幻想郷を愛する八雲 紫が、外の世界をどう思っているかという、話をしよう。
八雲 紫にとって、幻想郷は楽園である。有意義な時間の浪費。無駄な会話。スペルカード。停止と継続を幾度も繰り返し、幻想郷は忘れられたものを残さず拾い上げる。
外の世界は様々なものを失った。それは或いは、浪費出来るだけの時間。それは或いは、無駄の許される会話。それらは全て失われ、失われたものこそが幻想郷を楽園たらしめる。進化を求める人間達が、進化を信じて捨てたものが、楽園を作る。なんと皮肉なものではないか。
つまるところ。外の世界は愚かである。矮小である。人間だけの世界がどうして豊かであろう。イルミネーションの輝き?太陽や月や星の光の方がよほど綺麗ではないか。技術の粋を集めて作られた高層ビル?木や石の温かさを何故忘れた。自然科学?何故そこまで頑なに視えないものを否定するのだ。蒸気機関?電気?動力など神が居ればこと足りたろうに。国民国家?ああ土地も人間も、分かたれたものではないというのに!
外の世界は愚かである。八雲 紫にとってそれは自明である。人間中心主義を否定しようというのではない。自然中心主義を肯定しようというのでもない。八雲 紫にとって、それはどちらも解せないものだった。どうして外の世界の人間は共存という選択肢に気付かないのか。自然と文明は、必ずしも反発しないというのに。切磋琢磨という選択肢がないことが、彼女にとっては不可解だった。
――八雲 紫は今、戦乱の地を見下ろしている。
其処には、逃げ惑う人が居た。其処には、銃を構える兵が居た。其処には、闊歩する戦車が在った。血の匂い。硝煙の匂い。死の匂い。泣き声。荒廃。
「愚かな人間…」
紫は呟いた。
スペルカードを持たない彼らは、武器で傷つけ合うことでしか闘えない。科学で生きる彼らは、スペルカードを持つことすら出来ない。スペルカードは、人と人が争う為のものではない。スペルカードは、人と妖怪が闘う為のものだから。妖怪を失った彼らに、スペルカードを持つことなど出来る筈がない。
「敵は、妖怪(わたしたち)に任せておけばよかったものを。」
何故人は、人と争うことを選んだのか。
八雲 紫は、幻想郷を愛している。彼女にとって、外の世界は愚かである。しかし、それは嫌悪を表さない。幻想郷を愛することが、裏返って外の世界を嫌う理由にはならない。
愚かで、しかしだからこそ愛すべき外の世界の人間達。彼らはこれからも文明を発展させるだろう。これからも様々なものを失い続けるだろう。しかしそれでも彼らは前を見ることを止めない。進歩を諦めない。
彼らは。
「それでも貴方達は、きっと此の世界を楽園と呼ぶのでしょうね。」
この私が、八雲 紫が幻想郷を楽園と呼ぶように、きっと。
紫は誰にともなくそう言って、隙間の向こうに消え去った。彼女の愛する幻想郷へと帰る為に。
彼女は言う。これで良いのだと。幻想郷は停止と継続を繰り返す。外の世界は永遠に進み続けるだろう。それで良い。そうして、外の世界に置いていかれた様々なものは幻想郷が引き受けよう。外の世界に置いていかれて立ち竦む人間は幻想郷が引き受けよう。
誰より賢い幻想郷の妖怪に、誰より愚かな外の世界の人間の考えなど理解出来る筈もない。しかし確かなこともある。彼らはそうすることで理想を追い求めるのだと云うこと。彼らが現状に満足する日など永遠に訪れないのだと云うこと。彼らが人と争うことを選んだのは、きっと、妖怪が完璧過ぎたから――。
幻想郷を愛する八雲 紫が、外の世界をどう思っているかという、話をしよう。
或いは、愚かだとあざ笑うか。
或いは、愚かだと哀しむか。
或いは、愚かだと捨て置くか。
どれも違う。彼女は外の世界を、愚かだから愛した。その愚かさは、彼女の持っていないものであったから。
八雲 紫にとって、幻想郷は楽園である。有意義な時間の浪費。無駄な会話。スペルカード。停止と継続を幾度も繰り返し、幻想郷は忘れられたものを残さず拾い上げる。
外の世界は様々なものを失った。それは或いは、浪費出来るだけの時間。それは或いは、無駄の許される会話。それらは全て失われ、失われたものこそが幻想郷を楽園たらしめる。進化を求める人間達が、進化を信じて捨てたものが、楽園を作る。なんと皮肉なものではないか。
つまるところ。外の世界は愚かである。矮小である。人間だけの世界がどうして豊かであろう。イルミネーションの輝き?太陽や月や星の光の方がよほど綺麗ではないか。技術の粋を集めて作られた高層ビル?木や石の温かさを何故忘れた。自然科学?何故そこまで頑なに視えないものを否定するのだ。蒸気機関?電気?動力など神が居ればこと足りたろうに。国民国家?ああ土地も人間も、分かたれたものではないというのに!
外の世界は愚かである。八雲 紫にとってそれは自明である。人間中心主義を否定しようというのではない。自然中心主義を肯定しようというのでもない。八雲 紫にとって、それはどちらも解せないものだった。どうして外の世界の人間は共存という選択肢に気付かないのか。自然と文明は、必ずしも反発しないというのに。切磋琢磨という選択肢がないことが、彼女にとっては不可解だった。
――八雲 紫は今、戦乱の地を見下ろしている。
其処には、逃げ惑う人が居た。其処には、銃を構える兵が居た。其処には、闊歩する戦車が在った。血の匂い。硝煙の匂い。死の匂い。泣き声。荒廃。
「愚かな人間…」
紫は呟いた。
スペルカードを持たない彼らは、武器で傷つけ合うことでしか闘えない。科学で生きる彼らは、スペルカードを持つことすら出来ない。スペルカードは、人と人が争う為のものではない。スペルカードは、人と妖怪が闘う為のものだから。妖怪を失った彼らに、スペルカードを持つことなど出来る筈がない。
「敵は、妖怪(わたしたち)に任せておけばよかったものを。」
何故人は、人と争うことを選んだのか。
八雲 紫は、幻想郷を愛している。彼女にとって、外の世界は愚かである。しかし、それは嫌悪を表さない。幻想郷を愛することが、裏返って外の世界を嫌う理由にはならない。
愚かで、しかしだからこそ愛すべき外の世界の人間達。彼らはこれからも文明を発展させるだろう。これからも様々なものを失い続けるだろう。しかしそれでも彼らは前を見ることを止めない。進歩を諦めない。
彼らは。
「それでも貴方達は、きっと此の世界を楽園と呼ぶのでしょうね。」
この私が、八雲 紫が幻想郷を楽園と呼ぶように、きっと。
紫は誰にともなくそう言って、隙間の向こうに消え去った。彼女の愛する幻想郷へと帰る為に。
彼女は言う。これで良いのだと。幻想郷は停止と継続を繰り返す。外の世界は永遠に進み続けるだろう。それで良い。そうして、外の世界に置いていかれた様々なものは幻想郷が引き受けよう。外の世界に置いていかれて立ち竦む人間は幻想郷が引き受けよう。
誰より賢い幻想郷の妖怪に、誰より愚かな外の世界の人間の考えなど理解出来る筈もない。しかし確かなこともある。彼らはそうすることで理想を追い求めるのだと云うこと。彼らが現状に満足する日など永遠に訪れないのだと云うこと。彼らが人と争うことを選んだのは、きっと、妖怪が完璧過ぎたから――。
幻想郷を愛する八雲 紫が、外の世界をどう思っているかという、話をしよう。
或いは、愚かだとあざ笑うか。
或いは、愚かだと哀しむか。
或いは、愚かだと捨て置くか。
どれも違う。彼女は外の世界を、愚かだから愛した。その愚かさは、彼女の持っていないものであったから。
ゆかりんへの愛がひしひしと伝わってきます。
妖しくて、艶やかで、見事でした。
短いながらも八雲紫と云う妖怪の一側面がしっかりと切り出されていたのではないかと思います。
あやふやを畏れ自然科学が発展し。
停滞を怖れ立ち止まれなくなる。
だからこそ目に見えない畏怖より目に映る悪意に安心を懐く。
そこに在るだけで完成を持つ妖怪と、常に自己形成に万進しなければならない人間と云う対比。
しかし妖怪には無いそういった未熟をまた八雲紫は愛する。
点数の伸びが少しばかり悪いようですけど投稿を重ね知名度が上がれば解消できる問題でしょう。
ごちそうさまでした。