二人はいつも並んで座っている。
でも、二人はいつも背中合わせ。振り向いても背中しか見えない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
太陽が気の向くまま、熱を振りまく。
そんな夏のある日の夕暮れ。
昼間は茹だるように暑かったのに、そんなことは何処吹く風だ。
今は髪を梳くように静かな風が流れている。
今日はそんな妙な感じだから……。
こんな弱気も問いたくなるのかもしれない。
縁側に腰掛けた背中に、自分もそっと背中を合わせる。
なんだか、顔を見ちゃったら聞けそうもなかった。
「ねぇ……」
「うん、なぁに?」
「あんたは……、あんたはなんで……」
いつも一緒に居てくれるの?
そんなにわたしに優しくしてくれるの?
そう聞いてしまいたかった、言ってしまいたかった。
でも……今のわたしには、そんな勇気も無かった。
「……あんたはなんで毎日のようにうちに来るのよ」
「あら、来てはいけなかったかしら。迷惑?」
そんなわけ、ない。
「いくら今が平穏だからって、そんな暇だらけなワケでもないでしょうに、
『妖怪の賢者』様?」
「……そうね、『賢者』は忙しくて忙しくて、
こんなところに来ている時間は無いかもしれないわね」
少し茶化すように、そう言ってみせる。
「持つ者は持たざる者の感情を理解できない、なんて言うけれど」
「何よいきなり。質問に答えてよ」
「まぁ聞きなさいな。
あなたは全てから等しく『浮かぶ』ことができるけれど、」
そう言って、今まさに沈まんとする夕焼けを背に振り返った気配がした。
できれば、顔は見たくないのに……。
「どうしようもなく何かに縛られてしまう者のことを考えたことがあるかしら?」
そんなこと、
「何よ、それ……」
今更、そんなこと……わたしだってもうずっと……
「私はね、霊夢」
わたしは、振り返れなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「何って、そりゃ飛べない巫女はただの巫女なんじゃないか?」
とりあえず殴っておいた、陰陽玉ましましで。
どうだ、いつもの三倍痛かろう。
「一応マジメな相談でございますのよ、魔理沙さん?」
「悪いっ、私が悪かったからっ、ちょ、痛っ、ごめんって霊夢ぅ!」
ふん……よかろう、次は無いと思え。
「ボケ殺しすぎるんだぜ……」
「ボケなくてよろしい」
そこで溜め息ひとつ深くつく魔理沙。
おいちょっと待て、それはわたしの分の溜め息よ、返しなさい。
「私にも溜め息つく資格くらいあるぜ。というか呆れさせてくれ」
そう言い、姿勢を正してこちらに向き直る魔理沙。
「いいか霊夢……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
まあ魔理沙がこんな朝っぱらからここにうちにいるのは言うまでもなく、
お茶をたかりに来ているのだ。
「もう日課みたいなもんだからなあ」
とは本人の言。わたしのお茶だぞ、迷惑な。
……今、隣に居るのは魔理沙なのに。
それなのに、昨日紫が言った言葉が、頭から離れなかった。
人間、心細くなると誰でもいいから頼ってしまいたくなるのか。
気付いたら、昨日の紫との会話のことを話してしまっていた。
あえて言おう、血迷ったか、わたし。
そんで最後に、思わずつぶやいちゃったんだ。
「空を飛べなかったら、わたしってなんなんだろ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「いいか、霊夢。ほんとはこんなこと言うのは主義に反するというか……
こういうのは坐して側から見守るべきなんだけどな……
なんだかさすがに紫が不憫だぜ」
む、どーゆー意味よ。それにバカにされてる気がしないでもない。
「はぁ……。これほんとに私が言っちゃってもいいのかなあ……?」
「なによ、言うなら早く言いなさいよ」
「むぅ、せっかく人が悩んでやってるのに……
……ほんとに『紅の巫女』とか言われても知らないぜ?
ようするにだ……」
……へ……………ええ!?………
…………う…そ……?。
◇◇◇◇◇◇◇◇
はあ……本気でわかってなかったんだな霊夢のやつ。
あいつのことだから気付いてないフリして無理してるんじゃないかとか、
無駄な心配だったわけか。まったく、ほんとにまったく、だぜ。
お互いがお互いを想っているのに、
お互いそれに気付かない。
「まるで背中合わせ、か。
まあ結局、私が壊しちまったんだけどな」
さ、朝の一杯も飲んだし、今日はどうしようかね……
……ああ、フランと約束してたんだっけ。
じゃあアリスでも連れていくかな。
「魔理沙の友達も連れてきてよっ」って言ってたしな。丁度いいぜ。
さあて、今日も一日張り切っていくとしますか!
それにしても、
「あれじゃ本当に『紅の巫女』、だな」
霊夢があんなに顔真っ赤にしてるとこ初めて見たぜ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕方にも、
あいつは神社にやってきた。
宴会にも出てくるやつではあるけど、
普段ここにくるときは必ずと言っていいほどわたししかいないときに現れて、
縁側でお茶をすすって、世間話して、特になにもせず帰っていく、
いつもそんなかんじだった。
そんなにわたしと二人っきりがよかったのかな……
……て、何考えてんのよわたしは!?
『ようするにだ……
その、なんだ、あいつはお前が好きだから会いにきてるって
そう言いたかったんじゃ、ないか?』
「~~~~~~~~っ!」
「え?ちょっとどうしたの霊夢、いきなり悶えちゃったりして」
「なんでもない……」
……こいつは、いつもなんでもないことも気にかけてくれて、
わたしになにかあると、
こっちが申し訳ないくらい心配してくれて、
始めはわたしが『博麗』だから、システムを気にかけているような
そんなもんだろう、って思ってたのに……。
『私はね、霊夢。
別に「妖怪の賢者」としていつもここに通っているつもりはありませんわ。
……やっぱり、わかんないって顔してるわね、まったくもう。』
わたしが無視しちゃってたんだ。
なんであれにも気付ないんだ、博麗の勘はどこいってたのよ。
でも……気付けた。感謝、しとくべきかな。ありがと魔理沙。
「霊夢?あなた最近無理してたりしてない?
なんだか変よ、主に昨日とか。急にあんなこと聞いてきたりして」
「ほんとになんでもないって」
ほらね、こういうやつなのよ。だからわたしは……。
「ねえ、紫?」
今日は、今日からは、ちゃんと顔をみて話せる。
「今度、ううん明日!たまにはわたしがあんたの家行くからっ!」
「どうしたの?急に。本当になにかあったの?」
「なんにも。たまにはいいじゃない?
いつもあんたがうち来てお茶飲んでばっかり。
だから今度は、わたしがお茶たかりに行ってやるわ」
「あら、それが狙い?周りの空間『閉じて』おこうかしら。
それに、私は霊夢が淹れてくれるお茶をここで飲むのが好きなの」
「え~?けち~」
「……ふふ、冗談よ。いつでもいらっしゃいな。
そのときは私が直々にお茶淹れてあげるわ」
こいつは妖怪。人間のわたしの何倍って永さを生きてきて、
そしてこの先も生きるんだろう。
だから……一方通行の思いでもいい、なんて、
もしかしたら思っていたのかもしれない。
でも、わたしは……知らなかったころには戻れないのよ。
だから、振り向いたとき見えるのがもし背中だったとしても、
わたしはあんたに向かって走る。
そんでもってこれからは、わたしの方から先に抱きついてやるんだ。
お互い、もう背中合わせのままはいやでしょう?
そしてあとがきの藍さまで吹いたww
しかし藍様www
次回作も楽しみにしてます!