Coolier - 新生・東方創想話

まだ

2010/01/26 16:50:32
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 魔理沙が私の膝の上で寝ている。


 少し崩した正座の上に、頭と両手をちょこんと乗っけて。
 ちょうど私の腿と腿の間に、顎を置くような形で。

「……むにゃう……」

 そして時折、こんな風に暢気な声を漏らしながら。

「……やれやれ」

 溜め息混じりに、しかし満更でもなくそう呟いて、私は魔理沙の頭を撫でる。
 魔理沙は実に気持ちよさそうな表情で、目下、夢の中をお散歩中。

 はてさて一体、どんな夢を見てるのかしら。
 この子のことだから、キノコ狩りとかの夢かな。

 それで珍しいキノコを見つけて、「見て見て! アリス!」とか、すごい笑顔ではしゃいじゃって。

「クスクス」

 その光景があまりにも鮮明に脳裏に浮かんだものだから、思わず声に出して笑ってしまった。
 まあ実際、何度もあったことだしね。今までに。 

 ……それにしても。

 私は再び、すやすやと眠る魔理沙に視線を落として、

「……かーわいい」

 魔理沙の寝顔は、普段のやんちゃっぷりからはかけ離れた、見るもの全てに安らぎを与えるような、そんな寝顔だった。
 無垢で、純真で、穢れを知らない。
 そんな少女の、可愛い可愛い寝顔。

 そこには何の不満もない。
 いや、あろうはずもない。

 ないのだが。

「……いくらなんでも、ちょっと気を許しすぎじゃない?」

 私は一人、苦笑する。
 傍から見れば、まるで仲の良い姉妹のようにしか見えないこの構図。
 お姉さんに膝枕してもらっている、甘えん坊の妹。
 
「……これでも私は、妖怪なのに」
 
 なんて。

「……今更、よね」

 そうだ。

 今更、私と魔理沙の間における種族の壁、なんてものを論じる余地は無い。

 人間とか妖怪とか、そんなことは、私たちがこうしてつながることには何ら妨げとはならないからだ。

 ただ。

「……つながることには、だけれど」

 ふと、一つの疑問が私の心に去来する。


 ―――いつまで、こうしていられるんだろう?


 こんなこと。
 考えたって、明瞭な答えなんかないのに。
 それでも時々、こうやって考えずにはいられなくなる。

 その度に、私は思う。


 もし。

 今が永遠だったなら。

 こんな想いに囚われることもないのにな、って。


 でも。

 現実は、須臾のように儚くて。
 目を閉じれば、泡沫のように消えていきそうで。

 まるで夢だったみたいに。
 遠い未来に、“そういえば、そんな頃もあったわね”なんて、取り繕うように回想して。


 ああ。
 まただ。

 時折私を苛む、この寂寥感。
 いつの間にか高まったかと思えば、いつの間にか日常に紛れて霧散していく。

 その繰り返し。

 ……だめだ。

 私は頭をぶんぶんと振り払うと、再び、すぐ下で眠る魔理沙を見下ろした。
 魔理沙は私の葛藤などどこ吹く風で、相変わらず気持ちよさそうに眠っている。

 ……そうだ。

 今、私は、こうして魔理沙と一緒にいる。
 いることが、できている。
 それができている今―――こんなことを考えるべきじゃない。

「魔理沙」

 私は小さく声を掛け、少しだけその頬に指先を這わす。

 ……熱い。

 寝ている子供は体温が高くなるものだが、魔理沙も例外ではなかったようだ。

「……ふふっ」

 自然と笑みが零れる。
 心に渦巻いていた厭な気持ちが、徐々に静まっていくのを感じる。

「……人の気も知らないで」

 すぅすぅと、無垢な子供――実際、まだまだ子供なのだけど――のように、寝息を立てている魔理沙。
 口が少しだけ開いていて、なんかこのままだと私のスカートに染みができそうな予感もするけど。
 まあ、それはこの際気にしないことにしよう。

 私はそっと手を伸ばし、きらきら輝く金髪を優しく梳いた。

「……むぅ」

 すると魔理沙の口元が綻んだ。
 気持ちよかったのかな。

 今度は手の位置を変え、魔理沙の背中をゆっくりとさする。
 魔理沙の身体は、まるで猫のように小さく丸まっている。
 
「……んむ」

 またも心地良さそうな声を漏らす魔理沙。
 背中をさすられるのも気持ちいいみたいだ。

「そうだ」

 ふと思いついた私は、悪戯混じりに、そのほっぺたを少しつっついてみる。
 すると、とても気持ちいい感触が、私の人差し指に伝わってきた。

「おお……」

 ぷにぷに。
 ぷにぷに。

 それがあんまり気持ちいいものだから、何度も何度もそうしていると、

「……ん」

 可愛い子猫ちゃんが目を覚ましてしまった。
 無垢な眼差しが私を見上げる。

「あ、ごめん。起こしちゃったわね」
「……アリス」
「ん?」
「……今、何時?」

 寝ぼけ眼で尋ねる魔理沙は、まだ夢見半分といった様子。
 ぽや~っとした感じがまた可愛らしい。

 私は部屋の時計に目をやり、

「あら。もう……四時だわ」

 もう。

 ……そうだ。

 もう―――。

 胸の奥に一瞬蘇る、あの寂寥感。
 
 何もしていなくても、こうして時間は確実に流れてゆく。
 そんなことを漠然と思った。

 私の言葉を受けて、膝の上の魔理沙が呟く。
 
「……そうか。……まだ、四時か」
「……まだ?」

 魔理沙の言葉に微妙な違和を覚えて、私は思わず聞き返していた。
 すると魔理沙は、にへらと笑って繰り返した。

「ああ。“まだ”、だぜ」
「…………」
 
 まだ。

 ……そうか。

 まだ―――。

「……そうね。……“まだ”、ね」
「……うん」

 魔理沙は、再び私の膝に顔を埋めると、たちまち夢の世界へと旅立ってしまった。
 私はもう、ほっぺたをつつくのはやめて、再び彼女の髪を撫で始めた。



 ―――“まだ”あなたとこうしていたいからね。



 

 西日が差し込む部屋の中、私たちはいつまでもそうしていた。
 まるで、そこだけ時間が止まったみたいに。

 



緩やかに過ぎゆくときの中で。


それでは、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
まりまりさ
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コメント



0.3210簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
マリアリ待ってました!
9.100名前が無い程度の能力削除
丁度くさくさしてたときにこのマリアリ、ありがたやありがたや
12.80名前が無い程度の能力削除
最初から最後まで、アリスがぽえみーでせんちめんたるで綺麗なお姉さま状態・・・
いや、ほのぼのして良い話だし、これが正道のマリアリなんだろうが・・・何か物足りない気がするのは何故だろう?
38.100名前が無い程度の能力削除
まだ、って良いですね。
いつかなくなってしまう、ではなく、まだ此処に在る……なんて。
素敵です
39.100名前が無い程度の能力削除
それほど長い話でも無いのに何であなたのこの手の話はこんなに読後感が神がかってるのか。
46.100名前が無い程度の能力削除
俺達のアリマリは「まだ」これからだ!
50.100名前が無い程度の能力削除
まぁ、なんだ。
この短い文章ににこれだけの愛を詰め込めるあなたが妬ましい。

マリアリ分補給しました!ありがとう
55.100名前が無い程度の能力削除
マリアリはいいものだ
57.100名前が無い程度の能力削除
貴女のマリアリはホントに愛が溢れているなぁ
58.100名前が無い程度の能力削除
やさしいきもちになったぜ
64.100名前が無い程度の能力削除
まったく、あなたの作品はなんでこう…いつもこう…、幸せになってしまうんだ、まったく、もっとやれ!
69.80ずわいがに削除
うーん、なんとも言えないふんわり空間
75.100名前が無い程度の能力削除
うむ
79.100非現実世界に棲む者削除
マリアリは永遠に不滅だ!