Coolier - 新生・東方創想話

ゆれる、ゆれた

2009/12/31 19:11:30
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 足の先からゆっくりとお湯に沈んでいくと、ちゃぷりと音が鳴った。
「んー……、寒い」
 ほんの少しだけど体が震える。鳥肌も立った気もするし。
「あたたかいの間違いじゃないの?」
「体があたたまる時って、一瞬寒くならない?」
「蓮子だけでしょ、それは」
 そんなことはないと思うけど。
「来て良かったわね、蓮子」
「そうねぇ。これで日帰りじゃなければね」
「仕方がないじゃないの。もう少し予算があれば良かったんだけどね」
 ああ、夢も未来もない。
「それを言うなら希望もない、よ」
「未来という希望がないのよ、きっと」
「自分が言った言葉を他の人が言った様に言わないの」
「パンドラさんの箱に残った災厄も、本当は未来だったって言うし」
 たしか、未来がわかってしまうのは不幸なことだとかなんとか。
「希望でも未来でもなくて、気のせいよ。繰り返し繰り返すデジャヴを過去ではなく未来だと感じてしまう、その予知なんて気のせいが不幸だと」
「どこかの詩人が言ったような三文話ね」
「蓮子よりは夢見る乙女だもの」
「自分でそういうこと言わないの」
 それに、メリーが夢なんて見たら、あっちに行っちゃうかも知れないじゃない。
「……あー」
「おじさんくさい」
「だって出るんだもの、声が」
「じゃあ、出す言葉を変えるとか」
 言葉を変える、ねぇ……。
「ざー」
「ざー」
「なんかノイズっぽい」
「もっとこう、女の子らしく、かわいい言葉でいけないかしら」
 かわいい言葉、か。
「……きゅるん?」
「きゅるん」
「きゅるぅん」
「きゅるる」
 ああ、体から疲れが抜けていく。
 それと同時に、知力までも抜けていく。
「きゅる(いい景色ね)」
「きゅぅ……(そうねぇ……)」
「きゅうるる(泊りにすればよかったわ)」
「きゅる、きゅきゅる?(そんなに、泊まりたかったの?)」
 そこまでは泊まりたいというわけじゃないけど、
「こういう思い出も大事だと思ったから」
 いのちみじかし、なんてね。
「なら恋でもしなさいよ」
「故意に恋してもつまらないじゃない」
 生き急ぐというよりも、三十路で独り身が焦ってるみたいなものだし。
「恋愛の愛よりは親愛の愛の方が今の私にはあってるからね」
「……そういうことは言わないの。恥ずかしいから」
「恥ずかしいかな?今の」
「青春ドラマのくさい台詞みたい」
 ああ、それは恥ずかしい。
「それに、言わなくたって、わかるもの。それなりに、私もこうやって遊んだりするのも大事だと思うから」
「……でも、裏を返せば独り身で淋しいだけなんだけどね」
「それこそ言わなくていいことよ。それと、さっきと言ってること違うじゃないの」
 真実から目を背けないことも大事じゃないの、だって。
「来年は、今年より良い年にする、きっと」
「今より良い日なんて思い浮かばないわね、私は。温泉なんて、滅多に来れないし」
「メリー、お婆さんみたい」
「沈めるわよ、蓮子」


 カンカンカンカンと遠くの方で音が鳴る。電車の踏切が降りて、もう少ししたら、このホームに車両が入るのだろう。
「もう、あと数時間で今年も終り、なんて考えるとちょっとせつないような」
「ほんの少しね。でも、何にせよそれは繋がった明日なんだから」
 ガタンとゴトンと二つの音をさせて、電車が目の前を進み、止まった。
「ちょっと早いけど、良いお年を、蓮子」
「うん。メリーもね」
「私はいつだって良い日だもの」
「そうね、メリーお婆ちゃん」
「突き落とすわよ」
 とん、と車内に足を掛ける。
「じゃあ、メリー、また来年」
「だから、ちょっと早いわよ、言うのが」
「最初に言ったのはメリーじゃないの」
「まあね」
 シュゥとドアが閉まる。
「じゃあ、帰りましょうか」
「そうね。残りの今年を終わらせに」
 椅子に座るのを見計らった様に、電車が動き出した。
 ああ、今年も短かったなぁ。まだ、終わったわけじゃないけど。
良い今年を
来年のことは来年に考えないと、鬼に笑われそうなので
まあ、それでも、言っとくべきか
良いお年を

――――

 がたん、ごとん、がたん、ごとん。
 揺れる電車の真ん中の椅子に、宇佐見蓮子は座っていた。
 ぼぅと天井を眺め、振動に任せている。
「……めりぃ」
 ぽつりと呟いた言葉を聞く人はいない。
 車内に、彼女と運転手しかいないのもあるが、声が小さすぎたからだ。
 彼女の隣には、誰もいない。

 マエリベリー・ハーンはいなかった。
 せかいのどこにもいなかった。
◆ilkT4kpmRM
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コメント



0.310簡易評価
3.50名前が無い程度の能力削除
えっ?
4.30冬。削除
貴方が何をしたかったのか、考えながら読み返しました。
すると、もしかしたら、メリーは蓮子の―――って、思えました。
それが合ってるのかどうかは、曖昧過ぎて分かりません。
意図してる事を伝えられてないと思います。
5.40名前が無い程度の能力削除
6.90名前が無い程度の能力削除
自分はこういう話好きだね。
読み手によって、内容や印象が変わってくるところがあるかも知れないけど、それがまたいい。