何もない、あるわけない。冬の花畑は何にもない。
それなのにチルノの奴は何かを探すようにあっちをうろうろこっちをうろうろ。
今日はチルノが花畑に行きたいなんて言うから来てはみたものの、残念な事に花は咲いてなかった。
ま、分かってはいたけど、少しでも期待した私が馬鹿だった。
昨日まで降り続いた雪のおかげで、花畑は一面真っ白に染めあげられている。
言われなければなだらかな丘くらいにしか見えない。
「ねえ、チルノ、冬の花畑になんか来てどうするの?」
「さがしものよ」
「さがしものって何を?」
「んー、それはね……」
「あなた達ここで何してるのよ!」
突然の呼びかける声。その声の正体は風見幽香だった。そういえばこの花畑は彼女のものだと聞いたことがある。
「ごめんなさいね。この子がどうしてもここに来たいって言うから……用が済んだらすぐ帰るわ」
「まったく冬の花畑に来たいだなんて酔狂な事ね」
呆れた表情を見せる幽香。
チルノはずっと彼女の方を眺めていたが突然目が覚めたように怒鳴り出す。
「おまえが風見幽香かぁ! あたいと勝負しろ!」
「……は?」
チルノの言葉にお互い目が点になる。
「あたいと弾幕勝負しろって言ってるんだ!」
チルノったら突然何を言い出すのかと思えば……。
「ふーん? 私と勝負したいのね?」
不敵な笑みを浮かべる風見幽香。
私の記憶が確かならば、この妖怪はかなり強かったはず。チルノなんか相手になるはずがないのだけれど。
「さあ、さっさと勝負しろ!」
「ええ、いいわよ」
「まったくチルノったら命知らずもいいところね」
「あなたは止めないの? 冬の妖怪さん」
「別に。だって妖精は死ぬことはないし、それにこの子がやりたいって言ってるならやらしてあげたいもの」
ただし巻き添えだけは食らいたくないから遠くで傍観する事にする。
止める気なしの私を見て面倒そうにため息をつく彼女。
「はっはっはっは! 覚悟しろ!」
「……言っておくけど手加減はしないわよ? 私、力の加減が苦手だから」
「さあ、行くわよ! あたいさいきょー!」
チルノの氷の弾幕が彼女にむかって発射される。
「とりあえずこんなもんでいかがかしら?」
彼女は日傘から図太いレーザーをぶっ放す。どうやら本当に手加減するつもりないようだ。
その跡にはずだぼろになって地面に突っ伏しているチルノの姿があった。ともかくこれで事はすんだわけだし、連れて帰ることにしよう。と、その時だ。
「あ、あたいはこれくらいじゃ……おわらないわよ」
なんとチルノが立った!
「食らえ! アイシクルフォール!」
「ったく面倒ね! これでも食らいなさい!」
彼女の放った大玉が氷の刃をチルノごと巻き込む。
これで今度こそ勝負あり。
しかし、それでもチルノは立ち上がる。
一体何がしたいと言うのよ。
いくら妖精は死なないとは言え、あの子が何度も傷つく姿なんて見たくはない。
「あーもう、しつこいわよ!」
再び幽香の弾幕が彼女を直撃する。それでもチルノは立ち上がろうとした。
「チルノ! もうやめなさい」
なるべく干渉しないつもりでいたけど、思わず口を出してしまう。
「嫌よ! あたいは、ぜったいあいつを許さないんだから!」
立ち上がるがよろけて私にぶつかる。受け止めてあげると、チルノはぽろぽろと涙を流し始めた。
「もう、一体何があったのよ?」
涙をこらえながらチルノは私に答えてくれた。
「あいつはぁ! あたいの友達のリグルをいきなり吹っ飛ばしたんだっ! だから……あたいはっ、その仇討ちに来たの!」
そういう事だったのね。確かに彼女は弱いものいじめを好むという噂を聞いたことがある。どうやら噂は本当だったようだ。
彼女の友達が痛い目に遭うということは、チルノが悲しむ事。そんな事をする奴を許すわけにはいかない。
「……わかったわ、チルノ。力を貸してあげる」
チルノの小さな手を握ってやる。冬の妖怪である私なら氷精の彼女の力を増幅してあげる事が出来る。
更に今は冬の季節。元々チルノの力は強くなっているのだ。二人の力ならばあの妖怪も倒せるかもしれない。
「あら、あなたは手を出さないんじゃなかったの?」
「気が変わったのよ。どうしてもこの子があなたに勝ちたいって言うからね」
「ふん。まぁいいわ。実は一度あなたと戦ってみたかったのよね。くろまくさん」
「へぇ。それは意外だわ。じゃあこれで念願がかなったわけね。おめでとう」
「というわけでいくわよ!」
幽香は優越者的な笑みを浮かべながら傘をこちらに向ける。あのさっきのレーザーを放つつもりのようだ。
「正真正銘本家マスタースパークの威力! とくと味わいなさい!」
打ち放たれた光の束はさっきよりも更に大きい。
「リグルの仇だぁああああ!!」
チルノの放った弾幕は大きな大きな氷の塊だった。その塊は彼女のレーザーを弾き飛ばす。
そして驚きの表情を浮かべている彼女の前でじゅわりと音を立てて溶けてしまった。
彼女は全身水浸しになって呆然としている。そしてそれを見届けたチルノは気を失ってしまった。
えーと、これって……結局どっちの勝ちなのかしら。
・
・
・
・
「……まったく。それを早く言いなさいよ。無駄に戦っちゃったじゃないの。彼女に謝りなさい」
実は風見幽香はリグルをいじめたわけじゃなく、彼女を救おうとしたのだ。というのもリグルが妖怪捕獲用のトラップにはまりそうになった所を、偶然遭遇した彼女が体当たりして阻止したのだ。しかし、力が強すぎてリグルは近くの木に激突して怪我を負ってしまったというのが事の真相らしい。やれやれ、力の加減が出来ないっていうのも困り者ね。
ともかく誤解はこれで解けた事になる。チルノはどうやら納得していないようだけど。
その後、彼女の家でよく冷えたハーブティーを頂き、一緒に談笑をした。話してみると彼女もなかなか良い性格をしているというのがわかった。案外気が合うのかもしれない。これからも彼女とは交流がもてそうだ。チルノはどうやら納得していないようだけど。
そんな良く冷えた或る日のたわいもないお話。
それなのにチルノの奴は何かを探すようにあっちをうろうろこっちをうろうろ。
今日はチルノが花畑に行きたいなんて言うから来てはみたものの、残念な事に花は咲いてなかった。
ま、分かってはいたけど、少しでも期待した私が馬鹿だった。
昨日まで降り続いた雪のおかげで、花畑は一面真っ白に染めあげられている。
言われなければなだらかな丘くらいにしか見えない。
「ねえ、チルノ、冬の花畑になんか来てどうするの?」
「さがしものよ」
「さがしものって何を?」
「んー、それはね……」
「あなた達ここで何してるのよ!」
突然の呼びかける声。その声の正体は風見幽香だった。そういえばこの花畑は彼女のものだと聞いたことがある。
「ごめんなさいね。この子がどうしてもここに来たいって言うから……用が済んだらすぐ帰るわ」
「まったく冬の花畑に来たいだなんて酔狂な事ね」
呆れた表情を見せる幽香。
チルノはずっと彼女の方を眺めていたが突然目が覚めたように怒鳴り出す。
「おまえが風見幽香かぁ! あたいと勝負しろ!」
「……は?」
チルノの言葉にお互い目が点になる。
「あたいと弾幕勝負しろって言ってるんだ!」
チルノったら突然何を言い出すのかと思えば……。
「ふーん? 私と勝負したいのね?」
不敵な笑みを浮かべる風見幽香。
私の記憶が確かならば、この妖怪はかなり強かったはず。チルノなんか相手になるはずがないのだけれど。
「さあ、さっさと勝負しろ!」
「ええ、いいわよ」
「まったくチルノったら命知らずもいいところね」
「あなたは止めないの? 冬の妖怪さん」
「別に。だって妖精は死ぬことはないし、それにこの子がやりたいって言ってるならやらしてあげたいもの」
ただし巻き添えだけは食らいたくないから遠くで傍観する事にする。
止める気なしの私を見て面倒そうにため息をつく彼女。
「はっはっはっは! 覚悟しろ!」
「……言っておくけど手加減はしないわよ? 私、力の加減が苦手だから」
「さあ、行くわよ! あたいさいきょー!」
チルノの氷の弾幕が彼女にむかって発射される。
「とりあえずこんなもんでいかがかしら?」
彼女は日傘から図太いレーザーをぶっ放す。どうやら本当に手加減するつもりないようだ。
その跡にはずだぼろになって地面に突っ伏しているチルノの姿があった。ともかくこれで事はすんだわけだし、連れて帰ることにしよう。と、その時だ。
「あ、あたいはこれくらいじゃ……おわらないわよ」
なんとチルノが立った!
「食らえ! アイシクルフォール!」
「ったく面倒ね! これでも食らいなさい!」
彼女の放った大玉が氷の刃をチルノごと巻き込む。
これで今度こそ勝負あり。
しかし、それでもチルノは立ち上がる。
一体何がしたいと言うのよ。
いくら妖精は死なないとは言え、あの子が何度も傷つく姿なんて見たくはない。
「あーもう、しつこいわよ!」
再び幽香の弾幕が彼女を直撃する。それでもチルノは立ち上がろうとした。
「チルノ! もうやめなさい」
なるべく干渉しないつもりでいたけど、思わず口を出してしまう。
「嫌よ! あたいは、ぜったいあいつを許さないんだから!」
立ち上がるがよろけて私にぶつかる。受け止めてあげると、チルノはぽろぽろと涙を流し始めた。
「もう、一体何があったのよ?」
涙をこらえながらチルノは私に答えてくれた。
「あいつはぁ! あたいの友達のリグルをいきなり吹っ飛ばしたんだっ! だから……あたいはっ、その仇討ちに来たの!」
そういう事だったのね。確かに彼女は弱いものいじめを好むという噂を聞いたことがある。どうやら噂は本当だったようだ。
彼女の友達が痛い目に遭うということは、チルノが悲しむ事。そんな事をする奴を許すわけにはいかない。
「……わかったわ、チルノ。力を貸してあげる」
チルノの小さな手を握ってやる。冬の妖怪である私なら氷精の彼女の力を増幅してあげる事が出来る。
更に今は冬の季節。元々チルノの力は強くなっているのだ。二人の力ならばあの妖怪も倒せるかもしれない。
「あら、あなたは手を出さないんじゃなかったの?」
「気が変わったのよ。どうしてもこの子があなたに勝ちたいって言うからね」
「ふん。まぁいいわ。実は一度あなたと戦ってみたかったのよね。くろまくさん」
「へぇ。それは意外だわ。じゃあこれで念願がかなったわけね。おめでとう」
「というわけでいくわよ!」
幽香は優越者的な笑みを浮かべながら傘をこちらに向ける。あのさっきのレーザーを放つつもりのようだ。
「正真正銘本家マスタースパークの威力! とくと味わいなさい!」
打ち放たれた光の束はさっきよりも更に大きい。
「リグルの仇だぁああああ!!」
チルノの放った弾幕は大きな大きな氷の塊だった。その塊は彼女のレーザーを弾き飛ばす。
そして驚きの表情を浮かべている彼女の前でじゅわりと音を立てて溶けてしまった。
彼女は全身水浸しになって呆然としている。そしてそれを見届けたチルノは気を失ってしまった。
えーと、これって……結局どっちの勝ちなのかしら。
・
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「……まったく。それを早く言いなさいよ。無駄に戦っちゃったじゃないの。彼女に謝りなさい」
実は風見幽香はリグルをいじめたわけじゃなく、彼女を救おうとしたのだ。というのもリグルが妖怪捕獲用のトラップにはまりそうになった所を、偶然遭遇した彼女が体当たりして阻止したのだ。しかし、力が強すぎてリグルは近くの木に激突して怪我を負ってしまったというのが事の真相らしい。やれやれ、力の加減が出来ないっていうのも困り者ね。
ともかく誤解はこれで解けた事になる。チルノはどうやら納得していないようだけど。
その後、彼女の家でよく冷えたハーブティーを頂き、一緒に談笑をした。話してみると彼女もなかなか良い性格をしているというのがわかった。案外気が合うのかもしれない。これからも彼女とは交流がもてそうだ。チルノはどうやら納得していないようだけど。
そんな良く冷えた或る日のたわいもないお話。
ただ、少々落ちが弱かったかなと。