暦は一月上旬、日本列島を盛大な寒気が襲った今年の初め。
それは幻想郷にも多大な影響を及ぼし、あっちにもこっちにも雪が降り積もったため、どこもかしこも雪掻きに追われる羽目となった。
そんな中でもここ地底の底奥深くに存在する地霊殿は平和なものであった。雪は降ってはいるが緩やかだし、地上ほど積もりはしないだろう。
そも、地底の町には鬼たちがいることだし、彼らにしてみれば雪掻き程度のことは朝飯前だ。
だがしかし、地上から流れ込んでくる寒気だけはもはやどうしようもないわけで。
「お燐、みかん取ってー」
「あいよー」
つまり、友人同士のこの二人が仕事をせずに炬燵でくつろいでいようが全ては寒さのせいなのである。どっとはらい。
真上から見れば正方四辺形。真横から見れば台形の形。ひとたび入ればその暖かさの魔性により、獲物を決して逃さないテーブルの変異種。
その名は冬のお友達、ありとあらゆる者にとっての真冬の理想郷、全て遠き炬燵(KOTATSU)。
全にして一たる究極のリーサルウエポンに足を突っ込み、二人してゆるゆると頬ずりする二人。
地霊殿のリビングに用意されたいとしき暖かさを生み出すその代物に、早くも二人の少女がメロメロであった。罪な炬燵である。
一人は少女にしては長身だろう背丈は160後半ほど、烏の濡れ羽色の艶やかな、しかし多少ぼさぼさな黒髪は腰まで下ろされ、アクセントには緑のリボン。
丸々と大きな瞳は赤茶色、肌は碌に日に当たらないせいか色白い。奇妙な赤い目玉の模様が施された真っ白なシャツと、グリーンのスカート。
彼女は霊烏路空。地獄鴉という地底に住む妖怪であり、皆からは「おくう」と呼ばれ親しまれている彼女だが、残念なことに頭の中には増えるワカメが詰まっている。
もう一人は火焔猫燐。皆からは「お燐」と呼ばれる彼女は、赤いお下げが特徴的な火車であり、死体を運ぶことを生業とする。
赤い瞳は大きくパッチリと開き、活発そうな表情が魅力である彼女の肌はおくうと同じように色白い。
もともと黒猫である彼女の耳には猫の耳があり、尻尾は二つに裂け、黒のゴスロリ衣装という奇抜な格好の彼女は、先ほど紹介した霊烏路空の一番の親友であった。
お燐から渡されたみかんを受け取り、なれた動作で皮をむくおくう。窓の外に視線を移せばあいも変わらず白い雪が降り続いている。
「やっぱり、冬は炬燵にみかんだね」
「うにゅ、ぽかぽかしてあったかくておいしいよね、炬燵」
「いや、混ざってるから。そこは絶対においしいはいらなかった」
いつものようなやり取りを繰り広げながらも、やっぱりお互い炬燵から離れ難いらしい。
もうすっかり「たれおくう」と「たれおりん」になった二人は緩ーい笑みを浮かべながらご満悦である。
みかんを丸ごと口に頬張り、もしゃもしゃと咀嚼するおくう。
ふと思いついたように口を開こうとして……さすがに汚いと思ったのか、いったん口の中のみかんを飲み込むとあらためて口を開く。
「そういえばさ、こいし様がつれて来るお友達って誰かな?」
「話に聞いた限りだと、お姉さんたちとも知り合いらしいよ。えーっと、確か生き血を飲んで生きる種族って話だから多分……」
「チュパカブラね!」
「なんでそんなマイナーなとこ言うかねぇ、このお馬鹿は」
「吸血鬼だよ、吸血鬼」と呆れたように口にして、お燐もみかんに手を伸ばす。
慣れた手つきで皮をむいていけば、みずみずしい柑橘系独特の匂いが鼻をくすぐった。
半分に割り、一粒むきとって一口食べれば、ぷちゅっと果実がつぶれて甘い味わいが舌全体に広がっていく。
さすがは元気印の風見幽香の家庭菜園直送のみかんである。そん所そこらのみかんとは格が違う香りと味である。
「そっかー。さとり様も元気だったし、こいし様も楽しそうだし、いいことだよね」
「まぁ、いいことなんだろうけどさ。さとり様なんて我がことのように喜んでたし」
むしろ妹のこいし以上に張り切っていたのではなかろうかと、お燐は思う。
何しろ、こいしが友達を連れてくるといった途端、「どんな服を着ようか」だとか「どんな料理でもてなしましょう!?」などと大慌てだったのである。
今現在、その当人はというと妹の友人をもてなすための料理を製作中。
変な風に暴走しなきゃいいんだけどねぇと、ちょっぴり不安に思うお燐だが、対するおくうはのほほんと緩い笑顔を浮かべて嬉しそうだ。
うにゅうにゅ言いながら炬燵に頬ずりする友人を視界に収め、小さくため息をつくお燐。
まぁ、いいか。と苦笑していたところで、問題の我が地霊殿のお姫様が「ただいまー!」と元気よくご帰還である。
その後に続いて、これまた元気のいい「お邪魔しまーす!」という聞き覚えのない声が続き、どたどたと騒がしい足音が二人分。
そしてまもなく開かれる部屋のドア。豪快な音と共に開いたドアの先に、予想通りの人物と見覚えのない人物が視界に映った。
「たっだいま二人とも!」
薄緑がかった銀髪はクセッ毛のロングヘアー。濃いオレンジの衣服にグリーンのスカート、管につながれた第三の目は、姉とは違い閉じられている。
トレードマークである黒いハットが特徴的な少女、地霊殿の主の古明地さとりの妹、古明地こいしが満面の笑顔でご登場だった。
「にゅう~、お帰りなさいこいし様~」
元気のいいこいしの言葉に応えるおくうの様子は、あいも変わらず炬燵に頬ずりして幸せそうな笑みを浮かべておいでだ。
案の定、こいしの隣にいた少女にクスクスと可笑しそうに笑われてしまい、お燐は身内の恥を晒しているようでなんだか恥ずかしい。
あらためてこいしが連れてきた少女に視線を向ければ、そこにはハッとするように息を呑んでしまいそうな少女の姿があった。
光の映える金紗の髪、ルビーのような深紅の瞳、雪のごとく白い肌は透き通るようで、その行き過ぎた白さが彼女を人間でないことを物語っている。
まるで人形のようだとお燐がそう思っていると、彼女の視線に気がついたらしい少女は、優雅に一礼してクスリと笑う。
「はじめましてこいしのペットさん、私はフランドール・スカーレット。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの不出来な妹ですわ」
その少女の名に、お燐はたまらず絶句した。何故、などと自問するつもりもない。
なぜならば、少女の口にした名はそのどちらもがあまりにも有名だったからだ。
幻想郷のパワーバランスの一角を担う紅魔館の主、紅い悪魔、運命を操る吸血鬼、レミリア・スカーレット。
破壊の権化、悪魔の妹、狂気の吸血鬼、などなど様々な噂が飛び交うレミリアの妹、フランドール・スカーレット。
不出来、だなんてとんでもない。スカーレット姉妹といえば幻想郷でも有名なビッグネームだ。
そんな大物と友人関係になっていたとは、いやはや末恐ろしいとお燐は苦笑する。
「ご丁寧にどうも、フランドールさん。あたいは火焔猫燐、みんなはお燐って呼ぶわ。で、そこで頭空っぽそうなのが霊烏路空。みんなはおくうって呼んでるから、好きなように呼んでよ」
「うにゅっ!!?」
「それじゃ、あなたたちのことはお燐とおくうと呼ばせてもらうわね。それから、私のことはフランでいいわ。私の名前、言いにくいでしょ?」
にっこりと花のような笑みを浮かべるフランに、「あいよ」といつもの調子で言葉を返すお燐。
なんだか視界の隅のほうで「お燐、ひどいよ……」などと打ちひしがれている友人がいた気がするが綺麗にスルー。
そんな二人の様子にこいしとフランは顔を見合わせ、どちらともなく噴出すとクスクスと笑い出した。
「さぁさぁお二人さん、そんなところに突っ立ってないで炬燵に入りなよ。外は寒かったっしょ?」
「うん、地上はすごかったわ! 一面真っ白になってもう夢の世界みたいだった!!」
「ものすごく寒かったけれどね。うちもメイド達が雪掻きで大変そうだったし」
地上での光景が忘れられないのか、興奮冷めやらぬといった様子で語るこいしに、フランは肩をすくめて言葉にすると、いそいそと二人で炬燵に入り込む。
ぬくぬくぽかぽか。外の寒さに晒されていたこともあって炬燵の中はまさにパラダイス。
瞬く間にへにゃ~んと顔を緩ませる妹二人組。追加で二人の少女が炬燵の魅力にメロメロになった瞬間であった。
「ほらほら、おくうも元気だしなよ」
「ふーん、お燐なんか知らないやい。私は頭空っぽじゃないもん」
「うん、そうだったねおくう、あたいが悪かったよ。あんたの頭の中には萎んだポップコーンが詰まってるんだった」
「なおのこと嬉しくないよ!!?」
友人の容赦ない言葉にもはや涙目のおくう。自分自身、頭があまりよろしくない事を自覚しているだけに反論する余地がなかったりする。
「こいし様~、お燐に何か言って下さいよ~!」
「よーっし、おくう。このこいしさんに任せなさい! いい、お燐。おくうの頭にはちゃんと脳みそが詰まってるわ。チョット出来が残念なだけで」
「どっちにしろ嬉しくないッ!?」
霊烏路空、ノックダウン。決め手は古明地こいしによるフォローになってない救いの言葉。
おいおい泣き出して炬燵に突っ伏すおくう。どうして泣いてるんだろうと心底不思議そうなこいしは、はて? と小首をかしげている。
そんな彼女たちの様子に、フランはクスクスと何処か楽しそうだった。
「はい、みかんでもどうだい?」
「ありがとう、頂くわ。それにしてもあの二人、主従っていうより家族みたいね」
「あはは、まぁ否定はしないよ。あたい達にとっちゃ、さとり様やこいし様は主人であると同時に母親みたいなものだからね」
お燐の言葉をどう受け取ったのやら、フランは「ふーん」と気のない相槌を打ってこいしとおくうに視線を向ける。
「おー、よしよし」とおくうの頭を撫でるこいしと、頭を撫でられてご満悦なおくうの姿。
あっさりと機嫌をよくしたことに少しだけ目を丸くしたフランだったが、なんだか微笑ましく思えて苦笑する。
「いいなぁ、ああいう関係。うちは上下関係が厳しいからああいうのは無理ね」
「あはは、まぁ従者としては失格かもしれないけどね」
「そんなことないわ。私は咲夜みたいに従者に徹してるより、ああいう風に気軽に笑い会えるほうがずっと素敵だと思うもの」
「ほうほう、それなら何かイベントでも開催してみちゃどうだい? その時に親密になったりするかもしれないじゃないか」
「あら、年末にちょっとしたイベントがあったのよ。笑ってはいけない紅魔館24時」
肩をすくめながら言葉にしたフランのそのイベントは、それはそれは大変過酷なものであった。
毎年年末、紅魔館で開催されるちょっとしたイベント。
それは笑わせる者、笑うのを耐える者とで分かれ、笑ってしまったらその度にフランのレーヴァテインでケツバットという凄まじく過酷な行事であった。
毎年毎年、多くのものが面白そうだと参加するその行事だが、紅魔館メンバーはフランを除き全員耐える者側に参加なのである。
フランは毎年ケツバット要員。その猛き炎の魔剣で遠慮なくお尻をぶッ叩くエクスキューター役。
こんな役柄では家族らしい触れ合いなど土台無理というものだろう。いや、むしろこんなイベントで家族の触れ合いを求めるのもなんか違う気はする。
唯一つ、そのイベントでフランの心に強く刻み込まれたのは、美鈴のお尻にフルスイングしたレーヴァテインがへし折れたことだったが。
「うん、なんというかアレな行事だね」
「お姉さまの考えることはいつもよくわからないわ。なんか外の世界の年末のお決まりなんだって」
なんと、外の世界では新たにそのような行事が出来たのかとお燐は一人呟く。
それが盛大な勘違いであることには、おそらく気付くこともないだろう。
今まさに、外の世界に対する勘違いと偏見が生まれた瞬間であるが、それを正す人物はこの場にはいないのである。
「あら、お帰りなさいこいし。それから、いらっしゃい小さなお客様」
そんな会話をしていた頃だっただろうか、奥のほうからそんな声が聞こえてきたのは。
そちらに視線を向けて見れば、一人の少女が優しそうな微笑を浮かべて……鍋を抱えて立っていた。
緩くウェーブのかかった藤色は少し長めのショートヘア、同色の瞳はやや眠そうな印象を受け、明るい青い衣服に桃色のスカート。アクセサリーには複数の管がつながった奇妙な眼。
彼女は古明地さとり。その名のとおり、古明地こいしの実の姉であり、心を読む能力を持った妖怪である。
「はじめまして、こいしのお姉さま。私はフランドール・スカーレット、こいしとは仲良くさせてもらってるわ」
「それはとても喜ばしいことです。その言葉を聞いて、私もほっとしましたよ。あぁ、申し遅れましたが私は古明地さとりといいます。
さぁ、みんな。今日はとても寒いですし、お鍋でも囲みましょう」
なれない笑みを浮かべながらも、それでもさとりの声は何処までも優しい。
その声にむずかゆさを覚えて、フランは少し頬を朱色に染めてぽりぽりと頬をかく。
そんな様子が微笑ましくて、さとりはクスクスと苦笑して炬燵の鍋敷きの上に鍋を置いた。
ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中には、豚肉や牛肉、さらには水菜や春菊、白菜、キャベツなどの野菜に加え、豆腐などの様々な具材がおいしそうに色づいている。
春菊のいい香りが食欲をそそり、誰かのお腹がくぅっとなった。
「わぁ、おいしそう」
「フランドールさんは、お鍋は初めてかしら?」
「えぇ、うちは基本的に洋食だから。そっか、鍋ってこんな風になってるのね、いっぱい食材が入ってて、チョット楽しみだわ」
何処か嬉しそうに言葉にするフランの様子に、よかったと内心安堵の息をつくさとり。
結局いい料理が思い浮かばず、みんなで囲める鍋を選択したのだが、それが今回はプラスに働いたようだった。
さて、そろそろ食べてもいい頃合だろう。それに何より、さとりの隣で今にも食べたそうにしているおくうにはこれ以上のお預けは拷問に等しかろう。
「うにゅ、さとり様さとり様!!」
「はいはい、わかってますよおくう。さぁ、みんなで手を合わせましょう」
さとりの言葉に、みんなが肯いて胸の前で両手の平を合わせる。
それを不思議そうに見ていたフランも、彼女たちを真似ておずおずと胸の前で戸惑いがちに手を合わせた。
こいしがフランに何事か耳打ちをした後、なんだか納得したようにフランが笑みを浮かべたのを見て、さとり嬉しそうに微笑む。
そして周りを見渡して、それから準備が出来たのを確認した後、
「さぁ、皆さん。いただきます」
『いただきます!』
彼女はあらためて言葉をつむぎだすと、元気な声が彼女たちの周りから響いたのだった。
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そんなわけで、こいしの友人を交えた食事はいつも以上ににぎやかだった。
もともとこいしは放浪癖があって家を空けることなどしょっちゅうだし、おくうもお燐もいつもは仕事が忙しくてこういった風に集まることが中々出来ない。
それでも、彼女たちは家族として絆を持っている。時にはこうやって集まり、そうして笑いあいながら一家団欒を過ごすのだ。
そんな中、さとりは今現在ものすごくあせっていた。彼女にしては珍しく、視線があちこちに泳いで定まらない。
その理由はただ一つ、フランに聞きたいことが色々あるのだが……人付き合いの苦手な彼女には初対面の相手にどう会話を切り出していいものかよくわからなかったのである。
こんなとき、自分のふがいなさを呪ったりするのだが、そんな中で一筋の光明が彼女を照らした。
(ふっふっふ、お困りだねぇさとり様。さしずめ初対面の相手にどう会話を切り出したらいいかわからないって顔ですね)
(な、何か策があるのですかお燐!? い、いえ、貴女は―――)
明らかに心を読めるさとりに向けられた言葉に、彼女は目を見開いてお燐に視線を向ける。
そこで、彼女は見た。一体いつの間に着替えたのやら後漢中国で見られたような衣服に身を包み、手には羽で作られた団扇が握られたお燐の姿を。
いや、彼女はすでにお燐であってお燐にあらず。そう、彼女こそは稀代の名軍師のパチモン。
(しょ、諸葛燐先生ーッ!!?)
(にゃーんにゃんにゃんにゃん! ここは優しく料理の味を聞き、そこからさりげなくこいし様の近況を探るが上策でございますぞ殿!)
かんらかんらと笑うパチモン名軍師。しかし、パチモンであると侮るなかれ、そのアドバイスは恐ろしく的確であり、また実用に足るものであった。
今のさとりには彼女が眩しい。そりゃもう、諸葛燐先生の背後から後光がさして見えるぐらいである。
ありがたやーありがたやーと手をすり合わせて拝むさとり。よきかなよきかなとけらけら笑う諸葛燐大先生。そのやり取りを綺麗さっぱり無視する三人。
改めて想像してほしい。凄まじいほどのシュールさだった。
「コホン、フランドールさん。食事は口に合いますか?」
「うん、初めて食べたけれどすごくおいしいわ。こうやって食材を自分で選んで食べるのって、なんだかチョット新鮮ね」
そしてその諸葛燐先生の案を実行に移すさとりさん。内心はびくびくもんだったりするのだが、するりと出た声は平然としたものである。
そんな彼女の言葉に応えた声は、とても満足そうな声。それが本心からの言葉だとわかって、さとりは内心でほっと胸をなでおろす。
「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう。さとり様の作った料理ってものすごくおいしいんだから!」
「なんでアンタがえらそうなんだい、このお馬鹿は」
なぜか胸を張って威張るおくうに、いつの間にか普段着に戻っていたお燐からチョップ付のツッコミが一つ。
脳天に直撃した一撃は、彼女の頭蓋から真下に突き抜けて衝撃を流し、しまいにゃそのせいで舌を噛む始末である。
あまりの激痛にごろごろとのた打ち回るおくうの様子に苦笑し、よしよしと頭を撫でてやるさとり。
そんな騒がしい様子に不機嫌になるわけでもなく、フランは可笑しそうにクスクスと笑う。
「いいなぁ、こういう空気。私、こういう空気って大好きよ。暖かくて、それでいてすごく楽しい。なんだか、うらやましいな」
「そうかな?」
「うん、そうよ。うちは基本的にみんなで食べるってことはしないからねぇ」
そういってフランはため息をつくが、それも無理のない話である。
もともと、紅魔館は上下関係に厳しいということもあるが、側近の咲夜はメイド長として常に傍に控えるだけだし、美鈴は門番ゆえに外での食事が多い。
だから、特別親しい者たちだけで食事をするということが、紅魔館ではまったくといっていいほどなかったのである。
「あ、それならさ!!」
そんな中、がばっと声を上げたのはおくうである。
先ほどの舌の痛みはもう取れたのか、元気いっぱいに身を乗り出して炬燵をはさんで正面にいたフランを覗き込む。
「お姉さんに頼んでみなよ、みんなでご飯食べたいって。そしたら、きっとその願いを聞き届けてくれるよ!」
「うーん、あいつがねぇ。お姉様が私が言ったくらいでそんなことするかしら?」
「絶対大丈夫だよ!! 私が保証する!!」
「その自信は一体何処から来るか不思議でたまらないんだけどねぇ、あたいは」
なぜか自信満々で力説するおくうに、考え込むフラン、そしてお燐が何処か呆れたように言葉にしてため息をつく。
でもまぁ、それはおくうのいいところだと思っているのも事実。ちょっと空回り気味だけれど、その元気や自信に触れていると不思議とうまくいくような気がしてくるから困り者だ。
そして、それはここにももう一人。フランは少し考え込んだ後、ややあってからクスクスと苦笑した。
「うん、今度お願いしてみるわ。なんだか、あなたって不思議。あなたの言葉を聞いてると、もしかしたらって思っちゃうもの」
「もしかしたら、なんて考えちゃ駄目だよ! こういうのは勢いが大事なんだから!!」
「おくうの場合は勢いだけって感じがするけどなぁ~」
フランの言葉に熱く語るおくう、そのおくうに意地悪な物言いでくすくす笑うこいし。
そんな彼女たちの会話に混ざろうと口を開こうとして、……何かを悟ったようにフッと笑って口を閉じる。
本当は、外に出ていたときのこいしについて色々と聞くつもりだった。自分の知らないこいしを、彼女を知る友人の口から聞きたかった。
けれど、目の前に答えがあるではないか。今も彼女たちは、楽しそうに笑いあっている。
それで十分。捜し求めていた答えは、目の前にあるのだから。
(よかったんですか、さとり様?)
気を使ってくれたのだろう、お燐が皆に聞こえないように心で問いかけてくる。
さとりは優しい笑みを浮かべて、ただ一度だけ肯いた。
(そうですか)
それに、お燐は満足そうな笑みを浮かべる。
彼女にとって、さとりが納得したのならそれでいい。心からすっきり出来たのなら、それ以上何かを言うつもりはなかった。
その心遣いが、さとりには嬉しい。ありがとうと、心の中でお礼を述べたのだけれど、それが伝わったかのようにお燐が笑みを浮かべた。
本当はそんなことはない。ただの偶然だけれども、けれど伝わったような気がしたのなら、それでいいのではないか。
「そうだ、フランドールさん、今日はもう遅いですし、雪も強くなってきました。紅魔館のほうには連絡しておきますから、今日は泊まっていってはいかがでしょう?」
「え、いいの?」
「もちろんだよフラン! それにしても、今日のお姉ちゃんは太っ腹だね!」
「うにゅ!! それならみんなでトランプやろうよトランプ!!」
「何を言ってるんだいおくう! こういうときはUNOって相場が決まってるんだよ!!」
さとりの提案にフランが目を丸くし、こいしが嬉しそうに笑顔を浮かべ、おくうが遊びの提案をするが、それをお燐が別のゲームを提案する。
やんややんやと騒がしくなった一室。五人は炬燵から出ずに談笑しながら笑いあっている。
ふと、五人そろって炬燵の中で寝こけてしまう姿を幻視して、それは数時間の内に現実のものとなるのだろうなと、さとりは何処か満足そうに苦笑するのだった。
素敵過ぎです、この空気。
フランの口調が大人っぽいのが私のイメージと違い、気になりましたが、そういのもありかと思いました。
とにかくGJです。
後幽香なにやってんだ。
あーちょっと炬燵で丸くなってくる
フランの口調も私好みで良かったです。
次のお話も、楽しみにお待ちしております。
>フランは毎年ケツバット要因。
要員、ですね
>それを正す人物はこの場にいはいないのである。
い が多いですね
もうフランドールがチュパカブラに思えてきたww
あと諸葛燐……遠坂かwww白々橙さん、Fate好きwww