私の名前は紅美鈴、この紅魔館の門番である。
二月に入った今も直、冬の寒さはその勢いを強めている。降り続ける雪は私のくるぶしの高さまで降り積もった。
神社の巫女のこたつやら、どこぞの店主が持つストーブやら、そんな便利なものはもちろん無い。あればどれだけいいかとは思うが。
極寒と呼んで差し支えない気温の中で、私は今日も門前に立ち続ける。
真っ白に染まった視界の向こうから、いつも通りの箒と何やら手荷物を持った人影が現れた。
口に入った雪をペッペと吐き出しながら、彼女は私の服装に目を向ける。
「お前も大変だな、美鈴」
「……ま、仕事ですからね」
門を開いて、館内へと向かう魔理沙さんを見送る。
背を向けて振った彼女の手に、私も小さく振り返した。
薄い半袖のチャイナ服から出る、凍えるほどかじかんだ腕を。
「……うぅ、寒ぅ」
今日一日はまだ始まったばかり、先はまだまだ長い。
私は裸のままの両の手を擦り合わせながら、小さく息を吐く。
この雪が降り始めたあの日から、これでもう十日になる。寒さに強い妖怪とは言え流石に限界と、冬服を買いに行くため有休を申請した私。
そんな私を待っていたのは、レミリア様の非情な一言だった。
―――ダメ、絶対ダメよ。あと一週間ほどはそのままで過ごしなさい!
一週間は三日も前に過ぎ去った十日目の今日、いまだレミリア様からのお達しは無く、例年であればこの時期に咲夜さんが編んでくれる手編みのマフラーも出てくる様子は無い。
いつもならホッカイロ代わりに抱いて過ごす妹様はここ一ヶ月ほど毎日来ている魔理沙にご執心だし、パチュリー様に出すついでだという小悪魔のお茶の差し入れも何故か途絶えてしまった。
これはあれだろうか。やっぱり。
……飽きられてしまったんだろうか。
思えばお嬢様に仕えて五百年。五百年も顔を突き合わせていれば飽きもするだろう。
とはいえ長年仕えた部下の首だ。他の者の手前、そう簡単にすっぱり切るわけにもいかない、か。
ならば私の方から言いに行こう。引き際を見極めるのも部下としての勤めだ。
淡々と頭の上に積もった雪を振り払い、扉へと向かう。
寂しくないと言えば嘘だ。悲しくないなどと冗談でも言えない。
けれど、いつかはこんな日が来るような気がしていた。
私は元々根無し草の放浪妖怪なのだ。むしろここには長居しすぎたくらいだ。そう思おう。
そんな思考に気を取られ、取っ手を掴んだままの私の腕がふいに扉ごと館内へと引き込まれる。
そこにいたのは、内側から扉を開いたレミリア様だった。
「あぁ美鈴。ちょうど良かったわ」
「……私もです」
「うん、何かあった?後で報告しなさい。まずはとにかく……長い間お疲れ様」
あぁ、流石はレミリア様だ。
私がこうして今日、ここを去ることすらもとうに把握していたのだろう。
「そう、ですね。長かったです。なんせ五百年ですからね」
「五百年?何を言ってるの、十日でしょう?」
「あぁそうですね、十日でし……え、十日?」
「そうよ。その、十日も寒いままで悪かったわね。……咲夜は簡単そうにやっていたのに、中々難しいものね」
レミリア様はばつの悪そうな顔で、背中越しに三つの紙袋を取り出した。
その内の一つ、『レミリア・咲夜』と書かれたそれを手渡される。
「はい、これ」
「……これは?」
「開けてみればわかるわよ。ただしその、恥ずかしいから私のいるところでは開けないこと!あとこれ、フラン達とパチェ達の分。ちょっと手違いがあって、微妙なことになってるんだけど」
「あ、はい」
訳もわからず差し出された紙袋を私が受け取るなり、レミリア様は踵を返して館内へ。
その刹那、レミリア様は振り向き様に声をかける。
「あぁ、それから、まぁ何、そのあれよ」
「……何でしょうか?」
「これからも、よろしく頼むわ。……それだけ!」
バタン、と力任せにそれきり閉じられた扉。
後に残されたのは私と三つの紙袋だけ。その内の一つを無造作に開けて、そして私はようやく知った。
私はもうこの悪い吸血鬼達の館から逃れることなどできないのだ、と。
私の名前は紅美鈴、この紅魔館の門番である。
二月の節句を過ぎた今も直、冬の寒さはその勢いを強めている。降り続ける雪は私のふくらはぎまで降り積もった。
神社の巫女のこたつやら、どこぞの店主が持つストーブやら、そんな便利なものはもちろん無い。そんなものが欲しいとも思わない。
極寒と呼んで差し支えない気温の中で、私は今日も門前に立ち続ける。
真っ白に染まった視界の向こうから、先日同様に箒と何やら手荷物を持った人影が現れた。
口に入った雪をペッペと吐き出しながら、彼女は私の服装に目を向ける。
彼女は一瞬だけキョトンとした顔をして、その後豪快に吹き出した。
「……お前も大変だな、美鈴」
「ま、仕事でもありますしね」
門を開いて、館内へと向かう魔理沙さんを見送る。
背を向けて振った彼女の手に、私も小さく振り返した。
手編みのセーターを三枚も重ね着した、丸く大きく膨らんだ腕を。
その日の夕方、今度は三対の手袋が届けられた。
魔理沙さんは爆笑してた。
私も笑った。
雪は気づけば止んでいた。
むしろあとがきのが欲しい。
かわいいなあもう
紅魔組はほんとキャラ配分のバランスが良くて映えますな。
と思ったらなにこのあとがき
個人的にはあとがきみたいな変態ものの展開はもうおなか一杯だったので
こっちで正解だったと思います。
もしあとがきみたいな展開だったらきっと私は匿名評価しか付けなかったでしょう。
魔理沙も良い味だしてた。
マリフラひゃほーい
いや、しかしこれは踏み間違ってよかったかもしれない!!
いやいや、でもやっぱり後書きの方のやつも(ry
面白かったです。
あとリハビリ頑張って下さい。
心温まっちゃうよ!
どうしてこうなった!!!
そう思って良かった作品初めてですw
暖かな紅魔館をありがとうございます
あとがきからどうしてこうなった(いい意味で)と思う作品ですがどちらも好きです。