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「美鈴! お年玉ちょーだい!」
「はいはい、今年も待ってましたよっと」
新年の早朝、毎日変わらず門前に立ち続ける美鈴と、
その美鈴に両手を差し出してお年玉をねだるチルノ。
「私にもー」
「はい、きちんと準備してますからねー」
「おっとしっだまー! おっとしっだまー!」
そしてチルノと美鈴の周りにはたくさんの妖精達、
美鈴は胸元から飴玉の詰まった袋を取り出すと、
微笑みながら妖精達の口へと一つ一つ落としていく。
「美鈴、私にも頂戴」
「はいはーい」
中には珍しい紅白の色をした妖精の姿も。
「って何やってるんですか霊夢さん」
「何って、お年玉貰いに来たのよ」
「……生活苦ですか?」
応対しながらも、飴玉を手早く落としていく美鈴、
段々と妖精の数は増えているにも関わらず飴玉は尽きる気配がない。
「とりあえず一個頂戴、あんたから貰えないと始まらないのよ」
「飴玉ですよ?」
「貰えたという事実が大事なの」
「はぁ……?」
美鈴は頭を捻りながらも、飴玉を一つ霊夢の口の中へと落とした、
続けてよしよしと頭を撫でる、霊夢の顔が少し赤くなった。
「ありがと、それとあけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくのないようお願いするわね」
「まったくです、よろしくなしでお願いしますね」
妖怪と巫女としての新年の挨拶である、
そして霊夢は口をもごもごさせながら、
美鈴に見送られつつ館内に消えていった。
「ねーねー美鈴」
「どうしたのチルノちゃん」
「霊夢が中に入っていったけどいいの?」
「あっ」
美鈴がチルノに遅れを取った瞬間である。
―――――
「んー、お餅にはやっぱり血醤油よねぇ」
「お嬢様、お茶でございます」
「……ふぅ」
紅魔館は平和であった、紅白の垂れ幕、大きな鏡餅、
和服を着込んだ主に、いつもと変わらぬメイド長。
「咲夜、私もずいぶんと日本にかぶれてしまったわね」
「お似合いですよ」
「ふふ……ま、こうして平和を謳歌するのも悪くないわね」
「レミリア! お年玉頂戴!」
「(さようなら平和……!)」
レミリアの赤い涙がぼたぼたとお茶を染めた。
「門番は何をやってたのよ」
「お年玉配ってたわよ」
「お年玉ねぇ……新年だから許してはあげるけど」
「というわけで私にも頂戴」
霊夢は微笑み、レミリアは苦笑い、
後ろでは咲夜がこっそり後ろ手にお年玉袋を用意していた。
「なんで私があなたにあげなきゃいけないのよ」
「あら、くれないの?」
「当たり前でしょ、むしろ私が貰う側でなくて?」
「美鈴はくれたのになー」
「あなたには美鈴から貰うのがお似合いよ、まぁ、どうしてもというなら……」
ふん、と鼻を鳴らすレミリアと、まだ口をもごもごさせている霊夢、
傍で見ていた咲夜は微妙に顔がにやついていた。
「つまりレミリアより美鈴の方が格上ってことね」
「うっ!? ど、どういうことよ!」
「お年玉は父から子、祖父から子などなど、言ってしまえば格上が格下に配るもの、
つまり私にお年玉をくれないあんたより、美鈴の方が格が上ってことよ!」
「な、なんだってーっ!!」
咲夜の口元はもう限界である。
「まあくれないならいいわ、あけましておめでとうさようなら」
「待ちなさい! 咲夜、お年玉袋を!」
「くふっ……はいお嬢様」
「今笑ってなかった?」
「何のことでしょうか」
袋を受け取ったレミリアはそこで動きを止めた、
なにやら小難しそうな表情を浮かべると、何か悩み始めたようだ。
「(お年玉……? 一体いくらいれればいいのかしら? 咲夜からのお小遣いは毎日一万円だし)」
見栄というものがある、誇りというものもある、ついでに立場もある、
レミリアは咲夜に財布を出させると、その中身を袋に詰めこんだ。
「はいお年玉」
「ありがとうお嬢様」
「あなたに言われると気色悪いわ」
「さて、中身はいくらかなー」
そして中を覗いた時、霊夢の顔が凍りつく。
「(こ……この厚みは十万!)」
途端、霊夢の顔がまるで菩薩のようになり、
レミリアを優しく抱きしめた。
「レミリア、今年も……ううん、末永くよろしくね」
「うひぃぃぃ」
「こぉの、ういやつめ、ういやつめー」
「やめてぇぇぇぇ……」
レミリアにとってはとても幸先が悪く、
咲夜にとってはとても目の保養になる新年の始まりであった。
―――――
「皆揃ったかしら?」
「はい、因幡一同、全員揃いまして御座います」
永遠亭、その大広間にて勢揃う因幡一行、
皆希望に輝かせた瞳で輝夜を見上げ崇めている。
「はーい、それじゃお年玉配るわよー」
『うさーっ!!』
輝夜の言葉を皮切りに、因幡達がずらりと並んで順番にお年玉を受け取っていく、
紐で束ねた人参五本、経済に縁の無い因幡達にとっては何よりのお年玉である。
「はいそこ列を乱さない! そこのウサビッチ! あなたは七十三番目!」
「え? なぜ私達は後ろかって? 徹夜で並ぶのは禁止だからよ」
「はいはーい、お年玉を貰ったらすぐに部屋からでていくウサー」
永琳や鈴仙、てゐなどは列を整理する側である、
てきぱきと因幡達を操作し、輝夜のサポートをこなす。
「はい、あなたで最後ね」
「ありがとうございますうさー!」
「私にもくださいうさー!」
「あ、ごめんなさい、もう一人居……」
「明けましておめでとうございますうさ」
そして何故か霊夢はそこにいた。
「えーと……」
「じー」
「(生活に困ってるのかしら、博麗の巫女は貧乏だって聞くし……)」
「じろじろじー」
「え、永琳、お年玉袋を」
「はい、今取ってきますね」
「ありがとう! さっすが姫様ね!」
頭の上に仮のうさ耳を装着した霊夢の顔が途端に明るくなる。
「うふふ、人間は全て私の孫のようなものよ」
「それは大きくでたわね、レミリアからも貰えたし、今年はいい一年になりそうだわ」
「待って、今誰から貰ったって言ったの?」
「え? レミリアだけど?」
レミリアの名を口に出した瞬間、そこに輝夜は食いついた。
「……幾ら貰ったの?」
「十万よ、さすがにあんなでかい屋敷構えてるだけあって太っ腹だったわ」
「そう、あの生意気なお子様が十万、よくぞそこまで見栄をはったものだわ」
「どうしたの? 顔が怖いけど」
「なんでもないわよ、おほほほ」
どことなく輝夜のレミリアに対する言葉に敵意が篭っている、
それも妹紅に対する情け含みではない、純粋な敵意である。
「お持ちしました」
「ありがとう、ちょっと待っててね、準備してくるから」
「うん、いつまでも待ってるから!」
「そんなにかからないわよ」
袋を持って出ていった輝夜が戻ってきたのは、
麩を閉じてからほんの数秒のことであった。
「はいお年玉」
「此度は私のような下衆な平民にお年玉という素晴らしき宝物を与えて下さり――」
「そこまでへりくだらなくていいから!」
「な、中身見ていい?」
「勿論よ」
袋を開けた途端、霊夢の顔が笑顔から驚愕へと変わる、
それはわかりやすく言うならば、レミリアの倍。
「輝夜おばあちゃーん!」
「うふふふふ、かわいい孫ねぇ」
それはとてもとても微笑ましい光景だったそうな。
―――――
「妖夢ー、お年玉よー」
「あの、幽々子様……私はもうそういうのを戴く年齢ではないのですが」
「いいじゃない、折角のお正月なのよ?」
「はあ」
白玉楼もお正月、幽々子はいつものようにのんびりとしながらも、
妖夢にこれでもかと言わんばかりにお年玉袋を押し付けていた。
「ですがすでにお給金に加え、十分すぎる程の賞与を年に四回もいただいておりますし……」
「これは仕事とは関係ないの、私個人から妖夢への贈り物なのよ?」
「年中無休のはずなのに、残業手当も休日出勤手当も何故かいただいておりますし……」
「普段から頑張ってるんだからそのぐらい当然よ、さぁ受け取って」
「すでに貯金が蔵に収まりきらないのですが……」
「あら」
蔵が満杯、それは妖夢の必殺の切り返しであった。
「じゃあ蔵もお年玉につけておくわね」
しかしすでに死んでいる相手には意味がなかったようだ。
「何が蔵だよ! 節制しろクラァァァァ!!」
『霊夢ーっ!?』
そして唐突に現れる博麗の巫女、
その怒りの両手によって幽々子の両頬は餅のように引っ張り伸ばされる。
「わかってんの!? お金で幸せは買えないって言葉は本当の貧乏を知らない人の言葉だってことを!」
「ふぇー、ふぁ、ふぁふふぇふぇふぉーふー」
「私も幽々子様はもう少し節制すべきだと思います」
「ふぉんふぁー!」
すでに幽々子の頬は限界であった。
「まあいいわ、恵まれない博麗の巫女にお年玉よこしなさい」
「あ、それなら私のあげますよ、いりませんし」
「本当!?」
「妖夢っ!? あなたは私の気持ちを裏切ると言うの!?」
「幽々子様のお気持ちはいただきすぎて放出しないともたないんですよ」
「いいのね!? 本当に貰うわよ!!」
「どうせなら蔵ごと持ってって欲しいんですけど」
「……さすがの私でもそれは引くわ」
妖夢が親指で指した先には普通の蔵よりもさらに大きな蔵があった、
貯金箱と達筆で大きく書かれてあるそれにお金が詰まってると思うと何か怖い。
「ねえ妖夢」
「何です?」
「このお年玉袋……立つんだけど」
「そんなの大したことないですよ、私のお給与なんか横幅より高さの方が上ですから」
「お金で幸せは買えないって言葉はなぁ!!」
「それはさっき聞きました!」
「じゃああけましておめでとう!」
「今年も宜しく!」
―――――
「早苗―、本当にお年玉いらないのかい?」
「ですからいりません、それは神社の修繕費に当ててください」
妖怪の山の守矢の神社、現人神と神二柱にも平和な正月は訪れていた。
「まったくもう早苗ったら、私達に遠慮しなくてもいいのに」
「手間の掛からない良い子に育ったよね……」
勤勉に境内の掃除を始める早苗の後ろ姿を見て、神奈子も諏訪子も涙ぐむ。
「私達がしっかりしてれば今頃早苗は幸せな生活を……」
「神奈子、それは言っちゃ駄目だよ、早苗の覚悟を踏みにじることになる」
「そうね……今の私達がすべきなのは前を向くことよね」
「その通り! って、客が来たみたいだよ」
「客?」
二人の視界に飛び込んできたのは紅白、正月だからめでたいはずなのだが、
神奈子と諏訪子からすれば明らかにめでたくない相手である。
「神奈子様、何か霊夢さんが用事があるそうです」
「正月早々元気な子だね、で、何の用?」
神奈子は一度座り直してじっと霊夢を見つめる、
対する霊夢は一切物怖じせず両手を差し出した。
「お年玉頂戴!」
「……は?」
「霊夢さん、常識って言葉知ってますか?」
諏訪子にいたっては反応すらできていなかった。
「知ってるわよ、常の知識と書いて常識でしょ?」
「そうじゃなくて! 一体どこの世界に他所の神社の神様にお年玉要求する巫女が居るんですか!」
「あんたこそ何を言ってるの、幻想郷では常識に囚われてはいけないのよ!」
「はっ! そ、そうでした!」
「早苗! そんな無茶苦茶な理論に説得されちゃ駄目!」
「早苗ってさー、昔から通販とかに弱かったよねー」
「諏訪子! あんたは現実逃避しないの!」
それから神と巫女による風祝への必死の説得が繰り広げられ、
結果、その戦いに勝利したのは神であった。
「いいですか! 常識に囚われないと言うのは常識外れということではなく!
固定概念を打ち破るということなんです! だから私はあなたとは違うんです!」
「くっ……反論できない」
「私は自分を客観的に見ることができるんです! イエスマイ風祝!」
「早苗ってさ、昔から偉い人の影響を受けやすい子だったよね」
「だからあなたは早く現実に戻ってきなさい」
こうして霊夢のお年玉を貰う計画は初めての失敗となると思われた。
「ああなんてこと、紅魔館の主や永遠亭の姫、白玉楼のお嬢様からはいただけたというのに!」
「むっ!!」
しかし霊夢が大げさ身振りしながら言い放ったその言葉に、
神奈子が反応しないわけがなかった。
「はぁ、山の神様っていってもしょぼいのね、悪魔や蓬莱人、亡霊にも遅れをとるなんて」
「くっ……くのっ……」
「神奈子様落ち着いてください! これは孔明の罠です!」
「覚えておきなさい早苗! 罠なんてのは真正面から破壊するものよ!」
「あら、じゃあ頂戴」
「……持ってけ貧乏巫女!」
霊夢の差し出した両手に叩きつけられるお年玉袋、
早苗へ、と丁寧に書かれている一文がどことなく切ない。
「あ、忘れてたわ」
「何? まだ何かあるの?」
「あけおめことよろ!」
「せめて略さずに言いなさい!」
―――――
夕暮れ時、博麗神社の鳥居下には、幻想郷中のカリスマが集っていた。
「ふふ……お年玉を渡してはいおしまい、なんてこの紅い悪魔が許さないわ」
「せめてお酒の一杯ぐらい貰わないと、因幡達に申し訳がたたないものね」
「妖夢、あなたのお年玉の仇はきっと取るわ!」
「今回の件にかこつけて分社を大きくさせる手もあるわねぇ」
それぞれが復讐の思いを胸に、足並みを揃えて前に進む。
「しっかし、閑散としてるわね、参拝客いないのかしら?」
「これなら永琳達も連れてくればよかったわね」
「食べ物の匂いがしないわ」
「お、賽銭箱の所に霊夢がいたわよ……って、あれは何をやってるのよ」
四人の視線の先には、ニタニタと笑みを浮かべながら賽銭箱を覗き込む霊夢、
時折胸元から何かを取り出しては、それを賽銭箱に入れているようだ。
「あれは……お年玉袋?」
「一枚一枚取り出して中に入れてるみたいね」
「……まさか、あれでお賽銭とか言うつもりじゃないかしら?」
「いやいや、さすがに博麗の巫女でもそんなことは……ねぇ」
四人はそーっと後ろから近づいて霊夢の様子をみる、
どうやら霊夢は行為に夢中のせいか、気づく気配はない。
「えへ、えへへ……お賽銭、一杯だもん……博麗神社は、さびれてないもん……えへへ、えへっ」
『(ずびばぜんでじたっ!)』
全カリスマが泣いた。
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霊夢、僅かだがお賽銭をあげよう つ⑩
つ1億ジンバブエドル
つ一萬円
す、少ないですが…
つ ミ⑩
|賽銭箱|
つ⑩
>お小遣いは毎日一万円
さすがお嬢様!!!
こういうのもかわいいなぁ。
つ⑤
でも、あげる。
つ⑤×9枚
つ⑩
つ⑤
つ千円
つ⑤
(T_T)つ⑩
つ[500円]
つ⑤
つ⑤
今年も頑張れ霊夢!
頑張れよ…
つ ミ[1兆フラン]
|賽銭箱|
|賽銭箱|
でも妖夢って給料なしだった気が…
つ ミ⑤
コトミ吹いたwww
つ⑤
つ[1000円]
つ⑩
つ[ペリカ]
ちゃんと日本で流通してるお金ですよ?ごく一部でですが(テーレッテー
|賽銭箱|
ごめんなさいね霊夢さん、これが私の全財産です……。
つ ミ⑩
さて、それじゃあ俺は永遠亭に行って来るウサ
つ⑩
なぜならこの涙は霊夢のために流れているのだ!
これでパンでも買ってくれ…
例えば托鉢僧
つ壱万円
なんだかんだでお年玉あげちゃう皆優しい