Coolier - 新生・東方創想話

空を飛べば萃寄せられて~中~

2010/01/21 04:20:50
最終更新
サイズ
16.26KB
ページ数
1
閲覧数
764
評価数
4/16
POINT
900
Rate
10.88

分類タグ


 私には大切な人がいる。

 その子がいれば私は幸せ。博麗霊夢には必要な子。いてくれなきゃ困る存在。
 今までそんなことを思うことはなかった。博麗の巫女には誰も必要なかったのだから。
 博麗の巫女は強い。私はそれを信じて疑わない。
 博麗霊夢は弱い。側にいてくれる人を求めていた。ずっと求めていた。ただ私が気づけなかっただけ。本当は寂しかった。
 ずっと、ずっと昔から………


「萃香ー、ご飯できたわよぉー」
「おぉー!!」

 今日も萃香と一緒にお昼を食べる。
 最近なにをするにもこの子が一緒にいる。
朝起きて、萃香を起こす。一緒に朝ご飯を食べて、ちょっとまったりしてから、一緒にお掃除する。お昼になったらお昼ご飯を食べて、のんびりお茶して、お散歩して、お昼寝して、宴会を開く。宴会が終われば、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。
 基本的にやってることは変わらなくても、一人よりは何百倍も楽しい。
 知らなかった。一人よりも二人の方が楽しいだなんて。
 知らなかった。好きな人といることがこんなにも幸せだったなんて。

「いっただっきまーす!」
「いただきます」
「今日はお蕎麦かぁ」
「えぇ、昨日文が山菜くれたでしょう? それを入れてみたの」
「となれば、お酒が進みそうだなぁ。美味しいものとお酒、たまらないぞ!」
「よく飲むわねぇ。お昼くらいはお茶にしたら?」
「酒飲みから酒を取ったら何も残らなくなるんだぞ!? それでもいいのか!?」
「いいのかと言われても………」
「霊夢も呑むか?」
「私はお茶にしとくわ」
「そうか! なら私だけだな!」
「そんなに呑んで倒れないのがすごいわねぇ」
「そういえば倒れたことないなぁ。二日酔いはあるけど」

 萃香でも、二日酔いになるのね。それも意外だわ。
 今度二日酔いになったら、介抱してあげよう。つきっきりで。

「お酒呑んでない時の萃香って見たことないわね。どんな感じなの?」
「んー………」

 お箸を止めて、少し考える。

「わたしも呑んでない時ってどうなってるか忘れたな」
「どんだけ呑み続けてるのよ、あなた」
「いやぁ、おいしくてついなぁ」

 つい、で呑みまくるってどうなのよ。

「普通呑みすぎるといろいろとおかしくなるのに、鬼ってすごいわねぇ」
「んー、たしかに宴会で呑みすぎておかしくなる奴はいるなぁ。私にはわからないことだけど」
「そういえば、咲夜が昨日教えてくれたんだけどね?」
「お? なんだなんだ?」
「咲夜は、レミィにいたずらしたい時はすっごい飲まして酔わすんですって」
「アイツそんなことしてるのか? 従者のくせに」
「らしいわよ? 昨日酔っぱらってポロっとしゃべってたわ」
「さすがしょうしゃなメイドだなぁ。ところでしょうしゃってなに?」
「しゃれてる感じって意味よ、おおざっぱに言えばね」
「おお! 一つ賢くなったぞ!」

 お箸を高々と掲げて嬉しそうな萃香。ホントこういうところが、かわいくて仕方ないのよね。

「そういえば、昨日藍の奴もすごかったぞ」
「藍? そういえば昨日は紫たちも来てたのよね」
「あぁ、紫は霊夢たちと中で呑んでただろ?」
「えぇ、あなたは外にいたわよね?」
「そーそー。その時にさ、藍が呑みすぎて壊れてな? テイクオフ!! とか叫びながら空中脱衣してた。ところでテイクオフって何?」
「離陸じゃなかったかしら?」
「アイツ離陸してたのか! あ、離陸してたぞ!!」
「どうりであの時紫が苦笑してたのね」

 私は、外に背を向けてたから見れなかったわ。残念ね。

「そのまま着陸時に橙を襲ってた」
「あぁ、やっぱりそういう関係なのね。あの二人」
「改めて思うとお酒って怖いなぁ」
「そうねぇ」
「それでも私は呑むけどな!」
「だと思ったわ。ホント好きね、お酒」
「大好きさぁ!」

 ふふ、お酒と私どっちが好き? なんて聞いたらなんて答えるかしら?
 ちょっと聞いてみたいわね。聞いてみようかしら。

「ごちそうさまぁ!」
「お粗末さまでした」
「霊夢はご飯作るの上手だなぁ」
「あら、ありがとう」

 好きな人に褒められるのって、なんだか照れくさいわね。

「ねぇ、お酒と私じゃどっちが好き?」
「ん? 霊夢だぞ?」
「………」

 まさか即答されるなんて思ってもみなかったわ。すっごく反則じゃない、それ。
 ダメだ、顔が熱くなる。真っ赤になってるのがわかるわ。

「さーて! お昼も食べたし、私はお昼寝をするぞ!」

 そんな私はお構いなしで、萃香が呑気に寝ころぶ。

「た、食べてすぐ寝ると太るわよ?」
「大丈夫、大丈夫、いざとなったら能力使うさぁ」
「なんてことに使おうとしてるのよ、あなた」
「気にしない気にしない~♪ 霊夢も一緒に寝るか?」
「私は里まで行ってお買いものしてくるわ。お茶の葉が切れそうなの」
「そうか、いってらっしゃーい」
「えぇ、行ってきます」

 私は、自分の分と萃香の分の器を下げてから里へと向かうことにした。
 ちょっとだけ、萃香と一緒に歩きたいなぁ、なんて思ったのは内緒。
 鬼が里に行ってもいいことなさそうだしね。



「そういえば最近妖怪退治してないわね」

 里へ行く道すがらそんなことを思った。
 どうにも平和だ。弾幕ごっこだってしていない。おかげで収入が少ないわね。
 もうちょっと妖怪も人を襲いなさいよね。なんのためのスペルカードルールよ。

「博麗霊夢」
「ん?」

 突然背後から名まえを呼ばれた。
 私は振り返る。その声の主を知るために。

「あら? あなたは…」
「久しぶりだな、人間。旧都以来か」
「そうね、あの時以来ね」

 たしか名まえは、星熊勇儀。萃香の仲間で、鬼の四天王。その鬼がなんでこんなところに? 前に会った時は地上に侵攻しようなんて考えてないって言ってたし。

「どうかしたの? 気が変わって侵攻しに来た?」
「侵攻はしないって約束したろ? 鬼の約束は絶対だ」
「そう。それならなんの用?」
「萃香はどこにいる?」
「萃香? 萃香なら私の家で寝てるわよ」
「お前の家で?」
「えぇ、私の家で」

 なんなのかしら? 私の家じゃ何かマズイことでもあるのかしら?

「お前か……お前が萃香を捕まえてるのか!」
「え?」

 突然何を言い出すのよ、まったく。

「捕まえてるだなんて人聞きの悪い。あの子が私のところに居候してるのよ」
「そんなことあるものか! 人間に愛想を尽かした我ら鬼が人間とともにいるものか!!」
「そんなこと言われても、現にあの子は私を!」
「地上に遊びに行くと言って出て以来、全然帰ってこないから心配してたんだ。やっぱり人間に騙されてるんじゃないか!」
「違う! 私は騙してなんかいないわ!」
「黙れ黙れぇ!! 萃香を返せぇええええ!!」

 あぁ、もう!! 人の話を聞きなさいよね!!

「喰らえぇえええ!!」

 細長い針のような弾幕が無数に私目がけて飛んでくる。これが勇儀の通常弾みたいね。突然曲がったりしない分、比較的避け安いわ。
 目測を見誤らないように気をつけていれば避け切れる。
 私は、バックステップを踏みながら目の前に次々と刺さっていく針弾を避け続ける。
 当然避けながら私の通常弾を撃ち込む。スペルは相手が出すまでとっておきましょう。

「これぐらいで倒れる奴じゃないよな! 前会ったときから、あんたとは本気でやりあいたいと思ってたんだ!!」
「そう、私はどちらでもよかったわ」

 まぁ、久々の弾幕ごっこに少しわくわくしてる節はあるけどね。

「へへ、減らず口を! これならどうだ!! 四天王奥義! 三歩必殺!!」

 いきなり奥義使うの!? まぁいいわ。
 この弾幕は一度見たわね。

 まずは青と薄い緑の弾丸状の弾に、赤色の丸い弾が無数に散りばめられ降り注ぐ。そして、避け切るやいなや、赤とピンクの弾が、同じように散りばめられ、それを取り巻くように白い輪状の弾が現れ、降り注ぐ。

 誰かにみせるための弾幕じゃない。純粋に相手を倒すための弾幕。

 なんとか避け切れるかしら? 前は私のスペルで無効化にしつつ倒したのよね。
 私が今持ってるスペルカードは確か『夢想封印』ね。
 いざとなればギリギリでスペルを唱えましょう。

 地上にいる私のもとに弾幕が降り注ぐ。

 前も思ったけど、これどうやって避けるのよ。スペル唱えないと無理じゃないの!?

 右へ左へと少しずつ動きながら避け切る。下手に動きすぎず、勇気を持ってその場に留まることも大事。

 まずは一波避け切った! 次!!

 これも大丈夫、さっきと要領はなにも変わらないわ。避け切れるはず!
 まずは赤! 次にピンクを少し後退して避ける!

 これなら避け切れ……

 失念していた、輪状の弾が背後に現れることを。
 左右にはピンクの弾。前方には、赤い弾が迫っている。頭上には別の輪がきそうね。

 逃げ場なし。避け切ること不可能。私の脳が瞬時にそう告げる。

「霊符! 夢想封印!!」

 …………
 え?
 自分自身を疑った。
 今まで一度たりともこんなことはなかったし、あり得ることではない。


 スペルが………でない?


 そんな! これじゃ……やられる!

 弾が待ってくれるわけもない。無慈悲に私との距離を詰めてくる。
 スペルが使えないということは、そもそもの能力までも使えるわけがない! スペルの力は能力が源泉なのだから! 失った? 私の能力を? なぜ? なぜ!?

 思わず私は目を閉じる。1秒後に来る痛烈な痛みと衝撃に備えた。それしか私にはできることがなかった………



「!? 博麗霊夢が消えた?」
「ごめんなさいね。この子はちょっと私が借りていくわ」
「なんだ、お前は」
「私はただの傍観者よ。傍観者のつもり……だったんだけどなぁ。本当はこんなことするつもりじゃなかったんだけど……私も年かしらねぇ」
「………」
「………」
「ふん、まぁいい。お前、博麗霊夢の家は知ってるか?」
「この先をまっすぐ行ってごらんなさい。そこにある神社よ」
「わかった、博麗霊夢に伝えろ、命拾いしたなと」
「えぇ、気が向いたら伝えておくわ」



「いつまでそうやって目を閉じている気?」

 来るはずの弾幕が私を襲ってこなかった。あまりにも長く感じたのは、走馬灯的ななにかのせいかしら? とまで考えていたのに、結局はそうではなかった。
 聞きなれた声を聞いて私は目を開く。

「紫………」
「まったく……あなたは何してるのよ」
「ただ弾幕ごっこしてただけよ。帰ってもいい? それとも何か用事?」
「あら、せっかく助けてあげたのに、ありがとうの一言もなし?」
「………そうね、ありがとう」

 どうもイライラする。それはやっぱりさっきのスペルがでなかったことが原因ね。

「そんなにスペルを使えなかったのが不思議?」
「え?」
「あれはあなたのスペルじゃないじゃない、使えるわけがないわ」
「何を言ってるの? あれは私の」
「あれは博麗の巫女のスペルよ。あなたではないわ」
「博麗の巫女は私……」
「………あなた、本気でわかっていないの?」
「………いいえ」

 なんとなくだけど、気づいていた。いや、気づいてしまった。紫が何が言いたいのか。なんで私がスペルを使えなかったのか。
 私は博麗の巫女じゃない。私は………

「博麗の巫女はこの世界で大切な役割を持っている。いなくなればこの幻想の世界も危ういのよ。それこそ、あなたの大切な子まで存在しなくなる」
「!!」
「当然のことよ。私たちは幻想に生きているんですもの」
「えぇ………そうね…そうだったわ」
「となればあなたのやることは、決まってるわ。わかってるわね? それができなければあなたは」
「もうわかったわよ!! もう……十分……」
「……そう、なら早くお行きなさい」

 言われるまでもなく、私は紫に背を向けていた。これ以上誰かと一緒に居たくない。
 一刻も早く一人になって、落ち着きたい。
 そして、決意しなくちゃいけない。
 決心しなくちゃいけない。
 博麗神社に戻る、わずかな時間の内に………

「あの子。本当に分かってるのかしら?」



「あれ? 霊夢?」

 あぁ、そうか、霊夢はお出かけかぁ。
 
 わたしは、瓢箪を持って外に出る。

 霊夢が帰ってくるのを外で待ってよう。
 外なら帰って来たのがすぐ分かる。帰ってきたらまず飛びつくんだ。そして、一緒に境内のお掃除して、お茶飲んで、宴会の準備しなくちゃな!

 毎日楽しいなぁ。旧都は旧都でおもしろいんだけど、やっぱりわたしはここがいい。

 霊夢がいる、ここがいい。

 初めはただの好奇心だった。
 わたしがみんなの気持ちを萃めて宴会を開いていた時、霊夢の気持ちも萃めてきた。その気持ちがすごく寂しそうで悲しかった。
 それがすごく気になって、理由を知りたいと思った。

 わたしは普段、そんな気持ちになることの方が少ない。っていうか、ほとんどない。だからこそ、気になった。

 実際にわたしのもとへ異変解決に来た時、霊夢の印象は孤独だった。
 そして、戦ってみて、わたしは霊夢の気持ちの理由を知る。
 
 強すぎるが故の孤独だと。

 ふいに鬼のわたしなら癒せるかもしれないと思った。
 鬼のわたしが人間の霊夢に何かしてやる必要なんてまったくない。

 けれど、生きることはもっと楽しいことだと、霊夢に伝えたかった。あんな寂しい気持ちを堪えて生きていくのは、きっととても悲しいことだと思ったから。

 そうこうして霊夢のことを気にしてるうちに、いつのまにか好きになっていた。すごく興味をひかれる人間だったから好きになったんじゃないかなって思う。

 そんなこんなで生きることがつまらなそうな霊夢を、ただなんとなく楽しませてやろうと思っただけだったのに、いつ間にか、好きな人だからという理由に代わっていた。

 ここのところ霊夢は楽しそう。だから、わたしはもう安心。
 霊夢とわたしはずっと一緒だ。だから、すごく幸せだ!

「お?」

人影が見えた。霊夢か? でもなんか違う気がする。

「萃香! やっと見つけたぞ! 萃香!!」
「勇儀!? なんで地上に居るんだ!? 遊びに来たのか!? ていうか大事なことだから二回言ったのか?」
「萃香お前を探してたんだよ」
「わたしを?」
「やっぱり人間に捕まってたんだな、ほら、もう大丈夫だ。旧都に帰ろう」
「え? なんのことだ? わたし捕まってたのか?」
「捕まってたから、ここにいたんだろ?」
「ううん、ちがうぞ? わたしはここに居たいから居たんだ」
「なに!? じゃあ、あの巫女の話は本当だったのか、悪いことしたなぁ」
「霊夢に何かしたのか!?」
「ん? あぁちょっと早とちりを……まぁそんなことはいい! さぁ帰るぞ、萃香!」
「いやだ! わたしはまだここに居るんだ!」
「なんでそんなにここにこだわる? 私たち鬼は旧都の方がずっと暮らしやすいじゃないか」
「ダメなんだ、旧都じゃ」

 旧都には霊夢がいないじゃないか………

「そんなにあの巫女が大事なのか? なんでそんなにあの巫女の事を」
「………好きなんだ。霊夢のことが」
「相手は弱っちぃ人間だぞ?」
「霊夢は弱くなんかない! そりゃたしかに寂しがりだったりするけど……」
「でも今日私は巫女に勝ったぞ?」
「え? 霊夢に?」
「といっても、はっきり勝ったわけじゃないけどな。突然変な妖怪に連れてかれたからな。私の弾幕喰らう寸前で」
「そんな……霊夢が負けた?」

 なんで? どこか怪我してたのか? 集中できてなかったのか? 霊夢が負けるはずない。負けるはずない……

「ま、そういうことだ、あの巫女はお前が思うほど強くないってことだ。これで、気がかりもないだろう。さぁ、一緒に帰るぞ」
「嫌だ! そりゃ勇儀の言うことだから、嘘じゃないとは思うけど、でもこの目で見るまでは信じないぞ!」
「まったくあんたも強情だからねぇ。わかった。ならまた明日昼に来るよ、そこであんたの目の前であの巫女を倒してやるよ。もしわたしが負けたら、帰れなんて言わないよ」
「わかった。約束する、もし霊夢が負けたら、わたしは旧都に戻る」
「あぁ、鬼の約束だ」
「うん。約束」
「それじゃあ、私は一旦旧都へ戻る、また明日の昼にな」
「あぁ………」

 帰っていく勇儀の背中を見ながら、わたしは霊夢が心配で仕方なかった。
 霊夢……霊夢っ………



「もっと寄り道してもよかったわね………」

 気が重い。
 まっすぐと博麗神社に帰ってきてしまった。決心はした。ぐらぐらと揺れてはいるものの、どうするかも決まっていた。
 あとは実行するだけ。ただ、それだけ。
 夢の時間は終わり。
 もう……終わり……

「あ………」

 境内に腰掛けて、萃香が待っていた。
 きっとあの子のことだから、私が帰って来たのがすぐに分かるようにあそこにいたんでしょうね。
なんで……なんでそんなことするのよ。私の決心が揺らぐじゃない。
やっと決意したのに……やっと決めたのに……

「霊夢…!」

 私を見つけた萃香が駆け寄ってくる。なんだかいつもと雰囲気が違う?
 でもダメ。聞いちゃダメ。どうしたの? なんて聞いちゃダメ。突き放すんだ、この子を。私のもとから。

「霊夢! さっきな! 勇儀が……」
「………」

 私は、ただの一瞥もなく、萃香の横を通り過ぎる。あの子の顔を見ちゃいけない。見ることができない。

「霊……夢?」

 後ろで萃香の戸惑う声が聞こえる。
 ごめんなさい。こんなやり方しか思いつかなくて。ごめんなさい。あなたを傷つけてしまうこと。

「なぁ! どうしたんだ!? 霊夢!!」

 振り返っちゃダメ。言葉を返してもダメ。私が博麗の巫女に戻るために。戻らなくちゃ萃香もみんな消えてしまう。この幻想が消えてしまう。
 だから、ダメ。突き放さなくちゃダメ。例えどんなにつらくても。

 少しでも幸せになろうなんて考えた私への罰。

 私は私を殺さなくちゃいけない。博麗の巫女を演じるために。

「霊夢! 霊夢!!」

 私は玄関の中へと入ると、萃香が入ってくるのを待たずに戸を閉めた。

 ぴしゃんという音がやけに響いて聞こえた。

「れい………む?」

 戸の向こうで、震える萃香の声。お願い、もうそんな声を聞かせないで。

「なぁ、れいむ……わたしが見えないのか? れい…む」
「出ていって………」

 扉越しにそう言い放つ。

「え………?」
「出ていってって言ってるのよ!」

 ダメ! 私が泣いちゃダメ! 泣いたらばれちゃうじゃない! 泣かないで、涙を流さないで!! 止まってよぉ、お願いだから!

「私はあなたといたくないの! だから出ていってほしいのよ!!」
「なん…で? ひっく……なんでだ、れいむ……ぐすっ…」

 泣かないでよ! あなたまで! 耐えられなくなるじゃない! 我慢できなくなるじゃない!

「れい…れいむ、は……ひっく…わたし、わたしのこと…きらいに、なったのか!?」

 そんなわけないじゃない! そんなわけない! 大好き! 大好きよ! 伝えたい! 今すぐこの扉を開けて抱きしめたい! けど、ダメ。できない。してはいけない。

 言わなくちゃ言わなくちゃ……

「き……らいよ」
「あなたなんて嫌いなのよ!! だから、だから早くどっかに行って!!」
「………」
「あ………」

 戸の向こうから萃香の足音がして、すこしずつ遠くなっていく。彼女は私のもとから去った。去って行ったんだ。

「違う……違うの……ホントは嫌いなんかじゃないのよ? 違うのよ。私はあなたが好き……好きなの……萃香ぁ……萃香ぁ!!」

「なんで!? なんでこんな想いをしなくちゃいけないの!? ヤダよ! 寂しいよ! 一緒に居てほしいよ! 一緒に居させてよ!! 萃香! 萃香! 萃香ぁ!! うわあぁあああああああああ!!」

 一度溢れた気持ちを私はどうすることもできなかった。

 ただただ、涙として外に流し続けるしか………
あい、ここまで読んでいただきありがとうございました。前回コメントしてくださった方、点をつけてくださった方ありがとうございます。とても励みになります!

えっと、まさかの中編です。ボク自身びっくりです。前篇を呼んでくださった方もびっくりですよね。「あぁん!? 中!?」的な。
量的な問題で、やむを得ず急きょ三部作になりました。あまり長いと読むのも大変だと思ったので。突然の予定変更申し訳ないです。

途中、アクションっぽくしたかったのにできなかったので、自分の実力のなさが切ないです。それでも、もっとこの二人をかわいく書きたい! だって二人ともかわいいんだもん。
兎にも角にも、さっさと後篇を書いてUPしようと思います。次で絶対終わります!
拙い文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。

追記:諸事情により記載を一部変更「夢想封印 集」→「夢想封印」
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.500簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
面倒だから素直に言うぞ!
二人が心配なんだぁぁ!!誰かなんとかしてくれえぇぇぇぉぉ…(涙)
4.100名前が無い程度の能力削除
二人とも十分かわいいですよ!
後編はもっとかわいい二人に期待します
8.無評価名前が無い程度の能力削除
後編に期待を…。
心情的には100点だけど、後編が気になって仕方ないからここはフリーにさせていただきます
10.100名前が無い程度の能力削除
さぁ、早く続編を書く作業に戻るんだ。
続きが気になりすぎるゥ
14.100名前が無い程度の能力削除
早く続きを…いやいや、じっくり書いて下さいな