……ん?
ゆっくり瞼を開けたとき、そこにあったのは白い枕とシーツだった。
太陽の匂いのする、肌触りの心地よい白い世界。これが目の前にあるということは、読書中に眠ってしまったところを小悪魔が運んだのだろう。
昨日は何時まで本を読んでいたのだろうか。まどろみつつ記憶を探れば、小悪魔がストーブを灯すのを横目で見たような気はする。確か使用人として館の手伝いをしている彼女がその作業を行うのは早朝のはずなので、もしかするとその後でテーブルの上に突っ伏してしまったのかもしれない。
ランチタイムに出される紅茶を飲んだ記憶もないので、おそらくその前に意識を手放した。
ということは、昨日眠ったのではなく。今日仮眠を取った程度なのかもしれない。
「え、え~っと、あれ? こ、こんにちは、パチュリー様?」
館を歩く妖精メイドだろうか。
枕に顔を埋めながら意識が覚醒するのを待っていると、躊躇うように背中から声を掛けられた。ん~、という唸り声だけで挨拶を返すと、離れていく小さな足音が響いて。
足音が、響く?
加えて、あの不自然な声色。
何か嫌な予感がして、瞳を開け、周囲をゆっくり見回す。しかし変わったことは何一つない。何も変わらない、明らかに見慣れた風景。
瞳を開ければ、そこは別世界でしたなんてよくあるオチかと思ったが、紅魔館の中に間違いはない。
紅い絨毯。
高い天井。
壁に固定されたランプ。
目の前にある、見慣れた扉。
うん、見れば見るほど。
「……ナニコレ」
廊下だ。
しかも、おもいっきり図書館の前の。そこにベッドごと運び出されていた。丁寧というか何と言うか。こんな妙な気配りをするのはパチュリーの中で一人しか存在しない。
「こぁ! 出てきなさい!」
ベッドの上で帽子を被り直し、上半身を起こして叫ぶが。
図書館の中にいると思われる小悪魔に反応はない。もぞもぞとベッドから起き、試しに図書館に入ろうとドアを引いてみる。けれど予想通りビクともしない。魔法でも開かないところを見ると、中から物理的に鍵を掛けられてしまったようだ。 仕方ないので、ドンドンっと荒々しく扉を叩いて命令する。
「こら! 開けなさい! こぁ! 聞こえているのでしょう!」
「ダメです! パチュリー様! もう図書館はダメなんです! 私のことは気にせずお逃げください!」
「……こぁ? 一体何が」
けれど、パチュリーの怒声に答えたのはそれ以上に切羽詰った小悪魔の声だった。その声は疲弊の色が濃く、今までずっと何か作業をしていたことが伺える。
「図書館はもう、汚染されてしまいました。おそらくは先日運び込んだ荷物の中にあの生物が紛れていたのでしょう。私としたことが、こんなことになるなんて。でもパチュリー様の大切な本だけは、私が守って見せます。ですから、早く! 少しでも早くここから! キャァッ!!」
「こぁ、大丈夫?」
「ふ、ふふふっ、だ、大丈夫です。少し驚いただけですから。まさか私に不意打ちを仕掛けてくるとは思いませんでした、でもそのおかげでその個体を撃破することに成功しましたけどね。ざまあみろ、ってところですよ。それではパチュリー様、いってまいります。この図書館のために、あなたの世界のために!」
「だ、ダメよ! こぁ! やめなさい!」
「お優しいのですね、パチュリー様は。主人を無理やり廊下に出す、そんな無礼な使い魔にそんな言葉をかけてくださるなんて…… おかげで、決心が付きました。今からあの大量虐殺兵器のスイッチを入れます。ですからすぐこの部屋から離れて、咲夜さんにお伝えください。この地下図書館を閉鎖するようにと。最後に、貴方の声が聞けてよかった。さようなら、パチュリー様!」
「こぁ! こぁぁぁぁぁ~~~!」
震える声を残し、小悪魔の音がドンドン小さくなっていく。パチュリーは最後に残した小悪魔の言葉を伝えるべく、地上へ向かう階段へ急――
いや、ゆっくり、欠伸をしながら飛んでいった。
「何で、あの子はゴキブリ退治するときに妙なテンションになるのかしら……それに乗っかる私もどうかと思うけど」
ゴキブリを退治する煙を使うので、外に出した。
そう説明すればいいのに、あの使い魔はいつもいつも。
「また、本に布をかけ忘れませんように」
本が煙臭くならないことだけを祈って、パチュリーは珍しく外へ出たのだった。
「もう、見てるだけで憂鬱な気分にさせてくれるわ」
白、白、白。
屋根も道も、人里はその柔らかい白いものに覆われている。久しぶりの外出、けれど季節はおもいっきり冬。パチュリーが数度しか足を運んだことのない人里は、全然違う風景をしていた。
「これでは、古本を扱う露店なんて無さそう、雑貨屋でもあたろうかしら」
積雪が酷く、里の中は浅いところでも足首くらいまで簡単に足がはまってしまうほど。軒下には屋根から落ちた雪がパチュリーの身長よりも高く積み上げられている。その風景からもわかるように、身も震えるほど外気は冷たい。喘息もちには厳しいその喉を刺すような気温になれるまで、パチュリーは何度も咳を零しながら浮いて移動する。
本当なら、小悪魔のゴキブリ退治が終わるまで紅魔館の中で休みたいところだったのだが、大晦日に年越しパーティ、その後新年を祝う博麗神社の宴会等、年末年始はイベントが多く掃除どころではなかった。そのため間が悪く、今日、紅魔館で大掃除が行われている。ただ喘息のパチュリーは掃除中に館の中いると咳が止まらなくなってしまうので、仕方なく外出したのだった。
そして新しい発見を求めて人里に着てみたら、真っ白。
これならアリスのところにお邪魔した方がよかったかもしれない。
過去の記憶の中から人里の地図を広げ、雑貨屋の位置を探しながら人里をうろついていると、ある店の前に人だかりが出来ているのを見つける。こんな寒いときに何の騒ぎかと思い最初は無視して通り過ぎようとした。しかし集まる人間たちがあまりに必死な顔をしているので、魔法使いの知的好奇心がくすぐられてしまい。結局のところその円形の集団の一番後ろについてしまっていた。このままでは人が騒いでいることしか見えないので、ゆっくりと高度を上げて最前列の様子を伺うと。
そこでは争うように商品を奪い、買い物をしているお客の姿。
各々の手に握られているのは、何の変哲もない……
「野菜よね?」
魔法使いなので、食事は趣味程度にしか摂らないが。いくらなんでもそれが何かくらいは知っている。確かティータイムのときに咲夜から聞いた話では、人里の近くに農場があってそこで大量生産されているとか。だから人里で食べる分には困らない、と。けれど、この状況を見ていると咲夜の話が作り話に思えてくる。どう贔屓目に見ても、数少ないものを我先に取りあっているようにしか見えないのだから。
そうやって物思いに耽っていると、あっというまに店の商品は空になった。笑顔を浮かべる人々と、不満な声を残す人々に分かれて人垣が消えていく。その両極端な反応をする人間たちが立ち去った後、残された八百屋の店主はというと、大きなため息をついて商品棚の後片付けをし始めた。
「あら、まだ私がこの場にいるというのに、堂々とため息をつくなんて店主としてどうなの?」
「お、おわ!? な、なんだあんた。もう商品はなくなったんだから用はないだろう。もう帰ってくれ……」
普段なら愛想良く接してくるはずの彼は疲れたようにつぶやき、目を合わせようともしない。パチュリーが地面から浮き上がって見下ろすその姿に驚きはしたものの、敵意は無いように見える。ということは人間以外の種族だから嫌そうにしているわけではなく、単に客の対応に疲れただけなのだろう。パチュリーはその横柄な態度を特に気にすることもなく、地面に足をつけると空になったザルを指差した。
「ねえ、この野菜というものは里で多く生産されているものではないの? ウチのメイドはそんなことをいっていたのだけれど」
「ああ、それはそうなんだが。最近は雪が酷くて、しかも畑近くの山で雪崩が起きてね。野菜が雪に埋もれてしまったんだよ。だからその雪を退かさないといけないんだけど……。 人里の人に手伝ってもらっても一日に十分な量の野菜を取れなくてね。早くしないと雪の重みで死んでしまうというのに」
「そういえば、慧音という寺子屋の先生の知り合いに炎を使うヤツがいなかったかしら? その人に頼ってみるとかはできないの?」
「一度頼ったことはあるんだが、調整が難しいらしくてね、溶かしたあとの熱を持った水が畑に染み込んで、根を枯らしてしまうんだよ。慧音先生も満月じゃないと自然を覆すような力は出せないというし」
「ふーん、なるほどね。そういうこともある、か。それがどうにかなればいいのよね? ちょっと試したい術式があるんだけど。それを試させてくれるんならただでやってもいいわよ?」
それは単なる気まぐれか。妹紅や慧音ができないこと、それをやってのけることによる優越感を得ようとしたからか。それとも、単純に魔法を試したかったからか。自分でもよくわからなかったが、パチュリーはそんなことを店主に提案する。すると藁をも掴む気分だったのか、見慣れぬ少女を疑いながらも店主は試してみて欲しいと懇願してきた。
溺れる者は藁をも掴む、それだけ大変な状況だったのだろう。
「ええ、安心しなさい。魔女は契約を破らない」
店主にそんな言葉を返し、パチュリーは無表情のまま再び浮かび上がる。そうして先導する店主の後ろを付き移動したのだった。
案内された場所は文字通り雪原だった。
パチュリーの肩まで届きそうなほどの雪が溜まった。自然の壁が一面に広がっている。けれどそれがどうやら元畑ということらしい。案内した店主の足元。人の手によって除雪された一部分に緑色の葉が散らばっていなければ、信じられない。人里など比較にならないほど単色に覆われた世界なのだから。広さで言えば霧の湖と同じか、それ以上。
その中でも山に東側にある山に面した部分は特に雪が多く。
あれが雪崩れの名残なのかもしれない。
「なるほどね、確かにこれを一気に片付けるには手間取りそう」
「そうなんだよ、どうだい? やっぱり実物を見ると難しいかい?」
雪を失くすことは早々難しいことではないが。
下手なことをすると雪に埋もれている野菜が駄目になる。その難しさを知っている店主は難しい顔をして、空中から降りてくるパチュリーを見上げる。
「そうね、つまり雪を熱で溶かしたとしても、その熱が直に野菜に触れなければいいんでしょう? それと確認したいのだけれど、このあたりはなだらかな斜面になっているわよね、雪解け水というのはどこに流れるのかしら」
「それはあっちだ、あっちの下がったとこりに水路がある」
「なるほど、上から見たら川のようなものがあったけれど、そこへ直接流れ込むというわけね。流量からして一気に溶かしても問題ない、か」
そんなことを言いながら、パチュリーは不意にしゃがみ込むと。服が汚れるのも気にせず、膝を柔らかい地面の上に付く。その後魔力を集中させた両手の指先ををむき出しの地面へと差し込んだ。そうやって指先からある程度の力を地面に流し込み下準備を完成させると、それをボーっと見ていた店主を振り向くことなく声を掛けた。
「野菜の背丈と、その植えられている間隔は?」
「俺の膝くらいの大きさのヤツがほとんどだ。そして野菜は列になって植えてある。こう、そこにある小さな山が奥に向かって進んでいるだろう? それがずっと雪の中も続いているんだ」
「なるほど、溝がある。と、じゃあその溝に支えを作ることにしましょう」
「支え?」
「あなたは気にしなくていいわ」
そうやって土地の情報を整理し、パチュリーは五行の力に働きかける。
干渉したのは、金、土、水の三つ。
地面が含む金属に呼びかけて、膝くらいの高さの柱を等間隔に生み出すと、それを土で多い湿り気を帯びさせて固定。さらに柱の上から平らな金属の板を雪の中に平行に生み出していき、出来上がった金属板の上にまた湿った土の層をのせる。
つまり、雪の下の地面に干渉して、野菜があるとおもわれる地面の全てに簡易なシェルターを作り出したのである。こうやって壁で覆ってやれば、後は一気にその上の雪を消し去ってしまえばいい。パチュリーは男に下がりなさいと命令して土から指を引き抜き、 高く飛び上がって両手を頭の上に掲げる。
ここで使うべき魔法は、唯一つ。
「ロイヤルフレア!」
パチュリーを中心にして、膨大な面積の雪が蒸発し、融解し、一気に水路の方へと流れる奔流となった。けれどその強大な熱量、水流にもパチュリーの作ったシェルターは野菜をしっかりと守り続け、一箇所も崩れることがない。三つの元素に干渉して急造りしてみたのだが、思いのほか上手くいったようだ。
一回のロイヤルフレアではさすがに全面をカバーし切れなかったので、それを何度か繰り返し。壁の上部にある雪が全部なくなったところで囲いを元の土へと還してやれば。
「おお、おおおおおおおおおおおおお!!」
店主の歓声が、その成功を裏付ける。
もうそこには諦めてしまうような膨大な雪は存在しない。
膝程度の高さの、人の手で十分野菜を収穫できる程度の雪しか。
「ふむ、やっぱり論より証拠。実験で得られる経験は、机上で計算を繰り返すことより効果が高いわね」
そんな喜びの声を上げる男の横に着地したパチュリーは袖の中からペンと簡易な手帖を取り出し、結果を簡単に書き込んでいく。そんなパチュリーの両手を。
「ヒャッ!? な、何するのよ! 急に!」
急に男が握り締めてくる。
感動に瞳を潤ませて、膝を付きながら。その様子はまるで、女神を見つめる純粋な子供のようだった。
……子供というには筋肉質すぎるけど。
「あなたは、いえ、あの太陽のような力を使う貴方様は! 新しい豊穣の女神様! そうやって人間の姿となり私に希望を与えてくださったと!」
「えーっと、うん、私、魔女って。さっき言ったよね? とりあえず手離して」
「豊穣の魔女神様! ぜひお名前を!」
「魔女神様って……もうなんでもいいけど。一応もう一回言うわよ? 私は魔法使い、魔女、パチュリー・ノーレッジ、わかった? だから手を離して」
「はい! 豊穣の魔女神様、ぱちゅりぃ・のぅれっじ様!」
「……もう、それでいいから手離しなさい」
熱い視線に負け、説得を諦めたパチュリーは、明らかに豊穣を邪魔しそうな名前にオッケーを出してしまう。すると呼び名を認められた店主が手を離し、今度は膝をついた状態で両手を合わせ拝み始めてしまう。
一体なんだというのか。
神でもなんでもない。むしろ幻想郷に来るまでは疎まれる存在だった魔女。
彼女にとって、素直な善意をぶつけられるというのは恥ずかしい、というよりどう反応していいかわからないことだった。ただ棒立ちしたままでは仕方ないので、くるりっとその男に背を向けて空中に飛び上がり。
「別に礼なんていらないから、さっさと収穫というのを始めることね!」
そんな言葉を残して、慌ててその場を去っていく。
男は空に消えていくその姿を呆然と瞳で追いかけて、女神様とつぶやきながら。人里の人手を集め収穫を始めたのだった。
「うふふ~、おいしそ~なのいっぱ~~い♪」
それを、金色の髪の少女が心から物欲しそうに眺めていた。
真っ赤な、可愛らしいリボンを揺らしながら。
それから三日後。
紅魔館の大掃除の余韻も消え、いつもの穏やかな雰囲気が戻り始めた頃。鏡のように磨かれた廊下や、光沢を放つガラスになどまったく興味を示さないパチュリーは、相変わらず図書館の中で読書と魔法の研究を繰り返している。それでもいつも身の回りのお世話をしている小悪魔は、その微妙な変化を敏感に掴んでいた。
その変化というのが、鼻歌を歌いながら読書をしていたこと。外出中に何があったのかは知らないが、普段よりもその回数が格段に増えているのは明らかだった。おそらく本人は気づいていないのだろう。その鼻歌に気づき、小悪魔が笑っていると不思議そうな顔をするのだから。
何にせよ、主人が外出するのは良い傾向だ。今後とも何かにかこつけてパチュリーを外出させてみよう。そう心に決めながら本の整理をしていると、図書館のドアを丁寧に叩く音が響いてくる。
「こぁ、お願い」
主人の声に従い、小悪魔は急ぎドアへと向かう。返事をしながら開ければ、そこには妖精メイドが立っていて、一枚の灰色の紙を差し出してきた。どうやら色や形からして天狗の号外と言ったところか。話を聞けばパチュリーの名前が載っている気がするから見て欲しいとのことらしい。ほとんど外出しないパチュリーが新聞の話題になるなんて稀なことなので、小悪魔は疑問を感じながらもそれを受け取りメイドに感謝の言葉を伝える。そして静かにドアを閉めてから、折りたたまれた新聞の号外を開き、軽く目を通して……
「――――ッ!?」
予想外過ぎる出来事に、ごくり、と息を飲んだ。その記事にはしっかりとパチュリーの名前らしきものが掲載されている。しかも人里のある店の写真入りで。ただ、それは、なんというか……あまりにインパクトがありすぎるというか。
本当に主人に見せて大丈夫なものか、何か危うい気がする。不安に駆られてどうしてもそれを見せるという行動に移れず、ただオロオロとドアを本棚の間を往復する。そんな不審な行動が裏目に出て。
「こぁ、何をして…… って新聞?」
「え、あああ、いや、これはっ!」
主人の興味を引いてしまったようだ。小悪魔が戸惑う姿を見て、自分に良くない記事でも書かれているのではないか、そう邪推してしまったのかもしれない。若干瞳を細くしながら「見せなさいとよ」と言ってくる。小悪魔はしぶしぶそれをテーブルの上に、読書を邪魔しない位置に置いた。それを確認してから、パチュリーはテーブルの空いたスペースに本を置き、訝しげに写真付きの号外を眺めながら、紅茶を一口含み。
文字を読み始めたところで――
「ぶふっ!」
無表情だったパチュリーの口から、紅茶が霧状に噴出される。テーブルの上に本があったため、なんとか根性で横を向いて我慢しようとしたものの、結局耐えられなかったようである。あまりの記事の衝撃に、その後も咳は止まらず喘息の発作まで誘発してしまう。小悪魔が慌てて駆け寄り背中をさすったり、風の魔術で酸素を肺へと送り込むことでなんとか事無きを得た。だが、思いのほかダメージは大きいらしく、しばらく背もたれに体を預け、荒い呼吸を繰り返していた。
「はぁ、はぁ、まさか、新聞記事に殺されかけるなんて、想定外ね。天狗侮りがたし」
「いや、天狗とかそういう問題でもない気が……」
新聞の記事、そこにでかでかと見出しに飾られていたのは、『新しい豊穣の神様誕生か?』という文字だった。その記事の内容としては、パチュリーが太陽の力を使って雪を溶かし、野菜を取り出しやすいようにしてくれたという記事。それを嬉しそうに語る、八百屋の主人の写真が飾られていたのだが。問題はその主人の横で異様な存在感を放っている木彫りの置物。
木彫りだというのに、ネグリジェにガウンを羽織ったようなその服の柔らかさを感じさせ。もう太陽のように輝かんばかりの笑顔は、まるで生きているよう。流れるような長い髪が自然の曲線を演出し、より躍動感を与えてくる。生命を持たない物に命を吹き込む巧みの技。そして、職人の拘りが感じられる。
ただちょっと拘り過ぎた点も見受けられるわけで……
「パチュリー様、まさか人前でこんなはしたない…… いくらお相手がいないからといって」
「うん、小悪魔。何故頬を赤らめているのか知らないけど、その想像を私以外の前で口にしたら滅ぼす。絶対滅ぼす」
細部まで再現された、木彫りの像。それは明らかにパチュリーだった。だったのだが、こんな無邪気な満面の笑みなんて浮かべたこともないし、なんというか。おそらく、ロイヤルフレアを空中で撃ったときのポーズを参考にしていると思うのだが、そのときに風と魔力の流れで揺れた服の下から覗く物……
ドロワーズまできっちり再現する必要はない気がするのは、パチュリーだけだろうか。しかもその像横には、木製の立て看板が横に立てられていて『神像』という大きな二文字が書かれていた。
もう、ここまで来ると、善意が悪意にしか感じない。そんな写真を憎しみを込めた瞳で見つめる、そんなパチュリーの側で苦笑いすることしかできない小悪魔は、極至近距離で妙な音を聞いた。
ぶちっ
切れてはいけない何かが、弾け飛んでしまうような音を。
そしてその音がした方を見ると、写真の像と同じような満面の笑みを浮かべながら、コメカミに青筋を浮かべる主がいて……
「こぁ、ちょっと今から言う本持ってきて。人里に出かける準備をしなさい」
「え、えーっと、念のためお聞きしますが、なんという名前の」
「あらあら、わからないのかしら? ほら、図書館の奥に封印してあるでしょう? 魔道書『ネクロノミコ――』」
「だ、だめーーー! それだけはダメです、パチュリー様、お気を確かに!」
図書館の置く不覚に封じられた禁書を持ち出そうとするパチュリーを抱いて、必死に反対側に引っ張る。静かに怒り狂うパチュリーが何を見つけたかといえば……
パチュリーが写真の中に見つけた、その禁じられた言葉。
それは木彫りの像の台座に彫り込まれている彼女の名前だった。何故それが彼女の気に障ったかと言えば、簡単なこと。
聞いた名前をそのままカタカナで書けばいいものを、ちょっと工夫して無理やり漢字を当てはめた結果。
『豊穣の魔女神 破厨裏異・悩裂痔』
誇りとか尊厳とか、いろんなものを一撃で破壊するような。
特に最後の三文字が、女性には許すことのできないものになってしまっていたから。
「ああ、魔女神様お待ちしておりました。やはり困っているものを救いに来るとはあなたは本当の豊穣の神様なのですね!」
「おっけぃ、こぁ。神の名の元に哀れな子羊を冥界に送るわ」
「抑えて! 抑えてくださぁぁいぃぃ」
人里の奇妙なご神体が置かれている八百屋にやってきたパチュリーは、店主の顔を見るや否や左手で魔道書を持ち、右手を平然と店主に向けようとする。それがどれほど危険かわかっていない店主は神様が手を差し伸べていると勘違いして、その場に跪き、小悪魔はその右手を必死に下げさせようとパチュリーに抱きつく。そんな魔女とその使い魔のおかしな攻防を目の当たりにしながらも、店主は期待のまなざしをパチュリーに向けていた。
「あの、神様。あなたにこのようなことを再びお願いするのはどうかと思うのですが、またあの畑のことでご助力願いたいのです」
盲目的な信仰とは、実に恐ろしいもの……
小悪魔がそんなことを実感していると、その懇願を跳ね除けるようにパチュリーは腕を横に払い、店先に堂々と立っている、例の物体を指差した。
「あら、奇遇ね。私もあなたに物凄く要求したいことがあったの。今すぐこの異物を処分しなさい。即座に、早急に、迅速に」
「え、そ、そんな! これはあなた様を祭るための祠の代わり、せめてもの信仰の拠り所として」
「いらないから、魔女にそんな信仰とか全然いらないから」
ここはしっかりと言っておくべき。そう判断したのか、パチュリーは上目遣いに店主を睨み付ける。自分は魔法使い、つまり魔女であるから神様のような豊穣の祈りなんて必要ない。それを伝えたつもりだったのに。何故か店主はより一層瞳を輝かせ始める。
「そ、そうなのですか。あなた様ほどの偉大な神であれば、信仰などこれ以上必要ないと」
「……凄く曲解してるみたいだけど。それでいいからこれをさっさと片付けて。そしたら助力をしてあげてもいいわ」
「そ、そうですか。我ながら良い出来だと思ったのですが」
「って、あなたの作品なのそれ? そんな彫り物の技術があるなら仏像とか彫ってなさいよ。もっと重厚なやつ」
「何を言ってるんです、あんなもの彫っても全然萌えないじゃないですか。では失礼します、よいしょっと!」
一分の一スケール。つまりほとんど本物と同じ姿をした彫り物を軽々と担いで、比較的体躯の大きい店主は奥へと引っ込んでいく。店先に残された二人は、彼の爆弾発言を聞いてどう対処していいのかわからず、唖然と立ち尽くしていた。
「……最近の信仰って怖いのね、こぁ」
「……ええ、私も信仰されないように気をつけます」
いっそのこと、このまま逃げ出してしまった方がいいかもしれない。そんなことを思いながら二人は店主を待った。その後、手早く神体を片付けた男に連れられ例の畑までの道のりを行く。その途中で畑に何が起こったのか、おおよその話は聞いた。
パチュリーが戻った後、里のみんなと一緒に作物の収穫を行っていたとき、いきなり空から闇が降ってきたのだという。その中に何があるのか、何が隠れているのかまったく確認できない。黒よりも深い、純粋なる闇。そんな人間を丸々飲み込んでしまうほどの球体は、地面に触れた瞬間、雪に溶けるように消えてしまったのだという。そうやって闇が晴れたところにいたのは、にこやかに、友好的に微笑む金髪の少女だけだった、と。
「人食い妖怪で有名なルーミアね。畑を狙ったのは初めて?」
「ええ、いままではそんなの見たことなかったですよ。畑も人里の施設ってことで、襲われることがない。こっちもそう思っていましたし」
「なるほど、人里の外というグレーなところを狙ってきたわけね」
ということは、それだけ空腹だったということなんだろう。形振り構わず襲ってきたルーミアに対し、彼らはそれに対処するのは初めて。となれば、どうなるかぐらい火を見るより明らかである。
「何人やられたの?」
「いや、犠牲は一人も。肉はありませんが、食べ物の宝庫ですからね、あそこは」
「なるほど、野菜を食べさせたか。いいことを考えたものね」
しかし妙である。それで解決したのならパチュリーに依頼するはずがないのだ。となれば、事件は今も続いている。そしてその事件で予想できるものは、二つ。ルーミアが野菜では満足しきれずに、何度も人間を襲いにやってくるか。それとも別の要因で畑を住処としてしまったか。
「とりあえず、ルーミアが野菜に影響を与えているから困っている。というのが私の予想なのだけれど」
「おお、さすがです。そのとおり、何を思ったか。畑に居座ってしまいまして」
「なるほど、思ったとおり」
店主の穏やかな態度を見ていれば簡単にわかること。仲間が妖怪にやられた人間が、容易に人外の存在を信じるなんてありえないのだから。仲間がやられていたとすれば、例えパチュリーを神と崇めていたとしても『神なら何故そのとき助けてくれなかったのか』というような理不尽な不満がどこかから滲み出るはず。悲しいけれど、それが人間というものなのだから。
「それで? 私は畑にいついたルーミアを追い出せばいいの?」
「ええ、っと。まあ、追い出すといいますか、対処法を教えてほしいといいますか」
「対処法?」
「ええ、まあ、もうすぐ到着しますので百聞は一見にしかず。ともいいますし」
「自分の目で見て判断しろということね、上等じゃない」
パチュリーはスペルカードの枚数を確認し、万全な体勢を整えてからその現場へと向かったのだった。
パチュリーは思わず息を呑んでしまう。
確かにそこは、闇の妖怪に支配されたフィールド。そう思っていいだろう。人間たちはその場にいるはずなのに、闇に捕らわれたように暗い表情をしており、機械的に収穫を行うだけ。まるで自分の意志を持たないような人形のようになっていた。闇を司る妖怪は、まさか人の闇をも操るようになったとでも言うのだろうか。これがあの、幻想郷を浮遊し気ままに移動する、あの明るいルーミアの本質だというのだろうか。緊張で身を震わせる小悪魔を横目で見ながら、パチュリーも動揺を隠せずにいた。
「これは……」
知は力なり。という言葉があるように、知るということはそれだけで有利となる。ただ逆もまた然り。自分が知らないものは、際限なく恐ろしいものに化ける恐れがあるのだ。頭が勝手に納得できるものを探し、想像を膨らませ、なんでもないことに対しても恐怖を増大させる。
だから、パチュリーは畏れている。今の理解できない存在となりつつあるルーミアを見て、脅えている。
「一体なんだっていうの……」
雪が跡形もなく消え、土の様子がはっきりとわかる。そんな広大な畑の中心に、ルーミアは仁王立ちしていた。大地に両足を付け客人を見据える姿は、まるでその場の王様のようである。無言で腕を組み、やってきたパチュリーたちを見つめているその姿、その燃えるような瞳は自信に溢れていた。
「そうです。あれがこの畑を私から奪い取ってしまった、ルーミアという妖怪」
「私が知っている闇の妖怪とは、どこか様子が違うようね」
「ええ、彼女は、目醒めてしまったんですよ。私たちの不用意な行動が、あの妖怪の別の面を引き出してしまった」
「別の、面? まさか」
ルーミアの髪についた赤いリボン、あれはもしかすると大きな封印かもしれない。そんなことを誰かがいっていた気がする。それは単なる噂であったかもしれないけれど、もしそれが本当であるなら。彼女の闇というものが本当の『混沌』を意味するものであるのなら、これは人里だけの話ではない。握り締めた手の中を汗で濡らしながら、彼女のリボン、あの赤い小さな布切れの様子を確認してみるが。
ある。間違いなく髪の毛に縛り付けてある。
パチュリーは小さく安堵し、自分の妄想を打ち消すが。そうなってくると、何故ルーミアがあれだけの威厳を放っているのかそれが余計にわからない。思考が迷路の入り口に足を踏み入れようとしたそのとき、店主が口を開いた。
「魔女神様。あの妖怪を狂わせたのは、私たちに違いないのです」
「でも、リボンも服装にも乱れがないし、争ったようにも見えない。一体何があったというの」
「そ、それは……それはっ!」
問いかけられた店主は、苦悶の表情で地面に膝を付き、四つん這いになりながら首を左右に振る。その様子から自分の犯した許されざる罪への悔やみが、ひしひしと伝わってくるよう。そして男は地面を力いっぱい叩きながら、血反吐を吐くように声を絞り出す。
「うちの畑の野菜が、旨すぎたから! 全てが狂ってしまった!」
「……マテ」
「大根は瑞々しく、抜きたてを洗って食べれば臭みなんてなくとても気持ちいい歯ごたえで。カブだって、ほんのりとしたあの甘さが、口の中に広がって――」
「……こら、おっさん」
「ましてや! 白菜なんて、鍋に入れてもよし、漬けてもよしで、もう! 何で私はこんなにも完璧な野菜を作ってしまうんだ! あああ、自分の才能が恐ろしい!」
「…………」
「駄目です! パチュリー様、無言で魔力高めちゃダメデス!」
「ほら、だってなんか別な世界いっちゃってるし、ショック療法?」
「いやいやいやいや、別の世界から戻すというより、いっちゃいけない世界に吹き飛ばす程度の魔力ですからそれ」
どこの世界に、野菜が美味しいからという理由で、暴走する妖怪がいるというのか。にこやかに魔力を右手に集め始めたパチュリーを小悪魔が押さえ込む。そんな不毛な争いが起ころうとしたそのとき、畑の中で動いていた人間の一人が、野菜を持った状態で転んでしまう。まだ若干湿り気のある土に足を取られてしまったのだろう。その様子を何気なく見つめていると、視界の中でルーミアが動いた。
その倒れた男へ向かって素早く、まるで獲物を狩る獣のように。
「こぁ」
「わかってます!」
やっと動いたルーミアの動きを見るやいなや。パチュリーはその行動を妨害するよう支持を出す。いくら人里から離れているといっても、この畑という場所で大暴れしてもらったら、自分を含める妖怪と人間の間に必要のない確執が生まれることとなるだろう。いくらあまり外出しないパチュリーにとっても、それはあまり好ましいことではない。小悪魔は素早く羽ばたいて飛び上がると、畑の上を低空飛行。一気にルーミアとの間合いを詰める。
さすがにルーミアの方が早く転んだ人間に到達したが、それは誤差の範囲。
人間の方に手を向けるルーミアを止めるために接近して。
「何をしているのだ! 野菜は鮮度が命なのだから、すぐに起き上がって籠の中にいれなさい! その美味しい野菜を待っている人たちがいるのがわからないのかー!」
「は、はい! ルーミア班長!」
「……へ?」
そのあまりの出来事に、小悪魔は目を丸くし、空中で急停止をかけた。何かの聞き間違いかと、ある程度接近した状態のまま様子を伺っていると。
「食べ頃の白菜はそれが最後。遅れている大根班の救援を急ぐ! これは急務なのだ! わかったのなら早くいかないのかー!」
「はい、喜んで!」
「いい返事! 早く早く!」
「え、あれ? あの…… え?」
よろよろと起き上がりながらも、再び白菜を持って立ち上がる男。確かにその男の瞳は疲労のせいで、どこか虚ろにも見えたが、無理やりやらされているというわけでもなさそうだ。むしろ嬉々として働いているような……
何が起こっているのかわからない。小悪魔が「助けて」と目でパチュリーに訴えるが。頼みの綱の主もすっと目を背ける始末。しょうがないので、いつものように両手を広げながら空中浮遊しているルーミアへと接触を試みる。
「あ、あの~?」
「む、何なのあなた! ここは今関係者以外立ち入り禁止よ!」
「関係者? あなたが?」
「そうよ、当たり前じゃない! ここの現場監督を務めているんだもの、関係者以外の何者でもないわ。何? 何か言いたことがあるというの? なら、間抜けな顔押しているあなたに教えてあげるけど、今ここは戦場なの! 大自然を相手にした、熱い激闘の最前線なのよ! 一分一秒がその野菜の鮮度、美味しさを分けるのよ!」
どこから突っ込めばいいんだろう。
熱く語りながら遠い空を見上げる彼女を無言で見つめることしかできない。妖怪が生産活動をするというケースはある、ミスティアの屋台や、永遠亭の診療所が代表的ではあるが。まさか一次産業に手を出しているとは。いや、そもそもルーミアは人間を襲いにここにやってきたのではなかっただろうか。
「あの、すいません。ルーミアさん、でしたっけ?」
「うん、そうよ。まだ何か聞きたいの?」
「え、ええ。少しだけ、確かあなたは肉を好む妖怪だった気がするんですが、特にヒトの物を」
「ふふ、わかっていないわね。あなたは何もわかっちゃいない!」
広げていた両手を胸の前に持ってきたかと思うと、左手でビシッと小悪魔を指差し。もう片方の右手で握り拳を作った。そして息を荒げながら、声を高くして訴える。
「いつでも食べられる人間なんかより、旬の作物を味わったほうが楽しめるに決まっているじゃない!
そう、私は目醒めたの! ここの野菜のおいしさを知って! そしてその喜びを仲間と分かち合い。その作物を他の人にも味わってもらえるこの幸福感。ああ、生きてるってなんて素晴らしいことなのかー! うふふ、ははは、わは~~~~!」
「あ、あはは、そうですか、お大事に……」
おかしい。何がおかしいかがわからないくらいおかしい。
とりあえず理解できたことは、彼女が遠くに行ってしまったことだけ。
よくわからないけれど、自分にはどうしようもない。そう判断した小悪魔はすごすごとパチュリーの元に帰還し。店主から少し離れた場所で作戦会議を始める。
そこで数分間協議した結果、二人の中で生み出された結論は、ただ一つ。
「じゃあ♪」
主人と使い魔は同じように右手の手の平を向け軽く振り、空へ浮かび上がろうとする。それを慌てて引き止めるため、店主は小悪魔のスカートを掴む。
「何で帰ろうとするんですか! あの妖怪をなんとかしてくださいよ!」
「あぅっ! ちょ、ちょっと!? ど、どこ掴んでるんですか、離してください!」
「こぁ、達者でね……」
「い、いやいやいやいや! そう簡単に使い魔を切り捨てないでください! まってーーーたすけてーーーー!」
スカートを押さえながら悲痛な叫び声を上げる小悪魔を残し、パチュリーはどんどんと高度を上げていったのだった。
「えぐっ……えぐふっ! 馬鹿、パチュリー様の意地悪っ…………紫もやしっ」
「あーもう、泣かないでよ。 って、今ぼそっと悪口言わなかった?」
さすがにそのまま見捨てるのは可哀想だったので、逃げる振りだけして現地に戻ってくると、小悪魔が本気で泣いていて少々罪悪感に苛まれるパチュリーであった。スカート掴んでいた店主が無残な格好で転がってはいたが、そこは気にしてはいけないのかもしれない。
とりあえず小悪魔をなだめつつこれからの方針を決めないといけないのだが、実害はないとしてもこの異常な状況を放っておいたら別のフラワーマスターとかを呼び寄せてしまいそうだし。何よりも、他の人里の住人たちは良い気がしないだろう。妖怪が作った野菜というのを前面に押し出されても、何のプラスにもならない。
「納得できないけど、とりあえずあの店主の言うとおり。ここの野菜があのルーミアを狂わせたのは間違いないようね」
「ええ、ルーミア自身も同じことを言っていましたし……ぐすっ」
ということは、その美味しさで野菜好きに目覚めたルーミアをもう一度もとの姿に戻すためには、自分が自信を持って収穫を行っている状況を崩してやればいい。自分が間違っていると思わせればいいはず。それ以外で、もっと手っ取り早い方法があるとすれば……
パチュリーは小悪魔にボロボロにされた店主へと視線を向け。
「肉の味を思い出させるとか、手っ取り早そうね」
「あの、パチュリー様。すでに思考するのが面倒になってるでしょう?」
「割と最初からね。もしここで賢者の石使ったらどうなるかのシミュレーションを始めるくらい面倒だもの」
「広範囲に破壊を呼ばないでくださいね、お願いですから」
後者の手段を取ると、余計に面倒なことになりそうなのは確かなので。ここは一つ、穏便に済ませる道を探すしかなさそうだ。パチュリーは畑で作業する人間たちを熱い視線で見守るルーミアへ向けて、ゆっくりと前進を始めたのだった。
「じゃあさっきあなたが収集した情報で気になる部分、それを直接あの妖怪に聞いてみるとしましょうか」
異常の原因はもう理解した、知ってしまえばもう恐れる必要はない。あとは必要なピースを集めて、自分好みのパズルを完成させてやればいい。とりあえず今組み上げるべきなのは穏便にルーミアをここから追い払うという結果。ふとした瞬間に野菜作りに目覚めるのなら、同様に一瞬で人喰い妖怪に戻る可能性だってあるのだから。
「貧乏くじを引いたわね、本当に」
肩をわずかに落としながら、空中を進んでいると、今度はルーミアの方からパチュリーたちに近づいてきた。眉間にしわを寄せているところから判断して、どうやらこちらが望むようなことはしてくれなさそうだ。
「また邪魔しに来たのかー」
「邪魔しにきたわけではないわ、少々お話が聞きたかっただけよ」
「む、話なんてする時間はない。私たちは収穫作業に忙しいんだから。あと少ししたら野菜を人里に持っていってもらわないといけないんだもの」
「そうなの、残念。あなたがどうやっておいしい野菜を見分けるか教えてもらおうかと思ったのに。そんなすごい特技を持っている妖怪なんて聞いたことがないから」
「んー、そーなのかー。凄いのかー。へへへ、いいよ。特別に教えてあげる」
さっきまで不機嫌そうだったというのに、誉めた途端に無邪気な笑顔を見せる。こんな純粋で無垢な性質を持つ少女が人畜無害な妖怪であれば、このまま紅魔館に帰りたいところなのに。そんなことを考えながら話を聞いていると、不意にルーミアは自分の鼻を右手の指で差した。
「匂いでわかるんだよ。匂い、美味しそうなヤツは、取って~すぐ取って~って言ってるの」
「なるほど、匂いか。貴方らしいわね」
ルーミアの闇の中では、彼女自身も見えないという。だから闇の中に入った獲物を少しでも多く捕まえられるように、嗅覚が発達していてもなんの不自然もない。それが熟した野菜の何かを嗅ぎ分けているということか。しかしそうなるといくらなんでも不自然な部分があるわけで。
もしそうやって熟したもののみを選んでいるとすれば、その野菜を採った後は少なからずまばらになるはず。けれどさきほどから人間たちが運び出しているのは、綺麗に一列ずつ。となると妙な話。
「まさか、あの一列全部が熟していたというのかしら?」
「ふっふっふ、それが一番工夫したところなのよ!」
「工夫で何とかなるものなのかしら?」
「うん、なるんだなーこれが! ほらほら、あっち」
特殊な術式や、機械でも使っているのだろうか。
パチュリーは好奇心をくすぐられながらそちらへと顔を向け――
「…………」
無言で顔を背ける。
だって、アレは反則だから。
見てはいけないもの、というレベルではない。
もう、なんというか、この場所に今見かけたものが本当に居て、個人に利用されているとしたら、それはもう禁忌である。
パチュリーの変化に気づき、小悪魔も釣られるようにそちらを向くが。
「ひぅ!?」
大袈裟に身を震わせると主人の影に隠れてしまう。彼女がそんな行動を取るのは仕方のないこと。悪魔という種族にとって、間逆といってもいい存在がその場にいたのだから。
「パ、パパ、パパパパパパパ!」
「誰がパパよ」
「ち、違います! そういうことじゃなくて!」
本日一番の動揺を見せる小悪魔が示す先。
そこにいるのは、二人の少女だった。金色の髪で赤い服が特徴的な少女と、果物に似た飾りのついた帽子を被った同じくらいの少女。その二人は野菜を挟んで向かい合っており、その姿は父親の仕事場に遊びにきた子供にしか見えないが。少女から微かに滲み出る気配は、小悪魔にとって最も恐れるべきもの。天敵と言っても過言ではない。
「し、神族ですよ、パチュリー様! あの二人は少女の皮を被った神様です! 滅ぼされちゃいますよ~!」
「大丈夫よ、私の知識が正しければそんな好戦的なタイプじゃないし。畑を荒らさない限り大丈夫。それに秋以外の季節は割と大人しいらしいわよ」
「そうなのよ、祠の中に隠れてたから無理やり連れてきたけど、平気だったし」
すっかり上機嫌になっているルーミアが会話を割って入ってくる。彼女の性格からして嘘をついているとは思えない。ということは、実際に行動を起こし、神様をここまで連れて来たのだろう。
しかしながら、大人しいとは言っても、妖怪に簡単に攫われる神様って……
「それくらい温厚なら問題なさそうね、じゃあ私たちもその神様に挨拶に行ってきましょうか」
「え、ええ!? 私もですかぁ、でも私――あ、お腹痛いっ! 急にお腹がしくしくと! これはいけません、安静にしていなくては!」
さっきまで元気だったのに急に脇腹あたりを押さえその場にしゃがみ込んでしまう。おもいっきり棒読みの台詞を残して。
「へぇ~、ふぅ~ん。ほぉ~~。お腹痛いの? ほんとぉ~に?」
「あ、はい。急にこう胃痛が、この脇腹あたりから! あぅっ!」
軽く追求すると、困った笑みを浮かべながらパチュリーを見上げてきた。バレバレの仮病を使っても神族に近寄りたくない。そんな意思を汲み取りながらも、小悪魔の額を爪で突いた。嘘をつくならもう少し上手くやりなさい、という注意の意味を込めて。棒読みの台詞に加え、明らかに胃じゃない部分を押さえて痛いと言っているのだから。
「じゃあ、行ってくるから。そっちもちゃんと様子を見ておいてね」
ルーミアのことを小悪魔に任せ。パチュリーはその神様へと近づいていく。
作業を邪魔しない限り、攻撃を受けることはないだろう。そう思って特に警戒するこなくパチュリーは手で触れられるくらいの位置まで移動した。気づくようにわざと太陽を背にし、新しい影が二人のちょうど間にできるよう調整して。普通ここまですれば、誰か来たのかと瞳くらい動かすものだが。二人の神様は集中しているようで作業をやめる気配がない。
その神様の間にあるのは、青々とした葉っぱを伸ばし、白い根の部分をわずかに土から覗かせる野菜。大根というものに違いない。その野菜に手を伸ばし神様たちは口を僅かに震えさせている。
真剣な表情からして、何かを口にしていると仮定するなら。
これはまさか。
神の術式。
神という種族は、人間や妖怪に真似できない。理論上どうしても起こりえない現象をいとも簡単に起こすことができる。それが俗にいう神の奇跡、というやつなのだが。パチュリーはその奇跡の中にも何らかの法則があると思っている。もしかしたらこの神様たちは、それを今実行しているのではないか。
高鳴る胸を抑えながら、神様の一挙手一投足を穴があくほど観察し。耳を澄ました。
魔法使いの英知でも辿り着くことのできない世界の技術。
もしかしたら、その言語は全く理解できないのかもしれない。
聞き取ることすらできないのかもしれない。
期待と不安を込め、少しだけ顔を近づけ――
「……この醜い白豚め」
「なんて卑しいのかしら…… ふふ、救いようがないわね」
「…………」
うん、聞き取れた。
理解もできた。
「……これだから困るのよね、秋以外に実る植物というのは。対して実力もないくせにブクブク栄養を奪い取って。いったい何様のつもりなのかしら。そうやって水分だけを根に溜めていれば瑞々しい? 本気でそう思ってる? 馬鹿じゃないの? あなた一体何日大根をやっているのかしら……」
「やめておきなさい、穣子。その子は何を言っても無駄よ、だって、美味しくなろうという意思がないのだもの。向上心のない、下賎に地べたに這いつくばっているだけしかできないんだから。そのまま土に隠れて、一生日のあたらない場所にいるのがお似合いなのよ。あら、悔しい? 悔しいの?」
「ふふふ…… あはははははは……」
理解できても、結果的に理解したくないことって……あるよね?
確かに二人の言葉には魔力によく似た不思議な力、神気とでもいうのだろうか。そんなものがあふれている気がする。そんな気がするのだけれど、もうこれは呪文というかなんというか。
「良いわ、じゃあ最後のチャンスを上げる。あなたのようなクズを収穫してもらえる、そんな最後の希望を与えてあげるわ。あと五分以内で、その溜め込んだ水分の一割を吐き出すの。そうすれば、野良犬ぐらいには食べてもらえる大根になれるんじゃないの?」
「何? 人間に食べられたいって? 穣子、この子馬鹿な夢を見ているようよ?? 変に勘違いした子ってなんて痛々しいのかしら」
「あはは、いいじゃない。やってみなさいよ、もっと水分を吐き出して身を引き締めて、完璧な水分調整をやって見なさいよ。あなたの触感と旨みを最大限に発揮してみなさい。それができて初めて、あなたは人間の食卓という華やかな舞台に立つことができるのよ!」
影を帯びた表情のまま、大根相手に人間ドラマを展開し始める神様二人。
ただ、相手がほとんど土に埋まった大根なので。話している内容を知った上で、距離を取って眺めていると。たんなる怪しい二人組みにしか見えない。
冷静に見れば何をしているかがわかるかとも思ったのだが、お手上げ状態である。ただこうも無視されたままでは事態は好転しないのは明らかなので、仕方なく魔法をアレンジしながら唱えた。
「ろいやる・ぷちフレア~」
唱えると同時にパチュリーの右の人差し指の先に、小さな光球が浮かび上がった。それを指先でくるくる回して軽くあそばせてから、ぽいっと投げつける。そんな小さな魔力球はまっすぐに、二人の間の大根目掛けて飛んでいき。
ぽふんっ
着弾、そして破裂。一瞬だけ周囲に広がる閃光。
かわいい音を響かせながら、それは爆発し、大根の葉と根の部分を軽く吹き飛ばしながら消えた。後に残ったのは、爆風で飛んだ大根の葉を頭に載せた二人の神様だけ。
呆然と、何がおきたかわからないというように、爆発を受けた大根を見つめ続けていた。
「ご機嫌いかがかしら?」
今なら話し掛けても大丈夫だろうと、気軽に声を掛けたそのとき。
いきなり、どんっと肩を押される。それは帽子を被った神様、確か穣子とか言っただろうか。
「ご機嫌いかが? ふざけないで!
なんてことをしてくれたのよ、あなたは!」
その神様が凄い剣幕で、睨み付けていた。さっきまであれだけ馬鹿にしていた野菜を破壊しただけだというのに、もう一人の紅葉の神すらも憎しみに染まる瞳をしていた。
「なんてことっ、て? 野菜に魔法を当てただけ。白いところだって多めに残っているんだから食べられるでしょう?」
「わかっていない。あなたは何もわかっていないのね! 自分の罪深さを、その手が血に!
いや、野菜汁で染まってしまったことを! でしょう、お姉ちゃん!」
「そうよ、あの紫の残忍な魔法使いの手は、大量の野菜汁で真っ赤に……
いえ、生臭くぬめっているのよ」
「……なんだろう。この不快感」
残酷さを表現しているとは思う。
だから素直に『血で真っ赤に染まる』と言われれば非常にわかりやすいのだが……
『野菜汁で生臭くぬめる』と言われても……なんだか野菜を切り過ぎたおばちゃんのイメージくらいしかない。
けれど言われたときの気分の悪さで言えば、圧倒的に後者が上なのだから恐ろしい。
「よくわからないのだけれど、どうせすぐ収穫されるなら大して変わらないじゃない」
「あ、あなたという人は! この子はあともう少し頑張れば食卓のスターになれる逸材だった。華々しくデビューできるはずだったのに、それをあなたは貶めた!」
「なら、あなたたちのあの汚い言葉はなんだったというの?」
それは当然の疑問である。さっきまで大根に向かって『醜い』やら『卑しい』という言葉を散々使っていたというのに。まるで他人事のように聞こえる。
「き、汚い言葉!? 言うに事欠いて、汚い! お、お姉ちゃん!」
「神の言葉を『言霊』を馬鹿にするなんて、なんたること……ここまで無知だとは思わなかったわ。あの言葉はね、野菜の持つ反骨心を生かし、美味しくなろうと、熟しようとすることを手助けするための由緒正しき言葉なのよ」
「あんなドロドロ感たっぷりのやつが?」
「冬はああやって陰湿にやるのが決まりなのよ。私たちの気分も乗らないし」
どちらかというと、イライラを野菜にぶつけて解消する図にしか見えなかったのだが。
神様がそう言うのなら間違いないのだろう。しかし季節によって変わる言霊とは面白そう。パチュリーは未だに不機嫌そうな二人の神へ向けて、純粋に興味本位で尋ねてみる事にした。
「じゃあ、四季によって違うということかしら?」
「ええ、そのとおり。私は紅葉の神だからあまりそういうことは詳しくない。でも妹と一緒にやるときは、春は優しく穏やかに、秋も同じような感じだけど喜びが加わる感覚かしら?」
「夏はどうなの?」
「熱く、とにかく熱く」
夏に関しては、冬と同じく嫌な予感しかしない。
けれど神の術式、言霊というものには意外と遊びの部分があること、それを知り得ただけでも研究材料にはなるだろう。
それに、ルーミアを説得する材料も手に入れることもできたのだから。
「多少誤解があったみたいだけれど、私はあなたたちと争うつもりで来たわけではないの。この畑の持ち主からあっちにいるルーミアを何とかして欲しいと頼まれてね。それに協力して欲しいのだけれど。豊穣の神としてはどうなのかしら、農家の頼みを無碍に断って妖怪の言い分だけ聞くつもり?」
「……お姉ちゃん。この魔法使い性格悪そうだよ」
「あからさまに脅してくる……いやらしい……
このいやらしさは、あの新聞に書かれていた卑猥なる木像のよう」
ぴくっ
「ねえねえ、お姉ちゃん。そういえばあの新聞記事の写真とこの人って似てる気がしない?」
「それはないわよ、あんな下着丸出しの木造のモデルにされたら、恥ずかしくて外出なんてできないはずだもの。まあ、そういう趣向の変態なら考えられなくわないけれど」
ぴぴくっ
「あー、そうだね。でもあんなポーズを取るってことはやっぱり変態だよ」
「ええ、しかも豊穣の魔女神? だなんてね。あんな下賎なものと私たちを比べないで欲しいものだわ。しかも名前のつづり事態も狂っているような漢字が使われていたし。恥知らずもいいところね。
ああ、話が逸れてしまいましたね。あなたが言うとおり、いくら冬でやる気がないとはいっても、言われるがまま個人を贔屓するのは神にあるまじき行為でした。なんとかそのルーミアというものを説得してみましょう。え~っと、そういえばあなたのお名前は?」
あの記事の話題を繰り返す度小さく反応する彼女を気にすることなく、静葉は何気なく名前を聞いた。何気なく聞いてしまっていた。
その質問に、にこやかな表情をした魔法使いが答える。
「パチュリー・ノーレッジ」
『……え?』
疑問の声をあげると同時に。
地面から生み出された水柱が、綺麗に二人を弾き飛ばしたのだった。
「正座……」
「えー、なんでよ。こんな槌の上で座ったら服が汚れるじゃない」
パチュリーは目の前に立つ四人に向けていた人差し指をゆっくり地面に向け、動作と言葉を合わせて命令する。けれど、調子に乗っているルーミアはそれを不満そうな顔で見つめるだけ。
「正座……」
けれどパチュリーが同じ動作を繰り返した瞬間、彼女の体から物凄い量の魔力が溢れ出る。
それに無意識に怯えたルーミアは思わず地面の下に座り込んでしまっていた。自然の中、弱肉強食の世界で暮らすルーミアは今のパチュリーを見て気が付いてしまったのだ。
逆らうと命の危険すらある、と。
そうやってガタガタ震えるルーミアの右隣には、今のパチュリーの危険性をまるでわかっていない、気絶から回復した店主がいて、店主の反対側には何故かボロボロになった服装の神様が大人しく正座している。
そうやって目の前に四人全員が地面の上で座ったのを確認してから、
「言いたいことは山ほどあるけど、まず、ルーミア!」
「はひっ!」
「熟していない野菜まで神の力を使って無理やり収穫することのどこが大自然との争いよ、何が旬の野菜よ。あまりふざけすぎないでくれるかしら。所詮は自分で栽培する努力すらしていない妖怪が、付け焼刃の技術で農家を気取っているだけ、反吐が出るわ」
「うー……」
「次、そこの神様二人! 神様でありながら個人を贔屓し、豊穣の神のあり方を自分で崩すなんて。神として恥を知りなさい。姉であるあなたも、妹の暴走を止めるならまだしもそれを助長する行動を取るなんて……名前は秋なのに頭の中はいつも春なのかしら?」
「うう、ひどい……」
「……もうしわけありません」
「そして店主、確かにあなたは被害者かもしれない。何の責任もないのかもしれないけれど」
「はい!」
「あの像をまた表に出したら、あなたの家系はそこで終わると思いなさい」
「はい、あなた様の御心のままに!」
落ち込む三人と、何故か元気な一人。
そんな四人から回れ右したパチュリーは、苦笑いして待機していた小悪魔と一緒にその場を後にした。怒りの言葉をぶつけらえれた少女たちはしばらく立ち直ることができず、じっと地面だけをみつめることしかできなかったが。
「皆さん! 下を向いてはいけませんよ! これからがんばっていきましょう」
プラス思考の店主に励まされ、次第に笑顔を取り戻していったという。
――その次の日。
パチュリーは朝から不機嫌だった。当然あの畑の事件で振り回されたのがご立腹のようで、大好きな本を読んでいる間もずっと床を片足で叩き続けている。このときのパチュリーには近づかない方がいい。本の整理を優先させるべきだと、小悪魔がこっそり図書館の奥へと移動を開始したとき。
コンコン……
間が悪くノックの音が響いてきた。
さすがにこれを無視すると益々主人の機嫌が急降下しかねないので、小悪魔は名前を呼ばれる前に入り口まで全速力で飛ぶ。すると、この前と同じように妖精メイドが一枚の新聞の号外を持って立っていた。何か見覚えのある光景に恐怖を覚えながらも、彼女は号外を受け取って恐る恐る横目で内容を確認した。
さすがに今回は、ないだろう。
いくらなんでもそんな……
「……うわぁ」
あったし。
何かすでに怪しい写真が載っているし。
もう何が怪しいかって……
あの噂の店主の店に、奇妙な売り子が加わっているのだ。
紅魔館のメイドのスカートの丈を膝より上にしたような服。
危うく下着が見えそうなほど丈の短い、フリフリな服を着たルーミアと秋姉妹がそこに映っていたから。その格好でお客が求める野菜を笑顔を振り撒きながら手渡す映像が、でかでかと掲載されている。写真の下にはどうやらその三人と店主らしき人物のコメントが書き込まれており。
「なんとなくおもしろそうだったからやった、はんせいはしていない」(中央:ルーミア『妖怪』)
「なんかこの格好してると信仰が集まるから……」(中央右:秋静葉『神』)
「稲田姫様に怒られなければ、アリよね!」(中央左:秋穣子『神』)
「萌え死ぬ……」(写真外:店主『人間・出血多量』)
もう手に野菜を持っていなければ、八百屋にすら見えない。
そんな写真に苦笑していると。
「――!?」
何かいる。
その三人娘の後ろ、写真ではわかりにくい位置にあるがはっきりと木彫りの何かが立っていた。その娘たちと同じようにミニスカメイド服という格好をした、明らかにパチュリーとわかる木像が。しかも最初のものと同じように、笑顔を浮かべながら……
なんかこう、ドロワーズではない。布地の少ない……ショーツというか、なんというか。
それをチラ見せさせている格好だった。
これは、不味い。
いろんな意味で不味い。
小悪魔は自分の体で号外を隠したまま、それを小さく小さく畳み込んで。
その作業の途中で、何かに肩をおもいっきり掴まれる。
「へぇ~、何々。『豊穣の魔女神様は御神体のデザインをお気に召さなかったようなので、前衛的なものにしてみた、するとどうだろう客足がさらに増えて商売繁盛。これもすべて、『破厨裏異・悩裂痔』様のご加護の賜物だ』。そう、私のご加護、ね……」
「え、えへへへへ~~~~」
「うふ、うふふふふ~~~~」
『魔界のお父さん、お母さん。
私はもう駄目かもしれません。
主にストレスで……』
その日、小悪魔の日記には震える文字が付け加えられていたという。
確かに長時間座ってると痔に悩みやすいですよねよくわか(ロイフレ
この大根Mだったりしたらどうすんだろう・・・・・・
途中、パリュリーになってしまっているところが2箇所ほど。
パチェとこぁの絡みが好きだなぁ
ところで私自前のメイド服とか紺色の水着などを着せてめくったりずらしたりしてみたいと思いますので、何も着てない御神体を作ってもらえんかね?
あと、御神体を。えぇ、保存用・観賞用・布教用に3体ほど作ってくr(ハーベスター
まあ、そんな事より
店長!弟子入りさせて下さい!!
つまるところ、ぱっちぇさんはもっと草花の知識を深めるべきなのです。魔女であるならば。
それにしても、秋姉妹に罵倒されるなんて……羨ましいぞ大根め!
まったく、けしからんな。食べ物で遊ぶなんて。
頭ん中でドタバタコメディが映像で再生されるww
>破厨裏異・悩裂痔
こんなもん思いつく店主マジktgiだろ。ちょっと店に乗り込んでくるわ。
やましい気持ちなんて無いのよ?ホントよ?