Coolier - 新生・東方創想話

はじめから二人だった

2010/01/31 22:59:14
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 ちゆりは、リスかネズミがする様に、少しずつパンを口に含んでいった。
「そうそう、トーストで思い出した。パンを焼いて、マーガリンを塗る。その時に起こるのに、マーガリン現象とバター現象ってのがあるのよ」
 しゃき、と、ふわ、の中間、どちらかと言えばしゃき側か、などと考えながら、自分の上へと耳を向ける。上とは言っても概念的なもので、立場が上という意味だ。向けるも、概念的なものではあるが。
「……いや、それってまんまじゃないか。マーガリンって」
「暖かいパンにゆっくりとマーガリンなりバターが溶けて、じわぁと染み込んで、味が変わり、おいしくなる」
「あぁ、いつもの冗談か。まあ、たしかにおいしくはなるが」ちゆりは溜息をつき、背筋を伸ばした。
 夢美という教授は、そういった冗談を語る時の発想の歪さと、飛躍が激しい。興味深い、とも思える。
「当たり。でも、現象ってつけていいほど、素晴らしいことだと思うけど。苺が色付いて、収穫され、私の口に入る。それと同じように、味が増して、おいしくなり、私の口に入る」
「自然なことだな」
「そうね。自然に手を加えた人工的な自然。後者の自然は、当たり前という意味だけど」
「いや、それは自然は自然でも不自然の方だろ」
 食べるのを一度止め、コーヒーを口に含む。
「普通なんてのは、人工的なものなんだから、そこに人工的なという言葉をつけたら不自然だ」
「日本語の勉強じゃないんだから」夢美もカップに口をつける。ロシアンティ。もちろん、ジャムをカップの中に入れることもしていない。
「たとえばこれと同じよ。ロシアンティをこの国の人が思い浮かべると、紅茶にジャムを入れたものだけど、本当ならば皿に取ったジャムを舐め食べながら飲む紅茶のこと。少し、お酒が入るけどね、ジャムに」
「ああ、どっかでその知識を仕入れたわけか。最近紅茶にジャムを突っ込まないと思ったら」
「おいしいわよ、ジャムいれるのも」
「そう言いながらコーヒーにいれようとするなよ。紅茶とコーヒーはまったくの別物だ」
 ちゆりはカチャカチャと音を鳴しながら、カップとソーサーを夢美から届かない場所に移した。
「最近はオレンジのフレーバーのカフェラテとかあるし、合うかもよ?」
「ご自分でどうぞ」
「やってみてよ。おいしかったら私もやるから」
「自分でやれよ」そう言って、一気に飲み干す。
「いいじゃない、やってくれたって」
「よくない。不味かったら捨てることになるだろ」
「その時はもらってあげ、ううん、もらわない。あ、あれだし」
「あれってなんだよ、あれって」
「えっと、間接、キス」
 その言葉を聞いて、ちゆりは眉間に指を当てて揉みほぐしだす。
「女同士で間接キスがどうの言われてもだなぁ」
「……そうだけど」
「気になるなら気になるで、拭けばいいだけだし」
「……自分の講義受けてる子がね、聞いてきたの。夢美教授とちゆりさんって付き合ってるんですかって」
 スプーンでジャムを掬いながら夢美が言う。
「どうしてって聞いたら、いっつも一緒にいるし、ひとつのアイスを二人で食べてたって」
「あー、あれか」
 二人には思い当たる節があった。限定二十食のアイスを、仕方がなく分けあって食べたことがあったのだ。
「あんなん、いつもやってるしなぁ。大皿の刺身を取り分けるようなものだし」
「まあ、どちらも冷たいものだしね」
「そういう意味じゃないんだがな」
 ちゆりはそう言い返し、カリカリとパンの耳を囓る。そして、カップを持ち、コーヒーを飲もうとして舌打ちした。
「今飲んだばかりだった」
「よし、たまには私がいれてあげましょう。いつもちゆりにはお世話になってるから」
「ジャムいれるなよ」
「いれないわよ、もちろん」
「イチゴシロップいれる気だろ、なら」
 ちゆりがそう言うと、夢美の目が中を泳いだ。
「そんなわけないでしょ」
「いい、自分でいれよう」
「なら、私のもいれてきて」
「自分でいれろよ」
 ちゆりはそう言い、ゆっくりと立ち上がった。
「……ま、ぬるくていいならいれてきてやるか」
「ゆっくり待つわよ。パンでも食べながらね」
 ちゆりが部屋から出て行くのを眺めながら、夢美は残りの食パンにジャムを塗っていく。
「さぁてと。そろそろ仕事も進めないと」
 サクリと音をさせてパンを噛み締める。
 ふと、後ろ髪をなにかが撫ぜるのを感じて、ゆっくりと振り向いた。
 開いた窓から入った風が、カーテンを揺らしている。
 冬も、ゆるやかに去ろうとしたいた。
いつもとなんだか書き方が違う
まあ、森博嗣さんの小説を読みながら書いてたせいなんだけど
最近日常しか書いてない気がした
◆ilkT4kpmRM
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コメント



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4.100名前が無い程度の能力削除
ドナルドはね、教授とちゆりのお話がだぁい好きなんだ(゚)∀(゚)
5.100名前が無い程度の能力削除
こりゃ生徒に疑われてもしかたないな
8.100名前が無い程度の能力削除
なんともままならぬ世の不条理さ。
まあ同好の士が少ない学者職だと一緒につるむことが自然と多くなるでしょうな。
ましてや教授と助教授だし。
11.100名前が無い程度の能力削除
爽やかなお話でした。会話自体は他愛もなかったんですが全体の雰囲気がふんわりとしてていいですね。
擬音の使い方がいいアクセントになっていたと思います。
良いお話をありがとうございました。
12.80名前が無い程度の能力削除
>ちゆりはそう言い返し、カリカリとパンの耳を囓る。そして、カップを持ち、コーヒーを飲もうとして舌打ちした。

つれないこと言いつつ動揺してるんですね分かります
ちゆゆめご馳走様でした