Coolier - 新生・東方創想話

あややとにとりの物語の作り方教室

2010/01/15 22:34:25
最終更新
サイズ
6.55KB
ページ数
1
閲覧数
716
評価数
5/16
POINT
660
Rate
8.06

分類タグ

「おーい。文~。いるかーい」
「あら、にとり。どうしたの? こんなところ来るなんて珍しい」

ここは文の住処兼作業所。いつものように新聞記事の推敲をしていると突然にとりがひょっこりと現れた。

「ちょっと物語の作り方教えて欲しいんだけど」
「は?」
「だから物語」
「一体どういう風の吹き回しよ。あなたが物語だなんて」
「いや、実はさ。チルノに読み聞かせてやろうと思って。でも本なんて私は滅多に読まないからさ」
「……それで自分でお話を作ろうっていうわけね」
「その通り!」
「まったく、何でもかんでも自分で作ろうとするなんて実にあなたらしいけど……言っておくけど私の専門は新聞記事製作であって物語に作り方とかはそんなに詳しくないわよ?」
「いいよ。だって私の周りで頼れそうなの文だけだし」
「ま、そこまで言うなら……」
「お願いします! 先生!」
「文でいいわよ……それはそうと、簡単に物語って言うけど、その種類は色々あるのよ。例えば御伽噺とか軍記物とか……」
「あ、ストップストップ! そういう細かい事は別に良いや。私が知りたいのは……」
「要するにチルノのような子どもにはどんな系統のお話が良いかって事でしょ?」
「そうそう! まさにそれ! ってか知ってたんなら始からそれ説明してよ。意地悪いなぁ」
「教えてもらってる分際で文句言うんじゃないわよ! ともかく、子供に聞かせるお話ならまず、なんと言っても分かりやすいお話じゃないといけないわ」
「うん、それは間違いないね。あとは?」
「起承転結をしっかりする事。これがしっかりしていないとぼやけたお話になっちゃうわ」
「なるほど。起承転結か。聞いた事ある」
「そこまで知ってるなら話が早いわね。じゃあ以上の点を踏まえて今ここで何かお話を作って御覧なさい」
「よーし、わかった! ……うん! 出来た!」
「もう!? いくらなんでも早すぎよ!」
「はやい! やすい! うまい! がモットーだしね」
「それ何か違う気がするんだけど……まぁいいわ。で、どんなお話?」
「昔々あるところにおじいさんとお姉さんがいました」
「……おばあさんじゃないのね。まぁいいわ続けて」
「おじいさんとお姉さんは幸せに暮らしていました」
「それで?」
「とても幸せに暮らしていました」
「……え?」
「いつまでも幸せに暮らしていました。おしまい」
「ちょっと待ちなさい。起承転結はどうしたのよ!」
「え? あるでしょ。二人が現れて起。幸せに暮らして承。とても幸せに暮らして転。いつまでも幸せに暮らして結。めでたしめでたし」
「めでたしめでたしじゃなくて……まぁある意味めでたいのかもしれないけど、ってそうじゃなくて! 結局二人何もしてないじゃない。それじゃお話として成立しないわよ」
「え、そうなの?」
「そうよ! 例えば異変が起きた事を思い出して御覧なさい。異変が起きる。それを受けて霊夢が解決に乗り出す。異変の元凶と戦う。異変が解決する。ほら見事に起承転結でしょ?」
「おぉ! 分かりやすい!」
「もう一度、考えて作り直して御覧なさい。私はちょっと自分の作業に……」
「よし出来た!」
「だから早すぎるってば!?」
「今度は大丈夫! じゃあいくよ?」

――昔々あるところにおじいさんとお姉さんがいました。二人は幸せに暮らしていました。ある時おじいさんが何者かに襲われました。そしてお姉さんの犯人探しが始まりました。手がかりを集めているうちに、犯人は隣に住む意地悪ばあさんの仕業だということが分かりました。お姉さんはばあさんに問い詰めます。しかしその時ばあさんの口から驚くべき事実が告げられます。なんと姉さんとばあさんは実の親子だったのです! 彼女がまだ子供の頃、おじいさんに借金の肩代わりとしてわが子をさらわれていたのでした。ばあさんはわが子をとられた復讐のときをずっと待っていたのです。そしてそれを果たした事でもう思い残す事は何もないと毒を飲んで命を絶とうとします。お姉さんはすかさず止めました。彼女の説得で思い改めたばあさんは、おじいさんに決別の言葉を告げ、我子と家を出て山奥の小屋で平和に暮らしました。おしまい。

「ああ、もう、どこからどう突っ込めば良いのやら」

思わず頭を抱える文。対するにとりは腕を組んで得意満面といった様子だ。

「ふふん、完璧でしょー」
「……確かにお話としては面白い。私こういう話好みだし。だけど正直言って子どもに聞かせるには難し過ぎると思うんだけど?」
「う~ん、そうかー」
「純真な子供に読み聞かせるなら、そんなドロドロした人間関係のお話じゃなくて、もう少し単純かつ明るいお話の方が良いと思うわよ?」
「明るい話か。よし! じゃあこれでどうだ! 昔々あるところに、おじいさんが十人一緒に住んでました」
「多っ!?」
「彼らが住んでる家はとても明るい家でした。なぜなら10人とも頭がはげていたからです! めでたしめでたし」
「全然めでたくない! そういう明るいじゃないわよ!? それにまた起承転結破綻しちゃってるじゃない!」
「あ、しまった!」
「安易にネタに走るからそうなるのよ。反省しなさい」
「ごめんなさい」
「……とりあえず、大まかな話の流れを作って御覧なさいよ」
「そんじゃ、おじいさんとお姉さんが悪いばあさんを懲らしめて、めでたしめでたし。この流れでどうかな?」
「うん、分かりやすいし悪くないと思うわよ?」
「じゃあこれからお話を膨らませていけば良いんだね」
「そうね」
「よし、これは流石に時間がかかりそうだな」
「そう、じゃあ出来たら呼んで。私は自分の作業をしてるから」

   ・
   ・
   ・
   ・

「やーった やったたった でっきたー♪ やーっとやーっととっとでっきったー♪」
「急に歌わないでよ!? びっくりするじゃない。大体何よその歌は?」
「あ、これ? 何かが出来たときの歌。発明とか出来上がったらいっつも歌ってるんだよ」
「いつもなの? ……その割には今日初めて聞いた気がするけど」
「それはともかく物語が出来たよ。これなら完璧だね!」
「ふーん。どれどれ」

――陽光が降り注ぐ春爛漫の里の一角に合掌造りで藁葺き屋根の古ぼけた民家がありました。
その民家には齢六十前後の初老で禿頭の男と、村一番の美人と称えられている若い娘が一緒に日々仲睦まじく暮らしていました。
二人はある犬を飼っていました。その犬は頭から尻尾の先まで白くふぉさふぉさした、例えるなら毛玉のような犬で、実際に毛玉と名づけられ家族同様に暮らしていました。
今まで三人は様々な艱難辛苦を乗り越えて今日までやってきました。よく家族とは一つの船に乗っているようなものと例えられますが、正に襲い掛かる荒海を死に物狂いで乗り越え、風雪により転覆しかけた船を力を合わせ修理をしながらと、その家族の絆たるや、金剛石より強固なものかと思うほどのものでありました。
しかし、此度はそんな家族の下に未曾有の大試練が訪れようとしていたのです……

「ねえ、にとり……あなた、これをチルノに聞かせてあげる気なの?」
「もちろん!」
「これを聞いてチルノが理解できると思う?」
「え……? ダメかな?」
「ダメに決まってるじゃない! 艱難辛苦とか言ったってあの子がわかるわけないでしょ!」
「えー。せっかく苦労して書いたのに~」
「そもそもこの文章は、美辞麗句が多すぎて内容がないじゃない!」
「内容がないよう」
「黙れ! 河童!」
「ひー。文が怖いよぅ」
「ともかく……もっと文章を簡潔にしなさい。! 分かりやすく」
「ちぇっ。わかったよ……そんじゃ、もう今日は夜も遅いから明日また持ってくるよ」
「そうね。そうしなさい」


そして次の日。

「おまたせー」
「いらっしゃい。出来たの?」
「うん、ばっちり!」
「そんじゃ早速見せてもらうわよ……って……!?」

文は彼女の原稿を見て愕然とする。原稿にはこう書かれていた。

――或る所におじいさんとお姉さんが住んでいました、二人は協力して悪いおばあさんを懲らしめて、いつまでも平和に暮らしましたとさ。
とっぴんぱらりのぷぅ。
B・G・M
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.410簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
会話文ばっかりで何か萎えました
6.60名前が無い程度の能力削除
なんか結構面白かったんだけど、前半テンポ悪い感じがする。
会話文だけなのはテンポ良くするためだろうし。
12.50名前が無い程度の能力削除
結構こういうのも悪くないかも...会話文ばかりだけど話にはなってるしねっ。
13.60ずわいがに削除
物語なら
「昔々、あるところに雲山が十人住んでいました」
ぐらいでもいい。プチならね。

ところでチルノとにとりが仲良しってあんま見かけないよね。
15.70名前が無い程度の能力削除
地の文つけて、シリーズ化してほしいな。

これ、にとりじゃなくて魔理沙だったら
「普段捏造記事ばっか書いてる物語づくりのプロである文先生! 頼みます!」
って感じに皮肉るだろうなあ。