―――私は村紗水蜜。種族は舟幽霊で常備しているものは柄杓とときどき錨。
私、村紗水蜜は水面(みなも)よりもちょっとだけ上にふよふよと一人で浮いていた。
目が覚めるとここに立っていたのであった。
周りは何もなくただ静寂と霧が空間を支配していただけであった。
周りは水だらけで、視界がきく範囲を見渡す限り水だらけだった。
しかし初めてみた光景というわけではなかった。
ここは私が聖と出会った場所であり、
私が短い人生を終えた場所。
ちなみに、今の私は錨を持っておらずあるのは、いつも弾幕ごっこに使用し、過去幾つもの舟を沈めてきた柄杓だけだった。
私は、何も考えずに水面の一部をその柄杓ですくって、柄杓を傾け小さな滝のように水を水面の上空から流してみた。
流れ落ちる水の中に、懐かしいものを見た。
聖との出会いの記憶だった。
両手両足の指を使っても数えきれないほどの舟を沈めていたころの私を聖は、ためらいもせずに純粋に優しく受け止めてくれたときの記憶。
海底で一人きりだった冷たい私の手を、聖の暖かい手が握ってくれた時の記憶だった。
流水が再び水面に混じりちゃぽんと音を立て、波紋を生んでしばらくして蒼い床を再び形成した。
「はぁい、そんな浮かない顔をしていると、主人が心配するんじゃない?」
何もない空間に亀裂が入り、かぱりと空間に裂け目ができた。
裂け目の端にはリボンが結んでありその裂け目から一人の紫色の服を着た金髪の女性が出てきた。
女性は体を前に乗り出させ、右手で頬杖をついて、左手で、私に手を振ってきた。
「あなたは誰ですか?」
「私は境界を操ることのできる妖怪、八雲紫。夢と現実の境界を弄って、霧の湖のほとりで昼寝をしていた貴女を発見したので暇つぶしに
貴女の夢を拝見させてもらったけど貴女だいぶ面白い過去を過ごしてきたみたいね」
目の前の人物の名前ぐらいは聞いたことはある。聖が春先封印から解かれて、挨拶に行った先の一人だったはず。
しかし、これがその八雲紫か。どう考えてもいい性格には思えない。人の夢の中を土足でずかずかと入ってくるのだから。
にしても、私が見ているこの光景は私自身が見ている夢だというのはとりあえず疑いはしない。
ここの景色を忘れることなんてないだろうから。
「まぁ、人とは変わった人生でしたからね。いやもう人生は終わってますが」
「ふふふ、そうね。その位の言い回しを言えないと幻想郷では生きていけないわ」
「とりあえず、ご退場願えますか。あまり人には見せたくない記憶しか持っていませんので」
私は声のトーン低くして、柄杓に水をすくい威嚇の体勢を構えた。
「あらあら、そうね。余りにも失礼だったわね。でも。その水を使っての戦闘は私としてはあまり気分がよくないわね」
私は首をかしげた。柄杓に次がれた水はただの水のはず。それを私の戦闘に使用して何が悪いのだろうか。
「貴女は気づいてないのかもしれないけれどもここは貴女の夢の中。そしてこの海はおそらくは貴女が持つ全ての記憶。それを投げつけるということは
過去を捨てるに等しい。ま、忘れたい過去ならば戦闘に使ってしまったほうがすっきりするでしょうけど。目が覚めたころにはその部分だけすっぽり忘れているわ」
私は、忘れたい過去という言葉に反応してしまった。
死んでからの記憶。日々日々舟を沈めることだけをしてきた無意味な時間。
沈んでいくものの悲鳴。苦しむ姿。
未だに脳裏にはっきりと焼き付いている。
正直言って忘れたい記憶。
だが、それを忘れてしまうということは、聖のあの暖かい手を忘れてしまうことなのだろう。
辛い過去からこの手に持っている柄杓のように苦しみの海の海底からすくい上げてくれたことを。
そんなのはいやだ。
私は柄杓の水を、そっと静かに海へと還した。
水は少しだけ水面に波紋を立てて、そして再び蒼い床になった。
「そう。貴女はうらやましいわね」
「どういうことですか」
八雲紫は、静かに微笑みこちらを見ていた。
私はその姿に不信感を覚えずにいられなかった。
「辛くて忘れたい過去の中にも忘れたくない思い出が存在するなんて羨ましいに決まっていますわ。
貴女はそれだけ強い思いを辛い過去の中に見つけていたのですもの。そんなの例外よ。人は辛い過去は忘れたがる生き物なのよ
しかし、貴女はそれを忘れたくないと意思表示した。つまりそれって貴女は辛い過去をも受け止めることができる強さがあるってことになるわ。
そんなの中々いないわよ」
「私は……強くなんかない……」
私は顔を下に俯けて、小さな声で呟いた。
人を沈めて、愉快に思い。そして一人で勝手に満足していた過去。
周りからは恐れなされ調子づきもう自分が一番だと思っていた時代を思い出す。
思い出したおかげで目尻からこみ上げてくるものがあるがそれを必死にこらえる。
ああ、なんて酷い顔だろう。泣きじゃくっていてとても綺麗とは言えない。
この床が澄み切った水面だったということが恨みたい。
「大丈夫よ、その涙をちゃんと受け取ってくれる人がいるもの。そろそろ夢は覚める頃ね。貴女主人は大事にしなさいよ?
私に式なんて自分の式にゾッコンで私のことなんか考えてくれないんだから」
それじゃと八雲紫は手を振り、空間にあけた裂け目を閉じどこかへ行ってしまった。
私は、しばらくその場で泣き続けていた。
―――――――
私は目が覚めると、目の前には氷精が湖の上で昼寝をしている姿が映っていた。
少し目を凝らすと霧の向こうにぼんやりと紅い館が見えた。
右手で右頬をつねる。痛い。
どうやら現実らしい。今の夢なんだろうけどあの妖怪のせいで現実にいたらしい。
全くなんって性格の悪い妖怪なんだろうか、どこかでばったり会ったら永久停泊を一発ぶち込んでやらないと気が済まない。
太陽は少し傾け出しており、少しだけ紅く焼けていた。
私は、そろそろ日が赤く焼けてくる頃だろうと思い、命蓮寺に戻ることにした。
月が昇るころには、帰れるだろうと思い、ふよふよと空を飛び帰路に就く。
「あれ?聖なんでここにいるのよ?」
「ああ、ちょっと妖怪の山へと偵察しに行ってたの。ところで村紗こそなんでこんなところにいるのよ」
私は、帰路に就く途中ばったりと髪がグラデーションなのが特徴の聖とあってしまったのであった。なんか今あったら泣きそうだがとりあえず私の面子を保つために今は我慢する。
「あー、あれよ。自分探しの旅」
「え?」
さすがにこれはなかったであろうか。うん、私だっていきなりこんなこと聞かれたらそういう答えを出すだろう。
でも、あながち間違ってはいないと思う。今ではいるのが日常である聖の存在。
しかしそれはとても大切なこと。
当たり前のことではない。それを最近当たり前だと思っていた自分を見つめなおせたものだと思う。
「まぁ、いいわ。ほら遅いと雲山の時代親父大目玉喰らっちゃうわよ、急ぎましょ」
「あ、うん」
あれは正直答えるものがあるから遠慮しておきたい。すっごく痛い。具体的に言うと箪笥の角に足の小指をぶつけた感じ。
そうなる前に私と聖は並んで命蓮寺へと少し急ぎ足。いや急ぎ飛行で向かっている。
太陽はいつの間にか紅く焼けており、幻想郷を綺麗に朱色に染め上げていた。
そこらを飛んでいたカラスも鳴いて、自分らの巣へと戻ってく。
「あのさぁ、聖」
私は真横の飛んでいる、聖へと声をかけそして目をちらりとだけ配り、再び目の前の紅く焼けている太陽に視線を戻した。
夕焼けに向かって飛んでいる、私の顔は紅く焼けており、私の白色のセーラー服はオレンジ色に染色されていた。
「何かしら?村紗」
聖はこちらに、顔を向けて笑顔のまま首をかしげた。
聖の顔もやっぱり紅く焼けていて夕日がカラフルな髪の色に反射して聖の髪は輝いていた。
「これからもずっと私のそばにいてね」
私の顔は夕焼けで紅く焼けていた。そうこれは夕焼けで焼けているだけだ。
聖は、ぽかんとした顔を一瞬作りそして次は微笑みを私にかけてきて
「ええ、ずっと一緒にいてあげるわ。私とあなたの付き合いじゃない。でもひいきはしないわよ。私にとって星たちもみんな家族なんだから」
聖は、こちらにウィンクをしてきた。私の顔はさらに紅く染まった。これも全ては夕焼けの影響だ。
「ったく、私だけの側にいてほしいのに」
どこぞの烏天狗に聞かれると3カ月は外に出れないから、その辺を気をつけて私は誰にも聞かれぬように呟いた。
「それとよそ見飛行していたら事故につながるわよ」
「大丈夫よ。周りは何もないんだかぐぼはぁ!!」
ほら、いわんこっちゃない。おかげでなんか黒い球体とぶつかった。
黒い球体はひゅーと地面へと向かって落ちていったが聖は頭の頂点を両手で押さえて涙目だけですんでいた。
「ふぅ、肉体強化してないと即死だったわ」
「聖はスぺランカー並みの体力だったのね」
私たちは談笑しながらゆったりと命蓮寺へと飛んでいった。
夕焼けもすっかり終わってしまい、夜の帳が空を覆い星が河のように綺麗に流れるように浮かんでいた。
私が聖と出会ったときもこんな夜だったことをふと思い出した。
あの日聖と出会っていなければ、私は今も海底に潜んでいただろう。
私は聖には感謝してもしきれないほどの恩がある。だから私はその恩を少しでも聖に協力して返したい。
私は今後も辛い未来があるかもしれないが聖がいるならば大丈夫。聖とならば希望を見いだせるはず。
だから、聖は明日からもずっと私の側にいてほしい。
私は村紗水蜜。種族は舟幽霊で常備しているものは柄杓(ひじり)とときどき錨(希望)。
私、村紗水蜜は水面(みなも)よりもちょっとだけ上にふよふよと一人で浮いていた。
目が覚めるとここに立っていたのであった。
周りは何もなくただ静寂と霧が空間を支配していただけであった。
周りは水だらけで、視界がきく範囲を見渡す限り水だらけだった。
しかし初めてみた光景というわけではなかった。
ここは私が聖と出会った場所であり、
私が短い人生を終えた場所。
ちなみに、今の私は錨を持っておらずあるのは、いつも弾幕ごっこに使用し、過去幾つもの舟を沈めてきた柄杓だけだった。
私は、何も考えずに水面の一部をその柄杓ですくって、柄杓を傾け小さな滝のように水を水面の上空から流してみた。
流れ落ちる水の中に、懐かしいものを見た。
聖との出会いの記憶だった。
両手両足の指を使っても数えきれないほどの舟を沈めていたころの私を聖は、ためらいもせずに純粋に優しく受け止めてくれたときの記憶。
海底で一人きりだった冷たい私の手を、聖の暖かい手が握ってくれた時の記憶だった。
流水が再び水面に混じりちゃぽんと音を立て、波紋を生んでしばらくして蒼い床を再び形成した。
「はぁい、そんな浮かない顔をしていると、主人が心配するんじゃない?」
何もない空間に亀裂が入り、かぱりと空間に裂け目ができた。
裂け目の端にはリボンが結んでありその裂け目から一人の紫色の服を着た金髪の女性が出てきた。
女性は体を前に乗り出させ、右手で頬杖をついて、左手で、私に手を振ってきた。
「あなたは誰ですか?」
「私は境界を操ることのできる妖怪、八雲紫。夢と現実の境界を弄って、霧の湖のほとりで昼寝をしていた貴女を発見したので暇つぶしに
貴女の夢を拝見させてもらったけど貴女だいぶ面白い過去を過ごしてきたみたいね」
目の前の人物の名前ぐらいは聞いたことはある。聖が春先封印から解かれて、挨拶に行った先の一人だったはず。
しかし、これがその八雲紫か。どう考えてもいい性格には思えない。人の夢の中を土足でずかずかと入ってくるのだから。
にしても、私が見ているこの光景は私自身が見ている夢だというのはとりあえず疑いはしない。
ここの景色を忘れることなんてないだろうから。
「まぁ、人とは変わった人生でしたからね。いやもう人生は終わってますが」
「ふふふ、そうね。その位の言い回しを言えないと幻想郷では生きていけないわ」
「とりあえず、ご退場願えますか。あまり人には見せたくない記憶しか持っていませんので」
私は声のトーン低くして、柄杓に水をすくい威嚇の体勢を構えた。
「あらあら、そうね。余りにも失礼だったわね。でも。その水を使っての戦闘は私としてはあまり気分がよくないわね」
私は首をかしげた。柄杓に次がれた水はただの水のはず。それを私の戦闘に使用して何が悪いのだろうか。
「貴女は気づいてないのかもしれないけれどもここは貴女の夢の中。そしてこの海はおそらくは貴女が持つ全ての記憶。それを投げつけるということは
過去を捨てるに等しい。ま、忘れたい過去ならば戦闘に使ってしまったほうがすっきりするでしょうけど。目が覚めたころにはその部分だけすっぽり忘れているわ」
私は、忘れたい過去という言葉に反応してしまった。
死んでからの記憶。日々日々舟を沈めることだけをしてきた無意味な時間。
沈んでいくものの悲鳴。苦しむ姿。
未だに脳裏にはっきりと焼き付いている。
正直言って忘れたい記憶。
だが、それを忘れてしまうということは、聖のあの暖かい手を忘れてしまうことなのだろう。
辛い過去からこの手に持っている柄杓のように苦しみの海の海底からすくい上げてくれたことを。
そんなのはいやだ。
私は柄杓の水を、そっと静かに海へと還した。
水は少しだけ水面に波紋を立てて、そして再び蒼い床になった。
「そう。貴女はうらやましいわね」
「どういうことですか」
八雲紫は、静かに微笑みこちらを見ていた。
私はその姿に不信感を覚えずにいられなかった。
「辛くて忘れたい過去の中にも忘れたくない思い出が存在するなんて羨ましいに決まっていますわ。
貴女はそれだけ強い思いを辛い過去の中に見つけていたのですもの。そんなの例外よ。人は辛い過去は忘れたがる生き物なのよ
しかし、貴女はそれを忘れたくないと意思表示した。つまりそれって貴女は辛い過去をも受け止めることができる強さがあるってことになるわ。
そんなの中々いないわよ」
「私は……強くなんかない……」
私は顔を下に俯けて、小さな声で呟いた。
人を沈めて、愉快に思い。そして一人で勝手に満足していた過去。
周りからは恐れなされ調子づきもう自分が一番だと思っていた時代を思い出す。
思い出したおかげで目尻からこみ上げてくるものがあるがそれを必死にこらえる。
ああ、なんて酷い顔だろう。泣きじゃくっていてとても綺麗とは言えない。
この床が澄み切った水面だったということが恨みたい。
「大丈夫よ、その涙をちゃんと受け取ってくれる人がいるもの。そろそろ夢は覚める頃ね。貴女主人は大事にしなさいよ?
私に式なんて自分の式にゾッコンで私のことなんか考えてくれないんだから」
それじゃと八雲紫は手を振り、空間にあけた裂け目を閉じどこかへ行ってしまった。
私は、しばらくその場で泣き続けていた。
―――――――
私は目が覚めると、目の前には氷精が湖の上で昼寝をしている姿が映っていた。
少し目を凝らすと霧の向こうにぼんやりと紅い館が見えた。
右手で右頬をつねる。痛い。
どうやら現実らしい。今の夢なんだろうけどあの妖怪のせいで現実にいたらしい。
全くなんって性格の悪い妖怪なんだろうか、どこかでばったり会ったら永久停泊を一発ぶち込んでやらないと気が済まない。
太陽は少し傾け出しており、少しだけ紅く焼けていた。
私は、そろそろ日が赤く焼けてくる頃だろうと思い、命蓮寺に戻ることにした。
月が昇るころには、帰れるだろうと思い、ふよふよと空を飛び帰路に就く。
「あれ?聖なんでここにいるのよ?」
「ああ、ちょっと妖怪の山へと偵察しに行ってたの。ところで村紗こそなんでこんなところにいるのよ」
私は、帰路に就く途中ばったりと髪がグラデーションなのが特徴の聖とあってしまったのであった。なんか今あったら泣きそうだがとりあえず私の面子を保つために今は我慢する。
「あー、あれよ。自分探しの旅」
「え?」
さすがにこれはなかったであろうか。うん、私だっていきなりこんなこと聞かれたらそういう答えを出すだろう。
でも、あながち間違ってはいないと思う。今ではいるのが日常である聖の存在。
しかしそれはとても大切なこと。
当たり前のことではない。それを最近当たり前だと思っていた自分を見つめなおせたものだと思う。
「まぁ、いいわ。ほら遅いと雲山の時代親父大目玉喰らっちゃうわよ、急ぎましょ」
「あ、うん」
あれは正直答えるものがあるから遠慮しておきたい。すっごく痛い。具体的に言うと箪笥の角に足の小指をぶつけた感じ。
そうなる前に私と聖は並んで命蓮寺へと少し急ぎ足。いや急ぎ飛行で向かっている。
太陽はいつの間にか紅く焼けており、幻想郷を綺麗に朱色に染め上げていた。
そこらを飛んでいたカラスも鳴いて、自分らの巣へと戻ってく。
「あのさぁ、聖」
私は真横の飛んでいる、聖へと声をかけそして目をちらりとだけ配り、再び目の前の紅く焼けている太陽に視線を戻した。
夕焼けに向かって飛んでいる、私の顔は紅く焼けており、私の白色のセーラー服はオレンジ色に染色されていた。
「何かしら?村紗」
聖はこちらに、顔を向けて笑顔のまま首をかしげた。
聖の顔もやっぱり紅く焼けていて夕日がカラフルな髪の色に反射して聖の髪は輝いていた。
「これからもずっと私のそばにいてね」
私の顔は夕焼けで紅く焼けていた。そうこれは夕焼けで焼けているだけだ。
聖は、ぽかんとした顔を一瞬作りそして次は微笑みを私にかけてきて
「ええ、ずっと一緒にいてあげるわ。私とあなたの付き合いじゃない。でもひいきはしないわよ。私にとって星たちもみんな家族なんだから」
聖は、こちらにウィンクをしてきた。私の顔はさらに紅く染まった。これも全ては夕焼けの影響だ。
「ったく、私だけの側にいてほしいのに」
どこぞの烏天狗に聞かれると3カ月は外に出れないから、その辺を気をつけて私は誰にも聞かれぬように呟いた。
「それとよそ見飛行していたら事故につながるわよ」
「大丈夫よ。周りは何もないんだかぐぼはぁ!!」
ほら、いわんこっちゃない。おかげでなんか黒い球体とぶつかった。
黒い球体はひゅーと地面へと向かって落ちていったが聖は頭の頂点を両手で押さえて涙目だけですんでいた。
「ふぅ、肉体強化してないと即死だったわ」
「聖はスぺランカー並みの体力だったのね」
私たちは談笑しながらゆったりと命蓮寺へと飛んでいった。
夕焼けもすっかり終わってしまい、夜の帳が空を覆い星が河のように綺麗に流れるように浮かんでいた。
私が聖と出会ったときもこんな夜だったことをふと思い出した。
あの日聖と出会っていなければ、私は今も海底に潜んでいただろう。
私は聖には感謝してもしきれないほどの恩がある。だから私はその恩を少しでも聖に協力して返したい。
私は今後も辛い未来があるかもしれないが聖がいるならば大丈夫。聖とならば希望を見いだせるはず。
だから、聖は明日からもずっと私の側にいてほしい。
私は村紗水蜜。種族は舟幽霊で常備しているものは柄杓(ひじり)とときどき錨(希望)。