霊夢と萃香
「今日も一日平和だったわね」
私は秋の日が沈む、このわずかな時間の空気が好き。どことなく一肌恋しくて、もの 悲しい雰囲気。それが好き。
一人で縁側に腰掛けて、温かいお茶をすする。至福のひと時だわ。
最近は、ずっとこの時間帯から宴会ばっかり。今日もすぐにあの子が来て、長くは味わえないでしょうけど……
「おーい! れーいむぅ!」
ひときわ大きな明るい声が博霊神社の境内に響く。
涼しい風が吹き抜け始めたこの場には似つかわしくない陽気な声。
昨日もおとといも家にやってきてはお酒を飲んで帰っていく。
いつもの通りなら、この酔いどれ鬼がやってきて数分後には白黒魔女が現れる。たぶん人形遣いも一緒に。それから夜になって紫やレミィが従者を連れてやってくる。
騒がしくなって、妖怪や妖精たちが釣られて出てくる。
ホント………いつも通り。
いつからこれがいつも通りになったのか、なんて覚えてもいない。
いつだったかなぁ。
ふと私は淹れたばかりのお茶からたつ湯気を眺め考える。
………あぁ、この鬼が現れてからか。
「霊夢ぅ?」
不思議そうな顔をしながら覗き込んでくる鬼。ホント何も考えてなさそうね。
思わず萃香の頬をつつく。プニプ二していて柔らかい、お豆腐みたいね。
「ふわ!? なんだ? いきなり!」
「べつに? いつも通り宴会でも開きに来たの?」
「ん? 今日は違うぞ!」
「え?」
珍しいこともあったものね。そうとなればこんな時間に何をしにきたのやら。また地底がどうのこうの言いだすのかしら?
「それじゃあ何しに来たの?」
「霊夢に会いに来たんだ!」
「なっ!」
予想もしてなかった答えに思わずどぎまぎする。別にただ会いに来ただけ、そう会いに来ただけ。
「なんだ? 用事がないと来ちゃだめなのか?」
やっぱり何も考えてなさそうな表情。邪気が無いで無邪気……か。鬼のくせに。
「別にそんなことはないけど…」
「宴会は楽しい。けど、たまには霊夢を一人占めするのも悪くないと思ったんだ」
そう言った萃香は私の膝の上に座る。
「あ、コラ!」
「霊夢は温かいなぁ」
萃香が猫のように体を摺り寄せてくる。
温かい………
「もう……」
私はいつのまにか微笑んでいた。
「あなたもお茶飲む?」
「私はお酒だぁ!」
手に持った瓢箪を元気よく掲げる。
「ふふ、ほんと、よく飲むわねぇ」
そんなことを言いながら、この子が来てくれてよかったと、そう思った。
私は、秋の日が沈むこの時間が好き。完全に沈みきる、このわずかな時間が好き。
物寂しくて一肌恋しいこの時間。
きっと私は誰かとこうやって過ごすのが夢だったんだと思う。だから、この時間が好きだったんだ。
魔理沙とパチュリー
とくにすることもなく、本を読む。日の差し込まない薄暗い図書館の中で紅茶を啜りながら。
毎日のことだから、特に退屈もしていなかったし、それが退屈だとも思ったことはなかった。
「いっつも退屈そうだよなぁ、パチュリーは」
だから、私にはこういう言葉がでてくるのが正直理解できなかった。
「そうでもないわ。私にはこれが普通なの」
「ま、わたしも本が読み放題なんだ、文句はないゼ!」
それなら、そんなこと言わないでほしいわ。
突然の雨に打たれたから乾かしてほしい、と言って魔理沙がやってきたのが、ついさっき。仕方ないから咲夜に頼んで、魔理沙の服を任せた。今は、メイド服姿の魔理沙が目の前にいる。
乾かしてくれとやってきて退屈そうだ、なんて言われる筋合いはないのだけれど……
「文句こそないんだが、それじゃあ健康的じゃないんだゼ! というわけで、外に出てみようゼ!」
「……雨が降っているわ…」
「もう止んでるんだゼ」
そう言って窓の外を指さす。
確かに、窓からは柔らかな日差しが差し込んでいる。
「それでも、私は出たくないわ……」
出る必要性もないし、出たいとも思わなかった。だって、何かがあるわけでもないのだから。
「そんな野暮は言いっこなしなんだゼ! さぁさぁ!」
ギュッと彼女は私の手を掴む。いつもこの魔女はそうなんだ。突然やってきては私の本たちを持って行ってしまう。
「だから私はここで……」
「問答無用なんだゼ!」
「むきゅー……」
仕舞には私までも連れ出してしまう。そんな笑顔を向けられたら私には断ることなんてできない。きっとあの笑顔は魔法なんだと思う。だって、こんなにも胸がドキドキするんだもの。魔法をかけられた証拠だわ。
二人で手をつないで庭に出る。雨はしっかり止んでいる。ただの通り雨だったのね。庭の芝生に着いた水滴が日の光できらきらと眩しかった。
「…出ても何もないじゃない……」
当然だ、べつに異変があるわけでもないんだから。
彼女の手の温かさを感じてばつの悪い私は、わざとそっけない態度を取ってしまう。 別に、そうしたいわけでもないのに。
「うーん、たぶんあると思うんだけどな…」
とくに私の言葉に気を悪くしたような節のない彼女は、キョロキョロと空を見上げる。かと思うと、すぐに「あった!」、と声を上げて空を指差した。
私もその方向を見る。
「あ……」
「へへ、やっぱり出てると思ったんだゼ」
森の方に虹の橋がかかっていた。
「きれいね……」
「だろ? 家の中じゃこんなの拝めないんだゼ」
虹に負けないくらいの眩しい笑顔で魔理沙は二カッと笑う。
この魔女の魔法には叶わない。
私じゃ対抗できそうにない。
……それでいい。
「ふふ……」
なんだか楽しくなって思わず微笑む。
「あなたの側にいればこういう景色が見れるのね」
「お望みとあらば、もっといろんな景色だって見せてやれるんだゼ!」
「それは楽しみだわ」
「あぁ、期待してもらっていいんだゼ!」
彼女は自信ありげにまた笑う。
私は図書館の中での生活を退屈だとは思わない。だって、それが私の生活だと思っていたし、外の世界に興味もなかった。
けれど、彼女と一緒なら……魔理沙の魔法があれば部屋の外も悪くない。
だって、二人なら素敵なものが見られるんだもの。
「今日も一日平和だったわね」
私は秋の日が沈む、このわずかな時間の空気が好き。どことなく一肌恋しくて、もの 悲しい雰囲気。それが好き。
一人で縁側に腰掛けて、温かいお茶をすする。至福のひと時だわ。
最近は、ずっとこの時間帯から宴会ばっかり。今日もすぐにあの子が来て、長くは味わえないでしょうけど……
「おーい! れーいむぅ!」
ひときわ大きな明るい声が博霊神社の境内に響く。
涼しい風が吹き抜け始めたこの場には似つかわしくない陽気な声。
昨日もおとといも家にやってきてはお酒を飲んで帰っていく。
いつもの通りなら、この酔いどれ鬼がやってきて数分後には白黒魔女が現れる。たぶん人形遣いも一緒に。それから夜になって紫やレミィが従者を連れてやってくる。
騒がしくなって、妖怪や妖精たちが釣られて出てくる。
ホント………いつも通り。
いつからこれがいつも通りになったのか、なんて覚えてもいない。
いつだったかなぁ。
ふと私は淹れたばかりのお茶からたつ湯気を眺め考える。
………あぁ、この鬼が現れてからか。
「霊夢ぅ?」
不思議そうな顔をしながら覗き込んでくる鬼。ホント何も考えてなさそうね。
思わず萃香の頬をつつく。プニプ二していて柔らかい、お豆腐みたいね。
「ふわ!? なんだ? いきなり!」
「べつに? いつも通り宴会でも開きに来たの?」
「ん? 今日は違うぞ!」
「え?」
珍しいこともあったものね。そうとなればこんな時間に何をしにきたのやら。また地底がどうのこうの言いだすのかしら?
「それじゃあ何しに来たの?」
「霊夢に会いに来たんだ!」
「なっ!」
予想もしてなかった答えに思わずどぎまぎする。別にただ会いに来ただけ、そう会いに来ただけ。
「なんだ? 用事がないと来ちゃだめなのか?」
やっぱり何も考えてなさそうな表情。邪気が無いで無邪気……か。鬼のくせに。
「別にそんなことはないけど…」
「宴会は楽しい。けど、たまには霊夢を一人占めするのも悪くないと思ったんだ」
そう言った萃香は私の膝の上に座る。
「あ、コラ!」
「霊夢は温かいなぁ」
萃香が猫のように体を摺り寄せてくる。
温かい………
「もう……」
私はいつのまにか微笑んでいた。
「あなたもお茶飲む?」
「私はお酒だぁ!」
手に持った瓢箪を元気よく掲げる。
「ふふ、ほんと、よく飲むわねぇ」
そんなことを言いながら、この子が来てくれてよかったと、そう思った。
私は、秋の日が沈むこの時間が好き。完全に沈みきる、このわずかな時間が好き。
物寂しくて一肌恋しいこの時間。
きっと私は誰かとこうやって過ごすのが夢だったんだと思う。だから、この時間が好きだったんだ。
魔理沙とパチュリー
とくにすることもなく、本を読む。日の差し込まない薄暗い図書館の中で紅茶を啜りながら。
毎日のことだから、特に退屈もしていなかったし、それが退屈だとも思ったことはなかった。
「いっつも退屈そうだよなぁ、パチュリーは」
だから、私にはこういう言葉がでてくるのが正直理解できなかった。
「そうでもないわ。私にはこれが普通なの」
「ま、わたしも本が読み放題なんだ、文句はないゼ!」
それなら、そんなこと言わないでほしいわ。
突然の雨に打たれたから乾かしてほしい、と言って魔理沙がやってきたのが、ついさっき。仕方ないから咲夜に頼んで、魔理沙の服を任せた。今は、メイド服姿の魔理沙が目の前にいる。
乾かしてくれとやってきて退屈そうだ、なんて言われる筋合いはないのだけれど……
「文句こそないんだが、それじゃあ健康的じゃないんだゼ! というわけで、外に出てみようゼ!」
「……雨が降っているわ…」
「もう止んでるんだゼ」
そう言って窓の外を指さす。
確かに、窓からは柔らかな日差しが差し込んでいる。
「それでも、私は出たくないわ……」
出る必要性もないし、出たいとも思わなかった。だって、何かがあるわけでもないのだから。
「そんな野暮は言いっこなしなんだゼ! さぁさぁ!」
ギュッと彼女は私の手を掴む。いつもこの魔女はそうなんだ。突然やってきては私の本たちを持って行ってしまう。
「だから私はここで……」
「問答無用なんだゼ!」
「むきゅー……」
仕舞には私までも連れ出してしまう。そんな笑顔を向けられたら私には断ることなんてできない。きっとあの笑顔は魔法なんだと思う。だって、こんなにも胸がドキドキするんだもの。魔法をかけられた証拠だわ。
二人で手をつないで庭に出る。雨はしっかり止んでいる。ただの通り雨だったのね。庭の芝生に着いた水滴が日の光できらきらと眩しかった。
「…出ても何もないじゃない……」
当然だ、べつに異変があるわけでもないんだから。
彼女の手の温かさを感じてばつの悪い私は、わざとそっけない態度を取ってしまう。 別に、そうしたいわけでもないのに。
「うーん、たぶんあると思うんだけどな…」
とくに私の言葉に気を悪くしたような節のない彼女は、キョロキョロと空を見上げる。かと思うと、すぐに「あった!」、と声を上げて空を指差した。
私もその方向を見る。
「あ……」
「へへ、やっぱり出てると思ったんだゼ」
森の方に虹の橋がかかっていた。
「きれいね……」
「だろ? 家の中じゃこんなの拝めないんだゼ」
虹に負けないくらいの眩しい笑顔で魔理沙は二カッと笑う。
この魔女の魔法には叶わない。
私じゃ対抗できそうにない。
……それでいい。
「ふふ……」
なんだか楽しくなって思わず微笑む。
「あなたの側にいればこういう景色が見れるのね」
「お望みとあらば、もっといろんな景色だって見せてやれるんだゼ!」
「それは楽しみだわ」
「あぁ、期待してもらっていいんだゼ!」
彼女は自信ありげにまた笑う。
私は図書館の中での生活を退屈だとは思わない。だって、それが私の生活だと思っていたし、外の世界に興味もなかった。
けれど、彼女と一緒なら……魔理沙の魔法があれば部屋の外も悪くない。
だって、二人なら素敵なものが見られるんだもの。