・この作品は『かみさまっ!! ~イケメン編~』の続編です。
始めにそちらをご覧になってから読まれる事を推奨します。
前回の復習のあらすじ。……早苗の神降ろし×諏訪子の謀反×イケメン憑依=大国主様!
〈Side.月〉
被害は甚大。
出雲大社の注連縄(封印)は解かれ、第一級封印指定の国津神は何処かへ消えた。
加え……大隊長、依姫はぐったりと倒れている。
指揮系統を崩された兵達は蜘蛛の子の様に慌て出す。
情けない……これが月の軍隊か。
諏訪子はフンッと、見下した。
「大佐! 依姫様!」
レイセンが叫ぶ。が、虫の息。
無理も無い。本来の詠唱を省いて神器を、しかも原初の鏡を使役したのだ。
おかげで兎達や神々は無事だったが、当の本人は力を使い果たしていた。
「返事をして下さい! 依姫様!」
「そいつ……」
「ッ!?」
レイセンの後ろに、元凶(諏訪子)が立っていた。
玉兎は依姫を抱え、元凶を睨む。
「お、お前、何のつもりだ!」
「別に……暇潰し(ゲーム)だよ。それより」
しゃがみ込み、依姫を見る。
「さ、触るな」
「黙ってろ畜生が。今、駒(コイツ)にリタイアされたら私も困るんでね」
「ひっ……」
諏訪子のプレッシャーに気落とされるレイセン。
為すがままに上官を目の前の悪魔に奪われた。
何やら高速で神言を呟き、奇妙な帽子を胸の辺りに置いた。
「うっ!」
「な、何をするだアぁーッ!」
「喧しい。許すんでも、許さんでもいいから離れてろ。侵食するぞ?」
「んな!?」
帽子から何やら触手(オゾマシイモノ)が出て、依姫の身体を這った。
レイセンが必死に掃う。しかし、触れられない。
「私の霊力を分けている。まあ、月に戻ったら禊ぎをすればいい。穢れは取れる」
「なんて事を……」
「じゃあ、コイツ死んでもいいってのかい?」
「クッ……」
熱いねぇと嘲笑う。
このままでは拙いと判断し、軍曹は通信班の一羽に本部へ報告させるよう命令した。
今、SS(側近)の自分まで冷静さを欠いたら、クーデター派が逃げ出してしまう可能性もある。
一刻も早く事態を回収せねば。
「へぇ……士官候補生か。恰好いいね」
「通信班、遅い! もう私の所まで回線を持ってこい! 特殊コードで指令へ繋ぐ!」
「はいはい、諚(しかと)ね」
苦笑する曲神。
レイセンは隣の脅威を無視し、豊姫へ回線を繋いだ。
「指令。此方レイセン002。応答を!」
暫時、通信班の持ってきた機器からディスプレイ(ホログラム)が展開する。
「指令!」
『―――ま、―――め。―――レイセ―――、やは―――』
「くそっ」
「ほれ」
ガンッ!!
あろうことか曲神は通信機を蹴った。
『―――ン……レイセン! 良かった……貴女は無事だったのね』
「何か納得いきませんが……状況は最悪です! 大国主を逃がしました。
加え、大佐が重傷! 辛うじて(?)一命は取り留めましたが、未だ危険です!」
『……わかった。緊急のワープホールを開きます。隊を纏めて撤収しなさい』
「了解です!」
各班長を集め、隊を纏める。
そのまま豊姫の指示通りホールが開くのを待った。隣でどや顔しているロリ神。無性に腹がったたが、飲み込む。
瞬間―――海と山が『繋がった』。これには諏訪子も嘆息が出る。
まるでスキマ……いやもっと美しい何かだなと。
感心していると中から数名の兵が飛び出してきた。
捕縛した神々を運び、取り乱している仲間を落ち着かせ、大社に応急の結界を張る。
やはり上がいるのといないのでは、大分違うな。
撤収が進む最中、一柱の女性が依姫とレイセン、諏訪子の下へ歩み寄った。
「依、姫……レイセン。急いで看護塔へ運びなさい」
「わ、わかりました!」
医療班と共にホールへ急ぐレイセン。
その姿を見届け、豊姫は諏訪子を睨んだ。
「おお、こわいこわい。このまま封神でもするかい?」
「……何処へでも行きなさい。貴女はなまじ正義の心もある故、純粋悪より厄介」
吐き捨てるように告げる。
諏訪子は連れないねぇと微笑した。そして、大社の方へ向かい……何やら持ってきた。
「まあ、呑もう」
「何のつもり?」
「いいから、な?」
神社から御神酒をかっぱらってきた様だ。ドカッと地べたに座り込む土着神。
豊姫は莫迦莫迦しいと一蹴し、踵を翻した。
直後―――
オオオオオオオオー――――ン……
―――禍々しい圧力が辺り一面を覆った。
自分の『能力』さえ、食い散らかしてしまう様な反則染みた威圧感。
ハハハと諏訪子は笑っていた。
「いやー、やってみるもんだね。真逆、上手くいくとは思わんかな」
「……どういう事なの」
「なに、アンタの妹さんは神様連中を使役できるみたいだが……私は逆でねぇ」
「逆、だと?」
「曲神、祟り神の類いを従わせるのが得意なのさ」
「なんて出鱈目な」
「ハハ、互いにね」
杯に酒を注ぐ諏訪子。
ほれと豊姫にも渡すが、弾かれた。
杯がカランカランと音を立て転がる。
「……ったく。私の話、聴いて無かったの?」
怒らせない方が良いよといった目で見つめる諏訪子。
豊姫は先の言葉を思い出し……真っ青になった。
「貴女本気なの? 貴女もただじゃすまないわよ!?」
「すまないだろうねぇ。なんせ、ククク……―――」
―――八岐大蛇を従えようってんだから。
「いや、まあ私もこれ以上事を荒げたくないから。穏便にいこうよ」
脅迫紛いで、度の口が言うか。
豊姫は渋々杯を受け取った。
「くあぁ! 上手いね! 流石出雲大社だ」
「不本意ながら、同感です」
美味しいモノは美味しいのだから仕方が無い。
さて、と諏訪子が口を開く。
「本題だが、私は今ゲームをしている」
「……え?」
「ゲームだよ、ゲゲル……まあ私対、アンタの大っ嫌いな幻想郷でね」
「は?」
何を言ってるのだ、この曲神は。
「大国主だよ。先にネタバレしちゃうとね。悪いがアンタもアンタの妹も駒だよ」
「了承した覚えは無いわね」
「『輪』に入っちゃったんだからしょうがないじゃん。因みにアンタらは『警察』だよ」
「警、察?」
空いた杯に酒を注ぐ。豊姫の杯にも注ぐ。
「そう。そして『主犯』が大国主。『逃亡先』は……幻想郷だ」
「ッ!? ごほっごほっ!」
噎せ返る豊姫。諏訪子が背中を摩った。
「んで、『逃がし屋』は八雲。あ、言っとくけどこれは奴らの計画じゃないよ。
私の独断。まあ、奴らも被害者かな……うむ、アンタの妹にはやり過ぎたかもしれないけど」
気まずそうに頬を掻く。
「つまり、ごほっ……彼を捕まえたら、私達の勝ちってことね」
「は? 何言ってんの?」
莫迦じゃねと毒づく諏訪子。まるで意味がわからない。
「駒に勝敗なんてあるわけ無いじゃん。白黒つくのは『プレイヤー』だけさ」
「して、その『プレイヤー』、貴女と……もう一人は?」
クククと笑う。その前にと前置き、他の駒を告げた。
「アンタらの義妹、義弟もゲスト駒さ」
「ッ!? 貴女、本当に何者」
「嘗ての、諏訪の王……とでも言っておこうか」
「王。成程」
傲慢。
「さて、プレイヤーだったね。正直、未定なんだが多分、アンタらの―――」
―――大好きな、師匠さ。
* * * * * * * *
〈Side.幻想郷〉
一同は場所を移し、竹林―――永遠亭へ訪れていた。
理由は負傷(?)者が多いのと、大国主を匿う為だ。
紫、早苗は急患室のベットに寝かされ、他の面々は客室へと通された。
「……おい、カナ」
「今は何も言わないで。あと……今から会う方の事は外で話しちゃいけないよ」
「……」
建御名方は屋敷を見て素直に思った。
月の技術だ。
何故、幻想郷なんて辺鄙な所に……加えやはりあの女(永琳)、ただ者では無いと。
「失礼します。粗茶でございます。
一寸お待ちください。今少しで、主が此方へ向かいます」
「ありがとう。兎君」
「い、いえ! あ、その……」
「どうしたんだい?」
眩しい笑み。男女問わず、クラっとくる。
「よ、宜しければ……てゐ、と御呼び下さい」
「わかった、てゐ君。では、できれば私の事も大国主と呼んでくれるかな?
流石に、昔の名じゃ示しがつかないのでな」
「は、はい!」
兎妖、てゐが御茶を運んでくる。
現在机を挟んで、障子側にタケル、神奈子、藍、一足先に覚醒した霊夢。逆側に大国主一人が座っている。
てゐは御茶を配り終わると、大人しく部屋の隅で正座をした。
「藍、あの兎詐欺。何かいつもと違うわね」
「ははは。まあ、だろうな」
知る者が見れば異常な光景かもしれない。あの悪戯兎が、此処まで大人しい。
まるで、誰かに良いところを見てもらいたい……そんな感じだった。
「九尾……いいのか。最悪、幻想郷が戦場になるぞ」
「其れを憂いて、永遠亭(此処)に来たのだ。
永遠亭なら月からの目を掻い潜れる……八坂の旦那様が、仕出かさなければ、な」
「そいつぁ問題無えが」
永遠亭。
大分忘れられているのだが、本来の目的は月からの目を逃れる為に作られた屋敷だ。
博麗大結界内の中でも最も見つかり辛い場所である。
「お待たせしました」
襖が開く。永琳が先に入り……後ろから月の姫が続いた。
普段の和洋折衷の恰好とは違い、正装の望月に矢が刺さった家紋入りの王妃十二単。更に髪を結い上げている。後ろには裾を持つ兎の従者達。
足を擦らせながら進み、主座に座った。
「藍。あれ……」
「少し黙っておけ……アレが奴の本来の姿だよ」
何処か神々しい。
「これはこれは……」
「な!?」
「こら、タケル。行儀が悪いぞ」
「親父殿! なんでそんな冷静なんだ! こいつ……いや、この御方は……」
動揺する建御名方。それもそのはず。
「神奈子、どういう事だ……俺の目は幻でも見てるってぇのか?」
「まぁね。幻っちゃあ幻だよ」
「そうじゃな。我は既に亡きもの扱いじゃからな」
「い、いえ。そういうつもりでは」
姫―――蓬莱山輝夜が口を開く。
蓬莱山―――月の一級貴族で在り、皇族。
一介の国津神の自分に詳しくは分からないが、なんでも伊邪那岐上皇または月夜見王の親族名字という噂だ。
「良い良い。久しいな御二方。そちらの三名は先の宴会ぶりじゃな」
「「「「はっ!」」」」
「え? 何これ……こほん。そうね」
頭を下げる大国主と建御名方、八坂刀売、白面金毛九尾ノ天狐。
普段と違い、やんごとなき喋り方の輝夜に、霊夢は背中が痒くなった。
誰だ、アレ。
アレが本当に永遠亭の引籠り姫?
『もこたーん! エーリンが外出るなって喧しいのよ!』とか言ってる輝夜か?
「建御名方命。永琳から此方に来てると話は聞いておった。
何分、疑問もあると思うが、そちの思うようするがよいぞ」
「……いえ。別に」
一応、月の軍に在籍している以上、目の前の咎人を見逃す事は出来ないのだが……
「今の私は防衛隊中佐『建御名方』では無く、隣の神奈子の旦那の『建(タケル)』でございます。
月へ報告する様な蛮行、致しませぬ!」
「そうか……そちはどうする? 大国主」
サングラスをしたイケメン神がふふっと笑い、諸手を軽く挙げた。
「私も防衛隊大佐とは名ばかり。貴女並の罪人である私がどの面下げて月の輩に会えましょうか?」
「ふふふ、そうじゃな。御互い辛い身だのう」
「まったくです」
両人苦笑する。
「さて、永琳」
「はい」
何やらリモコンの様なものを取り出し、ボタンを押した。
部屋が暗くなり、机の上に立体ホログラムが浮かび上がった。
「うをっ! 凄い!」
「霊夢、恥ずかしいから黙ってろ」
「良い良い。霊夢……ちと頼み事をして良いか?」
「その口調止めてくれたら聴いてあげる」
やれやれと頬を掻く霊夢。
「アンパン買って来い」
てめぇブッ飛ばすぞ。
「冗談よ。イナバが行方不明なの。探してきて」
「……はいはい。報酬貰うわよ」
「ごめんね」
霊夢は察した。今からする話し合いに、自分が居てはいけない、と。
障子を開けて、飛び去った。
「待たせたな」
「いえ。では此方を見て下さい」
ボタンを押す。ボロボロの神社が映った。
「今から1時間前の映像です」
「此処は……出雲大社か」
「成程」
全員が頷く。要は大国主の封印が解けたのだ。
そして何らかの神降ろしでイレギュラーにより、諏訪子では無く彼が降ろされたのだと。
「しかし……何故出雲大社が?」
「その件は、これを」
新たな画面に切り替わる。数名の顔写真だ。
「月の本部の資料です。どうやらクーデターが起きたらしく、彼らが封印を破ったようですね」
「本部の資料って……アンタ何者だよ。マジで」
タケルが目を据える。
永琳は微笑み、無視して、話を続けた。
「ここで問題が二つ。
まずは、やはり、貴方の件ですね。大国主」
「ふむ。だろうね」
サングラスをクイッと上げる。
どうでもいいが、先程からてゐが大国主の一挙一動に感嘆の声を上げていた。
タケルが冷静に述べる。
「今頃、月のお偉いさん方は躍起になって親父殿を捜している筈」
「だろうね……」
「やれやれ。私は別に彼らと喧嘩をするつもりは無いのだがね」
肩を上げる大国主。
「仕方なかろう。そちに戦の意志は無くとも、存在自体が……争いの種じゃ」
「姫様」
「構わないよ、『 』。姫の言う通りだ。
まったく、私は聖人や指導者に為ったつもりは無いのだがな」
争いの種はいつも本人には関係ないところで生じる。彼もまた、その一柱である。
大国主は反乱の恐れがあるとして天津神の手により、出雲大社に封印されていた。
彼が何かを仕出かしたわけではないが、彼を慕う神々や人間達が天津神に反抗した為、『形式上』反乱首謀者である大国主が封印されたのだ。
所謂、制裁。
「相変わらず下らないね。月の連中は」
「八坂の言うとおりじゃ。しかし、父を含め月の偉神らは地上の者共に政権を取られる事を何より恐れておる」
「ふむ……あ、『神奈子』でいいですよ。『姫』様」
「ふふ、そうじゃな。そちも『輝夜』で構わぬぞ。八雲もな」
「はい」
正直、ムズ痒くてしょうがなかった神奈子と藍。
ギャップ激しすぎるだろ……この姿、妹紅に見せてやりたい。
そんなことを思っていた時、障子が開いた。
「ゴメン。遅くな……りましたわ」
「紫、貴女も座りなさい」
「え、ええ」
八雲紫復活。
一同の重々しい雰囲気を酌んで口調を直した。
「えっと……何がどうなったか、教えて頂けませんこと?」
「紫様、そのですね……また、失敗です」
まぁじで。
「……また、失敗したのね。はぁ」
「気を落とさないの。多分、今回の原因は貴女達の所為じゃないから」
永琳にフォローされるが、こうも失敗続きだと立ち直れなくなりそうだ。
兎角、気を取り直し、目の前の問題に向かった。
「おや? 其処のお嬢さんは、初めて見るが」
「え……誰、そこのイケメン。あと輝夜、なんでそんな恰好してるのかしら?」
昔から友人に言われる。
『メリーは空気読めないんじゃないの。空気を壊すのよ』って。
「ふふっ。面白いお嬢さんだ」
サングラスを外し首を垂れた。
「日本の大地を司る神、と言えばわかるかな」
「……カッコいいいい痛い! 藍、抓らないで!」
「空気、読め。あと……」
「ご、ゴメン!」
浮気は、ユルシマセン。
「こほんっ……失礼。私、幻想郷の管理者をしております、八雲紫でございます。
ようこそ楽園へ……大国主様」
「ああ、お邪魔している。固くならないでくれ、藍君もね」
白い歯。眩しい笑み。並の者なら完璧に墜ちるだろう。
永琳が話を戻す。
「丁度いいわ。これから彼をどうするかだけど」
「え、ええ」
天井から黒板が降りてくる。どんなカラクリだよ……
「まず、候補としては……」
①幻想郷に留める。
②『外』に帰す。
③魔界、天界、法界等別世界に移って貰う。
永琳は白チョークで達筆に書いた。
「最初に……大国主。貴方は如何したいかしら?」
「私は皆の意見に任せるよ。居候の身だ」
「そ。じゃあ、姫」
輝夜は少々考え込み答えた。
「①……はできぬ。そちほどの者が此処に居れば何れ見つかるやもしれぬからな」
次は神奈子、と永琳はふった。
「③かな。輝夜姫の言うとおり、幻想郷(この世界)は完璧な隠れ家ってわけじゃ無い。
現に……『義姉貴』にゃ、お見通しだ。これは言ってなかったが……」
紫の方を一目見て、言った。
「『義姉貴』から、手紙が来た」
「な、なんですって!? 神奈子! アイツ、幻想郷に来たの!?」
「落ち着け。来たわけじゃない……ただ、豊姉(とよねえ)は知っての通り、神隠しの論理を理解している。
流石に自身の博麗大結界越えは出来ないが、手紙一枚落とすくらいなら、な」
紫の顔が青褪めた。
これは当初の憂いが本格的になって来た。月との大戦は思ったより近いかもしれない……
「ほう。豊から、とな。その文、いずれ見せてはくれまいか?」
「構いませんよ。別に戦争云々といった内容じゃありませんから。
ただ、その……恥ずかしながら、引越祝いの連絡でした」
ガンッと机に頭を打つ紫。なんだそれ……
「はは。『御元気ですか。私達は元気です―――』ってな感じでした。
まったく、いつまでもガキ扱いして……恥ずかしいったらありゃしない」
「ふふ、良い御姉さんじゃないか」
「そういえば、よっち(依姫)から渡してくれって頼まれてたモンあったけど、忘れてたな」
「やれやれ、タケル。お前は少し雑すぎるよ」
「言うなよ、親父」
あははと笑う神連中。ついてけない……紫は頭を抱えた。
「さて。では建御名方。貴方は?」
「んー……俺は此処の住人じゃないからなんとも言えないが……
『外』は、拙いだろうな。トヨ(豊姫)やよっちに見つかる。
アイツらは親父殿が莫迦なことする様な神じゃないって分かっちゃいるんだが、肩書き上、月の重役だからな。
俺も今や重役だが……ま、親売る様な真似はできんな」
国津神でありながら、実力のみで中佐までに昇りつめた男、建御名方命。
無論、天津神では無く犯罪者の息子、そして放浪癖の三貴柱の孫という理由で周りの連中から疎まれてはいた。
しかし彼が実力者、そしてその正義感の強い性格であると知っている者は彼を蔑ろになどしない。
現に綿月姉妹、一戦交えたことのある建雷、更にはそう曾祖父である伊邪那岐上皇なんかは彼の功績を認めている。
「①、匿って貰えるなら……匿ってやってくれ。迷惑をかけるだろうが。頼む」
深く頭を下げる。息子の鏡だろう。
「ふむ。良い息子じゃな」
「まったく、誰に似たのでしょうね」
微笑む輝夜と大国主。
「では、八雲」
「え、ああ……幻想郷は全てを受け入れますわ」
それでは決まり―――
「ですが、それはそれは残酷なこと。
申し訳ありませんが、先の神奈子の話を聞いた以上……置き辛い」
「紫!」
「構わないよ……管理人の意向なら、それが優先だ」
紫はバツが悪かった。
がしかし、幻想郷の平和を維持する為には仕方の無い事。
「②か③ですわね。一応、魔界と天界の御偉方となら話を付けられます。
②であっても、藍の実家や紅魔の領内。
妖怪の下で宜しければ、米国のベアードとぬらりひょん御大将の所もありますわ。
いずれにしろ日本の神々が簡単に手の出せない場所」
「貴女の実家は?」
永琳が告げる。紫と藍は目を丸くした。
「……何の事か、分からないわ」
「ここで惚けても無駄よ。私と姫は既に知っている」
「……」
ばれている。
紫は考えた。此処の連中らに『正体』をばらしていいものかと。
……ダメだ。
「兎角、分からないわね……でも、確か『ギリシャ』にも知り合いはいたわ。
そこなら神でも過ごし易いでしょうね。
ただ教会や主義者達が喧しいですが、貴方ほどの神なら大丈夫でしょう」
「紫様……」
「これ、永琳。意地が悪いぞ。すまぬなスキマ」
スイマセンと悪気無しに謝る永琳。『紫』はいえ、と首を振る。
では、と永琳が自分の意見を述べようとした時。
「あ、あの!」
「……てゐ。発言を許した覚えは無いわよ」
てゐが手を上げた。しかし永琳に一蹴され肩を落とした。
「良いじゃろ、永琳。因幡、申してみよ」
「あ、ありがとうございます! そ、その……」
輝夜の好意に甘え、てゐは告げた。
「う、永遠亭(ウチ)で身柄を保護しては、どうかな……と」
「たしかに永遠亭(此処)なら見つかる恐れは無いな」
藍が頷く。
「部屋は有りますし! 御世話だって……その……私が、しますし……」
「ふふ、優しいな。てゐ君は」
「そ、そんな!」
明らかに乙女のソレ。
輝夜はニヤニヤしていた。噂には聞いていたが、こりゃベタボレだな。
「姫様が良ければ、ですけど……」
「我は構わぬぞ。確かに、そちの御蔭で永遠亭(此処)が隠れていると言っても過言では無いからのう」
そんなと照れくさそうに頬を掻くてゐ。
元々永遠亭はてゐの土地。相互関係により輝夜、永琳と協定しているのだ。言ってしまえば、三人は対等な関係でもある。
もしてゐが永遠亭から居なくなれば、あっという間に月に見つかってしまうだろう。
「永琳。そちの意見を聞こうか」
「では……私個人の意見ですが、②です。
付け加えるなら、月に身柄を渡すべきかと」
一同、硬直。
「お、お師匠様!!」
「な、何を言っているんだ。八意」
「てゐ黙ってなさい。
あと神奈子。悪いけど、これは貴女と建御名方の所為よ」
「何!?」
今一度、リモコンを持ち写真を映し出す。
「実はこの写真のクーデター派。既に皆捕まった様なのですが……彼らとは別に、この写真を見つけました」
一枚の写真が映される。
見知った顔だった。
「「す、諏訪子?!」」
「ええ、その通り。そして、これを見て」
再び出雲大社の映像。まだ大国主が封印されているようだ。
そこに映っていたのは……諏訪子と月の防衛隊だった。
「一体何が?」
「黙って見ていて」
なにやら諏訪子と一柱の女性が口論しているようだ。
「依姉……」
「次よ」
諏訪子が跳んだ。そして―――
「「「「「なっ!?」」」」」
「……ほう」
―――鉄の輪で注連縄を切った。
直後、神降ろしの光。諏訪子は避け、大社に直撃した。
一方、防衛隊は……
「あれは、日像鏡(ひがたのかがみ)……」
「依姫……隊を守る為に。無茶しやがって……」
神奈子とタケルが目を伏せる。
光が収まり、大社が崩壊していた。そして、依姫は……
永琳はここで映像を止めた。
「紫、一つ質問よ。貴女」
「違うわ。クーデター派とは供託してない」
「では、何故出雲へ諏訪子を落としたの?」
諏訪大社に落としていれば、このような事態にならなかったものの。
「特に理由なんか無いわ。敢えて言うなら、今、諏訪は来年の御祭の準備で忙しい。
だから、あまり現地のマナを傷つけたくなかったから、かしら。
出雲にしたのは神降ろしが、し易い。それだけの理由よ」
「嘘は無いわね」
「嘘だったら、被研体にでもしていいわ」
真顔で答える。
ではしかし、何故諏訪子はこんな真似をしたのだろうか。
永琳は続きを再生した。
暫時、海と山が『繋がり』別働隊が現れた。
「トヨか。本部のお出ましだな」
「ほう。永琳、豊もやるようになったのぅ。私に泣かされておった頃が懐かしい」
「はい。しかし、この空間転移見事ですね」
これまた紫は焦った。自分のスキマ計算と同等、いやそれ以上かもしれない。
「藍……帰ったら紅魔卿とB.B(ベアード)に連絡を」
「……分かりました」
映像は続く。
殆ど収束はつき、現場には諏訪子と豊姫だけが残っていた。
何やら話し込んでいるようだ。
諏訪子が酒を注ぐ。豊姫の分も注ぎ……弾かれた。
直後―――
オオオオオオオオー――――ン……
―――禍々しい圧力が辺り一面を覆う。
「こ、これは……」
「紫様! アイツが暴れ出したら、博麗結界なんて一溜りもありませんよ!」
八岐大蛇。
嘗て国呑みとまで恐れられた大蛇。大国主の父であり、建御名方の祖父である須佐皇命により退治されたはずである。
日本の屈指の凶暴妖怪、いや既に神格が有ると言っても過言ではないだろう。
「……諏訪子が起こしたのかい」
「その様ね」
此処で映像が切れた。
どうやら電波ジャックに気付かれたらしい。
「彼女が何を考えているか分からない。しかしこれだけは言える。
今、彼女は幻想郷の『敵』よ」
「え……」
障子が開いた。一人の、少女。
「さ、早苗!」
「え、あ……嘘、ですよね」
「何時から、聴いてた!?」
一歩退く。
「諏訪子様が……まさか、だって今日は私に協力してくれて……
神降ろしも……諏訪子様が、憑依して……」
「ッ!? すまない、外す! 早苗、来い!」
「え……」
早苗の手を引き、部屋から出ていく神奈子。
気まずい空気が部屋に残った。
* * * * * * * *
「神奈子様……諏訪子様は」
「早苗。いいか、さっきのはあくまで推測だ。アイツがそんな莫迦な真似するわけがない」
神奈子が中庭の一画で放心状態の早苗を宥めていた。
早苗は先の言葉、そして映像が信じられなかった。
ある種の裏切りを感じる。
「だって……光に入らなかった……諏訪子様、光を避けて……私を避けて……」
「違うッ! 違うんだ……」
言葉が見つからない。
勿論、諏訪子は早苗を避けたわけではない。しかし、音声の入らないあの映像だけではそうにしか見えなかった。
「きっと、何か考えがあって……」
「……」
目の光が戻らない早苗。
神奈子は唇を噛んだ。どうして……あの莫迦は……
「アンタら、何やってんの?」
上空から、二つの影が降りてくる。
霊夢と鈴仙だ。
「……ちょっと、な」
「ふーん……早苗、どったの?」
霊夢はお構い無しに付け込む。
神奈子が、おいと止めるがそんなの関係無い。
「諏訪子様が……裏切って……」
「は?」
そして早苗は、泣き出した。
抱きつかれアタフタする霊夢。
「ちょ、ちょっと!?」
神奈子に助けを求める、が彼女もまた目を伏せて何も話そうとはしなかった。
「新参助けてよ!」
「新参言うな! そいつらより古参だ! ついでにアンタよりもね!
ったく……」
幻想郷で、という意味だが。鈴仙は早苗の目を見て、『麻酔』をかける。
ストンと気を失う早苗。神奈子はありがとうと呟いた。
「んで? 何があったの?」
「ウドンゲ」
「あ、師匠。只今。
まったく……てゐったら酷いんですよ。危なく地底の連中にトッ捕まるとこでした」
「それは災難だったわね」
どんだけ掘ったんだ……
「話があるわ……霊夢。貴女ももう部外者にはできない。
来なさい。神奈子もよ」
三名は早苗を寝かせた後、客室に移動した。
「待たせたわ」
「ん」
重々しい空気。
特に鈴仙はいつもとは違う様子の輝夜、そしててゐの様子に違和感を感じていた。
その原因は座っている二柱の男性の所為だろうと察す。
片方は見たことある。旧御主人様と仲が良かった神だ。
もう一方は……
「大国、主」
「ん? 君は……玉兎の様だね」
いやでも知っている。
なんせ軍学校の教科書で三回は出てくる名だ。顔写真だって載ってる。
加え、てゐに耳にタコができるくらい聞かされてきたのだ。
「早速だけど……鈴仙、今から月の波長をキャッチして」
「はい? 何故……あ、いえ。わかりました」
師匠に睨まれ、それ以上何も聞けなくなった。
やれやれと耳を立てる。
「あ、待って」
「はい? って、ぎゃああああ!」
片耳ひっこ抜く永琳。そして何かよくわからないアダプタを耳跡に挿し込んだ。
「続けて」
「うう……せめて一言……」
鈴仙は電波ジャックを開始した。
「―――、――――――、――……あ、波長変わってる。師匠、ブロックが凄いです」
「ちょっと待って」
電子画面に何やら打ち込む永琳。
机のホログラムの方に鈴仙がキャッチした映像が映し出された。
現在は砂嵐。
「―――、――、――――、-……これでどう?」
「あ、来そうです。えっと……――――――、―――・―――――、―――」
『月面都市・官務庁本部・トップページ』
「……マジかよ。おっかねえなぁ」
「同感ですわ」
タケルと紫が呆れる。
一方は月のセキュリティ面を。他方は永琳の天才っぷりに。
「師匠。誰ので、ログインします?」
「んー……建御名方。貴方のID教えて」
「……悪用するなよ」
「何を今更」
タケルは立ち上がり、自身でディスプレイにID、パスワードを入力した。
メールと伝言メッセージが幾つか入っていた。
……どれも未読。
「アンタ……業務メールも見ないで、どうやって仕事してんの?」
「めんどいんだよ、PC開くの。よっちかトヨが直接伝えに来るからいいの」
なんて、人間臭い会話。ホントにコイツら神様かよ……
「新着……このメールっぽいですね。
件名『クーデター派鎮圧任務』。内容も……それらしい」
「ふむ、莫迦な連中だ」
「……自分を助け出そうって連中に対して、随分じゃ無い」
霊夢が大国主の呟きに毒づく。
紫に睨まれるが、知ったこっちゃない。
「ふふ、そうは言ってもね。私は戦は好かぬよ。社の中でも満足していたさ」
「あっそ」
「ただ……私も簡単に捕まる気は無いよ」
霊夢は思った。
ああ、コイツとはウマが合わないなと。
自分が知る男連中は数えるほどしかいないが……コイツはダメだ。何処か、歪んでいる。
あと、『勘』だが、嘘が多い臭いだ。
「ふふ。流石霊夢じゃのう。神をも恐れぬ所業とは当にお主の為にある言葉じゃ」
「お褒めに預かりありがとう。輝夜、アンタその口調やめろつってんでしょ」
「ククク。やはり紅白の人間は好きじゃ……ええ、貴女と妹紅には表裏無しで付き合えるわね」
「ったく、とんだ箱入り狸」
「貴女は野良猫ね」
どこか楽しそうな輝夜。
紫と藍はヒヤヒヤさせられっぱなしだった。
絶対、後で説教だ。此のアホ巫女。
そんなやり取りを後目に、鈴仙は一つの伝言に目を点けた。
「あ、豊姫さ……少将からの、伝言があります」
「開いて」
嘗ての主人の声。鈴仙は、気まずかった。
『中佐、緊急です。今すぐ本部へ来て下さい。クーデター主謀の容疑がかかっています』
「は? 俺が? なんで?」
「単に息子だからって理由でしょ。豊姉だってわかってるわよ」
伝言は続く。
『貴方で無いと信じているわ。でも……何か嫌な予感がするの。
早く戻って来て。休暇中に、ゴメンなさいね。兎に角、顔を出して安心させて』
「ね?」
「ふむ」
「続けますよ」
鈴仙が促す。神奈子とタケルは頷いた。
『これは信頼のおける部下からの垂れ込みですが……
今回のクーデター、純血派の連中らが彼らを刺激したようなの。
近いうちに、大国主を処刑するとね。まったく、在りえない事を』
「……チッ。また、奴らか」
純血派。
天津神を中心とした懐古保守主義の集まり。
「父上……莫迦な事を」
「ウドンゲ。地上の穢れを謳う彼らが、どれだけ非道か分かったかしら」
「……」
月に居た頃には見えなかったものが、今こうして見える。
それだけ洗脳甚だしかったのだ。月の軍才教育は。
『貴方が来てくれれば、彼らを説得できる。
お願い、急いで! あと―――、おみ――――、き――――――、――』
「あれ、また波長が……」
「おかしいわね」
永琳は再び画面に打ち込んだ。
しかし直らない。それどころか……
「し、師匠! 何者かに、ジャックされます!」
「何ですって!?」
画面に何者かの影が映った。
『―――……ふふふ』
* * * * * * * *
〈Side.月〉
「少将! キャッチしました!」
「……貴女の言うとおりでしたね」
納得いきませんがと豊姫は目線だけ、後ろで腕を組む土着神に向けた。
クククと笑う諏訪子。
「なーに。アイツらなら、奴(建御名方)の回線を使って入りこんで来る。分かっていたさ」
何故、諏訪子が月本部に居るかというと、事件の重要参考人として連れてこられたからだ。
どちらかというと『付いてきた』と言った方が正しい。豊姫は連れて来たくは無かったが、仕方が無い。上からの指示だ。
しかも依姫の件は不問。なんと客人扱いである。
何やら密談をしていたようだが……
(……中将連中は何を考えているの)
どうせ自分達穏健派の失脚を狙っているのだろうが、なってたまるか。
豊姫は唇を噛み、諏訪子に問うた。
「して、どうする気です」
「逆探知に成功したら、カメラを私に。何、ちょっとした挨拶だよ」
「……」
今は、全権が彼女にある。一体、純血派と何を交渉したのだ。
「逆探成功! カメラ、入ります!」
「ふふふ……いよいよだね」
カメラとマイクが入る。
* * *
〈Side.両〉
『―――……ふふふ。ごきげんよう、幻想郷の諸君』
「「「「デ、デ○ラー!!」」」」
紫、神奈子、タケル、輝夜。
「……藍。アイツら何言ってんの?」
「言わんでくれ。頭が痛くなる」
これが神と幻想郷の屈指の実力者なのだから困る。藍は黙って紫の頭を叩いた。永琳も輝夜の頭を叩いた。
お構い無しに、イエーイと親指を立てる4名と○スラーこと諏訪子。
お前ら仲良いな……他の面々は呆れた。
『御決まりの言葉どうも。さて本題だが、そこに大国主が居るな?』
「私だが」
『あ、ごめん。そっちのカメラ奴に向けて』
カメラって?
「鈴仙」
「はいはい」
お前がカメラかいと心で突っ込む一同。
『見えた見えた……さて今、月ではお前の事を躍起になって探している』
「分かっている」
『大人しく捕まれば、幻想郷及びクーデター派の安全は保証しよう。と連中は言っているのだが』
「何を言う」
だよねと微笑む諏訪子。
そうだ、そうしてくれなきゃ『ゲーム』ができない。内心ほくそ笑んだ。
「諏訪子!」
『おや、八坂刀売乙女。お前も居たか』
まるで他人行儀。
しかもコイツ分かってやってるな。神奈子は唇を噛んだ。
『旦那と布団で戯れていると思ったが、流石に事態が事態だったか』
「クッ! アンタ、自分が月の連中に利用されてるって分からないの?!」
『ククク、それはどうかな。奴らは賢いよ。話の分かる奴が多い』
「アンタねぇ……早苗がどんな思いか!」
『ああ……あの子には悪いことしたと思ってるよ。そこに居るの?』
「……寝かせてるよ」
気まずそうに頬を掻く諏訪子。これは本心だ。
『まあ、いいさ。利用した事は後で謝るとして』
「……おい。なんつった」
一同が声の先を見る。
「れ、霊夢」
『おや? 博麗。居たのかい?』
「諏訪子……アンタ、なんつった」
博麗の巫女。
「利用? 早苗を? それで、泣かせたの?」
『あー……だから悪かったって』
「ふざけんなっ!」
机を叩く。
『……何故、怒る。守矢(身内)の問題だろう』
「身内だぁ? アンタ、何様よ! 友達(ダチ)が泣かされた! キレる理由なんてそれで十分よッ!!」
『神様だが。ほう……良い目をする。流石、祟り神の神社の巫女だ』
「黙りなさい! あと……『アイツ』は博麗(ウチ)の神なんかじゃないわ!」
「霊夢……」
画面の諏訪子を睨む。
守矢の二柱は不本意ながら嬉しかった。
早苗は良い友を持った、と。
「アンタはこの博麗霊夢がブッ飛ばすッ!」
『ふふ、やってみろ。人間……』
不敵に微笑む曲神。
『建御名方、神奈子……久しぶりに、ゲゲル、だ』
「「な!?」」
二柱が目を見開いた。
彼女たち以外が首を傾げる。ゲゲル? なんだそりゃ?
『私は手駒に……化け物を手に入れた。多分、もう知ってるんじゃないか?』
「……何の事だ」
『なんだ? 気付いて無かったのか? お前は分かるか、八意』
「真逆……ッ?! 本気なの!?」
真っ青になる永琳。
「貴女……手懐けたというの?!」
『いやぁまださ。でも時間の問題だね。ミシャクジ達よりはじゃじゃ馬だが、所詮蛇。
酒と私の力で懐柔可能さ』
「永琳、どういう事じゃ?」
輝夜が首を傾げる。
永琳は静かに、そして怒気を込めて告げた。
「八岐大蛇……ッ!!」
「なんですって!?」
成程。純血派が諏訪子を受け入れるはずだ。
元々諏訪子のカリスマは恐怖政治によるもの。
月の輩は八岐大蛇という屈服兵器と諏訪子の頭脳を買ってこの一件を任せたのだ。
* * *
(汚い……これが上のやり方だって言うの)
豊姫は認めたく無かった。同じ月人がこのような非道な真似を……
「少将! 新たな指令書です!」
「回して」
豊姫は送られてきた任務を確認した。
「なっ!?」
「丁度良い。豊姫、それを読み上げろ」
カメラが豊姫に向く。
「……『これより洩矢諏訪子指令の下、第一級封印指定神・大国主を』……クッ」
「どうした? 読め」
唇を噛む。血が出た。
「トヨ……」 「豊姉……」 「豊姫……」
誰かが嘆いた。
「『如何なる手を用いても、封神せよ。 尚、王の勅命である』と……」
「だってさ。勅命じゃあ、やらないわけにはいかないね」
一同、息を呑んだ。王……
「月夜見様だと?! 莫迦な!?」
「相変わらず、野心家なのね。彼は」
永琳は頭を抱えた。
「というわけで私の好きにできるって事だ。
『ゲゲル』だよ……勝負だ。八雲、八意、神奈子……そして博麗!」
「『ゲゲル』だか、ゲバルだか知らないけど……」
霊夢は立ち上がった。
「言ったでしょ。ブッ飛ばすってね!」
「ククク。ああ、やってみろ!」
そして火蓋は落とされた。
始めにそちらをご覧になってから読まれる事を推奨します。
前回の復習のあらすじ。……早苗の神降ろし×諏訪子の謀反×イケメン憑依=大国主様!
〈Side.月〉
被害は甚大。
出雲大社の注連縄(封印)は解かれ、第一級封印指定の国津神は何処かへ消えた。
加え……大隊長、依姫はぐったりと倒れている。
指揮系統を崩された兵達は蜘蛛の子の様に慌て出す。
情けない……これが月の軍隊か。
諏訪子はフンッと、見下した。
「大佐! 依姫様!」
レイセンが叫ぶ。が、虫の息。
無理も無い。本来の詠唱を省いて神器を、しかも原初の鏡を使役したのだ。
おかげで兎達や神々は無事だったが、当の本人は力を使い果たしていた。
「返事をして下さい! 依姫様!」
「そいつ……」
「ッ!?」
レイセンの後ろに、元凶(諏訪子)が立っていた。
玉兎は依姫を抱え、元凶を睨む。
「お、お前、何のつもりだ!」
「別に……暇潰し(ゲーム)だよ。それより」
しゃがみ込み、依姫を見る。
「さ、触るな」
「黙ってろ畜生が。今、駒(コイツ)にリタイアされたら私も困るんでね」
「ひっ……」
諏訪子のプレッシャーに気落とされるレイセン。
為すがままに上官を目の前の悪魔に奪われた。
何やら高速で神言を呟き、奇妙な帽子を胸の辺りに置いた。
「うっ!」
「な、何をするだアぁーッ!」
「喧しい。許すんでも、許さんでもいいから離れてろ。侵食するぞ?」
「んな!?」
帽子から何やら触手(オゾマシイモノ)が出て、依姫の身体を這った。
レイセンが必死に掃う。しかし、触れられない。
「私の霊力を分けている。まあ、月に戻ったら禊ぎをすればいい。穢れは取れる」
「なんて事を……」
「じゃあ、コイツ死んでもいいってのかい?」
「クッ……」
熱いねぇと嘲笑う。
このままでは拙いと判断し、軍曹は通信班の一羽に本部へ報告させるよう命令した。
今、SS(側近)の自分まで冷静さを欠いたら、クーデター派が逃げ出してしまう可能性もある。
一刻も早く事態を回収せねば。
「へぇ……士官候補生か。恰好いいね」
「通信班、遅い! もう私の所まで回線を持ってこい! 特殊コードで指令へ繋ぐ!」
「はいはい、諚(しかと)ね」
苦笑する曲神。
レイセンは隣の脅威を無視し、豊姫へ回線を繋いだ。
「指令。此方レイセン002。応答を!」
暫時、通信班の持ってきた機器からディスプレイ(ホログラム)が展開する。
「指令!」
『―――ま、―――め。―――レイセ―――、やは―――』
「くそっ」
「ほれ」
ガンッ!!
あろうことか曲神は通信機を蹴った。
『―――ン……レイセン! 良かった……貴女は無事だったのね』
「何か納得いきませんが……状況は最悪です! 大国主を逃がしました。
加え、大佐が重傷! 辛うじて(?)一命は取り留めましたが、未だ危険です!」
『……わかった。緊急のワープホールを開きます。隊を纏めて撤収しなさい』
「了解です!」
各班長を集め、隊を纏める。
そのまま豊姫の指示通りホールが開くのを待った。隣でどや顔しているロリ神。無性に腹がったたが、飲み込む。
瞬間―――海と山が『繋がった』。これには諏訪子も嘆息が出る。
まるでスキマ……いやもっと美しい何かだなと。
感心していると中から数名の兵が飛び出してきた。
捕縛した神々を運び、取り乱している仲間を落ち着かせ、大社に応急の結界を張る。
やはり上がいるのといないのでは、大分違うな。
撤収が進む最中、一柱の女性が依姫とレイセン、諏訪子の下へ歩み寄った。
「依、姫……レイセン。急いで看護塔へ運びなさい」
「わ、わかりました!」
医療班と共にホールへ急ぐレイセン。
その姿を見届け、豊姫は諏訪子を睨んだ。
「おお、こわいこわい。このまま封神でもするかい?」
「……何処へでも行きなさい。貴女はなまじ正義の心もある故、純粋悪より厄介」
吐き捨てるように告げる。
諏訪子は連れないねぇと微笑した。そして、大社の方へ向かい……何やら持ってきた。
「まあ、呑もう」
「何のつもり?」
「いいから、な?」
神社から御神酒をかっぱらってきた様だ。ドカッと地べたに座り込む土着神。
豊姫は莫迦莫迦しいと一蹴し、踵を翻した。
直後―――
オオオオオオオオー――――ン……
―――禍々しい圧力が辺り一面を覆った。
自分の『能力』さえ、食い散らかしてしまう様な反則染みた威圧感。
ハハハと諏訪子は笑っていた。
「いやー、やってみるもんだね。真逆、上手くいくとは思わんかな」
「……どういう事なの」
「なに、アンタの妹さんは神様連中を使役できるみたいだが……私は逆でねぇ」
「逆、だと?」
「曲神、祟り神の類いを従わせるのが得意なのさ」
「なんて出鱈目な」
「ハハ、互いにね」
杯に酒を注ぐ諏訪子。
ほれと豊姫にも渡すが、弾かれた。
杯がカランカランと音を立て転がる。
「……ったく。私の話、聴いて無かったの?」
怒らせない方が良いよといった目で見つめる諏訪子。
豊姫は先の言葉を思い出し……真っ青になった。
「貴女本気なの? 貴女もただじゃすまないわよ!?」
「すまないだろうねぇ。なんせ、ククク……―――」
―――八岐大蛇を従えようってんだから。
「いや、まあ私もこれ以上事を荒げたくないから。穏便にいこうよ」
脅迫紛いで、度の口が言うか。
豊姫は渋々杯を受け取った。
「くあぁ! 上手いね! 流石出雲大社だ」
「不本意ながら、同感です」
美味しいモノは美味しいのだから仕方が無い。
さて、と諏訪子が口を開く。
「本題だが、私は今ゲームをしている」
「……え?」
「ゲームだよ、ゲゲル……まあ私対、アンタの大っ嫌いな幻想郷でね」
「は?」
何を言ってるのだ、この曲神は。
「大国主だよ。先にネタバレしちゃうとね。悪いがアンタもアンタの妹も駒だよ」
「了承した覚えは無いわね」
「『輪』に入っちゃったんだからしょうがないじゃん。因みにアンタらは『警察』だよ」
「警、察?」
空いた杯に酒を注ぐ。豊姫の杯にも注ぐ。
「そう。そして『主犯』が大国主。『逃亡先』は……幻想郷だ」
「ッ!? ごほっごほっ!」
噎せ返る豊姫。諏訪子が背中を摩った。
「んで、『逃がし屋』は八雲。あ、言っとくけどこれは奴らの計画じゃないよ。
私の独断。まあ、奴らも被害者かな……うむ、アンタの妹にはやり過ぎたかもしれないけど」
気まずそうに頬を掻く。
「つまり、ごほっ……彼を捕まえたら、私達の勝ちってことね」
「は? 何言ってんの?」
莫迦じゃねと毒づく諏訪子。まるで意味がわからない。
「駒に勝敗なんてあるわけ無いじゃん。白黒つくのは『プレイヤー』だけさ」
「して、その『プレイヤー』、貴女と……もう一人は?」
クククと笑う。その前にと前置き、他の駒を告げた。
「アンタらの義妹、義弟もゲスト駒さ」
「ッ!? 貴女、本当に何者」
「嘗ての、諏訪の王……とでも言っておこうか」
「王。成程」
傲慢。
「さて、プレイヤーだったね。正直、未定なんだが多分、アンタらの―――」
―――大好きな、師匠さ。
* * * * * * * *
〈Side.幻想郷〉
一同は場所を移し、竹林―――永遠亭へ訪れていた。
理由は負傷(?)者が多いのと、大国主を匿う為だ。
紫、早苗は急患室のベットに寝かされ、他の面々は客室へと通された。
「……おい、カナ」
「今は何も言わないで。あと……今から会う方の事は外で話しちゃいけないよ」
「……」
建御名方は屋敷を見て素直に思った。
月の技術だ。
何故、幻想郷なんて辺鄙な所に……加えやはりあの女(永琳)、ただ者では無いと。
「失礼します。粗茶でございます。
一寸お待ちください。今少しで、主が此方へ向かいます」
「ありがとう。兎君」
「い、いえ! あ、その……」
「どうしたんだい?」
眩しい笑み。男女問わず、クラっとくる。
「よ、宜しければ……てゐ、と御呼び下さい」
「わかった、てゐ君。では、できれば私の事も大国主と呼んでくれるかな?
流石に、昔の名じゃ示しがつかないのでな」
「は、はい!」
兎妖、てゐが御茶を運んでくる。
現在机を挟んで、障子側にタケル、神奈子、藍、一足先に覚醒した霊夢。逆側に大国主一人が座っている。
てゐは御茶を配り終わると、大人しく部屋の隅で正座をした。
「藍、あの兎詐欺。何かいつもと違うわね」
「ははは。まあ、だろうな」
知る者が見れば異常な光景かもしれない。あの悪戯兎が、此処まで大人しい。
まるで、誰かに良いところを見てもらいたい……そんな感じだった。
「九尾……いいのか。最悪、幻想郷が戦場になるぞ」
「其れを憂いて、永遠亭(此処)に来たのだ。
永遠亭なら月からの目を掻い潜れる……八坂の旦那様が、仕出かさなければ、な」
「そいつぁ問題無えが」
永遠亭。
大分忘れられているのだが、本来の目的は月からの目を逃れる為に作られた屋敷だ。
博麗大結界内の中でも最も見つかり辛い場所である。
「お待たせしました」
襖が開く。永琳が先に入り……後ろから月の姫が続いた。
普段の和洋折衷の恰好とは違い、正装の望月に矢が刺さった家紋入りの王妃十二単。更に髪を結い上げている。後ろには裾を持つ兎の従者達。
足を擦らせながら進み、主座に座った。
「藍。あれ……」
「少し黙っておけ……アレが奴の本来の姿だよ」
何処か神々しい。
「これはこれは……」
「な!?」
「こら、タケル。行儀が悪いぞ」
「親父殿! なんでそんな冷静なんだ! こいつ……いや、この御方は……」
動揺する建御名方。それもそのはず。
「神奈子、どういう事だ……俺の目は幻でも見てるってぇのか?」
「まぁね。幻っちゃあ幻だよ」
「そうじゃな。我は既に亡きもの扱いじゃからな」
「い、いえ。そういうつもりでは」
姫―――蓬莱山輝夜が口を開く。
蓬莱山―――月の一級貴族で在り、皇族。
一介の国津神の自分に詳しくは分からないが、なんでも伊邪那岐上皇または月夜見王の親族名字という噂だ。
「良い良い。久しいな御二方。そちらの三名は先の宴会ぶりじゃな」
「「「「はっ!」」」」
「え? 何これ……こほん。そうね」
頭を下げる大国主と建御名方、八坂刀売、白面金毛九尾ノ天狐。
普段と違い、やんごとなき喋り方の輝夜に、霊夢は背中が痒くなった。
誰だ、アレ。
アレが本当に永遠亭の引籠り姫?
『もこたーん! エーリンが外出るなって喧しいのよ!』とか言ってる輝夜か?
「建御名方命。永琳から此方に来てると話は聞いておった。
何分、疑問もあると思うが、そちの思うようするがよいぞ」
「……いえ。別に」
一応、月の軍に在籍している以上、目の前の咎人を見逃す事は出来ないのだが……
「今の私は防衛隊中佐『建御名方』では無く、隣の神奈子の旦那の『建(タケル)』でございます。
月へ報告する様な蛮行、致しませぬ!」
「そうか……そちはどうする? 大国主」
サングラスをしたイケメン神がふふっと笑い、諸手を軽く挙げた。
「私も防衛隊大佐とは名ばかり。貴女並の罪人である私がどの面下げて月の輩に会えましょうか?」
「ふふふ、そうじゃな。御互い辛い身だのう」
「まったくです」
両人苦笑する。
「さて、永琳」
「はい」
何やらリモコンの様なものを取り出し、ボタンを押した。
部屋が暗くなり、机の上に立体ホログラムが浮かび上がった。
「うをっ! 凄い!」
「霊夢、恥ずかしいから黙ってろ」
「良い良い。霊夢……ちと頼み事をして良いか?」
「その口調止めてくれたら聴いてあげる」
やれやれと頬を掻く霊夢。
「アンパン買って来い」
てめぇブッ飛ばすぞ。
「冗談よ。イナバが行方不明なの。探してきて」
「……はいはい。報酬貰うわよ」
「ごめんね」
霊夢は察した。今からする話し合いに、自分が居てはいけない、と。
障子を開けて、飛び去った。
「待たせたな」
「いえ。では此方を見て下さい」
ボタンを押す。ボロボロの神社が映った。
「今から1時間前の映像です」
「此処は……出雲大社か」
「成程」
全員が頷く。要は大国主の封印が解けたのだ。
そして何らかの神降ろしでイレギュラーにより、諏訪子では無く彼が降ろされたのだと。
「しかし……何故出雲大社が?」
「その件は、これを」
新たな画面に切り替わる。数名の顔写真だ。
「月の本部の資料です。どうやらクーデターが起きたらしく、彼らが封印を破ったようですね」
「本部の資料って……アンタ何者だよ。マジで」
タケルが目を据える。
永琳は微笑み、無視して、話を続けた。
「ここで問題が二つ。
まずは、やはり、貴方の件ですね。大国主」
「ふむ。だろうね」
サングラスをクイッと上げる。
どうでもいいが、先程からてゐが大国主の一挙一動に感嘆の声を上げていた。
タケルが冷静に述べる。
「今頃、月のお偉いさん方は躍起になって親父殿を捜している筈」
「だろうね……」
「やれやれ。私は別に彼らと喧嘩をするつもりは無いのだがね」
肩を上げる大国主。
「仕方なかろう。そちに戦の意志は無くとも、存在自体が……争いの種じゃ」
「姫様」
「構わないよ、『 』。姫の言う通りだ。
まったく、私は聖人や指導者に為ったつもりは無いのだがな」
争いの種はいつも本人には関係ないところで生じる。彼もまた、その一柱である。
大国主は反乱の恐れがあるとして天津神の手により、出雲大社に封印されていた。
彼が何かを仕出かしたわけではないが、彼を慕う神々や人間達が天津神に反抗した為、『形式上』反乱首謀者である大国主が封印されたのだ。
所謂、制裁。
「相変わらず下らないね。月の連中は」
「八坂の言うとおりじゃ。しかし、父を含め月の偉神らは地上の者共に政権を取られる事を何より恐れておる」
「ふむ……あ、『神奈子』でいいですよ。『姫』様」
「ふふ、そうじゃな。そちも『輝夜』で構わぬぞ。八雲もな」
「はい」
正直、ムズ痒くてしょうがなかった神奈子と藍。
ギャップ激しすぎるだろ……この姿、妹紅に見せてやりたい。
そんなことを思っていた時、障子が開いた。
「ゴメン。遅くな……りましたわ」
「紫、貴女も座りなさい」
「え、ええ」
八雲紫復活。
一同の重々しい雰囲気を酌んで口調を直した。
「えっと……何がどうなったか、教えて頂けませんこと?」
「紫様、そのですね……また、失敗です」
まぁじで。
「……また、失敗したのね。はぁ」
「気を落とさないの。多分、今回の原因は貴女達の所為じゃないから」
永琳にフォローされるが、こうも失敗続きだと立ち直れなくなりそうだ。
兎角、気を取り直し、目の前の問題に向かった。
「おや? 其処のお嬢さんは、初めて見るが」
「え……誰、そこのイケメン。あと輝夜、なんでそんな恰好してるのかしら?」
昔から友人に言われる。
『メリーは空気読めないんじゃないの。空気を壊すのよ』って。
「ふふっ。面白いお嬢さんだ」
サングラスを外し首を垂れた。
「日本の大地を司る神、と言えばわかるかな」
「……カッコいいいい痛い! 藍、抓らないで!」
「空気、読め。あと……」
「ご、ゴメン!」
浮気は、ユルシマセン。
「こほんっ……失礼。私、幻想郷の管理者をしております、八雲紫でございます。
ようこそ楽園へ……大国主様」
「ああ、お邪魔している。固くならないでくれ、藍君もね」
白い歯。眩しい笑み。並の者なら完璧に墜ちるだろう。
永琳が話を戻す。
「丁度いいわ。これから彼をどうするかだけど」
「え、ええ」
天井から黒板が降りてくる。どんなカラクリだよ……
「まず、候補としては……」
①幻想郷に留める。
②『外』に帰す。
③魔界、天界、法界等別世界に移って貰う。
永琳は白チョークで達筆に書いた。
「最初に……大国主。貴方は如何したいかしら?」
「私は皆の意見に任せるよ。居候の身だ」
「そ。じゃあ、姫」
輝夜は少々考え込み答えた。
「①……はできぬ。そちほどの者が此処に居れば何れ見つかるやもしれぬからな」
次は神奈子、と永琳はふった。
「③かな。輝夜姫の言うとおり、幻想郷(この世界)は完璧な隠れ家ってわけじゃ無い。
現に……『義姉貴』にゃ、お見通しだ。これは言ってなかったが……」
紫の方を一目見て、言った。
「『義姉貴』から、手紙が来た」
「な、なんですって!? 神奈子! アイツ、幻想郷に来たの!?」
「落ち着け。来たわけじゃない……ただ、豊姉(とよねえ)は知っての通り、神隠しの論理を理解している。
流石に自身の博麗大結界越えは出来ないが、手紙一枚落とすくらいなら、な」
紫の顔が青褪めた。
これは当初の憂いが本格的になって来た。月との大戦は思ったより近いかもしれない……
「ほう。豊から、とな。その文、いずれ見せてはくれまいか?」
「構いませんよ。別に戦争云々といった内容じゃありませんから。
ただ、その……恥ずかしながら、引越祝いの連絡でした」
ガンッと机に頭を打つ紫。なんだそれ……
「はは。『御元気ですか。私達は元気です―――』ってな感じでした。
まったく、いつまでもガキ扱いして……恥ずかしいったらありゃしない」
「ふふ、良い御姉さんじゃないか」
「そういえば、よっち(依姫)から渡してくれって頼まれてたモンあったけど、忘れてたな」
「やれやれ、タケル。お前は少し雑すぎるよ」
「言うなよ、親父」
あははと笑う神連中。ついてけない……紫は頭を抱えた。
「さて。では建御名方。貴方は?」
「んー……俺は此処の住人じゃないからなんとも言えないが……
『外』は、拙いだろうな。トヨ(豊姫)やよっちに見つかる。
アイツらは親父殿が莫迦なことする様な神じゃないって分かっちゃいるんだが、肩書き上、月の重役だからな。
俺も今や重役だが……ま、親売る様な真似はできんな」
国津神でありながら、実力のみで中佐までに昇りつめた男、建御名方命。
無論、天津神では無く犯罪者の息子、そして放浪癖の三貴柱の孫という理由で周りの連中から疎まれてはいた。
しかし彼が実力者、そしてその正義感の強い性格であると知っている者は彼を蔑ろになどしない。
現に綿月姉妹、一戦交えたことのある建雷、更にはそう曾祖父である伊邪那岐上皇なんかは彼の功績を認めている。
「①、匿って貰えるなら……匿ってやってくれ。迷惑をかけるだろうが。頼む」
深く頭を下げる。息子の鏡だろう。
「ふむ。良い息子じゃな」
「まったく、誰に似たのでしょうね」
微笑む輝夜と大国主。
「では、八雲」
「え、ああ……幻想郷は全てを受け入れますわ」
それでは決まり―――
「ですが、それはそれは残酷なこと。
申し訳ありませんが、先の神奈子の話を聞いた以上……置き辛い」
「紫!」
「構わないよ……管理人の意向なら、それが優先だ」
紫はバツが悪かった。
がしかし、幻想郷の平和を維持する為には仕方の無い事。
「②か③ですわね。一応、魔界と天界の御偉方となら話を付けられます。
②であっても、藍の実家や紅魔の領内。
妖怪の下で宜しければ、米国のベアードとぬらりひょん御大将の所もありますわ。
いずれにしろ日本の神々が簡単に手の出せない場所」
「貴女の実家は?」
永琳が告げる。紫と藍は目を丸くした。
「……何の事か、分からないわ」
「ここで惚けても無駄よ。私と姫は既に知っている」
「……」
ばれている。
紫は考えた。此処の連中らに『正体』をばらしていいものかと。
……ダメだ。
「兎角、分からないわね……でも、確か『ギリシャ』にも知り合いはいたわ。
そこなら神でも過ごし易いでしょうね。
ただ教会や主義者達が喧しいですが、貴方ほどの神なら大丈夫でしょう」
「紫様……」
「これ、永琳。意地が悪いぞ。すまぬなスキマ」
スイマセンと悪気無しに謝る永琳。『紫』はいえ、と首を振る。
では、と永琳が自分の意見を述べようとした時。
「あ、あの!」
「……てゐ。発言を許した覚えは無いわよ」
てゐが手を上げた。しかし永琳に一蹴され肩を落とした。
「良いじゃろ、永琳。因幡、申してみよ」
「あ、ありがとうございます! そ、その……」
輝夜の好意に甘え、てゐは告げた。
「う、永遠亭(ウチ)で身柄を保護しては、どうかな……と」
「たしかに永遠亭(此処)なら見つかる恐れは無いな」
藍が頷く。
「部屋は有りますし! 御世話だって……その……私が、しますし……」
「ふふ、優しいな。てゐ君は」
「そ、そんな!」
明らかに乙女のソレ。
輝夜はニヤニヤしていた。噂には聞いていたが、こりゃベタボレだな。
「姫様が良ければ、ですけど……」
「我は構わぬぞ。確かに、そちの御蔭で永遠亭(此処)が隠れていると言っても過言では無いからのう」
そんなと照れくさそうに頬を掻くてゐ。
元々永遠亭はてゐの土地。相互関係により輝夜、永琳と協定しているのだ。言ってしまえば、三人は対等な関係でもある。
もしてゐが永遠亭から居なくなれば、あっという間に月に見つかってしまうだろう。
「永琳。そちの意見を聞こうか」
「では……私個人の意見ですが、②です。
付け加えるなら、月に身柄を渡すべきかと」
一同、硬直。
「お、お師匠様!!」
「な、何を言っているんだ。八意」
「てゐ黙ってなさい。
あと神奈子。悪いけど、これは貴女と建御名方の所為よ」
「何!?」
今一度、リモコンを持ち写真を映し出す。
「実はこの写真のクーデター派。既に皆捕まった様なのですが……彼らとは別に、この写真を見つけました」
一枚の写真が映される。
見知った顔だった。
「「す、諏訪子?!」」
「ええ、その通り。そして、これを見て」
再び出雲大社の映像。まだ大国主が封印されているようだ。
そこに映っていたのは……諏訪子と月の防衛隊だった。
「一体何が?」
「黙って見ていて」
なにやら諏訪子と一柱の女性が口論しているようだ。
「依姉……」
「次よ」
諏訪子が跳んだ。そして―――
「「「「「なっ!?」」」」」
「……ほう」
―――鉄の輪で注連縄を切った。
直後、神降ろしの光。諏訪子は避け、大社に直撃した。
一方、防衛隊は……
「あれは、日像鏡(ひがたのかがみ)……」
「依姫……隊を守る為に。無茶しやがって……」
神奈子とタケルが目を伏せる。
光が収まり、大社が崩壊していた。そして、依姫は……
永琳はここで映像を止めた。
「紫、一つ質問よ。貴女」
「違うわ。クーデター派とは供託してない」
「では、何故出雲へ諏訪子を落としたの?」
諏訪大社に落としていれば、このような事態にならなかったものの。
「特に理由なんか無いわ。敢えて言うなら、今、諏訪は来年の御祭の準備で忙しい。
だから、あまり現地のマナを傷つけたくなかったから、かしら。
出雲にしたのは神降ろしが、し易い。それだけの理由よ」
「嘘は無いわね」
「嘘だったら、被研体にでもしていいわ」
真顔で答える。
ではしかし、何故諏訪子はこんな真似をしたのだろうか。
永琳は続きを再生した。
暫時、海と山が『繋がり』別働隊が現れた。
「トヨか。本部のお出ましだな」
「ほう。永琳、豊もやるようになったのぅ。私に泣かされておった頃が懐かしい」
「はい。しかし、この空間転移見事ですね」
これまた紫は焦った。自分のスキマ計算と同等、いやそれ以上かもしれない。
「藍……帰ったら紅魔卿とB.B(ベアード)に連絡を」
「……分かりました」
映像は続く。
殆ど収束はつき、現場には諏訪子と豊姫だけが残っていた。
何やら話し込んでいるようだ。
諏訪子が酒を注ぐ。豊姫の分も注ぎ……弾かれた。
直後―――
オオオオオオオオー――――ン……
―――禍々しい圧力が辺り一面を覆う。
「こ、これは……」
「紫様! アイツが暴れ出したら、博麗結界なんて一溜りもありませんよ!」
八岐大蛇。
嘗て国呑みとまで恐れられた大蛇。大国主の父であり、建御名方の祖父である須佐皇命により退治されたはずである。
日本の屈指の凶暴妖怪、いや既に神格が有ると言っても過言ではないだろう。
「……諏訪子が起こしたのかい」
「その様ね」
此処で映像が切れた。
どうやら電波ジャックに気付かれたらしい。
「彼女が何を考えているか分からない。しかしこれだけは言える。
今、彼女は幻想郷の『敵』よ」
「え……」
障子が開いた。一人の、少女。
「さ、早苗!」
「え、あ……嘘、ですよね」
「何時から、聴いてた!?」
一歩退く。
「諏訪子様が……まさか、だって今日は私に協力してくれて……
神降ろしも……諏訪子様が、憑依して……」
「ッ!? すまない、外す! 早苗、来い!」
「え……」
早苗の手を引き、部屋から出ていく神奈子。
気まずい空気が部屋に残った。
* * * * * * * *
「神奈子様……諏訪子様は」
「早苗。いいか、さっきのはあくまで推測だ。アイツがそんな莫迦な真似するわけがない」
神奈子が中庭の一画で放心状態の早苗を宥めていた。
早苗は先の言葉、そして映像が信じられなかった。
ある種の裏切りを感じる。
「だって……光に入らなかった……諏訪子様、光を避けて……私を避けて……」
「違うッ! 違うんだ……」
言葉が見つからない。
勿論、諏訪子は早苗を避けたわけではない。しかし、音声の入らないあの映像だけではそうにしか見えなかった。
「きっと、何か考えがあって……」
「……」
目の光が戻らない早苗。
神奈子は唇を噛んだ。どうして……あの莫迦は……
「アンタら、何やってんの?」
上空から、二つの影が降りてくる。
霊夢と鈴仙だ。
「……ちょっと、な」
「ふーん……早苗、どったの?」
霊夢はお構い無しに付け込む。
神奈子が、おいと止めるがそんなの関係無い。
「諏訪子様が……裏切って……」
「は?」
そして早苗は、泣き出した。
抱きつかれアタフタする霊夢。
「ちょ、ちょっと!?」
神奈子に助けを求める、が彼女もまた目を伏せて何も話そうとはしなかった。
「新参助けてよ!」
「新参言うな! そいつらより古参だ! ついでにアンタよりもね!
ったく……」
幻想郷で、という意味だが。鈴仙は早苗の目を見て、『麻酔』をかける。
ストンと気を失う早苗。神奈子はありがとうと呟いた。
「んで? 何があったの?」
「ウドンゲ」
「あ、師匠。只今。
まったく……てゐったら酷いんですよ。危なく地底の連中にトッ捕まるとこでした」
「それは災難だったわね」
どんだけ掘ったんだ……
「話があるわ……霊夢。貴女ももう部外者にはできない。
来なさい。神奈子もよ」
三名は早苗を寝かせた後、客室に移動した。
「待たせたわ」
「ん」
重々しい空気。
特に鈴仙はいつもとは違う様子の輝夜、そしててゐの様子に違和感を感じていた。
その原因は座っている二柱の男性の所為だろうと察す。
片方は見たことある。旧御主人様と仲が良かった神だ。
もう一方は……
「大国、主」
「ん? 君は……玉兎の様だね」
いやでも知っている。
なんせ軍学校の教科書で三回は出てくる名だ。顔写真だって載ってる。
加え、てゐに耳にタコができるくらい聞かされてきたのだ。
「早速だけど……鈴仙、今から月の波長をキャッチして」
「はい? 何故……あ、いえ。わかりました」
師匠に睨まれ、それ以上何も聞けなくなった。
やれやれと耳を立てる。
「あ、待って」
「はい? って、ぎゃああああ!」
片耳ひっこ抜く永琳。そして何かよくわからないアダプタを耳跡に挿し込んだ。
「続けて」
「うう……せめて一言……」
鈴仙は電波ジャックを開始した。
「―――、――――――、――……あ、波長変わってる。師匠、ブロックが凄いです」
「ちょっと待って」
電子画面に何やら打ち込む永琳。
机のホログラムの方に鈴仙がキャッチした映像が映し出された。
現在は砂嵐。
「―――、――、――――、-……これでどう?」
「あ、来そうです。えっと……――――――、―――・―――――、―――」
『月面都市・官務庁本部・トップページ』
「……マジかよ。おっかねえなぁ」
「同感ですわ」
タケルと紫が呆れる。
一方は月のセキュリティ面を。他方は永琳の天才っぷりに。
「師匠。誰ので、ログインします?」
「んー……建御名方。貴方のID教えて」
「……悪用するなよ」
「何を今更」
タケルは立ち上がり、自身でディスプレイにID、パスワードを入力した。
メールと伝言メッセージが幾つか入っていた。
……どれも未読。
「アンタ……業務メールも見ないで、どうやって仕事してんの?」
「めんどいんだよ、PC開くの。よっちかトヨが直接伝えに来るからいいの」
なんて、人間臭い会話。ホントにコイツら神様かよ……
「新着……このメールっぽいですね。
件名『クーデター派鎮圧任務』。内容も……それらしい」
「ふむ、莫迦な連中だ」
「……自分を助け出そうって連中に対して、随分じゃ無い」
霊夢が大国主の呟きに毒づく。
紫に睨まれるが、知ったこっちゃない。
「ふふ、そうは言ってもね。私は戦は好かぬよ。社の中でも満足していたさ」
「あっそ」
「ただ……私も簡単に捕まる気は無いよ」
霊夢は思った。
ああ、コイツとはウマが合わないなと。
自分が知る男連中は数えるほどしかいないが……コイツはダメだ。何処か、歪んでいる。
あと、『勘』だが、嘘が多い臭いだ。
「ふふ。流石霊夢じゃのう。神をも恐れぬ所業とは当にお主の為にある言葉じゃ」
「お褒めに預かりありがとう。輝夜、アンタその口調やめろつってんでしょ」
「ククク。やはり紅白の人間は好きじゃ……ええ、貴女と妹紅には表裏無しで付き合えるわね」
「ったく、とんだ箱入り狸」
「貴女は野良猫ね」
どこか楽しそうな輝夜。
紫と藍はヒヤヒヤさせられっぱなしだった。
絶対、後で説教だ。此のアホ巫女。
そんなやり取りを後目に、鈴仙は一つの伝言に目を点けた。
「あ、豊姫さ……少将からの、伝言があります」
「開いて」
嘗ての主人の声。鈴仙は、気まずかった。
『中佐、緊急です。今すぐ本部へ来て下さい。クーデター主謀の容疑がかかっています』
「は? 俺が? なんで?」
「単に息子だからって理由でしょ。豊姉だってわかってるわよ」
伝言は続く。
『貴方で無いと信じているわ。でも……何か嫌な予感がするの。
早く戻って来て。休暇中に、ゴメンなさいね。兎に角、顔を出して安心させて』
「ね?」
「ふむ」
「続けますよ」
鈴仙が促す。神奈子とタケルは頷いた。
『これは信頼のおける部下からの垂れ込みですが……
今回のクーデター、純血派の連中らが彼らを刺激したようなの。
近いうちに、大国主を処刑するとね。まったく、在りえない事を』
「……チッ。また、奴らか」
純血派。
天津神を中心とした懐古保守主義の集まり。
「父上……莫迦な事を」
「ウドンゲ。地上の穢れを謳う彼らが、どれだけ非道か分かったかしら」
「……」
月に居た頃には見えなかったものが、今こうして見える。
それだけ洗脳甚だしかったのだ。月の軍才教育は。
『貴方が来てくれれば、彼らを説得できる。
お願い、急いで! あと―――、おみ――――、き――――――、――』
「あれ、また波長が……」
「おかしいわね」
永琳は再び画面に打ち込んだ。
しかし直らない。それどころか……
「し、師匠! 何者かに、ジャックされます!」
「何ですって!?」
画面に何者かの影が映った。
『―――……ふふふ』
* * * * * * * *
〈Side.月〉
「少将! キャッチしました!」
「……貴女の言うとおりでしたね」
納得いきませんがと豊姫は目線だけ、後ろで腕を組む土着神に向けた。
クククと笑う諏訪子。
「なーに。アイツらなら、奴(建御名方)の回線を使って入りこんで来る。分かっていたさ」
何故、諏訪子が月本部に居るかというと、事件の重要参考人として連れてこられたからだ。
どちらかというと『付いてきた』と言った方が正しい。豊姫は連れて来たくは無かったが、仕方が無い。上からの指示だ。
しかも依姫の件は不問。なんと客人扱いである。
何やら密談をしていたようだが……
(……中将連中は何を考えているの)
どうせ自分達穏健派の失脚を狙っているのだろうが、なってたまるか。
豊姫は唇を噛み、諏訪子に問うた。
「して、どうする気です」
「逆探知に成功したら、カメラを私に。何、ちょっとした挨拶だよ」
「……」
今は、全権が彼女にある。一体、純血派と何を交渉したのだ。
「逆探成功! カメラ、入ります!」
「ふふふ……いよいよだね」
カメラとマイクが入る。
* * *
〈Side.両〉
『―――……ふふふ。ごきげんよう、幻想郷の諸君』
「「「「デ、デ○ラー!!」」」」
紫、神奈子、タケル、輝夜。
「……藍。アイツら何言ってんの?」
「言わんでくれ。頭が痛くなる」
これが神と幻想郷の屈指の実力者なのだから困る。藍は黙って紫の頭を叩いた。永琳も輝夜の頭を叩いた。
お構い無しに、イエーイと親指を立てる4名と○スラーこと諏訪子。
お前ら仲良いな……他の面々は呆れた。
『御決まりの言葉どうも。さて本題だが、そこに大国主が居るな?』
「私だが」
『あ、ごめん。そっちのカメラ奴に向けて』
カメラって?
「鈴仙」
「はいはい」
お前がカメラかいと心で突っ込む一同。
『見えた見えた……さて今、月ではお前の事を躍起になって探している』
「分かっている」
『大人しく捕まれば、幻想郷及びクーデター派の安全は保証しよう。と連中は言っているのだが』
「何を言う」
だよねと微笑む諏訪子。
そうだ、そうしてくれなきゃ『ゲーム』ができない。内心ほくそ笑んだ。
「諏訪子!」
『おや、八坂刀売乙女。お前も居たか』
まるで他人行儀。
しかもコイツ分かってやってるな。神奈子は唇を噛んだ。
『旦那と布団で戯れていると思ったが、流石に事態が事態だったか』
「クッ! アンタ、自分が月の連中に利用されてるって分からないの?!」
『ククク、それはどうかな。奴らは賢いよ。話の分かる奴が多い』
「アンタねぇ……早苗がどんな思いか!」
『ああ……あの子には悪いことしたと思ってるよ。そこに居るの?』
「……寝かせてるよ」
気まずそうに頬を掻く諏訪子。これは本心だ。
『まあ、いいさ。利用した事は後で謝るとして』
「……おい。なんつった」
一同が声の先を見る。
「れ、霊夢」
『おや? 博麗。居たのかい?』
「諏訪子……アンタ、なんつった」
博麗の巫女。
「利用? 早苗を? それで、泣かせたの?」
『あー……だから悪かったって』
「ふざけんなっ!」
机を叩く。
『……何故、怒る。守矢(身内)の問題だろう』
「身内だぁ? アンタ、何様よ! 友達(ダチ)が泣かされた! キレる理由なんてそれで十分よッ!!」
『神様だが。ほう……良い目をする。流石、祟り神の神社の巫女だ』
「黙りなさい! あと……『アイツ』は博麗(ウチ)の神なんかじゃないわ!」
「霊夢……」
画面の諏訪子を睨む。
守矢の二柱は不本意ながら嬉しかった。
早苗は良い友を持った、と。
「アンタはこの博麗霊夢がブッ飛ばすッ!」
『ふふ、やってみろ。人間……』
不敵に微笑む曲神。
『建御名方、神奈子……久しぶりに、ゲゲル、だ』
「「な!?」」
二柱が目を見開いた。
彼女たち以外が首を傾げる。ゲゲル? なんだそりゃ?
『私は手駒に……化け物を手に入れた。多分、もう知ってるんじゃないか?』
「……何の事だ」
『なんだ? 気付いて無かったのか? お前は分かるか、八意』
「真逆……ッ?! 本気なの!?」
真っ青になる永琳。
「貴女……手懐けたというの?!」
『いやぁまださ。でも時間の問題だね。ミシャクジ達よりはじゃじゃ馬だが、所詮蛇。
酒と私の力で懐柔可能さ』
「永琳、どういう事じゃ?」
輝夜が首を傾げる。
永琳は静かに、そして怒気を込めて告げた。
「八岐大蛇……ッ!!」
「なんですって!?」
成程。純血派が諏訪子を受け入れるはずだ。
元々諏訪子のカリスマは恐怖政治によるもの。
月の輩は八岐大蛇という屈服兵器と諏訪子の頭脳を買ってこの一件を任せたのだ。
* * *
(汚い……これが上のやり方だって言うの)
豊姫は認めたく無かった。同じ月人がこのような非道な真似を……
「少将! 新たな指令書です!」
「回して」
豊姫は送られてきた任務を確認した。
「なっ!?」
「丁度良い。豊姫、それを読み上げろ」
カメラが豊姫に向く。
「……『これより洩矢諏訪子指令の下、第一級封印指定神・大国主を』……クッ」
「どうした? 読め」
唇を噛む。血が出た。
「トヨ……」 「豊姉……」 「豊姫……」
誰かが嘆いた。
「『如何なる手を用いても、封神せよ。 尚、王の勅命である』と……」
「だってさ。勅命じゃあ、やらないわけにはいかないね」
一同、息を呑んだ。王……
「月夜見様だと?! 莫迦な!?」
「相変わらず、野心家なのね。彼は」
永琳は頭を抱えた。
「というわけで私の好きにできるって事だ。
『ゲゲル』だよ……勝負だ。八雲、八意、神奈子……そして博麗!」
「『ゲゲル』だか、ゲバルだか知らないけど……」
霊夢は立ち上がった。
「言ったでしょ。ブッ飛ばすってね!」
「ククク。ああ、やってみろ!」
そして火蓋は落とされた。
そういや草薙がありましたねぇ…尻尾から出たやつか…
よかろう、答えてやる!
続きが見たぁあい!!
そして大国主の声がもう○い彗星の声で再生されるw
彼女たちの関係は、神主もどう考えているか気になるところですよね。
輝夜と諏訪子がかっこいいですねえ。魅せてくれます。
続きを楽しみにしてます!
この話が終わったらみとり編だといいなぁ
なんて言ってみたり
デ○ラーネタにびっくり。
唐突に切れた霊夢にびっくり。早苗とそんなに仲良かったのかw
霖之助にも意外な過去が?!ってそういえばあれ持ってましたね。彼。
輝夜の顔も見知っていた建御名方が、永琳のことは誰だか気付かないと言うのもどういう理由があるのか気になりますね。
首を長くして次回を待ってます。
・3番様> 本当はギャグを書きたいんです! しかぁし、技量が無えぇのです!
・4番様> ぃヨッシャーッ! 頑張りますぜぇ!
・7番様> ばれた……だと……ッ! 時期的に4番目の頃の彼ですね。
・道具屋様> 公私を混同しちゃ、カリスマは謳えません。私から言わせれば高貴な方って須くニートか、ヒモですよ!
・9番様> かなこさんじゅうななさい。よりひめさんじゅうはっさい。とよひめさんじゅうきゅうさい……かぐや氏じゅっさい。えいりん氏じゅうななさい。
・10番様> 彼には出てもらわねば、後々の伏線に繋がらないのです。無理やりにでも。
・11番様> んー……もうちっと。ま、どっかでミニ出すかもですw
・12番様> ウヒヒ! いいセンス(妄想力)ですなぁ!
・14番様> デス○ーネタ通じてよかった。皆さん知らないかと思ってヒヤヒヤ。
熱い霊夢がいたっていいのだ!(言い訳乙ww)
彼は頑張ってもらいます。はい。
・15番様> 後から考えてしまうとあっちゃーって思うようなこともありますが……
ま、月もある種『組織』です。一枚岩ではありません。
健御名方は綿月姉妹(神奈子含む)と幼馴染と考えてください。
あと輝夜は私の中では『王族』、故に顔は知れ渡っています。
永琳は有名ですが軍属ではなく、タケルと会う機会が無かった。と考えてください(言い訳乙)。
以上。残りは実家から上がってきてからうpなので、4日辺りになります。
たくさんのコメ感謝です! では!
そして諏訪子さまは一体何がしたいのか?
凄くわくわくしながら続きを楽しみにしています。
構成もやや甘く、また原作のキャラクターたちに違和感があり、別の作品のキャラのように感じます。
タグに付いているのでオリキャラ・オリ設定はばっちこいですが、あまり風呂敷を広げすぎると回収が大変そうですね。
ただ、神々の設定や逸話などをきちんと調べ、そこにオリジナルのスパイスを加えてから書いている事が伺えますし、
月の姉妹や神降ろしを題材とした作品はそもそも数が少ないので希少価値もあります。
そのあたりを評価してこの点数にさせていただきました。
頑張ってください。
諏訪子さんは……どうしよう(オイwww
21番様> 厨二は褒め言葉、です、多分……構成が甘いのは許して頂きたいです。文才が欲しい。
綿月姉妹や神降ろしは扱ってみたい話だったので、はい。今後も頑張りたいと思います!