「という訳で、正義の味方になりたいのよ」
「という訳で、って、いきなりあたいに言われても……何にも説明してないわよ」
「あれ? そうだっけ?」
「さっき帰って来たばっかりじゃない」
「あぁ~……そうだっけ?」
「そうだっけ、じゃなくて、そうなの! で、何で正義の味方になりたいのよ」
「これこれ、これを読んだのよ」
「何これ?」
「仮面ライダー」
「えぇ、仮面ライダー?」
「そうそう、悪の組織に改造されて、復讐の為に悪の組織に立ち向かう妖獣バッタ人間のストーリー」
「あれね、風力発電とかで変身する人間でしょ」
「え、そうなの?」
「え、違うの?」
「まぁとにかく、私も正義の味方になりたいのよ。ほら、悪の組織に改造されたのとか私にそっくりじゃない?」
「おくうの場合、改造じゃなくて融合でしょ。それから、悪の組織じゃなくて、神様だし」
「いいのよ、細かい事は。筋を通せば道理が引っ込むっていうじゃない」
「通ってるの、スジ?」
「通ってる通ってる! それで、どうすれば正義の味方になれると思う?」
「そりゃ、その改造してきた悪の組織と戦うんでしょ。復讐の為に戦ってるんでしょ、バッタ男」
「ん~、悪の組織か~。幻想郷に悪い奴っているっけ?」
「鬼とか悪そうだよ」
「え~、鬼には勝てないよぅ」
「弱い正義の味方だなぁ。じゃぁさ、困ってる人を助ければいいじゃない」
「人間を?」
「そう、人間。人間って弱いじゃない。だからいっつも困ってるじゃん」
「ん~、でも私は戦いたいよ。戦って戦って、正義の意味を問い正したい!」
「いきなり!? いったい誰に問い正すのさ!」
「え~っと……自分?」
「正義の味方として、これほど頼りない姿は無いと思うわ」
「ヒーローだって悩むのよ。自分が行っているのは救済か殺戮か」
「えらく深い悩みね。復讐のクセに」
「そこは、視聴者の皆様にただの暴力はいけませんよ、という投げかけだよ」
「視聴者って何?」
「え、誰も見てないの?」
「いや、助けられた人は見てるんじゃない」
「それそれ、お茶の間の助けられた人」
「お茶の間じゃないと思うけどな~」
「いいのよ、どこでも。とにかく、私は正義の味方になりたい」
「うん、それは分かった。で、どうするの?」
「まずは形から入ろうよ」
「形?」
「そう、小説家といえば着物、とか、料理人といえばエプロン、とか、お燐と言えばゴスロリみたいな」
「これゴスロリじゃないと思うんだけどなぁ」
「いいのよ、何でも。とりあえず、形から」
「仮面ライダーよね」
「うん」
「変身するの?」
「そうそう!」
「どうやって?」
「……べ、ベルトで!」
「おくう持ってないじゃん、ベルト」
「あぁ、え~っと、ほら、アマゾンはギギの腕輪だっけ?」
「ガガの腕輪もあったわよね」
「腕輪でも変身できるよ!」
「いや、それロックバスターだから。腕輪じゃないよ」
「そ、そっか。あ、あれあれ!仮面ライダースーパー1!」
「赤心少林拳だったっけ」
「あの人って、確か自分で変身できなくて、修行して変身できる様になったのよ!」
「へ~、それは凄い」
「だから、私も修行したら変身できる様になる!」
「改造されてないのに?」
「でも、融合したよ!」
「ベルトは?」
「あぅ……でもでも、変身したいのよ。仮面ライダーになりたい!」
「正義の味方になりたいのか、仮面ライダーになりたいのか、どっちよ?」
「……仮面ライダー」
「……ライダーなんだ……」
「ベルト欲しいよぅ」
「あぁ、分かった。こういう時に良い店があるよ。香霖堂っていうんだけど、外の世界の道具が置いてあるから、玩具もあるかも」
「本当?」
「あたいに任せといてよ」
「うん!」
~☆~
「わ~ぃ、変身ベルトだ~♪」
「本当に置いてあるとは、あたいもびっくりだ」
「しかも安かったね。私の少ないお小遣いで買えるとは……よいしょっと、じゃ~ん、かっこいい?」
「かっこいいかっこいい。似合うね、おくう」
「えへへ~、正義の味方は形から入るのよ」
「ところで、それは誰のベルト?」
「仮面ライダーブラック」
「てつお~」
「変身ポーズが一番かっこいいよね! こう拳をぐぐぐぐぐぐ~って握りこんで、ばっ、っときて、ぐり~んとして、ばっ!」
「覚えてるんだ、変身ポーズ」
「次はゼクロスかクウガかな~。あ、でもライダーマンも好きだよ」
「ヘルメット被るだけじゃん」
「そこがいいのよ」
「じゃ、タックルとかは?」
「ダメダメ、やっぱり男らしく変身しないと」
「ごめん、基準がさっぱり分からない」
「あ、でも、仮面ノリダーも許しちゃうおくうさんですよ?」
「V2の最終回で、変身ベルトをキャッチした人が次のライダーになると思ってたんだけどね」
「うん、続かなくってすっごく落ち込んだ子供時代……」
「いや、子供時代って……」
「冗談だけどね」
「知ってる。っていうか、おくうも冗談言えるんだね」
「ふっふっふ~。変身ベルトを手に入れた私は色々レベルアップしたのだよ」
「ふ~ん。それで、形はそれでいいの?」
「う~ん、やっぱりこう、キラキラ~って変身するのは無理かな」
「セーラームーンみたく?」
「そうそう。あ、誰が好きだった?」
「あたいはちびうさかな。ルナPボールがどこにいったのか、気になるんだけど」
「あ~、ちびちびか~」
「ちびうさだってば」
「私はやっぱりサターンね。土萌ほたる」
「サターンってスーパーサイヤ人的な位置づけじゃない」
「確か、世界が滅びるんだよね、サターンが目覚めると」
「無印で滅んでるのにね。って、おくうは正義の味方でしょ? 滅ぼしてどうするのよ」
「セーラームンの頃は滅ぼしたかった」
「どんな心境の変化だ……じゃぁ、プリキュアは?」
「初代とスプラッシュ☆スターのみ認める」
「じゃぁ、デジモンは?」
「初代のみ認める」
「じゃぁ、ガンダムは?」
「0083と08小隊しか見てないよぅ」
「変な見方してるわね。じゃ、戦隊物は?」
「ガオレンジャーは面白かったけど……あとは覚えてないや」
「まぁ、どうでもいいわね。で、何の話だっけ……あ、変身か」
「変神! サンダルフォン!!!」
「それデモンベイーン!」
「案外、守備範囲ひろいね」
「おくうの攻撃範囲が広いからよ、まったく」
「やっぱり蒸着変身は無理かな~」
「蒸着シリーズなのか……幻想郷の科学力じゃ無理よ。いくらおくうのお陰で核融合できると言っても、ガンダムは作れないわ」
「ガオガイガーも無理?」
「無理無理。せいぜいタチコマ辺りが限度じゃない?」
「うぅ~、でも頑張ったらいつかは作れるよね」
「そりゃ河童の科学力に期待するしかないわね~」
「じゃ、変身はちょっと我慢して、先に正義の味方になっておくよ」
「それはそれでいいけど……人間を助けるの?」
「うん!」
「どこで?」
「う~ん……人間の里?」
「誰も困ってないよ。人間って案外平和に暮らしてる」
「え~! 幻想郷を狙う悪い奴っていないの?」
「いたら巫女に退治されてるわ」
「うぅ~、幻想郷には正義の味方も悪の手先もいないのか~」
「あ、いた。いたよ正義の味方」
「え、誰? 私?」
「おくうじゃない。妹紅よ妹紅。藤原妹紅」
「誰?」
「迷いの竹林にいる健康マニアの焼き鳥屋」
「誰?」
「ほら、炎まとって妖怪を薙ぎ倒しまくってるあいつ!」
「あ、あぁあぁあぁ、分かったよ! そいつ倒せばいいんだね!」
「ちがーう! どうして!?」
「焼き鳥は鳥類の敵!」
「違う違う! それじゃおくうが悪の手先だよ!」
「でも、悪にもまた正義があるのよ!」
「かっこいい事いってるけど、ダメだから! その台詞事態、悪の幹部あたりが言う台詞だから!」
「もう、どうすればいいのよ!」
「どうもしないでいいのよ。話を聞きに行けばいいんじゃない?」
「なるほど。じゃ、はい、背中に乗って?」
「え? うん、よいしょっと。はい乗ったよ」
「たっきゅうど~!」
「にゃお~ん! って、私はヤマト王子の額のネコか!?」
~☆~
「あいたたたた……まさか問答無用で退治されるとは思わなかったよぅ……」
「そりゃ、火焔猫と地獄鴉が肩車しながら走ってきたら、誰だって迎撃すると思うわ」
「東方に迎撃の用意あり、だね」
「覚悟は完了してなかったわよ」
「う~ん、結局、正義の味方について聞けなかったね」
「問答無用だったもんね。はい、代わりの幻想郷縁起」
「英雄英雄~。あった、藤原妹紅」
「ふむふむ……忍者の末裔か~」
「忍者も正義の味方っぽいよね」
「あ~、仮面の忍者赤影とか? そういえば忍者も仮面よね」
「やっぱり仮面は正義の味方の印なんだよ!」
「じゃぁ、はい、これ」
「何これ?」
「メガネ」
「私、目は悪くないよ?」
「変装の基本じゃない、メガネって」
「さすがお燐! 頭いいね! 愛してる!」
「あたいも愛してる。だから、抱きつかないで」
「うん、分かった。さっそく変身するよ! でゅわ!」
「やると思った……あ、でも案外と似合ってるわ」
「強そう!?」
「女教師っぽい」
「女教師!? ほのかにえっちな響きだよぅ」
「無駄に胸がでかいからじゃない?」
「そんなに大きい?」
「あたいからしたら、羨ましいぐらいに」
「真ん中の気持ち悪い赤いのだったらあげるよ」
「それはいらない……まぁ、雰囲気は変わるし、いけるんじゃない?」
「おぉ! これで人を助ければいいのね」
「マントもそれっぽいしね。はいはい、じゃ、あたいはそろそろ寝るよ」
「え~、まってまって、まだ名乗りが決まってないよぅ」
「名乗り?」
「ほら、なになに参上! ってあるじゃない」
「仮面ライダーにそんなのあったっけ?」
「ストロンガー」
「あの電気人間め……どんなだっけ?」
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、悪を倒せと俺を呼ぶ、仮面ライダーストロンガー、お呼びとあらば即参上! みたいな」
「なんか違ってない?」
「あんまり覚えてないよ」
「だろうね」
「私もそんなのが欲しい」
「それでいいじゃない」
「パクリはよく無い!」
「……そうよね、模倣ネタやパロディ、メタなネタは多用するとダメよね……」
「どうしたのお燐?」
「なんでもない。じゃ、参考にしたらいいじゃない」
「う~ん、なんか考えて」
「え~と~『やいやいやい、俺を誰だと思ってやがる! 地霊殿は核融合を司る、神の力を手に入れた女! その名をぅ、れ~ぃぅじ~~~~~~、うつほ!』とか」
「ダサい」
「バッサリ切られた!?」
「そんな歌舞伎っぽいの嫌」
「以外にわがままだね、おくう」
「こだわる女って呼んで」
「強張る女」
「ちょっと違うん♪」
「ちょっぷ☆ もう、おくうも考えてよ」
「え~っとね~『そこまでよ! あなたがしてきた悪行三昧はすべてお見通し! この私、セーラー服美少女戦士セーラーシャドームーンが、核融合しながらお子荻よ!』」
「うん、おくうも酷い。なによセーラーシャドームーンって。あのシルバーボディが泣いちゃうわ。あとお子荻よ、って何よ。策士は策に窒息するわ!」
「やっぱり守備範囲ひろいね」
「攻撃範囲が広すぎるんだってヴぁ!」
「あぁ、そういえば昔、F91のヴェスパーを発音できなくて困ったのよ」
「気持ちは分かる。って、さっき0083と08しか見てないって言ったじゃん!」
「コミックボンボンは香霖堂で読んでた!」
「香霖堂に通ってたんかぃ!? そういえば、漫画とかってどこから持ってきたのよ」
「紅魔館」
「ちゃんと返しなさいよ。昔、返した物は返さない魔法使いがいたそうなので、取立ては厳しいそうよ、あの図書館」
「へ~」
「へ~、って……まぁ、いいわ。で、名乗りはどうするの?」
「う~ん……単純に『仮面ライダー空、さんっじょう!』で、いいかな」
「ポーズはそれなんだ」
「うん。かっこいい?」
「かっこいいかっこいい」
「じゃ、練習するからお燐は悪の手先やって。イカ男あたりで」
「イカ男!? せめて地獄大使か暗闇大使にしてよ」
「じゃぁ、十面鬼」
「いやよ、あんなアシュラマン」
「アシュラバスターをバカにしてるのか!?」
「え、キレるポイントそっちなの?」
「じゃぁ、チョコボール男でいいよ、もう」
「それノリダーだから」
「あれ、そうだっけ」
「そうよ、まったく」
「じゃ、もう、ネコ女でいいや。はい、にゃー」
「にゃー。ぐへへへへ、幼稚園バスは我ら地霊殿組がジャックした。子供達を改造して悪の手先にしてやるわ、ぐへへへへへ」
「そこまでよ!」
「む! なにやつ!?」
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、悪を倒せと……あ、口笛忘れた」
「パクリじゃん! ていうか、口笛とかどうでもいいし!」
「もう1回。もう一回やって」
「もう……ぐへへへへ、改造しちゃうぞ、ぐへへへへへ」
「そこまでしょ!」
「噛んだー! 噛んじゃったな~、もぅ!」
「あはは、ごめんごめん」
「ちゃんとしてよ。ぐへへへへ、ここか、ここがええのんか、さとり様~、ぐへへへへ」