人間……特に、この国(日本)の人間は祭りが好きだ。
理由は様々だが一つ挙げるとすれば、多宗教(云い様によっては無宗教)だからといえるだろう。
そして、ここ数日間里の人々はすっかりお祭りムード。
12月24、25日……クリスマス。X’mas。Christmas。
今日は25日の方。聖者が生まれて初日の夜だ。
「ねぇミスチー。幻想郷(ここ)の住人は意味わかってこのイベントやってんの?」
「さぁ? どうでもいいんじゃない」
楽しければね、と微笑む夜雀―――ミスティア・ローレライ。
その答えは尤もだが、しかし納得いかないと宵闇妖―――ルーミアはしかめっ面だ。
今日、ミスティアは人里と森の狭間に屋台を出している。イベント効果を狙い、クリスマス装飾なんてものをやってみたが……来るわけ無かった。
「結局、ルミャだけか。皆家族でワイワイやってるんだもんね」
「だけって何さ。ったく……ミスチーまでそんな恰好して」
「ダメ? 可愛いでしょ」
特注したミニスカサンタのコスプレ。くるりとまわり、スカートがフワッと浮かぶ。
ああ、確かにこれなら食べ……もとい、御客も増えるかもとルーミアは思った。
ところで、とミスティアはルーミアに尋ねた。
「チルノ達は?」
「一々私が把握してると思う?」
「うん」
「……」
やれやれと溜息をつき、煙草に火を点けた。
まぁ、そのとおり、『把握』だけはしているのだが。
「……チルノは雪女とパーティー。大ちゃんも一緒」
「リグルは?」
「イケ好か無い土蜘蛛に呼び出し喰らった。まったく、いいからアイツが蟲姫やれってーの」
悪口言わないのと苦笑する女将(ミニスカサンタ)さん。
宵闇はグチグチと文句を続けていた。今夜は大分お酒が入っているようだ。
気にしたら負けと、ミスティアは何処ぞで覚えて来たかわからないクリスマスソングを口ずさんでいた。
「第一、レミリアもレミリアだ。紅魔(スカーレット・アンチクロス)がクリスマス祝ってどうする!
しかも今日は二日目だぞ?!」
「はいはい。人様の家庭事情に文句付けないの……お酒と煙草だけじゃ悪酔いもするわよ。
何か食べなさい。ほら、クリスマスメニューも有るわ」
「誰がそんなメニュー頼むもんか……タレ串二本」
「ふふふ、はいはい」
鼻歌交じりにヤツメウナギを網にかける。香ばしい臭いが広がった。
相変わらずグチグチ言ってるルーミア。
そこへ……
「うっす、ミスチー。やってる? ……げっ!?」
「あら、天満さん」
「あ。天満」
「ああ……悪い。急用を」
逃がすか。
ヌッペリとした闇が『山』の御大将―――大鷲天狗の天魔・天満に纏わりつく。
逃げようとしても、放れない。
「い、いやあああ! ミスチー! 喰われちまう! 助けて!!」
「ははは。ルミャ、程々に」
「ん」
無理くりカウンターに座らせた。
あからさまに嫌な顔をする天満。
「とほほ……不幸だ。毎年この日は碌な事が無え……」
「ドンマイ」
「あはは。天満さん、何にします?」
適当に見繕ってと項垂れる。ルーミアはクククと笑い、天満を弄る。良い鴨が捕まった。
「なんだ。守矢のパーティーに行ったんじゃなかったの?」
「誰が行くか」
「文がいるから?」
「んな、誰があんな奴の為に! ただ、女だらけの中に居座るほど、俺の肝は座っちゃいねえんでね」
ソッポを向き、紫煙を点す大鷲天狗。
女将は苦笑し、お通しを出す。
「何処も彼処もお祭り騒ぎ。自分ら日本人だろってーの」
「所々違うけどね」
「おまけに霖の所に行ったんだが……」
黙り込む天満。はて、と二妖が首を傾げる。
霖―――森近霖之助といえば、こんなメディア戦略のお祭り騒ぎに浮かれる様な男性では無かったはずだが。
「……修羅場だった」
「へ?」
「まず、俺がいたんだ」
前菜の切干を摘まみながら、ポツポツ語り出す。
「次に魔理沙ちゃんが来た。紅魔館のパーティー、二次会は出なかったみたいでな」
「ほう」
「『メリークリスマスだぜ、香霖!』ってな感じで」
「慕われてるわね、彼」
ああ、と呟く。女将から吟醸を渡され、天満は続けた。
「次に……慧音ちゃんが来た」
「人里のパーティーは?」
「霖を誘いに来たらしい。まったく……『どうせ一人で淋しくやってるんだろ? 誘ってやるから、来い』だってさ」
「あ、あはは」
成程……
「次に、何故か妖夢ちゃんが来た」
「へぇ。以外」
「なんでも『幽々子さまが貴方を誘えと……いや、ホントですよ!』って具合に」
「雲行きが……」
それから、霊夢、咲夜、鈴仙、早苗、こいし……挙句幽香まで、てな具合で人妖が増えていった。
既に苦笑すら出なかった。
「で、俺は逃げて来た」
「……ヘタレ」
「なんで?! 俺関係無いじゃん!」
ヘタレは総じてそう言う。
「しかし、何だね……まるで昔のお前だね」
「……るせーやい」
一気に大人しくなる天満。チビチビコップを傾けつつ、鰻を齧った。
それでもお構い無しに、ルーミアは天満を弄る。
「文に八手、小兎姫だろ。一時期、幽香と良い感じだった事も……今じゃ店主に乗り換えられて。
他にはみとりに、妖無、明羅。勇儀に手ぇ出しったて噂は本当? 後は……」
「嫌あああ! それ以上抉らないで! お前はさとりちゃんか?! 止めろ!!」
「る、ルミャ。それくらいに」
「……おや、ミスチーにも手ぇかけたのか。そーなのか……殺すッ!!」
「ちょ! いやいやいや! なんでそうなるの!?」
てんやわんや……
* * * * * * *
雪がチラホラ見えて来た。
しかし、暖簾の中の熱気は収まる事は無い。寧ろ、悪酔いがヒートアップしていた。
「おい、天満。踊れ」
「手前が踊りやがれ……ったく、聖夜だってーのに、なんでお前と呑まなきゃならんのだ」
「あ?」
「んだよ」
「まあまあ。こんな日くらい仲良くなさい」
「「はーい!」」
ミスティアはやれやれと頭を振った。
こんなことなら自分も何処かのパーティーに参加すればよかったと。
そんな時、空間がグニャリと歪み……
「はぁい。呑んでるかしら」
「五月蠅ぇ! ババアはお呼びじゃない!」
「てめ、ルーミア! 表出ろ!!」
スキマ妖怪―――八雲紫が現れる。喧嘩しに来たのか?
「まあまあ。紫さん、パーティーじゃなかったの?」
「いや、まあ……橙に『サンタ』さんからのプレゼントを渡し終わったところだから、一段落」
「……橙、まだサンタなんて信じてるの?」
ルーミアが毒付く。しかし紫は、え? と首を傾げた。
「いや、北欧のサンタクロース村からゲストを呼んで渡してもらってるわ。毎年」
なんて……無駄な凝りよう。
「流石にウチの娘(橙)だって、聖ニコラウスの幻想を願ったりしないわ」
「夢も希望も無いな……」
天満のぼやきに一同は苦笑する。
「それより……アナタ達はこんな素敵な夜に何をしてるのかしら?」
「「……」」
「あはは。私は通常営業ですよ」
「あらあら。そんな健気な夜雀ちゃんにはお姉さんからプレゼントよ」
お姉さん? と首を傾げたカウンター席組がスキマシュートされる。
「……ふぅ。はい、どうぞ」
「あ、え、ええ。ありがとうございます」
彼らは無事だろうか……と少々心配し、紫から本の様なものを受け取る。
「なんですか?」
「開いていなさい」
はてとミスティアはページを捲った。
「……楽譜、ですね」
「ええ。外の世界の『とある』人間が作詞作曲した歌よ」
「『H・Y・メリー』……あ、嬉しいんですけど……私楽譜読めないんですよ」
「大丈夫よ……はい」
更に小さな小箱を渡す。
「これは?」
「オルゴールよ。そのメロディーに乗せて歌って御覧なさい」
小箱を開く。優しいメロディーが流れだした。
「ありがとう、ございます。大切にしますね!」
「ええ、今度是非歌って頂戴な」
ミスティアは嬉しそうにプレゼントを抱えた。紫も微笑む。
暫くして……びしょ濡れの二妖が帰って来た。ミスティアは慌ててタオルを渡す。
「……大丈夫?」
「氷点下の寒中水泳とは……やってくれるよ」
「酔いは醒めたかしら?」
「てめぇ、スキマ! 殺す気なの?!」
女の子がそんな口の聞き方しないのとニヤニヤ笑う紫。
三六〇度ムーンライトレイを出される前に、スキマへ逃げた。
「覚えてろよ……」
〈いやーよ。まあ、今日は私が奢ってあげるから〉
スキマからお金が落ちてくる。10人妖分でもお釣りがくる額だ。
〈これから藍と『パーティー』だから……じゃね♪〉
「二度と来るな!」
吼えるルーミア。されど虚空に消えるのみ。
「ったく! だからこの日は嫌なんだ!」
「今日だけお前に賛同する。はぁ……くしゅん!」
ブルっと震える天満。当たり前だ。真冬に、しかもただでさえ寒い霧の湖にダイブしたのだから。
とりあえず度数強めの熱燗をカウンターに出してやる女将。
「ありがとう……ったく……あの日からだよ。毎年この日は……」
「また始まった」
もう、聞き飽きたと言わんばかりにミスティアは嫌な顔をした。
何が始まるんだと問う天満。兎角、ルーミアの話を聞くことにした。
「あの坊が生まれたあの時から……今じゃ唯一神? ふざけてるよ……手前らで勝手に祀っただけだろうが……
大体、処女出産だぁ? 在り得ないから、うん。マリィは2月14日に受精してるってーの。
計算上十月十日でジャストじゃないの……三賢者共が莫迦な事言うから……」
「……コイツ、何言ってんだ?」
「さあ、でも毎年の事だから気にしないで」
隣を気にせずブツブツ続ける宵闇。
「アイツが、磔に……犠牲に……ううぅ……ヒック……人柱に成る必要なんて……」
涙声になっていくルーミア。
「ああ……可哀相な、坊や……うぅ……今も輪廻の輪から外されて……ッくぅ……座から出る事の無い……ええぇ……」
「……ルミャ。今日はもう寝た方がいいよ」
ミスティアが肩に手を置いた時、宵闇は抱きついた。そして「ああ、クリス……クリス……」と嘆呟しはじめた。
天満は驚く。コイツでも、涙は出るのだなと。
次第に声は弱まり、スゥスゥと寝息に変わる。こうして見ると、当に見目相応少女に見える。
「黙ってれば……ただ可愛いガキなのに」
「ルミャも女の子なんだよ。ただ、どこか『闇』が多いからさ……」
「俺らも、綺麗なもんじゃないが、な」
暖簾の外を見る。明日には積もってるだろうか。
さながら、ホワイトクリスマス。
そんなことを考え、ガラじゃねえなと天満は苦笑した。
「聖者が磔にされる理由は何なんだろうね」
ルーミアにタオルケットをかけながら、ミスティアが呟く。
「俺に、聞いてんのかい?」
「いえ。『天魔』様に」
「……」
ふむ、と腕を組み紫煙を点しながら隣を見た。
* * * * * * *
「例えば……とある河童」
誰とは言わない。
「聖人とは違うが、嘗て期待のホープとして『山』の重役になった」
「……」
「しかし、それが気に喰わない公家連中もいた。
『山』の妖全体から見ればホープかもしれないが……結局は政治の駒に利用されることになった」
灰皿に灰が溜まっていく。
「穏健派、懐古主義派っていうのは……革命やヒーローってのが嫌いなんだ。
故に『磔』にされ、捨てられた」
「そして……賛同していた妖達も、地底に落とされた、と」
「ああ」
女将は御猪口を傾ける。
「例えば、とある歌姫」
女将の手が止まる。
「磔じゃないが……人柱だ。
ただ歌が好き。他妖より歌がうまく、特別な力があるからってだけで政治利用された。
彼女はただ楽しく歌っていたかっただけなのにな」
二妖は遠い目をする。
「彼女は……違う。逃げたのよ。河童は戦っているけど……歌姫は逃げた。聖人なんかじゃ無い」
「俺は聖人も、英雄も、人柱も……同義だと思うよ。
そして例えば……とある『山』の大将だが……」
空笑いをし、呟いた。
「誰も、救えんかった」
「……そんなこと」
「河童も、歌姫も、鬼も、転生を繰り返す健気な少女も、二人の若い半人半妖も……これから生まれるはずだった自分のガキさえも……ッ」
唇を噛み、震える。
「反乱軍のリーダー、屋台の女将、嘗ての上司、次代の阿礼、彼彼女らの運命……惚れた女の泣き顔。
全て、俺の所為だ……」
「……」
何も言えなかった。
「本当は、俺みたいな碌で無しが磔にされればいいんだがな」
「莫迦なこと言わないで!」
「俺さえしっかりしてれば、妖忌はまだ幻想郷に居た。リグルは姫なんかに利用されなかった。
魅魔さんは消えなかった。夢幻館の連中は捕まらなかった。元『山』の地底妖たちは―――」
―――バシンッ……
「―――自惚れよ」
「……悪い。酔ってたみたいだ」
叩かれた頬を摩る天満。
涙目の夜雀の顔をを見て、やるせない気持ちになる。
「ははは……ごめんな。独身男はこんな夜、自虐的になるもんなんだよ」
「はぁ、もう……文の前でこんな話しないのよ?」
「わーってる」
頭を下げる。
ふと気が付く。外はもう白ばんでいた。
随分と話し込んでいたようだ。
「朝霞か……おい、ルーミア。朝だぞ」
「んん……あ。寝てた」
「おう」
おはようと背伸びをする宵闇。
「んじゃ、帰ろうか。みすちー、御馳走さん」
「ええ。また」
天満は暖簾から出て、金色の翼を広げて飛び去った。
その姿はまるで金龍のようでもあった。
「……何の話をしてたの?」
「んー。そうね」
ルーミアの問いに少々考え、夜雀は答えた。
「弱気(ヘタレ)な独身男の愚痴を泣かされるまで聞いてたの」
「へ? 何それ?」
内緒、とイタズラに微笑む女将。
「ルミャも……素直に祝ってあげなさい」
「何を?」
「好きだったんでしょ? クリスさん、だっけ?」
「んな!! ち、違う! 誰があんな坊や!」
「ふふふ、はいはい」
ミスティアは七輪の火を消した。
本日の業務、終了。
「素直じゃないねぇ。みんな」
「ったく……」
ソッポを向くルーミア。
そして、小さく、呟いた。
「……メリー、クリスト」
「はいはい。遅くなりましたがメリークリスマス!」
日はまた昇った。
* * * * * * *
『私はお前を助けられるよ』
宵闇は言った。
『いいんですよ。私が死ねば、色々収まる』
聖人は答えた。
『聖人気取りかい?』
宵闇は問うた。
『そんな大そうなモノじゃありませんよ。ただ、皆が幸せならいい』
『莫迦だな』
『ふふ、はい』
宵闇はゴルゴダの丘を見つめる。
『後の世は良くなりますかね?』
『私に聞いてどうする。私は化け物だよ』
ええと、聖人は笑った。
『人間が大好きな化け物さん。これからも人の世を宜しくです』
『ッ!? ――――――……ああ、任せて』
そして、聖人は磔にされました。
彼が再びこの世に降りたかどうかなんて知りません。
ただ、宵闇は―――ルーミアは彼の約束通り、こんな残酷な世の中を嫌いになる事はありません。
だって―――
「約束、しちゃったからね……」
「え?」
「何でも無い! さ、ミスチー! 残飯漁り行こう!」
ああ、聖人。好きだよ。
理由は様々だが一つ挙げるとすれば、多宗教(云い様によっては無宗教)だからといえるだろう。
そして、ここ数日間里の人々はすっかりお祭りムード。
12月24、25日……クリスマス。X’mas。Christmas。
今日は25日の方。聖者が生まれて初日の夜だ。
「ねぇミスチー。幻想郷(ここ)の住人は意味わかってこのイベントやってんの?」
「さぁ? どうでもいいんじゃない」
楽しければね、と微笑む夜雀―――ミスティア・ローレライ。
その答えは尤もだが、しかし納得いかないと宵闇妖―――ルーミアはしかめっ面だ。
今日、ミスティアは人里と森の狭間に屋台を出している。イベント効果を狙い、クリスマス装飾なんてものをやってみたが……来るわけ無かった。
「結局、ルミャだけか。皆家族でワイワイやってるんだもんね」
「だけって何さ。ったく……ミスチーまでそんな恰好して」
「ダメ? 可愛いでしょ」
特注したミニスカサンタのコスプレ。くるりとまわり、スカートがフワッと浮かぶ。
ああ、確かにこれなら食べ……もとい、御客も増えるかもとルーミアは思った。
ところで、とミスティアはルーミアに尋ねた。
「チルノ達は?」
「一々私が把握してると思う?」
「うん」
「……」
やれやれと溜息をつき、煙草に火を点けた。
まぁ、そのとおり、『把握』だけはしているのだが。
「……チルノは雪女とパーティー。大ちゃんも一緒」
「リグルは?」
「イケ好か無い土蜘蛛に呼び出し喰らった。まったく、いいからアイツが蟲姫やれってーの」
悪口言わないのと苦笑する女将(ミニスカサンタ)さん。
宵闇はグチグチと文句を続けていた。今夜は大分お酒が入っているようだ。
気にしたら負けと、ミスティアは何処ぞで覚えて来たかわからないクリスマスソングを口ずさんでいた。
「第一、レミリアもレミリアだ。紅魔(スカーレット・アンチクロス)がクリスマス祝ってどうする!
しかも今日は二日目だぞ?!」
「はいはい。人様の家庭事情に文句付けないの……お酒と煙草だけじゃ悪酔いもするわよ。
何か食べなさい。ほら、クリスマスメニューも有るわ」
「誰がそんなメニュー頼むもんか……タレ串二本」
「ふふふ、はいはい」
鼻歌交じりにヤツメウナギを網にかける。香ばしい臭いが広がった。
相変わらずグチグチ言ってるルーミア。
そこへ……
「うっす、ミスチー。やってる? ……げっ!?」
「あら、天満さん」
「あ。天満」
「ああ……悪い。急用を」
逃がすか。
ヌッペリとした闇が『山』の御大将―――大鷲天狗の天魔・天満に纏わりつく。
逃げようとしても、放れない。
「い、いやあああ! ミスチー! 喰われちまう! 助けて!!」
「ははは。ルミャ、程々に」
「ん」
無理くりカウンターに座らせた。
あからさまに嫌な顔をする天満。
「とほほ……不幸だ。毎年この日は碌な事が無え……」
「ドンマイ」
「あはは。天満さん、何にします?」
適当に見繕ってと項垂れる。ルーミアはクククと笑い、天満を弄る。良い鴨が捕まった。
「なんだ。守矢のパーティーに行ったんじゃなかったの?」
「誰が行くか」
「文がいるから?」
「んな、誰があんな奴の為に! ただ、女だらけの中に居座るほど、俺の肝は座っちゃいねえんでね」
ソッポを向き、紫煙を点す大鷲天狗。
女将は苦笑し、お通しを出す。
「何処も彼処もお祭り騒ぎ。自分ら日本人だろってーの」
「所々違うけどね」
「おまけに霖の所に行ったんだが……」
黙り込む天満。はて、と二妖が首を傾げる。
霖―――森近霖之助といえば、こんなメディア戦略のお祭り騒ぎに浮かれる様な男性では無かったはずだが。
「……修羅場だった」
「へ?」
「まず、俺がいたんだ」
前菜の切干を摘まみながら、ポツポツ語り出す。
「次に魔理沙ちゃんが来た。紅魔館のパーティー、二次会は出なかったみたいでな」
「ほう」
「『メリークリスマスだぜ、香霖!』ってな感じで」
「慕われてるわね、彼」
ああ、と呟く。女将から吟醸を渡され、天満は続けた。
「次に……慧音ちゃんが来た」
「人里のパーティーは?」
「霖を誘いに来たらしい。まったく……『どうせ一人で淋しくやってるんだろ? 誘ってやるから、来い』だってさ」
「あ、あはは」
成程……
「次に、何故か妖夢ちゃんが来た」
「へぇ。以外」
「なんでも『幽々子さまが貴方を誘えと……いや、ホントですよ!』って具合に」
「雲行きが……」
それから、霊夢、咲夜、鈴仙、早苗、こいし……挙句幽香まで、てな具合で人妖が増えていった。
既に苦笑すら出なかった。
「で、俺は逃げて来た」
「……ヘタレ」
「なんで?! 俺関係無いじゃん!」
ヘタレは総じてそう言う。
「しかし、何だね……まるで昔のお前だね」
「……るせーやい」
一気に大人しくなる天満。チビチビコップを傾けつつ、鰻を齧った。
それでもお構い無しに、ルーミアは天満を弄る。
「文に八手、小兎姫だろ。一時期、幽香と良い感じだった事も……今じゃ店主に乗り換えられて。
他にはみとりに、妖無、明羅。勇儀に手ぇ出しったて噂は本当? 後は……」
「嫌あああ! それ以上抉らないで! お前はさとりちゃんか?! 止めろ!!」
「る、ルミャ。それくらいに」
「……おや、ミスチーにも手ぇかけたのか。そーなのか……殺すッ!!」
「ちょ! いやいやいや! なんでそうなるの!?」
てんやわんや……
* * * * * * *
雪がチラホラ見えて来た。
しかし、暖簾の中の熱気は収まる事は無い。寧ろ、悪酔いがヒートアップしていた。
「おい、天満。踊れ」
「手前が踊りやがれ……ったく、聖夜だってーのに、なんでお前と呑まなきゃならんのだ」
「あ?」
「んだよ」
「まあまあ。こんな日くらい仲良くなさい」
「「はーい!」」
ミスティアはやれやれと頭を振った。
こんなことなら自分も何処かのパーティーに参加すればよかったと。
そんな時、空間がグニャリと歪み……
「はぁい。呑んでるかしら」
「五月蠅ぇ! ババアはお呼びじゃない!」
「てめ、ルーミア! 表出ろ!!」
スキマ妖怪―――八雲紫が現れる。喧嘩しに来たのか?
「まあまあ。紫さん、パーティーじゃなかったの?」
「いや、まあ……橙に『サンタ』さんからのプレゼントを渡し終わったところだから、一段落」
「……橙、まだサンタなんて信じてるの?」
ルーミアが毒付く。しかし紫は、え? と首を傾げた。
「いや、北欧のサンタクロース村からゲストを呼んで渡してもらってるわ。毎年」
なんて……無駄な凝りよう。
「流石にウチの娘(橙)だって、聖ニコラウスの幻想を願ったりしないわ」
「夢も希望も無いな……」
天満のぼやきに一同は苦笑する。
「それより……アナタ達はこんな素敵な夜に何をしてるのかしら?」
「「……」」
「あはは。私は通常営業ですよ」
「あらあら。そんな健気な夜雀ちゃんにはお姉さんからプレゼントよ」
お姉さん? と首を傾げたカウンター席組がスキマシュートされる。
「……ふぅ。はい、どうぞ」
「あ、え、ええ。ありがとうございます」
彼らは無事だろうか……と少々心配し、紫から本の様なものを受け取る。
「なんですか?」
「開いていなさい」
はてとミスティアはページを捲った。
「……楽譜、ですね」
「ええ。外の世界の『とある』人間が作詞作曲した歌よ」
「『H・Y・メリー』……あ、嬉しいんですけど……私楽譜読めないんですよ」
「大丈夫よ……はい」
更に小さな小箱を渡す。
「これは?」
「オルゴールよ。そのメロディーに乗せて歌って御覧なさい」
小箱を開く。優しいメロディーが流れだした。
「ありがとう、ございます。大切にしますね!」
「ええ、今度是非歌って頂戴な」
ミスティアは嬉しそうにプレゼントを抱えた。紫も微笑む。
暫くして……びしょ濡れの二妖が帰って来た。ミスティアは慌ててタオルを渡す。
「……大丈夫?」
「氷点下の寒中水泳とは……やってくれるよ」
「酔いは醒めたかしら?」
「てめぇ、スキマ! 殺す気なの?!」
女の子がそんな口の聞き方しないのとニヤニヤ笑う紫。
三六〇度ムーンライトレイを出される前に、スキマへ逃げた。
「覚えてろよ……」
〈いやーよ。まあ、今日は私が奢ってあげるから〉
スキマからお金が落ちてくる。10人妖分でもお釣りがくる額だ。
〈これから藍と『パーティー』だから……じゃね♪〉
「二度と来るな!」
吼えるルーミア。されど虚空に消えるのみ。
「ったく! だからこの日は嫌なんだ!」
「今日だけお前に賛同する。はぁ……くしゅん!」
ブルっと震える天満。当たり前だ。真冬に、しかもただでさえ寒い霧の湖にダイブしたのだから。
とりあえず度数強めの熱燗をカウンターに出してやる女将。
「ありがとう……ったく……あの日からだよ。毎年この日は……」
「また始まった」
もう、聞き飽きたと言わんばかりにミスティアは嫌な顔をした。
何が始まるんだと問う天満。兎角、ルーミアの話を聞くことにした。
「あの坊が生まれたあの時から……今じゃ唯一神? ふざけてるよ……手前らで勝手に祀っただけだろうが……
大体、処女出産だぁ? 在り得ないから、うん。マリィは2月14日に受精してるってーの。
計算上十月十日でジャストじゃないの……三賢者共が莫迦な事言うから……」
「……コイツ、何言ってんだ?」
「さあ、でも毎年の事だから気にしないで」
隣を気にせずブツブツ続ける宵闇。
「アイツが、磔に……犠牲に……ううぅ……ヒック……人柱に成る必要なんて……」
涙声になっていくルーミア。
「ああ……可哀相な、坊や……うぅ……今も輪廻の輪から外されて……ッくぅ……座から出る事の無い……ええぇ……」
「……ルミャ。今日はもう寝た方がいいよ」
ミスティアが肩に手を置いた時、宵闇は抱きついた。そして「ああ、クリス……クリス……」と嘆呟しはじめた。
天満は驚く。コイツでも、涙は出るのだなと。
次第に声は弱まり、スゥスゥと寝息に変わる。こうして見ると、当に見目相応少女に見える。
「黙ってれば……ただ可愛いガキなのに」
「ルミャも女の子なんだよ。ただ、どこか『闇』が多いからさ……」
「俺らも、綺麗なもんじゃないが、な」
暖簾の外を見る。明日には積もってるだろうか。
さながら、ホワイトクリスマス。
そんなことを考え、ガラじゃねえなと天満は苦笑した。
「聖者が磔にされる理由は何なんだろうね」
ルーミアにタオルケットをかけながら、ミスティアが呟く。
「俺に、聞いてんのかい?」
「いえ。『天魔』様に」
「……」
ふむ、と腕を組み紫煙を点しながら隣を見た。
* * * * * * *
「例えば……とある河童」
誰とは言わない。
「聖人とは違うが、嘗て期待のホープとして『山』の重役になった」
「……」
「しかし、それが気に喰わない公家連中もいた。
『山』の妖全体から見ればホープかもしれないが……結局は政治の駒に利用されることになった」
灰皿に灰が溜まっていく。
「穏健派、懐古主義派っていうのは……革命やヒーローってのが嫌いなんだ。
故に『磔』にされ、捨てられた」
「そして……賛同していた妖達も、地底に落とされた、と」
「ああ」
女将は御猪口を傾ける。
「例えば、とある歌姫」
女将の手が止まる。
「磔じゃないが……人柱だ。
ただ歌が好き。他妖より歌がうまく、特別な力があるからってだけで政治利用された。
彼女はただ楽しく歌っていたかっただけなのにな」
二妖は遠い目をする。
「彼女は……違う。逃げたのよ。河童は戦っているけど……歌姫は逃げた。聖人なんかじゃ無い」
「俺は聖人も、英雄も、人柱も……同義だと思うよ。
そして例えば……とある『山』の大将だが……」
空笑いをし、呟いた。
「誰も、救えんかった」
「……そんなこと」
「河童も、歌姫も、鬼も、転生を繰り返す健気な少女も、二人の若い半人半妖も……これから生まれるはずだった自分のガキさえも……ッ」
唇を噛み、震える。
「反乱軍のリーダー、屋台の女将、嘗ての上司、次代の阿礼、彼彼女らの運命……惚れた女の泣き顔。
全て、俺の所為だ……」
「……」
何も言えなかった。
「本当は、俺みたいな碌で無しが磔にされればいいんだがな」
「莫迦なこと言わないで!」
「俺さえしっかりしてれば、妖忌はまだ幻想郷に居た。リグルは姫なんかに利用されなかった。
魅魔さんは消えなかった。夢幻館の連中は捕まらなかった。元『山』の地底妖たちは―――」
―――バシンッ……
「―――自惚れよ」
「……悪い。酔ってたみたいだ」
叩かれた頬を摩る天満。
涙目の夜雀の顔をを見て、やるせない気持ちになる。
「ははは……ごめんな。独身男はこんな夜、自虐的になるもんなんだよ」
「はぁ、もう……文の前でこんな話しないのよ?」
「わーってる」
頭を下げる。
ふと気が付く。外はもう白ばんでいた。
随分と話し込んでいたようだ。
「朝霞か……おい、ルーミア。朝だぞ」
「んん……あ。寝てた」
「おう」
おはようと背伸びをする宵闇。
「んじゃ、帰ろうか。みすちー、御馳走さん」
「ええ。また」
天満は暖簾から出て、金色の翼を広げて飛び去った。
その姿はまるで金龍のようでもあった。
「……何の話をしてたの?」
「んー。そうね」
ルーミアの問いに少々考え、夜雀は答えた。
「弱気(ヘタレ)な独身男の愚痴を泣かされるまで聞いてたの」
「へ? 何それ?」
内緒、とイタズラに微笑む女将。
「ルミャも……素直に祝ってあげなさい」
「何を?」
「好きだったんでしょ? クリスさん、だっけ?」
「んな!! ち、違う! 誰があんな坊や!」
「ふふふ、はいはい」
ミスティアは七輪の火を消した。
本日の業務、終了。
「素直じゃないねぇ。みんな」
「ったく……」
ソッポを向くルーミア。
そして、小さく、呟いた。
「……メリー、クリスト」
「はいはい。遅くなりましたがメリークリスマス!」
日はまた昇った。
* * * * * * *
『私はお前を助けられるよ』
宵闇は言った。
『いいんですよ。私が死ねば、色々収まる』
聖人は答えた。
『聖人気取りかい?』
宵闇は問うた。
『そんな大そうなモノじゃありませんよ。ただ、皆が幸せならいい』
『莫迦だな』
『ふふ、はい』
宵闇はゴルゴダの丘を見つめる。
『後の世は良くなりますかね?』
『私に聞いてどうする。私は化け物だよ』
ええと、聖人は笑った。
『人間が大好きな化け物さん。これからも人の世を宜しくです』
『ッ!? ――――――……ああ、任せて』
そして、聖人は磔にされました。
彼が再びこの世に降りたかどうかなんて知りません。
ただ、宵闇は―――ルーミアは彼の約束通り、こんな残酷な世の中を嫌いになる事はありません。
だって―――
「約束、しちゃったからね……」
「え?」
「何でも無い! さ、ミスチー! 残飯漁り行こう!」
ああ、聖人。好きだよ。
相変わらずの安定した(?)設定でとても面白い。
天ちゃんがモテモテだったとは……「誠○ね」の誠を天魔に変えて良いですか?w
だが私は全力で天×文を支援する。
さりげなくメリー(自分)の曲を布教するゆかりん乙。
・・・ところでミスチーのミニスカサンタのコスプレ画像はまだですか?
そろそろみとりん登場なんですね、わかります。
これからも頑張ってください
俺も……リア充したいです……うぅ……
……だがそれがイイ!!
ちなみにみとりんを知らない人のために勝手に解説↓
東方地霊殿に登場する予定だったが、没になったといわれる幻のキャラ。
設定としては難易度PHANTASMのボスで河城にとりの異母姉。赤河童。
種族:人間と河童のハーフ
二つ名:地に潜む紅い怨念
河城にとりの異母姉で、河童と人間との間に出来た半妖である。
河童の盟友であるはずの人間との間に誕生したみとりであったが
人間からは疎まれ、山の河童は彼女を見ると逃げ出していった。
自分が必要のない存在であり、本当の孤独は人と人との間にあると悟ったみとりは
「自分などいなくなってしまえばいい」と考え、地獄へ向かった。
しかし旧地獄は自分が想像している場所とは違い
妖怪や鬼たちがやたら親しげに暮らしている場所だった。
それでもみとりの心が他者に開かれることはなく
心に立ち入る者全てを制限していた。
地上で嫌われた妖怪を率先して受け入れていた鬼の中でも
特に勇儀が心配していたが、上手く接することが出来なかった。
勇儀は覚(さとり)妖怪である古明地さとりに相談した。
みとりの心を覗いてみると、話に聞いた通り彼女の心は荒れに荒れていた。
しかしそんな荒れた心の中にも、河童の友好的な心を垣間見た。
だがこちらの侵入を拒むみとりの心は、無理矢理こじ開けるものではない。
一方通行ならば、反対側に回り込むべきだ。
ここでさとりは少し面白いことを考え付いた。自分が動くのではなく
たまたま地底に来ていた人間に向かわせることにしよう、と……
…という設定のオリキャラww
ようは存在自体二次創作キャラで原作・神主とは無関係、しかしあまりにも巧妙な釣りに多くの人間が驚愕した。
ちなみに発案はVIPの「架空の東方キャラ作ってニコ厨釣ろうぜwwwww」スレ。
以降パー速で立ち絵、スペルカード、テーマBGM等が製作される程の愛を受け形を成し、
遂には「東方地霊殿Phantasmを実際に作ってみた」と言う題名の動画でニコニコでお披露目される事となる。
背景に地霊殿のものを使用したり、地霊殿PHボスという事にしたのは騙し易くする為であると思われる。
尚、本気で悪意の元騙そうとしたわけではないのでご理解の程を。一種のジョークってやつですウサ。
…との事。
これは、マジで好きだ!!!
重い経験の裏返しというか
だが香霖、てめぇだけはゆるさなえ!
・6番様> 安定……してます? 天魔はね、もう、設定上原作にも居そうだけど……殆ど自慰行為ですよね。
こんかいのゆかりんはキレイなゆかりんのつもりだよ(棒読み) ミスチーのサンタコス……誰か描いてくれ!
・7番様> みとりは、もうちょい先かな。ちょいとネタバレしちゃうと、私の作品の中心は霖之助さんなので……はい。
リア充……私は毎日谷屋さんの新作聴いて発散してますww
・8番様> ですよねぇ(泣) うぅ……万人受けする手腕が欲しいよぉ……
・9番様> おお、すげぇ! しかし……私の設定が……でも、止めない!
・奇声様> いいのかい? 私は(ry 毎度毎度感謝です!
・14番様> 基本「そーなのかー」は使いませんよ……大事な時以外は。
・16番様> ほんとトンデモですよねぇ。でも止めない! 霖之助さん、逃げて!
・21番様> スゴ味……だと? ありがとうです!
本当に毎回ありがとうございます! 何かリクエスト等もあれば反映させていくつもりなので是非に。
では、また(‵・ω・)ノシ
マンキョウさんの、いろいろあったけど今は楽しく生きている………こんな優しい幻想郷が好きです
それより、キャールミャサーン! の方が語呂良くないですか? 以後『キャールミャサーン』の人と命名しよう!(オイッw
ただし、舞台に上がるかもしれない『可能性』は十分にありますよ。