*注意*
「東方文明ごっこ・中編」の続きです
やっと終わりです
――
幻想郷歴、第百二十三季。某月某日。刻限は日も落ちてしばらくのち。
昨日から始まった『文明ごっこ』なる珍奇な遊戯に参加し、この時点で生き残っているプレイヤーが総勢で十名。その視界に新たなメッセージが表示された。
<西行寺幽々子がリタイアしました>
<冥界文明は滅亡しました>
冥界文明と唯一交戦中だった月人文明は、交戦相手の消滅により平和状態に戻る。第二幻想郷のあらゆる国家に戦禍をもたらした世界大戦がここに終結したのだった。
紅魔と月人はともに広大な領土を獲得。世界にはこの二大超大国が君臨することとなった。
中央大陸の南半を支配していた八雲・冥界はともに滅亡。北辺の博麗も紅魔の属国となり、事実上のリタイア。
魔法の森と守矢は東方大陸にて激しい消耗戦を演じたが、領土の変化は無し。
「幽々子も脱落か。最期まで諦めんなよな」
「そうね、粘ってほしくない所は粘るくせに」
仲良く差し向かいでテーブルを挟み、二人は今夜も魔理沙特製の料理をつついている。
「どうだ、感想は」
「本当にまずいわ。どうしてこうなるの」
魔理沙はかっと目を見開き、それから表情をゆがめて握り拳をぶるぶると震わせ、どんとテーブルを叩いた。
「わかったよ! 捨ててくる!」
顔を真っ赤にしてそう怒鳴り、揚げ物の盛りつけられた大皿を両手でつかむ。
アリスはあっけにとられてその姿を見つめたあと、椅子から立って全力で両手を横に振った。
「ちょっと、そっち? 料理の話? 悪くないわよこれ」
アリスは両手で魔理沙の手を押さえ込んだ。至近距離で二人の視線がぶつかる。一秒、二秒……三秒目に魔理沙は力なく椅子に座り、両手で顔を隠した。
「だーれが国際情勢の話なんかしたよ。ああもう」
「揚げ物・炒め物は油の鮮度が命と言うひともいるけど、そこは具材の取り合わせによるわよね。昨日が妖魚のソテーで今日はフライって一見ワンパターンに見えるけど、魚同士なんだから油を使い回したのは正解よ。パセリも添えるだけじゃなくて刻んで散らしてあるし、いい風味付けね」
こちらもやや顔を赤らめて、アリスは早口で料理を講評する。意外にも合格点をもらえたので余計に恥ずかしくなってきた魔理沙は、照れ隠しにひょいひょいとフライを口に運んだ。
どうせ料理の腕ではアリスの足元にも及ばないのだけど、それでも自分なりに気を使ったポイントをこの友人はちゃんとわかってくれていた。
「でもソースはウスターベースよりビネガー系のほうが引き立つと思うわ。私なら輪切りの唐辛子でも使って辛めに仕上げるかな、個人の好みもあるけど――」
アリスの長話が止まらなくなってきた。これ以上今夜のメインディッシュについては言及されたくない。魔理沙は大げさに咳払いした。
「いいってば。それよりさ、わが国を取り巻く情勢についてどう考えるかね、アリス君」
「もう。そうね――」
アリスは少し考えを整理して、心持ちゆっくりと語り出す。
「勝負事に『たら』と『れば』は禁物なんでしょうけど……もし私たちがこの大陸をとれていたら、かつ、冥界文明が健在であれば、レミリアの次のターゲットは幽々子になっていたはず。そうすれば私たちも月人と組んで対紅魔包囲網を結成できたわ」
「ふむ。だが実際うちらは僻地に押し込められて、幽々子は脱落だ。とすると、どうなる」
アリスは片手でゲーム画面を操作し、現在は無政府状態となっている旧冥界領近辺にスパイを進入させた。もはや組織的抵抗の行えなくなった都市群が、紅魔軍・月人軍によってわれさきにと制圧されている。
「いまは空白地帯の取り合いをしてるけど、じきに紅魔はこっちに兵を出してくるはずよ。私たちが降伏するなり、都市の大半をとられるなりすればあいつらの勝利が確定するわ」
魔理沙は難しい顔をしながらフライをもぐもぐやっている。飲み込み終えて、ついでにワインを一口だけ飲んでからアリスのほうを見る。
「しかしそれじゃあ月の連中だっておもしろくないだろ。たすけてえーりん! って呼べば駆けつけてくるんじゃないか」
「むこうもそのつもりでしょうね。自分たちが宇宙に逃げるまでの時間稼ぎとして、どこかで紅魔に宣戦布告せざるを得ない。それでレミリアの怒りがあっちに向いてくれれば完璧なんだけど。海のむこうで潰しあってくれてるうちに守矢をいただいちゃえば、宇宙行きレースにも勝ち目が見えてくるわ」
魔理沙もメイン画面をスクロールさせ、守矢領土の都市を確認して舌打ちする。
「諏訪子のやつもホントにしぶといな、さすが両棲類だぜ。さっきからまた遺産を建てまくってるが、ありゃなんなんだ」
「グラフを見ればわかるわ。文化力ね」
はあ、と気のない返事で応え、魔理沙は統計グラフ画面を開いた。
文化力において、守矢文明は紀元前からトップの座を独走している。ゲーム内時間にして二百年以上前、守矢戦争の敗北によって一度がくりと落ちているが、それでも他国をやや上回ってきた。
「これがどうした」
「折れ線の右端、ここ十年分ぐらいよ。よく見て」
言われた通りによく見てみると、そこだけ角度が急上昇している。
文化力はゆっくりとしか蓄積されないパラメータだ。どの勢力でも微加速の右肩上がりを描いており、これほどの伸びは他に類がない。
「ん、確かに妙に上がってるが、これが?」
「例の遺産群を建てた直後から、伸び幅が一気に三倍以上になってるわ。単なる遺産の効果だけじゃなく、たぶん国家予算の大半を文化事業につぎこんでる」
「なんだそりゃ……んむっ……意味あんのか」
食べてからしゃべりなさいよと言いたかったアリスだが、あまり口うるさく注意するとへそを曲げられるのでそこは我慢しておく。
「だから最低限のルールは把握しといて。もしかしてとは思ったけど、あの神様、本気で文化勝利を狙いに来た」
<紅魔文明でマンハッタン計画が完成しました>
「うわあ。来た、やばいのが来た。できれば自重してほしいんだけど」
「マンハッタン? またニューヨークですね」
諏訪子は腕組みした姿勢を崩さない。
「言ったでしょ、これはアメリカ人の作ったゲーム。マンハッタン計画ってのはコードネームよ。あの大戦中にアメリカ軍が極秘で進めていた……原爆開発計画の」
「げん……」
原爆。その忌まわしい単語を口に出すことに、早苗は躊躇してしまった。
「これで核ミサイルの生産が解禁された。いよいよ世界の終わりも近いわね」
早苗は複雑な表情を浮かべる。
「うーむ。それ、ただの『強いミサイル』なんてものじゃないんですよね」
「ないね」
「くらったら酷いことになりますよね」
「なるね。ちなみに、あんまり撃ちすぎると環境破壊で世界中が酷いことになるから」
あーうー、と早苗はうなる。もしかして私のマネ? と言いたかった諏訪子だが、その前に早苗が口を開いた。
「核の恐怖を伝える、って意味では正しいバランスなんでしょうかね。でもさすがに迷惑すぎませんか」
「迷惑だねえ。ところで早苗、あの吸血鬼はひとの迷惑なんて気にするタイプのお子様だっけ」
「ええと、たぶん……新しいオモチャを、頼んでもいないのに見せびらかしてくれるタイプのお子さまです」
しばらく二人は目を見合わせた。夕食後、眠気との戦いにあっさり敗北して毛布をかぶって寝ている橙の、くうくうという寝息だけが室内に聞こえる。
「期待させといて悪いんだけど、うちの逆転勝利の目はほとんどなくなっちゃったわ」
「はい……あれ、でも私たちって紅魔連邦の一員ですよ。安全は保障されてるんじゃ」
「まあね。属国に宣戦布告はできないし、一番にミサイルが落ちるのは輝夜か魔理沙の頭の上かな。だけど早苗、私らが元いた世界を思い出して」
この発言の意図がつかめず、早苗は視線を斜め上に向ける。
「核に対抗できるのは核だけ。そっちが撃ったらこっちも撃つぞって姿勢を見せて、結果撃たせないようにもってくしか対策がないの」
達観したような口調で語る諏訪子の前で早苗はなにやら思案している。そしてなにかを言いかけて、やっぱりやめにした。諏訪子はその顔をのぞきこみ、ん? と問う。
「いえ、個人的な感想なんですけど……なんだか悲しいなあ、って」
「確かにね。お互いに凶器を突きつけあって、それで身動きできない状態を『平和』と呼んでるだけだし」
そう聞いて早苗は困ったような笑みになる。諏訪子の返答はいまいち的外れだったようだ。
「それも、まあそうなんですけど。そこまで大きな話じゃなくて――」
早苗はスライダーを動かしてマップ表示を縮小させた。最大まで視点を離すと、宇宙に浮かぶ球体として惑星全体が表示される。
「ただ、ふと思い出したんです。私が最後に本気でやったゲームはなんだっけなあ、って」
「ああ、FF4でしょ。リディアがお気に入りだったよね」
即答されて早苗は目を丸くする。
「あれ、よく覚えてますね。自分でもほとんど忘れてるのに。そういえば、緑の髪の女の子がいっぱい魔法を覚えるのが嬉しかったなあ、ぐらいで」
「そりゃ覚えてるわよ。攻略とか全部私に聞いてたじゃない。レベル上げも手伝ってあげたし」
だけどそのあと早苗は……と、何年か前のことを思い出して、諏訪子はさっき彼女が何を言いたかったのかをおおむね察した。
「――でも結局、エンディングは見てないんじゃないっけ」
「ホントよく覚えてますね。たしか最強の魔法まで覚えて、これから魔王を倒しに行くぞ、っていうところで止まってたはずです」
諏訪子はうんと伸びをして、後ろへあおむけに寝転がった。この状態でもゲーム続行に支障がないのは便利かもしれない。
「本当はさ、クリアなんかしたくなかったんでしょ。ずっと一緒に冒険してきた仲間たちとお別れになっちゃうから」
寝そべる神様の顔を見下ろして、早苗は軽くうなずく。
「たぶん、はい。このゲームだってそうです。リセットボタンはないけど、藍さんの妖術が切れたら全部消えちゃう幻です。それが嫌だとは言わないけど、なんだか寂しいなって思っちゃって」
すぐには答えず、諏訪子は頭の後ろで手を組んで目を閉じた。この部屋にしばし沈黙が訪れる。もしかしてこのまま寝てしまう気なのかと早苗が心配しはじめた頃にぽつぽつと語りだした。
「いいのよ、それで。お祭りはそのうち終わっちゃうから楽しいの。形が消えても心には残る。それを惜しむ気持ちは当然だけどね、全部ひっくるめて遊びのうちだから。よく言うじゃない、家に帰るまでが遠足だ、って」
「そのたとえはちょっと違うような。でも、はい。おっしゃるとおりですね。変なこと言ってすいません」
諏訪子はぱちりと目を開け、片肘をついて早苗を向く。
「ちっとも変じゃないよ。そういう思いがあるから、人間はまた新しいなにかをソーゾーできるの」
それもそうですねと反射的に返事をしかけて、早苗は口をつぐむ。
「それ……『ソーゾー』って、作るほうの創造ですか? それとも思うほうの想像」
「ありゃ。えーっと。神様にとっちゃ、そんな些末なことはどうでもいいのであった」
ごまかされた。本人もあまり気にせず言っていたらしい。
「はあ。つまり創造は想像から生まれると。それが次のお話になるんだから悲しむことはないと、そうおっしゃりたいんですね」
「そう、たぶんそれ。人々の幻想を実現させていくのが私らの仕事なんだよ。まさに『神キタ━━(゚∀゚)━━!!』ってやつ」
「諏訪子様。その手の言い回し、ここじゃ誰にも通じませんよ」
「おおっと。ん? つまりこういう用語を堂々と使っても、誰も知らないから別に恥ずかしくないと」
「やめてください。ちょっと毒されすぎです」
「早苗だってギャル文化に毒されてんじゃないの」
すでに元々の話題などどこかに行ってしまい、二人は外の世界の現代文化について論じあいはじめた。夜はまだまだ長いのだし、元いた世界が少しばかり恋しいという気持ちは共通している。
それに打つべき手はもうみな打った。あとは各都市の文化力蓄積を待ち続けるのみ。もはや無駄話のほかにすることも特にない。
<月人文明がアポロ計画を完成させました>
<魔法の森文明がアポロ計画を完成させました>
「いよいよ大詰めを迎えたって感じですかね。どこが勝つと予想しますか、技術顧問殿」
「私に聞くの? 順当に考えたら紅魔なんだろうけど、その順当ってのが一番あてにならないし。ただ成り行きを見守るだけよ」
先ほどまでなにやら図面を書いていた手を休めて、にとりが答えた。
「むう。面白味に欠ける回答ですね」
「私に面白味を求められてもねえ。それよか文、しばらく顔出してなかったけどどうしたの」
文はくるりとペンを回して頬杖をつく。
「例の戦争が始まってから、みんな忙しいからって取材に非協力的で――」
それはあんたがウザがられてるだけじゃ、という感想をにとりは心の奥にそっとしまった。
「それでいままでの展開をまとめてたら、ちょっと熱くなってしまって」
「へえ。でも文章だけでこの遊びがわかるもんかな」
この言葉に反応して、文はペンの尻をにとりに突きつける。
「それは私の執筆能力に対する挑戦ですね。受けて立ちましょう、最高の記事にしてみせるわ」
調子に乗った発言を軽く聞き流して、にとりはゲーム画面に目をやる。紅魔・月人国境付近には両軍の戦闘ユニットが大挙して集結していた。
「いやさ、この時代になると生身の人間は雑魚あつかいなんで。どっちも戦闘機械軍団が主力だし、これを正しく伝えるのは難しいんじゃないかなと」
文も目の前の画面を見て、やや考え込む。
「私も機械には詳しくありませんけど。たとえばこの、戦闘ヘリってのは」
「戦闘用のヘリコプター。水平回転翼式の飛行機だね」
「いや、これはトンボの一種でしょう」
にとりはぽかんと口を開けたあと、文に向けて苦笑いする。
「確かに、すごく進化した竹トンボだけど」
「えーと、ステルス機ってのは」
「電波探索に対して隠密性を有する飛行機。これには私も興味あって……」
文はにっと笑い、すかさず口を挟む。
「なに言ってるんです。これは翼を広げたトンビです、どう見ても」
「確かに形は似てるけどさあ」
だんだんといらだった様子を見せるにとりには目もくれず、文は別のユニットを指さす。
「戦車」
にとりは黙ってぷいと横を向く。
「この戦車というのは……ちょっと、解説してくださいよ、さっきみたく自信満々に。さあどうぞっ」
「腰を折る前提で話をふるな。ったく」
大げさにひとつため息をついてから、にとりも戦車のアイコンを指さす。
「戦う車と書いて戦車。陸上戦において、これがいかに主要な兵器であるのか端的に示してる名前だね」
「ふむ。この二匹の芋虫が担いでいる、大砲の乗ったおみこしが強いんですね……ちと苦しいか」
「いんや、だいたいあってる。というかその調子で記事を書くつもりなんだ」
文は胸を張り、あごに片手をやる。
「無味乾燥な事実より、わかりやすさを大衆は望んでいるんです。『回転翼式の飛行機械』ってより『巨大鋼鉄トンボ襲来!』のほうが絶対にウケますよ」
そらまあそうでしょうとも、と口の中で言って、にとりは各都市の生産物をざっと眺め回した。文もそのまねをしてみる。
「これは、うーん、巨大な座薬ですかね。ICBM? アルファベットだけじゃ意味がわかりません」
「大陸間弾道ミサイル。地の果てまで飛んでいって爆発するだけの、きったない花火だよ」
意外にも、にとりの口から否定的な言葉がでた。
「あやや、珍しい。にとりさんの大好物の、外の世界の機械ですよー」
ああうん、と歯切れ悪くにとりは答える。
「さすがにときめく余地がないんだよねそれ。針路修正装置がついただけの、本当にただのロケット花火だし。それで街ひとつを焼き払って、おまけにとんでもない猛毒をそこらじゅうにばらまく仕組みさ」
「ああ、核の炎ってやつですね。あの地獄鴉の力と同じですか?」
「おくうちゃんの? あっちは毒がない代わりに火力アップしてるけど、まあだいたい一緒よ」
はん、と吐き捨てるように文は笑う。
「ナントカに刃物って、まさしくこれじゃないの。救いようがありませんね人間なんて」
「そう言わないであげて」
口調は力なく、しかし眼光は力強くにとりは友人を見つめた。人間びいきで知られるこの河童を挑発した甲斐があったな、と文は内心ほくそ笑み、彼女の次なる言葉に耳を澄ます。
「私たちの存在を、すっぱりと否定してくれた外の人たちだけどさ。こんなものを撃ちあって自滅しちゃうほどの馬鹿たれじゃないと信じたいよ。ただちょっと、いまは力をもて余してるだけ」
まじめなことを言ってしまったのが恥ずかしいのか、にとりは下を向いて手元の製図用具をいじりだした。
さて、ここらでこの話題を切り上げるべきだろうかと文は思案する。あまり意地悪を言いすぎると彼女に嫌われてしまうかもしれない。それを想像するとちょっと心が痛むのだが、そんなのおかまいなしに一歩踏み出してしまうのが射命丸文なのだ。
「外の人間なんか、みんな死んじまえばいいんだよ」
にとりははっきりと怒りの視線で文をにらみつける。
「――という意見も、一部の妖怪の間では見受けられるようですが。そのような考えは間違いであると?」
にとりは唇を尖らせ、手持ちのコンパスの針をぶすりと図面の端に突き刺した。
「始末に悪いよあんた」
「お褒めにあずかり光栄にございます」
文は仰々しくお辞儀をした。こんなやつ相手にするんじゃなかったとにとりは後悔する。私がお守り役かよ、とも。しかし口をついて言葉が出る。
「いまはまだ。でもそのうち気がついてくれるはず」
「はい?」
それだけ聞き返して文はじっと次の言葉を待つ。ここで変に急かしては聞ける話も聞けなくなってしまう。
「進歩しすぎた科学は、魔法と見分けがつかない。誰が言ったか知らないけど私の好きな言葉だよ」
そう言いながらにとりは技術ツリー画面を開いた。長大な画面に表示されるいくつもの技術。現存する文明はみな、そのほとんどをすでに習得済みだ。
「私たちはこの二日間、人間の進歩を追いかけてきた。だけどもうすぐ終わり。ゲームの世界が外の世界に追いついちゃったからね」
「木のてっぺんまで登ってしまった猿は、そのあと一体どうなるんですか」
「気がつくんだよ。ここがてっぺんだったような気がしてたけど、別にそんなことはなかった、まだまだ枝があるじゃないか、ってね」
にとりは再び手元のコンパスをいじりはじめた。その瞳には輝きが戻っている。
「かつて、天体の運動は天動説で完璧に説明できると考えられていた。だけど一人の天才がまったく新しい理論を完成させたんだ。そいつが発見した力学の法則と、そいつが発明した数学の技術で、あらゆる物体の運動は説明できると考えられた……だけどまたひっくり返った。私たちをとりまく空間も、時間も、ここに存在する私という物体でさえ、確固とした実体なんて本当はどこにもない曖昧な存在なの。ここ百年ぐらいで、外の人間たちもちょっとずつそれがわかってきた」
「まーた始まりましたよ、にとり節が」
口を開けば皮肉しか出てこない性分の文だが、こういう表情をしているにとりにあれこれ豆知識を披露してもらうのが嫌いではなかった。
「いいの、語らせてよ。この技術の樹だって、本来あるべき姿の半分にも達してないと思うんだ。こんなのまだ幹の部分だよ。これがぐるっと――」
にとりは手慣れた手つきでコンパスを一周させて、図面上にひとつの円を描く。
「――ひとめぐりしたとき、そこには『幻想』っていう技術があるはず。この世界は神や妖怪の存在を許容しうるっていう、科学的な証明がなされなくちゃいけないの」
「その前に人間が滅んじゃうほうに、私は賭けますけどね」
相変わらずイヤミたっぷりの口調で、しかし表情は柔らかく文が答える。
「……そうなったら、人間の産みだした全てが幻想入りしちゃうのかな。でも私は信じたいんだ、『昔の人はお化けを信じてなかったらしいよ』なんて、笑い話で語れる時代がきっとくるって」
ずいぶんと楽天的な話だ、というのが文の感想だった。だいたいこの幻想郷において、人間と言えばそれは人里に暮らす人間を指す。少し頭のいい妖怪であれば、外の人間になどなんの期待もしていない。あるのは失望と無関心だけ。
やはり突っ込んで聞いておいて正解だったと文は確信した。いまの話を要約して、それを記事のシメに持ってくるとしよう。
<永遠亭で生産中の宇宙船のスラスターが、スパイによって破壊されました>
永琳が眉ひとつ動かさず読み飛ばしたそのメッセージを、輝夜はじっと見つめている。
「また?」
「またですねえ」
だんっと卓を叩き、輝夜は指を伸ばす。『霧雨魔理沙』の文字を押すとすぐさまウィンドウが開く。
「ちょっと! 何を考えているのもう」
いちどアリスと視線を合わせ、それから魔理沙は前を向く。
「何そんなに怒ってんだ。カルシウム足りてるぅ?」
「あなたの脳にはブドウ糖が足りていないみたいね」
魔理沙は両手のひらを上に向け、大げさに肩をすくめてみせた。
「ヒュー。そいつは大変だ、すぐに糖分を補給しないと。ありすー、なんか甘いものー」
「サトウキビでもかじってなさい。しらばっくれるんじゃないわ、またスパイをよこしたでしょう」
魔理沙は机に両肘をついて指を組み、口もとを隠す。
「そのようないわれもない嫌疑、外交問題になりますぞ」
余計にカッカする輝夜の向かいで、永琳は淡々と自分の作業をこなしていた。アリスもほぼ同様の態度だ。あまり話がこじれそうなら割って入る必要があるけれど、今は言いたいように言わせておこうという判断である。
「誰がそちらを守ってあげていると思ってるの」
「ああ、わが国の防衛に対してのご協力、まことに感謝の極みですなあ」
領土面積や生産力において、月人文明は魔法の森文明の二倍以上の成績だ。とはいえ月人は軍備増強と宇宙船生産の両方に力を割かなくてはならないのにくらべ、魔法の森は宇宙船一本にしぼっている。
紅魔軍が本気で侵攻を開始すれば、魔法の森軍はひとたまりもなく蹂躙されてしまうだろう。そして世界の覇権はレミリアの手に落ちることになる。だが武装の質においては月人文明が他を圧倒している。そこを警戒して紅魔は今すぐには動けない。だからこそ魔理沙たちはノーガード戦法がとれる。
「いやらしい。あまりにいやらしいわ、あなたたち」
「おいおい、アリスとはそんな爛れた関係じゃないぜ。おまえらと一緒にすんな」
ごつんと、わりと強めにアリスはゲームマニュアルで魔理沙の後頭部を殴打した。
「ってえ!」
「ちょっと黙りなさい。無意味な挑発するんじゃないの」
「ぁんだよぉ。そうさ、工作員を送り込んだのはアリスさ。悪うござんした」
頭をさすりながらも魔理沙は悪態をやめない。
「アリスさん。私のぶんと、永琳のぶんと、もう一撃ずつ制裁をお願いできますか」
「おお?」
「魔理沙。目をつむって、歯を食いしばって」
「いや、待って、悪かったってば」
輝夜と永琳がそろってにやにやしながら自分を見ているのが腹立たしく、魔理沙はぶすっとした顔になる。
「別にルール違反はしてないだろ。文句言われる筋合いじゃないぜ」
ふうっと息をついて、アリスが補足する。
「姑息な策だとはわかっているけど、これしか思いつかないから。悪いけど私たちは少しでも勝ち目を広げる方針で行くわ。どうなっても恨みっこなしにしましょう」
輝夜はしかめつらでちらりと永琳を見る。彼女はわずかに微笑んでいた。
「そうね。あなたがたにとっての最善の努力を非難する権利など、我々にありはしません。しかしながら、おそらく無駄でしょうとは言っておきます」
「なんだい、えらっそうに」
しつこく混ぜっ返そうとする魔理沙の後頭部に、アリスはこつりと軽く拳を当てた。
永琳にはこちらの事情などお見通しなんだろうな、とアリスは考える。自分たちと月人との生産力の差は歴然だ。いくら妨害しようにも限度がある。そして紅魔軍の力ははてしなく強大だ。
全てはレミリアの気分次第。彼女が勝利条件の達成を棚上げしてまで月人に突っかかっていってくれたら。月人軍がその猛攻を耐え凌ぎ、ひたすら消耗戦を続けてくれたなら。そういう儚い可能性の先にしか魔法の森文明の勝機はない。
「トップを諦めるつもりなら、霊夢が降りた時点で私たちもそうしていたわ。ここまで来ちゃったからにはするべきことをするだけ。納得できた? お姫様」
輝夜はしっしっと手で追い払う仕草をする。
「おまえ、自分から呼ん……」
これ以上会話させると面倒だ。そう判断したアリスはすかさず通信を終了させた。
間髪入れず、輝夜たちの視界で新たな交渉ウィンドウが開く。
「おっと。ずいぶんご機嫌斜めねお姫様。誰となんの悪巧みをしてたのかしら」
さっき魔理沙がしていたのと同じような、組んだ手で口元を隠す姿勢でレミリアが言う。
「あなたも? いえ、なんでもない。どんなご用件で」
いかにも面倒くさそうに輝夜が言うと、レミリアもいらだった表情になる。
「一応、警告だけはしておいてあげる」
ここで腕を降ろし、レミリアは取り澄ました表情を作る。
「我々はまもなく、この世界で最後の戦争を開始するわ。余計な手出しさえしなければ、そちらの今の順位は保たれると思いなさい」
輝夜はその視線を受け流し、永琳へと向けた。彼女は軽くうなずき、レミリアに告げる。
「こちらも警告しておきましょうか。海軍力はまだ我々が優位であることをお忘れなく」
「はっ、海軍? そんなものお飾りよ。戦場の花形は陸戦部隊にあるわ」
紅魔文明の首都にして最大の軍事拠点都市、紅魔館。これまでの戦争によって出現した大量の大将軍ユニットのほとんどが、軍事教官としてこの都市に定住していた。
文明指導者の志向ともあいまって、ここで生産されるユニットのレベルは極めて高い。同じ兵種の新兵相手に余裕で八割以上の勝率を誇る。紅魔文明のこれまでの快進撃は、紅魔館出身の超エリート兵によって支えられてきた。
「そのご自慢の陸戦部隊こそ、とんだお飾りですよ」
レミリアはぎりっと歯ぎしりしたが、まだ何も言わず相手の出方をうかがっている。
「あなたがたのテクノロジーでは我々の潜水艦を発見できない。そちらの哨海網は丸裸も同然です。いつでも、どこにいようとも、こちらのミサイル巡洋艦は紅魔軍団を消滅させうる。その前提で戦略を練り直していただけませんか」
ひとつの軍団をやすやすと消滅させるほどのミサイルとは。当然、核ミサイルのことを指している。その準備ができているといま永琳は告げた。
レミリアは拳を震わせ、いちど持ち上げてから下方向に打ちつけた。めきゃりと嫌な音がして、ほとんどまっぷたつになるようにテーブルは粉砕された。すぐにその残骸は消滅する。
「先ほどの警告、こう言い直そうか。我が兵に傷ひとつでもつけようものなら、おまえたちの都市にはICBMが降り注ぐだろう!」
仁王立ちで息を荒くするレミリアを、気にも留めていなさげなそぶりで輝夜は言う。
「ねえ永琳、確か『ミサイル防衛システム』とかいうのを作っていたわよね」
永琳は笑ってうなずく。レミリアは横目で咲夜を見た。
「ああ。あの『迎撃成功率:50%』とかいう、まるで使えない遺産ですね」
「半々だって? 笑わせる。ならばミサイルを二発ずつ撃ちこむだけよ」
この言葉に輝夜は少し眉を動かした。それを見て永琳は事務的な口調で告げる。
「我々の主要都市には核シェルターを建造済みです。核攻撃の威力は半減しますよ」
「だったら四発ぶちこむだけだ!」
力強く宣言し、レミリアは一方的に通信を終えた。血気にはやる顔で咲夜をにらみつける。
「宣戦布告よ。同時に一斉攻撃を行う。ミサイル発射用意」
咲夜の返答を待つ必要はなかった。彼女の辞書に『準備してます』という言葉などない、あるのは『準備できました』だけ。レミリアは交渉メニューから開戦を選択しようとする。
「おそれながら、お嬢様」
あれ? もしかしてちょっと早い決断だったのかもしれない。やっぱり一言確認したほうがよかったか。この名参謀の立てる作戦は、いつだって良い結果を生んできたことだし。
「開戦まで、あと10ターンほどお待ち願えませんか」
「なあに、ミサイルが足りないの?」
目を閉じ、軽く首を振る咲夜。その直前、彼女の瞳がなにやら悲しげな色に見えた気がした。だが再び両目を開いたときには元の冷徹な視線に戻っていた。
「核戦力に関しては拮抗しています。ここはひとつ、あちらから撃たせるのが得策かと」
レミリアは怒り顔になる。
「先に刺されるのを待っていろと言うの。認められないわ」
「ご安心を。ちょうどいい生贄がいますから、今は少しでも無駄弾を使わせましょう」
「生贄……」
少しだけ考えて、レミリアは咲夜の言わんとしていることを察した。
「ああ、そう。あいつらね」
そして時は静かに流れる。ときおり宇宙船の新たなパーツが完成したとのメッセージが流れる以外、目立った変化はない。だが誰もがこのゲームの終わりが近いことを確信していた。
「いよいよね。思えば永きに渡る戦いだった」
「まったくです。が、油断は禁物かと。いくら我々が優位な立場といえ、相手はあの八意永琳。まだ何が出るかわかりません」
レミリアはふと咲夜を見上げる。
「優位? 拮抗しているんじゃなかった?」
この問いに咲夜は愉しげに答える。
「現在の戦力においては五分と五分ですわ。しかしながら、戦後の立ち回りではこちらが有利になるでしょう」
ここでターン経過。もはやリミットぎりぎり、事実上のラストターンが始まる。
「……すぐには来ないか」
さすがに緊張の面持ちでレミリアがつぶやく。咲夜はじっと画面を凝視していた。その視線は東方大陸上に展開した紅魔軍ユニットに注がれている。
紅魔本土から海を越えて、すでに多数の兵が対魔法の森戦線に駆り出されている。世界大戦後、魔理沙たちはさほど軍備を増強していない。いかに抵抗されようとまるで蟷螂の斧。
しかしながら、核が怖い。あまり兵を固めすぎると一網打尽にされてしまうので、シェルター建造済みの各都市に分散して駐屯させている。
「さっきの……あ、話しかけないほうがいい?」
「いえ、どうぞ」
促されてレミリアは軽く咳払いする。
「戦後は私たちが有利になるっていうのは、どういう意味かしら」
核の洗礼の後、生き延びた兵だけでどれだけ戦えるかが明暗を分けるはずだとレミリアは考えた。
科学力に秀でた月人に対し、紅魔は兵員の数でそれをカバーしている。だが全面戦争が始まれば、どのみち両軍とも壊滅に近い損害を受けてしまう。
こちらが制覇勝利を達成する前に月人の国力が回復してしまったら、もはや彼女らの宇宙脱出は阻止できなかろう。そのへんは咲夜のほうが重々承知しているだろうに。
「すでに我々は、世界を制圧するに十分な力を有しています。しかし宇宙勝利を目指すなら宇宙船の建造を続けなければなりません。そこに付け入る隙があります」
レミリアはこくりとうなずいた。だが咲夜は前ばかり見て主のほうを向いてくれない。ひどく無礼な態度ではあるが、別に悪気があるわけでもない。いつ運命のミサイルが落ちてくるかわからないこの状況ではしかたがない。
「――核戦争のあとには、『核の冬』と呼ばれる異変が発生するそうです。あまり核を使用すると環境が破壊されてしまうと、河城にとりも証言していました」
「環境破壊?」
「はい。具体的には、陸上が無差別に『砂漠』地形に置き換えられていくのだとか」
レミリアの顔色が徐々に悪くなっていく。そんな話聞いてないわよと怒鳴りたくなるのをとっさにこらえた。
「ならば我々のとるべき戦略は自明です。一発でも多くの核を放って、全世界をすみやかに死の大地に変えてしまいましょう」
「咲夜? 何を……」
レミリアは言葉が続かなかった。咲夜は感情のこもらない淡々とした口調で説明を再開する。
「食料生産が停止すれば、あらゆる都市で大量の餓死者が発生します。核兵器そのものの被害と併せて、各国の生産力は原始時代レベルまで低下するでしょう。宇宙船どころかユニットもまともに作れませんよ。我々の残存兵力でたやすく侵略できます」
レミリアは手元のカップの中身を飲み干し、がたりと音を立ててテーブルにおいた。いささかお行儀が悪い。
「咲夜――」
はい、とすぐさま咲夜が返事をするも、レミリアは次の言葉をなかなか言い出せなかった。ただ居心地の悪い空気が続く。
「大切なのは、勝利か敗北か。それだけよね」
「おっしゃる通りです」
「このゲームの勝利条件の達成。それが私のなすべきこと……よね」
咲夜はちらりとも主人のほうを見なかった。彼女は微笑み、ただこう答える。
「全てはお嬢様の意のままに」
このターンの残り時間、一分を切る。まだ動きはない。30秒を切る。依然変わらず。
少しでも敵の生産力を削いでおくために、最初のミサイルが投下されたらすかさず敵主要都市にICBMを全弾発射しなくてはならない。また同時に、侵攻部隊をできるだけ分散させて月人・魔法の森両勢力の領土に突入させる予定だ。正直かなり忙しい仕事になる。
残り15秒。まだ動かない。
迷いや不安などおくびにも出していない咲夜だが、内心ではかなり頭を悩ませていた。最大の問題は、自分には時間を『止める』ことしかできないということ。
時間停止中に画面を操作したところで、計算式である藍がそれを認識できなければ意味がない。考え時間ならいくらでも確保できるが、手を動かしている間は通常の時間流に乗らなければならない。
相手が並の人間や妖怪ならそれでもまったく問題ない。咲夜なら『ほぼ最速』の操作ができるのだから。しかしながら、それではまるで通用しない相手がここにいた。
蓬莱山輝夜。彼女の能力なら、周囲の時間を圧縮して自分だけ高速に動けるはず。
そして八意永琳がこれまた厄介。彼女の頭脳なら、もうすぐ行う軍事行動の所用時間を正確に計算できるだろう。輝夜と一緒に圧縮時間流に乗ることで、全てのユニットを『理論上最速』のタイミングで動かせる。
残り10秒。
いっそこちらから宣戦布告すべきかと一瞬だけ考え、すぐその発想を否定した。
全てはレミリアの意のままに、そう言ったのは自分ではないか。主人はまだ迷っている。何を犠牲にして何を得るべきかを、決めかねている。
ただひとこと、『撃て』と命じられたならいつでもそれを実行するのだが。あるいはむこうが先制攻撃をしかけたあとなら、自衛のための反撃に許可などいるまいが。
残り5秒。
一斉核攻撃と一斉進軍を同時にこなすのは、もはや諦めなくてはならないようだ。
ミサイルを撃つのはあとからでもできる。できればこのターンのうちに敵都市を壊滅させておきたかったけれど、今はユニットを動かすほうが優先だ。どうせ月人軍の戦術核攻撃で九割がた消滅する運命なのだが、残り一割でも十分な兵力となる。
残り4秒、3秒……あれ?
2秒。
「まさか」
1秒。
「なに?」
ターン経過。
<守矢文明の守矢神社が、全盛の文化を達成しました>
<守矢文明の第二分社が、全盛の文化を達成しました>
諏訪子は呆然として画面を眺めていた。自分の見ているものがまだ信じられないといった顔で。
「あ、もしかして目標達成ですか。諏訪子様?」
「ああ、うん。同じターンになるように調整したから……」
「では、あとは第一分社だけですね。希望が見えてきました!」
盛り上がる早苗のむかいで、諏訪子は何かをぶつぶつ言っている。
「いいの? いや、いいからスルーしたんだろうけど……じゃあいいのか。でもなんかなあ」
不審げな目で見ている早苗には気がつかない風で、諏訪子はもう一度うなずいて顔を上げた。
「どうしました」
「いや、うん。やっぱ納得いかないわよ」
そう言って諏訪子は交渉ウィンドウを開いた。二人の目の前に輝夜と永琳が現れる。
「あのさあ」
「どうかされましたか」
永琳が笑ってそう問う。輝夜のほうは退屈げな目で視線をそらした。
「とぼけなくていいから。ひとつ教えてちょうだい」
永琳は答えず、その表情も変わらない。
「あなたたちは、いつだってうちの都市を滅ぼすことができた。いや、今からだって軽く核を撃っちゃえばそれですむ」
そう聞いて早苗が顔色を変える。
「え、核? うちに?」
「そ。絶対に落ちてくるって覚悟してたんだけど。もしかしてこれで貸しを作ったつもり?」
永琳は真面目な顔になってかぶりを振った。
「我々の勝利のためには、全面核戦争を回避できない。世界中を焦土にしてでも戦い続けるしかない――私はそう申し上げたのです。ねえ姫様」
話を振られて、輝夜はより無愛想な顔でそっぽを向いた。永琳はまた諏訪子と目を合わせる。
「ですが、我が主、蓬莱山輝夜はおっしゃいました。罪無き人々を犠牲に自分だけ逃げ延びるなど、とても勝利とは呼べないと。民の幸福を奪う権利など我々にありはしないのだと」
輝夜は困惑顔になり、早苗は目を輝かせる。
「輝夜さん……いままで、あなたを酷く誤解してました」
「いや、いやいや、そんな格好いいことは言ってないでしょう。そこまでして勝ちに行く必要あるのって聞いただけ……ちょっと永琳、なんで笑うの」
諏訪子は腕組みをほどいて輝夜に向き合った。
「それがあなたの選択ね。じゃあ悪いけど、遠慮無く行くわよ」
なにやら画面を操作しようとして、不意にその手が止まる。
「シメはやっぱり早苗にお願いしようかな」
輝夜にまだなにか話しかけようとしていた早苗が、名を呼ばれてびくりとして振り向いた。
「第一分社に、偉人さんが三人いるよね」
遺産を建てすぎたせいでなかなか狙い通りの偉人が出なくて苦労したけれど、それでもなんとか捻出した三体のユニット。大芸術家『ルナサ・プリズムリバー』、大芸術家『メルラン・プリズムリバー』、大芸術家『リリカ・プリズムリバー』。
「なにかコンプリートしてますけど」
「うん、偶然とは思えないね。藍が調整でもしたのか――まあいいや、それ全部選択して」
早苗が言われた通りにすると、諏訪子は深くうなずく。
「最後の文化爆弾、発動するよ。モナリザのアイコンをクリック」
「はいっ……ええと、このシチュエーションって、アレですよね」
なにやら思いついたらしい早苗はにやっと笑い、諏訪子を見て一言だけつぶやいた。
「許可を」
「よし、やっちまえ」
早苗は無言でボタンを押し込んだ。都市画面が拡大され、そこに天から降り注いだ光が満ちる。三名もの大芸術家を一気に消費したことにより、都市には一万ポイント以上の文化力が上乗せされた。
「私らの歌を聴けぇ!」
<守矢文明の第一分社が、全盛の文化を達成しました>
<守矢文明が文化勝利を収めました>
<歴史の終焉。これにて文明ごっこを終了します>
<スタッフ紹介>
<進行管理:八雲藍>
<念波中継:鈴仙優曇華院イナバ>
<操作系管理:河城にとり>
<広報:射命丸文>
<順位発表>
<首位:守矢文明>
:
:
「終わり、なの?」
「終わりのようですね」
前のターン、月人が守矢への核攻撃を行わなかった時点で、こうなることが咲夜にはわかっていた。
「なんなの、ねえ」
「守矢の文化力が規定値に達しました。その歌を聴いた世界中の兵士が武器を捨てて、恒久的平和が達成されてしまったようです」
そんな言葉が聞きたかったのではなかったのだろう、背を向けたレミリアはぎりっと奥歯を噛みしめた。
今度は何を破壊する気なのか。部屋ごとか? ありうる。スペルカードを使われたら自分でも逃げ切れるか怪しい。いや、ここは全てを受け止めてこそのパーフェクトメイド――などと咲夜が現実逃避していると。
「こういうのなんて言うんだっけ、ことわざで」
「軒を貸して母屋を取られる、でしょうか」
レミリアが振り向く。彼女は笑っていた。
「そういうことにしておこうか……なに、その顔」
「あ、いえ、もっとお怒りになってるものかと」
ふん、と鼻で吐き捨ててレミリアはまた振り向き、部屋の窓を大きく開け放った。
「そこまで本気になってどうするの。たかがゲームじゃない」
その『たかがゲーム』に一番のめりこんでいたのはどなたでしたっけねえ、などとはあえて言わない咲夜。
たかがゲームのボードと駒。しかしながら、自分たちが数千年の時をかけて守り育てた大地、そこで戦った数百万の兵たち、数億の民たち。その全てを破滅の炎にくべての勝利など、この誇り高き吸血鬼は選択しなかった。
うー、と可愛らしくうめいてレミリアは伸びをする。
「たまには外の風に当たらないとね。あまりこもりきりでは気が滅入るわ」
「妹様が聞いたら怒りますよ」
「……いまのナシ」
やっと咲夜の顔にも笑みが戻る。
「では、無かったことに」
たんっと床を蹴ってレミリアは窓枠に飛び乗った。吹き込む風に負けぬように翼を広げる。
「さ、行くわよ。お供なさい」
「仰せのままに、お嬢様」
<第二位:紅魔文明>
さすがに早苗がダウンした。ゲーム終了後、一時はしゃいでいた彼女はやがてぼうっとして画面を眺めていたのだが、祝杯を挙げようと思って酒を持ってきたらすでに横になっていた。
「思えばこの二日間、ずっと気を張りっぱなしだったのかな。お疲れ様」
いまは仲良く橙と雑魚寝している早苗に小声で呼びかけてみた。ところで、こうも無防備な寝顔を見せつけられては諏訪子のいたずら心が騒ぎ出す。なにかしかけてやろうと手を伸ばした所で呼び止められた。
「ちょっと。どうせ博麗の社に行くんでしょ。それまで寝かせてやりなさいって」
これまた小声で神奈子に叱責されて、諏訪子は振り向いておちょこを手に取った。
「じゃあ神奈子とでいいや。トップ獲得を祝ってかんぱーい……ぷはあ、生き返る」
「なんだか知らないけど逆転勝利だって? おめでとうさん」
お酌をしてやりながら、神奈子はほっとした顔になっていた。実のところ、見えない誰かと頻繁に会話をしている諏訪子たちといっしょにいるのが気まずかったのだ。
だから夕食後は台所で一人、ちびちびと調理酒の余りを飲んでいた。少し涙が出そうになったのは誰にも内緒だ。
「それなんだけどね」
しばらくおちょこの中の水面を見つめていた諏訪子が、やがて顔を上げた。
「ごめん。最後にもっかいだけ通信させて」
神奈子は少し嫌そうな顔をしたが、特になにも言わなかった。
もはや動き回るユニットもなく、時が止まったマップ画面。その片隅のボタンを押す。
「よかった、まだいてくれた」
「もう少しお話がありそうでしたから」
応じたのは永琳。輝夜の姿はない。諏訪子が来るのを待っていたらしい。
「寿司屋、開業してたよね」
脇で聞いていた神奈子が首をひねる。寿司? そんなものが食べたかったのかと。諏訪子がそちらを見て苦笑いする。
「あいや、ゲームのほうの話」
企業『寿司屋』の支店を建造した都市では、国内で余った海産資源を食料に変換できる。海洋国家だった月人文明では爆発的な食料源になっていたはず。
「核戦争になればそっちが圧倒的に有利だった。そこまでお膳立てしといて、どうしてわざわざ首位を捨てたのかなと」
じっと見つめられても永琳は表情を変えない。
「先ほど申し上げたはずですが」
「それはお姫様の考えでしょ。あなたが勝ちに行く気なら簡単に言いくるめられたんじゃなくて? 昨日はあんな約束したけど、花を持たせろとまでは言ってないわよ。なんで全力を尽くさなかったの」
永琳はふっと息をつき、やや視線を落とす。
「だって、教育に悪いじゃないですか」
いきなり砕けた口調になった永琳に、諏訪子は困惑を隠せなかった。
「教育って、輝夜の? いらんでしょう、年齢四桁に達してる人に」
「私は永遠の教育役ですから。それに、うちの不肖の弟子も見ていましたし」
諏訪子は黙って次なる言葉を待っている。やがて永琳は落ち着いた声で語り出した。
「かつて、まだ神と人とが近しかった時代。地上にはいくつもの優れた文明がありました――などと、あなたに講釈するまでもありませんけど」
「私の国があった頃の話? そんな大昔がどうしたの」
神様が大昔と言うぐらいだから、本当に昔の話である。
かつて、古き大陸に生息していた類人猿の一種が二足歩行をするようになった。それらは長い時をかけてさらに進化し、いつしか道具と火を発明し、言葉と社会を発明し――ついに彼らが『祭り』と『物語』を発明したばかりのあのころ。
「信仰を得て地に降り立った神々が、儚き者たちに与えた知恵と力。それを用いて人々は何をしましたか? 終わりなき戦いの果てに、あなたは一族のほとんどを失った」
べつに、と諏訪子は言いかけて、隣で飲んでいる連れ合いをちらりと見る。
「私はこいつと一緒になれたから、まあいいかなと思ってるけど」
永琳はやや寂しげに目を細める。
「そう……私はそこまで割り切れませんでした。運良く生き延びた者たちと共に、そこに大陸があったという歴史すら抹消して月へ至りました」
諏訪子はふと、昼間に彼女が早苗たちとしていた会話を思い出す。
「その、月の暮らしが退屈すぎて地上に来ちゃったんじゃないの」
「まったくです。古きを懐かしんで進歩を否定するのは簡単ですが、それは眠ったまま生きているようなもの。ですが進歩の果てにある滅びの道をたどりたくもありません。もしかしたらありうるかもしれない別の未来を、試みとしてあの子たちに見せておきたかったのです」
諏訪子は腕組みして首をひねる。
「んー、言いぶんはわかんないでもないけど。でもゲームはゲームでしょ」
「お遊びだからこそ、したいようにすべきでしょう――」
いつもの全てを見透かしたような微笑ではなく、いたずらっぽい笑みで永琳は破顔する。
「さっきみたいに照れて拗ねている姫様、可愛らしいと思いませんか?」
<第三位:月人文明>
深夜のマーガトロイド邸。流し場で洗い物をする音だけが室内に響いている。アリスは日課である人形のメンテナンス中。魔理沙はここの家主のベッドに勝手に寝転がって天井を眺めている。
「やっぱ、すっきりしないよなあ」
「あの決着のこと? ほかにどう転んでいようと、私たちの順位に大差はなかったのよ。あんなものでしょ」
彼女らにとって、とっくに勝負の大勢は決していた。永琳が最終戦争を避けたのは意外だったけれど、そうでなくてもどの道レミリアたちに踏みつぶされるか永琳たちに逃げられていた。
「わかってるよ。最後のほうなんかほとんど出る幕なかったしな。でもなんかこう……納得いかない!」
魔理沙はあおむけのまま、かかとをベッドの側面にぼふぼふと叩きつけた。
「やめなさい、ホコリが飛ぶでしょ」
注意されたのでむくりと起き上がる。
「悔しくないのかよ、おまえは」
「反省点を挙げたらきりがないわね。もう一度最初からやるなら、もっとうまくできると思うけど」
魔理沙はふくれっつらで横を向いた。
「こんな面倒なゲーム二度とごめんだぜ。せっかく……」
言いかけて魔理沙は唇をゆがめ、口を閉ざす。アリスは手を休めてそちらを見た。
「せっかく、なあに?」
「なんでもない」
「当ててみようか」
いいよ、と乱暴な調子で言って魔理沙は立ち上がった。そのまま玄関先まで歩いて、帽子掛けから自慢の三角帽をとって深くかぶる。
「――せっかくふたりで頑張ったのに」
背後から正解を言い当てられ、魔理沙は硬直した。
「でも考えてみて。あのとんでもない曲者ぞろいの中で、私たちは最後まで生き延びた。よく戦ったものだとは思わない?」
魔理沙は立てかけておいた愛用の箒を無言で手に取る。アリスは人形に持ってこさせた上着を羽織りながらさらに問うた。
「思うような結果にはならなかったけど、私は楽しかった。魔理沙は違うのかしら」
「くだらないこと言ってないで、行くぞ、霊夢んとこ」
振り向きもせず外に歩み出て、魔理沙は箒を低空に浮かべた。自分の身長以上あるその箒の、かなり前よりの位置に彼女はまたがる。アリスも当然のようにその後ろに腰かけた。
おぼろ月の夜空にふたりの魔法使いの姿が舞い上がる。そして彗星のような尾を引いて、はるか東の方角に飛び去って行った。
<第四位:魔法の森文明>
魔理沙たちとレミリアたちがほぼ同時に目的地にたどり着いたとき、博麗霊夢はすでに死んでいた。居間の片隅に横たわり、無残な屍をさらしている。
「おまえがやったのか、萃香」
「だって……ヒック……こんな、こんな簡単に潰れちゃうなんて思わなかったんらもん」
「あなたのために彼女がどれだけ無理してたのか、わかって言っているの」
昨日は遅くまでゲーム。そのあと徹夜で昼近くまで酒盛り。ひどい二日酔いでゲームを再開して、回復しかけたころにまた酒盛り――いかに最強の妖怪退治屋といえど、霊夢の体力はすでに限界に達していた。いまは寝息すら立てず死んだように眠りこけている。
「話し合いでは埒があかないわ。ここは鬼どうしで決着をつけましょう」
レミリアは霊夢のそばに歩み寄り、その傍らに転がっていた朱塗りの杯を手に取った。
「どうかお待ちを。急いては事を仕損じると言いますわ」
咲夜はふところから古風な蝦蟇口財布を取り出し、その口を開け放って逆さまにする。
――チャリンチャリンチャリン!
そのとたん霊夢は跳ねるように起き上がり、血走った眼で散らばった小銭に手を伸ばした。が、その指先が触れる寸前にぱっと消え去る。
「……あれっ。あ、私寝てた?」
「霊夢! 霊夢が起きた、金の力で起きた!」
また性懲りもなく抱きつこうとした萃香のあごに、霊夢が反射的に放った右フックがクリーンヒットした。
<第五位:博麗文明>
「あらま、みなさんおそろいね」
ふよふよと浮遊しながら、幽々子が縁側からあがりこんできた。
「待って、あと何人来るの。言っとくけどお酒ぐらいしか……」
『お酒』のところで萃香を指差した霊夢の発言が止まる。すぐ後について来た妖夢の姿が目に入ったためだ。
彼女の背負ったかごには、大量の葱とそのほか雑多な野菜が放り込まれていた。両手に持った大きな包みもかなりの重量を感じさせる。
「鴨……ね」
匂いだけで包みの中身を見破る霊夢。妖怪でもないくせに、なぜかこの中で一番嗅覚が鋭い。
「カモがネギしょって――なんだ、ウケ狙いかよ。つまんないぜそれ」
「狙ってません。本来は幽々子様のお口に入るものを、皆におすそ分けしてあげようと言うの。感謝してちょうだい」
「どんだけ大口なんだ。後頭部にも口があったりしないか」
荷物を置いた妖夢にすかさず魔理沙が口をはさみ、しばし二人はにらみ合った。
「前から疑問だったけど、これだけの食糧をどこから入手してるの」
鴨肉の分量をチェックしていたアリスがぽつりと疑問を述べる。
「それは――」
「それは亡くなった鴨の幽霊よ」
「じゃあこの葱は」
「お葱の幽霊よ。決まってるじゃないの」
さも当然のように述べる幽々子に魔理沙は頬をひくつかせる。
「それ、人間が食って平気な代物なのか」
「失敬な。というか妙な冗談はよしてください。ちゃんと白玉楼のお予算で、彼岸から取り寄せた三途鴨です」
「……どっちもどっちだろ」
からかいではなく本気で引いている魔理沙。その目の前でアリスの人形たちが食材を厨房に運び込む。芋虫を捕えた蜂みたいだな、という感想を抱いた。
「台所、借りるわよ」
一声かけたアリスの後ろを咲夜も黙ってついていく。
「さくやー、私の分は別に取り分けなさいよー」
「承知しております」
あくまで瀟洒に返答した咲夜にアリスが小声で問いかける。
「どういう意味?」
「吸血鬼は鳥の皮が苦手なのよ。あと葱と白菜の白いところも」
ヴァンパイアにそんな種族的弱点があるとは初耳だった。
「もしかして、人参とかピーマンも苦手だったりする?」
「そうね、特別に教えてあげるけど……私の調査では、吸血鬼がそれらを弱みとする確率は50パーセントよ」
「ぴったり50パーセントかしら」
「ぴったりと、誤差なく50パーセントです」
誰にも内緒よ、と咲夜が付け足し、ふたりは含み笑いを洩らす。
厨房に立つ彼女らを手伝おうかどうか妖夢が迷っていると、幽々子に手招きされた。彼女は片手に萃香のひょうたんを持っている。
「妖夢はお酌係よ。じゃんじゃんついでちょうだい」
そう言って幽々子がひょうたんを渡し、杯をつきだすと、霊夢以外の全員も同様のポーズをとった。
「ほれー、つげつげぃ……おっとっと」
「調理なんて咲夜ひとりで十分すぎるでしょ」
「なにを。それはアリスの料理を食ってから言ってみな」
「ほらケンカしないの。それでは、私たちの敗北を呪ってかんぱーい」
<第六位:冥界文明>
やがてぞろぞろと残りの者が集まってきた。妖怪の山から文とにとりが、やや遅れて守矢の三名および橙が。さらに月の姫と、従者と、その弟子と、ついでに藍が顔を出す。
「らんさまー!」
橙は全力で庭先を駆け、砲弾のような勢いで飛び跳ねて主人の腰のあたりに突撃した。藍は微動だにせずそれを受け止める。
「藍様、藍様」
「ああ、橙、橙」
なにか常軌を逸して仲睦まじいふたりを、鈴仙は指をくわえて見つめていた。横から「イナバ」と呼ばれて、すぐさま「はい」と振り向く。
「うらやましいの?」
「ええっ?」
鈴仙は目をぱちくりさせている。
「だから、あなたもこんな風にぎゅうっと抱きついてもらって、誰かさんの頭をなでなでしてあげたいのかしら」
「いやいや、あいつがこんな態度してたらかえって怖いですよ」
輝夜は袖で口もとを隠し、目を細める。
「あらまあ。べつに誰とは言っていないでしょう。『あいつ』というのはどいつのこと?」
「いえ、その、勘弁してください……」
しどろもどろになる鈴仙に、輝夜はほがらかに微笑みかけてぽんと手を打つ。
「勘違いしていたわ。イナバはなでなでされたいほうだったのね」
「はい?」
「永琳」
「はい」
永琳はことさらに冷酷な薄笑いを浮かべ、弟子に向かって両腕を広げてみせた。鈴仙は膝を震わせておびえている。
「なんなの、やつらは」
唖然とする神奈子に、早苗が乾いた笑顔で告げる。
「えーと、さでずむ?」
「早苗が幻想郷に染まっていく……私も負けてらんないよ。かなこー!」
両腕を広げて走り寄る諏訪子の鼻っ柱に、カウンターで放たれた神奈子のヒザが容赦なく叩きこまれた。
「……いい蹴りしてやがる、それでこそ我が永遠のライバル」
常人なら顔面が陥没してもおかしくない重い一撃を受けて、軽く鼻血が出る程度で済むあたりはさすが神様である。早苗はすぐ諏訪子の顔にちり紙をあてた。
ちなみにここまでのやりとり、式神たちの耳にはまるで届いていない。橙の頭をなでていたはずの藍の手は、いつしかその耳やほっぺたや首筋をいじり回している。指先の動きが妙にいやらしい。
「あっ、ううん、藍様ぁ……」
「ここか、ここが気持ちいいのか」
衆人環視の前でここまで濃厚なグルーミングができるのは、愛のなせるわざだろうか。
「早苗、何か叩く物」
汚物を見る目で藍を注視していた神奈子が手を差し伸べる。
「はあ、この御幣でよろしければ」
神奈子が棒きれを受け取ったところで、橙をまさぐる手が止まった。藍は真面目な顔で正面を向く。
「八坂様。この子を預かっていただいて、お手数おかけしました。我が主にもなり代わって御礼申し上げます」
突然の礼儀正しい挨拶に面食らう神奈子。
「あ、ああ。お手数だなんてそんな。なんなら永久に預かりましょうか。そのほうがいいでしょう、この子のために」
語気を強めて言った神奈子に対し、橙は主の服のすそをぎゅっとつかむ。
「私、藍様のおそばがいいです」
顔を赤らめて告げる橙の姿に、神奈子はぐっと目元を押さえた。
「不憫な子……」
諏訪子は背伸びしてその肩をぽんとたたき、首を横に振る。
「幸福なんてひとそれぞれよ。今の境遇を幸せだと思う以外、こいつには生き方が許されていないの」
「くっ。私の神徳では、妖怪のひとりも救ってやれないというのか」
拳を震わせてつぶやく神奈子に、縁側の上から声がかけられた。
「いつまで小芝居してるの、上がんなさいよ――と、言いたいとこだけど」
多少は体力の戻ってきたらしい霊夢が、親指で居間を指差す。本日この神社を訪れた酒飲みたちは、総勢で二十名に近い。そのうち約半数がすでに屋内で飲み食いしている計算になる。
狭い。どう考えても狭すぎる。
「ゴザとかないんですか」
「たしか物置きにそれなりの数が」
「私たちだけ外に座れってのかい」
「お外のほうが風流じゃないの、お花見みたいで」
「フン。なら今回のゲームで勝った順に席決めというのはどう」
「いいね。トップ3チームが三席ずつ確保ってことで」
「おまえらズルいだろ、自分が上位だからって」
「私と、永琳と。あとひとり誰を座らせましょうか」
「あのう」
「メイドや庭師は忙しく働いていますね、当然ながら」
「……お手伝いしてきます」
「わたしゃ縁側でいいよっと。おい天狗、河童、こっち来いやー」
「げげ!?」
「あやややや」
「さすがに食材が尽きるわよ」
「もっと持ってくるべきだったなぁ」
「とってきます――お待たせ」
「藍様……」
「橙……」
宴会場の片隅に陣取って、藍は至福のひとときを味わっていた。あぐらをかいた姿勢で、そこに橙が膝を抱えてちょこんと収まっている。ついに念願のお膝抱っこ。
たまに誰かと視線が合ってしまうと、すぐに相手は目をそらす。その態度には『おまえらもう帰れ』という気持ちがありありと込められていたのだが、恍惚の境地にいる彼女らにとってはどうでもいいことだ。
ふたりの手元には、藍のお酒と橙のお茶。持ち込みの大福餅は二人で半分こ。橙の口の端にあんこのかけらがついているので、直接舌で舐め取ってやろうか思案中……あ、落っこちた。惜しいことをした、思いついたら即座に実行しておくべきだった。
先ほどまでは盛んにはしゃいで甘えてくれた橙だが、今は口数も少なくうつむいている。これだけ近くにいれば、どういう考えなのか容易に察しがつく。
「あまり楽しくなさそうだな」
橙がのけぞるように頭を上げたので、藍はその額に自分のあごを乗せてみた。意外なほどぴったりはまる。この姿勢は楽かもしれない。
「ううん。すごく楽しいです。だから悪いなあと思って」
「ふむ。もちろんお呼びしてみたのだけどね、まるでお返事が無くて。皆に格好をつけてしまった手前、お恥ずかしいのだろう」
<最下位:八雲文明>
藍には、橙に秘密にしていることがひとつあった。この場ではおそらく藍だけが気づいていること。
社殿の軒先、ちょうど室内と庭を両方見下ろせる位置に、ごく小さな空間の亀裂があった。長さ三寸たらず、幅は半寸もないぐらいに細く開かれている隙間のむこうから、何者かが片目だけでじっと宴会の様子を観察している。
決してそちらを直視してはならないと、藍は自分に言い聞かせた。もし目が合ってしまったら、すぐにスキマを閉じられてしまうだろう。そして主はまた泣き濡れて寝てしまうに違いない。
『面倒臭い!』と大声で叫びたくなる気持ちをぐっとこらえ、断腸の思いで橙を押しのけて立ち上がった。
「紫様は酷くお疲れだ。しかし約束を破って逃げたと思われては困る。何を頼まれるか知らないが、私が引き受けるしかあるまい」
ゆっくりと縁台に向かいながら、藍は高速で思索を巡らす。
できることなら、紫にもこの輪の中に入ってきてもらいたい。なにがしかのからかいは受けるだろうけど、誰も彼女を本気で疎外するつもりなどないのだから。
しかしながら、紫は全プレイヤーの中で二番目ぐらいに調子に乗っていた。自分の勝利は確定だと吹聴しまくったあげく、袋だたきにされての最下位。しかもこの宴会にも寝坊して、顔を出すタイミングを完全に逸してしまった。
いまさらのこのこ現れるなんて気まずいと、本人が一番気にしてしまっている。大物は大物らしく面の皮を厚くしておけばいいものを、妙なところで少女らしいのだから始末に悪い。
まったく困ったちゃんのご主人様を、どうすれば引っ張り出せるのか――まずは協力者が必要だ。場内をざっと見渡して、藍はその姿を見つけた。
(鈴仙さん。聞こえますか)
お座敷で配膳係を務めている鈴仙に、心で呼びかけてみる。
「はいっ……あれ?」
(いや、言葉で返事しないでください。内緒の話がしたいんです)
(う、はい。藍さんですよね、どうかしました?)
この二日間、藍と鈴仙は精神を接続して互いの思念を送信しあっていた。ゲームの終了によってそのつながりはだいぶ薄れてしまったが、まだ完全に途切れてはいない。
(ひとつお聞きしたいのですが、この場の全員にまたメッセージを送信できますか)
やや間を置いてから返答が来る。
(例の目薬をもう使っちゃったひとには無理ですね。もとから参加してない神奈子さんも。それ以外ならいけます)
よし。たぶん問題ない。
(すみません、では次のようにお願いします。まず――)
やがて藍は座敷に上がり込んだ。早苗の前に歩み寄り、一礼してから正座する。縁側の外から橙が不安そうにその姿を見つめていた。
「そんな怖い顔してどうしたの、飲む?」
横から割り込んだ諏訪子が杯を差し出すと、藍は両手でそれを受け取った。
「では、いただきます……ふう。それで、まあ例の約束の件なのですが」
諏訪子は目を細め、薄笑いを浮かべた。
「約束ぅ? なんだっけ、それ」
あれっと声を上げて、早苗は諏訪子の横顔を見た。それから反対側の神奈子の表情もうかがう。こちらはこちらで渋い顔をしているが、特になにも言わなかった。
「あの、諏訪子様?」
「いやもちろん冗談よ。だけどもう一回確認させて。このゲームの賭け、どういう取り決めだっけ」
正面から見つめられて、藍は緊張の面持ちを崩さずに説明する。
「首位を獲得したプレイヤーは、誰かになにかひとつ命令できます。ただし他の参加者の半数以上の反対があった場合は却下されます。また、指名された者はより下位の者にその義務を負わせることができます。事実上、最下位の者が義務を果たすことになるでしょう」
「説明がくどい。紫は早苗の言うことをなんでも聞く、ってことでしょ」
藍がうなずくと、早苗は頬に指を当てて首をかしげた。
「んー、なんでもと言われても困りますねえ」
神奈子はその肩をごく軽く叩き、小声でささやく。
「ちょっと黙ってなさい」
「う、すみません」
隣で交わされているこのやりとりには構わず、諏訪子は不満たらたらの口調で問い正す。
「その約束と、あなたが改まって挨拶に来たことと、いったいなんの関係があるの」
藍はぐっと拳を握りしめた。
「紫様は、いま少々ご気分が優れないのです。私が代わりに承ります」
「気分悪いだって? 神奈子の本気の御柱を食らってもぴんぴんしてた奴が? 悪い冗談よしてよ」
藍は何も言葉にせず、ただ歯を食いしばっている。諏訪子はさらに言いつのる。
「ようは負けを認めたくないんでしょ。だから顔も出さない、あなたをよこして自分は知らんぷりしてる。何様なの」
「諏訪子っ」
横から鋭く呼び止められた。
「よしなさい。こいつに言ってもしかたないでしょう」
「……わかってるわよ」
いくぶんか落ち着きを取り戻し、諏訪子は手元に残っていた酒を飲み干した。
「本当はね、賭けの中身なんかどうでもいいの。ただ楽しく遊びたかった、紫とならいい勝負になると思ってた。でもこんなんじゃ台無しよ」
そう言い終わると、この場がしんと静まりかえった……訂正、庭で萃香と一緒に飲んでいる者たちは、この言い争いを気にも留めず笑いあっている。その他の者たちは少し驚きながら、あるいはにやにやしながら成り行きを見守っている。
これ以上諏訪子から言うことはないようだ。かわりに神奈子が口を出す。
「早苗、悪いけどこの話は無しにしましょう。言い合ってもこじれるだけよ」
この説得を受け、早苗は口ごもりながらもうなずいた。
「そう、ですね。守る気もない約束なんか、無理強いしたくありません」
藍の表情はまだ硬い。しかし縁側で固唾をのんで見守っていた橙はこの言葉にほっとした。かなり複雑な気分ではあるけれど、とりあえず主人たちの危機は去ってくれたようだ。
その隣に、骨付き肉を片手に亡霊少女がふわりと降りてきた。大皿を持った庭師もお供についてくる。橙は驚いて顔を向けた。
「はれ、幽々子様?」
もぐもぐやっていた鳥肉を飲み込んでから骨を妖夢に渡し、反対の手を橙の頭にぽんと乗せる。そして聞こえよがしの声ではっきり言い放った。
「うまいこと逃げたわね、紫も」
「なに言ってるんですっ」
とっさに反論してしまってから、橙は恐怖を感じた。西行寺幽々子、紫の一番の友人――だった。少なくとも昨日までは。でも今は……
「守矢の方々が勝手に辞退したんだから、逃げではないと言いたいの? 通じるものかしら、そんな理屈」
先ほどから興味津々でこのいさかいを眺めていた輝夜も、楽しげに横から口を挟む。
「それはこんなの断るわよね。私たちなんて相手にしたくないというのが見え見えじゃなくて? つきあうのも馬鹿らしいわ」
「八雲紫はそういう人物ですよ。わかっていたことじゃありませんか」
「やめてください!」
激昂した橙は、土足で部屋に上がり込もうとした。しかしその前に声がかかる。
「待て。黙っていてくれ、橙」
待ての声がかかった瞬間、橙の動きがぴたりと止まった。彼女は涙目で口をぱくぱくさせたが、そこからはなんの言葉も出てこなかった。いまの藍の命令は、単に口先だけの言いつけではない。式に対して絶対の強制力を有する呪言が込められていた。
橙の様子を見て、早苗もとっさに膝立ちになった。いまは困り顔で視線を左右に走らせている。
「もう、なんでこんなおおごとに……あ、そうだ。私たちは辞退するから、二位のレミリアさんに権利を譲ります」
全ての成り行きを薄笑いで眺めていたレミリアは、この言葉に眉をつり上げ、長座卓をどんと――壊れない程度に――叩いた。
「ずいぶんな愚弄じゃない。逃した勝利をあとから恵んでもらうなんて、そんな恥知らずな真似をしろって?」
それだけ言ってレミリアはそっぽを向いた。藍は再び早苗に視線を戻し、正面から向かい合う。
「皆さんの言い分、ごもっともです。この約定には八雲の信義が懸かっています」
言いながら、畳に両手をつく。
「お願いします。紫様の約束を、どうか果たさせてください」
「よしなさい!」
深々と土下座した藍の背後に、さっと空間の切れ間が入る。そこから紫が飛び出してきた。髪は寝癖だらけ、顔を真っ赤にして目を腫らしている。藍のそばで片膝をついて、その肩に手をかけた。
「なんでそんなに頑張っちゃうの。みんな私が悪いんでしょう。私のせいにしなさいよ」
藍は面を上げた。だが振り向きはしなかった。口元を押さえ、ぶるぶると肩を震わせている。
その目の前で諏訪子はおもむろにお銚子を手に取った。先ほど藍に一杯勧めたのと同じ杯に、手酌で酒を注いでいく。ほい、と言って藍にそれを手渡した。
「紫様――」
藍は立ち上がり、くるりと振り向く。その表情は満面の笑顔だった。
「まずは一杯、どうですか?」
「あ、うん」
きょとんとした顔になった紫は、軽く酒の香りを確かめたあとに杯を傾けて飲み干した。そのとたん盛大な拍手と歓声と、爆笑が巻き起こる。
「~~~~~~!!」
全てを理解した紫はまるで言葉にならないきしり声をあげ、がっくりとうつむいた。
「橙、もういいよ」
命令解除を受けた橙が、靴を脱ぎ散らして二人のもとへ駆け寄る。
「えっと、あの、どういう……」
「悪いな、全部お芝居だ。おまえには無理だから教えなかった」
仕掛けは単純。鈴仙の力を借りて、諏訪子には『紫が出てくるまで自分の申し出を断ってくれ』と、ほかの者には『ちょっとした余興を始めるけど気にしないでくれ』という意味のメッセージを送っておいた。あとは皆が適当に調子を合わせてくれただけ。
「藍っ、あなた、あなたたちねえ!」
それだけ言って、紫は自分の顔を両手で隠した。その肩をちょんちょんとつつく者がいた。
「ゆっかりー。はい、駆けつけ二杯目」
徳利を持って幽々子が笑う。どう対応すべきかためらっていると、彼女は悲しげな顔つきになる。
「私なんかのお酌は受け取れないというのね。そうよね……」
紫は怒ったような、それでいて笑っているような不思議な顔で杯を突き出す。幽々子は嬉々として酒をついだ。
「もう。まあいいわ、あなたが元に戻ってくれたなら」
「ねえ紫、裏切り者にお酌される気分はどう? 悔しいかしら? 私の顔にぱしゃっとかけちゃってもいいのよ」
幽々子は期待に満ちた目で紫を見つめる。この遊びを通じて新しいなにかに目覚めてしまっようだ。
「……飲むわよ。飲むに決まってるでしょう」
捨て鉢になって杯を空にすると、今度は諏訪子が立ち上がって幽々子の徳利を受け取った。
「ほれほれ。私の演技もなかなかだったでしょ、まあ一杯」
「演技というか、んくっ……はあ。あなたはご自分の本音を述べていただけでしょう」
ばれたか、と言って諏訪子は神奈子に徳利を渡す。
「岩戸隠れとはずいぶんな出世ですね。まあ一杯」
そして続けざまに酔っ払いどもがやってくる。
「私が酒をついであげるなんて、滅多にあることじゃないのよ。まあ一杯」
「遅れたからには、相応のけじめをつけてもらうのがならわしでしょう。まあ一杯」
「私もっ、私もお酌しますぅ」
「なんらゆかりぃ、ろうしてすぐこないんらよぅ……ウィック、まず一杯やれよぉ」
どうやら、この場のほぼ全員から献杯を受けないと解放してもらえないらしい。
「もうっ。みんな順番に来なさい、今夜は私の残念会よ!」
やけになって飲んで回っているうち、紫はぐったりとしてしまった。さしもの大妖怪も起きがけにこの大酒はかなり効いたようだ。現在は会場の片隅で藍によるブラッシングを受けている。橙はじっとその手元を観察している。
その様子を見て、早苗は諏訪子に声をかけた。
「結局、お願い事はどうしましょうか」
「ん? 早苗の好きにしたら。私は熱い勝負ができて満足してるし」
「むう……神奈子様はなにかありますか」
「ちょっと。私が決めちゃったら、手柄を横取りしたことになるでしょう」
まさか紫がこの順位とは誰にも予想できなかった。幻想郷の運営側である彼女になんでも命令できる権利。効果的に使えば自勢力の拡大にもつながるだろう。
だからこそ、守矢の二柱は干渉を自重した。ゲームにかこつけて我を通すなど卑怯な真似だと諏訪子は感じたし、誰かにそう非難される事を神奈子は恐れた。なんでもいいから、早苗のごく個人的な願いに使ってしまうのが一番無難だ。
「決めてもらうほうが楽なんですけど。じゃあ、ええと、ううん」
長々と考え込んでから、不意に早苗は席を立った。
「おっと、なんにするの」
「ええとですね……あ、本当にできるか聞いてみないと。紫さーん」
呼ばれて八雲の三人が同時に振り向く。早苗はそこまで歩み寄って正座した。
「ひとつ聞きたいんですけど、藍さんの力でインターネットって見れますか」
――
From: [email protected]
To: [email protected]
Subject: 早苗です。お元気ですか?
早苗です。お元気ですか?お変わりありませんか?
早いもので、幻想郷に来てからもう二年にもなりました。こちらの暮らしにもだいぶ慣れてきたところです。
ここに来た当初は、現地の神職のかたと揉め事になったりもしましたが、いまでは守矢の信仰も着々と広まりつつあります・・・氏子さんのほとんどは妖怪のかたですけど。
つい先日は、諏訪子様とご一緒にとあるゲームの大会に出場しました。なかなかの接戦でしたが、みごと優勝をものにできました。そして優勝賞品として、一度だけそちらにメールを送信できる権利をもらったので、こうしてお便りを打っています。返信も一度だけ受け取れるそうなので、お返事をお待ちしています。
本当はもっと頻繁に連絡がつけばいいのですが、この土地を管理している妖怪さんに「幻想郷は外部と遮断されていることで成り立つ領域だから、あなたたちだけ理由もなく特別扱いはできない」と言われてしまいました。
添付した写真はもう見てもらえましたか?一枚は、さっき言ったゲーム大会の打ち上げのときの写真です。もう一枚は、後日みんなでご飯を食べに行った時の写真です。
猫とか兎の耳が生えてる子がいますけど、仮装なんかじゃないですよ。そういう妖怪です。
ここに来る前に神奈子様から、幻想郷は現代の常識が通じない場所だと聞いていましたが、全くその通りでした。
思えば外の世界にいた頃、私は自分の力をどこか恐れていました。友達にも秘密を明かせないという重圧と、もしかして自分は怪物なのではないかという疑念は、あまり気持ちのいいものではありませんでした。
でもこちらに来てからそんな悩みは全く無意味になりました。人間でも妖怪でも、私以上の使い手が何人もいます。修行不足を実感させられる日々です。
地獄とか、魔界なんてところにも行きました。普通の女子高生になっていたらこんな体験できませんよね。
いまでもたまに、お父さんとお母さんのことを思い出すことがあります。でも泣いたりはしていません。神奈子様と諏訪子様が、私を家族のように思ってくれていますから。
友達もできました。たまに妖怪退治の競争をしたりするので、ただの友達と言うよりライバルかもしれません。とっても素敵な人たちです。
恋人は・・・内緒です、なんてね。
そういえば、この前の新聞にちょっといいことが書いてありました。「人間たちは今は神様のことを忘れてしまっているけど、それはまだ本当の科学ではない。もっと人間が進歩すれば、神様はやっぱりいるんだとわかるはずだ」と、そんな内容でした。
もしそちらの世界に信仰が戻る日が来たなら、また諏訪へ帰りたいと思います。それまで私にお迎えが来なければの話ですけど。やっぱり無理かな?
まだまだ書きたいこと、紹介したいことはたくさんありますが、きりがなくなりそうなのでこのくらいにしておきます。
お父さん、お酒はほどほどにしてくださいね。お母さん、私は今日も元気です、心配なんかしなくていいですよ。
それではまた今度、機会があればお便りします。
あなたの娘、東風谷早苗より。
最後は超時空で〆とは「ゲーム」らしくて良かったです。
最後の早苗嬢の語りも含め、上下2編の劇場アニメ…で見たくなる話でした。
願わくば次作では気分を変えて短編が読みたいな?w
早苗の、母へ宛てたメールなども良かったです。
いつかその領域に科学技術を発展させることを夢見てしまいますね。
いや、なんというか、いい作品でした。
……てっきりハルマゲドンタイムに突入すると思ってたんだけどなあwww
おまえのネタ選択は賢明だ(1+)
皆を幸せにしてくれるSSがあるんだ!(+1)
なんとかかんとか
素晴らしい2時間をありがとう。面白かったです。多謝。
所々で描写されている、知る人ぞ知るような小ネタの数にも驚かされます。
ゲームの電源はリアルに自分も隠されていましたよ。
流れるように進むゲームの展開に、先へ先へと読み進めさせられました。
筆力がある作品だなぁと感じますね。
咲夜さんについてですが、時間を止めるだけでなく
早くさせたり遅くさせることも出来ると思います。(求聞史紀より
ポイント
・15分入浴でバスタオル一枚の諏訪子様(+1)
・桃の皮で何かをされる鈴仙(+1)
・藍と橙の様子を指をくわえて見つめる鈴仙(+1)
・つい言葉で返事する鈴仙(+1)
以下誤字脱字箇所の報告(全編通して
>もし目が合っってしまったら
>「さて東風矢くん、今の世界情勢について簡潔に説明したまえ」
文章で、しかも随所に散りばめられたニュアンスで極度に東方を感じさせる仕上がりにまで仕立てる試みは
全く独創的であると感じました
しかも、いつどこで奇襲されるか分からないネタラッシュと濃厚な味付けでお腹一杯大満足です
そしてちゅちゅい
各キャラそれぞれの外世界への思いや、核使用決断の描写には、外世界の人間の一人として考えさせられる物がありますね。
読んでる時は各キャラの描写に引き込まれ、
読み終わった後は「すげぇ!これは楽しかった!」とちょっと興奮状態でしたw
自分はシヴィは知らないのでAOEを思い出した
プレイ後のエピソードも面白かったです。紫www
各キャラの性格がプレイスタイルに反映されていて、十二分に楽しめましたよ。
面白そうなゲームですね。少し調べてみようかなぁ、などと。
ところで紫と諏訪子w逆境に立たされたときのこの違いwww紫しっかりしろwww
楽しい時間をありがとうございました。
……都市三つの属国からの逆転勝利なんて無茶苦茶だ!!
ゲームのプレイ描写だけではなく、周辺の物語の肉付けがしっかりなされていて、まさに大作ですね。
各キャラクターも、とても愛嬌たっぷりに描かれていたと思います。
終始気だるげにしつつも、要所で魅力をふりまく輝夜が可愛すぎます。
・リタイア後のゆかりんの布団入り
・小銭の音に反応する霊夢
・ナイショ話してクスクス笑う咲夜さんとアリス
・早苗さんのメール
以上四点がなぜかグッときました
んですが、自分だったら機械スリングショットあたりで早々に魔法の森には退場してもらいそうな立地で、素人の
早苗さんが横で見てても一番楽しい遺産祭りをやったりするあたり気配りに惚れそうです。(魔法の森に対しても)
システィナ礼拝堂はこの話では大きい位置を占めますが(カースト制だったし)守矢文明は建造できてたのでしょうか
ねこ(橙)大好き
…お約束の関係上不自然な感想になってしまいましたが、FfH全盛のMODプレイレポに東方叙事詩かciv東方で書いていただける日を心待ちにしております。
個人的に八雲文明~冥界文明滅亡のシーンがツボりました。
幽々子・紫のやり取りと諏訪子の統治者っぽい含みのあるセリフ回しにカリスマを感じました。
面白かったです。
さらにはただ面白いことやったっていうだけじゃなくて、細かい人間関係のドラマとか全体のストーリーの核とかがちゃんとあって、もう100点じゃ足りません。
っていうか随分昔に封印したCiv4をやりたくなりました。どうしてくれる!w
civは名前しか知りませんでしたがゲームの進行と各キャラの思惑がうまく描かれていたと思います。
またにとりの台詞での人や文明、科学に対する思いが良かったです。
最終局面で撃たない決断をした理由とそれで照れる輝夜サイコーw
SSで輝夜がよいと思ったの初めてでしたw
泣ける部分が三つもあった。どうしてくれる。
話としても面白く、永琳の思いもとても自然で綺麗でした。
いい。うん、いい。
ゲームネタながら現実部分のドラマが焦点になっているのが良かった。
とても面白かったです。
最近のマルチだと首位ヘイト防止のため技術交換は禁止なんだよねぇ
実に東方チックでCivでした。面白かった
元を知らないのにすごい楽しめました。
元ネタは全く知らないのですが、凄まじい心理戦や読み合いが伝わってきて良かったです。
科学と幻想のことも根底のテーマとなっていて、この長さにも関わらずあっという間に読んでしまいました。
素晴らしい話をありがとう!
ラストの早苗さんのメール。
泣いた。
ああ貴方は天才だ!
東方キャラがciv4をやる、ということをここまで夢中になれるとは。
作者に感謝、感謝です。
いやあ、ゲーム小説としても小説としても楽しかった。
たんにゲームをさせるだけの話かと思ったら、中盤から終盤にかけてのまとめかたとテーマが、とっても心地よい!
素敵な作品を読ませていただいてありがとうございました。
ただ問題はまだciv4がやりたくなってきてしまうということ。
あんなに時間を浪費するゲームもないというのに。
ゲームを通しての各勢力の思惑や最後の核戦争への判断など、上手く描かれていると思いました。
最後のメールもやばい……こう締めるとは
とにかく最高でした。
今回は前、中編に比べて強いメッセージを感じました
紫が今後人間不信にならないか心配w
ゲームのお話から始まって悲喜こもごもを挟みつついつもの幻想郷に着地する、素晴らしいリプレイでした。
元ネタ未プレイでしたけど、最後の文化爆弾からの流れで大いに和ませていただきました。
幻想郷のゲーマーどもに敬意を。九尾のサーバーとへにょり耳のスタッフにねぎらいを。
最後に、作者と紫さんに惜しみない感謝を。
そして、よかったですね、紫様。
この世界の住人は、それぞれがどうあれ、外の人間ほど愚かではないし、
外の人間だって愚かな者なりに、成長してるようです。
共闘戦線を張ったおかげで、われわれの仲は深まったな+2
同じ信仰をもつ兄弟姉妹には好意をもっているぞ+4
国連からこのSSに100点を入れる決議が来ています。
YES NO 棄権
↑
マンハッタン計画完成からの駆け引きは最高でした。
心理描写や二転三転する展開も素晴らしかったですし、オチもグッときました。
素晴らしい!
やっぱり長かったですがやっぱり素晴らしい!
創想話でTOP3に入るお気に入り作品です
civは興味はあれど消費時間量が怖くて未だ未経験なのですが
随所に出てくる解説のおかげで物語を楽しむことができました
場面転換も良く言えばシームレスでスピード感あるものになってると思いました
単なるキャラ置き換えになってしまいがちなクロスオーバー作品ですが
キャラを損なわずしっかり昇華してるところが見事。
東方二次としても自分から見て文句なく高質・良SS
散りばめられた小ネタにもニヤリとさせていただきました
楽しいひとときをありがとう
最高のエンターテイメント作品です
作者様の筆力には脱帽です。
にとりの科学への思い、月人の過去の文明への郷愁、レミリアの誇り…
キャラそれぞれが全く異なる魅力を持ちながら引き立てあい、
一つの壮大な物語になっていると感じました。
自分は東方もシヴィもハマっているので、この作品を最高に楽しめたことを嬉しく思いますが、
ゲームを知らない人にも分かりやすい配慮もお美事。
これぞ東方SS!ですね!
各所の小ネタもスパイスとして作品をもり立てており良い感じです。
個人的にはFF4のネタとかツボ。
この素晴らしい作品に対し、惜しみなく最高点を送らせていただきます。
アンタは最高だ!(+100)
個人的には幽々子の離反が一番ツボでした。
シヴィは5分くらいしかプレイしてなかったけどまるで問題なかったり、この機にどっぷりやってみようかと思いつつも無情なんでやっぱいいかと思ったり云々
十九人でもほぼしっかり昇華消化消火されていたので問題ないかと思いました。鈴仙への仕打ちだけは、話として消化はされていても個人的に駄目でしたが。
妖怪の社会ではおおむね、古いものほど強くて偉い。『新しいものほど良い』などと言い出す輩がいたら、浅ましい人間かぶれと馬鹿にされるだろう。
civ4の格言に「他の科学分野において疑い無き真理に到達できるのは、数学という土台の賜物である。」という言葉があります。
まさにその通りで現代の理工学はすべてが数学と密接に関わっています。これは数学だけでなくある学問から発見・発達できた学問というケースもあるでしょう。
そういう意味では現代の最新科学も人類が文字と数字を手にして以来積み重ね続けた学問といっても言い過ぎではないのです。
私の解釈では技術ツリーは人間が登るためのものではなくて、人間がその英知をもって育て続けた樹齢3000、4000あるいはもっと古くからの大木なのだと考えています。
そして人間はこれからもこの樹を大きく育て続けていくのではないでしょうか。
浅ましい人も中にはいますが、少なくとも人間の生み出した学問は中々素晴らしいものだと思いますよ。
だけど凄く面白かったです(+102)
全く先の見えない展開には脱帽。経験者は早めに沈められるんだろうなあとか思っていただけに、この優勝者は予想外でした。逆転劇ってのはやっぱり良いですね。
まさかこんな作品に出会えるとは……。
面白かったです!
内容に関しては、何よりゲームの終わらせ方が良かったです。予想していない終わり方でしたが確かに一番後味の良い終わり方だと思います。
余裕で100点ですがあえて不満な点を挙げると、ゲーム参加の動機が皆さらっとしていたのでソコを加えたらもう少し盛り上がった気がします。あとはレイムが実力を発揮せずにあっさりあきらめてしまったのは残念でした。
ただ、それをふまえても十分面白かったです。一万点到達おめでとうございます。
とても面白かったです。
<俺ちゃんが百合的文化勝利を収めました>
ヤンデレゆゆこ様と泣いてるゆかりんが可愛かったです
元ネタ全く知りませんが、めっちゃ面白かったです!!
幽々子の裏切り、レミリアと輝寄るが核戦争を避けたこと、
歌が世界を平和に導く終わり方、勝利者が守矢というところも、
全部、鳥肌が立ちました。宴会も。すごいなぁ..
確かに、霊夢が早々いなくなってしまったのは少し淋しかったですけど、
それを差し引いてもすごく満足感のある読了でした。
ありがとう!お疲れ様でした。
カ…カッコイイ…
本当に最高に楽しめました!
>私は信じたいんだ、『昔の人はお化けを信じてなかったらしいよ』なんて、笑い話で語れる時代がきっとくるって」
にとりの言葉に心が震えました。非常に面白かったです。
そしてその個性的なキャラがゲームのプレイスタイルにうまく反映されていて面白かったです。
まるで本当に東方キャラがみんなでゲームをやってるみたいでした。
また、ラストもきれいに締められていて読後感もすっきりでした。
というかこのssのおかげでcivi4というゲームを知りました。
こんな元ネタのゲームを知らない読者でも楽しめる作品を作ってくれた作者さんに感謝しています。
文化勝利で感動した!
元ネタを知った上で改めて読み返してみると、前回は気付かなかったネタや理解できなかった必殺技が分かり、新鮮な気持ちで読むことができました。
素晴らしい幸福資源をありがとうございました。
Civ4は未プレイなのであまり分かりませんが、5はスタック廃止など大きくバランスが変わっております。
文章での表現が前提ですので大陸の位置関係が分かりづらい所はありましたが、Civみたく読んでるうちに夜が明けていました(全世界マップで遊んでいる設定だったら分かりやすかったかも)。