「まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ」
「はい、また買いに来る用事があれば」
幽々子様に頼まれ、私は、久しぶりに里に買出しに来ていた。
幻想郷へよく来るようになったのも、あの異変以来のことで昔の話ではないが、里にはここ数ヶ月は来ていない。
相変わらず、人間がごった返していて、久しぶりに里の賑やかさを肌で感じながら、買出しをしていた。
頼まれた物が買い終わった後は、いつもならすぐに帰るのだが、今日は、少しだけお店をぶらついた。
寄り道したのには、それなりの理由がある。 ……何刻か前の話だ。
「―――で、コレとコレも買って来てちょうだい」
「はい、わかりました」
「それと、妖夢。 いつもご苦労さん。今日はこれをあげるから、すこし羽を伸ばしてきなさい、ね?」
“ゴソッ”
そう幽々子様に言われ、手に何かを握らされた。
「あ、あの、幽々子さま? これはいったい……」
まったく、状況がのみ込めなかった。
「ん? なにって、お小遣いよ」
「お、おこづかい……ですか……?」
「小遣いよ。そんなのも分からないの? 妖夢は?」
「え? え、いや、それは、わかるのですが……」
「だったら、いいじゃないの。さあ、買出しに行って来てちょうだいな! 頼んだわよ~」
「あ。ちょ、ちょっと……。ゆ、幽々子さま……」
……と、そういった具合で、買出しのお金とは別にお金を渡されのだ。
幽々子様が、お小遣いをくださる事など、初めての経験だったので、かなり動揺した。
そのせいもあって、何故、突然くださったのか聞けなかった。……いや、誤魔化された気もするが。
それにしても、急にもほどがある。やっぱり、私にはあの御方の考えが読めない。
しかし、せっかく幽々子様のくださった小遣い(と少しの休養)、大切にせねば―――――
(う~ん…………)
だが、お金の使い道は、あまり見当が立たなかった。そもそも、自分のためにお金を使ったことが、一度もなかった。
古いのが擦り減ってきたから、新しいホウキでも買おうか。そうだ、幽々子様に茶菓子を買うのもいいかもしれない。
それなら、きっと幽々子様も喜んでくれるだろう。ついでに、茶葉も買っていこうかな。
自分へのご褒美など、何も浮かばない。仕様がないので、茶屋にその足を運ぶことにした。
ガラガラガラ……
「……ごめんくださーい(ドキドキ)」
てきとうに入った店は、かなりしなびた雰囲気を漂わせていた。天井の隅には、蜘蛛の巣が張りめぐっている。
壁の木々も、かなり黒積んでいて、それがホコリでうっすらとした白みを帯びていた。
そして、暗い店内の石畳の床は、初夏なのに重たい冷たさを感じさせた。人気もない。……店を間違えたかな?
「いらっしゃい」
「ひゃっ!? あ、は、はい!!」
お店の人がいるのに気づかなかったので、身体がビクンと仰け反りかえってしまった。
お店の人とカウンター越しに目が合ってしまい、自分から店に入っておいて、…何だか恥ずかしくなってしまった。
お婆さんでも出てくるのかとおもったら、青い帽子に、緑の髪をした、綺麗な人がカウンターの向こうにいた。
「なにをお買い求めで?」
そうだった。何を買うかまで決めていなかったんだ。悩んでいる私は、カウンターの方へ目を流した。
目に入ったのは、おもち。美味しそうな牡丹餅が、皿に並べて乗っけてあった。
「えーっとですね……。じゃあ、ぼた餅お願い出来ますか?」
「牡丹餅かい? 家はもう作ってないね。他当たってくれる?」
……客をいぢめるとは、この店員、なかなかのクセモノだ。
「いやいやいや……。しっかりと、目の前に並んでるじゃないですか。」
「これかい? こいつは、牡丹餅じゃなくて、夜船っていうんだよ。」
「はぁ、夜船……ですか?」
「春は牡丹餅、夏は夜船、秋は御萩、冬は北窓って言ってね。昔は、四季ごとに呼び分けてたのさ」
春は牡丹餅、秋は御萩は知っていたが、夏と冬の呼び名は知らなかった。
「へ~、それは知らなかったです。」
「で、夜船をいくつだい?」
「あ。はい、4つで」
「じゃあ、新しいのを作ってくるから、そこに並んでる夜船でもつまんで、待ってておくれ」
「……お餅を買うのに、お餅を食べて待つって、何だか矛盾してませんか?」
「出来たての方が良いだろ? 冷めた夜船よりさ。 それと、そこにお茶も置いてあるから」
そういって、彼女は、店の奥の方へ行ってしまった。
(冥界に持ってくまでには結局冷めるのだから、冷めててもでいいのに……)
でも、幽々子様へのお土産だ。一口ぐらいは味見して、帰りたい。
言葉にだすのは、やめにして、待ってる間に牡丹餅……じゃなかった、夜船を頂くことにした。
見た感じは、かなり素朴な感じ。ヤカンに入ったお茶を近くの湯飲みに入れて、さっそく食べてみることにした。
(もぐもぐ……んぐんぐ……)
ちょうど具合のいい、気取らない感じの甘味と、しっとりして、かさばらない感じの餅、餡も舌触りがいい。
食べ応えはあまりないが、重たくなく、いくらでも食べれそうなかんじだ。
(……お、おいしい)
「気に入ってくれたみたいだねぇ」
「あ、はい! これ、とっても美味しいです!」
「そうかい。口に合うようで、良かったよ。 じゃ、これ。夜船4つ」
「や……やけに、早いですね」
「生地も餡も、ちょうど出来上がった所に、あんたが来たからね。だから、包むだけ」
「そうでしたか」
物を受け取ろうとしたが、持っていた湯飲みが邪魔だったので、一気に飲み干した。
香ばしく、飲みやすい優しい味だ。こりゃ、うまい。
「このお茶も、美味しいですね。これ、ほうじ茶ですかね?」
「そうだよ。しかも、結構いいやつ」
「……じゃあ、これも頂けますか? 食べる時に飲む分があればいいので、100gお願いします」
そう言うと、店員さんは、焙じ茶の茶葉を袋に詰めてくれた。茶葉の香ばしい匂いがする……。
代金の銭貨を支払って、そのまま袋を受け取った。
このお店は、古臭くて暗いのだが、随分と心が落ち着く。冥界とは違った、冷たさと暖かさを感じる。
このお店の人も、不思議な雰囲気はあるものの、なんだか包容力がある感じで、一緒にいて心地は良かった。
幽々子様に頂いたこの時間、短い時間ではあったが、私なりに有意義に過ごせたと思う。
茶菓子も買ったし、幽々子様も喜ぶだろう。
「今日は、ありがとうございました。お餅、それに、お茶まで頂いて……」
「いえいえ。私も、久々にお客と話が出来て良かったよ……」
ガラガラガラ……
「まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ」
「はい、また買いに来る用事があれば。……ありがとうございました」
そう言って一礼した後、しなびたお店をあとにし、いつもより速めに空を飛んだ。
「―――――とまぁ、そういう事がありましてね……」
「そのお店、ホコリがはってたって、食品店としてどうなのよ」
「うっ……。でも、ホコリは壁の木だけで、カウンターや商品はきれいでしたよ!」
「ふーん。でも、妖夢の事だし、私のためだとか言って、お菓子辺りでも買ってくるとは思ったけど……。ホントにピタリとは、ね」
「うぅっ/// で、でも、ちゃんと自分の分のお餅も買ってきてますよ! ほら、ホラ!」
「ふふふ、そうね。 ……じゃあ、早速いただこうかしら」
「あ、買ったお茶、淹れてきますね」
「早めにね~。じゃないと、お餅、全部たべちゃうわよ~」
結局、お餅は、ぜんぶ食べられてしまったが、
今日は、お茶を飲みながら、幽々子様と2人で、まったりと午後を過ごせた。
……それが、私にとって、1番のおこづかいになっていた気がした。
◆ ◇ ◆ ◇
幽々子様はあのお菓子を、ずいぶんとお気に召されたようで、翌日、再びあのお店に訪れることになった。
今度は多めに買うので、幽々子様に全部食べられるという心配もない。あのお餅は 私も好みだったので、嬉しい。
……しかしながら、幽々子様の言う通り、何故あんなにも建物が くすんでいたのだろう。
家以外、まったくくすんでいないのも、何だか変だった。
店員さんも、なんだか……こう……。
そうこう考えているうちに、お店についた。
ガラガラガラ……
(…………空家?)
どうやら、嫌な予感は的中してしまった。
あの店員さんは……亡霊か自縛霊だったんだ。
おそらく、私が客として店に入った事がきっかけで、成仏できたのだろう。
「『まいどあり! お嬢ちゃん、また来ておくれよ』なんて、言ってたのに……」
死霊の類は、未練を断つことが出来れば、成仏できる。
茶屋の店員としての最後の時だったのなら、もっと気の利いたことをしてあげてれば……
冥界の住人で、半分幽霊の私が こんなことを思っているなんて、はたから聞いたら笑ってしまう話だ。
だけど、あのお餅を もう一度だけ食べて、ゆっくりと話をしてみたかった。
広すぎる冥界で、彼女の幽霊を探し出すのは、私1人では、おそらく不可能だろう。
茶菓子屋の件1つで、幽々子様の手を煩わせるわけにも いかない。
そもそも、見つけ出しても幽霊ではお餅はつくれないのだから、会う必要もない。
「別の茶菓子屋で買って、幽々子様には、閉店してたとでも伝えるか……」
私が、店を出ようと思った時、一枚の紙が落ちているのに 気が付いた。
その紙には―――――
「 最後にあなたみたいな 可愛いお客さんに会えてよかったよ。 ありがとう…… 」
そう書いてあった。
「……わ、わたしも。 ……私も、選んだ茶屋が、このお店で……本当によかったですっ!!!」
「私にとっての すてきな、すてきな おこづかい……ありがとうございましたっ!!!!」
熱くなった目頭を抑えながら、深々と大きな一礼して、私は、お店を後にした。
“シュー……、ポンッ!”
(……いったかな?)
(うーん……。あの子には、悪いことしたかな)
(お店は、暇つぶしにやってただけで、そろそろやめようと思ってたからね……)
(……2度も来る客なんて、考えても見なかったよ)
(でも……)
(でも、あの子のために、気が向いたら、また茶屋でもやるかな……)
(あんなにたくさん、お代をもらったし……)
(おつり、ちゃんと返さなくちゃ……ね?)
2人はそれぞれ、前より少し……。優しい気持ちになれた気がしました。
確かに妖夢ならやりそうですよね。
こういうの結構好きなのでこれからも頑張って下さい。
グラムに関しては、分かりやすいので、私はいいと思います。
妖夢の素直さが表れた良いSSだと思います
しかしもう一つ展開があってほしいと期待してしまいました
なのでその和菓子屋の店主は数年前に亡くなり、
自縛霊になって店で客を待ち続けていた所に妖夢が
表れ成仏して白玉楼で妖夢と再開して、事の真相をしった
妖夢が時間差吃驚
と言うのをかってに脳内補間しました
むしろ幼夢たべたい
>>6
26匁7分とか書いても変な気がしたので、そう言って頂けて嬉しいです。
>>10 >>15
点々は、昔からの私の性分というか癖でして…。他の方にとっては気になるという事がわかりましたので、点々は控えるようにします。
それと、店員さんの件については、似たくだりは考えたのですが、いい書き方が浮ばなかったので、思い切ってハショってしまいました。もっと練って、しっかり書いた方がよかったですね。
地味だけど十分ありそうで話に入り込みやすかったです。
使い道もいかにも妖夢らしくてほのぼのさせてもらいました。
>寄り道したのにはには、それなりの理由がある。 ……何刻か前の話だ。
上の「には」は誤字でしょうか。
>>20さんの指摘した箇所の修正にあわせて、元々書こうかと悩んでいた、後日談をプラスしました。
コメントとなるべく被らないように、調整しましたが……、うむうむ。
でもゆゆ様が餅全部食ったのには笑ったww