・この作品は作品集:92『かみさまっ!! ~旦那編~』と繋がっています。
しかし、神奈子様が『八坂刀売乙女』で更に『建御名方神』が旦那。そして、その旦那が幻想郷に遊びに来ている事を了承できる方は、このまま御読みになっても差し支えありません。
では、どうぞ……
* * * * * * * *
〈side.月〉
地球から望む事が出来ない月の裏側―――月面都市。
其処にある防衛塔・士官フロアの一室にて防衛隊隊長―――綿月依姫は、食後の御茶と洒落込んでいた。
地上の妖(穢れ)は好かぬが、良い茶葉には罪は無い。
数少ない趣味の一つ、茶葉集め。態々ルートを使い取り寄せているものだ。
「今日は……紅茶にしよう」
至福のときだった。
今日はもうこのまま休みたい。まあ、立場上、というわけにもいかないのだが。
御湯を沸かしている最中、通信が入った。
「はい。第7士官室」
「よっちゃーん、元気? お姉ちゃ」
―――プツン……
至福の時だ。何人たりとも邪魔されたくは無い。
―――Pii! Pii!
……無視無視。今は、このセイロンを―――
ドゴオォォォォォンッ!!
「……」
「無視は、無しよ?」
「御姉様。ドアは、壊すモノではありません」
来てしまった……
「あらあら。なんだか来ちゃダメみたいな顔ね」
「いえ……別に」
分かってるくせに。意地の悪い方だ。
「して、何用で?」
「んーとね……仕事手伝」
「却下」
即決。
「何よぅ。とよちゃん、泣いちゃうよぉ」
泣き真似を始める上官及び姉(義姉)―――綿月豊姫。
そんなことしてもダメなモノはダメだ。大体、仕事を溜め込む自身が悪いのだろう。どうしてそうルーズなのだ。
それに……
「何が『とよちゃん』ですか。御歳を考……いや、何でも有りません」
無言の笑み。師匠の笑みと同じくらいオッカネェ……
これ以上何も言えないので、大人しく豊姫の分も御茶を入れることにした。
「あら、ありがと。良い香り……アレでしょ。キリマンジェロ」
「貴女は紅茶とコーヒーの区別もできんのですか?」
頭を抱える。ダメだ、この神(ヒト)のペースに合わせると……疲れる。
「ウソウソ、冗談よ。それで……本題だけど」
『仕事』の顔になる。普段からこうしてくれればいいものの。
「何か?」
「いえ」
* * *
豊姫はディスプレイに数名の顔写真を映した。
「これは……国津神?」
「ええ」
神格は低いが、幾許かの見知った神の顔が有った。
「彼らがどうしました」
「ちょっと厄介事を、ね……」
「厄介、ねぇ。いつもの事でしょう」
月の神格の在る民々の殆どは天津神。正直なところ、国津の連中との仲は良好とは言えないだろう。
とはいっても、国津の中にもズバ抜けた実力者もいるので悪くは言えないのだが。
依姫は一通り顔を見、ある事に気づく。
「このリスト、後半世代ですか。しかも、女性が多い」
「須佐オジ様が降りた後の神(娘)達ね」
確かに。
須佐オジ様―――須佐皇命(スサノヲノミコト)様。月の王―――月夜見命(ツクヨミノミコト)様の御兄弟だ。
今は……行方不明。多分、地上に居るらしい。
王曰く、『放っといていいよ。てか、関与したくない。彼奴の件は姉上に一任してるから』だそうだ。
とかいう姉様―――天照大御神(アマテラスオオミカミ)様も、足取りが付かない。
一体何処に居るのやら……
話を戻す。
「して?」
「……気付かない?」
「ふむ」
と言われても。
「まあいいわ。数日前、その中の一柱を捕えたところ、クーデターを企てていた事が判明したの」
「クーデターねぇ。下らない……というか御姉様。
いえ、少将。そんな大事な話、一介の武官の私に話していいんですか?」
「命令が出たの、大佐」
真面目な仕事、か。
「『彼』の下に、そして監視を強めなさい」
一枚の写真を写す。
依姫は全て納得が言った。国津神、女神達、後半世代……成程、『奴』か。
二柱は準備急ぐ事にした。
* * * * * * * *
〈side.幻想郷〉
所変わって地球―――幻想郷、守矢神社の境内。
数名の人妖柱が集まり、『儀式』の準備をしていた。
「さて……そろそろいいかしら」
スキマ妖―――八雲紫が最終チェックを終わらせる。
そして一人の、いや一柱の前に立った。
「早苗。緊張しなくていいわよ。サポートは万全。楽にね」
「……はい!」
現人神―――東風谷早苗は頷いた。
この日は彼女の『神降ろし』の修行日。対象は土着神の頂点―――洩矢諏訪子。
今は鳥居の上で胡坐を掻いている。
「いつものサポートだと思って、気楽に気楽に」
「はい……あの」
「なにかしら?」
ふと、疑問を述べた。
「神奈子様は?」
紫は首を傾げる。
自分は知らないがと諏訪子の方を向いた。
「……旦那と、寝てるよ」
あからさまに不機嫌な曲神。
あんなの放っておけと不貞腐れている。一同苦笑。
守矢二柱が一方―――八坂神奈子(刀売乙女)の旦那―――建御名方神(渾名・タケル)が幻想郷に来てからという
もの、ずっとこんな感じだ。
「……ねえ、藍。帰っていい?」
「ダメだ。お前の修行の一環でもあるんだぞ。真面目に見学するんだ」
「ちぇ」
博麗の巫女―――博麗霊夢はブルブル震えながらぼやいた。
無理も無い。こんな寒空の下、腋丸出しで突っ立っているのだ。何か羽織れ。
まったくと八雲、九尾の式―――八雲藍は呆れた。
ガチガチと歯を鳴らす霊夢は、挙句の果てに藍の尻尾に潜り込んだ。
「んな!? ちょ、やめ! んっ……ダメぇ……」
「ヤベぇ……温か……もふもふ。ふかふか……癖になるわぁ……」
「だ、ダメぇ。れ、霊夢……そ、そこはやめ……あっ……」
「こらこら霊夢。そこは私と橙の特等尻尾よ。後で温かい物食べさせてあげるから」
紫に首根っこを掴まれ猫巫女は再び寒空の下に舞い戻った。
スキマから少々ババ臭い(尤も、外の世界では50万はする)コートを渡され、まったくと半座を組んだ。
溜息をつく紫は、先程から黙って一連を眺めていた銀髪の女性―――八意永琳の近くによって、話を始めた。
「ゴメンなさいね。本来は貴女を関与させるべきでは無いのだけど」
「まあ、最悪の事態に為られるのは困るから。監視を兼ねて、よ」
「ちゃんと報酬は出すわ。お眼鏡に叶うかどうかは分からないけど……」
ゴニョゴニョと耳打ちする。
両者含みの有る笑い。どうやら、納得言ったようだ。
誰ぞやが言ったか忘れたが、強者の笑みはオッカナイ。
傍目から彼女らのやり取りを見ていた霊夢は、そんな言葉を思い出した。
「さて、始めるわ。早苗、位置に」
「はい」
結界を張る。霊力を集中させる。
早苗は今までに無いくらい緊張していた。
普段、二柱からのサポートを受ける際は、諏訪子・神奈子からのほぼ一方的なパスだが、今回は違う。
自分が主導権を握らねばならない。
(大丈夫……できる。練習通り……)
練習してきた。きっとできる。大好きなメリーの新曲だって貰った……期待に応えねば。
「紫さん……お願いします!」
「了! 諏訪子、行くわよ!」
「あいさ」
スキマに飛び込む曲神。早苗も詠唱を始める。
紫が特殊な結界に力を込め、藍がブツブツ唱え始める。
(凄、い……力が……)
霊夢はこんなに辛い事をサラリとやってのけたのか。しかし、負けられない。
それはちんけなプライド。
同年代の、しかも同じく巫女(自分は風祝)に遅れは取りたくない。
それにこれが成功すれば、二柱だって自分の一人立ちを認めてくれるかもしれない。
少女なりの戦いだった。
(ここまでは順調。勢いで成功させてみせる!)
早苗は力んだ。
しかし……
「なんか……ヤバい気がする」
霊夢が呟いた。
「そうか? お前に負けないぐらい安定しているが」
「いや、それは分かる。なんていうか……勘」
藍は意識のベクトルを早苗に向けつつ、霊夢の呟きに答えた。
勘……たかが勘だが、されど勘だ。
『博麗の御告げに背くべからず』―――幻想郷に生きる者なら誰しもが知っている事である。
がしかし、今ここで止めるわけにもいかない。
「ふむ……八意。悪いが、備えてくれ」
「わかったわ」
永琳は薬箱と大弓矢を手元に寄せた。
一方、早苗は最終詠唱に入る。一度大きく深呼吸し、叫んだ。
「―――、―――……紫さん!」
「はいさ! 八雲立つ、『守矢』が八重垣、妻ごみに、八重垣外る、 その八重垣を……!」
空気が、変わる。そして―――
* * * * * * * *
〈side.月〉
「依姫様!!」
話し合いの最中、一羽の玉兎が士官室へ飛び込んできた。
「軍曹。会議中だぞ」
「それどころではありません! 謀反です!」
「何!?」
予想より早い。
姉妹は顔を見合わせ、立ち上がり部屋を出た。
「レイセン、状況は?」
玉兎―――特任軍曹、レイセンは慌てて豊姫の問いに応えた。
「人的被害は有りませんが、現場の結界を崩してきました。場所は……」
「出雲大社、ね」
先を読んでいたかのように答える豊姫。レイセンは驚き、頷いた。
依姫が口を開く。
「フェムト・ファイバーは無事か!?」
「それが……綻びができたと観測班からの情報。如何します?」
本気か。戦争でも起こす気だろうか。
依姫は舌打ちし、豊姫は何処からともなく帽子を取り出し深く被った。
「少将。奴ら封を、結界を破る気ですね」
「……拙いわね。最悪、革命か」
「か、革命ですか!?」
レイセンが耳を立てる。
「大佐。私は本部へ向かい、王へ報告してきます。
貴女は現地で指揮を取ってください。転送の許可は出しておきます」
「了解です。行くぞ、レイセン!」
「はっ!」
依姫とレイセンは兵を徴集し、テレポーターに向かった。
各班長の点呼が終わり、依姫に敬礼が向けらる。
「スクランブルだ。これは訓練では無い。
クーデター派は烏合の衆だが、奴らの『リーダー』……いや、奴らの『目的』の神は危険である。
何としても阻止せよ! 以上(Over)!」
「「「「「「「「了!」」」」」」」」
兵達は次々とテレポートしていく。
さてと依姫も足を運ぼうとした時、緊急コールが入った。
姉、だ。
空中に妖力(ホログラム)ディスプレイを開く。
「指令。どうしました?」
『大佐。一柱、いや一班忘れてませんか?』
「はあ……」
と言われても、何が?
「あ……」
レイセンが素っ頓狂な声を挙げた。
「た、隊長……第3中隊第8戦闘班が、不在でした……」
「はぁ!? 隊長は誰だ!?」
それが……と口籠るレイセン。何か疾しい事でも有るのだろうか。
さてと言わんばかりに、豊姫が答えた。
『あの問題小隊ですね……はぁ……』
「問題……あ!! あんの……莫迦バシラ!」
しかも階級、中佐。
国津神の中でも瑞を抜いての実力柱、建御名方とその部隊。
仕事はできるのだが、何分莫迦だ。馬鹿だ。⑨(?)だ。
依姫は頭を抱えた。
「こんな時に……」
『大佐』
「普段から甘やかしてきた結果か……」
『たーいーさー』
「軍法会議ものだぞ!」
『よーりーひーめ』
「大体、他の隊員も隊員だ! 何をしている!」
『よっちゃん』
「レイセン! あの莫迦は何処で何してるんだ!?」
「えっと、長期休暇申請出てますが……あの……」
苦笑する軍曹。震えながらディスプレイを指した。
え? と首を回す。
『……無視は、無い』
「ご、ゴメンなさい! スイマセン! だから、その笑み止めて下さい!」
オッカナイ。
『はぁ……タケルの男気に惚れ込んで甘やかすのは構わないけど、彼、〈あの子〉の旦那よ?
あと、こっちが本題だけど……この一件、タケルは重要参考人だから任務には参加させられないわ。
身の潔白を晴らす為にも、本部へ召集したいのだけど』
「……あ」
気付くの遅すぎと苦笑する姉。
「し、しかしアイツが首謀者だとでも!?」
『上の判断よ。仕方ないわ。今できる事は彼を逸早く召喚し、事情聴取する事なんだけど……』
「私が『降』ろせば直ぐですが……どちらを優先させますか?」
『……』
目の前の危険を防止するか……部下の潔白を晴らすか……
豊姫は少々考え込み、判断を下した。
『現場へ、向かって。彼はこちらで何とかする』
「……了解、です」
仕方が無い。一より十だ。
『彼は私の方で探し出します。大佐は、指揮を……
大丈夫、私もタケルじゃないと信じてるわ。何とかするから、貴女は安心して。』
「スイマセン……綿月依姫。現場へ飛びます!」
『幸運を(Good ruck)!』
大佐、軍曹はテレポートした。
指令は目を瞑る。嫌な予感がする……こんな『勘』当たらなければ良いが……
* * *
地球―――日本、出雲(島根)。
クーデター派はかなりの数がいた。
が、しかし……
「お、おい! 何故、防衛隊が降りてきているんだ!」
「分かりません! 我が方、半分が封神されました!」
リーダー格の神(男)がうろたえる。
莫迦な……末端とはいえ、神が50はいたのだ。信じられん。
「所詮は兎の群れだろうが! やられてどうする!
「そ、それが……たった一羽、いえ一柱に押されているのです!」
「な、ふ、ふざけるな!」
「ボス! 最終防衛ライン突破されました!」
ありえない……たった一柱の神に全滅? 50もの神々が封神!?
化け物かッ?!
「ええい! 何としても封印だけは解くのだ! 玉砕覚悟で―――」
―――ドンッ!!
「そこまでだ……これ以上の蛮行、許しはせん!」
辺り一面が吹き飛ばされた。倒れたリーダーがやっとこ顔を上げる。
砂煙が晴れ、そこに立っていたのは……歪な刀を持った凛々しい女性だった。
刀を首下へ近づけられ、男は唇を噛んだ。
「十束の……剣だと?! まさか建布都(建雷)か……」
「ふっ。知れた事……大人しく御縄につけ」
女性、依姫は部下に捕縛を命じた。
全ての神々が大人しくなったのを確認し、憑依を解く。
そして一息。地球で手に入れたタンブラーを開き、中のミルク・アッサムを啜った。
「お疲れ様です。あはは、私達何もすること有りませんでしたね」
「まあ、良い事だよ。被害も無くて済む」
傲慢。しかし実力故、嫌みには聞こえない。
「他愛無いな。もっと骨の在る奴らかと思ったが」
「大佐が強すぎるだけですよ。大体、敵う輩はいるんですか?」
レイセンが苦笑する。
正直、この女神に勝てるモノは幾許しか浮かばない。
彼女の姉か師匠。又は神世七代、別天津神、三貴柱ぐらいなモノだろう。
買いかぶり過ぎだよと笑うが、そのくらい反則だ。この女神は。
「まぁ……いるさ」
「そりゃ、月夜見様や豊姫様には勝てないでしょうが」
「……私は嘗て、妖怪に負けたよ」
「え!?」
初耳だ。
まさか、あの八雲……それは無い。以前、圧倒的な力で捩じ伏せていたのだから。
「月面戦争で、な。私も若かったんだが……奴らは文字通り『化け物』と『悪魔』だったな……」
「先の、戦争で……」
「奴らには部隊名があったな。教科書で教わんなかったか?」
「私は、まぁ、地上上がりの身なので……」
気まずそうにレイセンが頬を掻く。
地上から月に来てから、通常の過程をブッ飛ばして綿月姉妹に軍才教育を施されたのだから仕方なかろう。
そうかと依姫は遠い目をする。
「……不為者(ナラズモノ)部隊。またの名を―――」
「隊長、大変です! 至急、社へ!」
一羽の兵が駆けて来た。緊急事態らしい。
「……軍曹。話は帰ってからだ。酒でも飲みながら教えてやる」
「はっ!」
現場へ飛ぶ。
そして、異常事態に気付いた。
「なんて事を……結界と封印が……」
「ど、どうしますか?」
拙い。なんて出鱈目な……クーデター派も莫迦では無かったようだ。
月の技能を結集させた結界を簡単には壊せないだろうと踏み、穢れた結界を何重にも上乗せしていた。
おかげでバグが生じ、結界が歪んでいる。
「注連縄の方は力任せに壊しにかかった模様!」
「……綻び程度なら良いが、ヤバいな。これは」
簡単には破れないフェトム・ファイバーだが、流石に一斉攻撃を喰らえば綻びくらい入る。
依姫は少々悩み、整備班を呼ぶよう指示を出した。
しかし、直後―――
―――……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……―――
「何だ!? 地震だと? 観測班!」
ありえない。
月の科学を持ってしたら地球の地震程度、事前に予知可能である。
何より厄介な事は……今、『災悪』が起きたら封印している『奴』が飛び出しかねない。
動揺する一同。
そして、観測班の玉兎が叫んだ。
「東です! 東方から巨大な霊力!」
東だと……真逆(まさか)!?
東を見る。空が、開いていた。そこから、一つの人影が落ちてくる。
「うわっと……まったく、スキマめ。もうちょい優しく落とせってーの」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
「たいちょー。そらから女の子がー」
空気の読めない誰かが言った。
一同、見ざる、聞かざる、言わざる……フリ。
「ん?」
着地。こっち見た。
「あれ……諏訪大社じゃ無い。何処?」
なんか言ってる。でも、厄介事はゴメンだ。
「君どうしたのー?」
「ん? 兎?」
オイィ! 21号ォ! 何してんだよッ!! 空気読めよ、莫迦がッ!!
「迷子なのー?」
「んー、大体あってるけど……此処何処?」
「出雲大社だよー。君はお名前はー?」
「ふむ……アイツまた失敗しやがったな。あ、私の事は『ケロちゃん』って呼んで。
んで、この有様、何かあったの?」
辺りを見回す少女。
おかしい。普通の者なら見えない筈だ。というか、空から落ちてくる時点で普通じゃないか。
「えっとねー」
「21号。それ以上喋るな。私が引き継ぐ……
お嬢さん。今、自分が置かれている状況は把握してるか?」
「ん……大体、ね」
依姫が前に出る。
そして、目を凝らす。やはり……曲神か。残党だろうか。
しかし奴らを知らないようだ。という事は、間違いなく『イレギュラー』。
「お姉さん、次は私の質問。『何が遭った?』。答えてね」
「……なに、ちょいとした野暮用でな。莫迦を懲らしめていた所だ」
「ふーん」
野暮用ねぇとキョロキョロ見回す『ケロちゃん』。
ふと、テクテク歩きだした。
「……結界が、封印も……へぇ、『奴』か。こりゃ面白いかも」
二ィと笑う。宛ら、蛙の様な笑みだ。
玉兎達は呆気に取られているが、依姫だけは彼女が実力者だと気付いた。
並大抵の者では無い。スキマか、若しくはそれ以上……最悪タケルや建雷様達軍神レベル。
不意打ちは気が引けるが、暴れられる前に―――
「お姉さん、止めておいた方が良いよ。私のが、ちと早い」
「ッ?! やはり……」
「ふふふ。お名前聞かせて?」
奇妙な帽子を深く被る『ケロちゃん』。息を呑む。
依姫は大人しく彼女の言うとおり、名を告げた。
「月面防衛隊隊長、綿月……依姫大佐だ」
「へぇ! グラ○ダの! それに海神(ワタツキ)かぁ……もしかして」
グ○ナダ? 確かタケルがそんな事を言っていたな……関係無いか。
クルリクルリと宙返りを始める。何やら楽しそうだ。
途端、彼女のプレッシャーが変わった。これは完全に『悪』のプレッシャーだ。
「ケケケ! コイツは良い! ゲーム(ゲゲル)ができる……おい、綿月の。
良い事教えてやる。そうだな……30秒後、上を見ろ!」
「なん……だと……」
「早苗にゃ悪いが、久しぶりに楽しくなってきた!
『奴』を降霊させてやる。何、八意も居るさ。死にゃしない……さぁ! ゲーム(ゲゲル)の始まりだ!」
20…19…18……
「た、大佐……再び東方から巨大な霊力!」
「ッ!! 貴様、何者だ! ただの曲神では無いな!?」
10…9…8……
「ああ、私は存所其処等の曲神とは違う……あのイケ好かない軍神から聞いた事が無いかい?
『昔、俺と嫁を瀕死まで追い込んだ祟り神がいる』ってねぇ!」
「タケル、だと!? まさか!!」
5……
「そうとも! 私が―――」
4……
「初代諏訪神道、裏の導者―――」
3……
「そして土着神の頂点―――」
2……
空が、墜ちてくる。
「そ、総員! 衝撃に備えろ!」
「間に合いません!」
1……
慌てふためく隊員達。依姫は畜生と叫び、空に向かって両手を広げる。
そして『ケロちゃん』もまた悪魔の様な声で叫び笑い、飛び上がった。
そして、鉄の輪Ver.2010=カーボン・ファイバーにとりスペシャル(要はすんごい堅いチャクラム)を注連縄
へ投げつけ―――
「来ます!」
「過程省略! 緊急憑依―――石凝姥(イシコリドメ)神―――神器、真名解放―――ッ!」
0。
「―――日像鏡(ひがたのかがみ)イィッ!!」
「洩矢諏訪子様だあああァ!!
勝負(ゲーム)だ、八雲ォ! 勝負(戦)だ、八意ォ! 勝負(ゲゲル)だ―――神奈子オオォ!!」
―――封が、解けた。
そして辺り一面が光に包まれ、ただ其処には……諏訪子の笑い声だけが響いた。
* * * * * * * *
〈Side.幻想郷〉
良い感じだと早苗は確信していた。
後は最後に対象神を述べるだけ。霊夢は間違えたが、自分が間違えるはずが無い。
坤。
諏訪子は坤を司る神。これだけは間違えるはず無い。
最終詠唱(ラスト・スペル)!
「――――――、―――ッ! 『坤』を司りし、大地の神!」
早苗の身体が発光する。
「成功だ!」
「……」
藍が身を乗り出す。
紫も満足げに微笑み……倒れた。
「紫!」
「紫様!」
「ちょっと……予想以上に、力持ってかれたわ、ね……藍、ゴメン……」
藍に寄り掛かった。
お任せをと主を担ぎあげる式。そのまま、永琳の下へ運んだ。
しかし―――
「藍……アイツ諏訪子じゃない」
「そうね。やっぱり私が来て正解だったみたい」
―――博麗の『勘』が当たってしまったようだ。
* * *
―――ピチュリー―ンッ!!
「んッ! この圧力(プレッシャー)!?」
「オイオイオイ、噛むな。マッジ痛え……
そしてなんで、あの神(ヒト)来ちゃってんの!?」
布団の上で『神遊び』をしていた二柱、神奈子とタケルは飛び起き、急いで着替え神社へ向かった。
* * *
―――ピチュリー―ンッ!!
竹林でへにょり耳の兎を嵌める為の落とし穴を掘っていた妖怪兎―――因幡てゐは耳を立てた。
「あ、ああ……」
この感じ……この感覚……間違いない。あの御方だ……でも―――
「どうして……幻想郷(ここ)へ……」
「あ! こらてゐ! また勝手に仕事サボって! 姫様がさあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……―――」
地底まで続く穴に落ちた元玉兎―――鈴仙・イナバ・優曇華院のことなんか目も向けず、てゐは彼の下へ飛んだ。
その時の彼女の顔はまるで初恋の人に会えた恋する乙女の様な顔だった。
* * *
藍は目を凝らす。
早苗の身体がはっきりと見えてきた。
見た目は変わらな……いや、認めよう。はっきりと特徴的なモノが付いている。
あのみょんな帽子だった方が数十、百、千倍良かったのに。
「眼鏡?」
「違う……あれは『サングラス』と言う。目を守る眼鏡みたいなものだ」
霊夢の問いに答える藍。
アレいいわねと、永琳が羨ましそうに見つめていた。
「で、どうするの? 任された『八雲』さん」
「……下手に手は出せんな。機嫌を損ねられたら堪らない。
八意。奴が何者か分かるか?」
「んー……ちょっとまだ。あの眼鏡、魔眼殺しっぽくて正体がわからないわ」
「そうか。仕方ない……」
何処ぞの神かは知らないが、暴れられたら堪ったもんじゃない。
此処は平和的に、且つ早苗の無事を最優先に行動すべきだろう。
藍は恭しく、前に進んだ。
「突然の召喚、誠に申し訳ありませぬ。
此処は亜細亜極東、日本の幻想郷でございます。此方の不手際で御手前を降霊してしまいました。
どうか此は穏便にしていただけないでしょうか。無論、只でとは言いませぬ。可能な限り御其れを叶えたいと―――
」
「良い女だ」
「―――……へ?」
早苗の身体を借りた『何か』が藍へ歩み寄った。
「ほう……九尾、か。噂には聞いていたが初めて見る。流石傾国の美女と言ったところか」
「はい?」
「ふっ」
微笑む。
一瞬クラっときた。ヤバい。魅惑(チャーム)の神通力持ちか。
自分(千年狐狸精。この国では白面金毛九尾ノ天狐)の魅惑の妖力程では無いが、強力な神通力。
『早苗』はサングラスを外す。
拙い!
「霊夢! 目を閉じろ!」
「え?」
遅かった。
霊夢は一瞬硬直し、『早苗』の下へ歩み始めた。
そして―――抱きついた。
「まったく、困った力だ。なあ、九尾殿。そうは思わないかい?」
「……同意はします。がしかし、まず彼女の中から出ては頂けませんか?
そして、今侍っている娘への魅惑も解いて頂けると助かります」
「やれやれ。私の魅惑(コレ)は君とは違い呪いの類いなのだがな」
それは、困る。
しかし此方には『天才』が二人、いや一妖一……人、いる。
『天才』の一人が前に出た。
「では、私がなんとかしましょう」
「君は……ほう。まさか……」
「多分、その通りですわ」
にやりと笑う『早苗』。
やってくれと永琳に身を委ねた。
薬師は霊夢に薬を、そして『早苗』に矢を突き立てた。
漸次、早苗の身体が再び発光。そして―――
「んっ!?」
「……」
二つの影が飛び出した。
一つは早苗。もう一方は……
「嫌な感覚だな。もう少し優しくできないのかい……『 』」
人間には、いや地上に生ける者には発音できない言葉で返事をする神々しい恰好をした男性。
生意気言わないのと永琳は溜息をついた。
「やれやれ。主治医は無理難題を仰る……おや?」
見知った『力』が二つ、三つ向かっているようだ。
同時に三つの影が境内に降り立つ。
大きい二つは片膝をつき首を下げ、小さな一つはただ茫然と見上げ……ポロポロ泣き出した。
「「御無沙汰しております―――」」
「あ、ああ……嘘、なんかじゃ……無い……―――」
声を揃え、言った。
「親父殿」 「義父上様」 「大穴牟遅(オオナムチ)様ァ!」
建御名方神の父であり、若かりし頃の別名・大穴牟遅神こと―――大国主は彼らに微笑んだ。
凝った名前を付けようとしたのはいいがよく考えないと
続き待ってまーす
東方キャラで記紀神話に縁のあるキャラを総動員しようという発想はすごく好きです。
私も綿月姉妹や永琳は神々だろうと考えていますので。
ひょっとして紫にもなにか面白い背景を考えていらっしゃるのでしょうか。
月人のミリタリーな雰囲気が個人的には少し馴染めなかったのが残念です。
とよちゃんとよっちゃんが可愛いのは超同意ですけどw
今後の展開、すごく楽しみにしています。
誤字ですが、フェトム、ではなくフェムトかと思います。
今後の話にもでますかね?
でも面白いからやめらない。
霊夢ちょっとそこかわ(ry
二人の神遊びに興味があります。
>『 』 これを見て思わず反転文字かと思って確認しちゃいましたよw
7番様> スイマセン。夢幻館の面子にピッタリの名前って何だろうかと考えたら、『Bad Apple』が出てきました。
9番様> かつるのか?! ありがとうございます!
10番様> 仮にも土着神の頂点。並の神じゃ勝てないかと。
紫については、彼女は『基盤』自体が違います。神とか妖とか、そういったものではないと考えています。
月人は軍というか、自分達が絶対正義と信じて疑わない統治組織、みたいな。それでも姉妹が可愛い事に変わりは有りませんね。
あと、誤字報告感謝です!
15番様> 今回は『敵』となる彼女ですが……お楽しみください。
17番様> スイマセン。文才が欲しい今日この頃です。
19番様> 夢幻館はいずれ絶対出します。ただ、まだです。お楽しみに。
20番様> カオスですよね……まったく。霊夢と変わる? 早苗の中見男だよ?
二柱の神遊びに興味、だと。言ってしまえば……国生みww
『 』は反転じゃないんです。スイマセン。ただ、予想はついているのではないでしょうか。