Coolier - 新生・東方創想話

東方御伽噺~シンデレラ~

2010/01/22 22:02:03
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あるところに、とても美しい娘が住んでおりました。

娘は母親を亡くし、父親の再婚相手だった継母と、継母の連れ子たちと共に暮らしていました。

ところが継母とその連れ子の娘たちはとてもいじわるな性格で、いつも娘をいじめていました。

娘は家の雑用をみんな押し付けられ、めしつかいのような扱いをうけていました。

いつも灰にまみれて暮らしていた娘は、いつしかシンデレラ(灰かぶり)とよばれていました。







                     * * *







朝のひざしが小さな窓から差し込み、天井裏のせまい部屋を明るく照らし出しました。

また朝がやってきたのです。

この倉庫のようにせまい小部屋は、シンデレラ(配役:博麗 霊夢)に与えられた部屋でした。

「あー、もう朝ぁ? だるっ」

いまにもこわれてしまいそうなベッドから身を起こして、シンデレラは窓を開け放ちました。

朝のすんだ空気と共に、すがすがしい風が天井裏の小部屋を満たしてゆきます。

「寒い」

―ばたんっ

すぐ閉めました。

シンデレラは寝巻きからそまつな普段着に着替えると、歯の欠けた櫛で髪を整えます。

やがて、下の部屋からシンデレラをよぶ声がひびきました。

「シンデレラ~! 朝ごはんはまだできていないのかい!?」

この声は継母(配役:風見 幽香)の声です。

すぐに答えないとあとがひどいので、シンデレラはあわてて階段を下りてゆきます。

「ったく、朝くらい抜いたって死にゃしないっつの」

「ぐだぐだ言ってないでさっさとおやり! 本当にグズな娘ね」

「へいへい」

食事をつくるのも、掃除をするのも、洗濯をするのも、みんなシンデレラのしごとです。

シンデレラはこの家で、まるでめしつかいのように扱われているのでした。

シンデレラが食事の用意を始めると、二人の姉たちも起き出してきました。

「シンデレラ? 食事がおわったら私の部屋を掃除しておいてね。

 手を抜いたら承知しないわよ」

「手ェ抜かれたくなかったら掃除くらい自分でやんなさいよ」

いじわるな上の姉(配役:十六夜 咲夜)が、あたりまえのようにしごとを命じてきます。

そんなことはいつものことで、シンデレラはもう慣れっこでした。

食事のしたくがおわりましたが、そこにはシンデレラの分の料理はありません。

料理はぜんぶ継母と姉たちのものなのです。

シンデレラにはまんぞくな食事も与えられていないのでした。

いじわるな下の姉(配役:東風谷 早苗)は、ほんのすこしの食事をシンデレラに与えました。

「シンデレラ。今日のごはんはお茶碗半分の麦飯ですよ。

 さらに、千枚漬けを三枚も付けてあげます。私ってなんてやさしいんでしょう。

 ねえ、シンデレラ?」

「あまりのありがたさに涙ちょちょ切れそうですわお義姉様」

シンデレラはわずかばかりの食事を渡されると、食堂からたたき出されてしまいました。

食堂で食事をとることすら、シンデレラにはゆるされていないのです。

シンデレラはほこりっぽい屋根裏部屋で、一人ひっそりと食事をとるのでした。

毎日毎日、シンデレラはそんないじわるをされながら―――

「ぎゃああああ!! 辛ッ!! 辛いッ!!! 水ーーー!!」

「じゃ、蛇口ががっちり固定されてるッ!!!」

「シンデレラぁぁぁあああ!!!」

いじわるをされながらも、たくましく生きておりました。







                     * * *







そんなある日のこと、ともだちと遊びにでかけていた上の姉が、あわてて帰ってきました。

「ちょっと、お母様!? これを見てちょうだい!!」

「なによ、騒々しいわね」

上の姉がもっていたのは、お城からの招待状でした。

継母はそれを読んでおどろきました。

その招待状には、こう書かれていました。

『前略

 明日、我が城にて舞踏会を開催する。

 我が息子、王子の結婚相手を探すための舞踏会であるので、精々必死こいてアピールするがよい。

 なお、招待状を持っていない者でも参加は可能じゃ。

 こぞって集まるがよいわ、欲にまみれた愚民どもめ!

 かしこ』

なんと、王子様の結婚相手をさがす舞踏会をひらくというのです。

継母と姉たちはよろこびました。

姉たちは性格こそいじわるでしたが、たいへん美しい娘たちだったからです。

もし姉たちが王子様の結婚相手に選ばれれば、お城の財産は使い放題。

一生ぜいたくに暮らせるのです。

継母は下の娘も呼び付け、二人の娘たちに命じました。

「失敗は許されないわ。確実に王子の心をゲットするのよ! 返事!!」

「「イエス、マム!!」」

そばで話を聞いていたシンデレラは、目をかがやかせてたずねました。

シンデレラは舞踏会はおろか、お城さえ見たことがなかったのです。

ましてや王子様に逢えるなど、夢のまた夢のことでした。

「お城の舞踏会!? おいしいもの食べられる!?」

「そりゃお城の舞踏会だし、豪勢な料理が振舞われるでしょうねぇ」

「行きたい! 私も舞踏会に行きたい! 王子? なにそれおいしいの?」

シンデレラは舞踏会に行きたがりましたが、継母はそれをゆるしませんでした。

「駄目よ。行かせられるわけないでしょう。

 あんたみたいな貧相な娘を連れて行ったら、王子様だってドン引きするわ。

 第一、あんたドレスの一着も持っていないじゃない」

「じゃあ踊んない! 食べるだけ!」

「そういう問題じゃないっつの。そもそも、そんな粗末な格好じゃ城にも入れてもらえないわよ」

「胸の小さい上の義姉さん、ドレス貸して! きついのは我慢するから!」

「月までぶっとばすぞコラぁ!!」

「じゃあ最近ウェスト太めな下の姉さん、ベルトでごまかすからドレス貸して!」

「誰のせいで今日一日明太子みたいな唇になったと思ってるんですか?

 寝言は寝てから言ってくださいね、シンデレラ? ぶつよ?」

結局、シンデレラは舞踏会に出ることをみとめられませんでした。

それどころか、明日は一日中、せまい屋根裏部屋で過ごすことを命じられてしまいました。

「ところで舞踏会ってなにさ? 天下一を決めるやつ?」

「そりゃ武道会」







                     * * *







そして次の日。

今日はお城で舞踏会がひらかれる日です。

継母と二人の姉は、せいいっぱいのおめかしをして、朝早くでかけてしまいました。

シンデレラはひとり、屋根裏部屋にとりのこされてしまうのでした。

「ちっ、鍵掛けていきやがったわね。部屋すら出られないじゃない!」

かわいそうなシンデレラは、ちいさな窓からお城がある方向をながめることしかできません。

それでも立ち並ぶ家々がじゃまをして、お城のすがたすらみえないのでした。

シンデレラはきらびやかなお城や、すてきな王子様を思い浮かべながら時間をつぶしていました。

「はぁ。豪華な料理、食べたかったなぁ。

 つか、部屋に閉じ込められてたらごはんも食べられないじゃない!!

 あいつら帰ってきたらホームアローンのごとくリベンジしてやるわ!!」

「たのもう」

「わっ!? な、なによあんた? どこから入ってきたの!?

 不法侵入罪で訴えて慰謝料しこたま請求するわよ」

とつぜん部屋の中から声がして、シンデレラはおどろきました。

いつのまにか、部屋の中にみたこともない人が立っていたのです。

「申し遅れた。私は白玉協会から派遣された魔法使いだ。名刺はいるか?」

「……いらない」

なんと、その人はふしぎな魔法使いだったのです。

魔法使い(配役:魂魄 妖夢)はシンデレラに言いました。

「突然だが、お前の望みを魔法で叶えてやる。なんでも望みを言え。ただし常識の範囲内でな」

なんという幸運でしょう。シンデレラはよろこんでとびつき―――

「……怪しいやつね。信用できないわ。私を助けるメリットはなに?」

「疑り深いやつだな。大体の娘は喜んで飛びつくぞ」

「この御時世に100%の善意で人助けをする人間がいるかっての。

 ギブアンドテイクってのが一番信用できるやりとりでしょ?」

「もっともだ。お察しのとおり、私には私の目的がある。

 実は我々魔法使いの人助けはポイント制でな。

 30人の不幸な人間を助けると懸賞のBコースに応募できるのだ」

「へぇ。Bコースってなにがもらえるの?」

「松坂牛2kg。この冊子に写真が出てるぞ」

「うわっ、これすごい霜降りじゃない!? 当たったらちょっと分けてよね」

「当たったらな」

なんという幸運でしょう。シンデレラはよろこんでとびつきました。

「ありがとう、魔法使いさん! 私、お城の舞踏会に出たいわ!」

「行けばいいだろう」

「ドレスがないと門前払いらしいのよ」

「なるほど。舞踏会に出られるように準備を整えたいというわけだな」

「そそ」

シンデレラが舞踏会に出られるようにおねがいすると、魔法使いはうなづきました。

「いいだろう。では魔法をかけるから、そこでじっとしていろ」

魔法使いはシンデレラを部屋のまんなかに立たせると、魔法のステッキをとりだしました。

「ってちょっと待てぃ。それどう見てもただに白楼剣じゃ―――」

「違う。魔法の白楼剣だ」

魔法使いは魔法のステッキを抜き放つと、シンデレラへその切っ先を向けました。

「……一応聞くけど、それでなにをするつもり?」

「斬る」

「死ぬわッ!!」

「言っただろう? これは魔法の白楼剣なのだ。

 これで斬られたものは、瞬く間に見違えるような姿になる……はず。(ボソッ)」

「さぞ無残な姿になることでしょうよ」

「その目は信用していないな? いいだろう、証明してやる」

信じきれていないようすのシンデレラに、魔法使いはうなづきました。

魔法使いは隅に置かれていたイスを部屋のまんなかに持ってくると、魔法のステッキを振るいました。

「断命剣『瞑想斬』!!」

―ズバァン!!

すると、なんということでしょう!

魔法をかけられたイスは、綺麗な切断面を晒して真っ二つに

「ってコラー!! 斬れてる斬れてる!!」

「……その目は信用していないな? いいだろう、証明してやる」

「さらっとなかったことにしてTake2を始めるんじゃない!!」

目の前で魔法を見せられたシンデレラは、すっかり信用しきって魔法使いに身をゆだねました。

「誰がゆだねるかッ!! 確定死ぬわ!!」

「覚悟を決めろ、シンデレラ。安心しろ、痛みはない」

「余計怖いわッ!!」

魔法使いは魔法のことばをとなえながら、魔法のステッキをシンデレラに向けてふるいました。

「断迷剣『迷津慈航斬』!!」

―ズバァァァンッ!!

すると、なんということでしょう!

魔法をかけられたシンデレラのそまつな服は、きれいなドレスへと生まれ変わりました。

きらびやかな純白のドレスに、すきとおったガラスのくつ。

シンデレラは見違えるような美しい娘へと変身していたのです。

「おお、すごい!」

「それ私のセリフよ。なんで魔法使いのあんたのほうが驚いてんの。

 それにしても、本当に綺麗なドレスね」

部屋の姿見はくもりきっていましたが、それでもシンデレラの姿は美しく映りました。

着たこともないきれいなドレスを身にまとって、シンデレラはとてもよろこびました。

「本当に綺麗。うふふっ、売ったらいくらになるかしら?」

「……こほん。ほかに、ネズミとかぼちゃを用意できるか? 馬車も作ってやろう」

「至れり尽くせりね」

「肉のためだからな」

「かぼちゃは……、たしかハロウィンのときに使った飾りの残骸が転がってたはずね。

 ネズミは……、いたいた!」

『な、なにをする!? こら、尻尾を掴むな。いきなり失敬なやつだな君は!』

「なにか言ってるぞ」

「さあ? ネズミ語はわかんないわ。んじゃよろしく」

「よし、魔法をかけるぞ」

『な、なにをす……、ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!』

―ズバァァァンッ!!







                     * * *







かぼちゃの馬車にのって、シンデレラはお城の前までたどりつきました。

お城の兵士はうやうやしく頭を下げて、シンデレラを迎え入れました。

今のシンデレラは、家でのそまつな格好とはちがう、どこかよその国のお姫さまのような姿です。

お城のだれもがシンデレラの美しさにみとれていました。

「いたたた、この靴固くて痛いわ。毛糸の靴下履いてくればよかった。分厚いやつ」

「ガラスなんだから透き通って丸見えになるぞ。馬鹿なこと言ってないで早く行け。

 私の役目はここまでだ」

「ありがとねー。お肉のこと、忘れずによろしく!」

「ああ、そうだ。大事なことを伝え忘れていた」

魔法使いとわかれるとき、魔法使いはシンデレラに大切なことをつげました。

「魔法は午前0時の鐘が鳴り終わると同時に切れる。忘れるな」

「ええっ!? それじゃこのドレス売れないじゃない!?」

「売るなよ人から貰ったものを……」

「いや、午前0時までに城から戻って売却すれば……。(ぶつぶつ)」

魔法使いの忠告を心にきざみつけ、シンデレラはお城へと入りました。

お城の中は優雅な音楽で満たされていて、だれもが美しく着飾ってダンスをおどっていました。

きらびやかなお城。

豪勢な料理の数々。

ここはまさにシンデレラが想像していたとおりの場所でした。

「お、お腹空いた。そういえば朝からなにも食べてないんだったわ。

 とりあえずお腹になにか入れたい……」

優雅な音楽にさそわれるように、シンデレラは大広間へと歩いてゆきました。







                     * * *







「どうです、王子? お目当ての女性は見つかりました?」

そばに従っていた王子の従者(配役:鈴仙 優曇華院・イナバ)は王子にたずねました。

王子(配役:霧雨 魔理沙)はダンスをおどる美しい娘たちを、退屈そうにながめていました。

「ん~、駄目だな。揃って美人なことは美人なんだがな」

「美人なことの何が不満なんです?」

これだけ美しい娘たちがいながら退屈そうな王子のようすに、従者は首をかしげました。

「わかってないな、そばんげ」

「うどんげです」

「いいか。彼女にするなら美人なだけでもいいだろう。

 だがな、嫁にするなら生活力のある娘を選ばなければ駄目だ」

「お妃様になるなら生活力はいらないと思いますけど」

「たとえば、あそこにいる娘だ」

王子の視線の先には、ほかの娘たちがかすむほどに美しい娘がおりました。

その娘はダンスには目もくれず、黙々と料理を平らげて周っていました。

「なんだかかわいそうな娘ですね。よほどひもじい思いをしていたのではないでしょうか」

「見ろ。料理を折り詰めにして持ち帰る気だぞ。

 大方、この舞踏会にはタダ飯を食らいに来ただけなんだろう」

「普通、こういう場ではお持ち帰り厳禁なんですけどね。あれが王子の理想ですか?」

「あの歳から主婦根性が座っているんだ。将来有望だぞ?

 おまけに美人だ。文句のつけようがない」

「はぁ。まあ王子のお好きになさればよいかと思います」

「そうするぜ。ちょっくらナンパしてくる」

王子はほかの娘たちには目もくれず、まっすぐにその娘のもとへ向かいました。

その娘とは、もちろんシンデレラです。

シンデレラは王子に気がつくと、料理を運ぶ手を止めました。

王子はまるでお姫さまをむかえるようにひざをつくと、シンデレラの手をとりました。

「そこの娘、私と踊れ。そろそろ腹も膨れただろう?」

まさか、あこがれの王子様から声をかけてもらえるなんて!

シンデレラは感激のあまり言葉をうしない、ただ首を縦に振ることしかできませんでした。

「ん~、いいわよ別に。ちょうどいい腹ごなしになりそうだし」

二人は広間の中央で、時間がたつことも忘れておどりつづけました。

夢のようなひとときはあっというまにすぎて、シンデレラの耳に鐘の音が鳴り響きました。

午前0時をつげる鐘です。

シンデレラは魔法使いのことばを思い出しました。

『松坂牛2kg』

そっちじゃない。

『魔法は午前0時の鐘が鳴り終わると同時に切れる』

そう、そっち。

シンデレラにかけられた魔法は、この鐘が鳴り終わると同時にとけてしまうのです。

さあたいへん。

このままでは王子の目の前で、もとのそまつな格好にもどってしまいます。

もしも正体がシンデレラだとばれてしまったら、せっかく魔法できれいになったのが台無しです。

(折り詰めにした料理の代金を請求されるかもしれない!)

シンデレラはあわてて王子からはなれると、お城から逃げるようにかけだしました。

もちろん、折り詰めにした料理をしっかり持って。

そうして王子が止める間もなく、シンデレラはあっという間にお城から去ってゆきました。

あまりにもあわてていたせいで脱げてしまったのでしょう。

シンデレラがはいていたガラスのくつが片方、階段に転がっていました。

王子はガラスのくつをひろいあげ、ひどく残念そうにうなだれました。

「ちぃ、逃がしたか」

「王子? 急に走り出されたので、いったいどうされたのかと」

王子が急に走り出したのをみて、心配になった従者が追いかけてきたのです。

その従者に、王子は命じました。

「おい、そばんげ」

「うどんげです」

「私は決めたぞ。あの娘を嫁にする。

 この靴にぴったり合う娘を国中から探し出せ」

「はぁ。しかし、あの娘の体格の割にはずいぶん小さな靴ですね」

「これなら違う娘が引っかかることもそうそうあるまい」

「だといいんですけど……」

「職人にレプリカを作らせろ。草の根分けてでも探し出し、必ず生きたまま私のもとへ連れて来るのだ!」

「王子、それでは悪の総帥ですって」

その日から、町中をお城の兵士がたくさん出歩き、ガラスのくつに合う娘を探しはじめたのです。







                     * * *







お城の舞踏会から、もう数日が経ちました。

シンデレラはもうすっかり、もとの生活にもどっていました。

「お城から持ち帰ったお料理も食べきっちゃったし。

 やっぱり早めに帰ってドレスを売り払えばよかったわ」

お城でのひとときは夢のような時間でしたが、それを思うとよけいに日々の生活が辛くなるのでした。

継母と姉たちにいじめられ、わずかな食事で空腹をがまんする日々。

シンデレラは窓からお城のある方向をながめ、あこがれの王子様へと思いをはせるのでした。

「はぁ。お城のお料理、また食べたいなぁ……」

「たのもう」

「わぁ!?」

部屋の中からとつぜん声がしました。

だれかと思えば、あの舞踏会の夜にお世話になった魔法使いです。

「ああ、あんたか。お肉は?」

「あと27人助けなければならん。まだまだ先の話だ」

「あそ」

「ところで、成果のほどはどうだったかな? 王子の心は射止められたか?」

魔法使いはシンデレラのその後が気になり、ようすを見に来てくれたのでした。

「別に。王子とか興味なかったし。お料理は十分楽しんだけど」

「そうなのか? 王子と結婚すれば城の料理だって食べ放題だっただろうに」

「!?」

「……気づかなかったのか?」

「あまりに空腹で、目先のことしか考えられなかったのよ。

 ちぃ、拉致脅迫してでも婚約するべきだったか……!!」

シンデレラはひどく残念に思っていたようすでした。

お城で王子と夢のようなひとときを過ごせましたが、それは一夜かぎりの夢にすぎなかったのです。

「今更後悔したところで後の祭りだ。それより未来に目を向けるべきだぞ」

「未来もなにもお先真っ暗だっつーの。このままこの家でいじめられ続けるに決まってるわ。

 まあ、私もただ黙ってやられっぱなしになってるわけじゃないけどね。クククッ」

「思ったより前向きなようでなによりだ。

 それより、王子が結婚相手を探しているのは知っているか?」

「あー? 例の舞踏会の話でしょ? もう終わったじゃない」

「いやいや、その後の話。

 舞踏会で一緒に踊った娘をいたく気に入ったらしくてな。

 その娘が落とした靴にぴったり合う娘を、国の総力を挙げて探しているということだ」

シンデレラはそのことを知りませんでした。

そもそも、満足に外も歩かせてもらえないのです。

「金持ちの道楽ねー。そんなもんに金使うくらいなら私に寄越せよ。寄越せよ!」

「それで玉の輿を狙ってみたらどうかと言っているんだ。もしかしたらお前のことかもしれないぞ」

「……そういえば私、舞踏会の帰りに靴落としたかも」

「お前な、普通靴をなくしたら覚えているだろう?」

「折り詰めにした料理が無事だったから気にしなかったのよ。靴自体もどうせ貰いもんだったし」

ちょうどその頃、シンデレラの家をお城の従者が訪ねてきました。

そう、ガラスのくつの持ち主を探している、王子の遣いたちです。

扉のノックに応じて、上の姉が玄関扉を開けました。

「失礼。お宅に若い娘さんはいらっしゃいます?」

「新聞はもう取ってます」

―バタン

すぐ閉めました。

「ちょっと? 新聞の勧誘じゃないですよ」

「うちテレビないですから」

「N○Kの集金でもないです」

「じゃあ宗教の勧誘!? しつっこいわねぇ、お城の人呼ぶわよ!?」

「そのお城の人です」

……。

―がちゃり

「ほほほ、失礼しました」

上の姉は愛想笑いを浮かべながら、王子の遣いたちをむかえいれました。

嘘じゃないかと上の姉はうたがいましたが、服に刺繍された紋章はたしかに王家のものでした。

上の姉は継母と下の姉を呼び、客間で王子の遣いたちをもてなしました。

「それで、本日はどのような御用向きでしょうか?」

「この靴に合う娘を探しているのです。まずそちらの娘さんから、試してもらってもいいですか?」

そのくつは、シンデレラがのこしていったガラスのくつを木で再現した、レプリカのくつでした。

まず下の姉がためしてみましたが、そのくつはちいさくて、とてもはいりませんでした。

「う~ん、私には合わないみたいですね」

「そうですか。残念です。

 この靴に合う娘を結婚相手にと、王子が仰っておられるのですが」

それを聞いて、継母たちは目の色をかえました。

「「それをはやく言わんかいッ!!」」

「は、はぁ。すみません」

「作戦タイム!」

継母たちは顔をよせあって、ひそひそと話しはじめました。

「どうしましょう、お母様。そういう話だったら私、もっと頑張ってみたんですけど」

「過ぎたことを嘆いてもしょうがないわ。大丈夫、ウチにはもう一人娘がいるんだから」

「でもお母様。私の足のサイズも、妹とほとんど同じですわ」

「お姉様、お母様。私に名案があります」

「よし、言ってみなさい」



「お姉様のつま先を切り落としてしまいましょう」



「ちょおま」

「グッドアイデア……!!」

「ねぇよッ! グッドアイデアじゃねぇよッ!!」

「そうと決まれば、私、ナイフを持ってきますね」

「それグリム版のシンデレラでしょ!? このお話はペロー版じゃなかったの!?」

そうしてさわいでいるうちに、さわぎを聞きつけたシンデレラが客間におりてきました。

「やかましいわッ! こちとら空腹で機嫌が悪いのよ!」

あらわれたシンデレラに気づいた従者が、さっそくシンデレラにくつを差し出しました。

「そちらにもいましたか。そこの娘さん、ちょっとこの靴を履けるか試してみてください」

シンデレラはすぐに思い当たりました。

きっと彼らが魔法使いの言っていた、お城からの遣いなのです。

差し出されたくつも、ガラスでこそありませんでしたが、見覚えのあるデザインのくつでした。

まちがいありません。彼らはシンデレラを探していたのです。

「まずいですよ、お姉様、お母様。もしシンデレラがあの靴にぴったりだったら」

「あら、好都合じゃない? どうせ私には合わない靴だろうし」

「シンデレラが王子と結婚すれば、義理とはいえ私達も王族の親戚になるわけでしょう?」

「そのシンデレラとずっと不仲だったんですよ? 一体どんなリベンジが待っているか……」

「そ、それはまずいわ!!」

そうこうしている間にも、シンデレラのつま先はくつにはいってしまっていました。

継母と姉たちがあわててシンデレラを止めようとしましたが、もう間に合いません。

シンデレラの足は、ガラスのくつのレプリカにぴったりと



―みしっ



「……あら?」

ぴったりと、……納まりませんでした。

「えっ、うそっ!? なんで……!?」

どうがんばってみても、くつにシンデレラの足は納まりません。

そのくつはお城で一番の職人が作った、まったく同じサイズのレプリカであるはずなのですが。

「説明しよう、シンデレラ」

「魔法使い!?」

「シンデレラはろくな食事を与えられていなかったため、過度の栄養失調だったのだ。

 しかし、お城で豪勢な料理を食べ、さらにその料理を持ち帰り、自室でも食べていた。

 そのおかげで、シンデレラは健康的な栄養状態を取り戻したのである。

 端的に言えば太った」

「うがぁ!!」

なんということでしょう!

数日前まではぴたりとはまっていたそのくつに、今の足のサイズが合わなくなっていたのです。

「あー、娘さん。もう結構です。あんまり無理すると足に悪いですよ」

やっきになってくつを履こうとしていたシンデレラですが、くつは従者に取り上げられてしまいました。

がっかりするシンデレラに、継母はおいうちをかけるように詰め寄りました。

「ちょっとシンデレラ。後ろにいる娘は誰? 不法侵入罪で訴えて慰謝料しこたま請求するわよ」

「お、お友達ですわお母様。おほほほっ」

従者は魔法使いに目を向けると、ガラスのくつのレプリカを差し出しました。

「そちらの小柄なお嬢さんも、試してもらっていいですか」

「私か? まあ構わないが……」

魔法使いが差し出されたくつに足をいれると、

―すぽっ

なんと、ぴったりとはまってしまいました。

痩せていたシンデレラと小柄な魔法使いの足のサイズが、たまたま同じサイズになっていたのです。

「おお、ぴったり! やっと見つけたわ!」

「なんという偶然」

ぼうぜんとする継母と姉たち。そしてシンデレラ。

魔法使いはまたたく間にお城の遣いたちに担ぎ上げられ、お城へと連れてゆかれました。

「さらばだシンデレラ! 達者で暮らせよ!」

こうして、魔法使いは王子と結婚し、いつまでも平和な国を治めたのでした。

めでたしめでたし。







ああ、シンデレラですか?

その後のシンデレラはこんな感じです。

「つま先を切りましょう、シンデレラ」

「かかとを削りましょう、シンデレラ」

「食事の量を減らしましょう、シンデレラ」

「いやぁぁぁぁああああ!!!」

シンデレラの戦いはまだ始まったばかりだ!










 
教訓:世の中そんなに甘くない

投稿38発目。
というわけで、すでに誰かがやっているかもしれない東方×シンデレラでした。
小さい頃に聞いた童話とかって、いまいちうろ覚えですよね。大筋は覚えているんですけど。
そんな方のために、あの誰もが昔に聞いたであろう不朽の名作シンデレラを『忠実に』再現しました。
ちなみにプロット当初はシンデレラ役がアリスで、上の姉役がパチュリーでした。(下の姉役が霊夢)
二人ともいつの間にかいないですね。あはは。^^;
今回は童話仕立てということで、地の文は読みにくくない程度にひらがな多めにしてみました。
セリフの漢字の比率は普通のままです。
登場人物たちがまったくナレーションに従う気がないのは仕様です。

CAST
シンデレラ:博麗 霊夢
王子   :霧雨 魔理沙
継母   :風見 幽香
上の姉  :十六夜 咲夜
下の姉  :東風谷 早苗
魔法使い :魂魄 妖夢
王子の従者:鈴仙 優曇華院・イナバ
ネズミ  :1ボスの方
暇人KZ
http://www.geocities.jp/kz_yamakazu/
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コメント



0.1860簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
これぞパロディの王道。ナレーションとの落差がたまらないな。
9.90名前が無い程度の能力削除
終わりが駆け足だったようにも思うけど、面白かった!
ありがちネタなはずなのに、楽しめました。
13.100名前が無い程度の能力削除
天下一武道会www
妖夢が魔法使いの四人を差し置くとかwww
つかナズーリンwww

あー笑いすぎて呼吸困難。どうしてくれよう
14.100名前が無い程度の能力削除
こういう話も大好き。っていうかネズミの名前思い出してあげてくださいww
17.100くー削除
いつも楽しく読ませていただいています。
描写はもちろん、話の展開からして凄いなと思ってしまいました。
よくあるパロディを飽きさせないのはすごい文章力だと思います。
これからも応援しています
22.100名前が無い程度の能力削除
本当は怖い(ry
24.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
他のシリーズはいつでるんですか?
28.100名前が無い程度の能力削除
どこから突っ込んだらいいんだwww
29.100名前が無い程度の能力削除
この作品には単純なパロに留まらないなにかがあるwww
33.100ぺ・四潤削除
前にもどっかで見た東方シンデレラ。だけど面白ぇwww
鐘の音と共に全裸で泣きながら駆けていくナズーリンのことを思うと…… ウッ
35.100名前が無い程度の能力削除
あーもうおもしれぇなぁww
37.80名前が無い程度の能力削除
このシンデレラはたくましいなぁww

で、シンデレラのお話を知らないふりして一言。
父親は結局どうなってんの?
38.100名前が無い程度の能力削除
そばんげは反則だろうwww
40.90名前が無い程度の能力削除
配役をどれだけ変えてもまともにならないだろうと推測される。そんな幻想郷の方々。
ただ鼠はナズーリンのみ。彼女だけはこの結末が変わることがないんだろうな。

合掌。
41.100名前が無い程度の能力削除
父親が気になるww
42.100奇声を発する程度の能力削除
何このカオスな物語wwwwwwww
44.70名前が無い程度の能力削除
霊夢がフリーダムでよかった。継母が幽香じゃなくて小町みたいな別のタイプだったら尚良
45.100名前が無い程度の能力削除
霊夢は霊夢なんだなぁ。
ナズーリン……不憫な。
面白かったです。
46.90名前が無い程度の能力削除
このシンデレラはそのままでも平気で生きていけるw
50.100名前が無い程度の能力削除
ナレーションが良かったww
55.100ずわいがに削除
誰かが幸せになるということは
誰かが不幸になるかもしれないということだ!(キリッ
58.100名前が無い程度の能力削除
咲夜と早苗は僕がゆうかりんに産ませm←
64.100名前が無い程度の能力削除
ナズマリとはマニアックな…