「こまちったら!」
ダンっ。夜更けの屋台でコップを叩きつける音が聞こえた。
「何回言っても変わらないんれすよ。目を離したすきにすぐぐーすかぐーすか。もう!」
「筋金入りのサボり屋だね。やり方を変えないとダメなんじゃないの?」
「何もかも試しましたよぅ。次はらいあんめいでんとかどうかなーっておもうんれすが」
「それは止めときなよ。ね?」
冷静なのは女将だけである。
なだめつつ、ひとつの提案をする。
「ねぇお客さん。沈黙は金、雄弁は銀って言葉知ってます?」
「……しってるですよ」
「騙されたと思って一度試してみるのもいいんじゃないかなぁ」
「うーん……」
「とある館でも実行に移してみたところね。あら不思議、逆によく働くようになったんだと」
「うーん……」
「まぁ、私はその人にちょこっと教えてもらっただけなんだけどね。その言葉」
落ち着かない。私は銀が好きだから雄弁でいいわ、とはとある館のメイド長の談。
そんなこんなでなにやらうんうんと悩んでいた閻魔が、歩けなくなる前に、と代金を置いて去っていった。
◇◇◇
閻魔の朝も早い。
洗面台の前に立ち、ぺたぺたになった髪を手櫛でさらさらと梳いた。すると簡単に、ふわりといつもの様な髪型になった。
蛇口を捻り、流れ出る水を掬い顔を洗いつつ、考える。
今日からしばらくの間、少々口を噤むことにしましょう。
つけ上がるようでしたら、悔悟棒で百叩きの刑です。
船頭小野塚小町の審判が、静かに始まりを告げる。
◇◇◇
「あっ、おはようございます四季様」
「おはよう、小町」
「は、はい。じゃあお仕事行ってきます」
あれ、なんだか変だなあ。
そんな違和感を覚えつつ、持ち場へ向かう小町。
「……そっかぁ。朝のお小言が無かったんだ」
手ごろな切り株に腰掛け、はたと気付いたように呟く。
「良い事さね。気分が楽ってもんだい」
んーっ、と伸びをして表情を緩める。気楽なものである。
さすりさすりと鎌を弄びつつ、ふと立ち上がった。
「気分がいいから霊を運んでいこう。まったく、私は働き者だな」
そう言いつつ船を出す。
近くの霊に語りかけ、一人で笑い、落ち込み、開き直っては笑う。
一人でよく話に事欠かないものである。
また、笑い声が響く。
「真面目に仕事しないとしばかれるからねぇ。閻魔様の裁きのしばき、なんちて」
ぶわっはっは、と一人で盛り上がっていた。霊の方に至っては、温度差に少しばかり引き始めている。
しかし、その陽気で暢気な性格がまた良いことでもある。
霊は死を自覚して受け入れられなければいけない。陽気なやつの方が死に気付きやすいという。
「ほら、着いたよ。行った行った」
霊を降ろして、もと来た路を辿り岸へ戻る。鼻歌混じりに。
◇◇◇
岸へたどり着いた。
霊を乗せてさぁ出発。と思いきや、小町は船を降りた。
「あー、百年分は働いたね。これでしばらくは安泰かねぇ」
そう言いつつ、川縁に寝そべってしまった。
「あっち」へ行けば紅葉でも見れるかな。そんなことを考えながら、うとうととまどろみに抱かれ、やがてぐっすりと眠りについてしまった。
小町が眠ってからしばらく後のこと。小さな顔に不釣合いに大きな帽子を被り、手に悔悟棒を携えた少女が現れた。彼女のボス、四季映姫である。
「……」
「……ほわっ」
「おはよう、小町」
「ほわぁぁっ!その、これは帰り路で巨大魚に襲われて逃げるのに必死で疲れてしまったというか……」
「それは大変でしたね。心配です」
「え、あ、すみません……」
「頑張ってくださいね」
「はい……」
やっぱり変だ!心の中で確信へと変わった違和感を抱きつつ叫んだ。
映姫は踵を返し、持ち場へ戻っていった。
「優しい……。いつもなら怒鳴られていたところなのに」
きょとん、としたまま固まっている小町。相当心外であった様子である。
「得体の知れない恐怖を感じるな。仕事を頑張ることにしよう」
言うが早いが、早速船に乗り込み船を漕ぎ始めた。
◇◇◇
「はぁ~っ、疲れたー!」
辺りも薄暗くなり、彼女は船を降りる。
彼女にしてみれば数千年分は働いたことになるだろうか。とは言っても一般の死神にしてみれば当たり前の仕事量ではあるのだが。
自室へ向かうために歩を進めていると、門で小町を待つ人影があった。
「お疲れ様、小町」
「あ、おつかれさまです四季様」
「今日はよく働いてくれましたね。よろしいことです」
「は、はぁ。ありがとうございます」
「あんまり無理はしなくてもいいのですよ」
「いえ、明日はもっと頑張りますよ」
「フフッ、頼もしいですね。期待しています」
「任せてください!」
「それでは、また明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい。失礼します」
抑えきれない喜びが、そのまま顔に出ていた。
小町はニコニコとそれを隠す風でもなく、満面の笑みのまま自室に向かった。
自室に戻り、布団へダイブ。開口一番、
「褒められるって気持ちいー!!」
布団の上でじたばたしながら、喜びを全身で感じている。
「こりゃすごい、こんなに嬉しいものだったんだな」
相棒であるような、へにょりと曲がった鎌に語りかける。
もはやおかしいと言える程の喜びぶりである。
その後は、部屋を出て風呂へ行き、着替えた後早々に床につく。
普段の仕事量から考えると、相当働いたことになる。彼女はそれなりに疲れていたのであろう、すぐに眠ってしまった。
一方、映姫の方も嬉しく思うことは違いない。
図らずも漏れる笑みを隠しつつ、自室へ戻る。
「ふっ、早速効果あり、でしょうか」
うふふと笑う彼女の笑顔は容姿相応のもので、嬉々として飛び跳ねる。
それほどまでに嬉しい出来事だったのである。
「明日はもっと忙しくなるかもしれませんね」
早めに眠れるようにしましょう、と風呂へ入る支度をする。
湯をはり終えたのを確認しつつ、脱衣場でその矮小な身体を包んでいた服を脱ぎ、かごに放り込む。帽子は帽子掛けへ。
几帳面な彼女はしっかりと足の指の間まで洗う。
一通り洗い終えた後に湯船に浸かりつつ考える。
「意外ですね……こんなにも早く効果が出るなんて」
先人の言葉は偉大であると感じつつ、喜びの余韻に浸りながら湯浴みを続ける。
風呂を上がり、バスタオルで体を拭く。
髪が乾ききるまでの間、書類の処理なりをして眠るまで過ごした。
◇◇◇
「おはようございます、四季様」
「おはよう、小町」
「今日は忙しくなりますからね。覚悟しておいてください」
「あらあら。気を引き締めていかなければなりませんね」
「それでは、お仕事行って参ります!」
大げさに敬礼して、彼女は自身の持ち場へと歩いていった。
「おらおら、船頭小野塚小町様のお通りだーい!」
何もない川に向かって陽気にそう叫ぶ。
行って帰っての繰り返し。往復を続けているだけなのに、彼女は楽しそうに仕事をする。
「なぁあんた、褒められる嬉しさって知ってるかい?ふーん、そうかい、でもあたいほどは知らないだろうな」
それから口を挟むこともできない幽霊に延々と語り続け、立て板に水を流すように出る言葉は留まりを知らない。
昼は持参した握り飯を頬張り、腹を満たす。食い終わればまた仕事だ。
彼女は軽い足取りで小船に乗り込んだ。
◇◇◇
仕事を終えて、帰り道。彼女待つ影が昨日と同じようにあった。
「お疲れ様、小町」
「おつかれさまです、四季様」
「よい働きぶりでした。よい事です」
「えへへ、どうも」
「その働きぶりに免じて、ええと、冬休みをあげましょうか?」
「えぇっ!?」
「冗談を言ってみました」
「は、はぁ」
「……慣れない事はするものではありませんね」
「いっ、いえ!面白かったですよ!まんまと引っかかっちゃいましたよ」
「そうですか?……それよりも、小町。最近あなたは変わりましたね」
「そうっすね。仕事が楽しくなってしまって」
「楽しんでいい仕事なのかはわかりませんが、よいことですね」
くすり、と微笑みながら言う。
「はは、それもそうですね。それならもっとこう、キリリと」
キリッと表情を硬くしてみる。どこか滑稽で、それがまた彼女の笑いを誘った。
「ふふっ、そんな表情で送っていたら幽霊も緊張してしまいます。今のままでいいのですよ」
「そうですかぁ。あたいもその方がいいですね」
ははは、と朗らかに笑って言った。彼女らしいところである。
それから二人は挨拶を交わして、各々の部屋へと戻っていった。
◇◇◇
あの日からしばらく。近頃肌寒くなってきた。
船頭の彼女も長袖の衣服に身を包み、白い息を吐きつつ仕事に励んでいる。
「あっち」の方では雪も降る頃だろう。生憎「こっち」では雪は中々お目にかかれない。
「はぁ~っ、まったく寒いねぇ。人肌が恋しくなるってもんだ。なぁ?」
幽霊に語りかけるものの、返事はない。あったらあったでおかしなことだが。
「お前は冷たいねぇ。抱いても冷えるだけだ」
彼岸まで船を漕いで幽霊を降ろす。
「いっぱい仕事したねぇ。今日はこれでお終いだ」
船をおいて帰路に着く。とは言っても大した距離があるわけでもない。
花をひとつ手に取り、好きだの嫌いだの、妙に少女っぽいことをしながら時間を潰しつつ帰る。彼女を待つためである。
裁判を終えて、門まで出てきた彼女を見て、小町は顔を綻ばせる。
なぜなら、今日はちょっぴり嬉しい日だから。
「おつかれさまです、四季様」
「お疲れ様、小町」
「最近は寒いですねぇ」
「そうですね。きちんと厚着をして風邪を引かないようにしてくださいね」
「ええ、もちろんです。こちらでは中々雪が見れませんね」
「今度見に行きましょうか?」
「いいですね。最近は宴にも出てませんから久しぶりにいいんじゃないですか?」
「そうですね。決めておきましょう」
「あ、四季様。あたいいいもの持ってきたんですよ」
「何でしょう?」
「これ、あげます」
さっと取り出したのは、パステル調のカラーリングにリボンが添えられた紙袋である。
「巷ではクリスマスというのが流行っているじゃないですか」
「これを私に……?」
「ええ、そうです。開けてみてください」
「それじゃあ」
うきうきとした表情で袋を開ける。繕うでもなく、そのままの彼女の姿。説教臭い彼女も、こんな一面を持っていた。
開けられた袋の中から出てきたのは手袋。
黒地でさらさらとした生地の手袋に、手首部分にファーが施されたもの。
「わぁ」
「四季様の小さくて白い手が凍えているように見えたので、手袋を」
えへへ、と照れながら言った。
「実はあたいもお揃いを買っておきましてね」
いつの間にか手袋をはめた手をよく見えるように前へ差し出す。
白い手袋がはめられていた。
贈ったものと色違いの、である。
「四季様は白黒つけるのが好きですから。あっ、四季様が黒(有罪)というわけではありませんからね」
「ありがとう、小町。嬉しいです。はめてみますね」
嬉々として手袋を手にはめる。その手を目の前にかざし、目を輝かせて笑む。
「本当に……嬉し……」
「な、泣くほど嬉しかったですか!?そりゃ、そんなに喜んでくれたらあたいも嬉しいですけど」
笑い、泣き、今日の閻魔は大忙し。
「あ、そうだ……今晩は七時頃に私の部屋へ来て下さい。夕食は取らずに」
「えっ、つまり……」
「いいでしょう、今晩くらいは……」
「は、はいっ、嬉しいなあ」
「……それでは、また後で」
映姫は踵を返して自室へ足早に戻っていった。
◇◇◇
小町は部屋へ戻るなり用意を済ませて風呂へ向かった。
彼女なりに準備を済ませたかったのだ。何の、とは言わないが。
湯浴みを済ませて、新しい服を取り出してビシリと決める。
あと半刻。それがひどく長く感じられた。
彼女は特にすることも思いつかなかったので、椅子に腰掛けて本を読んでいた。しかし、それもすぐに飽きてしまい、本をぱたりと閉じる。
結局、落ち着いていられずに立ち上がって部屋の中を右往左往する。非常にもどかしい。
なんだかんだで時は過ぎ、あと少しで定刻となった頃に小町は自室を出る。
高鳴る胸を押さえながら廊下を進む。
彼女の部屋の前。こほんと呼吸を整え、扉を叩く。
「四季様。あたいです」
「どうぞ」
変わらずに高鳴る胸。逸る気持ちを抑えつつ、ガチャリと扉を開いた。
……玄関と、居間とを繋ぐ引き戸が迎えてくれた。しかしこれは既に分かっている事。小町は、引き戸を引いた。
「おお……」
テーブルの上に所狭しと並べられた料理。ローストビーフ、ポテトサラダにスパゲティサラダ、オムレツ、スープ、それとフライドチキンのようなもの?
他にもまだまだチーズとサラミのオードブルなどもある。
「ちょっと作りすぎちゃいました」
「……いやぁ、こりゃ驚きました」
「お腹いっぱい食べてね」
「大飯喰らいのあたいでもどこまで食べられるか……」
「ささ、座って座って」
ぽんぽん、と肩に手を当てられ、椅子に座らせられた。
あまりの物量に圧巻され、一筋の冷や汗がたらりと流れた。
しかしそれも一瞬のこと、美味しそうな食事を前に思わず唾を飲み込む。
「待たせちゃったから、お腹も空いてるでしょう。それじゃー、いただきます」
「頂きますっ」
フォークを手に取り、ビーフ数切れにオムレツ一切れ、スパゲティサラダとポテトサラダとを取る。
「そんなに急がなくてもたくさんあるから大丈夫ですよ」
「あ、そんなにがっついてるように見えました?」
「いえいえ、あれだけ働けばお腹も減るというもの」
たはは、と頭を掻いた。
小町は取ったビーフを口へ運ぶ。
「……美味い!」
「ありがとう、小町」
「こんなに可愛くってお仕事ができてお料理もできるなんて、四季様を嫁にもらう人は幸せモノだな!」
「やだ、小町ったら……」
「んー、オムレツもただのオムレツじゃないですね。ピリリと辛味が効いている」
「そう、ちょっと香辛料を混ぜているの」
「甘いだけがオムレツじゃない、かぁ」
「あ、小町。これも食べてみて」
「これは……手羽元の唐揚ですか。ずいぶんと赤い……」
「香辛料をふんだんに使った唐揚なの。食欲をそそると思って」
「ほほう。それじゃいただきますね」
真っ赤に燃えるようなチキンを口へ運んだ。
美味い。始めのうちだけは。
「か、から……」
「お口に合うかな……?」
「辛ひ……すごく辛いですぅ」
「そう?……うーん」
映姫はそのチキンを一口頬張り、味を見た。作った通りの味だった。
「四季様って辛党だったんですね」
「私は普通だと思っていたのですが。少々残念です……」
「お、落ち込まないでください、四季様。味はとてもいいんすよ。あたいには少々辛味が強かったようですが」
「メモしておきます」
「それにしてもこのスープも……」
美味い食事を前に食がよく進む。
途中シャンパンを開けて二人で愉しんだ。
初め食べ切れるか心配していたものの、空腹と料理の腕も相まって滞りなく次々口へと運ばれてゆく。
目の前に座っている人物。あなたの笑顔を見ているとなんだか心が満たされるのだ。
お腹いっぱい。心もいっぱい。あなたの笑顔が自分を笑顔にしてくれる。
「ふぅ、完食、ですかね。割といけるもんすねー、本当に美味しかったです」
「腕によりをかけて作ったから食べてくれて嬉しいわ。それじゃ最後に……」
「おお~……」
出てきたのはカスタードクリームと苺のタルト。厚みがあり、食べ応えがありそうだ。
「余った分は少し残しておすそ分けするとして……はい、小町の分」
おすそ分けをもらった閻魔様などは非常に喜ぶのである。他の閻魔様は基本的にこんな祭事でご馳走を用意したりなどしないからである。
「いやぁ、デザートは別腹とはよく言ったもんです」
「それは何より。たんと召し上がれ」
手にしたフォークでクリームと苺の部分を掬い取り、頬張る。
もぐもぐ、と咀嚼すれば口の中は苺の酸味とクリームの柔らかな甘みでいっぱいになるのだ。
所謂乙女の瞳を釘付けにしてやまないスイーツの骨頂である。
「んー。美味なり」
「うまくできてるみたい。よかった」
あっという間にタルトはクッキーの皿だけになってしまった。
クッキーの皿をポリポリと齧りつつ、小町は提案する。
「四季様。流石にお腹も苦しいことですし、夜の散歩へと洒落込みませんか」
「いいでしょう」
「決まり!」
最後のひとかけを口に放り込んで、立ち上がった。そのまま四季映姫の手を引いて、外へと飛び出す。
「ひゅう、流石にちぃとばかし寒いですね」
「あっ……忘れた……」
「ん?何か言いましたか?」
「いえ、何も。こんな寒い時には手袋が必要ですね」
早速もらった手袋をはめて言う。大層気に入った様子である。
「はは、嬉しいなあ。あたいもしようっと」
「お揃いね。なんだかこれって、その、アレみたいですね」
「ん、ああ、ふふっ……そうすね」
照れ笑いを浮かべて、はーっと白い息を吐く。
身体がとても温かい。
「あたい、四季様が上司でいてくれてよかったと思ってますよ」
「いきなりなーに?」
「前のあたいは筋金入りのサボり屋でした。今では自他共に認める」
「以前他はすでに認めていましたがね」
「……むぅ。ある日突然、四季様はお優しくなりましたね」
「そうね。ちょっぴりやり方を変えてみようと思って」
「あのとき、あたい捨てられるかと思ったんですよ」
得体の知れない恐怖に襲われて。
何だか分からないものに突き動かされて。
必死に頑張ったあたいを、四季様は褒めてくれました。
それからですね、あたいが変わったの。
本当に、私を今の今まで護ってくれて、ありがとうございました
「……そんなに畏まらなくても。調子が狂っちゃう」
「はは……すみません」
「何だかそんな言い方だとこれっきりみたいじゃないですか」
「あ」
「これからもよろしくお願いしますよ」
「は、はい!」
「私は小町のことを一番愛していますから……」
「え?」
「今日は早く眠るのですよ!絶対に!自室に戻ったらすぐに眠りなさい!」
「は、はいぃ!」
「絶対ですよ!」
びしっ、と小町を指差して、そそくさと退散していった。
一人残された小町は、しばし呆然とした後、はたと思い出したように自室へと戻っていった。
◇◇◇
夜更け。死神の彼女は眠れずにいた。
「うーん……」
今日の出来事を思い出して、布団の中でじたばたとする。
かれこれ数時間前からこの様子である。
不意に、玄関から物音が聞こえた。
「……!?誰だ……?」
こんな時間に侵入してくるなんておかしい。あまりにも非常識だ。
小町は警戒の色を強めながら、鎌を手に取り布団に潜む。
同僚であろうと油断はできない。万一に備えて、息を殺す。
「(……来た!)」
寝室の戸が開く。それと同時に、
「誰だぁっ!」
「ひゃあぁっ!!」
「この声は……四季様!?」
ぱちんと明かりをつける。
そこに尻餅をつき倒れていたのは、間違いなく四季映姫であった。衣服に違いが見受けられるが。
「四季様……ぶっ」
赤と白のツートーン。短いスカートに、帽子もいつものものではなくキャップ型の帽子を被っていた。
「なんでそんなカワイらしいカッコしてんすか」
「そそそのこれは、さっき表で渡そうと思っていたものが渡せなくて、その」
彼女も形から入るタイプのようだ。聖夜にプレゼントを配るのはあの服を身に着けてからである、と。
「は、はい、これっ」
「これは……マフラーじゃないですか。暖かそうでいい」
「あなたの服装じゃ首元が寒そうだったから……」
「お気遣いありがとうございます。手袋とマフラーでいいセットじゃないですか」
「正直マフラーにしてよかったです。手袋とどちらにしようか迷ってましたから」
「そりゃ奇跡ですね。いや、もう必然」
四季映姫の身体を抱いて頭を撫でつつ言う。
「あのぅ、小町」
「はい?」
「離して」
「えー、勿体無い」
「何がですかっ!」
「もう少しだけ……多分人生で一度きりですから……」
「うっ」
今まで眠れなかったのが嘘のように、小町はすとんと眠りに落ちた。映姫を胸に抱きながら。
「あなたは幸せモノですよ……まったく、もう」
私も幸せモノなんですよ。小町。
おかしいな、なぜ俺のところにサンタが来てないんだ?
きたないなさすが火忍きたない(褒め言葉)
二人の会話や雰囲気とか面白いお話でした。
最後はもう、あれ……ゴーヤをくださいw
それは、貴方自身がサンタさんだからです…
素晴らしいプレゼント、ありがとうございます
で、もちろん同意さ!
コメントのひとつひとつが僕の心を潤してくれます。感謝、感謝。
それは非常に喜ばしいことであり、ある意味幼少期にもらったラジコンよりも嬉しいものかもしれません。
……まだまだ言葉にできない思いなどがぐるぐると渦巻いております。語彙力が足りない証拠ですね。
最後に。御読了ありがとうございました。また、機会があれば。
全然辛党じゃないよ。