Coolier - 新生・東方創想話

空を飛べば萃寄せられて~後~

2010/01/22 16:07:19
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 わたしには誰かの気持ちが手に取るようにわかった。

 密と疎を操る程度の能力。

 とにかくあらゆるものを萃めたり、逆に疎めたりすることができる能力。

 戦闘には案外使い勝手がいい。攻撃の威力を高めることもできるし、テキトーに萃めたものをぶん投げることもできる。巨大化したり、霧状になることだってできる。

 とにかく戦闘に特化した能力だと思う。

 じゃあ、わたしのこの能力が戦闘以外で役に立つことはあるのだろうか。

 昔わたしはふいにそんなことを考えたことがある。

 その答えを、わたしは今でも探している。



「霊夢………」

 とぼとぼと歩いていた。
 日は傾いて、カラスが家に帰っている。いいなぁ、私にも帰る場所がほしいよ……
 思い出したらまた涙が出てきた。

「ぐすん………」

 霊夢がわたしのことを嫌いになった。
 わたし……何かしたのかなぁ……
 やっぱり勝手に心を覗いちゃったのがいけなかったのかなぁ……
 怒ってないって言ってたのに……

「霊夢……寂しいよ……」
「なーに泣いてんのよ、情けない」
「ふぇ………?」
「まったくあなたもあなただけど、あの子もあの子よね。なにもわかってないじゃない」
「紫……? 紫……紫ぃい!!」
「あぁもう! 泣かないの!」
「だって! 霊夢が! 霊夢がぁ……!!」
「霊夢がぁ、じゃないわよ。あなた霊夢の気持ち萃めたの?」
「へ?」
「萃めて御覧なさい」
「う、うん………」

 なんだか紫が怒ってる気がする……大人しく萃めてみよう。
 きっと萃めたって仕方ないけど。
 霊夢はわたしを嫌いだって言ったんだ。なのに、霊夢の気持ちを萃めるなんて、また嫌いだって言われるようなもんじゃないか………

「密と疎を操る程度の能力」

 ………霊夢の気持ち。
 …………きっと私を嫌って…
 あ……れ?

 溢れてくる。わたしの心の中に霊夢の悲しみが。
 さびしがってる? なんでだ? わたしを嫌いだって言ったじゃないか……なのに、なんで、なんでわたしを呼んでるんだ?

 霊夢の涙が流れてくる。霊夢はわたしなんかよりも悲しんでいる。
 ずっとずっと深く傷ついている。

「……なんで霊夢は泣いてるんだ?」
「悲しいからに決まってるじゃない」
「……なんで悲しんでるんだ?」
「好きなのに嫌いだって言わなきゃいけなかったからよ」
「……なんで……なんでそんなこと」
「そもそもはあなたのせいよ」
「わたしの……せい?」
「分かっていないなら、説明してあげるわ。よく聞きなさい」


 そもそも霊夢の心の奥底には二つの心があった。

 一つは、博麗の巫女のもの。
 一つは、博麗霊夢のもの。

 博麗の巫女は強く、他者を必要とはしなかった。

 博麗霊夢は弱く、他者を求めていた。

 この二律背反の心情を持って生きていくことはできない。他者を必要としていないのに、他者を求めることはできない。だから、必ずどちらかに傾いてしまう。
 霊夢は、博麗の巫女を演じるために、博麗霊夢という自我を抑え込んだ。心の奥底に。

 霊夢自身がそのことを忘れさり、博麗の巫女が日常となっていたところに、わたしが博麗霊夢を見つけてしまった。

 そして、紫の言うとおり生かしてしまった。

「博麗霊夢が出てきたことで、当然博麗の巫女は姿を隠すわ。そうなれば、博麗の巫女の能力である空を飛ぶ程度の能力が使えるわけもない」
「博麗の巫女がいなくなれば、この世界も危うい。だから、彼女はまた博麗霊夢を押し殺そうとした。あなたを突き放そうとしたのよ」
「わかった? あの子が今、とても傷ついているのはあなたのせいよ。なのに、あなたときたら、自分も被害者面で泣いてるんだもの、聞いてあきれるわ」
「………」
「だいたいあの子もあの子よ。もっと他に方法があるでしょうに。何もわかってないじゃない。これじゃあ私が萃香と離れろってけしかけたみたいになるじゃない……」
「へ?」

 何をぶつぶつ言ってるんだ? 紫は。

「とにかく、もしあなたが責任を感じるのであれば、あなた自身が霊夢を助けなさい。傷つけたあなたでしか、霊夢を救うことはできない」
「どうすればいい? どうすれば霊夢を助けれる!?」
「それはあなたが見つけることよ」
「……そう…だな」

 たしかにわたしが自分で撒いた種だ。わたしが自分でなんとかしなくちゃいけない。これじゃあわたしは、誰かに甘えっぱなしじゃないか。

「ヒントをあげましょう」
「ヒント?」
「えぇ、大切なヒント。あなたたちは相反する存在。だからこそ、お互いが存在しうる」
「?」

 どういうことだ? わたしと霊夢が正反対の存在?

「あとはあなたが気づきなさい。気づき行動するのよ。頑張りなさい、小さな友人」
「あ、紫!」

 告げるだけ告げて、紫はスキマの中へと消えていった。きっと帰ったんだろう。そして、そこからわたしたちを見ているつもりだ。
 ありがとう、紫。
 紫に言われなければ、わたしは霊夢の気持ちを萃めなかった。霊夢の気持ちに気付けなかった。

 もう二度と一緒に居られなくなっていた。

 もう泣くのはやめよう。
 わたし以上に霊夢が悲しんでいる。
 霊夢を救う方法を探そう。また一緒に居られる方法を考えよう。
 そうすればきっと笑ってくれる。
 わたしは霊夢の笑顔が見たいんだ!




「いつ以来かしら、こんなに泣いたのは……」

 もしかしたら初めてかもしれない。今までこんなに泣いた記憶が無い。
 涙はいつのまにか枯れていた。
 気づけば外は真っ暗で、暗くなった部屋の中に私は一人でいた。
 本当なら萃香と一緒にご飯を食べている時間。
 けど、もう……あの子はいない。

「………っ」

 ダメね。まだ枯れてないじゃない。
 泣いたって無駄なこと。なのに、止まらない。寂しくて、辛くて、悲しくて。
 もう一度、あの子に会いたい。もう一度、声を聞きたい。もう一度、この手で抱きしめたい。
 どんなに願ったって、それは叶わないと知っているのに、わたしはそれを願ってしまう。

「萃香……萃香ぁ……」

 止まりそうにない涙。一人がこんなに寂しいなんて忘れていた。
 会いたいよ……側にいてほしいよ……

「霊夢!!」

 え?

「霊夢! 出て来い!!」

 幻聴じゃない? 萃香が帰ってきた? なんで? どうして帰って来たの?
 とにかく行かなくちゃ、そして、はっきりと言わなくちゃ。じゃないとあの子は、また帰ってきてしまうから。絶対に弱みは見せない。見せてはいけない。



 萃香は、境内の真ん中に立っていた。威風堂々と。
 半月に照らされたその姿は、いつもの雰囲気と違う。
 なんだろう。私に会いたくてとかそんな理由じゃなさそうね。

「何の用? 萃香。忘れ物でも取りに来たの?」
「やり残したことがあったんだ」
「やり残したこと?」
「霊夢、わたしと本気で戦え」
「え?」
「初めて会った時、霊夢はスペルを使ってなかっただろう。だから、今日は全力で来い」
「それが、やり残したこと?」
「あぁ。どうしてもやらなくちゃいけないことだ」

 どういうつもりかわからない。けれど、テキトーにごまかせる雰囲気ではないわね。

「わかったわ。用はそれだけなのね」
「あぁ、それだけだ。いいなら始めるぞ」
「えぇ、いつでも構わないわ。かかってきなさい」

 用はそれだけと言われたのが、悲しい。
 けど仕方ない。

 少し鼻の奥がツンとした気がした。

 あの子は、もう私のことを好きじゃない。私が嫌いって言ったんだものね。自業自得だわ。
 せめてもの償いに、私はあの子の望みを叶えてあげよう。それが私にできる贖罪。あの子のために出来ること。

「全力で行くわよ」
「そうでなきゃ困る」

 萃香がそう言ったのを合図に、私たちは弾幕を撃ちあう。
 まずは通常弾から。
 萃香の弾幕は、炎をまとっているものが多い。あの子の能力を考えれば当然ね。
 ギリギリで避けるのはあまり得策じゃないわね。
 萃香は萃香で器用に避け続ける。さすが鬼ね。並大抵の妖怪とは違うわ。私の弾をここまで見切るなんてね。

「鬼符! 超高密度燐禍術!!」

 スペル名を叫んだ後に、萃香が地面を両手で叩きつける。地面から大きな火の玉が数個飛び出してくる。
 これを地上で避け切るのはよくないわね。たしか地に着くと、火の玉が砕けて、さらに逃げ場がなくなったはず。

 となれば……

 降り注ぐ火の玉を掻い潜りながら、宙へと舞い上がる。

「狙い通り! 元鬼玉!!」

 飛んだ先には萃香が、少し小さな火の玉を掲げて待ちかまえていた。そして、私を視認するやいなや、元鬼玉を放ってくる。

 作戦としてはなかなかいい作戦だと思うわ。けど……

「まだまだね」

 私は、さらに上へと飛び上がり避け切ってしまう。ホーミングするわけでもないから避けるのは、簡単。

「さすがだな、霊夢! なら、これならどうだ! 百万鬼夜行!!」

 萃香を中心に無数の弾が360度全方位に放たれる。一波過ぎればまた一波と押し寄せてくる。萃香の得意なスペル。
 できることなら、もっと楽しみたかった。萃香と居る時間を。例え敵として戦っていたとしても。だけど、このスペルがあの子のとっておき。これで終わりね。

 私は、少し涙が出そうになるのを堪えて、現実と向き合う。

 この弾幕は、隙間を縫って避け切るのは不可能に近いわね。とうてい無傷では達成できないわ。だいいち隙間らしい隙間もない。

「全力で行くって言ったものね」

 私は萃香の弾が届く前に、スペルカードを取り出す。今度こそ、ちゃんと出てよね!

「霊符! 夢想封印!!」

 唱えた瞬間、複数の光弾が現れ、萃香に向かって飛んでいく。
 出せた! このスペルはホーミングするから確実に当たる! 着弾は、萃香の百万鬼夜行が私に届くのとほぼ同時。いや、少し萃香のスペルの方が早いかしら?
 でも、問題ないわね。私はスペルを使った瞬間、能力で萃香のスペルから浮くことができる。つまり、萃香の弾は私に当たらない。

 私の勝ちよ、萃香………

「密と疎を操る程度の能力!!」

 え?

 萃香の声が聞こえた。

次の瞬間には、萃香の百万鬼夜行が私に当たっていた。

 世界が暗転する。
 予想外の出来事に思考は止まり、ただただ無重力が私の全身を捉える。
 このままじゃ地面と激しく激突する。
 危険だとわかっていても、私にはどうすることもできない。百万鬼夜行の衝撃で動けそうになかった。

「霊夢!!」

 萃香の声。

 私の体が大きな力で吸い寄せられているのが分かる。

 その力もすぐに感じなくなった。かわりになんだか懐かしく感じる温もりが私を包んでいた。

「目、開けれるか? 霊夢」

 そう言われて、ゆっくりと目を開く。
 あぁ萃香が萃寄せて、抱きかかえてくれたのね。

「すい……か」

 さっきまでの真剣な表情ではなく、優しい、いつも私を包み込んでくれる笑顔がそこにはあった。

「……負けたの?」
「あぁ、わたしの勝ちだ、霊夢」
「なんで私はあなたの弾幕を受けたの?」
「私は霊夢の正反対の能力だからな」
「え?」
「霊夢は浮く。だから私は霊夢を引き寄せた。そんなお互いが能力を使いあっても結局はいたちごっこだろう? だから打ち消されて、純粋なスペル勝負になったんだ」
「それで着弾の速いあなたのスペルが先に決まったのね」
「そういうことだ!」
「そっか……」

 まさかこんなことがあるなんて思いもしなかった。私の能力で無効化できないなんて………

「紫が言ってた。わたしと霊夢は相反する存在で、だからこそ一緒に居られるって! だから精いっぱい考えたんだ! わたしと霊夢の違うところ! それがこの能力だ!」
「そうね……言われてみればその通りだわ……」

 浮く私に対して、萃寄せる萃香。使い合えば、プラスマイナスゼロになるわね。

「わたしは霊夢が認められるくらい強いだろ!? わたしが勝ったんだぞ! 霊夢は無敵なんかじゃない! だから誰も必要なくなんてないんだ! だから……だから!!」

 そのとおりね。

 私は井の中の蛙みたいなものだったのね。

 まだ見たことのない能力や、出会ったことのない人だっていっぱいいる。なのに、私は私が見てきた狭い世界だけで考えて、自分が強いとうぬぼれていた。

 もし、私がそんなうぬぼれを持っていなければ、こんな風に苦しむことはなかったでしょうね。

「霊夢……博麗の巫女も……私を必要としてくれ……! じゃないともう、もう一緒に居られなくなるんだぞ!? 一緒に居るにはこうするしかなかったんだ! わたしにはこれしか思いつかないんだ! これしかできないんだ! れいむ!」

 萃香の涙がわたしの頬にぽつぽつと降ってくる。

 もし、私がうぬぼれていなければ、私はこの子をこんなに泣かせることはなかった。

「えぇ……必要よ……私にはあなたが……必要。私の能力をうち消せるんだもの。……私の対極にいるあなたじゃないと、私を強くできないじゃない……」

 負けたことなんかよりも、この子への謝罪と感謝の気持ちで心が埋め尽くされていく。
 溢れだした気持ちをわたしはもう堪えられない。

「霊夢……一緒に……一緒に居て、いいのか?」
「居てくれなきゃ困るのよ……あなたは私のパートナーじゃない」
「霊夢……! れいむぅ!!」
「もう……泣きすぎよ……」
「霊夢だって泣いてるじゃないか!」
「だって…嬉しいんだもの……仕方ないじゃない!」

 嬉しくて嬉しくて、私は笑顔を浮かべながら泣いていた。

「ずっと一緒よ…これからはずっと一緒。ね、萃香。」
「あぁ! どんなに遠くに飛んで行ったって、すぐに萃寄せてやるんだからな!!」

 私たちはぎゅっと抱きあって泣いた。

 子供みたいにわんわん泣いた。幸せでも涙が出るなんて知らなかった。

 だから、ただただ泣いて。嬉しくて。この温もりを噛みしめていた。

 泣き疲れるまで、ずっと、ずっと。




 わたしの能力は、戦闘に特化した能力だと思っていた。

 密と疎を操る程度の能力。

 わたしのこの能力が戦闘以外でなにかの役に立つことがあるのだろうか。

 昔わたしはふいにそんなことを考えたことがある。


 その答えを、わたしはやっと……やっと見つけた。




 空を飛ぶ程度の能力。

 それが私の能力。ありとあらゆるものや事象から浮き、無効化してしまう能力。

 きっとこの能力のせいで私は他者からも浮いていたのだろう。だから、私は一人だった。誰も私に近付いてこなかった。
 そのおかげで私は博麗の巫女を演じることに集中できた。弱い私でも自分自身を抑え込むことができていた。

 けど、博麗霊夢は弱い人間だ。心の奥底で常に誰かを求めていた。そんな私を萃寄せてくれたのは、彼女だった。私の心を寄せ付けることができるのは彼女だけ。だから、博麗霊夢を助けてくれたのも彼女だけだった。

 そうして、私は恋心を抱いた。

 私を抱きしめることができるのは、あの子だけ。




「来たみたいね」

境内で萃香とともに、私は勇儀がやってくるのを待っていた。

「霊夢なら絶対勝てる!」
「えぇ、当然よ」

もし負けたら萃香が連れていかれる。私は負けない。絶対に!

「昨日は悪かったわね、突然いなくなって」
「ふん、気にするな。全力で戦えていないみたいだったしな。そんなお前を倒しても面白くない」
「後悔するわよ、私の全力を見たら」
「させてみろ! できるものならなぁ!!」

昨日と同じように通常弾が地に刺さる。
もう慢心しない。
私はすぐに宙へと飛び上がる。全方向へ避けられるように。

「さっさとお前を倒して、萃香を連れて帰るぞ!!」
「させないわ」

させてなるものですか。萃香は私の大切なパートナーよ!

「喰らえ! 四天王奥義! 三歩必殺!!」

昨日と同じシチュエーション。同じスペル。
もう慢心しない。

青、緑、赤。三色の弾幕が乱雑に散りばめられ、不規則に襲いかかってくる。

それを冷静に避けながらスペルを取り出す。とっておきのスペルカード。

「私は萃香と生きていく、誰にも邪魔はさせないわ!!」

今日、勇儀が来るまでに作りだしたスペル。

萃香の能力を参考にして編み出した夢想封印の改良型。

「霊符! 夢想封印 散!!」

私を中心に光弾が全方向に向かって放たれていく。萃香の百万鬼夜行のように。

私の光弾が、勇儀の弾幕をかき消していく。

「くそっ!」

向かって来た私の弾幕を、勇儀が飛び上がり宙へと逃げる。
そう私はわざとそこに逃げ場を作っていたのよ。
私が回り込んでいたところに勇儀が現れる。

「なっ……」
「終わりよ」

昨日萃香が使った高密度燐禍術から元鬼玉のコンボと同じような組み合わせ。\
ただ違うのは、元鬼玉の代わりに撃つ私のスペルはある程度ホーミングする。故に、近距離で撃てば必ず当たる!

「霊符! 夢想封印 集!!」

大きな光弾が二、三個勇儀めがけて撃ち放たれる。
今までの夢想封印とは違い数を減らし、さらにホーミング能力を犠牲にして、威力を高めた夢想封印。

萃香が密度を高めて威力を上げるように私も技の密度を上げる。

これが私が萃香から学んだこと。私と萃香の弾幕よ!!

この弾幕なら、いくら鬼といえども耐えられるはずがない!!

「うぁああああああああああああ!!」

容赦なく光弾が勇儀を襲う。

次に放たれるため散りばめられていた勇儀の弾幕が消え去る。

どうやら体力切れね。当然よ。

「私の勝ちよ。勇儀。萃香は渡さないわ」

地上に降り、寝転がった勇儀にそう言い放つ。

「ふふふ……あっはっはっは!!」

大の字に寝転がった勇儀が豪快に笑う。

頭でも打ったかしら? さすがにそうなるとマズイわねぇ……

「いやぁ、萃香の言うとおりだ! 人間とは思えない強さだな!!」
「当たり前だ! わたしが嘘を言うわけないだろ! たまに言うかもしれないけど…」
「あっはっは、これはいいや! すっきりした!! 萃香あんたが興味を持つのも分かる!!」
「それじゃあ!」
「あぁ、約束だもんな。私は一人で帰るとしようか」

すこしだけよろめきながら、勇儀は立ち上がり自分の服に着いた砂埃を払い落とす。

さすが鬼っていうくらいのタフさね。まさかこんなにすぐ立って歩けるようになるなんて思いもしなかったわ。

「博麗霊夢、萃香を頼む。萃香、帰ってきたくなったらいつでも戻ってこい」
「えぇ」
「おう!」
「よっし、それじゃあ私は帰るかな」
「じゃーなー勇儀!!」

勇儀は振り返らず、片手を上げて、萃香に応えた。

「霊夢、さっきのスペル……」
「あなたの真似してみたのよ。どうだった?」
「すごかったぞ! さすが霊夢だ! わたしもなんか真似してみようかな……」
「ふふ、なら、これからは一緒に考えていきましょう」
「おう!」

萃香が元気よく両手を振り上げて返事する。
無邪気ね。
昨日まであんなにたくさん泣いてたのが嘘みたい……

それでいいのよね。これからは、たくさん笑いましょうね、萃香。




「やっと終わったわ」

 ふよふよ空を飛びながら神社に戻る。
 突然妖怪に襲われてる人がいるって言われたのが、ついさっき。せっかく萃香とお掃除してたのに、もう。
 弱い妖怪だったから、たいして時間もかからなかったからいいけれど。
 昼には勇儀が来るって言ってたわね、ちょうどいいわ、この前の仕返しをしてやりましょう。今度は全力でね。

「あれ?」

 神社が見えてきた瞬間、私の体が無理矢理引っ張られ始める。

「あの子ったら……」

 だいたい何があったのかはわかる。もう着くんだから、萃寄せなくてもいいじゃない。

 私は、この力に身を任せる。

 境内の真ん中で、ニコニコ笑顔の萃香がいた。

 ほら、やっぱりあの子の仕業ね。っていうかあの子しかこんなこと出来ないわ。

 ぽふんと私は萃香の腕の中に抱きかかえられる。

「おかえり、霊夢!」
「えぇ、ただいま。昨日のお姫様抱っこで味をしめたのね」
「だって、この抱き方だと、なんか霊夢がいつも以上にかわいく見えるんだ!」
「………っ!」

 やっぱりこの子のストレートな言葉に私はどうも慣れることができない。わざと言ってるのかしら、私を真っ赤にさせたいとかそんな理由で。

「そ、そんなことより! 飛んでる時に急に萃寄せないでよね。 けっこう怖いのよ?」
「霊夢をこうやって抱き締めるチャンスだからなぁ、やめられないかも」
「あのねぇ……それじゃあ私が……んっ!」

 なっ…!なっ!なっ!!

 とつぜん重ねられる唇。柔らかくて甘ったるい感じ。

 それが何秒くらいのことか、そんなの私にわかるわけないじゃない! 突然のことで、大混乱よ!

 萃香の顔が遠のいていく。

「あはは、はじめてのちゅーだぁ!」
「っ!」

 顔から火が出るってほんとね!! ダメだ、顔が熱すぎて、真っ赤なのがわかるわ! 心臓がありえないくらいドキドキしてる。
 あぁもう! この子ってば!!

 そんな無邪気に笑われたら、私はこの子を咎めることができない。だって、驚いたけど嬉しいもの。やっぱり嬉しい。すごく幸せな感じだもの。


「霊夢、大好きだ!」


 萃香がとびきりの笑顔を見せてくれる。

 私の心はもうこの子に萃寄せられて離れられそうもない。

 空を飛べば萃寄せられて、ずっと一緒に過ごしていける。ずっと一緒に歩いて行ける。

 あなたと一緒なら、私でも。



「私も、あなたが大好きよ。萃香」
あい、ひとまずここで終劇です、お読みいただきありがとうございました。
前にコメ、点数つけてくれた方ありがとうございます。やっぱり嬉しくてテンションあがりますね。あまつさえ続きをなんて言っていただけて、感謝感激悦楽至極な次第です。

どうですかね? 楽しんでいただけましたかね? ストーリーありの東方SSを書くのは初めてだったのでドキドキでした。っていうか、現在進行形でドキドキです。
せめて、霊夢と萃香ちゃんがかわいいと思っていただければ、もうそれだけで、バンザイです。

兎にも角にも、仲良く暮らすこの二人をまた描けたらなぁ、なんて思ってます。もしUPすることがあれば読んでいただけると幸いです。

それでは、拙い文章でしたがここまで読んでいただきありがとうございました。
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コメント



0.730簡易評価
5.50名前が無い程度の能力削除
ごめん……
微妙。
8.100名前が無い程度の能力削除
カップルの小さい方がお姫様だっこするだと…?。も、萌えてしまうじゃないか…
いろんな意見があるのは仕方ない。でも俺はあんたの作品好きだぜ!次を待ってますよ!
10.100名前が無い程度の能力削除
とにかく萃香が愛し過ぎる。なんて良い子なんだ。
紫とか他の大妖怪なら策を練ったり搦め手を使うところを真っ直ぐ向かってきて純粋な想いをぶつけるなんて素敵過ぎる。
それを前にしたら博麗なんて檻は無意味ですよ。
霊夢さんと一緒の幸せな未来があらんことを願います。
12.100名前が無い程度の能力削除
切なくて涙でた
弾幕アクションはクドくなくサラッと読める所が良かったです。
真っ直ぐ過ぎる萃香が可愛すぎて胸が苦しい。
ともあれハッピーエンドでほっとしました
15.100名前が無い程度の能力削除
これは良いレイスイ
16.40名前が無い程度の能力削除
正直薄っぺらいかな…
ご都合主義って感じが、強すぎて残念。

発想は良いと思うので、精進してください。
19.100名前が無い程度の能力削除
これで、糖分摂取できたよ。
レイスイいいよレイスイ。
20.100名前が無い程度の能力削除
れいすいかに目覚めました