「なかなか斬新な遊びでしたね」
「……ああ」
言って、私は喉奥から沸きあがってくる血を、目の前の女の顔に滴らせた。
全身が痺れて、終いには脳まで麻痺気味だ。
――だからだろう。
もう千年以上も認識のある、その飽きかかった彼女の顔を、心の底から綺麗だと思ってしまった。
白くて長い髪と、それを縛る大きなリボンが彼女のトレードマークだ。
紅の瞳も彼女のシンボルだと言えるかもしれない。
顔たちはどこまでも幼く、向けられる瞳にはあどけなささえ残っている。
千年と云う長き年月を消費したとは思えぬ可愛らしい顔。
その頬に落ちていく私の血液。
故意ではなかったけれど、結果として普段と違う女の顔が見れたのは僥倖だった。
「ほら、な。殺し合うにも、趣向を凝らしたほうがより面白いってもんだ」
笑うその顔も魅力的――いや、蟲惑的で。
私はつい、手に持っていた『竹槍』に力を込めてしまった。
「痛……っ!」
「――あ。ごめんなさい。つい力が入っちゃった」
「っざけんな、お返しだ!」
「げ――――っ」
今のお互いの様子を、赤の他人が見たらどう思うだろうか。
竹槍でお互いの腹部を刺し合っているこの構図。
まぁ……幻想郷の住人でなかったら、間違いなく悲鳴モノだろう。
私はまたも血の雨を降らせることとなった。
今度は滴る、なんて甘いものではなく、塊を顔にぶちまけた。
ぶちゃり、と生々しい音と共に相手の顔の半分を侵す真っ赤な血。
ズキン、ズキンと波打つ痛みに、神経が高揚していく。
ああ――――――私、生きてる。
「――――っ、は……ぁっ」
「ぐっ……」
お遊戯はここまで。
夜の色も深くなってきた。
これ以上の夜遊びは永琳に怒られてしまう。
相手から竹槍を引き抜くと、それを野に放り投げた。
からん、と乾いた音。
どうやら上質な竹を使っていたらしい。
そこいらに転がっているモノを使えばいいものを、彼女はいちいち律儀なのだった。
――とはいっても、普段は大雑把丸出しだけれど。
「……はい、これ」
袖に隠していた包み紙を彼女に渡す。
中身は永琳の作ってくれた粉薬だ。
効能はもちろん痛み止め。
私もこの娘も不死者なので傷を癒す薬は必要ないのだけれど、どうしても痛みだけは発生してしまう。
だから痛み止めくらいはあった方がいい。
永琳は薬師の一族で、その腕は三千世界一だと私は自負している。
――いや、自負といっても、作ってるのはあくまで永琳なんだけどね。
けれど主人と側近は一心同体。
私の功績は永琳のモノ、永琳の功績は私のモノである。
「いらないよ。そのうち治るし」
「それはそうだけど。……痛くないの?」
「そりゃ痛いけど……。でも今は、この痛みがあった方がいい」
「そう、ね」
それには私も同感だった。
痛み――それは、私にとっても“生きている証”と呼べるものだ。
億を生き、また次の億も生きる私にとって、無くてはならない自己確認作業――それがこの『殺し合い』なのだ。
「そら。いっちまえ」
「そうする」
お互い、相手の体に風穴を開けておいてこれはないだろうと思う。
けれど、これが私と彼女――藤原妹紅の接点であり付き合い方だった。
今更その関係式を壊そうとは思わない。
次の千年、またその次の万年も、こうして妹紅とは殺しあい続けるのだろう。
よくもまぁ人間の身でそれだけの憎悪を維持できるなぁと関心するけれど、妹紅が憎悪を忘れなければ、この居心地のいい関係は維持できるのだ。
終わりの無い人生。
けれど終わりの決まっている関係に、我ながら苦笑してしまう。
でも、それでも――――今、この瞬間だけは。
私こと蓬莱山輝夜は、藤原妹紅と共に生きている。
~~~考察事~~~
「まったく……お好きですね、輝夜は」
「あら。貴方だってそうでしょうに」
帰宅してきた私に、開口一番そんなことを言ってきたのは、私の側近役兼相談役の八意永琳その人だった。
「私はそんな無様な決闘はしませんし」
「……やっぱり、無様に見える?」
「そりゃあもう」
泥だらけ、草まみれ、血糊べったりな姿を目の当たりにすれば、誰だってそう思う……と思う。
まぁそれでも充実した時間を送れたから、文句は言うまい。
……たとえ明日、洗濯する永琳からブツブツ言われたとしても。
「お水にしますか? それともお茶にします?」
「お茶がいいな」
はい、と短く返事をして永琳は奥へと消えた。
さて、と。
私も着替えなくちゃ。
「それにしても、もう千年は経つんですねぇ」
「何が?」
縁側で団子を頂戴しながら楽しくお茶をしていると、ふと永琳がそんなことを言ってきた。
「妹紅ですよ、藤原妹紅」
「そうねぇ。千年と三百年、かな」
「よくもまぁ人でありながら付きまとったものです。輝夜は月の姫だというのに」
少し難しい顔をする永琳に、私はすんなりと答える。
この手の話は幻想郷での日々で幾らかの住人から聞かれてきたから、私の中で模範解答のようなものが出来上がっていた。
「それを言ったら、妹紅だって人間の姫よ」
「それはそうかもしれませんが……」
珍しく食いついてくる永琳に、少しばかり毒気を抜かれてしまった。
「どうしたの?」
「いえ、コレといっては無いですけど……」
今日は珍しいことばかりだ。
あの明瞭明確な話し方をする永琳が言葉を濁すなんて。
ニョキリと好奇心の首がもたげてきた。
今夜は月見にはもってこいの空模様と月模様。
少しばかり、羽目を外すのもいいでしょう。
「けど?」
「いいえ、なんでもないです」
「永琳?」
「~~~っ……。わ、わかりました。ではお尋ねします」
陥落した。
永琳はこうやって目で訴えると折れてくれる。
これは長年の経験から得たモノだ。
「何でも聞いて頂戴」
「なら聞きますが。輝夜は藤原妹紅をどのように思っておいでですか?」
「――――え?」
それは予想していない質問だった。
――妹紅をどのように思っているか。
私は、妹紅をどう思っているのか。
「はっきり申しますが、私はあの藤原不比等という輩が好きではありません。輝夜だってそうでしょうに。どうしてその娘である妹紅と、あのように戯れになるのでしょうか」
「…………」
藤原不比等――――その単語を聞かされた私は一瞬、思考が抜け落ちてしまった。
それほど遠くは無い過去。
その中にいた、一人の男性。
彼こそは大臣と呼ばれ、国の実権を握るに等しき権力を持ち合わせていた人物。
私に求婚の話を持ちかけてきた一人で、最期は病に倒れた可哀想な人間。
「輝夜?」
「あ……ううん、ごめんなさい。そうねぇ、どうしてかしら」
私が彼を拒絶し、それでも諦めなかったために押し付けた無理難題を、皇子という立場を利用して金で解決させようとしたのは記憶にもちゃんと残っている。
すでに子を持ち満面な家庭を築いていた男に、私は鼻で笑ってしまった。
こうして振り返ると、確かに心証は最悪だった。
その愛娘を、どうして私は容認しているのか。
……確かにおかしい。
自然体となってしまった今だからこそ抱けない、その疑問に、私は永琳の言葉でようやく至れた。
「わからないのですか?」
「うん……何故かしらね。そうだわ、どうしてかしら」
「……輝夜?」
わからないのなら、思い出すしかない。
私は永琳を制止させつつ、過去の記憶を呼び起こすことにした。
きっと平和ボケした今の私が忘れていることがあるはずだ。
――――今から約千年前、時代は奈良と呼ばれていた頃に思いを馳せる――――
☆★☆
「あー……痛っつー……」
腹部はジンジン、喉はズキズキ。
背中は汗と血でべったりと気持ち悪いことこの上ない。
――それでもこんなにも満ち足りている私が、いる。
「…………」
見上げると月はどこまでも白くて。
まるで空に穴でも開いているかのようだ。
普通の表現なら白地に黒い穴なのだろうけど、きっと空に開く穴は白い色をしているのだと、柄にも無くちょっとろまんちすとなる者になってみた。
――いや、それにしても。
「立派な月だなぁ」
思わず溜め息が出るような光景だ。
こんなことなら、月見の支度でもしてくるんだったなぁ。
「いてて……」
体を起こすと、ぶしゅっ、なんて洒落になってない音が腹部から漏れた。
風穴が開いているのだから当たり前なんだけど――――くそう、次回からこの作戦はやめよう。
そもそも、殺伐な殺し合いに飽きて趣向を凝らそうなんて考えたのが失敗だ。
こんな、見るからに切れ味の悪い竹槍なんかで刺されたら、そりゃ痛みも倍増に決まってる。
いつもなら殺し合いの痛みは輝夜のせいにしてしまうのだけれど、今晩のコレは完全に私が悪い。
輝夜の申し入れ通り、痛み止めでも貰っておけばよかったかな……。
ま。そんなことしたらこんな良い気分は味わえないだろうけど。
何せ、私には“生きている実感”を持てる機会が他人より少ないのだから。
「ふぅ……」
そよそよと気持ちの良い風が吹いている。
けれど野に咲く草木はとても静かで。
こんな夜は、つい昔を思い出してしまう。
あの、虚しかった毎日を。
生に関する全てがあって、けれどそれ以外の全てが透き通った無色透明な日々。
そして私の原罪が潜む、どす黒い過去。
「ああ、イヤだ。参るなぁ、もう……」
がりがりと頭をかく。
それは今でも鮮明に思い出せる、自分自身の記憶の海――――。
☆★☆
どうしてそんなことになったのかは解らなかったが、少女はそれを肯定した。
……いや、肯定せざるを得なかった。
「妹紅、お前はいない人間だ、解るな?」
いいえ、父上殿――――などと言えるはずも無い。
自分が災厄のタネであると聞かされてしまった今となっては。
「はい、父上殿」
昔から不思議だった。
他の兄妹はみんな外に出て、宮中で流行の貝合わせや蹴鞠をしているのに、どうして自分だけは外に出られないのか。
教育も無ければお叱りも無い。
日々をここで過ごせと、その厳命の下に自由を奪われた。
幼かった少女からしてみれば、初めから無かった自由を不自由だと思える心など無い。
ただ疑問があっただけ。
どうして自分だけ――――それが藤原妹紅の、記憶にある中で最初の疑問だった。
それが解決したのは、たった今しがたの事だったが。
『お前は災厄の娘であるが故に、決してここから出てはならぬ』
そんな意味が込められていたとは露ほどにも思わなかった。
しかしそれで全てが納得できた。
――宮中に閉じ込められている理由も、全身に貼られた札の意味も。
『その札を一時も外してはならぬ。それはお前の穢れを世に出さないためのモノなのだから』
父の言葉は神言の如く妹紅の心を締め付けた。
お前は災厄の娘で、ここから出られないのは自身のせいだ、と。
それでもなお納得できない部分もあった。
だからそれを父に伝えた。
「なら、どうして私は生きているのですか?」
災厄だと言うのなら殺せばいい。
自分が死ぬ事でみんなが笑ってくらせるのなら、それはそれで意義のある死といえよう。
危険な者を匿い、生かし続ける意味など、一体どこにあると言うのか。
今まで饒舌に、そして甘やかすように説明をしていた父が、突如怒り狂ったように叫び始めた。
「うるさい……ッ! お前はただ木偶の如き生きていけば良いのだっ!!」
「ち……父上殿……?」
吹き荒れる竜巻の風のように暴れまわり、娘を蹴り上げる父――不比等は、まさに修羅を思わせた。
わずかな重量しか持たない妹紅は軽々と蹴り飛ばされ、ついには彼女の宝も同然だった屏風も破壊された。
そうして妹紅は理解した。
――逆らってはいけない。
――口を開いてはいけない。
――見つめてはいけない。
その日から、ますます妹紅は外への関心を失くしていく。
面白そうだと思った蹴鞠にも振り向かなくなった。
振り続ける雨にも、春を告げる風にさえ興味を失った。
それでも生き続けたのは、偏に父の怒りを買いたくなかったからだ。
壊れた屏風もそのままに、一日五回の食事と排便だけを繰り返す日々。
その日常に終止符を打ったのは、意外にも一人の女の存在だった。
「そうなんですよ。皇子様はどうやらその娘御に夢中なようで……」
「そうなんですか? あらやだ、これ以上奥方が増えて一体何になるんでしょう」
女中たちの意見はもっともだ。
もう跡取りもおり、一族の安泰は約束されたも同然なのに、何故今になってそんな騒動を起こす必要があるのか。
世の常識を持たない妹紅にはそもそも理解し難い案件ではあったが、死に体であった心が小さく鼓動する音を、はっきりと聞き取ったのだった。
そしてその日から、妹紅は宮中をひっそりと抜け出す事にした。
目的はただひとつ――父が夢中になっているという女の正体を突き止めるため。
ただの好奇心が、これより後に繋がる悲劇の幕開けになるとは、このとき誰も……本人さえも……知る由も無かった。
/
しばらくして、女は『なよ竹のかぐや姫』と呼ばれていることを知った。
見た目はかくも麗しい。
高貴な人間を多く見てきた妹紅は、直感だけでこの娘が只者ではないと感じ取っていた。
人間離れしたその美貌もさることながら、聡明な会話内容、可憐なる仕草、こちらの心臓を射抜くかのような赤い瞳――――それらの全てが、普通の人間とはどこか違うことを示しているのだと、頭ではなく魂で悟っていた。
草葉の陰からしか見た事がないが、父である不比等の様子を見ている限り、妹紅の直感は確信に変わっていった。
まるで魔に魅せられた導師のように、父から生気が抜けていくのがわかる。
そうしてついに父は、その魔に魂を全て抜かれる羽目になった。
求婚を申し込んだ欲深き藤原不比等に、なよ竹のかぐや姫から出された課題は『蓬莱の玉の枝』を持ってくる事。
妹紅にはそれが何なのか知る由も無かったが、それが無理難題であることは他の求婚者の惨状を見ればすぐに理解出来た。
ある者は持ってきたナニかを叩き割られ、没。
ある者は持ってきたナニかを燃やされ、没。
ある者は持ってきたナニかを見せる前に死に絶え、没。
ある者は持ってきたナニかを見せようという気概も無くなり、没。
五人いた求婚者のうち、四人が没落したのだ。
それが無理難題であることは火を見るより明らかである。
にも関わらず、不比等は悠長にも屋敷でのんびりとしていた。
他の求婚者たちは各々苦労しているようだったのに対し、父親のなんとも腑抜けた姿に、妹紅は胸が痛んだ。
それは彼女がうまれて初めて知った“幻滅”という感覚だった。
そして屋敷で自由を満喫した父が難題に対し出した答えは、
「いけませんね、これは」
恥辱を与える言葉で終焉を迎えた。
なよ竹のかぐや姫から言い渡された判決は、その後の父の没落に大きく貢献することになる。
本物の『蓬莱の玉の枝』だと胸を張って手渡したソレは、本当に稚拙な贋作だったのだ。
かぐや姫は口端を吊り上げながら、笑いを堪えていた。
そのときの妹紅の心情を、なんと表現すればいいだろう。
――――虚無だった。
悲しくないし、悔しくも無い。
父の惨事を見ても心が動かない。
そんなはずはないと思ってみても、やはり心は瀕死だった。
約束されていた事故を見ても心は動くまい。
驚いたとしても、すぐに霧散するその感動。
妹紅は重い足取りで岐路に着く。
そこで待っていたモノは――――。
『お前さえ――――お前さえいなければ!!』
激昂は、ただ小さな体にのみ向けられていた。
目を剥き出し荒い息遣いで、少女の体に傷を与えていく。
『これだったのだな、これだったのだな?! 災厄とは――――! お、おおおのれぇぇぇ……っ!!』
体が壊れていく / 心が壊れていく。
髪が引きちぎられる / 心が引きちぎられる。
血液が失われていく / もう何も出ない。
「ち、ちちう……」
ごきん、と。
もうお前は喋るなといいたげに、不比等は妹紅の顎を踏み抜いた。
「、、、、、、、、、、、!!」
喋れない。
声が出せない。
ただ芋虫のように蠢くのみだけしか出来なくなってしまった。
……その一連の惨劇を、妹紅はどう受け取ったのか。
少女は痛む全身と心を抱えながらも涙ひとつ見せず、現実逃避の手段として、ただ独りきりの楽園の世界へと意識を落としていった。
☆★☆
―――暇。
それが私の口癖だった。
「ひま……」
争いも無ければ刺激的な事件も無い。
この世の全てはそういう風に出来てしまっているのではないかと、私は本気で心配している。
なにせ退屈なのだ、世界がそうであったとしたら、この先この感情をどうコントロールして生きていけばいいかわかったものではない。
刺激の無い生活なんて、生きてても死んでるのと一緒だ。
生きている実感がないもの。
そんなの、死んでるのと何も変わらないじゃない。
「だったら私の手伝いをしますか?」
「イヤ。だって永琳のやってること、理解出来ないもの」
薬を開発するのは大いに結構。
けれど何の知識も無い私にそれを手伝えなんて。
それこそ拷問のようだ。
「しょうがない。今日は下でも向いて過ごそ――――」
その“下”と言う単語で、私は名案を思いついた。
……そうだ、地上に行こう。
/
こうもあっさり計画通りにいくとは、流石の私も予想してなかった。
「――よってお前を地上へと追放する。異議はあるか」
「いいえ」
神妙な顔つきで答えてみる。
すると目の前の怖い顔の人は、うむ、なんて偉そうな言葉一つ残して去っていってしまった。
「か、かぐや……っ!」
「あ。永琳」
「永琳じゃありません! 何故このような事をされたのです?」
「このような事?」
「しらを切らないでください。『蓬莱の薬』を飲んだ事です!」
プリプリと怒る永琳の顔を久々に見た私は、つい吹き出してしまった。
「な……っ」
「ごめんね、永琳。でも私、地上は結構いい場所だと思うの。だから心配しないで」
「輝夜……」
蓬莱の薬は不老不死の薬。
月世界では禁忌の薬なのだとか。
私はこれからその罪のため、計画通り地上へと向かう。
これでようやく自由になれるんだ――――そう思うと、ぞくぞくしてきた。
「それじゃあね、永琳」
どこまでも心配そうな顔をする永琳に別れを告げて、私は罪人として地上へと行く準備を進めた。
/
はっきり言って、地上も月とあまり変わらなかった。
私を拾い育ててくれたおじいさんとおばあさんには感謝するけれど、私が望んでいたのは『退屈しない日々』だったのに。
月の監視のせいか、竹取が生業のおじいさんは毎日のように竹から黄金を持ち帰ってきた。
おかげで貧乏どん底だったはずのこの家は、見違えるように長者のそれになってしまった。
罪人として地上に送られた私は当初、とてつもなく姿形を縮められていたのだけれど、それももう本来の大きさまで戻ってしまっていて、生活も不自由なくて、本当に……本当に月の生活と変わらない。
変わったところがあるとすれば、それは隣に永琳がいないことくらい。
あとは元通りだ。
月の監視人たちもなんてことをしてくれたのだろうか。
こんなの、罰でもなんでもないじゃない……。
「で、かぐや。どなたを選ぶのじゃ?」
そうして現在、私は非常にやっかいな事件に巻き込まれてしまったのだった。
人間から見れば私は“大層”お美しいらしく、求婚者が五人も現れてしまったのだ。
そもそも結婚ということ自体なにも考えてなかったし、私はその気が無いし、まだ全然その歳でもない気がするのだけれど。
人間の年齢で行けば適齢だ、と言われてしまえば……まぁ、その通りなので、致し方ないというか何と言うか。
「選ぶって言われても……」
にこやかに会話をふってくるおじいさんたち。
笑顔がこの上無く眩しい。
眩しいので――――私はいつも困ってしまうのだ。
ここまで心を通わせてくれた人に、私は嫌とは言えない。
恩を仇で返すなどもってのほかだ。
これが永琳なら、その明晰な頭脳で華麗に抜け出すんだろうけど、残念なことに私にはそれだけの知識もなければ機知も無い。
つまり、相当な危機を迎えているのである。
「う~~……」
今の状況は言わずもがな、非常にまずい。
まだ自分の眼鏡に適う男の人からの申し出であったのなら、これほど嫌な思いはせずに済んだものを。
どうしてよりにもよって地上の権力者たちは、こうも醜悪な顔つきばかりしているのだろうか。
「うう~~……」
普段使いもしない脳を最大限まで稼動させる。
月ではいつも永琳が頭脳だった。
だからこれはきっと、私に下った罰なのだ。
人に丸投げばかりで自分では何もしない。
私は望んで永琳と別れてまで地上に来た。
それなら、これくらいのことは自分で解決出来なければ……!
「あ」
意気込んだ瞬間、ふと何かが脳裏を横切った。
――――名案が脳髄を焼く。
「ああ、そうか」
まるで憑き物が剥がれ落ちたかのような爽快感。
全身を駆け巡る喜び。
……ああ、私もやれば出来るんだ!
今までの私は、本当の本当に、そこいらの掃き溜め場の底辺ほどまでに堕落していたらしい。
「おじい様、おばあ様。その五人をここへ連れてきてはくれませんか?」
「それでは私から御題を出させていただきます」
欲望に眩む眼差しを直視しないよう、目を逸らして口を開く。
「まずは石作皇子様。貴方様は『仏の御石の鉢』を持ってきていらして」
「えっ」
「次に車持皇子様。貴方様は『蓬莱の玉の枝』を持ってきていらして」
「な……」
「右大臣阿倍御主人様には『火鼠の皮衣』を」
「お、おい」
「大納言大伴御行様は『龍の頸の五色の珠』を」
「……」
「そして中納言石上麻呂様には『燕の子安貝』を」
「子安貝?」
各人、予想通りもしくはそれを上回るほどの狼狽振りで、思わず笑ってしまいそうになる。
――――ああ、考えるって、こんなに面白い事だったのね。
「期日は問いませんが、翁もこの様相です。早いに越したことはありません。私の提供した御題を逸早くこなせた方の妻と相成りましょう」
あくまで貞女の振る舞いでそう言い切ると、男性陣からは苦悶の呻き声が聞こえてきた。
まぁ……それも無理は無いんだけど。
何せ私が出した御題は、この地上人たちには決して解けないであろう難問なのだから。
「では」
そうして、今日の会合はお開きとなった。
/
1
伝承に曰く、その鉢は『打たれても決して割れることなく、その輝きは他に勝るものなし』とされ、入滅した釈迦の秘宝とされていた。
天竺に在りてまず日本国内にはあるはずの無いソレを、石作皇子は海外へと渡ることも無くどうだと言わんばかりに輝夜姫へと献上した。
「これこそ正に『仏の御石の鉢』であるかと」
畏まりつつも卑猥な笑みを浮かべる石作皇子。
その脂ぎった顔は、険しい道のりを経て天竺と至った者とは到底思えぬし、彼の持参した輝夜への返答は、伝説の秘宝とはかけ離れたものであった。
およそ“輝き”とは無縁に見える代物である。
「これが……?」
さしもの輝夜も、この時ばかりは絶句した。
淑女として周知されている彼女ですら、その小さな口を大きく開けて驚愕していた。
それほどまでに目の前に出されたモノはお門違いだったのだ。
「さよう。見てください、この光さえも飲み込んでしまうような漆黒を! これこそ正に釈迦の鉢に違いありませぬ」
見れば見るほど贋作にしか見えない。
いや、そこまで目を凝らさずとも、これが偽物であるのは一目瞭然だ。
この男は一体何を勘違いしているのか、光り輝く鉢を探せといった輝夜の言を聞いていなかったのか。
呆れ返っていた輝夜ではあったが、翁たちの目線にはっとし、慌てて取り繕った。
「で、ではそれが本物だと証明出来ますか?」
「え?」
「本物の釈迦の秘宝は『打ち崩れることなし』とあります。――――さぁ、その鉢を打ってみなさい」
言われて、石作皇子はギョッとした。
まさか『仏の御石の鉢』がそのようなモノなのだとは知らなかったのだ。
ただ部下から聞いた話で、ソレが天竺にあると聞いただけ。
どれだけその物が貴重かであるかには興味が無かった。
どうして輝夜が鉢を欲しがったのか、その理由さえ無関心だったのである。
だが時すでに遅し。
輝夜の意によって側女が玄翁を振るうと、
「あ――あぁ……」
ごしゃん、と鉢が粉砕された。
それも当然だ。
何せ持参したこの鉢は、大和の国の山寺から持ってきた、煤で汚れた、ただの鉢だったのだから。
これにより石作皇子は完全に御題解決に失敗した――――かに思われた。
「ま、待ってください!」
大慌てで皇子が懐から何かを取り出す。
それは、一本の棒切れであった。
「たっ、確かに私は御題をしくじりました。ですが、私の詩を聞いてくだされ!」
どうやらまだ輝夜のことを諦めきれないらしい。
だが――――
「私は確かに条件をお伝えしました。……それでは。もう会うことも無いでしょう」
凍える雪女のような紅い眼で、石作皇子の双眸を覗き込む。
完全に呆気にとられた皇子は、ただ、何も言い返すことも出来ずにへたってしまった。
2
伝承に曰く、その衣は『火鼠の皮から作られ、決して燃えることが無い』とされ、大陸の南方にしか無いとされていた。
今度の献上者は右大臣阿倍御主人であり、その顔には余裕が満ち溢れている。
それもそのはず。
彼は類無きほどの大金持ちであり、石作皇子のように『自分から取りに行く』事などしなかった。
――いや、する必要が無かったのだ。
彼は誰もが羨む金持ちだ。
買ってしまえばそれでよし。
どれだけ高かろうが、どれだけ金をはたこうが関係無い。
ただ自分の望むことが達成できるのなら、掃いて捨てるほど有り余っている金など、いくらでも消費してやろうと言うのが阿倍御主人の考え方であった。
「これが本物の『火鼠の皮衣』なのですか?」
「はい。わざわざ唐の商人から取り寄せたものにございます。ご検分を」
差し出されたるは、一枚の紅く絢爛な衣であった。
紅い下地に煌く金の装飾。
例えこれが本物の皮衣で無かったとしても、諸人はその威光に眩暈を覚えることだろう。
……だが、それほどまでに豪華絢爛な衣を前にしても、輝夜は眉一つ動かさない。
そして、用意されていた松明から一本の枝木を手にし、阿倍御主人の用意した衣に松明の火を放り投げた。
その場にいた者たちがみな、固唾を呑んで見守っている。
けれど輝夜は――――笑っていた。
「あ……」
ポツリと漏れた声。
それは、右大臣阿倍御主人の嘆きの声だった。
「ああ……」
大金を注ぎ込んで手に入れた衣が、ひと夏の花火のようにパチパチと音を立てながら燃えていく。
見守っていた人々も、落胆の息を吐きながら首を横に振った。
立ち上がる煙は真っ白で、ぎらつく太陽に吸い込まれるように天に昇っていく。
その様をただ唖然と見上げながら、右大臣阿倍御主人は静かに膝から崩れ落ちた。
3
伝承に曰く、その珠は『龍の頸にあり、五色に光り輝く』とされていた。
つまりこの珠を捜すにはまず、伝説に名高い『龍』を探し出さなければならなかった。
龍は水神であり、中国では古来から雨を降らせ国を栄えさせる神として祭られ、時の権力者たる王には龍包と呼ばれる着衣を着ることが許された……という具合に、神聖極まりない伝説の生き物である。
その姿を見たものはおらず、怒りに触れれば大暴風雨を巻き起こすとされ、誰一人として神の化身である龍に挑もうなどと思うものはいなかった。
しかし勇猛で名高い大伴御行は、これを討伐せんと息巻く。
まず龍が住まう場所を探さねばならないと考えた彼は、自分の配下達に私財をなげうって旅費を渡し、居場所を突き止め、あわよくば龍を殺してこいと命じた。
だが旅費を手渡された配下たちは戦々恐々とし、自宅に引きこもったりそれを元手に姿をくらませたりと、誰一人として探索をしようとはしなかったのである。
それも仕方の無いことだ。
科学の発達した現代でさえ、天災や飢饉といった自然の力は脅威である。
当時、天からの怒りは抗いようが無く、諦めるしかなかった人々にとって龍神を刺激すると言うことは、すなわち自分たちの生活が成り立たなくなることを意味していた。
ひとたび飢饉が起きれば、大勢の人々が死に、食物がなくなれば飢えるのは自分だ。
そう解っていて、怒らせるために龍を探しに行くなど、正気の沙汰とは思えない。
しかし大納言である大伴御行は諦められない。
「なんという腑抜けたちだ。我が精鋭兵とは思えぬ。――もういい、私が自ら射殺してくれる」
国内において彼より強い軍を指揮する者はいない、とまで嘯かれたほどだ。
自惚れも強いとはいえ武術だけなら、もしかしたらこの国で敵無しと言えるほどの実力を持っているかもしれない。
腕に覚えのある大伴御行は、まるで猪狩りにでも出かけるような心構えで出陣した。
――――だが、それが失敗の種だった。
「う――お、おおおぉぉ……っ?!」
大きく揺れる船内。
雨風は一向に止む気配は無く、天を前にあまりにも小さな船は、面白いように蹂躙されていた。
踏ん反り返って出陣した大伴御行が、行き当たりばったりでたどり着いた筑紫の国。
そこで彼を待っていたのは、あれほどまでに射殺してやるなどと豪語していた相手だった。
「お、お助けを……! お助けを――!!」
龍は水と風の象徴である。
作物を育てる雨を降らすのも龍であり、愚かな人間を罰するために大暴風雨を使って天災を巻き起こすのもまた、龍の役目だ。
そんな、六つにもならない小さな子供でも知っていることを、大伴御行は失念していた。
いや、自分ならどうにとでも出来ると思い上がっていた。
その結果がこのザマである。
彼は武門の誉れも誇りもかなぐり捨て、一心不乱に祈り続ける。
「もう二度とこのような事はしませぬ! 此度だけは……此度だけはお許しください!」
風雨が吹き荒れる悪天候の中、輝夜を娶るためにここまで来たことさえ忘れ、大伴御行は命乞いを続けた。
「――と言う事で、大納言大伴御行様はここには来られませぬ」
「そうですか」
言って、輝夜は袖で口元を隠した。
理由はもちろん、笑っているところを見られない様に、である。
「それで、その後、大伴御行様は?」
「それが……奇病にかかってしまわれたらしく。前妻様も寄り付かないのだとか」
「前妻? 奥方がいらっしゃったのですか」
「はい。ですが輝夜様との縁談を信じ、離縁されたそうです」
「……そう」
今にでも大笑いをしたい気持ちを抑えつつ、輝夜は静かに言う。
「ご苦労様でした。真に残念ではありますが、大納言大伴御行様は没落、と言う事で」
その後、大伴御行は荒れ果てた我が家にて奇病との戦いに明け暮れたのだとか。
4
伝承に曰く、その貝は『燕より出で、陶器の如き光沢を持ち、子安を約束する』とされている。
中納言石上麻呂は姫の言に従い、颯爽と準備に取り掛かった。
まずは自分の知るところになかった『燕の子安貝』についての調査をするため、親類から部下にまで話を聞きまわり、それがどんなものかを掌握することからはじめた。
彼は民に好かれ下々に好かれ、上から寵愛されるような、そんな人物であった。
全身からは和気が滲み出ており、彼の物事や人事に対する取り組み姿勢は万人受けするものであり、率先して彼を支えようとする人が現れるくらいである。
どれほどの人気があったことだろう。
そんな石上麻呂に出された御題は『燕の子安貝』を持ってくること。
他の求婚者たちと比べれば、なんと優しき問題か。
子安貝など、燕が生んだか生まないかなどわかるはずも無い。
だから、彼こそは偽物を持っていってもバレない簡単な御題なのだと、おそらく彼を除く誰しもが思っていたに違いない。
しかし――――彼は人がよく、出来すぎていたがために、嘘をつくことはしなかったのだった。
輝夜はそんな中納言石上麻呂の性格を知ってか、彼にこの御題を出したのである。
「では、燕が巣を作ったら教えてくれ」
それが、自邸での、使用人たちへの言葉だった。
なんという真面目さ。
燕の子安貝など、それっぽく作って持っていけば、それだけで渇望していた輝夜姫が手に入るというのに。
だからこそ、その使用人の一人が主人に問うた。
「ご主人様。お言葉ですが、何故そのようなことを言われるのでしょうか」
もっともだ、と言わんばかりに他の使用人たちも頷く。
しかしそれに気づかない石上麻呂は、きちんと回答をするのだった。
「実はな、燕の子安貝は燕を切り開いても出てこず、何故か卵を産む際にしか生まないのだという。しかも人に見られていると、その貝は消えてなくなってしまうそうな」
自分が調べたことを熱心に語る石上麻呂。
使用人たちは開いた口が塞がらなかったが、この人はこう言う人物なのだと今まで側で見てきただけに、溜め息を一つ漏らすのみにとどまった。
「わかりました。では作られましたら、お呼びいたします」
「おう。よろしく頼むな」
上機嫌で去っていく主人の後姿を見つめながら、使用人は愚痴のように言葉を漏らす。
「あの性格さえ直れば、もっと出世も出来るし輝夜姫も手に入るって言うのに」
「仕方ないさ。あれが主人のいいところなんだから」
「それもそうだな。……見つかるといいな、子安貝」
それが悲劇の始まりであるなどと、誰が予想しえただろうか。
「ぐっ……あ」
落雷のような凄まじい音を聞いて駆けつけた女人が目にしたのは、転がっている最中の鼎一つと、その付近で倒れている男の姿だった。
女人は大炊寮で働く者で、その倒れている男をよく知っている者だった。
「い――石上麻呂様!?」
慌てふためく女人。
しかしこの女人、何故高貴な身なりをした男を、石上麻呂だと判別できたのか。
それは石上麻呂が燕の子安貝を手に入れようと四苦八苦した経緯にある。
当初石上麻呂は、自邸にやってくる燕から子安貝を手に入れようと考えていたが、その間に助言をしたのがこの女人であった。
女人は大炊寮と呼ばれる、食料を管理する役所で使役される身であったのだが、ここによく燕が巣を作りに来ることを知っていたので、右往左往する石上麻呂を見て、つい口を挟んでしまったのが事の始まりだ。
そして様々な助言を聞き入れ、これに関心と感謝を覚えた石上麻呂は、自分の衣服を彼女に手渡した。
当時、この謝礼の仕方は最上位の感謝を伝えるモノであったため、女人は感激し、ずっと影から石上麻呂を応援していたのだった。
だと言うのに、何故その本人がこんなところで倒れているのか。
疑問に思い、周りを見渡すと――――納得がいった。
三メートルはあろう樹木の枝から垂れている、一つの縄。
それは、石上麻呂が自ら子安貝を手に入れようと用意した命綱だったのだ。
木によじ登り、燕の巣を見張り、そこで子安貝を手に入れる……そんな石上麻呂の考えを、彼女は知っていた。
だからここで彼が倒れているということは、つまり。
「しっかり! 気をお確かに!」
揺すってみても反応は無い。
白目をむいて気絶する石上麻呂。
どうやら、転がっていた鼎に頭か腰を強打したに違いない。
だが医者でもない女人には、一体全体どうしたらいいかもわからず徒方に暮れるしかなかった。
「まぁ、なんと言う事でしょう」
急報を受けた輝夜は、目を白黒させた。
まさかあんなにも簡単な御題でそんなことになるとは夢にも思っていなかったのか、初めからこうなるだろうと踏んでいたのかはわからない。
だが少なくとも今は、他の求婚者たちの時には覗かせた小悪魔な笑みは無く、ただぼんやりとしている。
「それで石上麻呂様は今……」
「息も絶え絶えのご様子です……」
心痛極まりないと面に出す女人の使い走りに、輝夜は言った。
「少々お待ちを」
「は……」
――そうして十分と経たずして書斎から現れた輝夜の手には、一本の木で出来た短冊が握られていた。
それを使者に手渡す。
「急ぎで悪いのですが、和歌を一つ。これを中納言石上麻呂に届けてはくれまいか」
「はい」
使者はそれこそ逃げるように、大急ぎで石上麻呂の元へと戻っていった。
「……そうですか。私ごときに、輝夜姫はこれほど手厚い贈り物をしてくださったのですか」
薄っすらと涙を目に張り付ける石上麻呂。
その顔はやつれきっており、今にも天へと召されそうであった。
「私も贈答しなければ……」
腰を強打したせいで、彼の腰骨はばっかりと折れてしまっていた。
今となっては起き上がることさえ出来ない。
それどころか、流行り病のようなものまで併発し、もはや死に体と言っても差し支えの無い状態である。
それでも、と石上麻呂は気力を振り絞って筆を執り、輝夜への贈答の歌を認めた。
「ふふ……しかし、子安貝ではなくフンを握った私の歌を、果たして輝夜姫は詠んでくれるだろうか……」
その声はどこまでも透明で。
筆が空を描いたとき――――彼の短い人生もまた、幕を閉じることとなった。
絶世の美女の求婚話に魅入られ、今をときめく輝夜から出題された御題の真実も見抜けないままに子安貝を求め彷徨い、挙句の果てに一人寂しく死んでいった中納言石上麻呂。
だがその最期は、不思議と満ち足りた笑顔であったと云う。
5
伝承に曰く、その枝は『遥か東の海にありき蓬莱山。そこに自生する、根は白銀、茎は黄金、実は白玉の枝』とされ、優曇華の花とも称されていた。
この難題に挑むは朝廷の権力者、その名も車持皇子こと藤原不比等である。
彼は右大臣をも勤めるほどの権力の持ち主であり、その栄華は天皇家のそれと比肩するほどであった。
人物が人物だけに、輝夜も最高難度の御題をぶつけたが、当の本人には何の重圧も見てとれ無い。
まるで稚児の遊びだと言わんばかりだ。
そんな彼が、ふと動きを見せ始めた。
「湯治のため、筑紫まで行って参ります故、暇をいただきたく」
「おお、行って参れ。たまには骨の髄まで休めるが良い。そなたは働きすぎだ」
上機嫌な天皇の声に、陰鬱な笑いをひた隠す藤原不比等。
鋭い眼光の奥には敬うべき天皇の姿など映っていなかった。
彼の目にはもはや、輝夜を娶ることしか映っていない。
「では」
音も立てず退場し、一人笑いを堪えながら宮廷を出た。
「では頼むぞ」
「へい」
そこは筑紫ではなく、難波の地だった。
車持皇子の周りを囲んでいるのは、この国の最高技師と呼ばれた人々である。
細工を任せたら右に出るものはいない、と囁かれた職人を六人、彼は雇った。
そうして職人たちに命じたのは、『蓬莱の玉の枝を製作すること』だった。
「秘密は厳守だ。守れぬ者は即刻死罪とする」
静かに頷く敏腕の職人の群れ。
その様を尻目に、満足そうに微笑む不比等の脳内にはもう、屋敷で監禁している娘の存在など一片たりとも残っていなかった。
ただ、目の前の欲に目を輝かせるだけである。
「待っていろ、輝夜姫とやら。私を名指しで選ばなかったこと、後悔させてやるわ」
漲る色欲につられるように、職人が下種な笑みを浮かべる。
彼らもまた、欲に駆られた愚者だった。
腰に巻かれた小さな巾着袋に、さらさらと砂金を零していく。
これだけの資材の山だ、少し盗んだとて解りはしまい。
しかし、たったこれっぽっちの砂金でも、彼らにとっては大金も同じだ。
生活がかかっている者と豪遊する者の差が、ここにある。
確かに職人たちの行いは最低なモノであろう。
だが、断じてそれを咎める資格は不比等にはない。
彼ら下々の血税で欲を満たす、不比等には。
そうして三年の年月をかけて、ついに枝は完成した。
たった一本の枝切れに三年もの日数を重ねた職人たちに、不比等はかねがね不満を募らせていたが、それもこうして完成品を見ると不満はどこかへと吹き飛んでいってしまった。
「おお、おお。見れば見るほどに美しい枝じゃ」
彼の感激ぶりは、職人たちから見れば滑稽なモノだった。
この調子では、まさか自分たちの私腹を肥やすためにわざと三年もかけて作っていたなどとは口が裂けても言うまい。
いや、理由が理由だけに言えるはずも無いだろうが。
「さっそく輝夜の元へと行くとしよう。これ、誰か」
「はい」
側近がやってくると、即座に用意された馬車へと乗り込む不比等。
それに一番驚いたのは、憐れ藤原と蔑んでいた職人たちであった。
「ちょ――ちょっと!」
だがすでに不比等の耳に彼らの声は入ってはいなかった。
「出せ」
「はっ」
命ぜられるままに馬を出す小姓。
職人たちは慌てて走り始めたが、早馬の脚力に人間如きが勝てるはずも無く、
「う、嘘だろ……?」
三年間も外界との関係を絶ってまで作り上げた至高の一品の、その製作代金を受け取ることが出来ず、ただ立ち尽くすしかなかった。
早馬はどんどんと速度を上げて行き、小さくなっていく。
終いには見えなくなった姿を、諦めきれない一心で見続ける最中、誰かがポツリと恨みを吐き出した。
「絶対に許さねぇ……」
その双眸に怒りと憎悪を点しながら、何も無くなった地平線を、六人はいつまででも眺めていた。
/
私は今、これまで生きてきた中で最大最悪の間違いを犯し、尚且つ最大最悪の状況へと立たされる羽目になった。
心の奥底から永琳がいてくれたら、と思う。
けれど世間ではそれを“世迷い事”と言う。
自分から自由が欲しいなどと言って、最後まで私を擁護していてくれた人を捨ててまで奔出したのに、どうして今更その人にすがりつけるだろうか。
ここには永琳はいない。
永琳は穢れなき月の民なのだから。
「どうでしょう? 信じていただけましたかな」
いかにもたった今、旅から帰ってきたと言わんばかりの姿で、車持皇子が私の目の前に現れた。
そしてその手にはあの『蓬莱の玉の枝』が握られている。
――まさか、とは思った。
けれどソレはどう見ても伝承通りのモノで、私はぐうの音も出なくなってしまったのである。
「いやあ、苦労しましたぞ、輝夜姫?」
にたり、と中年の男が気持ちの悪い笑い方をした。
背筋がぞぞぞっとして、悪寒が全身を蝕み始めてきた。
でも……どうして地上に蓬莱の玉の枝――いいえ、優曇華の花があるのかしら。
永琳の話では、優曇華は月の都にしか生息してなくて、地上に持ってくると穢れを吸って花を咲かせるって言ってた気がするんだけど……。
残念ながら私は本物の『優曇華の花』を見たことが無い。
だから目の前にある枝が本物かどうか、これっぽっちもわからないのだった。
「して輝夜姫。約定は迅速に果たされるべきではないですかな?」
「それが本物だと言うことを証明出来ますか?」
「証明も何も。貴方が言ったとおりのモノを持参したのですぞ? それを本物かどうか証明しろ? ――はっ、片腹痛いですな」
「く、車持皇子。少々言葉が過ぎるのではないですか?」
翁が慌てたように割って入ってきた。
まるでその様は、私を守らんとしているようで、不意に私は泣きそうになってしまった。
私は大事にされている――――。
それは永琳にさえ抱かなかった情だった。
きっと永琳は昔からいて、ずっと一緒にいるのが当たり前になっていたからだろう。
こうして離れ離れになって、ようやく気づくなんて……。
――――ああ、私は正真正銘の馬鹿者だ。
「おやおや。仮にも輝夜姫の親だというのに、何故もっと喜ばれないのですか? こうして求婚者が難題をこなして帰ってきたのですぞ?
これからは義父になると言うのに」
「む、う」
「さて。どうやらこれが本物だとわかって頂けたようなので。早速寝床を用意していただきたいのだが」
「な――――」
「どうしました? 夫婦が契りを果たすは自然の摂理でしょう。――さぁ、寝所を作りなさい」
翁を義父と呼んでおきながら、まるで召使いにでも命を下すかのようにやれと言う。
義母はその光景を、涙を堪えながら見ていた。
手塩をかけ愛情をかけて育てた大事な娘が、権力を笠に踏ん反り返るような男と夫婦の情を交わす――――それが、どこまでも残念で仕方が無いのだと、きっとそう思っているに違いない。
私を育ててくれた翁が熱望した縁談は結局、ただただ無念が残るだけとなってしまった。
それが悲しくて悔しくて、義母は小さく呻きながら胸を詰まらせたのだろう。
馬鹿な私のせいで全てが失われていく。
ああ、永琳、どうしてこんなことになってしまったの?
私が今まで何もしなかったから、その罰なの?
「それでいい。さぁ輝夜姫……いや、輝夜。こちらへ来なさい」
「…………」
「来いと言ってるだろう」
ぐいっと腕を掴まれ、腕に痛みを覚えた。
痛い、と抵抗しようとするも、車持皇子の顔を見て、それどころではなくなった。
「か……輝夜よ。やっと手に入れたぞ。どれほどこの瞬間を待ちわびたことか」
はぁはぁと、まるで犬のような息遣い。
目は血走っていて、涎を啜る音が聞こえる。
――――人間では、無い。
「い、いや……」
「さぁ輝夜よ。今宵は覚悟しろ。私をここまで貶めたのだ、その償いをしてもらうぞ」
細い手が伸びてくる。
掴まれた腕は、信じられないくらいに強固で、外れる兆しがない。
あと十秒とせず、私は喰われてしまう。
この、人の皮を被った獣は、どうあっても私を侵食したいらしい。
私をただの快楽の道具としかみていないであろう皇子を前に、心を砕かれてしまった。
間違いだらけの私の人生は、こうして今回も間違い、失敗するのだ。
……永琳を置いていった時のように。
「ああ……」
どうせ喰われるのなら、せめて石上麻呂に喰われたかった。
あの人は何故、みんなのように贋作を用いなかったのだろうか。
それだけが未だに謎だ。
確かに私はあの人の性格を利用してあの御題を出した。
けれどそれにまんまとかかるなんて思っても見なかった。
だってそうでしょう?
子安貝なんて、そこいらに転がっているのだし。
私が欲しいのなら嘘くらい平気でつくはず……なのに。
「…………」
――車持皇子の顔が近い。
子安貝を頼んだ時点で、彼の心は何を描いていたのか、非常に気になるところだ。
――車持皇子の舌が出ている。
子安貝は安産のお守りなのに。
――車持皇子の荒い息が顔に吹きかかる。
子安貝は一番簡単な御題なのに。
ああ――――永琳。
永琳、助け――――。
「おーーーーい」
……それは、どんな奇蹟だったのか。
ぴたりと侵略をやめる車持皇子。
硬直した顔からは、なにやら焦りのようなモノが伝わってくる。
「輝夜姫さんよぉ、いないかね?」
大きな声がここまで響いてくる。
それも一人だけの声じゃない。
「皇子様も一緒なんだろ? 早く出てきてくれよ」
見る見る血色を失っていく皇子。
その顔を見て、私は祈りが通じたのかもしれないという淡い期待を抱きながら、掴まれた手を振り払って表へと出た。
「お。あんたが輝夜姫様かい?」
「はい。……そちらは?」
屋敷の前にいたのは、浅黒い顔をした男六人組だった。
身なりから察するに、豊かな生活を送っている者とは思えない。
どうしてそんな人たちが車持皇子の事を探しているのだろうか。
しかも、まるで皇子をぞんざいに扱っているかのような言動に、少し当惑してしまった。
根は腐っているとしても、それでも皇子という高貴な地位の持ち主に対してそんな態度を取れるこの人たちは一体何者なのか。
私が訝っていると、後ろから激昂した声が飛んできた。
「貴様ら、一体ここをどこだと思っておる!」
振り返ると、そこには鬼神と化した車持皇子が立っていた。
そんな皇子に対し、六人は六人とも萎縮するどころか冷笑を浮かべている。
「聞こえなかったのか!? さっさとこの場から去ねぃ!!」
「く……くくく。これはとんだ茶番だなぁ。そうは思わないかい? 輝夜姫様よぉ」
「――――と、申しますは?」
「その後ろにいる男はな、あんたを嵌めたんだよ。――言ってる意味が解るか?」
「お……おのれぇぇ……っ、だまらんかっ!! おい、誰かおらぬか!? さっさとこの卑しい男を摘み出せっ!」
――完全に狂っている。
そう思いながらも、私は千載一遇の好機に身震いした。
これで助かる――――そう思ったら、もう止まれなくなっていた。
「どういうことですか?」
「こんな卑しき身分の者の申す戯言に耳を貸すでないっ!」
「おやおやこれは皇子様。それはあんたの事だろ? ――――なぁ、依頼主さん」
ボロボロの服の懐から取り出したのは、一本の枝だった。
根は白銀、茎は黄金、実は白玉の枝。
そう、これこそは。
「蓬莱の玉の枝……」
紛れも無く、伝承通りの枝だった。
「これはな、輝夜姫さん。俺たちが作ったんだ」
「――――っ、、、づ」
息を呑む声がした。
それは明らかに私のモノではなく、唇を紫になるまで噛み締めている車持皇子のモノだった。
皇子の身体は震え、まるで何かに取り憑かれたようにも見える。
そんな皇子の変貌など知った事ではないと告げるように、真実を暴露していく六人組。
「苦労したぜ。何せ三年間も人の目を避けて作ったんだからな」
「なぁ、これ本物そっくりだろ? 俺たちの生涯全てを注ぎ込んで作った傑作だ」
「それなのによぉ、そこで子猫みたくプルプル震えてる皇子様ときたらな、盗人もいいところのとんずらしやがったんだよ」
「許せると思うか? 三年だぞ、三年。それだけの月日をこれ一本のために注ぎ込んで、家族とも一切連絡しなかったっていうのに」
「作ってる間は秘密を守れ、でも出来上がれば逃げる。ゆ、許せないんだな!」
「――さぁ皇子さんよぉ。コレの代金、きっちり払ってもらおうか」
……なんていうことだろう。
それじゃあ、私はこんな偽物一つで貞操を奪われそうになったのか。
「――――なんて、こと」
ふつふつと、私の中で、私の知らない何かが湧き上がってきた。
ソレは図体を持ち、尻尾が生えていて、首をもたげ、今か今かと待っている。
――ああ、これが目の前に餌を吊るされ、合図があるまで待ち続ける家畜の気持ちなのか。
「違う! 断じて違うぞ、輝夜姫えぇぇぇ……ッ!!」
雄叫びを上げた、憐れな■■。
静かに瞳を伏せる。
そうして私は分を超え、沙を超え、須臾へと到る。
――――そこは私だけの世界。
時間と言う概念に縛られたこの万物の世に於いて、私だけが知り得る、大衆には認知さえ出来ない世界の一部。
「こんな……こんなもので……」
地に転がる贋作の優曇華の花をおもむろに拾い上げた。
なんて巧く作られた枝なのだろう。
本物の優曇華の花を見た事がないので、どれくらい似ているかはわからないけれど。
これはあの六人にとって生涯ただ一作のモノで、その思いだけは本物なのだと窺える。
きっと彼らも本物を見た事は無い。
それでもこれほどの物を作り上げるのだから、地上人も捨てたものではない。
この枝を見たら、永琳は何と言うだろうか。
彼女ならもっと上手に作ってしまいそう。
「――ふふ」
知らず、笑いが漏れていた。
こんなにも楽しい気分になったのはどれくらいぶりだろう。
贋作を作り上げた職人たちの真ん中の人の懐に、拾い上げた枝を仕舞った。
本物として作り上げたのなら、この枝はかなり高価なモノに違いない。
売ればもしかしたら、暮らしは一生安泰かも。
そんな気持ちを込めて仕舞う。
……さぁ。
ここからはどんな展開が待ち受けているのだろう?
車持皇子はどのような言い訳をしてくれるだろう。
――――須臾が沙に戻り、沙が分の世界へと戻っていく。
「いけませんね、これは」
時の操作を終えた私は、努めて冷静な口ぶりで皇子に言う。
――心を砕く言葉を。
砕かれそうになった私の心と同じ苦しみを与えるために。
「まさか今まで私や翁に語ってきた言葉が全て偽りだったとは」
「な――――ま、待て。これは何かの間違いだ!」
どこまでも見苦しい姿だ。
これならまだ他の求婚者たちの方が幾らかマシというもの。
御題を解けなかった時点で潔く散ればいいものを。
「それでは彼らは? まさか彼らが嘘を申しているとでも?」
「――そ、そのとお、」
「いい加減にしておいた方が御身のためでは? 私は別に構わないのですよ? 後世に語り継がれるであろう、貴方の汚点を増やしても」
「ぐ――――ぐく……ッ」
権力者というものは見ていて面白い。
後世と言う言葉にとにかく敏感で、恐れ戦いている。
でなければ、あれだけ周到に汚点を、それも徹底的なまでに排除などしないだろう。
あの聖徳太子でも隠蔽はしていた。
ただ、あの本物の天才は皇子のように愚かではなかったおかげで、後世には偉人としての姿のみが語り草となっているだけで。
「さぁ如何します? このまま恥じを上塗りするか、それとも――――」
「――――――――ふ、」
それは、人間とは思えぬ冷気だった。
ゆらりと身体を揺らす皇子。
目は死人のソレで、もはや幽世のヒトを思わせた。
「ふふ、ふ――――ふふ」
ふらふらと屋敷から退場していく様は、憐れで痛々しい。
だが醸し出す冷気は絶望から滲み出ているモノではなく。
強い殺気にも似たモノだった。
そうして職人たちの横を通り過ぎる際、ぽつりと言葉をこぼした。
「死ね」
言い残した言葉は、負け犬の遠吠えだと一笑できるようなものではなく、耳元で囁かれた職人は、顔を真っ青にして硬直してしまった。
……とは言え、これにて一件落着である。
「……良かった。本当に……」
何故か、今はいない永琳に、心から感謝する私がいた。
しかし……どうもいけない。
どうやら私の想像以上に、私は永琳にべったりだったことが発覚してしまった。
「永琳……」
空を見上げる。
そこには一つの太陽があるだけで、月はまだ顔すら出していない。
なので、太陽に向かってお辞儀をした。
助けてくれてありがとう、と。
私はくだらない理由から故郷を捨てたけれど、どうやら故郷は私を見守ってくれているらしい。
だから太陽さん、どうか私の気持ちを月に届けてください――――。
☆★☆
この悲しみを、一体どこへ向ければいいのだろう。
この痛みを、一体どこへ向ければいいのだろう。
この怒りを、一体どこへ向ければいいのだろう。
この恨みを――――一体誰に向ければいいのだろう。
日も差し込まぬ屋敷の最奥の間で蠢きながら、少女はずっと考えていた。
どうしてこんなことになってしまったのかを。
そもそも、どうして自分はこの世に生れ落ちてしまったのかを、ずうっと自問自答していた。
「ちち、うえ」
顎は元に戻った。
どれだけ痛めつけられようと、それに見合った名医が彼女を救う。
治療を否定しようが暴れまわろうが、最後には嫌でも治された。
それはまるで不死を体感しているようで、どこか気持ち悪い。
壊れた部品を代品で補って直しているようで、自分が人間とは思えなかった。
それでも彼女は生き続ける。
死にたくないから、という理由もあったが、そもそも彼女には『死ぬ自由』さえ与えられてはいなかったのだから。
「はは、うえ」
見た事も無い自分の産みの親を呼ぶ。
あまりにも不実な行為に、彼女――――藤原妹紅は涙した。
何故自分は生きている。
何故母上はここに来てくださらない。
何故父上はこんなにも酷い仕打ちをするのか。
様々な葛藤が、未だ幼子を抜けない彼女の精神に重くのしかかる。
――それを何日耐えた頃だろう。
妹紅の前に、ナニかが現れた。
『殺せばいいと思うよ』
ソイツには、姿と言うものが無かった。
けれど声は鮮明に妹紅の耳に届き、彼女の五感を支配していく。
『憎いだろ? 悲しいだろ? 必要とされたいだろ?』
あまりにも彼女の心情を射当てる声に、妹紅は次第に同調していった。
来る日も来る日も現れる、その声の主。
やがて完全に毒の浸透した精神が、ぎしりと動き出す。
『そうだ、殺せばいいんだよ。オマエを貶めるヤツ、オマエを否定するヤツ、オマエをこんな風にしてしまったヤツ。そいつらみんな――――!!』
全身の札が律動する。
妹紅の怒りを酌んでか、鈍く紅く光る文字の羅列。
その札には、一体どのような施しがされていたのか。
目に宿した紅は、すでに正気の色を失っていた。
/
「くそ……くそくそくそそぉぉぉッ……!」
手にした杯を壁にぶつけると、藤原不比等は雄々しく立ち上がり、吼えた。
「阿倍御主人め……っ! どこがこれで災厄を抑えられたと言うのだ!?
あの不気味な小娘に言われたとおり怪しげな札を張り、そのうえ屋敷で十年以上も飼ってやっていたのだぞ? どこが十全の備えだ!!
おかげで私は全てを失いかけたのだぞ!!!」
怒り狂う姿は、それこそ阿修羅のようである。
屋敷の外まで聞こえてくる破壊の音に、従者たちは震え上がり誰も近づこうとしない。
暴風の化身となった不比等は、固めた拳で力任せに家内を壊しまわった。
襖が飛び、美麗な掛け軸は裂け、布団からは中身がこぼれ出している。
「あの輝夜の冷笑――――あの卑屈な男どもの卑しき笑い――――許せぬ、断じて許せぬ!
見ておれ……今に必ずやこの恨み、晴らして、くれる」
一段落したのか、ぴたりと暴行が止んだ。
両の肩が大きく上下し、乱れた呼吸音が周りに浸透していく。
――そんな最中、すっかり頭に血が上っていたせいか、不比等は良くないモノを、見た。
「誰だ」
問われるも、それは答えず、前進を止めず。
不比等が見たるは、自邸の庭に現れた一つの亡霊の姿。
漆黒の短髪に紅を点した瞳。
その周りを、陽炎の火の様に照らし上げる何か。
姿形は人間にも見えるが、靄らしきもののせいではっきりとしないので、不比等はソレをこう呼んだ。
「――――夜叉が現れよったか」
言って、背後にある太刀を手にする。
鞘から解き放たれた大太刀は月光を浴びて、鈍くも艶かしい輝きを放っている。
おそらくは名剣と呼ばれし類の武器を以って、不比等はソレと対峙した。
「名を申せ。我は車持皇子なるぞ」
「――――」
揺らめく何かは答えない。
それもそうか、と不比等は内心でごちて、構えをなおした。
お互いの距離は約五メートル弱。
これだけの間合いが空いていれば、一足中に懐には入られまい。
――――その慢心が、命取りとなった。
「ッ!?」
全身の毛が逆立つ。
あれだけの間合いを確保しておきながら、対峙したソレはあろうことか、その一足で不比等の懐まで入ってきた――!
「ガ、、、ッ」
ぶれる声色。
気付けばソレは、握り潰さんとばかりに力のこもった右手で、不比等の喉を掴んでいた。
そのまま大の男もいいところの不比等を押し倒し、馬乗りの姿勢をとる。
遅れてがしゃん、と太刀の落ちる音がした。
不比等は一度の反撃も出来ずに地に倒れ、絶体絶命の危機を迎える事になった。
そして――――月夜の光に照らされ、ぼやけていたソレの顔がはっきりと輪郭を現し始めた。
窒息され意識が薄れつつも、不比等はなんとか目を開いてそのナニかを確認しようとする。
――瞬間、目を剥いて驚愕の色を示した。
「……、……っ!!」
だが悲しいかな。
もはや不比等に発声の自由は無い。
喉を掴まれた手は万力のようで、とても人では太刀打ち出来るような力ではなかった。
じたばたともがくも、ただ無力感を呈するのみ。
あと一分、こうしているだけで藤原不比等という名の権力者の生涯は幕を閉じる。
死に行く脳で、死にたくないと願い請う不比等だったが、どう見ても希望の無い状況を前に、観念して瞳をゆっくりと閉じていく。
……だがしかし。
ここに現れるはずの無い、彼を助ける加勢がやってきた。
「車持皇子! ――――■■■■■!」
「ギっ――――?!」
ビクン、と亡霊が剛直した。
目には見えない何かしらの力で縛られているのか、必死にその力に抗っているようにも見える。
救援の勢は、なにやら呪言らしきモノを呟きながら助けに入ったようだった。
そして掴まれていた喉を開放された不比等は、酸素を求めて大きく呼吸を再開した。
真っ赤に染め上がった顔色が、彼の味わった苦しみの大きさを表わしている。
「早く逃げるのです! ■■■■■……!」
加勢に来た人間にそう言われ、はっとした不比等は足をもつらせながらも、この場を離れようと走り始めた。
「う……あぁ……」
だが巧く走れない。
走ろうと頑張ってみようとするも、走れない。
走れないので――――匍匐前進で逃げようと、思った。
「ぐあ……っ」
呪言を吐き出していた人間の悲鳴が木霊する。
逃げ腰のまま不比等が振り返ると、助けに入った者の身体が宙を舞っている姿が目に入った。
「な――ん、」
驚きと焦りで一瞬思考が停止する。
およそ人間の所業には見えぬ事態に、長きに渡り大臣を務め鋼の精神を養ってきたと思っていた不比等は、その自信を粉砕されつつ、今度こそ絶望感から足を止めた。
ど、っと鈍い音と共に落ちてくる体躯。
そしてその顔を見たとき、またしても彼の思考は白くなった。
「阿倍――御主人?」
見間違いようの無い、その横顔。
輝夜を賭け競い合った相手を忘れるほど、不比等の脳は弱くは無い。
助けに入ったのがまさかの阿倍御主人だという事実に、彼は混乱を極める破目になった。
そのせいで、自分は今まさに亡霊に襲われているのだと言う事を完全に忘れるほどに。
「だいじょう、」
すぐ隣で痙攣する阿倍御主人に声をかけ近寄った瞬間、見失っていた亡霊に、今度は後ろから首を掴まれ、持ち上げられた。
「……っあ、っ」
ギシギシとなにか良くない音を立てながら、足が地から離れていく。
さっきのが喉を潰され窒息を誘う攻撃だとしたら、今度のは首の骨を折りにいく攻撃だった。
不比等は必死の抵抗で相手の手を引っ掻き回したが、なんの抵抗にもならないまま完全に体を宙に浮かされてしまった。
これからどうする気なのだ――――非常識なヤツの考えが全く読めないせいで、不比等の心には相当な重圧が圧し掛かっていた。
これがまだ人間相手なら話し合いにもなろうが、相手は正体不明の怪物である。
話し合いなどと諭している間に殺されてしまうだろう。
「ウ――――ウゥ……ッ」
獣じみた声がソレから漏れる。
とても苦しそうで、どこか悲しい声。
何故か聞き覚えのあるような声色だな、と不比等がぼやける意識の中でそう思ったとき、
「■■■■■!」
再びあの正体不明な呪言が脳を貫いた。
理解出来ない言葉であるはずなのに、何故か拘束力を持ったその声のせいで苦悶の表情を浮かべるのは、果たして亡霊も同じだった。
不比等を掴んでいた手から力が抜け、しかめ面の彼はそのまま尻餅をつく形で救われた。
一方の妖気を纏った亡霊のようなソレは、未だにもがき苦しんでいる。
そして立て続け様に阿倍御主人は両手で空に印を描いていくと、止めとばかりに最後の一言を力強く叫んだ。
「■――――!」
するとどうだろう。
怪力と神速で不比等を襲ったソレの体が、見る見るうちに白と赤の蒸気に包まれていくではないか。
その異様な光景に、藤原不比等はすっかり腰を抜かしてしまった。
迎える最終局番。
それはまるで、一種の手品のようであった。
「ウ――――ウガ、ア、ァ……ッ!!」
断末魔をあげる亡霊。
その瞬間、ソレからは炎のようなモノが噴出した。
左右対称に噴出す赤色をした何かは、一見して翼のようだった。
“炎の翼”というのが一番しっくりとくる表現であろうか。
しかしそれも本当に一瞬の出来事で、目を見張った次の一秒後にはもう、霧散してしまった。
――そうして。
力を使い果たしたのか、亡霊は受身をとることもなく、そのまま前のめりに倒れた。
……しん、と静まり返る夜中の庭園。
夜空には星たちが煌き、まるで今まで何事もなかったかのように日常を描いている。
「…………助かった、のか?」
動かない体で、けれど生存を確認せずにはいられなかった。
本当に自分は助かったのか、本当に怪物の暴行は終止したのか。
そんな不比等の自問自答に答えたのは、どこからか助太刀に来た阿倍御主人その人だった。
「ええ。助かりましたよ」
「……何故そちがここに?」
助かったことで胸中はいっぱいだったが、これで不比等も人の子である。
命を救ってくれた恩人に対し非礼を働くことは無かった。
「話せば長くなるのですが。――まぁ、皇子があの札をきちんと貼っておいてくれたおかげ、とでも申しますか」
「札……?」
「ええ、ご息女の妹紅殿にと私が差し出した札です。いやぁ、まさかちゃんと貼ってくれているとは思いもしませんでしたが」
飄々とした口調で語り始める阿倍御主人とは対照的に、暗い顔のまま藤原不比等は思い出したように亡霊の倒れている方を見た。
そして――――
「妹紅?」
呆然と、倒れた自分の娘を見つめた。
「どうして妹紅がここに?」
「怪物の正体がご息女だからですよ」
「…………」
「信じられませんか? たった今、自分を襲ってきたというのに」
「…………」
阿倍御主人の言葉で、ようやく合点がいった。
あの呻き声を聴いたときに感じたのは、実の娘から発せられた嘆きの感情だったのだと。
「私がこの札を貼っておいてくれと言ったのは、ご息女の暴走を抑えるためでした」
語り始める阿倍御主人の背を見つめながら、不比等は耳を傾けた。
「信じてもらえないかもしれませんが、私には不思議な力が備わっているようなのです。一種の方術のようなものですかね。それでご息女が生まれる際、気がついてしまったんですよ。
――――その娘御には、途方も無いほどの妖力が秘められてるのだと」
「妖力……?」
「そうです。人間の身では届かぬ力、負の力で編み上げられた人外の力です」
「人外の――力」
「ご息女の属性は“火”であり、貴方様は“木”の属性であることから、相性がとにかく悪い。しかも妖力は負の力の塊といっても過言ではない。だから災厄の種だと申したのです。
……ご息女には辛い思いをさせてしまったかもしれませんが、皇子の賢明な判断のおかげで力に呑まれることなくここまで成長しました。
いやはや、まさかこの歳まで育って暴れまわるとは思いませんでしたが、むしろこれくらいで済めば僥倖と言ったところでしょう。先ほどのことで妖力も底をついたはずですし。今回の件は、精神が不安定になったために起きた暴走かと思われます。おそらく力が自制出来る歳になるまでは、もう二度とこう言ったことは無いでしょう」
さてと、と言って口端から垂れていた血を手で拭い、阿倍御主人は帰路につこうとする。
それに待ったをかけ、不比等が問いただす。
「ではあの娘は……妹紅は、もう幾年か経てば、外へと出られると?」
「はい。初めからそうでしたが、下手に刺激を与えて最悪な展開になることは避けたかったので、軟禁まがいのことをせよ、などと申しました。
さぞかし両者共々恨めしいことでしょう。……覚悟は出来ています。ご息女が目を覚まされたら真実を語ってあげてください。その上で殺されるのなら本望というものです」
それでは、と去っていく、後の安倍晴明の祖先たる阿倍御主人を、不比等はもう引き止めはしなかった。
彼が完全に去った後、しばらくしてからようやく重い不比等の口が開いた。
「何をそんな馬鹿な……。そんなこと、死んでもせぬ」
絶望に満ちた眼から放たれる、冷めた視線。
それを一身に受けても、妹紅は目覚める気配すらない。
藤原不比等はそんな娘に対し、心胆凍えるほどに恐ろしいと戦慄し、助けに入ってくれた阿倍御主人の言を聞くかどうかと自問したが、答えは何度再考しても同じものだった。
どう考えても――――全てコイツのせいだ。
自分が不幸なのも、輝夜が手に入らなかったのも。
だからそんなことをしてしまっては、自分が一番報われない。
国中で一番の権力を誇る己が、どうして小娘一匹にこうまで人生を狂わされなければならないのか。
そんな不条理など許せるはずも無い。
しかも、こんな妖怪まがいの人間を外に出して噂にでもなったら、それこそ自分の権力者生命が終わりかねない。
どの道を選択するにせよ、確実に呪われた娘の存在を明るみに出さないことが絶対条件だ。
――――妹紅が人外の力の担い手なら、私は人内の力の担い手だ。
じゅくじゅくと戻ってきた、湿った敵愾心。
凶兆は是に全て在りと、不比等は二度と見失うまいと心に刻む。
「そうだ。危険因子は全て放置出来ぬ」
阿倍御主人はああは言ったが、それでもまた妹紅が暴走する可能性はゼロではない。
それならば当然抑止力たる存在も必要だ。
そうなると、彼とは友好関係を保つのが理想と言えよう。
お互い輝夜への求婚は失敗したのだし、利害の一致と言う面で阿倍御主人がこちらの受け入れを拒むことはあるまい。
あわよくば、娘を世に出さず、そして調律する方法を知っているかもしれない。
……いや、必ずそうさせなくてはならない。
自分の出世のためにも、命のためにも。
「……あな恐ろしや、我が娘よ」
娘、と呼ぶのさえ穢らしく感じる。
苦虫を噛み潰したような表むきのまま、忌々しいと呟き、不比等もまた屋敷の中へと戻っていく。
憔悴と苦渋の色だけをその顔に浮かべながら。
/
そうして、長い眠りから覚めた彼女は、側女たちの噂によって事実を知ることになる。
父親の失敗談、そして自分の存在価値。
理解はすぐに出来たが、納得は出来なかった。
舞い戻ってきた監禁の日々。
今度は御付まで増えて、もう外に出るのは不可能とさえ思わせられる。
だが、おかげで考える時間は永遠と思えるほどにあった。
その永い時間を使い、彼女は考え続けた。
来る日も来る日も同じタイトルで、けれど彼女にはこれ以上無いほどの重要な案件である。
考えて、考えて、考えて――――ようやく至った答えは、なんてことはない、とても簡単なモノだった。
「そうか、全部アイツが悪いんだ」
そしてソイツには、自分によって恨まれる理由もある。
何せ彼女の父親は、ソイツに恥をかかされたのだから。
親の雪辱を晴らすのも子の役目であろう。
完璧な動機が彼女の鈍った思考をクリアにさせ、次々に脳内で計画が練られていく。
――ここに、千年以上続く憎しみの原型が出来上がった。
☆★☆
――楽しい時間と言うものがこれほどまでに早いなんて、初めて実感が沸いた。
言葉伝でしか聞いたことの無かった感覚。
それが今、現実として体感できていることに、私の心は震えながら喜んでいる。
「んー……『雫』は是非にでも入れたいわね」
昨晩降った雨のおかげで、木々に小さな雫がついているのを見つけたので、今日の題材はこれにしようと思いついた。
いま私がしていること……それは、和歌の作成だった。
しかしどうしてそんなことをしているのかと言うと――――
三年前、五人の求婚話を全て退けて、ようやく平和が戻ってきたと喜んでいた私。
もう少しで車持皇子なんかと結ばれてしまいそうになったおかげで、深々と安堵していた私の元に、まさかの帝からの使者が来たのは件の事件から三日後のことだった。
その時はかなり焦ったけれど、用件を聞くと、帝が私に会いたいと言っているのだと知るや、私は頑なに会うのを拒んだ。
だってもう二度とあんな思いはしたくないし。
周りからは帝の命に背くなんて、とブチブチ言われたが、そんなことは知ったことではないので無視した。
体裁を気にして翁の提案を受け入れた挙句の果てがアレだったのだから、同じ轍を二度踏むなんて真っ平ごめんだ。
そうやって帝の使者を何度かあしらっていたら、何と今度は帝御自らお出ましになったのでした!
今思い出しても恥ずかしい話なのだけれど、そこまで警戒していなかった私は、ある日の昼下がりに帝とばったり会ってしまい、例によってしつこく求婚しはじめてきたので、仕方なく事実を暴露することにした。
『私は地上の人間ではないのです』
時間を操り須臾を使って移動。
帝にはさながら私が瞬間移動でもしたかのように見えただろう。
地上の人間とは面白いもので、異種とは交われないと言う。
それを利用して事実を曝け出した私を、やはり帝も諦めてくれた。
こちらとしては作戦成功なわけで。
また退屈でも平和な日々が送れると思っていたのだけれど、そこは時の支配者。
とっても未練がましいのだった。
『それなら私と和歌の交換でもいたそう』
でもまぁ結婚するわけでもないし、いい暇つぶしになるだろうと思い、私はその提案を承諾した。
相手は腐っても地上の王だ。
無碍に断ったりしてまた波乱が起きるのもイヤだったし。
……そうして今に至るんだけど。
「うぅ~ん……」
和歌を作るのはとても面白いんだけれど、その反面とても作るのが大変だ。
いつもみたく気分とか雰囲気だけで気軽に作ってもいいのだけれど、交換する相手が帝だけに下手なものを出すわけにはいかない。
おまけに毎回のように帝からは気合の入った作品ばかりが寄越されるので、私もそれに見合った作品を出さなければならなくなり……その結果がコレだ。
和歌一つでここまで真剣になるなんて、夢にも思わなかった。
「ふぅ」
じっと雫のついた草木を見つめていても良い歌が出来そうにも無かったので、縁側でのんびりすることにした。
日差しがぽかぽかしていて気持ちがいい。
昨日の雨が嘘のようだ。
「んー……」
柱にもたれて瞳を閉じる。
なんだかこのまま眠れてしまいそうだ。
それも悪くないかも、なんて考えていたら、何者かに裾を引っ張られているのに気がつき、目を開けた。
「だれ?」
そこにいたのは、
「八意様よりお手紙です」
月の住人である、兎だった。
「え? あ、ちょっと」
私の制止も虚しく、兎は一目散に逃げていってしまった。
まぁ地上人に見つかると何かと厄介だし、仕方ないか。
――それにしても。
「永琳から?」
この何十年と一切連絡してこなかった永琳が、突然手紙なんてどうしたのだろうか。
月の都で何かあったのかしら。
私は手渡された手紙の封を切り、中身を確認し――――目を剥いた。
「なん……で……?」
その書には、まさかの恩赦を告げる内容が書かれていた。
まだ二十年ちょっとしか経っていないのに、もう放免とは、些か信じられない。
……まさかとは思うけど、永琳が何かしたのかしら?
でも、状況から考えてそうとしか思えない。
『蓬莱の薬』の飲用は重罪だ。
それなのに地上への追放が二十年余……?
月の都の主力者が亡くなったりすると、たまに罪人たちに恩赦が言い渡される場合もあるらしいけれど、それも軽い罪の者たちだけだ。
まさか国家の根幹を揺るがすような重罪人を釈放するとは思えない。
そして手紙を読み進めていくと、最後にこう綴られていた。
『私が出迎えにあがります』
綺麗な永琳の文字。
懐かしい永琳の文字。
そして――――私は悟った。
……やはり永琳が何かしたのだと。
もしくは何かを画策しているのだと。
「…………」
けれど私には永琳の頭脳を超えるほどの脳を持ち合わせていない。
だから永琳が何を考えていて、何をしようとしているのか、皆目検討もつかないのが実情だ。
情けないとは思いつつも、私は永琳が来るのを待つしかないので、記された日付まで、じっとすることにした。
しばらくはこの居心地の良い場所に留まれると思っていたのだけれど……。
「仕方ない、よね」
全ては私のせいだ。
今の生活があまりにも充実していたせいで忘れていた。
……そう、私は罪人なのだから。
その日、私は地上での日々を懐かしみながら、夜までずっと縁側で帝への言い訳を考えていた。
/
「そうか……」
明らかに落胆した声が、室内に木霊した。
声の主は帝で、その顔には愛惜が見て取れる。
どうやら帝は、本気で私を愛でていてくれていたらしい。
車持皇子とは雲泥の差だ。
彼は私のことを道具としてしか見ていなかった。
「天界の勢相手では無駄かも知れぬが、その日時に兵を遣わそう。なに、この国きっての兵どもだ。易々とはやられまい」
頼もしい言葉とは裏腹に、帝の表情はどこまでも不安げだ。
けれど――この人はちゃんと弁えている。
自分の身の程も、天を相手にすると言うことがどのような事なのかも。
「なぁ輝夜よ。そちは覚えておるか? 余がそちと初めてあった時のことを」
「はい」
忘れもしない。
突然私の住む屋敷にお忍びで現れ、人の往来がある真昼に堂々と自分の身分を公開すると言う珍事を引き起こした帝の姿を、どうして忘れることが出来ようか。
それこそ盗人が忍び足で家に押し入り、苦労して手に入れた宝を人様に見せびらかすようなモノだ。
おかしくなった私はその場で大笑い。
翁たちも取り繕ってはいたけれど、クスクスと笑いを堪えていた。
当の本人である帝は、顔を熟れた柿のように真っ赤にして俯いていた、と言う事件である。
「余に向かってあれだけ笑い飛ばしたのは、そちが初めてだった」
昔を懐かしむように天を仰ぐ。
その顔がどこかおぼろげで、私は一瞬ぎょっとした。
「どうしたのだ?」
「あ……いえ、何でもございません」
私は永遠を生きる。
彼は刹那を生きる。
どうやら、その違いが、私に幻を見させたようだ。
……帝の顔が透けて見えるなんて。
「話を戻そう。あの時はそれが悔しくてな。本当は娶るつもりなど無かったのだが……噂通りの美人であったことも相俟って、どうやら私はそちに婚姻を押し付けてしまったようだ。
その節は本当にすまないことをしたと思っている。だが、余はそちとは『友人』のような付き合いをしたいと思っておった。
だからこうして和歌を交換するようになって、本当に余は満たされていたのだ」
「……はい」
それは私も同じです、とは言わなかった。
ここでそれを言ってしまったら、きっと後悔することになると思ったからだ。
私たちは地上人と月人と言う、言わば異種同士。
そして不老長寿と短命と言う大きな違いがある者同士。
お互いに、決してある一種の線を越えてはならないのだと知りながらも、ずるずると居心地の良い時間に流され、ついに瀬戸際まで来てしまった。
でも――――ここから先は、無い。
心の底から楽しいと思えた日々ではあったけれど、それを惜しいからと、この契機を逃してはいけない。
私たち生物は生きている限り、時間の流れのある場所にいる限り、決して同じところには留まれないのだから。
――前に、進もう。
「今となっては離しとうないほどだ。……どうだ、その使者とやらを説得して、ここに留まらぬか?」
私の意志を挫くような一言。
何と言う甘言、何と言う精神の弱さ。
一分と経たないうちに決意がぶれるなんて……。
帝の言葉が私の心に染み込んでいく。
あの永琳を説得出来るとは思わないけれど、もし……もし万が一、説得出来たとしたら、私は――――。
「いや、よい。忘れてくれ。……戯言だ」
はは、と乾いた笑みを浮かべる帝。
なんて嘘の下手な人なのだろう。
まるで真面目にも本物の小安貝を求めて、ついには命を落としてしまったあの方のようだ。
「いやはや、そちの出方が気になってな。しかし、今の感じていくと、余もまだ捨てたものではないようだ」
「帝……」
「なに、今生の別れと言うわけでもあるまい? きまぐれにて帰ってくるようなら、ここへ立ち寄るといい。余はいつでも待っておるぞ」
話は終いだとばかりに帝が席を外し、そのまま帰っては来なかった。
残された私と言えばただ、胸に去来する思い出を口にて吐き出してしまわないよう、努めるだけだった。
/
今宵は十五の夜。
永琳が差し出してきた手紙に書かれた日であり、今はその刻時の真っ只中だ。
屋敷には百以上の兵がそれぞれの持ち場で得物を手にしながら、今か今かと永琳一行を待っている。
流石は帝が遣わした兵たちである。
目は自信そのものが宿っているかのように輝き、身に纏った闘気は、それだけで精鋭なのだとわかるほどだ。
戦闘に関してほぼ素人のような私でも彼らの凄さが肌越しに伝わってくるのだから、解る人から見れば相当な用意に見えるのだろう。
「なかなか見えぬな」
帝が重い溜め息をつきながら呟く。
確かに、もう来てもいい頃だとは思うのだけれど。
手紙に書かれていた時刻は子の刻だ。
時間に正確な彼女が遅れてやってくるとは思い難いのだけれど……。
「もしかしたら、向こうがワシらの様を見て、思い止まってくれたのかのぅ」
翁がそんなことを言う。
……残念だけれど、そんなことは無い。
永琳と言うのはそう言う人だし、何より――――
「あ、あれはなんだっ!?」
兵の一人が叫ぶと、場にいた全員が空を見上げた。
星ヶが輝き、まん丸な月が煌いている、空。
ソレは、月を背に従えながらこちらに下降してきている。
「永琳……」
ついに来た。
まだ遠くて肉眼じゃわからないけれど、きっと先陣きって来ているに違いない。
「弓手は番えよ! それ以外は構えよ!」
「はっ!!」
隊長らしき人物の掛け声に呼応するように、一糸乱れぬ動きで兵たちが得物を構える。
惚れ惚れするようなその統率感に溜め息を禁じえない。
「輝夜は下がっておれ」
帝が優しく促してきた。
けれどそれは聞くことが出来ない。
何せこれは、罪人である私に対する月側の回答なのだから。
「いいえ。ここで見届けます」
「……そうか」
私の意気込みが伝わったのか、帝はもう何も言うまいと一歩、後ろに下がった。
そうしている間にも、使者たちが確実にこちらへと近づいてきている。
――――どくん、どくんと心臓が高鳴っている。
これは不安からなのか、はたまた安心からなのかはわからない。
けれど、確実なことが一つ。
あそこには、間違いなく永琳がいると言うこと。
「お――――おお」
誰かが息を呑んだ。
眼前にいるは天女。
その周りを囲うように羽衣を纏った使者たち。
永琳と兎が、ついに肉眼でもわかるほどに近付いてきた。
「なんとおかしな……」
地上人たちから見れば、それはまことに奇妙な光景だっただろう。
人の形をしたナニかが天からやってくるのだ。
この国では古来より天は神の居場所として考えられていたらしい。
その天から現れた永琳たちは、地上人たちから見ればさぞかし神々しく見えたに違いない。
周りから感嘆の声が聞こえてくる間、私はずっと永琳について考えていた。
――――何かがあるはずだ、絶対に。
それは永琳とは長い付き合いだからわかる、と言うよりは、ほぼ直感のようなモノだった。
神経が尖り気味なせいか、ついつい睨んでしまう。
目の前にいるのは、この二十年会いたがってきた、大切なヒトだと言うのに。
「よいか、もう少し寄って来るまで引き付けるのじゃ」
弓兵の長らしき人間が指図をすると、放心状態になりかけていた部下たちの顔に緊張が戻ってきた。
いくら永琳とは言え、地上人の精鋭相手にどれだけ戦えることか。
それでも堂々と下降してくる様は、本当に天女らしく見える。
まるで自分たちこそが強者であり、お前たちは弱者なのだと暗に示し、地上人たちを見下しているかのようだ。
「もう少し……もう少しだ……」
もう少しで彼らの攻撃範囲。
矢がどれほどの距離を飛んでいくかなんてわからないけれど。
これだけの人間の数がいるのだ、蜂の巣になるのは火を見るより明らかだ。
それに対して永琳は物腰に何も無い。
本当に、この状況をどう突破する気なのだろうか――――?
「ん……?」
「なんだ、これ?」
兵たちに動揺が広がりはじめた。
みな一様に空を指差したり、手をゴソゴソとさせている。
つい先ほど緊張感を取り戻した弓兵ですら、ソレを見て首を傾げた。
私は不思議に思い、すぐ近くにいた総司令官に声をかけた。
「どうしたんですか?」
「ん? ああ、コレですよ」
「……?」
それは、白い粉末だった。
手触りはとても上質な白粉のようで、香りは何も匂わない。
よく見ると、凄く細かいものから雪のようなふわふわとした塊まで降ってきている。
――――そうして私は、ようやくソレが異常な物なのだと認識した。
「あ、あれ……?」
「体が……うごか……」
「――――、っ」
次々に倒れていく兵たち。
一生懸命なにかに耐えているけれど、一人、また一人と地に臥せっていく。
……予感が的中した。
やっぱり、永琳が無策でここまで来るわけが無いんだ!
「永琳……!?」
つい叫んでしまった。
けれど向こうには届いていないようで、止まろうともしない。
白い粉は降り続ける。
その最中、後ろにいた帝が声をかけてきた。
「か……ぐや……」
振り向くとそこに、悶え苦しむ帝の姿があった。
「み、帝っ」
慌てて寄り添おうとした私を止めたのは、一本の矢だった。
ひゅ、っと左頬を掠め、地面に突き刺さる誰かの矢。
味方が私に対して弓を引くとは考えられない。
と言うことは――――永琳?
そんな私の憶測を、解答に押し上げたのは永琳その人だった。
「止まりなさい、輝夜」
「え、永琳……」
いつの間にか私の頭上近くまでやってきていた永琳が、弓を構えたまま私の事を見つめている。
――――あ、ああ……本物だ、本物の永琳だ。
この声、この立ち振る舞い。
二十余年ぶりに会うと言うのに、あまりにも何も変わらない。
懐かしさで胸がいっぱいになり、涙腺が緩んできた。
感動で動けない私とは正反対に、永琳はここまで来ると、すっと雲から降り立った。
「輝夜、お久しぶりですね」
「う……うん」
今すぐ飛びつきたい衝動を堪えて対面する。
「地上での生活は如何でしたか? 大体のことは監視の兎から聞いていますが」
「えっと……」
「ふふ、まぁそんな話は後でも出来ますね。
――――さて、私の寄越した手紙、読みましたね?」
「え、ええ」
信じ難い事ではあるけれど、罪を赦し、月の都へと帰還することを赦すと、その文には書いてあった。
つまり、私は再び月へと戻って、何不自由の無い生活を送れるのだと、そう記されていた。
「こちらでの二十年余りは辛いものだったでしょう。不浄に満ちている世界ですしね」
「そ、そんなことはなかったけど」
「強がりはもういいのですよ、姫様?」
ふふ、っと笑う永琳。
……これは夢ではないだろうか?
また永琳とこうして笑い合えるなんて。
「それでは還りましょうか」
笑顔のまま永琳が手を差し伸べてくれる。
私は素直にその手を受け――――
「ま、待て……!」
帝の、血を吐くようなしがれた声によって、私は反射的に手を引っ込めてしまった。
それを永琳はどうとったのか。
小さな、けれどはっきりした声でこう言った。
「須臾の結界を展開してください」
「う、うん」
有無を言わさぬ迫力に負けて、私はすぐに刻を操作した。
たちまち帝の顔が凍りつき、私と永琳以外の世界が停止に近い状態へと追いやられる。
これは結界内の時間が“遅く”なることで、この時間軸で自由に動ける私や永琳としては、通常の生活と何も変わらない状態なのだけれど、そうじゃない人々はこの瞬間、瞬間を感知することが出来ない。
故に、こうして二人きりで内緒の会話が出来るようになる。
「――あれが報告に聞いていた『帝』ですね」
「ええ……」
「まさかとは思いますが、お慕いしている……なんてことは」
「なっ」
「いえいえ、冗談です。そんなに顔を真っ赤にしなくても」
……ああ、昔のままの永琳だ。
さっきはちょっと怖かったけれど、こうして二人きりになれたおかげで疑念の影も消えていってくれた。
その安心感から、私も以前のように気軽に話すことにした。
「それで、私を連れ戻すの?」
「はい」
「なんで?」
「私は使者として来てるだけですから」
「嘘つき。何か知ってるんでしょ?」
「…………」
あ、難しい顔になった。
こう言う顔をするときは、決まって何かしら逡巡しているときだ。
私は少しムスッ垂れて永琳の返事を待った。
すると、これまたいつも通りに永琳が折れてくれるのだった。
「はぁ……。輝夜も変わりませんね」
「ふふ、この性格になったのは、永琳のせいでもあるんですからね」
「えぇ?」
「だって私の家庭教師してくれてたの永琳じゃない。責任の一端くらいあるんじゃない?」
「~~~……っ。まぁ、そうですね。では本音で話しましょう。
――輝夜、貴方は何故私に黙って蓬莱の薬を口にしたのですか」
「…………」
今度は私が閉口する番だった。
それは、私が蓬莱の薬を口にした理由が、あまりにも幼稚な内容だったためだ。
もっとそれらしい言い訳を考えようと、必死に脳を働かせる。
考えよう、考えればきっと、五人の求婚者を相手に出た名案が私を助けてくれるに違いない。
でも――――
「輝夜」
その、嘘さえ見抜くような瞳でじっと見つめられては、言い訳なんて出来ない。
仕方ない……本当のことを話そう。
不老不死となった今、死を恐れることも、怪我を怖がることも無いんだし。
「地上に行きたかったから」
「地上に? なぜ」
「別に理由なんて無いの。ただ……月から地上に行くには、この方法が一番だと思って……」
「地上に行きたいのなら私に言えばすぐにでも行き、」
「違うの!」
――――もう、止まれなかった。
嘘で固めたこの心も、虚ろを彷徨っているこの心も。
もう、我慢の限度だった。
「私はただ……やりたいことを見つけたかっただけなの。ただそれだけ。他に何も望んでなかった!
不老不死だって興味なかったし、永琳が作ってくれていた安心で安全な毎日が続けばいい、なんて思ったことも一度も無い!
私はただ……生きている実感を、自分がしたいことを、自分が出来ることを探したかっただけ。欲しかっただけ。それだけなの!!」
言い終わって、息が上がっていることに気がついた。
永琳は動かない。
眉間に皺を寄せてただ黙っている。
そして私は――それこそ人生で初めて――自分の本音を言葉にした。
「私は……永琳みたいな人になりたかったの」
頭が良くて、みんなから信頼されていて、自分で何でもこなしてしまう、憧れの人。
私はそんな永琳のような人になりたかった。
無理なのはわかってる。
だからずっと自分を偽ってきた。
――自分には才能が無いから、とか。
――一生懸命頑張ってはいるんだけど、とか。
――また機会があったら、とか。
全部嘘だった。
才能なんて無くても、大抵のことはやれる。
一生懸命頑張ってるなら、悔しい思いをしているはずだ。
機会なんて待ってもいなかった。
いつからか、諦観だけが私の体に棲んでいて、何もしたくなかっただけ。
傍観者は楽だし、傷つくことも無い。
そんな甘えのせいで、私は『自分でする』ことすら忘れて、全部他人任せにしていた。
だから――――そんな自分がイヤで。
地上なら変えられると思い、ここまで来た。
結果からしてみれば小さな一歩だったけれど、それでも一歩には変わりは無い。
ちょっぴり危なかったけれど、自分で考え、自分の身を守ることが出来たのがその証拠だ。
私の言うことを聞き、じっと微動だにしなかった永琳が、ようやく口を開いたのはそれから何分が経った頃だろう。
ずっと無言だったから、啖呵を切ってしまったこちらとしては非常に辛かった。
「……まったく。そんな理由で永遠の咎人になったというのですか」
「永琳……」
「仕方ない姫君ですこと」
言って、永琳は何故か弓に矢を番えた。
そして私に背を向けると――――
「永琳!?」
一緒に来た筈の使者たちの方に、矢を打ち込んだ。
「な、なな、なにをして、」
「――――いえね。私もここに来るまでに決めていたことがありまして。それがコレなんです」
一本、また一本と放つ。
弦がぎしりと音をたてるたび、一つの命が終わりを告げる。
今はまだ結界の効力で矢が使者に当たっているわけではないが、刻が再び動き出せば命を落とすのは明白だ。
あの永琳がこんなことをするなんて……。
一体、何を決めてきたと言うのか。
「輝夜」
「え?」
「これで私も罪人です。――――さぁ、共に行きましょう」
「行きましょうって……どこに?」
「貴方が望むところに、ですよ。月には無いのでしょう? 薬を作ったのは私です。だったら私も追放処分になってもおかしくないとは思いませんか?」
「な、なにを……」
「なに、貴方の能力があればまず捕まる事は無いでしょう。五百年……いえ、千年も経てば向こうも追っ手を出すことはなくなるはず。それまでは逃亡生活ですけど。
それとも、輝夜は私と一緒はイヤですか?」
妖美な笑顔でそんなことを言われて、イヤだなんて言えるわけが無い。
第一、永琳が一緒じゃないと私はダメダメなんだって、地上で嫌と言うほど思い知った。
だから私の答えなんて一つしかないのを、永琳はもう知っているはずなのに……どこまでもいじわるな人だ。
「炊事に洗濯、調達関係は全部永琳ね」
「……輝夜の持分は?」
「んー……何か面白そうなモノ見つけてから考えるわね」
「ふふっ、輝夜との共同生活――――想像も出来ないわ」
いじわるそうに笑うと、そっと手を差し出してきた永琳。
今度こそ私は、その手を受け取った。
「それでは行きましょうか」
「あ、行く前にちょっと待って」
「どうされました?」
「永琳、筆と紙持ってない?」
☆★☆
気がつけばそこは、六人の異形の者が転がっていた。
天女の姿も、ましてや輝夜の姿も無い。
兵たちはみな無傷で、何故か天からの使者だけが事切れていた。
「これは……一体……」
グラグラと揺れる脳を必死で覚醒させながら、時の権力者たる帝は、這いずって屋敷の外へと出た。
兵たちは眠っているようで、中にはいびきをかいでいる者もいる。
そうして周りを観察すること五分。
帝の手に、何か紙のような手触りがあるのを感じた。
不思議に思って下を向くと、そこには一枚の紙切れがあった。
それを開いてみた帝は、目を大きくしてソレを観察した。
「なん……だと……」
驚愕の色は顔にも声にも現れ、手は震え出している。
そしてその紙切れに書かれた内容を読み終えると、帝の目からは大粒の涙が零れ落ちてきた。
「輝夜よ……」
ぐったりと項垂れる様は、帝としての威厳などまるで無い。
一人間としての姿を、誰に恥じるわけでも無く公にしている。
だが、周りには誰一人として起きている者はいない。
だからこそ、帝もこうして心置きなく泣いているわけか。
「輝夜……輝夜よ……」
何度も“友人”であった輝夜の名を呟く。
輝夜はもう、帰ってはこないと頭では解っている。
けれどそう簡単に認めたくはない。
矛盾が心を蝕んでいく。
その度に輝夜の名を呼んだ。
それだけが、今のこの張り裂けそうな胸のうちを抑える、精一杯の自立制御の方法だった。
/
「良いか、一片たりとも残すでないぞ」
「はっ。この調岩笠、必ずや命を全うしてきまする」
「輝夜よ、すまぬ。お主の気持ちは受け取れなんだ。お主のいないこの世界で生き永らえることの、なんと意味の無いことか……」
そう言って帝は、輝夜からの贈り物を無に返すため、側近に厳命を下すのだった。
/
そうしてソイツは、行動を開始した。
自分をこんな風にした、憎き相手の下へと行くために。
「ハッ、ハッ――」
まるで犬の呼吸だ。
だらしなく舌を出しながら、それでも全速力で走り抜けていく。
行き先はもう決まっている。
情報は全て館で手に入れた。
ソイツは父親に一度として礼を言ったことは無かったが、この時ばかりは感謝せずにはいられなかった。
父親の地位が高いと言うのは、どれほどまでにその子供に恩恵を与えるものなのか。
帝の厳命であれ、一庶民の噂であれ、あの屋敷では常に情報で満ちている。
だからソイツが憎き相手のことについて、情報不足で困ったことはない。
父親自体は何故か黙りこけて以前のように暴力を振るうことも無くなったが、情報網は生き続けている。
「み、みつけ……」
息も切れ切れに、ソイツは目当ての一行を発見した。
あれこそは帝の厳命を受けて出立した、『輝夜からの贈り物』を処分するために結成された集団だ。
長の名は調岩笠と言うらしい。
そして気になる『輝夜からの贈り物』の中身だが、屋敷での会話を盗み聞きした情報によると、どうやら飲んだものは不老長寿になれる薬なのだとか。
それさえあれば、とソイツが嗤う。
とりあえずここからは、あの集団についていけばいい。
隙を見て盗み出そう……それがソイツの考えだった。
/
計画と言うものがどれほど無用の長物なのか、このとき始めてソイツは思い知ることになる。
「はぁ……はァ……」
調岩笠たちを尾行していたはずなのに、尾行はもちろんのこと、色々とそれどころではなくなっていた。
彼らが向かっていたのは平地ではなく山だったからだ。
それも国内において比肩するもの無しと謳われた高さの山である。
ソイツは憎悪の塊であり、妖力の塊を持つと言っても、まだ幼子だ。
妖力を自在に操れたのならこんな苦労は無かったであろうが、本人は自分にそんな力があることさえ自覚していない状態なのだ。
大人でも根を上げかねない登山で、幼子が挑むにはあまりにも無謀だった。
「……、っあ!」
足を滑らせ、ずずず、と体が傾斜になっている地面に引きずられていく。
力を使い果たし、両の腕すら使い物にならなくなったソイツは、立ち上がる気力さえない。
惨めにもうつ伏せのまま、どうしようもなくなったソイツは拳を作った。
こんなはずではない、自分のこの恨みを晴らすまでは、死んでも死に切れない!
その想いが天に通じたのか、
「大丈夫か」
大きな手を差し出す誰かと出会った。
ソイツは自力では立てないと悟っていたため、すぐにその手に縋った。
もはや体裁を気にしている場合ではない。
目的達成のためには、利用できるものは何でもしなくては。
「こんなところに何用だ。ここはお前のように幼い女子供が来る様な場所ではない」
「……っ、どうしても、ここを登らないといけないんだ……っ!」
「何故だ」
「どうしても」
理由なんて言える訳が無い。
まさか帝の戴いた薬を奪いに来たなどとは。
手をさし伸ばした男は、大いに困った顔を覗かせたが、盛大に溜め息をつくと再びソイツに手を差し出した。
「良かろう、一緒に来ると良い。私たちも丁度、頂を目指しているところだ」
「……どうも」
「そうしかめ面をするな。私は怪しい者ではない。調岩笠という、まぁ帝の部下だよ」
「つきの――――いわかさ」
「さぁ先を急ごう。今日までに登りきりたいところがあるのでね」
名前を聞いた瞬間、ソイツは俯いていた顔を上げることが出来なかった。
――ツキノイワサカ。
何と言う運命の巡り会わせだ。
まさか尾行していた相手に助けられたとは。
先を行く男の背を見ながら、ソイツはにたりと嗤った。
よもや天までが自分の復讐劇に付き合ってくれるとは夢想だにしていなかった、と。
/
しかしながら、それからと言うもの、調岩笠たちの薬に対する警戒の強さがあまりにも強いせいで、ソイツは本当に文字通りのお荷物となってしまっていた。
ソイツを拾った調岩笠はさておき、他の部下たちはしきりに痛い視線をソイツに送り続けた。
ただでさえキツい登山なのに、どうしてこんな役立たずの面倒まで見なくてはならないのか、と調岩笠を除く全員が視線で語っている。
その視線に気がつかない調岩笠。
まるで死刑囚のような気分を味わいながら、それでもソイツは耐えるしかない。
目的達成が全てにおいて優先なのだから。
/
――そうして二日が経ち、ようやく頂に辿り着いた一行を待ち構えていたのは、神の存在だった。
「妾は木花咲耶姫と申す。そちらの持っておるもの、それをここでどうする気じゃ」
まさかの神の出没に、一行の大半は腰を抜かしていた。
だが流石は帝の信を置いて長となった調岩笠である。
彼は落ち着いた面むきで一礼し、事情を説明した。
全て聞き終えた神は、静かなる声で拒絶の解答を一行に浴びせるのだった。
「ここで燃やすなど言語道断。人外の匂いがするからもしやと思い来てみたが……危うくこの地を汚されるところであったわ」
「なっ、如何して反対されるか」
「当たり前であろう? ここは霊峰であるぞ。そんなものを燃やすためにあるのではない」
「そ、そこを何とかしていただけぬか?」
「くどいわ!! だが……そうな、ここではなく八ヶ岳に行ってまいれ。あそこにいる岩長姫ならそちらを迎え入れてくれるであろう」
「は、ははっ。恐れ入ります」
神の存在が消えたと見えるや、一行はその場に崩れ落ちてしまった。
「ここまで来たのにな……」
「ああ……。でも神に逆らって酷い目にあうよりかはマシか」
「だな」
ぐったりとうなだれる兵たちを前にして、流石の調岩笠も参っていたのか、こんな提案をする。
「今日はここで休んでいこう。出発は明朝だ」
「了解です」
その提案が、悲劇を生むとも知らずに。
/
「う、うああああああ……っ?!」
「ぎ、っ――――あぁ……」
「ぐ、ぐるじ……ッ!!」
異変に気がついたのは、夜もすっかり更けていた頃のこと。
ソイツと調岩笠はそこよりも離れていたおかげで難を逃れたが、他の部下たちは手遅れとなった。
「な、なにがどうなっている……」
目の前に広がるは、生き地獄だった。
生身の人間が紅の炎を纏って狂い踊っている。
中には目や口といった、穴と言う穴から炎を吐いている者もいる。
その異常な光景に危機感を覚えた調岩笠は、薬を持ってこの場から離れた。
ソイツも岩笠の後をついていく。
「くそ――――くそくそくそおおおぉぉ……っ!」
誰の仕業なのかなど、すぐに思い至った。
かの神は妹である岩長姫の山を怒りに任せて吹き飛ばすような輩である。
自分の気に入らないことには徹底抗戦。
我が一行もその一部に認められてしまったのだと、調岩笠はその冷え切った頭で即座に理解した。
「っは、は――――はは」
だがここに来て、ソイツには機会が訪れた。
天啓とも言える、絶好の機会が。
「ははははははははははははは――――!!」
絶叫しながら、先を走る調岩笠に目掛けて飛び蹴りをかます。
ここに行き着くまでの間、ソイツは調岩笠のおかげで体力を温存することが出来た。
その恩を微塵も恩と思わず、ソイツは岩笠の首を刈り取った。
「――――――は?」
流石のソイツも、たった今、目の前で何が起きたのか理解できなかった。
確かに首を目掛けて蹴った。
でもそれくらいで人間は死にはしない。
打ち所が悪ければ死ぬかもしれないが、まさか――――首がもげるなんて。
本当に、比喩でも何でもなく、ソイツは岩笠の首を足で刈り取ったのだった。
ぶしゅううう、と無くなった首の繋ぎ目から筒花火ような血が噴き出す。
首から先はごろん、と音を立ててどこかへ転がっていった。
そして着地と共にソイツは、
「なん、で……?」
今更ながら正気に戻ったように、呆然と調岩笠の方を見た。
ばたりと倒れる男の死体。
そして、ソイツの足や頬には鮮血が飛び散った跡が、ある。
――――人を殺した。
それが、頭の中で反芻する。
――――人を、殺してしまった。
がくがくと膝が笑う。
――――ヒトを、コロして――――
「い……いやぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
知らず涙を流した。
今までのソイツは獣のようで、けれど今は少女の顔だ。
だが、それでは矛盾する。
そもそもソイツ――――彼女は、憎しみで人を殺めようとしていたのに、どうして違う人間を殺して心が痛むのだろうか。
予行練習が出来たと思えばそれで済むはずなのに。
それでも泣き続ける。
まるで初めて悪戯をして親に怒られた子供のように。
そして泣き続ける彼女に、あの時の神の声が聞こえてきた。
『そうら、これがうぬの望みであっただろう? のう、人の皮を被ったあやかしびとよ』
「――――――」
『妾はそちの手伝いをしてやったのだぞえ? 礼くらい寄越さぬか』
「――――――」
『まぁよい。そら、そこな人間から薬を取り出せ。そして久遠の罪人となるがいいわ』
言いたい事を全て言い尽くしたのか、早々に神の気配が消えていく。
彼女も、もう泣いていなかった。
虚ろな瞳のまま、本体だけになってしまった調岩笠の懐から、例の薬を取り出す。
それは蓬莱の薬。
輝夜が服用し、不老不死となった秘薬。
それを何のためらいも無く、彼女は口へと含んだ。
ごくりと喉を通しても副作用のようなモノはみれない。
「――――なんだ、これだけか」
それが彼女の率直な感想だった。
復讐しようと決めた。
だから大事な物を取り上げてやろうと思ったのに。
これでは屋敷にて出てきた風邪薬となんら変わりが無いではないか。
まぁ……それでも作戦成功ではある。
これで不死の肉体を手に入れた、向こうも同じ不死者であるに違いない。
何せ天から降りてきたヒトなのだ、不老不死くらいでいてくれなくては困る。
「……ふぅ」
それにしても、帝も馬鹿だ。
輝夜がいない世界なんて意味が無い、だって?
それで不老不死の薬を焼けと言ったのか。
――――馬鹿にも程がある。
不老不死になっておけば、いつかは月にでもいけたかもしれないのに。
むしろこの地上のどこかで安穏と生きているに違いない。
彼女はその可能性にかけて、命がけでこの薬を手に入れたのだから。
「さて、と」
やることは多い。
けれど今は身を隠すのが先決だろう。
調岩笠らが謎の死を遂げたことにより、都が騒動するに違いないのだから。
彼女――――藤原妹紅は、親に死別の挨拶もしないまま、この日より俗世から姿を消した。
憎悪と妖力をそのままに。
☆★☆
火照っていた体が完全に冷め切った頃、私は瞳を開けた。
まだ月は健在で、その灯りのせいで目が痛んだ。
腹部の痛みはもう無い。
口の中はまだ血の味がして、少し嫌な気分になった。
「……はぁ」
一体今は何時なのだろうか。
昔を思い出しつつ風に身を任せていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
特にやることも無いから、寝過ごしたからと言って別に困る事でもないが、体の冷え具合からして健康にはあまり良さそうではない。
なので私はすぐに体を起こして、家路につくことにした。
「さっむ」
草木も眠る丑三つ時、とはよく言ったものだ。
夜の景色は深淵の闇のように深く、そして冥い。
私が踏んづけても、草は死んだように返事をしてくれない。
もともと返事なんてするわけはないのだが、なんというか……元気が無いような感じだ。
本当に寝ているのかもしれない。
所詮私はただの人間で、確かめる術は持ち合わせていないから真相は闇のままだけれど。
「…………」
それにしても、いつ見ても、いつ振り返っても嫌な過去(夢)だ。
結局あれから一度も父上に会っていない。
別にそれを後悔するわけじゃないけれど、少し寂しいと思ってしまうと言うか。
なんだか私が親不孝者みたいでいい気がしない。
だからと言って親孝行しようなんて一切合財思わないけど。
ただ――今更ながら、色々なモノが勿体無いと思えてきてしまったのだ。
復習のためだけに生きてきたこの千年が、振り返ってみるとそんなに充実していなかったと、夢のせいで気付かされてしまう。
「……帰ろう」
家に帰ったとしても、誰かが待っていてくれているわけじゃない。
輝夜には八意永琳がいるかもしれないが、私は独りだ。
お互い似ていて、殺し合いもしているのに、そこだけは完全に対極の位置付けだ。
「ああ、もう! やめだ、やめ」
過去を見るといつもコレで参ってしまう。
私は普段、家族なんてものを欲しがっているわけじゃないと自分では思っているけど、何故かこういう時は輝夜を非難したくなってしまう。
そのおかげで、こうして千年経った今でも輝夜への憎しみを保持し続けていられるのだろうけど。
まぁ、なんにせよ、独りだろうが二人だろうが家は家だ。
落ち着いて眠れればそれでいい。
……少なくても、今この瞬間は。
私は真夜中の道中を、寒さに耐えながら帰路に着いた。
☆★☆
「で、殺し合いになったわけで。う~ん……」
「一番大事な部分は思い出せず終いですか」
はぁ、とあらか様に溜め息をつく永琳。
私だって好きでボケているわけじゃないんだけどなぁ。
でも、忘れてるということは、それほど深い理由なんてなかった、ってことだと思う。
「まぁでも一応安心はしました。あの不比等と言う輩を好いておられていたと言うのなら、私の監督不行き届きと言うことになりかねませんし」
「そ、そこまで言うのは可哀想じゃない?」
「そう言う輝夜も輝夜で、顔が引きつっているじゃありませんか」
「あはは……」
正直、私もあんな男とは死んでも契りなど交わしたくなかった。
だからもし――歴史にもしなんて無いと言うけれど――六人組があの時あの場所に来てくれなかったら、私は一体どんな対応をしていただろうか。
あの時は頭が真っ白になっていたせいで考え付きもしなかったけれど、今となって振り返ってみると、別に須臾の結界を張りつつ逃げ出せばそれで済んだ話ではある。
それに不死者なんだから、舌を噛み切って自害する、なんてマネも出来たわけだ。
向こうは私が不老不死だなんて知らないだろうから、きっと大慌てで逃げていったに違いない。
まぁ……代償としての痛みは死ぬほどのモノだろうけど。
こうして後から色々と考えてみると、結構面白いかも。
「しかし妹紅は恨みから仕掛けてきているのでしょう? 輝夜はそのままでいいのですか?」
「うん?」
「人間の憎悪なんて、桜の花びらとなんら変わりは無いでしょう。移ろい彷徨うのが人間の心と言うものです。
彼女から殺意が無くなれば、今の関係だって永遠には続きませんよ?」
「…………」
それは私も危惧するところだ。
妹紅がもし、明日にでも罪の意識を感じたり憎悪が心から消えてしまえば、この関係も終わりだ。
お互いに死ぬことの赦されない体でありながら、生を実感できる機会を大幅に失うことに繋がる。
「まだ子供の遊戯の方が可愛げがあるというものです。そろそろ本気で考えてみてはいかがですか、輝夜。
永遠なんて、本当はありはしないのですし」
そう言ってお茶を啜る永琳は、本当に美人で大人な女性に見える。
きっと永琳には私と妹紅の気持ちなんて永遠に理解出来ないのだろう。
私でさえ、何故こうして妹紅を意識しているのか、朧げにしかわからないのだから。
それに人格が完成されきってる永琳には、不確かな者の歪な部分と言うモノが見えないのかもしれない。
まぁ、私だって妹紅とは他人同士であるが故に解らない部分も沢山あるのだけれど。
「そうね、近々考えないといけないかもね」
でもね、永琳。
こうして解らないと口では言っているけれど、一つだけ確定事項なことがあるの。
それは――――。
「それはそうと。輝夜、その服、ちゃんと自分で洗いなさいね」
「えぇ」
「えぇ、じゃありません。たまにはそれくらいしなさい。血糊を洗うのがどれだけ大変か、身を以って知るのもたまにはいいでしょう」
「え、永琳~……」
笑いの途切れぬ今日この頃。
いつまでもこんな毎日が続くといいな、と心の底から思う。
私にとって永琳は大切な人だ。
それくらい、妹紅のことも大切に想っている。
そう、確定事項と言うのはコレ。
私は藤原妹紅を、本当に大切に想っている。
始まりはどうだったかなんて、今はもう思い出せないけれど。
次の千年も、妹紅と一緒に生きていきたい。
向こうに憎悪が無くなったとしても、生きる実感を得る機会が減ってしまったとしても構わない。
――――私はただ、今この瞬間、瞬間を、大切な人たちと一緒に過ごしたい――――
次回ももこ×誰かで期待してます(ぁ
次回作も期待してます。
良い、すごく。
輝夜がこんなにかわいいとは思わなかった。
帝や石上とその他の権力者の対比、それへの輝夜の心情なんかも。
次の作品があれば是非読みたいです
眠気も忘れて読みふけりましたよ
もしよければてるもこの話をもっと書いてもらいたいです。
えーりんと比べて、輝夜が子供(?)っぽくて可愛いかったのが良い感じ(笑)
次回作にも期待してます!
読み応えありました。
まだまだ話が広がりそうで、結びが寂しくなっちゃいました。
応援してます。
妹紅の能力は先天性か後天性か微妙なところですが、いいですね、こういうのも。
超長編シリーズの第一章みたいですね。
丁寧な作品で楽しかったです。
(阿倍氏が安倍晴明の祖である点なども)
強いて言えば、不比等なら不比等で、車持皇子なら車持皇子で統一された方が良かったかも。
(実際、不比等皇統落胤説も一部にあるそうですし)
妹紅の過去には少々キツイものがありましたが、なかなかドロドロした世界観でしたねぇ。う~ん、ヘヴィです。
夢月さんの小説はどうも一度ではわかりにくいのかも。
決して悪い意味ではなく、するめのように(たとえが微妙ですみません)噛めば噛むほど味が出ると言いますか。
梅雨日の出来事も読み直してきます…