私はナズーリンである。
名字名前の区別は元々無い。純然たる「ナズーリン」である。
私は毘沙門天の使いである。
同時に、毘沙門天の弟子の部下でもある。
なんだかややこしい立場にも見えるが、要するにただの監視役である。
私は最近悩んでいる。
私のご主人様兼監視相手である「寅丸星」・・・
このお方が
あまりにも、可愛すぎるのだ。
~私のご主人様はドジっ娘かわいい~
どれほど可愛いのか。私の一日を通してここに記す。
その萌えキャラッぷりを見て頂こう。
朝。
私が目を覚ますのは、丁度日が昇り始める頃である。
私とご主人は同じ部屋に暮らしている。無論、布団は一つだ。
ねぼすけご主人はまだ眠っているので、起こさないように共有の布団(可愛らしい猫と鼠の柄)から抜ける。
ああ、朝一番に見るご主人・・・一日頑張れる、どころの騒ぎじゃないね。
もう私はこの活力剤がなければ生きていけないだろう。麻薬並みの中毒性だよ。
重なり合う長い睫毛。僅かに赤らんだ頬。しなやかに垂れる金髪。微かに上下する大きな胸。
無防備な寝顔を私にだけ晒すご主人を、軽く半刻程観賞した後、着替える。
さらにご主人のほっぺたを軽く半刻程プニプニした後、仕事道具の手入れをする。
嗚呼、つきたてのお餅のように白くて柔らかいご主人のほっぺたを前にして、果たしてどれほどの人妖が正気を保っていられるだろうか。いや、いない。
まだ起きない。それどころか寝言で「んにゃ……ナズー…リン……んふふぅ…………」とか言っちゃってる。私本日初の鼻から忠誠心である。
さらに、布団の端っこを抱きしめながら、幸せそうな顔で寝返りを打つという暴挙に出る始末だ。抱き締めたい。色々ともみくちゃにしてやりたい。
だらしなく開かれた口からチラッと覗く牙と寝言に悶えながら、垂れた涎をベロベロ舐め取ってやりたい心持ちを何とか自制している頃に、一輪が我々を起こしにやってくる。
「おらー! 朝ですよー! 姐さんの料理が冷めちまうだろうがー!!」
雲山的拳骨をもろに食らうご主人。
ただの水蒸気の集まりのはずなのに、こんなにも鈍い音がするのは何故なのか、いつも疑問に思う。
「ぶにゃっ!?」っと、何とも猫じみた悲鳴を上げる。可愛い。
「ぁぅぅ……お、おはようございますぅ……」
そしてこの涙目である。この顔を見るために私は生きてるのかもしれない。本日二度目の鼻血が出た。
ようやくもそもそと起きあがるご主人。
今日はあんまり寝間着がはだけていなかった。やはり昨晩のうちに仕込んでおくべきだったか。
隣で寝間着の端っこを抓んでおくと、ご主人が寝返りを打った際に、ズルリといい具合に剥けるのだよ。ぐふふ。
いつのことだったか……私が頑張りすぎてしまったことがあってね、それはそれは妖艶なご主人の寝姿が…………
そうそう、そのはだけた状態で私を抱き枕にしたこともあってだね、あの時は鼻から忠誠心が止まらなかったよ。今では良いオカ……思い出さ。
「ナズーリン……? さっきからボーっとして……大丈夫ですか?」
ハッ! いかんいかん、またドリームワールドに飛んでいた。
さて、今は食事中だ。
とっくにいつもの動きにくそうな服に着替えたご主人が、隣で心配そうに見ている。
舞い上がりそうになる気持ちを抑え、冷静に無難な対応をする。
「ああ、いや、大丈夫だよご主人。ちょっと考え事をしていただけさ」
「そうですか。それならいいのですが……」
嗚呼、ナズーリンランドに光が満ちる。
ちょっといかがわしい考え事をしていた私に、こんなに優しい言葉をかけてくれるなんて……
やはりご主人は特別な存ざ「ちょっと! あなた達が最後なんだから早く食べちゃってよ! お皿が洗えないでしょ!」
一輪は良い母親になれると思うんだが、どうだろう。
さて、朝食を終えたら、私は基本的に暇になる。
ニートなわけではない。失せ物探しの商売をして、寺に貢献しようとはしている。
しかし、如何せん依頼が少ない。せいぜい月に数度といったところか。
まぁ、ご主人はほとんど毎日依頼してくるのだが。ドジっ娘かわいい。
そんなわけで私は暇なのである。
ご主人はどうしているかというと、座っている。
キリッとした真面目な顔で、本堂のド真ん中に、大量の参拝客に見つめられながら座っている。
説法する聖と違い、毘沙門天(代理)の仕事はこれくらいなので、まぁ、当然といえば当然なのだが。
こんなに人に見られているのに、微動だにしない集中力はやはり凄いと思う。
この時ばかりはご主人もかっこよく見える。クールビューティー星ちゃん。おっと、またしても忠誠心が鼻から漏れてしまった。
しかし、毎日毎日、いい加減痔になるのではないかと心配になるくらいに座っている。
いや、むしろ痔になってくれたら……
『ナズーリン……あの、その……お願いが…………』
おやおや、どうしたんだいご主人。急に改まって。
『それが……ちょっと言いづらいお願いでして……』
水臭いじゃないかご主人。貴女のためなら何でもしてみせようじゃないか。
『えっ、と……お薬を……塗って欲しくて…………』
ハッハッハ、お安いご用だよご主人。
で、何処に塗ればいいのかな?
『ぁぅ……その…………お…おし……』
え? 聞こえないなぁ、もっとハッキリ言ってくれないか。
『お……おし…………おし、り…に……』
ほら、もっと大きな声で!
『おしりに! 塗って下さい! 私のおしりに白くてヌルヌルしたお薬をいっぱ「 お ー い ! ナズーリンーー! 依頼ですよー!」
クソっ! 船長めッ! 妄想とはいえ、丁度良いところで邪魔しおってからに!!
今回の依頼は簡単なもので、近くの鼠にちょっと指示を出すだけであっという間に片づいた。
印鑑をタンスの裏に落とすなんてサ○エさんくらいのものだと思っていたが、本当にいるものなんだなぁ。
依頼主もあまりのスピード解決っぷりに驚いていたが、すぐに笑顔になってくれた。
ちゃんと料金も頂いたし、依頼主も笑顔で帰宅したし、これで私の仕事は完了だ。
だから船長。いい加減私の足の小指を潰しかけている錨をどけてくれないか。
私の態度が悪かったのは認めるから。妄想の邪魔をされたせいで、ちょっと機嫌が悪かっただけなんだよ。堪忍してつかぁさい。
あイタタタ……後でご主人にお薬を塗ってもらおう…………
さて、ようやくお昼だ。
今日の当番は船長か。ということは、またビーフシチューという名の肉じゃがが出てくるのだろう。
普通に美味しい肉じゃがだから良いものの、初めて出された時のあのガッカリ感は酷かったね。
いや、別に肉じゃがを否定している訳じゃあない。むしろ好物に入るくらいだ。
でもね、やっぱり期待してしまうんだよ。『ビーフシチュー』という響きに。
我々も長く寺住まいしていてね、そんなハイカラなものは食べたことがなかったんだ。存在は知っていても、ね。
そこにやってきた舟幽霊さんだ。その見聞に自然と期待も高まるだろう。
ご主人なんか、虎のくせに尻尾を振り振りしながら「うわぁ~、『びぃふしちゅぅ』ってどんな料理なんでしょうね~~♪」ってニコニコと食卓に座っていたんだよ。写真撮っておけばよかった。
さぁ、そこへお盆を持って船長の登場だ。沸き上がる食卓。高まるボルテージ。熱気は最高潮だ。
「さぁ、どうぞ! 召し上がれ!」
ドンッ! と自信満々に置かれる盆。
みんなの視線が集まる中、其処に鎮座していたのは、しかし肉じゃがであった。
固まる身体。交錯する視線、思惑。
聖は微笑んでいる。
「んふふ♪ どうですかね? 結構上手に出来たと思うのですが♪」
遅れてやって来る、戸惑い。
肉じゃがは、唯々其処にある。
「あ、あの……ムラサ、これって…………」
重い空気を取り払うように、一輪が動く。
ご主人の尻尾は、もう動かない。
聖は微笑んでいる。
「はい、『ビーフシチュ-』ですよ! いやぁ、生前に数回食べたことがあるだけだったので、再現に苦労しましたが……」
雲山が必死で美味しそうな湯気を演出していた。あんた漢だよ。
もう誰も何も言わなかった。皆が皆、肉じゃがを有りの儘受け止め、有りの儘肉じゃがとして美味しく頂いた。
有りの儘の肉じゃがは、とても美味しかった。少々塩味が強かったかもしれないが。
それ以来、彼女は、誰が言うでもなく「がっかりムラサ」の称号を手にしたのであった。劇終。
そんな昔を懐かしみながら、船長の『ビーフシチュー』を食べる。
醤油と砂糖、味醂だけのシンプルな味わいと香り。
おかずになるように少し濃いめに味付けされた具材は、醤油の香りと味醂の照りと共に、食欲に直接訴えかけてくる。
薄切りにされた豚バラ肉は、他の食材へ油とコクを提供してくれていた。
尚且つ、野性味溢れる自身にもまた、人参や玉葱の甘み、深みを閉じこめてしまうのだから、誠に肉というものは恐ろしい。
ジャガイモは煮崩れることなく、それでいてほっこりと優しい食感と甘みを提供する。この大地の香りが嬉しいじゃないか。
人参も素晴らしい甘みを秘めていた。特有のえぐみや臭みは一切無く、かめばジュワっと美味しい汁が染み出してくる。
トロッとした飴色玉葱が、汁を存分に吸い込み、白飯をどんどん進ませる。
さりげなく入っている白滝も、これでもか!というほど味を閉じこめて、良い脇役を演じている。
う、美味い!
今ではご主人も、尻尾を振り振り、喜んで食べている。私がご主人を食べてしまいたい。
もうあんなにがっかりしたりしないよ!
さてさて、午後の私はちょいと忙しい。
なぜならば、今日の夕食の当番が私だからだ。買い出しや準備、食器も洗わねばならない。
まぁ、暇をしているよりはずっと良い。
とりあえずは買い出しに人里にでも……と、玄関で靴を履いていた時。
「あ、ナズーリン! ナズーリン!」
おや、ご主人が嬉しそうな顔をしてこちらにトテトテと駆けてくるじゃないか。飛びつきたい。
本堂に座っていた時のような重苦しい豪華な衣装ではなく、威厳を失わない程度に動きやすそうな服を着ている。
「なんだいご主人。その格好……どこかに出かけるのかい?」
「ええ、ですから、一緒に行きましょう♪」
そんなに素敵な笑顔を魅せられて断るバカはおらんよ、君。
ご主人と二人で人里を歩くのも、随分と久しぶりな気がする。
布教に回る時は大体聖が居たし、そうでなくてもご主人は本堂に缶詰だ。
それを考えたら、今日は滅多にない程素晴らしい日なのだが……
「……ナズーリン?」
「ん、なんだいご主人」
「その……何でそんなに離れて歩くのですか?」
そう、私はこの吉日を無駄にせんばかりの勢いでご主人の遙か後ろを歩いている。
何故か? ……恥ずかしいからだ。人里でご主人の隣を歩くなんて、顔から火が出るやもしれぬ。ご主人が好きすぎて生きてるのが辛い。
今までさんざんアレな事を綴ってきておいて今更、と思う方もいるかもしれない。
しかし、私はずっとご主人を端から見守ってきただけだっただろう。せいぜい寝ているご主人のほっぺたをぷにったくらいだ。
それもそのはず、私は単なる耳年増の純情少女なのだ。自分で言ってれば世話無いな。
どのくらい純情かというと、ご主人と語らうだけで動悸は速くなり、顔に熱が昇る。
一緒の布団で寝ていながらも、彼女の寝間着の端を抓むのがやっとだ。
手を繋ぐなんてした日には、出忠誠心多量で死んでしまうかもしれない。
もう、本当に、ご主人が好きすぎて生きてるのが辛い。
このくらいの純情っぷりだ。
かといって、正直に「恥ずかしい!」なんて言う勇気もない。今の関係を壊したくない。
だから、私はいつも言い訳したり、嘘を吐いたりする。
「それはねご主人、君がご主人だからだよ。まさか部下が上司の前や隣を歩くなんて出来ないからね」
部下と上司、か。
ああ、また嘘を吐いている。幾つも嘘を吐いている。唯の監視役なのに。
そうして自分を安心させている。たいした純情だ。
「そう、ですか……」
ああ、止めてくれご主人。そんなに残念そうな顔をしないでくれ。頭をナデナデしたくなるだろう。
と言っても、ご主人は180cm近くある長身。対して私は150cmが関の山といったところだ。
背伸びをしてやっと届く頭をナデナデするなんて、なかなか出来ないのが現実だ。
やはりご主人は人型の女性にしては背が高すぎるのではないか。
あのレベルのうっかりだと、私くらいに小さい女性の方が可愛らしいのではないだろうか?
いや……見目麗しいクールビューティーがうっかりするから、こうまで可愛らしいのか?
難しい……実に難しい問題だな、はちべぇよ。
ただ一つ分かる真実は……高くても低くても、ご主人は美しく且つ可愛らしいと言うことだ。
「ナズーリン! もう、ナズーリン!」
うむ、やはり隣に並ぶと身長差がハッキリするな。抱きついてよじ登りた……い…………あれ?
いいい何時の間にごご主人がとなとな隣にっっっ!!?
おおおおちつけナズーリンKOOLになれ素数を数えてKOOLになれ……2…4…8…16…32…64…128……256…………
ヨシ、オチツイタゾ。
「お、おいおいご主人、せっかく部下が気を遣って後ろを歩いていたというのに……」
ぁぅぁぅ……声が震えているじゃないか……
し、深呼吸……あぁ、ご主人の匂いが…………
「あなたが虚ろな目でウロウロしているからですよ。迷子になりたいのですか?」
「いやいや、最近ちょっと考え事が多くてね。安心してくれ、迷子はご主人の専売特許だよ」
「もう……じゃあ、こうしましょうか」
ぎゅっ
「…………えっ」
「ほら、手を繋いでいたら、どちらも迷子になりませんよ♪」
qあwせdrftgyふじこlp;@:「」
いかん!!!!これはいかんぞぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!11111
ナズーリン は こんらん した!
「ちょ、ナズーリン! そんなに引っ張ったら…あっ!」
あれ
ご主人が
可愛いご主人の顔が
近づいて
近づいて
近づい『チュッ♪』
あ
幸せ。
ハッ! ドリーム……ではなかったのか?
ここは……私とご主人の部屋……?
ふむぅ……記憶がない。
どうもご主人に引っ張られたり引きずられたり一緒に買い物したり料理したりした気がするのだが……
すっかりのぼせ上がってしまったようで、記憶が本当に朧気にしか無い。なんということだ。
お風呂も済ませているようだが……この時間になるまで、私の心は天に昇っていたのか。
それでやっとこの手記を綴れる程度に回復した、と。
ん、お風呂……まさかご主人と一緒に…………!?
ハァ! 朧気ながらイメージ映像がっ!
いかん、またしても忠誠心が止まらない。塵紙が足りない……
あれ? そういえばどうして記憶が無くなって…………
「あ、気が付いた?」
んむ、船長。すり抜けたりせずに、ちゃんと障子を開けて入ってきてくれないか。
『気が付いた』ということは、やはり私は半分気を失っていた状態だったのか。
「ああ、もう大丈夫だよ船長……ただ、さっきまでの記憶がないのだが…………」
「あら、そうなんですか? ついさっきまでみんなで『いやぁ、今日のナズーリンは積極的だったねー』って話をしていたのですが」
せ……積極…的…………?
「ど、どういうことだい…………」
「えーっと、星と手を繋いで帰ってきてですね、何故か赤ん坊みたいに星にピッタリくっついて離れなかったのですよ。
返事もしないし、反応も無いしで困っちゃってですね。で、仕方ないからそのまま一緒に料理して、食事して、お風呂まで一緒に……
なんか夕飯が恐ろしく豪華だったし、ケーキとか買ってたし……美味しかったですよ!
聖はずっとニコニコしてて何にもしないし、星に訊いたら『その…みんなへの報告はもうちょっとしてから……キャー♪』って話にならないし……
ずっと星が抱っこで運んだり、アーンして食べさせたりっていう状態だったんですよ?
こりゃあ絶対何かあったな、とうとう告白でもしたのかって、一輪とぬえと話していたのですよ。
あんなに星にべったりなナズーリンは初めて見ますし、星もなんだかすっごく嬉しそうでしたし、っていうか幸せオーラが半端無いし。やっとくっついたのかなーって」
んな!!? そこまで退行していたのかッ!?
あばばbばばっばばばばご主人に合わせる顔がないいいい!!!!!
っていうか告白!!?むりむりむりむりむりないないない!!!!!!
「で、どうなんですか? 告白したんですか?」
「ぅぅ……す、すまない船長……少し一人にしてくれないか…………」
「ん……わかりました。それでは、この続きはまた今度に」
船長の紳士っぷりに感謝だな…………
ハァ……何という失態だ…………
たかだか手を繋いだくらい?で、こうも自分を見失うとは……
いや……その後になにかもっと凄まじいことがあった気もするが…………
瀟洒なダウザー、小さな賢将のナズーリンが……こんな…生き恥を…………
ぁぁぁああああ……迷惑かけて…………絶対ご主人に嫌われた…………
もう駄目だ……絶望だ…………
嘘っぱちの主従関係すらも……壊れてしまった…………
生きるのが辛い…………ご主人に嫌われるくらいなら…もういっそのこと…………
ご主人の居ない世界なんて…………
「……ナズーリン? 大丈夫ですか……?」
ご……ご主人……!?
あ…障子の向こうにいるのか……声しか、届かないな……
「……や、やぁご主人……みっともないところを見せてしまったね…………」
「よかった、もうだいぶ回復したんですね」
「ああ…ご主人の介護のお陰だよ……きっと君は、幻滅しただろうね」
「あの、ナズーリン……私…………」
「いや、何も言わなくていい。この際だから、みんな話してしまおう……」
そう、みんな話してしまおう。顔が見えない今なら…言えるかもしれない。
何もかもを、洗いざらい話して……この寺を、去ろう。
もともとご主人が居るからここまで長く暮らしていたんだ。
ご主人に嫌われてしまった今…もうここに留まる理由はない。
毘沙門天様にはなんて言おうか。報告せずに逃げ出してしまってもいいかもしれないな……
そうして、一介の野良妖怪として気ままに暮らそうか……
「ナズーリン……? …………開けますよ」
「そうだな……どこから話そ…………へ? ちょ、ちょっと待って…空気読んd」
ガラッ
ああ、開いてしまった……
顔を見て別れを告げるのは……辛すぎるな…………
いや、このくらい辛い方が、案外吹っ切れるのかもしれない。
とにかく今はご主人の目を見て話そう……!
そうして顔を上げると、そこには、
少し紅くなりながらも満面の笑みをたたえたご主人の顔があった。
……えっ?
なんで笑っているんだいご主人。
あんなに無様な醜態を曝したというのに……
それとも…私を笑いものに…………
「ナズーリン……その、改めて顔を合わせると…やっぱり照れますね……」
照れ…る?
照れるのは私の方じゃあないのか。
あんな不覚を曝してしまって……
「照れるだって? ご主人、君は一体何を……」
「だって私たち……その…………
あ…赤ちゃんが出来ちゃうのでしょう……?」
えっ
「だ、だって……その…お買い物の時……キ、キ…キス、してしまって……!」
キャー、と真っ赤な顔を両手で覆うご主人。一体何が何なのだろう。可愛い。
って…………ききキキ、キスぅ!!!??!??
え????へぇ??????え、ええぇぇぇぇええええええ!!?!?
おお落ち着け、クルーになれ、違うよキャプテンは出てこなくていいよクールになれ落ち着け私。
落ち着いて情報を整理してみよう。こんな時のための賢将だ。
二人で買い物
↓
私がボーっとする
↓
ご主人が見かねる
↓
手を繋ぐ
↓
私が取り乱し、ご主人引っ張る
↓
ご主人接近
↓
ちぅ
↓
私の思考回路ショート
↓
星ちゃん妊娠してしまうと勘違い
↓
ハイパー星タイム
↓
私、復活
↓
何か色々と辛くて恥ずかしくてしにたい
↓
勘違いを修正へ←いまココ
↓
そして伝説へ…
よし、よし、落ち着いてるな私。それでこそ毘沙門天様の遣いだ。
っていうかご主人、キスで子供が出来ると思っていたのか。どんだけ初なんだ。忠誠心が止まらないじゃないか。
こんな初な娘を自分色に染めてしまいたい。これは理想郷だよ、君。
「ふむ、とりあえずご主人。キスしただけでは子供は出来ないから、安心したまえ」
「ふぇ? そうなんですか!?」
「ああ。子供を作るには…もっとこう、ヌチョヌチョした行為が必要になるんだが……今の君は知らなくていい」
「じゃ…じゃあ……私とナズーリンの子供は…………」
「まだ出来ないね」
「そ…そう、ですか…………」
ふふっ、どうやら本気で勘違いしていたようだね。
まったく、これだからうっかり星ちゃんは。
…………はぁ、なんだかものすごい勢いでウジウジしていたのに…どうでもよくなってしまった。
長い鼠生なんだ。要介護なときもあるだろうさ。うん、あるある。
ハハッ、なんだか笑えてきたよ。
「ふっ、あははは、アハハハハハハッハハハ!」
「な、なんで笑うんですかっ! ちょっとした勘違いじゃないですか!」
「アハ、あははは、す、すまない…っくく、ふふふふ」
「もう……ナズーリンとのだったら…私……良かったのに……」
「え? な、何が良かったって? アッハハハハハ!」
「何でもないですよっ! んもうっ! ……ふ、ふふふふ」
「アハハハハハハハハ!」
「ふ、ふふふふふふふふ……」
「「あっはっはっはっはっは!!」」
如何だったろうか。私のご主人様は。
この純真無垢さ、優しさ、可愛らしさ、ドジっ娘っぷり…………
どれをとっても最高級ではないだろうか。
これは一つの奇跡だよ。割と本気で。
えっ? 私が何故こんなものを書いたか?
たいした理由はないさ。
ただ…………
『初心を忘れてはいけない』っていうのは…なんにでも言えるだろう?
武道でも、スポーツでも……恋愛でも、ね。
おっと、愛するご主人が呼んでいる。
ここで筆を置くことにしよう。
それではね。
……未来の私へ
ウブな頃の私が記す……
ごめんニヤニヤした。
しかし、ムラサと一輪自重しろw
もうぬえは我等が宝だから直さなくていいよあと二人自重(ウンザーン
にやにやがとまらない
このあと「星×ナズ」よ!「ナズ×星」でしょ!で取っ組み合いのケンカになり、
そのままいろいろあってなぜかいつの間にか二人仲良く朝を迎えることになってムラ一が誕生するのですね。わかります。
ビーフシチューという肉じゃがの登場シーンがなぜだかマサルさん的映像が思い浮かんだ。
というわけでナズ×星に一票だ
星×ナズに一票。
あと一輪姐さんと水蜜船長にご冥福を。
星さんの初さが素晴らし過ぎるな、このナズの色に染まった星さんは変態になるのか乙女になるのか…
ナズ×星に一票
>一輪は良い母親になれると思うのだが
全面的に同意せざるを得ない。
私の中で、氏のSSは名前読みできるレベルだ
星×ナズに一票。
肉じゃが描写、とても美味しそうでした。うん、夕飯はナズ星をオカズに肉じゃがで決定。
真面目な上司と監視者に生まれる禁断の愛により、背徳感に悩む2人もアリ…と一輪&ムラサに訴えたい。
雲山の必死の頑張りににやけてしまったw
私はナズ×星に一票です
かわいい星ちゃんご馳走様でした。
自分もナズ×星に一票
今回はホントにいい話で終わりましたね
>一輪は良い母親になれると思うんだが、どうだろう。
同意せざるを得ない
そそそそそそそそそそそれだァァアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!
個人的には「『何時に無く真剣モード』星×『弱って泣きつき助けを求めてくる』ナズ」ですね。
御馳走様です
↑吹いたwww
そして俺はナズと星の間に入り…(ピチューン
へへ、星のやつめ、鼻から信仰心が溢れちまったよ
あと「がっかりムラサ」の語呂は良いw
<<<「まだ出来ないね」ってことはいずれ出来る予定があるってことですか!
永琳先生がんばってください