かわいい紫ちゃん
昔々、ではなく、結構最近のことです。
『幻想郷』という、妖怪や神様の住むちょっぴり不思議な世界のお話です。
幻想郷とそうでない世界との境目。
そんなところに、不思議な『マヨヒガ』はありました。
マヨヒガは、誰でも行けるけど誰も行けなくて、近くにあるけどとっても遠い、其処に在るけど何処にも無い・・・そんな不思議なお家でした。
そんなマヨヒガに、彼女は住んでいました。
花も恥じらう可憐な乙女・・・『八雲紫』ちゃんです。
絹のように柔らかく、太陽よりも鮮やかな金髪。
雪よりも白く、ソフトクリームよりもなめらかな肌。
ダイヤモンドのように輝きながら、憂いと慈愛を携えた瞳。
どんな彫刻にも劣らぬスタイルは、完璧の一言。
立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花。
「美」に見初められた少女。
それが紫ちゃんです。
紫ちゃんは、ただ美しいだけではありません。
なんと、紫ちゃんは『境界を操る程度の能力』を持っています。
「外と内」、「夢と現」、「点と線」、「二次元と三次元」・・・
ありとあらゆる境界を操るという、それはそれは凄すぎる能力です。
紫ちゃんはマヨヒガに住みながら、その能力で幻想郷を見守っているのです。
それどころか、幻想郷自体を創ったのも紫ちゃんなのです。
もう凄すぎます。チートです。神すら跪きます。
出来ないことは無いとまで言われています。
ですが、紫ちゃんは心も美しかったのです。
あまりに強すぎる力を持ちながらも、決して己のために使うことはありませんでした。
困っている人を助け、争いを止め、笑顔を作る・・・
そのためだけに能力を使いました。
それが紫ちゃんの幸せだったからです。
優しすぎます。聖母です。女神です。善の化身です。
何もかもが完璧・・・
それが紫ちゃんでした。
紫ちゃんは『式』という僕のようなものを飼っていました。
かつて紫ちゃんが出会った、キツネの妖怪です。
名を『藍』といい、紫ちゃんからいただいた『八雲』の姓を冠しています。
今でこそ紫ちゃんの身の回りの世話や警護などをしていますが、昔は手に余るやんちゃ者でした。
ですが、それも紫ちゃんと会うまでの話。
出会った瞬間から紫ちゃんの美しさに感服し、自ら僕にしてくれと懇願しました。
優しく美しい紫ちゃんは、対等の友達でいたいと言いましたが、藍がその暖かい言葉を受けることはかないませんでした。
こんなにも美しく可愛らしい人と対等だなんて、あまりにもおこがましすぎる。
あなたの美しさに少しでも近づきたい。僕にしてください。
藍の突然且つ強引なお願いに、紫ちゃんも少々困惑してしまいました。
ですが、やはり慈悲深い紫ちゃん。
そこまで言うのなら、と快く承諾しました。
ああ、何と寛大なのでしょう。
紫ちゃんの前では仏の慈悲すら霞んでしまいます。
こうして紫ちゃんには大切な家族が出来ました。
そんなある日のことです。
いつものように藍の作った美味しい晩ご飯(紫ちゃんの作ったご飯には到底敵いませんが)を食べ、居間でゆっくりしていた紫ちゃん。
満腹となったお腹をさするその姿は、美しさよりも少女特有の可愛らしさが前面に押し出され、いつもとは少し違った魅力が存分に引き出されています。
藍は卓袱台を拭きながら、こんなに麗しい紫様のお姿を拝見できる私は、きっと特別な存在なのだ、と感じていました。
その時、ふと疑問が浮かびました。
こんなにも紫様はお美しく在られるのに、このマヨヒガから出ることは滅多にない。
この溢れる美貌をあえて隠して生きていかねばならないのは、一体どういう訳だろう。
何か深い理由がお有りなのだろうとは藍にも分かっていましたが、あえて紫ちゃんに直接尋ねてみることにしました。
問われた紫ちゃんは、一瞬憂いの表情を浮かべながらも(この陰りによって紫ちゃんの美しさは数百倍にふくれあがり、藍は鼻血を吹き出しました)、ゆっくりと言葉を紡いでいきました。
それは、まだ幻想郷が出来て間もない頃のこと。
幻想郷の創世者である紫ちゃんは、やらなくてはいけないことが沢山ありました。
藍には外の世界で消えかけた妖怪や妖精の保護を任せ、自身は結界の管理、争いの調停・・・
あちこちへ駆け回る日々が続いていました。
そして、それは同時に、紫ちゃんの美貌をあちこちへ振りまくことでもあったのです。
その日は突然やってきました。
ある妖怪の一派が、博麗神社に攻め入ってきたのです。
動機はとても単純なものでした。
"八雲紫をこちらへ渡せ"
紫ちゃんは境界を操るという能力によって、幻想郷に結界を張っています。
その際に、博麗神社の巫女の力も借りることによって、結界をより強固なものにしているのです。
そのため、紫ちゃんは博麗神社によく寄っていました。
その姿を見た妖怪達が、『八雲紫は博麗に独占されている』と思いこみ、博麗神社に攻撃を仕掛けたのです。
紫ちゃんの美しさのために起こってしまった悲劇、と言っていいでしょう。
優しい紫ちゃんは説得を試みました。
しかし、皮肉なことにそれは却って妖怪達の士気を上げてしまう結果となってしまいました。
みんな・・・私の話を聞いて・・・!
おお! 見えるか皆の者! あの麗しい少女が!!
お願いみんなっ! 私の・・・私のために・・・!
あの可憐な一輪を! 彼の憎き博麗より! 我々の手に取り戻すのだッ!!
うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
私のために争わないでっっ!!
当時の幻想郷には、まだスペルカードルールはありませんでした。
そのため、妖怪対博麗という、まさしく戦争に発展してしまったのです。
これが後に語られる『美少女紫異変』です。
この戦争による被害は小さくありませんでした。
妖怪勢力は半壊し、博麗神社の一部は破壊され、巫女も負傷しました。
紫ちゃんは嘆きました。
これは全て私のせいだ。私が美しすぎるために多くの血と涙が流れてしまった。
紫ちゃんはもう二度とこんな事の起きないよう、スペルカードルールを制定し、独り隠れ住むようになりました。
こうしてマヨヒガは建てられ、紫ちゃんは幻想郷との関わりを極限まで絶ったのです。
藍にこの異変のことを黙っていたのは、要らぬ心配をかけさせないようにするため。
紫ちゃんは事の全てを一人で抱え込もうとしていたのです。
美しい少女は、やはり心まで美しかったから・・・
紫ちゃんから事の真相を聞き終えた時、藍は涙の海で溺れそうになる程泣いていました。
そんな・・・そんなことがあったのに・・・私は紫様の心の傷にお気づき出来なかった・・・・・・
紫ちゃんへの悲しみと尊敬、自身への無力感で胸がいっぱいになり、いっそこのまま自害してしまおうかとまで考えました。
紫ちゃんは、そっと藍を抱きしめました。
突然のことに藍が反応できないでいると、紫ちゃんは静かに囁きました。
ありがとう、藍・・・私のために泣いてくれて・・・・・・
でもね、あなたは笑顔の方が似合うわ・・・
あなたが責任を感じる事なんてないのよ・・・?
だって・・・あなたはずっと私のそばにいてくれたじゃない・・・
傷ついて、ボロボロになった私の心を・・・あなたは癒してくれたわ・・・・・・
だから・・・
ありがとう
藍は、心の底から、この真に美しいお方をお守りしていこうと、決意したのでした。
「ふぅ・・・やっと出来たわ。後はこれを・・・」
「・・・いくら紫様でも、その嘘と出鱈目に塗り固められた本を橙の絵本棚に入れることは許されません」
「ら、藍!?・・・・・・じ・・・情操教育よ♪」
「駄目です。処分します」
「そんな~~!?」
というお話だったのサ。
おなかをさする姿に鼻血が吹き出ました
私は好きです。オチ関係なしに。
オチが凄く綺麗でした。
けどこういうのは好きですよ。
ゆかりんのことじゃないよ
くーぴーさんのことだよ!!!!
………特に意味の無い言霊ですんでwww