(世によまれたるみそひと文字の多かるもわけて幻想郷に膾炙せしを選集しはべり)
(すなはち百の場面織り合はせ一の世界成さんとする試み也)
(文法・語法のまめまめしさより歌意・語感そしてノリをば重視するもの也)
(人妖各々のあらわるる頻度および扱ひに格差あるも選者の趣味なれば致し方なし)
壱
「秋畑の 恵みの芋の 香を聞かせ 汝(な)が紅に 気配添へつる」
(解釈)
へえ……今年の紅葉も、なかなか綺麗に仕上がってるじゃない。
でも、私だって負けちゃいないんだから!
あなたの「色」と私の「香り」、このふたつが揃ってこその「秋」だってことを忘れないでね!
弐
「冬すぎで 雪続けらし我編みし 襟巻よそほへ しろかねの君」
(解釈)
まだまだ雪は止みそうもないってのに、そんな薄着で異変を解決しに行くつもりなの?
しょうがないわね、私が直々に編んだこのマフラーを持って行きなさい。
……何よその顔、いや別に暇つぶしで作っただけの何の変哲もないマフラーだよああもうニヤニヤするな早く行けっ!
参
「うばたまの 夜雀の歌 八ツ目屋の あなかましき夜 みなでたのしむ」
(解釈)
さーびしいー人はー、ららら、おいーでなさいー。
わーたしーの、屋台にー、るるる、おいーでなさいー。
食べてー歌ってー、うふふ、たーのしいよー。
肆
「霧の浦に うち出でてみれば 氷精の 砕くかはづに 腹の膨れつ」
(解釈)
今日は天気がいいので、なんとなく霧の濃い湖まで遊びに行ってみた。
そしたら、なんと……私の可愛い眷属たちを、次々と凍らせては粉砕するバカがいた!
……んもー、怒りのあまり腹が膨れるような思いがしたよ(蛙の神だけに)。
伍
「奥山に 椛押しのけ 来る巫女の 弾避くときぞ 憂さぞ晴れゆく」
(解釈)
あややや……哨戒の下っぱ白狼にゃ、あいつの相手は荷が重過ぎたようね。
まあ、これはこれで面白い事態だわ。
平和的な記者生活にもそろそろ飽きていたところだし……せいぜい、いい汗を流しに行きますかっ!
陸
「地の底の 渡せる橋に おく恨み ねたしと見れば まなこ緑(りょく)に染む」
(解釈)
この橋を楽しげに素通りしていく奴らが妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
漆
「尼のこす 古寺見れど かひもなく いかさま山を 出づる時とも」
(解釈)
ほほう。
かつて地底に封じられた者たちが、こうもゾロゾロ帰ってくるとはね。
……なあご主人様、我々もそろそろ覚悟を決めるべきじゃないのかい?
捌
「汝が庵は 噂のたつ地 しのびすむ たけ藪ありと 人はいふなり」
(解釈)
とぼけないでください、阿礼乙女の眼は誤魔化せません。
あなたのように「猛き」者が、わざわざ侘しい「竹」薮の中に隠れ住んでいるなんて……
やはりあなたは、伝説の忍者に違いありません!
玖
「花の色も 移ることなく いたづらに 我が鎌につく 魂(たま)失せまじに」
(解釈)
ああもう、六十年に一度の事とは言え……面倒くさくてしょうがないねぇ!
あたいの掲げる死神の鎌を目指して、大量の幽霊が絶えず押し寄せてきやがる。
うううう、こうも働きづめだと……流石に疲れ……ふわあ……眠……い……
壱拾
「東風谷の子 行かば帰らず 別れては ことを知れるは 御柱のみ」
(解釈)
あの神社の娘が行方不明になったのは、もはや一昔も前のこと。
当時あれほど騒ぎ立てていたマスコミも、それに踊った俗世間も、今や事件のことなどすっかり忘れてしまった。
謎多き失踪の真相は……無人の境内に取り残された巨柱だけが、知っている。
※注
妖怪の山の「異変」から数年ほど経った頃に、『外』の新聞が大量に流れ込んできた。
そのどれもが、「消えた風祝」について大きく紙面を割いていた。
恐らくは、それらの記事を下敷きとして詠まれた一首だと思われる。
壱拾壱
「おこたるか 八十時(やそとき)経れど 漕き出でずと 忠に勤めよ 三途行く舟」
(解釈)
たかが魂ひとつ運ぶのに、どうして何時間もかかってしまうのでしょうねえ?
おっと言い訳は無用、今日という今日は許しません!
そもそも死神として望ましい勤務態度とはくどくどくどくど……
壱拾弐
「尼頭巾 雲の拳や 吹き荒れよ 老翁(おやぢ)のまなこ 怒り光らむ」
(解釈)
いやはや、あの拳を見て逃げ出さない人間がおったとは……。
だが、勝負はこれから!
最終奥義の眼光フラッシュで、ここは絶対に死守する!
壱拾参
「特だねの 記事より成れる 我が新聞 読まで積みなば 化けて舞ひ散る」
(解釈)
はははは、だから言ったでしょう?
無視され続けた新聞の恨みは、何よりも恐ろしいのです。
これに懲りたら、今後……他誌はどうあれ、我が文々。新聞だけはしっかりじっくり読むように!
壱拾肆
「致死毒を 仕立つ鈴蘭 何ゆゑに 乱れ咲くにや 人なきものに」
(解釈)
この畑の鈴蘭は、何のために咲いているのかって?
そんなの決まってるじゃない!
猛毒を抽出して、人間どもを倒す武器にするのよ!
壱拾伍
「明日がため 暗き森入りて 猪口(いくち)摘む わが八卦炉は 夢宿る筒」
(解釈)
魔力の素を補給するため、森のキノコを摘みまくる。
さあて、お次はどんな「魔法」……いやさ「魔砲」をブチあげてやろうかね。
そのアイデアを考えるだけで、ワクワクが止まらないんだぜ!
壱拾陸
「逃げ別れ いなばの殿(との)の まはり覆ふ たけとし聞けど ただ隠れ居る」
(解釈)
地上の兎ばかりが住む「竹」林。
その中に建つ屋敷は、月の民である私にとって本来「他家」でしかないのでしょうね。
けれど私たちには、最早ここで暮らしていく以外に道はないわけで……
壱拾漆
「門やぶる 白黒止めず 立つたまま 朝昼晩に 高いびきとは」
(解釈)
あなたが鼠の侵入を許したのは、これで何回目だと思う?
……通算、341回よ。
もし次も奴を通したなら、その時は……分かってるわね、門番?
壱拾捌
「住みわびて 我と戯(ざ)る姉 去る後は ひがしかよひ路 魔道に暗む」
(解釈)
この屋敷には、お姉様たちと一緒に遊んだ楽しい思い出が染み付いている。
……離れられるもんか、忘れられるもんか。
だから私は東を目指す、たとえ禁忌に手を染めようとも……
壱拾玖
「時はまだ 短かき秋の つかの間も 舞ひて落つる葉 よく残るとや」
(解釈)
冬が来る?
何言ってるのよ、この木にもあの木にも、まだ少しだけ葉っぱが残っているじゃないの。
あれが全て落ちるまで……秋は終わらないんだから!
弐拾壱
「海(わた)荒れて 今まだ切れじ 未練なれ みをつくしなど 有らむとぞおもふ」
(解釈)
いくら舟を沈めたところで、この呪われた海から抜け出すことはできない。
「我が身の成仏」が適わない以上、このまま人間どもの「澪標」を失わせ続けるだけだ。
……はあ、なんて虚しい日々なんだろう。
弐拾壱
「今来むと いひしばかりに まばゆきの まことなる月 隠しつるかな」
(解釈)
え、ちょ、待ってください師匠!
月を隠すって……マジで?
ああ……今すぐお迎えが来る!なんて言ったばかりに、面倒なことになっちゃったなあ……
弐拾弐
「書くからに なべて人妖 しをるれば むべ我が名をば 射命といふべし」
(解釈)
しょせんブン屋の安筆だと、なめてもらっちゃ困ります。
新聞が世間に与える影響力は、あなたの社会的生命すら左右するんですよ?
それこそ、私の名字が語ってるように……ね!
弐拾参
「月見れば 不死の物こそ 悲しけれ わが身ひとつに 飽くとはあらねど」
(解釈)
天蓋孤独の日々には、もう慣れた。
それでもなお、月を見るたびに後悔が押し寄せてくる。
……私はどうして、あんな薬を飲んでしまったのだろう。
弐拾肆
「この足袋も 幣(ぬさ)もとりあはず 百合の山 椛もみもみ 神とむにむに」
(解釈)
風祝スタイルのまま過ごしていても、いちいち「それなんてコスプレ?」とか聞かれない!
それどころか、かわいい天狗や神様たちともイチャイチャし放題!
私、常識にとらわれずに『外』から引っ越してきて……本当に良かった!
弐拾伍
「名にし負はば 洩矢の山の 御社宮神 末の代まで あらぶれるかな」
(解釈)
まあ、なんだ……つまるところ「蛙の子は蛙」ってことよね。
だいたい、大和に歯向かっていたころのあんただって、それはそれはヤンチャで……
……あ、こらやめろ、痛い痛い、なによ本当のことでしょうがっ!
弐拾陸
「湖の すだまのむすめ 呼ぶ名あらば 今ひときはの 聞こえあるらむ」
(解釈)
聞いて聞いて、人気急上昇まちがいなしのカッコいい名前を考えてあげたよ!
あんたは今日から『グレート最強ハイパー大ちゃん』だ!
……えっ、「ふざけんな絶対いやだー!」って……なんでさ?
弐拾漆
「身勝ちにて わきまへ知らぬ むつみ様(ざま) しづかの時ぞ 恋しかるらむ」
(解釈)
どうして私の神社には、こうも自分勝手で横柄な妖怪ばかり寄って来るのかしら?
どいつもこいつも、事あるごとに勝手に宴会開いて騒ぎ始めるし……あーウザい!
まったく、ひとり静かにお茶を楽しむ時間が欲しいわ。
弐拾捌
「人里は 冬ぞ楽しさ まさりける 人目も草も 白に閉ざさば」
(解釈)
……今年も私の季節がやってきたわ。
さあ、もっともっと雪よ降れ、空気よ冷たくなれ。
これまでぬくぬくと暮らしてきた人間どもに、冬の恐怖を教えてやるのよ!
弐拾玖
「心なしに 斬らばや斬らん 枯れ桜 嬢まどはせる 白玉の庭」
(解釈)
我が主はこの桜に惹かれ、主のご友人はこの桜を憎む。
その理由を、私はまだ知らないけど……いつの日か、無心の剣をもって必ず断ってみせますよ。
私の未熟さも、あなたがたの哀しみも。
参拾
「或る春に つれなく散りし 桜より すき腹ばかり 憂きものはなし」
(解釈)
おなかすいたー。
ねえ、おなかがすいたわー。
稽古なんてどーでもいいから、早くお八つ買ってきてー。
参拾壱
「朝までに まことの月を 隠すため 飛び跳ね回る ふるき白兎(はくと)よ」
(解釈)
ずいぶん長生きしてきたけど、こんなに血がたぎるのは久しぶりだねえ。
さてさて我が手下の兎たち、永遠亭の興廃この一戦にあり……だよ!
これからおいでになる客人たちに、おいしい弾幕をたっぷり馳走してやりなっ!
参拾弐
「山川の すみか追われし あやかしは 流れ流れて 惹かれ来るなり」
(解釈)
あらあら、そんなに畏まらなくても結構よ?
この地を管理する者として、あなたの来訪を心から歓迎いたしますわ。
それでは改めて……ようこそ、忘れられし者たちの楽園へ。
参拾参
「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 弾の降るらむ」
(解釈)
あははははー!
春ですよー!
最ッ高にハイな春を告げに来ましたよー!
参拾肆
「誰もかも やすらけくせむ 飛倉と 鉢に昔の 弟(おと)の意を継ぎ」
(解釈)
弟の遺した力を、私はずっと私利私欲のためだけに使っていた。
けれど……今は違う。
一切衆生の済度のため、いざ立ち上がらん!
参拾伍
「母はいさ 心も知らず ふるさとに 阿呆毛昔の まま誇るらし」
(解釈)
魔界に封じられていたという高僧に、向こうの様子をそれとなく聞いてみた。
すると「あそこの神様って、とってもたくましいのね」などという答えが。
……あの髪型みっともないからやめてくれって、何度言えば分かるのよ!
参拾陸
「夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 里のいづこに 我宿るべき」
(解釈)
謎の地震で神社が倒壊してから、早や3日。
夜も明けたことだし、そろそろ犯人探しに出かけなきゃ。
もし今日も見つからなかったら……さあ、次はどこにご飯をたかってやろうかしら?
参拾漆
「白露の 風に吹き散る 朝の野に つらつらとどむ 暇ぞ惜しける」
(解釈)
忙しいブン屋の朝、休んでる暇なんてないのです。
草露を吹き散らす疾風に乗って、いざ出陣!
今日もまた、特ダネ求めて駆けまわります!
参拾捌
「忘らるる 身とは思へど 誓ひてし 月の守りの かたくもあるかな」
(解釈)
私たち姉妹にとって、あの賢者と過ごした日々は何にも換えがたいものだ。
それは、彼女が自ら蒼き星の囚人となった後も、変わってはいない。
……あなたがいつでもお帰りになれるよう、この地は永久に守り続けて参ります。
参拾玖
「あさつきの にがみ三ツ目の しのぶれど あまる身などと いとふこいしよ」
(解釈)
ただ「心が読める」という理由だけで、私たちは皆に疎まれる。
この「目」に満ちる苦々しさは、あなたの嫌いなネギを丸かじりする以上に辛いものよね。
でも、どうかお願い……自分のことを、そんなに嫌わないで。
肆拾
「忍ぶらず 音に出でにけり わが躁は 物や思ふを 人のやむまで」
(解釈)
ノーミュージック、ノーライフ!
自重なんて言葉は、私の辞書にゃ載ってないっ!
ライヴに来てくれたみんな、今宵は嫌なことぜーんぶ忘れてエキサイト!だよ!
肆拾壱
「二色蝶 汝が名はまだき 立ちにけり その背(せな)見れば 家のうたてき」
(解釈)
あの赤白巫女は、幼くして次々と妖怪を退治しているという。
……同年齢の女子である私としては、あいつのことがうらやましくてしかたがない。
こんなカビ臭い道具屋に引きこもりっきりなんて、私の性にゃ合わないんだよなあ……
肆拾弐
「契りきな かたみの寺を まぼりきて 末にはあひて 寅のおらぶる」
(解釈)
何があろうと、あなたが戻る時まで、ずっと寺を守り続ける。
その誓いを……ぐすっ……私はやっと、果たすことができました。
だからせめて……あなたに逢えた今夜だけは……ううう……泣かせて下さい……
肆拾参
「ごりあての 後の心に なずらひて 昔は何か 思はざりしか」
(解釈)
ひえー、でっかい人形だったなあ……って、あれ?
あたい、もともと何を探していたんだっけ?
うーん、なんか人形なんかずっとヤバいものだったような気がするけど……思い出せない……
肆拾肆
「逢ふことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも ねたみざらまし」
(解釈)
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
肆拾伍
「哀れとは いふべきならず 思ひ知れ 我がいたづらを 恐るべきかな」
(解釈)
うらめしやー!
さあどうよ、今度という今度こそ驚……いて、いない?
……いやだから、そんなに哀れみのこもった目であちきを見ないでくだしゃんせ。
肆拾陸
「しりえの門 渡る盗人 つい捕らへ ゆくへ広がる 夢の中かな」
(解釈)
私の後ろにそびえる門は、誰であろうと通れない!
今日も不埒な白黒鼠をサクッと捕まえて、館のみんなから大絶賛されたわ。
いやあ、門番としての我が前途は洋々であるなあ……って、ぜんぶシエスタ中の夢の話なんですけどね。
肆拾漆
「八雲婆 眠れる後の さびしきに 猫すら見えず あいなきかぎり」
(解釈)
私の主は現在、冬眠中である。
いつも私を悩ます無茶な命令も、横暴な小言も、今は聞こえてこない。
かわいい黒猫もどこかへ遊びに行ったまま帰らず、平和ながらも寂しい今日この頃。
肆拾捌
「糸に踊り 弾うつのみの おのれの身 はじけて物を 言……」
(解釈)
ご主人様によって創り出された私が、ご主人様の命令に服従するのは当然のことだ。
だが、体に埋め込まれた爆薬に火が付く前に、これだけは言っておきたい。
「今まで大事に使ってくれて、本当に……」
※注
焼け焦げたような跡が紙面の一部にあり、下の句は解読不能。
肆拾玖
「地の底で からすたく火の 夜はもえ 昼もかかやき 熱き湯のわく」
(解釈)
エネルギー黎明、万歳!
核融合、最高!
この業界では、温泉は最高のご褒美です。
伍拾
「君がため 惜しからざりし 時間さへ 長くもがなと とめ伸ばすかな」
(解釈)
お嬢様のためなら、私の時間など惜しくはありません。
けど、できることならいつまでも一緒にいたい!
……その矛盾を解決するためにこそ、私の「能力」はあるのですよ。
伍拾壱
「かくとだに うまき伊吹の 葫蘆(ころ)の酒 三度あおれば ゑふる思ひぞ」
(解釈)
その瓢箪から湧く酒……久しぶりに呑んだけど、懐かしくも深い味わいが堪えられないねぇ!
まだ三杯目なのに、私ゃもう気持ちが良くてしかたないよ。
……さあみんなもっと呑め呑め、我が友の帰還を全力で祝え!
伍拾弐
「明けぬれば 暮るることなど しるものか なほ身にまとふ 黒き闇かな」
(解釈)
あー、真っ昼間から闇にまぎれて飛ぶのは気持ちいいなー。
……え、別に理由なんてないよ?
ただ、そうしたいからそうしてるだけ。
伍拾参
「なげきつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかにねたしき ものとかはしる」
(解釈)
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ま……さびしい。
伍拾肆
「忘れじの ゆくすえなどは かたければ 今日限りとて 筆をとるなり」
(解釈)
人間とは、実に忘れっぽい生き物です。
ゆえに、我ら稗田は「記録」を残し続ける必要があるのですよ。
例え今日で命が尽きるとしても……絶対、ペンだけは手放しません。
伍拾伍
「滝の音は たえずどうめき鳴りぬれば 駒うつ音の なほ聞こえざる」
(解釈)
無尽蔵の水量を誇る九天の滝は、毎日どうどうと轟音を響かせている。
だから大将棋の盤に駒を打ち付けても、小気味いい音なんて全然聞こえやしない。
……なんとも劣悪な労働環境だけど、ここが私の持ち場だからしかたないね。
伍拾陸
「あらがはむ この世みくだす 月人に いまひとたびの 返りごとかな」
(解釈)
千年前は不覚をとったけど……いや、不覚をとったからこそ、か。
今回の計画は、完全に成し遂げてみせる。
さあ、始めるわよ……美しき幻想の戦い、第二次月面戦争を。
伍拾漆
「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 霧がくれにし ぬえのまことは」
(解釈)
うひひ、人間って奴ぁ実に愚かだよね!
私のことをじっくり観察することもできず、正体をあれこれ想像しては勝手に脅えている。
いったいどんな絵姿が後世に残るのか、今から楽しみで仕方がないよ!
伍拾捌
「土の下 あける縦穴 風吹けば 痛ぞる桶の 当たりやはする」
(解釈)
地底へ通じる穴から、じめじめと気色悪い風が吹き上がってくる。
ここを探検するつもりなら、「桶」には十分注意することだ。
もし、あれが脳天に直撃したら……思わず身がのけ反るほど、痛いぞ?
伍拾玖
「やすらひて 書を読むものを さ夜ふけて 紅染むる 月を見しかな」
(解釈)
夜行性の生き物なんかに付き合ってると……貴重にして静謐なる読書の時間が、どんどん奪われて困る。
まあいいわ、来たからにはせいぜい私の知識を有効活用してもらおうじゃない。
……で、今宵はどんな悪だくみを思いついたの?
陸拾
「大江山 いつわり多き 世となれば ただ踏みころす 甲斐もおぼえず」
(解釈)
まさか人間たちが、ここまで卑怯な手段に訴えるとは……
あんな奴ら、もはや「萃」の力を使って潰す価値もないよ!
ああ……鬼と人の関係は、これからどうなってしまうのだろう?
陸拾壱
「いにしへの 京の都の 八ツ脚は けふここにあり やまひぬるかな」
(解釈)
かつて地上の都でブイブイいわせてた私も、今じゃしがない地底妖怪。
ま、ここの都も楽しいところだし、それほど気にしているわけじゃないんだけどね。
それはさておき、お前さん……ここを通るってんなら、熱病に苦しむ覚悟はできてるんだろうね?
陸拾弐
「夜をとめて 蟲のなくねの まどふとぞ よも逢うたなら 無視はゆるさじ」
(解釈)
なかなか夜が明けないせいで、みんないつまで鳴き続ければいいのか分からず、戸惑っている。
それだけでも困るってのに……おい、そこの二人組!
いくら私が蟲の妖怪だからって、そのままスルーなんて許さないんだからねっ!
陸拾参
「いまはただ ねたみ疲れむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな」
(解釈)
「おーい、橋姫やーい! どこ行ったー!」
「まったくあいつと来たら、いつまでいじけているつもり……おっ、いたいた、姐さんこっちにいるよー!」
「でかした土蜘蛛! ……さあ、今日も迎えに来たぞ。いざや旧都で宴会だ!」
陸拾肆
「ねじだらけ かつぱ河城 姿すら 隠して消ゆる 玉の機巧(からくり)」
(解釈)
えーと、ここをこうして、こうやって……
よーしできた!
今回の発明品「光学迷彩」は、かなりの自信作だよ!
陸拾伍
「うらみわび にくむ思ひの 絶えざるに 恋にくるへる 名こそをしけれ」
(解釈)
あの地位も名誉もある貴人が、全てをかなぐり捨てて迫ってくる姿には……正直、ゾッとしたわ。
そして今……その娘であるあなたもまた、執拗に私を狙う。
美人であるってことは、くくくく……それだけで立派な罪よねえ本当に困っちゃうあははははははは!
陸拾陸
「もろともに あはれと思へ 史をつづる 我すら語る 言の葉もなし」
(解釈)
永遠に互いを憎みあう、二人の少女。
その心の内を理解できる者など、誰もおるまい。
里一番の歴史家などと持ち上げられている私でも、あの凄惨な殺し合いを目にしては……沈黙するしかないのだよ。
陸拾漆
「春の夜の 夢ばかりなる 宝船 かひなくさぐる そのものぐささ」
(解釈)
えー、これって金銀財宝がいっぱいの宝船じゃなかったの!
……がっくし。
一応、何の船なのか調査しないといけないけど……ぶっちゃけダルいなあ。
陸拾捌
「心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 月の姫かな」
(解釈)
確かにムカつくけど、それ以上に素敵な奴だよあんたは。
だって……こうして、私の苦しみの全てを受け止めてくれるんだもの!
燃やす、折る、砕く、抉る、引きちぎる……さあ、今夜はどんな死に方がお望みかしら?
陸拾玖
「弦をひく おとなしき音 おとなへば 虹めく川の 錦なりけり」
(解釈)
騒霊楽団の長姉は、その名に違って実に落ち着いた性格だ。
そして彼女が奏でるヴァイオリンの音もまた、聴く者に静かな陶酔をもたらす。
三者三様のハーモニーを引き締め、完成させる役目を担っているのが彼女なのである。
漆拾
「かましさに やしろ立ち出でて ながむれば いづくもおなじ うたげあけくれ」
(解釈)
博麗神社の宴会に招かれたものの……新参者の私は、正直、皆のテンションについていけない。
そこで早めに席を辞し、何気なしに辺りを巡ってみたのだが……ああ!
なんてこった、ここには酔っ払いしか存在しないのかよっ!
漆拾壱
「夕されば 月よりいなば おとづれて 隙(すけき)閉づべく ふみをば託す」
(解釈)
あら、久しぶりの脱走兎ね。
……ちょうどいい、これを利用しない手はないわ。
気色悪いスキマめ、あの姉妹が彼の地にある限りは……何を企もうと無駄無駄無駄!
漆拾弐
「音に聞く あおき珠すむ 八意は かけこむ身にも ぬるきことなし」
(解釈)
幸運にも、私は名高き賢者様に会うことができた。
だが匿ってほしいと頼む私に、賢者様は微笑みながら首を横に振った。
ああ……私の本心など、「月の頭脳」の前ではまるっとお見通しなのね。
漆拾参
「高空の をとめのさくら さきにけり とやもかくやも たたずにいられず」
(解釈)
えっ、どこぞの妖怪どもが派手な喧嘩をおっ始めたって?
そいつぁ見逃す手はねぇぜ、仕事なんかやってられるかってんだ!
……はあ、いつ見ても満開の花みたいに綺麗だよな……弾幕って奴はよ!
漆拾肆
「降り来たる 人よおごれる 火からすの はげしかるをぞ しずめぬものと」
(解釈)
はるか地上から来てくれた、バカみたいに強いお姉さん!
もう、あんただけが頼りなんだ!
どうか、あいつを……あたいの大事な友達を、止めてやっておくれ……
漆拾伍
「千々におりし いやしき霜に いたはりて あはれ今年の 秋もいぬめり」
(解釈)
……お姉ちゃん、冬だね。
……ああ、冬だよ。
……………………………………………………………………………………。
漆拾陸
「わたつきに 扱(こ)き出でさるも 久しきを 透き間にまがひ わき立つ白波」
(解釈)
一度はあの姉妹にコテンパンにされて放り出されたってのに……懲りないのねぇ。
でもまあ、あの子の頼みでは断れないわ。
……たまには、月世界の泥棒旅行も楽しいかしらね。
漆拾漆
「世はかなみ 終(つひ)に塞(せ)きかぬる あだ神よ われ有る山に あはむとぞ望む」
(解釈)
そうですか、今まで大変な御苦労があったのですな。
……ええ、ええ、「外」がいかに世知辛い場であるかは、私もよく存じておりますれば。
我ら天狗の一党、謹んであなたをお迎えいたしまする。
漆拾捌
「悪しとされ 流るる雛の 手向けとて 幾夜まわりぬ 山の厄守」
(解釈)
またひとつ、厄払いのヒトガタが流されてきた。
そこに溜め込まれた厄を引き受け、私は回り続ける。
くるくる、くるくる、今日も明日もひとりきり。
漆拾玖
「夏風に たなびく雲の たえ間より ふる要石と 剣のあやなさ」
(解釈)
やあやあ元気かしら地上に這いつくばる下層民ども!
あなたたちは幸運にも、天人様の暇つぶしに付き合える権利を獲得したのよ喜びなさい!
さあさあバラバラに引き裂かれたくなかったら、せいぜい抵抗してみなさいな!
捌拾
「うさからむ しるしも知らず 黒雲の みだれてけふも ものをこそ思へ」
(解釈)
……やれやれ、総領娘様には本当に困ったものです。
皆からウザがられている空気はすでに濃厚なれど、あの方はそれを読むことができないでいる。
今日もまた、悠然と雲の中を泳いでいる場合ではないようで……ふう。
捌拾壱
「夜雀の 鳴きつる方を ながむれば かかやくはずの 月ぞ薄れる」
(解釈)
だから言わんこっちゃない。
あの「ちんちん」って声を聴いたら、すぐに逃げなきゃいけないんだ。
……高かっただろ、八ツ目鰻の串。
捌拾弐
「思ひわび さても野槌を 飼ふものを えさの足りぬは なま苦しけり」
(解釈)
退治するのが可哀想だからって、ついつい引き取ってしまったわけだが……
まったく、こいつの食欲には驚くばかりだぜ。
あーあ……今月の食費、どうやって工面しよう……
捌拾参
「世の中の 広きを知らず とぢこもり やかた奥には 誰もなくなる」
(解釈)
あら、もうおしまい?
つまんないなあ。
どうして、私の遊び相手はすぐに「いなくなるのか?」
捌拾肆
「そら浮けば また男子(をのこ)らや うつむきぬ ちらと見やるは 絶対領域」
(解釈)
弾幕勝負で最も重要なこと?
そんなの、決まってるじゃない。
スカートの中身を覗かれても動じぬ精神力! ……でしょ?
捌拾伍
「かもすなら 壷あけぬまま 明け待てば 鬼の舌さへ よろこばすなり」
(解釈)
酒虫を捕まえたら……へっへっへっへっ……
壷に閉じ込めるとエキスが染み出て……こうやって一晩待って……
うまいっ! (てーれってれー)
捌拾陸
「歩きこけて 月(るな)やは 管(くだ)を拾ひたる 駆けつ逃げたる かの友らかな」
(解釈)
私は確か……転びながらも一生懸命、宝探しをしていて……
「蛍光灯」という謎のアイテムを拾って、恐ろしい妖怪に遭って、それから……それから……
あーやっと思い出したどうして私のことを置いて逃げちゃうのよふたりともっ!
捌拾漆
「霧雨の 店(たな)に学びぬ 町方の もの知り分ける あきなひの道」
(解釈)
厳しい修行により開花した商才と、天から与えられた素晴らしい「能力」!
その両方をあわせ持つ僕が開いた店なら、押すな押すなの大繁盛は間違いのないところだ。
……ああ、場所ならもう決めているよ、あの森の入り口の……
捌拾捌
「矢に数と 山と積みても ひと夜にて 読みつくしては 棚あさるのみ」
(解釈)
この図書館の主は、読書スピードが異常に早い。
ついさっきも、オーダーに応えて大量の本を運んだばかりだけど……
きっと、翌朝にはまた別の本を頼まれるんだろうなあ……
捌拾玖
「玉の緒なぞ たえなばたえね ながらふとも あいなきならば 弱きもの死ね」
(解釈)
弱さとはすなわち罪だって、知らなかったのかしら?
敗者に生きる価値なんてゼロだけど……そうねえ、せめて向日葵の養分にしてあげようかしら。
さ、負け犬は負け犬らしく、おとなしくしていなさい。
玖拾
「見せばやな 鳥居の下の 石だにも 主(ぬし)とぞ示す 星のまたたき」
(解釈)
あーおかしい!
この隕石に刻まれた模様を見れば、神社が祀るモノの正体は明白だわ。
そのことにみんなが気づいた時こそ……星の天下が来るのよ!
玖拾壱
「まりあり砲 撃つや永夜の 然(さ)る信義 心かはして ふたり手を添ふ」
(解釈)
「くっ、なかなか手こずらせてくれるじゃないか……こうなったら、アレで一気にケリをつけるしかない!」
「あら、珍しく意見が合うじゃない。でも……都会派の魔力、あなたに扱い切れるかしら?」
「上等っ! さあ食らえ、これが私たちの全力全開だっ!」
玖拾弐
「わが杖は すずろにさぐる 宝塔の 人こそしらね 休む間もなし」
(解釈)
どこに消えたか分からぬ宝塔を、他の誰にも知られぬように捜索しろと?
しかも、飛倉のかけら探しを兼任したままで?
……あーちゃんと引き受けるから頭を上げて、あーあー泣くな泣くな頑張って探すからさあ……
玖拾参
「尾の中は 常にもふもふ ぽつかぽか らんさまだいすき だれよりもあいしてる」
(解釈)
見てくださいよこれ私の式が私のために歌を詠んでくれたんですよ。
いえいえいえ字余りなんてたいした問題ではありませんからデバッグは無用です。
だって字以上に私への愛が有り余っているじゃないですかマジ最高うぎぎぎ愛しき式よ私もお前のことが大好(以下スキマの彼方)
玖拾肆
「みのほどを 知らぬ朱鷺ふぜい 書を読みて 居るを襲はば 衣裂くなり」
(解釈)
鳥妖怪ごときが一丁前に本なんか読んで、しかも私に攻撃まで……
くそー腹立たしいわ!
とにかく、この破れた服をきれいに直さなきゃ今すぐ!
玖拾伍
「おほけなく うき世のいのち 思ふなら わが逝く先に 墨染の花」
(解釈)
もし、こうすることで私の罪が贖えるのなら。
もし、この忌まわしい「能力」をもって、多くの命を救えるなら。
……恐れる必要など、どこにも無い。
玖拾陸
「乱る世の しるしの凶(まが)つ 神ならで まばゆきものは わが身なりけり」
(解釈)
あの魔法使いに乗せられて、さっきから全力でピカピカ光っているわけだけど……
ここにいても、巫女が悔しがってる様子なんて全然見えないんだよなあ……
はあ寒い……いつまでこうしていればいいのかしら?
玖拾漆
「こぬ友を 待つヒロシゲの プラットホーム 謎や不思議に 恋焦がれつつ」
※注
幻想郷に存在しない語彙が用いられているため、解釈不能。
付け加えるなら、この一首が書き付けられた紙片もまた、材質不明のものである。
今後の研究に期待したい。
玖拾捌
「風鳴るも せせらぐ川も 幽玄の すべてぞ我の しらべとなりける」
(解釈)
ほら、耳を澄ませてごらんよ。
聞こえようが聞こえまいが、とにかくこの世には色んな音が満ちているの。
そんな幻の音をいかに拾い、いかに演奏するか……私の腕の見せどころ!
玖拾玖
「人をしまず あやかしうらむ こともなく 身の軽(かろ)きゆゑに ものげなき世ぞ」
(解釈)
何よあんた、また来たの?
……ええ、どうせ私はヒマですよ。
はいはい分かった分かった、お茶ぐらい淹れてあげるから上がって行きなさいな。
百
「酔ふままに ふるきまぼろし しのぶにも なほあまりある 昔なりけり」
(解釈)
かつてこの国には、それはそれは豊かな「幻想」が息づいていた。
だが今日、それはもはや儚き結界の内にしか残っていないのだろうか?
我々はどこから来て、どこへ行こうとしているのだろうか?
(真なる解釈)
……なあんて、陰気くさいセンチメンタリズムは二の次三の次!
人間だろうと妖怪だろうと、生まれた以上は……いざ遊べ!
今年も皆さんご一緒に、ビール片手にレッツ・シューティング!
季語が入ってないな…まあ酒は夜までとっておこう
でも原作(?)からしてパルパルな歌ばっかりだからなあ…
色んな工夫が仕込んであって、最後まで飽きずに読み進めることができました。
歌い出し 紫(むらさき)のをや 好むれど 八雲をかけて 詮無きことよ
いろいろとネタが散りばめられていて面白かったです。
気軽には読まれなさそうな題材なのが惜しい。
常識に囚われない24、哀愁漂う75、従者の心主人知らずな29&30が好きです。
この労力に感心したので「よくできました」の100点
でも欲を言うなら、頻出キャラの出番を削って旧作キャラとか設定のみのキャラとかも出してほしかった。
それだけは残念だったので、この点数で。
一つ一つレベルが高くよくできていましたな
月や恋の歌が多いですからキャラの方よりは仕方ないことですね
海の歌も改変が難しそうです
そしてなにより大作お疲れ様です
が特に気に入りました
ちょwwパルスィ妬み過ぎwww
因みに短歌に季語は要りません。要るのは俳句だけです。
短歌としても掛け言葉を巧く入れた作や、キャラクターの想起が巧い作品もあり、珠玉の作でした。