足の先からゆっくりとお湯に沈んでいくと、ちゃぷりと音が鳴った。
「んー……、寒い」
ほんの少しだけど体が震える。鳥肌も立った気もするし。
「あたたかいの間違いじゃないの?」
「体があたたまる時って、一瞬寒くならない?」
「蓮子だけでしょ、それは」
そんなことはないと思うけど。
「来て良かったわね、蓮子」
「そうねぇ。これで日帰りじゃなければね」
「仕方がないじゃないの。もう少し予算があれば良かったんだけどね」
ああ、夢も未来もない。
「それを言うなら希望もない、よ」
「未来という希望がないのよ、きっと」
「自分が言った言葉を他の人が言った様に言わないの」
「パンドラさんの箱に残った災厄も、本当は未来だったって言うし」
たしか、未来がわかってしまうのは不幸なことだとかなんとか。
「希望でも未来でもなくて、気のせいよ。繰り返し繰り返すデジャヴを過去ではなく未来だと感じてしまう、その予知なんて気のせいが不幸だと」
「どこかの詩人が言ったような三文話ね」
「蓮子よりは夢見る乙女だもの」
「自分でそういうこと言わないの」
それに、メリーが夢なんて見たら、あっちに行っちゃうかも知れないじゃない。
「……あー」
「おじさんくさい」
「だって出るんだもの、声が」
「じゃあ、出す言葉を変えるとか」
言葉を変える、ねぇ……。
「ざー」
「ざー」
「なんかノイズっぽい」
「もっとこう、女の子らしく、かわいい言葉でいけないかしら」
かわいい言葉、か。
「……きゅるん?」
「きゅるん」
「きゅるぅん」
「きゅるる」
ああ、体から疲れが抜けていく。
それと同時に、知力までも抜けていく。
「きゅる(いい景色ね)」
「きゅぅ……(そうねぇ……)」
「きゅうるる(泊りにすればよかったわ)」
「きゅる、きゅきゅる?(そんなに、泊まりたかったの?)」
そこまでは泊まりたいというわけじゃないけど、
「こういう思い出も大事だと思ったから」
いのちみじかし、なんてね。
「なら恋でもしなさいよ」
「故意に恋してもつまらないじゃない」
生き急ぐというよりも、三十路で独り身が焦ってるみたいなものだし。
「恋愛の愛よりは親愛の愛の方が今の私にはあってるからね」
「……そういうことは言わないの。恥ずかしいから」
「恥ずかしいかな?今の」
「青春ドラマのくさい台詞みたい」
ああ、それは恥ずかしい。
「それに、言わなくたって、わかるもの。それなりに、私もこうやって遊んだりするのも大事だと思うから」
「……でも、裏を返せば独り身で淋しいだけなんだけどね」
「それこそ言わなくていいことよ。それと、さっきと言ってること違うじゃないの」
真実から目を背けないことも大事じゃないの、だって。
「来年は、今年より良い年にする、きっと」
「今より良い日なんて思い浮かばないわね、私は。温泉なんて、滅多に来れないし」
「メリー、お婆さんみたい」
「沈めるわよ、蓮子」
カンカンカンカンと遠くの方で音が鳴る。電車の踏切が降りて、もう少ししたら、このホームに車両が入るのだろう。
「もう、あと数時間で今年も終り、なんて考えるとちょっとせつないような」
「ほんの少しね。でも、何にせよそれは繋がった明日なんだから」
ガタンとゴトンと二つの音をさせて、電車が目の前を進み、止まった。
「ちょっと早いけど、良いお年を、蓮子」
「うん。メリーもね」
「私はいつだって良い日だもの」
「そうね、メリーお婆ちゃん」
「突き落とすわよ」
とん、と車内に足を掛ける。
「じゃあ、メリー、また来年」
「だから、ちょっと早いわよ、言うのが」
「最初に言ったのはメリーじゃないの」
「まあね」
シュゥとドアが閉まる。
「じゃあ、帰りましょうか」
「そうね。残りの今年を終わらせに」
椅子に座るのを見計らった様に、電車が動き出した。
ああ、今年も短かったなぁ。まだ、終わったわけじゃないけど。
「んー……、寒い」
ほんの少しだけど体が震える。鳥肌も立った気もするし。
「あたたかいの間違いじゃないの?」
「体があたたまる時って、一瞬寒くならない?」
「蓮子だけでしょ、それは」
そんなことはないと思うけど。
「来て良かったわね、蓮子」
「そうねぇ。これで日帰りじゃなければね」
「仕方がないじゃないの。もう少し予算があれば良かったんだけどね」
ああ、夢も未来もない。
「それを言うなら希望もない、よ」
「未来という希望がないのよ、きっと」
「自分が言った言葉を他の人が言った様に言わないの」
「パンドラさんの箱に残った災厄も、本当は未来だったって言うし」
たしか、未来がわかってしまうのは不幸なことだとかなんとか。
「希望でも未来でもなくて、気のせいよ。繰り返し繰り返すデジャヴを過去ではなく未来だと感じてしまう、その予知なんて気のせいが不幸だと」
「どこかの詩人が言ったような三文話ね」
「蓮子よりは夢見る乙女だもの」
「自分でそういうこと言わないの」
それに、メリーが夢なんて見たら、あっちに行っちゃうかも知れないじゃない。
「……あー」
「おじさんくさい」
「だって出るんだもの、声が」
「じゃあ、出す言葉を変えるとか」
言葉を変える、ねぇ……。
「ざー」
「ざー」
「なんかノイズっぽい」
「もっとこう、女の子らしく、かわいい言葉でいけないかしら」
かわいい言葉、か。
「……きゅるん?」
「きゅるん」
「きゅるぅん」
「きゅるる」
ああ、体から疲れが抜けていく。
それと同時に、知力までも抜けていく。
「きゅる(いい景色ね)」
「きゅぅ……(そうねぇ……)」
「きゅうるる(泊りにすればよかったわ)」
「きゅる、きゅきゅる?(そんなに、泊まりたかったの?)」
そこまでは泊まりたいというわけじゃないけど、
「こういう思い出も大事だと思ったから」
いのちみじかし、なんてね。
「なら恋でもしなさいよ」
「故意に恋してもつまらないじゃない」
生き急ぐというよりも、三十路で独り身が焦ってるみたいなものだし。
「恋愛の愛よりは親愛の愛の方が今の私にはあってるからね」
「……そういうことは言わないの。恥ずかしいから」
「恥ずかしいかな?今の」
「青春ドラマのくさい台詞みたい」
ああ、それは恥ずかしい。
「それに、言わなくたって、わかるもの。それなりに、私もこうやって遊んだりするのも大事だと思うから」
「……でも、裏を返せば独り身で淋しいだけなんだけどね」
「それこそ言わなくていいことよ。それと、さっきと言ってること違うじゃないの」
真実から目を背けないことも大事じゃないの、だって。
「来年は、今年より良い年にする、きっと」
「今より良い日なんて思い浮かばないわね、私は。温泉なんて、滅多に来れないし」
「メリー、お婆さんみたい」
「沈めるわよ、蓮子」
カンカンカンカンと遠くの方で音が鳴る。電車の踏切が降りて、もう少ししたら、このホームに車両が入るのだろう。
「もう、あと数時間で今年も終り、なんて考えるとちょっとせつないような」
「ほんの少しね。でも、何にせよそれは繋がった明日なんだから」
ガタンとゴトンと二つの音をさせて、電車が目の前を進み、止まった。
「ちょっと早いけど、良いお年を、蓮子」
「うん。メリーもね」
「私はいつだって良い日だもの」
「そうね、メリーお婆ちゃん」
「突き落とすわよ」
とん、と車内に足を掛ける。
「じゃあ、メリー、また来年」
「だから、ちょっと早いわよ、言うのが」
「最初に言ったのはメリーじゃないの」
「まあね」
シュゥとドアが閉まる。
「じゃあ、帰りましょうか」
「そうね。残りの今年を終わらせに」
椅子に座るのを見計らった様に、電車が動き出した。
ああ、今年も短かったなぁ。まだ、終わったわけじゃないけど。
すると、もしかしたら、メリーは蓮子の―――って、思えました。
それが合ってるのかどうかは、曖昧過ぎて分かりません。
意図してる事を伝えられてないと思います。
読み手によって、内容や印象が変わってくるところがあるかも知れないけど、それがまたいい。