Coolier - 新生・東方創想話

湯けむり地底旅情、消えたパンツの謎

2010/01/15 15:07:28
最終更新
サイズ
20.07KB
ページ数
1
閲覧数
1233
評価数
10/58
POINT
3250
Rate
11.10

分類タグ


 温泉は太古に大国主と少彦名命が発見したとされ、古くから禊などの神事に使用されて来た。
 多くの温泉神社と呼ばれる神社では、その殆どで主に大国主と少彦名命の二柱が主祭神として祀られている。
 とは言え今では温泉はそれ程神聖なものではない。誰もが気軽に楽しめるものなのだ。妖怪だろうが怨霊だろうが皆お構いなしに温泉を楽しんでいるのだ。
 それにここ地底では豊富な地熱により温泉は何処にでも湧出している。最近では灼熱地獄跡の火力が増し、地上にまでその恩恵を与えている。

「いやぁ、まるで天国だね。旧地獄だけど」
 星熊勇儀は杯に注がれた酒をグイッと飲み干し、上機嫌で周囲に酒臭い呼気を吐き散らす。
 その横で顔を顰めている少女、古明地さとりは溜息を一つ吐く。そして酔っ払って顔を赤くしている鬼を窘める。
「勇儀さん、少し飲み過ぎでは? お風呂で酔っ払うと危ないですよ」
「おいおい、誰に対して言ってるんだい? ほら、お前さんも呑みなって」
「わ、私は結構です」
 さとり達地底の妖怪数名は、旧都の外れにある小さな温泉宿に遊びに来ていた。
 この宿にはさとり達以外の客は居らず貸切状態となっていた。それをいい事にお空とお燐は楽しそうに湯船を泳ぎ回る。
 更に湯船の上にはキスメを乗せた桶がプカプカと浮き、ヤマメはその桶に糸を付けて曳航している。パルスィはその様子を見つめながら「妬ましい」と何度も呟いていた。
 この異様な光景にさとりは溜息を吐かずにはいられなかった。
 元々はさとり、こいし、お空、お燐の四名で温泉に行く筈だった。それでも当初さとりは温泉に出掛ける事に難色を示していた。彼女はその能力故に人の多い所には行きたくなかったのだ。
 しかし駄々を捏ねる妹達に根負けし、人の少ない所を条件に渋々だが温泉を目指す事にしたのだ。その道すがら勇儀とパルスィ、ヤマメ、キスメの四名に出くわしてしまったのだ。そして「良し、皆で行こう!」と言う勇儀の一声にさとり以外の全員が賛成し、斯くしてこの奇妙な八名で温泉に行く事になってしまったのだ。
 繁華街の温泉施設に行かなくて本当に良かったとさとりは思った。人気者のヤマメはともかく、地霊殿の主や山の四天王に加えこんな騒がしい面々で行ったら他の客の迷惑になる事は想像に難くない。
「お空、お燐、他に人が居ないからと言って湯船で泳ぐんじゃありません!」
 さとりが叱りつけるとペット達は「はぁい」と言って大人しくなった。だが暫くすれば我慢出来ずにまた騒ぎ出すだろう。
 キスメにも温泉に桶を入れないよう注意しようと思ったがそれは止めた。勇儀の前にも徳利やお猪口を乗せた小さな桶がプカプカと浮いているからだ。流石に勇儀に酒を持ち込むなとは言えなかった。
 先刻からこいしの姿が見えないのを不審に思ったさとりはキョロキョロと周囲を見回す。
「そう言えば、こいしったら何処に消えたのかしら?」
 消えた訳ではなく、気付いていないだけで恐らく温泉に浸かっている筈だ。そう思ったさとりの背後から突然細い手が伸び、彼女の胸を鷲掴みにした。
 さとりは思わず「きゃぁ!」と悲鳴を上げる。こいしは興味深そうに姉の胸を揉みしだいている。
「な、何をしているの! 離しなさい、こいし!」
 さとりが怒鳴り付けるとこいしは「小さい」と不満そうに一言呟きさとりの胸から手を離す。
 次は勇儀の背後に回ってその胸を揉み始めた。今度は「大きい」と言ってとても御満悦だ。
「はっはっは! お前の姉さんのは小さいからねぇ。私ので良けりゃ好きなだけ揉みな!」
 こいしに胸を揉まれながらも勇儀は豪快に笑う。その様子を見ながらパルスィは「妬ましい」と何度も呟いている。
 さとりの視界の隅でキスメの桶が転覆し、ヤマメが慌てているのが見える。そして背後ではお空とお燐の二人が再び大きな音を立ててはしゃぎ始めた。 
「……勇儀さん」
「んー?」
「お酒下さい」
 この状況で一人冷静で居るのが馬鹿馬鹿しく思え、さとりはお猪口に注がれた酒を一気に呷った。


「キスメ、どうしたの? のぼせちゃったの?」
 桶ごと温泉に浸かって(沈んで)いるキスメは顔を真っ赤にしてボーッとしている様子だった。ヤマメは心配そうにその顔を覗き込む。
「大丈夫? もう上がって休んだ方が良いよ」
 ヤマメに促されキスメは湯船から上がり、フラフラと脱衣所の方に歩いて行く。それを見たパルスィは「妬ましい」と呟いた。ヤマメに心配してもらったのが妬ましいのか、先に上がったのが妬ましいのかは判らなかった。そのどちらでも無いのかもしれない。
 一方お空はそんな事はお構いなしに温泉から出たり入ったりを繰り返し、バシャバシャと大きな音を立てている。
「はっはっは、これがカラスの行水ってやつか!」
 酔っ払った鬼は杯を傾けながら大声で笑う。さとりは黙ったまま自分のお猪口に酒を注ぎ、キュッと呑み干す。
「ありゃ、キスメったら大事な桶を忘れて行っちゃったよ」
 ヤマメは湯船から桶を引き上げるとそれを湯船の直ぐ近くで洗い始める。その泡が飛び散り、さとりの顔に跳ねた。
 いつの間にやらこいしはパルスィの胸を揉みながら何やら唸っている様子だ。当のパルスィは胸を揉まれているのもお構いなしに何かブツブツと呟いている。声は聞き取れないが心の中で「妬ましい」と繰り返す声はさとりにはしっかりと聞こえた。
 何が妬ましいのかは良く判らないが、さとりはパルスィの「妬ましい」に意味を求めてはいけない様な気がしてそれ以上心を読むのを止めた。
 お空はと言うと今度は背中の羽をバタバタとさせて周囲に水滴を撒き散らしている。さとりの顔やお猪口の中に水滴が飛び散る。
「わぷ、やったねお空! ならばあたいの尻尾攻撃をかわせるかい?」
 お燐は二本の尻尾を巧みに動かし、お湯をバシャバシャ叩き飛沫を上げる。
「ふん、如何にお燐の尻尾と言えど私の黒き翼の羽ばたきには敵わないわ。私の中の八咫烏がもっと羽ばたけと囁いている!」
 お空とお燐の二人が暴れ、温泉に大きな波が立つ。お猪口を持つさとりの手がプルプルと震える。
 勇儀は酒臭い息を吐きながら豪快に笑い、パルスィは「妬ましい」と延々呟いている。さとりの手がブルブルと震え、そして、手の中のお猪口が砕け散った。
「……五月蠅い」
 さとりがボソッと呟くと、お空とお燐はビクッと体を震わせた。声こそ荒げていないがその呟きには強烈な圧力があった。お空とお燐は瞬時に主の怒りの度合いを察し大人しくなった。二人は下手に怒鳴られるより遥かに恐ろしい何かを感じた。
 普段とは違うさとりのプレッシャーにヤマメもその動きを止めて目を丸くしていた。勇儀とパルスィも面喰った様子でさとりの表情を窺っている。こいしの姿はいつの間にか消えていた。
「あー、空くん。あたい達もそろそろ上がろうかねぇ」
「そ、そーですね。お燐さん」
 二人は態とらしく棒読みで言葉を交わすとそそくさと湯船から上がってしまった。
「え、えーと、キスメ大丈夫かな~」
 ヤマメも桶を抱えてお空とお燐の後を追う。湯船にはさとり、勇儀、パルスィの三人だけが残された。
「おい、さとり。そうカッカすんなって。見ろ、皆怯えちまったじゃないか」
「妬ましい」
「あれだな、罰としてここの費用は全部さとり持ちな」
 反論のしようも無く、さとりは黙って頷いた。
 そんな二人の遣り取りを見てパルスィは何故か「妬ましい」と呟いた。支払いを任されたのが妬ましいのか、それを払える資産が有るのが妬ましいのかは判らなかった。
「しかし、怨霊も恐れ怯むってのは酒を呑むと怖いって意味なのかい?」
「ち、違います。うう、恥ずかしい……」
 そう言うとさとりは顔を半分くらいお湯に沈め、プクプクと息を吐き出している。
「まあいいや、私達も上がろうか。飯食おう、飯!」
「そ、そうですね」
 パルスィもコクリと頷き、さとり達は湯船から上がる事にした。


 さとり達が脱衣所に足を入れると「うにゅ~~!?」と言うお空の珍妙な叫び声が聞こえた。
「こら、お空。何を騒いでいるのです?」
「さとり様~」
 お空は一糸纏わぬ姿のまま涙目でさとりに縋り付く。カラスの濡れ羽色とは良く言った物で、お空の髪と羽は水分を含み美しく輝いている。その整った肢体も相俟って何処から見ても本当に美人である。黙ってさえいればだが。
「ちょっとお空、取り敢えず体を良く拭いて浴衣を着なさい」
 その場に居る全員はそれぞれ浴衣に着替え、そしてうにゅうにゅ騒いでいるお空を落ち着かせた。しかしお空を落ち着かせた所で要領の得ない答えが返ってくる事は明白なのでお燐に事情を聞く事にした。
「それがですね、さっき浴衣に着替えようとしたんですけど、籠の中に入れておいたお空の替えの下着が無くなってたみたいなんですよ」
「下着ってパンツ? 無くなったのはお空のだけかしら。他に無くなった人は居る?」
 さとりはその場に居る全員の顔を見回すが皆一様に首を横に振る。やはり無くなっているのはお空の物だけの様だ。
「それって、誰かに盗まれたって事?」
 ヤマメが不安そうに辺りを見回す。
「しかし、私達の他にお客さんは居ない筈です」
 もし誰かが盗みに入ったとしても狙うべきは脱衣所の着替えではなく、部屋に置いてある服や荷物だろう。犯人が変質者ならば話は別だが。
「じゃあ、宿の人間かい? と言っても宿の人間は年老いた女将一人だ。他に従業員も居ない。その女将にお空のパンツを盗む動機があるとは思えないが」
「だったら、あたい達の中に犯人が居るって事じゃあ……」
 お燐がそう呟くと、その場に居た全員はハッとなって一斉にお燐の顔を見つめる。
「え、何? あたい何かマズイ事言った?」
「おいお燐、お空のパンツを盗む奴なんてお前くらいしか居ないんじゃないか?」
「お燐、お空にパンツを返してあげなさい!」
「変態だーー!」
「お燐が私のパンツ盗ったの?」
 勇儀がお燐に詰め寄ると、さとりやヤマメもお燐に一斉に非難の声を浴びせる。
「ちょ、ちょっと! あたいじゃないってば! さとり様なら判るでしょう!?」
 さとりは無言でお燐を見つめている。第三の眼で心を読み、その真偽を計る。
「……ふむ、確かにお燐では無い様です。成る程。どうせ盗るんなら替えの方ではなく、お空が脱いだ方を盗ると」
「余計な所まで読まないで下さいよ!」
「ふん。瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず、だな」
「あたいがいつ疑われる様な事をしたって言うのさ!?」
 お燐は半泣き状態で勇儀に抗議している。
「あのー、さとりさんが皆の心を読めば犯人は自ずと判るのでは?」
 そう提案するヤマメにさとりは首を横に振った。
「濫りに皆さんの心を読む事はしたくありません。それに犯人の目星は付いています」
「だったら何でさっきあたいの事を……」
 言い掛けたお燐を無視し、さとりはキョロキョロと周囲を見回し「こいし!」と叫んだ。
「なぁに、お姉ちゃん」
 すると既に浴衣に着替えているこいしが姿を現す。全く気付いていなかったが恐らくずっと脱衣所内に居たのだろう。
「パンツを見せなさい」
「どうして?」
 誰にも気付かれずに温泉から上がり、そして脱衣所に入り下着を盗む事が出来るのは無意識を操れるこいししか居ない。さとりはそう考えた。
「いいから、パンツを見せなさい」
「いや」
「こいし!」
「いや!」
 犯人と思われているのが癪なのか、それとも本当に犯人なのかは判らないがこいしは断固拒否の姿勢を示した。
「埒が開かないわ。勇儀さん、こいしを押さえて下さい」
「う~ん、仕方ないか。悪いね、こいし」
 逃げようとしたこいしを勇儀が素早く羽交い締めにする。
「やだ! 離して!」
「こら、暴れるなって。直ぐに済むから」
「こいし、足を広げなさい!」
「嫌ぁ! やめて!」
 抵抗して暴れるこいしを強引に押さえ付けるさとりと勇儀。その様子を見てヤマメ達は冷や汗を掻きながら呟く。
「ね、ねぇ。この状況って他の人に見られたらヤバくない?」
「あたいの所為じゃないよ」
「こいし様が無意識で盗ったのかなぁ?」
「妬ましい」
 さとりは息を切らしながら何とかこいしのパンツを剥ぎ取る。こいしは勇儀に押さえ付けられたまま嗚咽を漏らしていた。
「はぁ、はぁ……全く手間を掛けさせて。お空、このパンツはお空のかしら?」
「う~ん、違います。私こんなパンツ持ってないです」
 デフォルメされた熊がプリントされた子供っぽいパンツを見てお空はそう答える。こいしは単に恥ずかしかったから拒否していただけなのかもしれない。
「うぅ、ひどいよ、お姉ちゃん。こんな無理矢理……」
「こ、こいし。ごめんなさい。お姉ちゃんてっきり貴方が犯人だとばかり」
 こいしは「お姉ちゃんのバカー!!」と泣き叫びながら脱衣所を飛び出して行ってしまった。
「こいし! こいしーー!!」
 さとりは生温かい妹のパンツを握り締め、慌ててその後を追う。
「……え~と」
 勇儀は頭をポリポリ掻きながらその場に残っている面々の顔を見る。お空は「私のパンツ~」とべそをかく。
「判ったよ! お空は最初から替えのパンツを持って来て無かったんだ!」
「うにゅ?」
 お燐の推理にお空は首を傾げる。
「きっとお空はパンツを持って来てないって事を忘れてるだけなのさ!」
「な、何言ってるのよお燐! 私はちゃんとパンツ持って来てこの籠に入れたよ! 確かにここに……あれ、パンツあった」
 お空は自分の籠の中に入っていた丸まったパンツを手に取る。
「それは温泉に入る前に脱いだやつでしょうが」
「あ、そうだ。だから新しいパンツを穿こうと思ったんだ! あれ、私の替えのパンツ何処?」
「だからそれを持って来るの忘れたんでしょ!?」
「う、う~ん。確かに持って来た筈なんだけどな……」
 お燐にそう言われて自信が無くなって来たのか、お空は混乱し始めてしまった。
「待ちなお燐。何故そんなに必死になってお空の所為にするんだい。やっぱり本当はお前さんが盗ったんじゃあないのか? お空の頭の悪さを利用した計画的な犯行って訳だ」
「な、何を言ってんですか勇儀さん。あたいはそんな事……」
 勇儀の鋭い眼光に射ぬかれ、お燐は思わず後ずさる。
「おいお空、お前さんのパンツはどんな柄だい?」
「え? えーと、青と白のしましま」
「そうかい。おいお燐、パンツを見せな」
「にゃ、にゃんで!?」
「動揺する所が怪しいわね」
「妬ましい」
 ヤマメとパルスィもお燐への疑いの目を強める。パルスィは注目を浴びているお燐を妬んでいるだけかもしれないが。
 勇儀は無理矢理お燐の浴衣を剥ぎ取り、そのまま強引に押し倒し両足を広げる。勇儀の目にはっきりと青と白の縞々模様が映る。
「やっぱりお前か! 私は嘘吐きが嫌いなんだ!」
「その上友達の所為にしようとするなんて、許せない!」
「妬ましい」
 勇儀、ヤマメ、パルスィの三人はお燐を取り囲み糾弾する。
「この変態猫め。覚悟は出来てるんだろうね?」
 指をポキポキ鳴らしながら迫る勇儀に圧倒され、お燐は上擦った声で必死に弁明する。
「こ、これは違う! お空なら判るでしょ!? それにさっきさとり様もあたいじゃないって……」
「言い訳なら地獄で閻魔様にするんだね」
「簀巻きにして温泉に放り込んでやるわ!」
「妬ましい」
「にゃ、にゃ゛ーーーー!!」
 脱衣所にお燐の断末魔が響く。そんな中お空はある事を思い出し「あ、そうだ」と手を叩いた。
「あのね、あのね」
「ちょっと待ちな。今この猫をヤマメの糸で簀巻きにするから」
「うんとね、私とお燐はお揃いのパンツを持ってるの。お燐とは良く一緒にお風呂入るからどっちがどっちのか判らなくなっちゃうのよね。それでね、さとり様が見分けつくようにって名前入れてくれたの」
「……あ?」
 勇儀は気を失ってぐったりしているお燐のパンツを脱がし、まじまじと観察する。そこには小さく“Rin”とローマ字で刺繍がされていた。
「…………」
 勇儀とヤマメは無言のままお互いの顔を見合わせる。
「ま、まぁ、事故だな、事故」
「そ、そうね。事故よ、事故」
「お燐じゃないなら私のパンツは何処に行っちゃったの?」
 勇儀は頭をポリポリ掻きながら少し考えた後、お空にビシッと人差し指を付き付ける。
「やっぱりお前さんが持って来てないって事忘れてるだけだろう!」
「そうよ! 全部お空ちゃんの勘違いだったのよ!」
「ち、違うわよ! 私ちゃんと持って来たわよ! 持って来た筈よ! きっと! 多分!」
 脱衣所内にピリピリとした空気が流れる。お燐はパンツを脱がされたままピクリとも動かず、キスメはまだのぼせているのかボーッとした表情でその様子を見つめている。
「だったら、全員のパンツ見りゃそれで判るだろ。もし全員無実だったらどうなるか判ってるんだろうね!?」
 勇儀の提案にお空は渋々頷く。お空は自分に非がある事を認めたくなかった。だが確かな記憶が無い以上従うしかない。
「てな事で申し訳ないんだけど、皆のパンツ見せてくれるかい?」
「まあ、構わないけど」
 ヤマメは仕方無いと言った表情で浴衣を少し捲くった。いつももっさりした服を着ている所為か妙に細く綺麗に見える。
「白、か。違うみたいだね。キスメは?」
 勇儀は桶の中でポカンとしたままのキスメに目を遣る。ヤマメはそんなキスメの頭にポンと手を置いた。
「ああ、この子はパンツ穿かないのよ。普段から着物だし」
「そういやそうだね。じゃあ次、パルスィ」
 パルスィは無言のまま浴衣を捲くり上げ、皆にパンツを見せる。
「く、黒の透け透け……」
「こ、これは何とも……」
「わあ、何かえっち……」
 勇儀、ヤマメ、お空の三人はまじまじとパルスィのパンツを観察しながら「妬ましい」呻いた。それを聞いたパルスィは何故か悔しそうに口元を歪めている。
「よっしゃ、次は私だね! こいつを見て驚け!」
 勇儀は勢い良く浴衣を捲くり上げる。
「ちょ、ちょっと勇儀さん! フリフリのレース付きとか止めて下さいよ! てっきり褌か何かだと思ってたのに!」
「いいだろ。萃香の友人から貰ったんだ。おいパルスィ、妬ましいって言いなよ」
 勇儀は自分のパンツをバシバシと叩きながらパルスィの顔を見る。だがパルスィは何も言わない。
「おい、いつもみたいに妬ましいって言えよ!」
 しかしパルスィは黙ったままプイと横を向いてしまった。
「こ、この野郎……」
「そ、そんな事より! これでお空ちゃんのド忘れだと言う事が証明されたわね!」
「違う! 絶対持って来た!」
「まだ言うか! 鳥頭だから三歩必忘したんだろうが!」
「貴方の所為でお燐ちゃんは……許せない! 簀巻きにしてやるわ!」
 ヤマメはオーバーアクションの良く判らない動きをし、前屈み気味に腰を落とした。足を広げているので浴衣が開きパンツが丸見えだが、お構いなしに変なポーズを決めている。
「判った! ヤマメが私のパンツすり替えて何処に隠したんだ! 誰も見てない所で糸を使ってさ!」
「何で私がそんな事しなきゃならないのよ!?」
「じゃあ勇儀だ! 酔っ払って取っちゃったんだ!」
「私がパンツ何か盗むか! それに私は嘘なんか吐かないよ!」
「じゃあパルスィだ! 私のパンツが可愛くて妬ましくて取ったんだ!」
「同じパンツならお燐ちゃんのでも良かったんじゃないの!? 可愛いのがいいなら勇儀さんのフリフリレースの方が可愛いし!」
「妬ましい」
「ほら! 妬ましいって言った! やっぱりパルスィだ!」
「おいパルスィ、今のは私のパンツに対してだよな? お空のパンツじゃないよな!?」
「もう! やっぱり私でもパルスィでも勇儀さんでもない! 犯人はお空ちゃん自身だよ!」
「絶対違う! 私の所為じゃないよ! 例え閻魔様が白だと言っても私の漆黒の翼で黒く染めて見せるわ!」
「お空ちゃん、黒は有罪だよ!? それ自分で罪認めちゃってるよ!?」
 延々と不毛な言い争いが続き、耐えかねたお空は脱衣籠の中から制御棒を取り出し右腕に装着した。それを勇儀達に向かって構える。
「おいおい、何でパンツは忘れてそれはちゃんと持って来てるんだ!?」
「私はパンツも忘れていない! 絶対誰かが持って行ったんだ! 私の所為にするなんてヒドイわよ!」
「ちょ、ちょっと! お空ちゃん落ち着いて! こんな所でそんなもの撃ったら……」
 しかしヤマメの声はお空の耳には届いていなかった。お空の右腕に究極のエネルギーが満ちて行く。
「こりゃマズイねぇ……」
「ああ! 勇儀さん、そう言えば!」
 一つ重大な事を思い出しヤマメは大きな声を上げた。 
「あん? 何だヤマメ。こんな時に」
「まださとりさんのパンツを確認していない!」
 ヤマメのその言葉に勇儀はハッとなる。
「もしかしたら、さとりさんが間違って穿いてしまったのかも」
「良い事に気付いたねヤマメ。だが、ちと気付くのが遅かったかな……」
 その時には既に、お空の右腕にはエネルギーが充分に満ちていた。その強大な力に周囲の大気がビリビリと震えている。
「チッ、仕方ないねぇ! その核とやらの火力と私の拳、どっちが強いか勝負だ!」
 勇儀は杯に酒を満たす。そして力強く一歩を踏み出すと大地が振動し、宿全体がミシミシと音を立てて揺れた。
「キ、キスメ! パルスィ! 逃げるのよ!」
「妬ましい」
 ヤマメ達が脱衣所から逃げ出そうと駆け出したその瞬間、お空の右腕から閃光が放たれ、辺り一面が熱と光に満ちた。そして勇儀の咆哮が木霊し、旧地獄の大地が大きく震えた。



 旧地獄を揺るがす大きな衝撃に小さな温泉宿は壊滅状態にあった。さとりは何とか瓦礫の下から這い上がり、周囲の様子を窺う。そして変わり果てたその光景に我が目を疑った。
「い、一体何が? そうだ、皆は……?」
 こいしも心配だが他の皆の安否も気に掛かった。さとりはヨロヨロと立ち上がり、脱衣所のあったと思しき場所を探す。
 かつて温泉があった場所は大きく陥没し、源泉が噴水の様に吹き出している。焼き尽くされたかの様な大地に倒れている妖怪達。正に死屍累々といった様相を呈していた。
 酒の満たされた杯を手に大の字の勇儀。頭から地面に突き刺さっているお空。何故か糸で縛られパンツを穿いていないお燐。瓦礫の下で「妬ましい……」と譫言を言っているパルスィ。
「どうしてこうなった……」 
 地面に突き刺さったまま微動だにしないお空と新手の緊縛プレイに興じていたと思しきお燐は無視し、一先ずダメージの少なそうなパルスィを起こすため瓦礫をどかす。
「パルスィ、しっかりして! ヤマメとキスメは!?」
 意識を取り戻したのか、パルスィは震える手でさとりの足元を指し示す。
 そこから「うう……」と言う呻き声が聞こえた。慌てて瓦礫を掻き分けるとそこにはポカンとしているキスメと、それを庇うように覆い被さるヤマメの姿があった。
「う、うう。さとりさん……」
「ヤマメ!? しっかりして! 一体何があったの!?」
 さとりはヤマメの傍らにしゃがみ込む。ヤマメの位置からはさとりのパンツが丸見えになる形になり、それを見たヤマメは目を見開いた。
「ピ、ピンクの水玉……」
「何? 良く聞こえないわ! しっかりしてヤマメ!」
 ヤマメはさとりがお空のパンツを間違って穿いてしまったのではないかと推察したが、それは間違いだった。
 そもそもさとりが脱衣所に入ったのはお空より後である。お空が「パンツが無い」と騒いだ後に着替えていたのだから間違える筈が無いのだ。やはり最初からお空の思い違いだったのだろうか。
 取り敢えずキスメが無事な事にヤマメは安堵する。心配そうに自分を見つめるキスメに笑顔を返す。そして薄れ行く意識の中でぼんやり思った。
 脱衣所に一番最初に入ったのは誰だったろうか。最初に着替えを終えていたのは誰だったろうか。答えを出す前にヤマメの思考はそこで途切れた。
 慌ててヤマメの体を揺さぶるさとり。それを余所にキスメはゆっくりと立ち上がり、穿いていたパンツを脱いだ。そしてそれをジッと見つめる。その青と白の縞々のパンツには小さく“Utsuho”と刺繍がされていた。
 キスメは考えた。確かに自分の籠の隣にはお空の籠があった。しかし何故自分はお空のパンツを穿いてしまったのだろうかと。
お空がキスメの籠にパンツを入れてしまったのか、キスメがお空の籠からパンツを取ってしまったのか、キスメ自身あの時はのぼせて意識が朦朧としていたので良く覚えていない。
 もしかしたら心の奥底でパンツを穿いてみたいと願っていたのだろうか。そして“無意識”の内にそれを行動に移してしまったのかもしれない。
 だが一つだけ判った事がある。股を締め付けられる感覚のこのパンツと言う物は自分には合わない。キスメが出した答えはただそれだけだった。
 
さとりんのパンツ食べたい
チャァ・アブノマル
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2270簡易評価
9.80名前がない程度の能力削除
なんだよこの話wwww
マジアホwwwwwwwwwww
10.100名前が無い程度の能力削除
カオス過ぎるww
11.100名前が無い程度の能力削除
後書きがさりげにはっちゃけてるのに、それが目立たない程のカオスだ。
16.100名前が無い程度の能力削除
どうしてこうなったww
19.100名前が無い程度の能力削除
パルスィが謎過ぎて和みました
32.100名前が無い程度の能力削除
後書き自重して下さいw
38.100名前が無い程度の能力削除
これはひどいwwwwwww
いいぞもっとやれwwww
41.100名前が無い程度の能力削除
展開のテンポが良くて面白かった。
45.100名前が無い程度の能力削除
何もかもがフリーダム過ぎるwww
46.100ずわいがに削除
ちょwwwwちょwww待ってくれwwww
SSでこんな、こんなに爆笑したのは久しぶりだwwwwwマジでwww腹痛ぇwwww
パルスィ良いキャラし過ぎだろ! 可愛いしエロいし面白いとか!
しかしこんな話何故思いつくwwww