」
「ウッサー!」
「食事班!そろそろお米を研ぐ準備しといて!」
「ウッサー!」
しかし燐は充実していた。こうした仕事は始めてで楽しかったし、最後にはとっておきの楽しみが待っている。
「はやく、あの二人の死体を持ちかえりたいなー!」
―――彼岸―――
映姫は死んでいた。
「も、もう勘弁して……」
よくよく考えれば分かることだった。
小町がやっていた仕事は霊をこちらに船で渡すこと。そして自分がそれを裁く。
そしてあの5人が小町の仕事を引きついだ。つまりあの5人が働けば働くほど、自分の仕事量が増える。ここはそういう仕事場なのだ。
つまるところ、あの5人が働きすぎているせいで、自分が寝れない。
「はい!有罪!はい!無罪!はい!有罪!……あ、無罪!」
流れ作業的裁判、それでもまったく間に合わない。
あの5人は上手い具合にシフトを組んでいるらしく適度に休みも入れているらしいが、裁判は映姫一人である。ついていけるわけがない。
「ああ、小町の時はよかったなぁ……寝たいなあ……」
あと2日。映姫はクマのできた目つきで、ひたすら裁判をし続けている……
―――守矢神社―――
守矢神社は、それはそれは多いに湧いていた!
「さー、始まるよ!プリズムライブwith守矢!まずはもちろんおなじみの私達!
プリズムリバー三姉妹!!」
うおおおおお!!
大きな歓声が湧き上がる!ルナサが二人を呼び寄せたため、結局はハイテンションな二人も守矢に住みついていた。ルール的に微妙だが、三人セットということで許していただきたい。
「そして~!魅惑のハイパードラマー、アリス!」
「(ドコドコドコドコドコドン!!)」
到底人では押せないような量のドラムを人形達が叩く!アリス自身は無表情で何もしていないが、それが逆にクールさを際立たせている!らしい。
「九尾のスーパーダンサー、テンコー!!」
「私の回転についてこれるか!!」
と言って、くるくる回るとまた観客は大いに湧いた。
踊っているというより回っているだけのような気がするが、ブレイクダンス的なアレでライブ的にはアリらしい。
そして……
「ニューボーカル、KANAKO!!」
「私の魂の叫びを聞けえええ!!」
神奈子はボーカルになっていた。ハスキーなボイスがメンバーの演奏とフィーリングして、観客の心を盛り上げる!そしてライブはスタートした。
「まずは一曲目!『サーティーツーで何が悪い!』」
ちなみに、守矢神社の信仰はまったく増えなかった。
―――地霊殿――
「ああ、しあわせ……」
さとりは、幸せの絶頂にいた。
チルノをひざに乗せ、ミスティアが後ろから寄りかかり甘えてくる。
これほどの幸せがあるだろうか、否!
なにやらてゐが自室を漁っているようだが、そんなことはどうでもよかった。
さらに、右からは橙がゴロゴロと甘えてきて、左からはもじもじとしながらリグルが擦り寄ってくる。さとりの表情はさらに緩む。ああ、もうほんと幸せすぎて困る……
旧地獄は亡霊達でエラいことになっていたが、そんなこともさとりにはどうでもよかった。
――命蓮寺――
一週間。白蓮の人選のおかげもあり、フランドールは問題なく楽しい時間を過ごすことが出来た。美鈴がフランドールに付き添い、慧音が勉強を教え、衣玖がコミュニケーションレッスンをする。こいしは積極的にフランドールと遊び、白蓮はフランドールに毎日おいしい料理をごちそうした。
そして、ついに最終日。別れの時がやってきたのだ。
「今度は是非寺小屋に来てくれ。大丈夫、チルノやルーミアも参加してるんだ、フランだって参加できるさ!席を空けて、待ってるからな。」
慧音がフランドールの頭を撫で、去っていった。
「あなたは元々、とても空気の読める方でしたよ。私が教えることもないくらい。
あと必要なのは人と接する勇気です。頑張ってくださいね。」
衣玖もフランドールと握手して空へと戻っていった。
「じゃーね!また遊ぼう!今度はうちにおいでよ!」
こいしは元気に、地底へと帰っていく。
そして残ったのは、白蓮と美鈴とフランドールだけになった。
「あの……」
フランドールが、おずおずと口を開いた。
「ありがとう白蓮さん。よくわかんないけど、私のためにやってくれたんでしょ?」
「違いますよ?」
「え?」
「私が、あなたと過ごしたかった。ただそれだけです。」
母のように微笑む白蓮。そしてフランドールはその言葉を聞くと、我慢していたものが破裂したように目に涙を浮かべ、白蓮に抱きついた。白蓮はフランを優しく撫でてやる。
「ありがとうございました。妹様も楽しめたみたいです。」
「いえ、私もとても楽しかったですから。」
美鈴が白蓮にお礼を言った。白蓮はそれに微笑みで返す。
フランドールは顔をあげ、白蓮を見つめた。
「ねえねえ、また来てもいい?」
その目には不安が写っていた。楽しかったからこそ、終わるのが怖い。
もう2度とここには来れないんじゃないかという不安が。
白蓮はフランドールを抱きしめながら、その不安をぬぐってやった。
「大丈夫、一週間の合宿をやりきったあなたです。お姉さんも認めてくれるでしょう。
あとはあなたの心次第。怖がらずに、いろんな人と触れ合いましょうね?」
そして白蓮は、フランドールのおでこにキスをした。
「私は、いつでも待ってますから。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上が、ドラフト会議の後日談である。成功した場所、失敗した場所とさまざまであったが、元々の組織を否定するほどというような事態にはならなかった。皆、やはり自分の組織を一番愛しているのであろう。
さて、一番酷かった場所というのはどこであろうか。白玉楼?彼岸?紅魔館?守矢神社?
……実はそのどれでもない。一番酷かった場所は……
――博麗神社――
博麗神社。主は八雲へと出張しているので居ない。
ここにいるのは伊吹萃香、そして……
「うわああん!四季様ぁぁ!見捨てないでえええ!!」
「うにゅ……さとりさまぁ……」
「ぬぇぇん!ぬぇぇん!!」
「やっぱり……地味なのかしらね……雲山に持ってかれて……」
組織に入っているにも関わらず、誰にも指名されなかったため、一時的にここに避難することになった、通称『パ○プロだったらゲームオーバー』組である。
指名されなかった連中はそれはもうひどいもので、酒は飲むは暴れるわ泣くわ騒ぐわで、留守を頼まれている萃香としてはもうたまったものではないのである。
「あーもう!お前ら黙れ!メソメソすんなぁ!暴れるな!脱ぐな!」
いつもは酔っ払って回りに止められる立場の萃香が、今は必死になって周りを止めている。
しかし、指名されなかった者の負のオーラはとどまることを知らない。
「指名された奴らが妬ましいわ……!」
「チルノちゃんどこに居るの……ねえチルノちゃん……」
「はぐれ者なのかー」
「春じゃないから……」
「「秋じゃないから……」」
「冬なのに……真っ盛りなのに……」
「厄いわぁぁ!!」
「最強の私を指名なんかするわけないでしょ?まったく……な、泣いてないわよ!」
しかも組織に入ってないので、避難する必要もない者まで集まり始めている。
2日目からぽつぽつと集まり始め、今は4日目。あと3日はこの状況に耐えなければいけない。
萃香はありったけの声を振り絞り、やるせなさを込めて叫んだ。
「れいむぅぅ!!はやく帰って来てくれよぅぅぅぅ!!」
了
そして白蓮様マジカリスマ。素晴らしい。
頭脳戦、シリアス、ギャグ、ほのぼのなどいろんな要素が同時進行してる感じ。
正直100点以上差し上げたい気分です。
よいものを読ませて頂きました。
今後おぜうさまはこの5人と会うたびにれみりゃ様として可愛がられてしまうのですね。
とりあえずお母さんなえーりんがツボなんですが。
星が普通に活躍していたり、レミリアが駄リスマだったりで楽しかったです
四季様が死なないか不安だ…
白蓮の策といい人っぷりが実に良かったです。
楽しい一時を過ごせました。作者に感謝を。
とてもワクワクしながら読ませていただきました
こういった系統の話もっと増えないかなぁ……
各陣営の指名傾向が個性が表れてて非常に面白かったです。
さとりん! どうか! 是非! お仲間に入れてくださいませぇぇぇッ!!
しかし博霊神社がカオスすぎるw
萃香に合掌です。
いやはや、盛りだくさんで楽しめた!
にしても…ぬえの泣き声に萌えた俺ガイル
あとさとり様に惚れるw
でも個人的に思う・・・守矢神社の信仰があれで増えないわけはないような・・・w
・・・あとえーきさま頑張れ。イ㌔
こういう場合のいい言葉があります
漢女(ヲトメ)
それにしてもいい感じですな、このドラフトww
次回も期待して待ってます
あれ、まだ私指名されてませんがなぜでしょうか
白蓮さんいい人やな~w
キチンとまとまってて楽しく読めました。
あと、面白そうな面子だしできれば後日談を一つの話で読みたいなぁ
守矢の普段の生活とか、命蓮寺ハートフルストーリーとか
聖のカリスマ万歳、さとりんの駄目さに乾杯。
興味を惹くけど嫌味が出そうな題材でしたが、まったくそんな嫌味は感じさせず、たくさんのキャラが魅力的に描かれてました。
いやあ、これほどキャラを出しておいてみんな個性がつぶれてないってのはすごいと思いました。若干名壊れているけど。
それと誰も指摘しないみたいなので誤字
>博霊神社
博麗神社ですよね。
紫は孫を溺愛するおばあちゃんそのものですねw
そして地霊殿ハーレム状態www
取り敢えず淋しがられているお空ちゃんをお持ち帰r(ry
さとりん何故指名しなかったんだ!大ちゃんは妹ポジションだろうが!
ああ、非常に楽しめました。このまとまり具合は素晴らしいと思います。
そして白蓮さんがいい人過ぎるw
輝夜のカリスマがマイナスにww
それだけに輝夜と妹紅だけはいつもの二人っぽくてちょっと残念だったかなぁと。
ひじりんとれみりゃ様のカリスマ万歳。
さてはアメトーーク見たなwwww
聖の素敵作戦がよかったww
あ、後選ばれなくて泣きそうなゆうかりんは俺がもらっt(マスパ
でもウサミミのためにてゐを指名する心意気には敬服します
霊夢はかわいがり要員だと思ってたら、馬車馬のように働かされててうけたw
でも話としてまとまってるのよね、すげぇ
確かに、各地の生活を一つの話として読みたくなった。
あとさとりんが妬ましすぎる、俺も混ぜ…おや、こんな時間に誰かきたようだ
こういう話はキャラの魅力を再確認できて良いですね。
贅沢を言えば選ばれた時の本人や外野の反応も見てみたかったり
命蓮寺の話はもっと詳しく書いてもらいたいと思います
面白かったです。
とりあえず、完璧な空気と化している魔理沙はもらっt(マスパ
可愛いからこそ厳しく、それも愛
にしてもいい空間
眺めてるだけで頬が緩む
幽香は宴会に参加していなかったのかな? もし参加していたなら、レミリアが引き抜きそうな気も
しかし一週間元に戻った姿も見てみたかったです
とりあえず素晴らしいの一言につきます
面白かったですね。
(命蓮寺組は白蓮がすごすぎる、ここまで考えてたのかw)
神社の面子が可哀相かな?と思うけど
本当にたまたま指名から外れてしまっただけなんだなって思えるような
内容だったと思います。
でも結論
各々の組織の元の組み合わせが一番いいんだろうな、と
改めて再認識した気がします。
(組織じゃないとこは別ですけどね^^;)
彼岸で働きたくなってきた
それはそうとちょっと守矢神社信仰してくる
レミリアは恵まれてることを自覚するべきだなw
後日譚も妄想の余地があってもう辛抱たまらんです。特に紫様と小傘ちゃんが。
綺麗にオチもついていて、とても面白かったです。
ドラフトの人選(妖選?)とまとめ方がうまい。面白いお話で最高に楽しめました。
各勢力の人選が納得出来過ぎて、妄想が拡がりにくいw
キャラの個性を生かしてよくまとまっていたと思います。
ドラフトで編成された命蓮寺のお話とか読みたくなりました
そしてぬえの泣き声www
を 失敗した場所とさまざまぁであったが、に空目
それぞれの勢力のオチも面白いなーw
あと最後の「最強の私が~」って誰?
神社で脱いだのは誰かkwsk
個人的に愛でている3ボスの方々がほぼ指名されててよかった(一輪さんごm
で、第2回はいつですか?
選ばれなかった人たちは次回に期待かな…文とか魔理沙とかは正直組織には呼びにくいと思うけど
>>166さん
幽香じゃない?
ただ一点、求聞史記によると、閻魔の仕事は2交代制で行われる(休み有)なので、
映姫さまが眠れなくて死にかけるっていうオチがちょっと違うよな-と思いました。
というわけで-10点。
とりあえずゆうかりんかわいいよゆうかりん。
白玉楼も迷い家も永遠亭も守矢神社も全員抜かれてたろ?人数的には紅魔館が一番多かったけどさ
やっぱりドラフト生活の詳細が読みたかったな
題材的に面白そうなだけに「え、それだけ?」感が否めない
それはそうとぬえの鳴き声がつぼった
あと、幽香りんかわいい
さとりんwwww
オチも「そういえばそうだよなー」って思わず唸ってしまったし。
自分のお気に入りキャラ(私の場合椛と小悪魔)が指名されるかなー、とかドキドキしながら読んでましたよ。
魔理沙、メディスン、キスメ、三月精、ツチノコ…(´;ω;`)
次回は、阿求や豊姫達も参加した状態が見てみたい
もし、俺が指名できるならルーミアを貰いたい
「2位指名の慧音さんは、子供の扱いに非常にたかけている。」たかけているじゃなくてたけているのはずです。
そして萃香乙
設定で情緒不安定の方をとってるので、もともと彼女の味を薄くというのは分かってましたが・・・対処の言動的にもフランじゃなくても精神的に傷もってる者なら誰でも当てはまる様な当たり障りのないもの(特に言葉)だったし
指名部分であそこまでフランである事を強く表現したにしては・・・
>もはや説明するのも面倒なのである。
面倒なのはする方ではなく、聞く方では?
>「やめなさいって!絶対かわいくないから!」
「心めっちゃ醜いよ!大丈夫なの!?」
「瞳閉じたくなっちゃいますよ!!」
てゐストップ安ww
多分これ永遠亭のメンバーの評価だろうし……
素晴しいSSをありがとう!!!
でも無茶苦茶失礼な事を書かせてもらうと
もう少し文章が上手い人に書いて欲しい話かな、とも思った。
各種表現が稚拙で、キャラも自分が書きやすいように改悪されている。
(例えばさとりの心を読んでしまう能力が全く出てこなくて
ただの可愛い物好きになっている)
会話も非常に子供っぽい。
ただ繰り返すけどアイディアは秀逸だと思った。
今まで二勢力の従者の交換ぐらいなら
あったと思いますが、ドラフト制による
ほぼ全ての勢力のシャッフルは、
思いついても中々書こうとは思わないでしょう。
上手くまとめたTAMさんの力量に賞賛を。
ただ個人的に残念なのは、それぞれの一週間があっさりと流してしまったことかな?もっと掘り下げてもよかったかと。
命蓮寺での一週間の詳細を自分は読んでみたいです。
組織のトップだけ変えてみるのも面白いかもしれませんね。
そうか、各キャラの勢力に元から居た場合は指名できないのかー
とりあえずこの話には500点くらい入れたい
だいぶ読み返してる
208、オレとくじ引きだ。
よかったよ。
指名だけでは終わらず、ちゃんとどうなったかも簡潔にやってくれたのが良かったです。
ところで、ドラフトって一位指名して獲得したら、二位指名できないんじゃ…
さとりwwww
各トップの個性が現われていて良かったです。
にとりがPC弄ってるのは一応仕事かな?修理?
哀れ、白黒…
欲を言えばもう少しシェアリングのその後が欲しかったかな
取り合えずお空を選んだやつ、俺とくじ引きだ
命蓮寺メンツがまるで家族のように和気藹々してる様が目に浮かぶ
それに比べておぜう様のとこはwww
普段はえーりんに見守られて=監視されてるけど
本当はこんな風に暴れまわりたい冒険心もあるんだろうし
大いに笑ってしんみりもできる楽しい物語をありがとう!
霊廟が出てこころが登場し神社に小人がやってきた今なら、・・・命蓮寺と神霊廟でこころの1位指名合戦になるだろうな、うん。
第二回も見てみたいです!
魔理沙はどこ行ったのぜ…( ´∵`)