私はもともと特別だった。
はっきりと特別だと感じたことそなかったけれど、それでも私は他とは違った。他とは一線を画すほどに強さがあった。
空を飛ぶ程度の能力。
それが私の能力。字面だけで捉えれば重力から解放されて空を飛ぶだけの能力。
でも、私のこの能力にはもっと違う解釈が取れた。
それは、あらゆる物、事から浮くことができる。つまりそれらを無効化してしまうことができるということだった。
その能力のおかげで私は他の人や妖怪よりも強い。故に私は努力が報われないことを知っている。どんなに努力をしようと私の能力を超えることはできないのだから。
こうして、私は向上心を失った。
自分より優れているひとがいないのは、私に他者への興味を失わせた。私は一人で十分戦えるし、たいてい一人で事足りる。
自分にとって何一つとしてプラスにならない他者に関心を持つことなんてできない。
こうして、私は他者への興味を失った。
暇な毎日を、私はのんびりとお茶を飲み、お昼寝をして過ごす。たまに思いつきで神事をやってみたりもする。
妖怪が人を襲ったらそれを退治する。これが一番の退屈しのぎになるわね。
他にも異変が起こったら解決に向かうのも私の仕事。まぁ、異変の場合は半年に一回程度のイベントみたいなもの普段の退屈しのぎにはならないわ。
とにかく、それが私の毎日で、暇だとは思うけどそれしかすることがなかった。
それが今では、毎日のように夜になると人や妖怪が集まり宴会が開かれる。
どんちゃん騒ぎをしてみんな好き勝手に呑んで騒いでいる。
私はいつもその光景を輪から外れて境内に腰掛け眺めていた。
不思議だった。
なんで毎日あの子はわざわざここで宴会を開くのか。
そりゃあ、あの子はこの神社になぜか居ついている。だから、ここで開くっていうのもわからなくはない。
でもついこの前、「天界の一部をもらったぞー!」なんて言っていたのだから、そこでも開けばいいじゃない。
なのに、今日も変わらずここで宴会。あの子は何を考えているのやら。
そういえば、不思議なことと言えば、もう一つあった。
宴会というよりは、直接萃香に対して思うこと。
他者は他者でもあの子だけは私にとって特別なような気がした。
その理由はわからない。
鬼という存在だから強い。それは間違いないこと。
けれど、結局はそれだけ。私にとってプラスになることじゃない。
なのに、私はあの子が気になっている。
あの子といると私のペースが狂わされている気がする。
「なんでだろうなぁ」
特に理由が思いつかない。
「本気で戦ってないからかしら?」
あの子が起こした異変は特に危険そうなことではなかった。だから、時間つぶし程度に戦った。それで負けたのがしこりになってるのかしら?
本気で戦えばおそらく勝てる。私の能力ならあの子の力からも浮くことができる。
「けど、なんか違う気がするわね」
正直なところ私は勝ち負けなんてどうでもいい。ただ暇つぶしにさえなれば。
となれば、なんでこんなにもあの子が気になるのか。
べつに私にとって戦いにプラスになるようなことはない。あの子が私の弾幕の回避方法を知っているわけでもないし。
他に他者に興味を持つ理由なんて私は知らない。
だから戸惑う、この私の知らない感情に。
「おーい、霊夢ぅ!」
杯と酒瓶を手に萃香がやってくる。
「霊夢はちゃんと呑んでるかぁ!?」
「えぇ、この通り呑んでるわよ」
「あっちでみんなと呑めばいいのに」
「私はこうやって騒いでるのを見る方が好きなのよ」
「混ざった方が楽しいぞ?」
「そうなのかしらねぇ」
あまり混ざってみたいとか思ったことがないから、楽しいのかどうかわからない。
「まぁいいや。私もここで呑もぉ!」
「あら、あっちの方が楽しいんじゃないの?」
「私の中じゃ霊夢>その他多数なんだ!」
「っ………!」
ニコニコとそんなことを言われたら、私はどんな顔をすればいいのよ。
思わず顔を背ける。そして、お酒を口に運ぶ。
なんでこの子はこんなにもまっすぐと私を見つめてくるのだろう?
萃香だって鬼。強い存在。自分の力に自信を持っている。だから、私なんかに興味を持つこと自体ないはずなのに。私なんかがこの子のプラスになるわけないのに。
なのに、なんでこの子は私を選ぶの?
なんで、私のもとにやってくるの?
理解できない。
「お酒はおいしいなぁ~」
嬉々としてお酒を呑む萃香。………かわいい。こっちはこのモヤモヤした気持ちに戸惑ってるっていうのに、いい気なものね。
「ホント好きね、お酒」
「お酒はわたしが生きていくのに必要不可欠さー!」
「ねぇ、なんでここで毎日宴会を開くの?」
「んー?」
とろんとした表情の萃香が首をかしげる。
「天界でもいいんじゃない?」
「そうすると霊夢はこなくないか?」
「そうねぇ、気が向いたら行くかなぁ」
でも面倒くさがって行かない気がするわね。わざわざ宴会のために出向いて行くのもなぁ。
「ってことは、多分来ないな、霊夢は」
ご明察。
「私は霊夢と一緒に宴会がしたいんだ」
「………なんで?」
「楽しいからだ!」
なんて単純な理由なんだろう。
「霊夢は楽しくないか?」
「そうねぇー………」
いつもなら夕飯を食べてお茶を呑んで寝るだけの時間。
けど、萃香がこうやって宴会を開くと、萃香はもちろん、宴会にやってきた魔理沙や紫なんかが私のもとにやってきて、テキトーに話しながら、お酒を飲むことになる。
いつも通りの日々よりもはるかに退屈しのぎになってると思う。それはつまり……
「………楽しいかもしれないわね」
認めよう、私はこの宴会を楽しんでいる。今まで他者に興味を持たなかったから、誰かと関わることもなかった。
けれど、ここのところ続く宴会で私は色々な人と話した。それが楽しいと思うことがある。
知らなかった。誰かと関わることが楽しいことだなんて。
………この子のおかげね。
この子がこうやって宴会を開いてくれなければ、私は今も毎日同じことを繰り返し、退屈な日々を過ごしていたでしょうね。
「えへへー♪」
ホントに嬉しそうな顔。
私はこの子と一緒にいる時が一番楽しい、そしてなんだかとっても幸せ。
「霊夢はさー、たぶん寂しかったんだよ」
「え?」
「霊夢は強すぎる。だから、誰かを必要としてなかっただろ?」
「………」
「博霊の巫女としての霊夢は、それでいいかもしれないけど、博霊霊夢は強くない。だから、誰かを必要としてた」
「………なんであなたにわかるの?」
私にも分かっていなかった私の気持ち。
「わたしの能力は気持ちも萃めるんだぞ?」
密と疎を操る程度の能力。
この子の能力、たしかあらゆるものを萃めたり散らしたりすることのできる能力。
そうか、それで私の気持ちを萃めたのか。
「っていうか、なに勝手に人の心覗いてんのよ」
「あはは、霊夢の心が知りたくてつい」
ついで許されるようなことじゃないわよ、普通。
「で、でも宴会のおかげで少しは寂しくなくなってるんじゃないか?」
「そうねぇ………」
たしかにそうかもしれない。萃香に言われるまで、思いもしなかったことだけど、私は今寂しくなんてない。つまらなくもない。
「寂しくないわね」
「だろー? なら、宴会は大成功だ!」
わーい、なんて言いながら萃香は、またお酒をたくさんついで一気に飲み干す。
大成功ね………
大成功? 私が寂しくなくなったから大成功、ってことは………
「もしかして私のために開いてたの?」
「うっ…」
ホント表情によく出るわね、この小鬼は。
「いや、その、なんていうかだな………」
ふふ、隠し事は苦手なくせに。なんでそこまで私のためにしてくれるのかしら。
「ありがとう、萃香」
「………うぅ、勝手に心萃めてたの怒らないのか?」
「怒らないわよ。結果的には私は楽しいもの」
「よかったぁ、勝手に心萃めてたなんて言ったら、嫌われるんじゃないかと思ってひやひやしてたぞ」
「……でもなんで私の心が知りたかったの? なんで私に興味を持つの?」
私の疑問。なぜこの子は私なんかに興味を持つのだろう?
「んー? それはなぁ、霊夢が好きだからだ!」
にぱーっと笑って快活に答える。
嘘をつかないと、ここまでストレートなのね。
返す言葉が見つからなくて、私は口を閉ざす。
顔が熱い。
お酒なんかよりも百倍熱くなる。
顔を見られるのが恥ずかしくて、おもわずそっぽ向く。
すこしだけ、静かな時間がながれて、夜風が私たちの間を吹き抜ける。
どんちゃん騒ぎしている連中の喧騒が嘘みたい。
何を話せばいいのか、どう切り出せばいいのかわからないまま、時間が過ぎる。
「霊夢は………」
萃香が沈黙を破る。
「霊夢は……わたしのこと……嫌いか?」
あ………
今までずっと私の目を見て話していた萃香が、この時初めて視線を落とした。
足をぶらぶらさせて、ただただ何もない地面を見つめてる。
なんとなく分かる。萃香は私の答えを聞くのを怖がってる。
拒絶されることを怖がってるんだ。
そんな萃香が私にはたまらなく愛おしい。あぁ、そうか、私はこの子の事が好きなんだ。
そう、好き。だから、博霊霊夢は萃香が気になっていたんだ。
答えは出ていた。
この子と一緒にいて幸せだと感じていた時から、ずっと。
だから、早く答えてあげよう。早く安心させてあげよう。
「私も好きよ。あなたのこと」
「!!」
バッと、こちらを見上げてくる。目がうるうるしてるじゃない。
「れいむぅー!!」
「あっ! コラ! もう……」
うるうるした瞳をこっちに向けて飛びついて来た。かわいいわね、ホントに。
花が咲いたようにって表現を、いつだったか聞いたことがある。きっと、今の萃香にぴったりの言葉ね。
私は今まで戦いにおいてプラスにならないから他者への興味を失っていた。
それは萃香の言う博霊の巫女としての私なら、それでよかった。けど、博霊霊夢は、強くなんてなかった。
結局はただの女の子だった。
博霊霊夢にとって萃香という子は、幸せを萃めてくれる子。私には必要な子。私の大切な子。
だから、好き。大好き。
「萃香、大好きよ」
抱きついている萃香を優しく抱きしめながら、私はそう囁いた。
私はとても幸せ。側にいてくれる人がいる。
もう寂しくなんてない、つまらなくなんてない。
この子がいれば、きっと毎日楽しくなる。
私は、疑いもしなかった。もう一人ではないことを。
私には、未来が見えるわけじゃないのに………
霊萃はいいものだ…
だけども誤字報告をば。
博霊になってますよ
ご指摘ありがとうございます。次書く時は気をつけます!
地霊殿で霊夢の為にアイテム萃めてくる萃香可愛いよ萃香。
つまり萃香可愛いよ萃香。