・この作品は『彼女達のケジメ』の続編です。そちらをご覧になった後、読まれる事を推奨します。
加え、あとがきまで読んで頂けると幸いです。ではどうぞ!
* * * * * * *
白蓮は四名を自室待機させ、一妖一鬼と向き合った。
「お待たせしました」
「ええ、待たされました」
「そういうこと言うな、莫迦。えっと、自己紹介からした方がいいか」
鬼が姿勢を正し、首を垂れた。
「地底旧都副都長、星熊勇儀だ。見ての通り鬼だよ」
続いて隣の少女が口を開く。
「地霊殿主、古明地さとり。覚です」
「鬼に覚……幻想郷には、まだ居るのですね」
懐かしい目をし、微笑む白蓮。かつての信者には鬼や覚もいた。
「私がここ命蓮寺の住職及び……彼女らの『責任者』。聖白蓮です」
「ふむ。白蓮、でいいか?」
「構いませんよ」
「じゃあ、私はひじりんと呼ばせても貰い……勇儀、冗談ですよ。睨まないで」
本格的にダメかもしれない。パルスィか都長連れてくればよかった……と嘆く鬼。
コホンと咳をし、中断する賢将。
「いいかな? ナズーリンだ。しがない鼠妖」
「……しがない妖怪が『心』を隠せるのですか」
「……何の事か分からないな」
しらばっくれやがって。さとりは背丈同じくらいのネズ公を睨んだ。
「まあ、挨拶はこれくらいに。えーと、今日はだな」
「はっきり言います。ケジメを取って貰いに来ました」
「な! さ、さとり?!」
慌てる鬼に対し、冷静な三名。
回りくどいのは面倒だといった顔。
「ケジメ、ねぇ……如何に?」
賢将が茶を啜る。
「まず、一年前の出来事。ご存知ですか?」
「……船が脱出したことですか」
「ええ、『脱走』したことです」
毒のある言い方。明らかに喧嘩腰のさとり。
「彼女達は」
「さとり、少し黙ってろ。私が話す」
いい加減拙いと感じた勇儀がさとりを制し、説明を開始した。
ムッとジト目になるさとり。
「えっとな……今言った通り、奴らが封印を解いて地底を出たんだ。これは分かるな。
ただ、その際拙い事が二つ起こった」
「二つ?」
白蓮は、はてと首を傾げた。
「まず、奴らが『封印』扱いだったってことだ。お前さん、幻想郷の地底がどういった場所かってことは知ってるかい?」
「一応、彼女に聞きました」
ナズーリンが耳を立て反応する。
「地上を追われた妖怪が住みついて出来た旧地獄跡地、でしたっけ?」
「大体あってる。微妙な違いは有るが、ニュアンス的にはそんなもんだ」
ふむと考える白蓮。
正直、その在り方が気にくわなかった。この人妖平等の幻想郷であっても、その様な確執が有る。
まして妖怪同士が地上地底で認め合っていないとは……
「ただ、な……奴らの場合は違うんだ」
「違う?」
「ああ、あいつ等は……封印指定。追われたのではなく、その、言ってしまえば……」
「犯罪者って事ですよ。聖さん」
黙っていたさとりが告げる。バツが悪い鬼に代わりはっきりと答えた。
「彼女達が何をしたっていうんだい?」
「ネズーリンさん、それは知った事じゃありません。
看守は牢屋に入っている罪人の罪状と判決は把握していますが、内容までは知りませんよ。
あくまで管理のみ。そんなの『上』に聞いてみて下さい。尤も、当時の閻魔が現在と同じなら、ですが」
「使えない看守だね。あと誰がネズーリンだ。悟りさん」
「『小五ロリ』……今はっきり見えました。いや見せつけましたね。ネズ公が」
何やら険悪な雰囲気。白蓮と勇儀が二妖を宥めた。
「ま、まあ兎角それが一つだ。これは現在の閻魔に判断を仰げばいい。
早めにアポを取った方がいいな。事が早い方がアンタらにとっても有利だろう」
「わかりました。態々忠告感謝します」
「はは。何、嫌いじゃないからね。仲間の為に動いたんだろ、あいつら」
ニッと笑う。
「アンタも幸せもんだ」
「はい……」
きっとこの鬼は、『筋』の通った行動が好きなのだろう。
無論、船の脱出は迷惑をかけただろうが……それ以上に彼女達の想いを酌んでくれた。
「ありがとう」
「いやいや、こっちもあいつらが助けたがった御方が良い女だって分かったからな。
良かったよ。いずれ、どうだ?」
杯を傾ける仕草。苦笑する白蓮。
「ふふ、仏門の身ですよ?」
「般若蕩よ般若蕩」
「なら仕方ない。いずれ」
和やかな大人二名。
が、本題に戻そうと子供(体型)二名が咳をした。
「で、もう一つはなんなんだい? さろりさん」
「ええ、そうですね。ヤパーリンさん」
売り言葉に買い言葉。
「もう一つ……此方が本題ですが、被害の件です」
「そうですね。そちらは示談で行きましょう」
物腰柔らかな白蓮。しかし、さとりは違った。
「示談? 何を言ってるんですか? 住人が負傷してるんですよ?」
「え」
目を丸くする。まさか、あの子達が……
「妖怪を……傷つけたの、ですか?」
「ええ、被害は甚大です。建物崩壊範囲二里四方。負傷者百余り程。おまけに」
「さとり! 言葉を選べ! ……すまん。ただな、被害は本当なんだ。
あいつらが『直接』やってないにしろ」
「……どういうことですか?」
雲行きが怪しくなってきた。
頭を掻く鬼。紙と筆をと、ナズーリンから受け取り何やら書き出した。
「あのな……地底には追われた妖が、集まっている。これは先の通りだ」
題に『地底』と書く。
「殆どの妖怪は順応して暮らしている。アンタらは地底には来れないが今度写真を持って来てやる。
実に華やかで良いところだ。酒はうまいし、飯も絶品。地の底とは思えないくらい陽気な奴らばかり。この里に負けないくらい活気だよ」
でもな、と真ん中に線を引く。
「……望まぬ者もいるんだ。そういう連中は徒党を組んでやがる。
奴らは主に地上を、日の当たる所に暮らしている人妖。そしてそいつらと仲の良い地底の人妖を『敵』と見做している」
「敵、ですか」
「ああ……称して」
線の下に―――『反地上及び反人間組織』―――と書いた。
「所謂『反乱軍』と呼ばれる連中だ」
「しかし地上の人妖を良く思っていないのは、君らには悪いが……君らも同じだろう?」
「ええ。そうですね」
賢将が尋ね、覚が応じる。
「ですが、彼らは……それはそれは不条理な理由で地上を追われた。
特にトップの連中は嘗て『山』の重役でした。『山』はご存知で?」
ナズーリンは頷いたが、白蓮は首を横に振った。
「妖怪の山だよ。今は二柱が治めている」
「ああ、早苗ちゃんとこの……妖怪の山、確かに天狗達が自治をしてますね」
昔は私がトップだったがなと皮肉る勇儀。
さとりは話を続けた。
「『山』の政権争いで敗れた彼ら。そして、それに与(くみ)する恨み辛みが積もった妖連中。
彼らは普段、奥北・旧針山を縄張りにしていますが……今か今かと旧都中央を自分達の地上戦略の橋頭保にしようとしています」
「それを止める為に私やさとり、そのペット、そして都長が動くんだがな」
骨が折れるよと肩を回し、溜息を吐く鬼。
そして、紙の上半分に『聖輦船』と書いた。
「話を戻すが……今回の件の際、奴らが騒動に乗じて、暴れた」
「そして、多大な損害。及び北区一部を奪取されました」
話が、飲めない。
「何を、言いたいのです」
「……」
目を瞑る勇儀。静かに息をのみ、『反乱軍』と『聖輦船』を繋いだ。そして―――
「あいつら、水霊達が反乱軍と供託した疑いがかかっている」
「な?!」
―――宣言する。
白蓮は思わず身を乗り出した。真逆(まさか)、しかし……
「疑いに過ぎませんが……その疑いを晴らす為に、『私』が来ました」
「あの子達の『心』を覗いて回る、と」
「白なら構わないでしょう」
先と一転、真顔になるさとり。まるで、閻魔かと見違えるような雰囲気である。
白蓮は息を飲んだ。
自分達は良い。『心』を読ませない方法を知っているから。しかし、彼女達は丸裸。
恐らく、黒の可能性が無きにしも非ず、だろう。
「もし、もしもだがな……繋がっていたなら、然るべき『落とし前』を取って貰う」
軽い怒りが現れる鬼。
「それは……金銭的に、ですか? 暴力的に、ですか?」
「どっちも、でしょう」
「彼女達の身を被害者の家族・友人の前に突き出す。後の処置はそいつらに任せる」
「……」
ケジメ、か……
白蓮は少々考え、意を決す。
「わかりました」
「悪いな。こんなことしたくないのだが―――」
―――私が、身を差し出します―――
―――場が、凍った。
「ひ、聖! 君は何を言ってるんだ!?」
慌てるナズーリン。こんなバカな事が有るかと、声を荒げた。
一方さとりは冷静に白蓮の真偽を覗く。
「……本気ですね。『心』を隠してない」
腕を組む勇儀。
「何故だ? アイツらが黒だと?」
「……わかりません。わかりませんが」
立ち上がり、窓の外を見上げた。
「彼らの、被害者の気が晴れるなら……私の身などいくらでも差し出しましょう」
「アーリマン気取りですか? 片腹痛い」
さとりが毒づく。勇儀は黙ったままだった。
「聖、莫迦言うな! 何を考えている!」
「良いのよナズーリン。それに、私の頑丈さ嘗めないでね?」
「そういう問題じゃない! それこそ御主人たちが納得しないだろう」
「ああ……まあ、上手く言い包めて下さい」
何を言ってるのだ、この尼僧は。
白蓮を見上げ、ふと鬼が口を開く。
「そういうのも、嫌いじゃ無いんだがな……そればかしはできんな。其処の鼠妖が言うように、争いの種が増えそうだ」
白蓮が連れて行かれたとなれば信者達が黙ってはいないだろう。
やれやれと溜息を吐き、さとりは出来る限り低い声で、今於ける『最良』の選択を告げる。
「負の連鎖ですね。いいからさっさと彼女達の『心』覗かせて下さいな」
「しかし、それでも、黒の可能性が有る故。彼女達が連れていかれたら……私が『鬼』と為りかねない」
静かに、優しく告げる白蓮。場に居る全員が困っていた。
僧は彼女らの……いや自身の身から生じてしまった忌々しき行いを。
覚は生易しい隣の鬼と、自分の独断で話を進められない事を。
鬼は被害者の嘆きと彼女らの仲間意識を天秤に計れない自分を。
賢将は……全てが、想定外である事に。
(チッ……仕方あるまい)
ナズーリンは『心』を開いた。
* * * * * * *
さとりは気付いた。鼠妖が、こちらを見ている。加え……『心』が見える?
(さとり。『見えて』いるね?)
「ッ!?」
目を見開く。どういうことだ……
(このままでは話が進まない。案の定二人は上の空だ。決着を付ける為にも話を聞いてくれ。
OKなら瞬き。NOなら頷いてくれ。いいかい?)
……成程、くえない奴だ。
『パチ』
(オーライ……実の所、金銭で解決できる問題かい?)
どうだろう。妖怪それぞれなのだが……殆どは可だ。
ただし、仁義を重んじる鬼の眷属なんかには難しい。
『パチ……コク』
(両方……どっちもどっち、か。因みに、金銭面で言えばどの位の損害だい?
幻想円で千万単位、テーブルの上に二進法で指を。まず器物損害費)
また面倒な事を。さとりはざっと計算した。
『中指・薬指・小指(28)』
(二億八〇〇〇万か……住人被害、医療費等々は?)
『左、親指。右、薬指(40)』
(ふむ……とりあえず、この件の被害額は全額負担する)
本気か!? 凡そ七億(現在円にして約百億円)だぞ……
(多少、色を付けて払おう。何、こちらの問題は気にするな。
加え薬、衣食等も慰謝料とは別で供給。これでどうだ?)
は?
(……返事は?)
いやいや……仲間に確認しなくていいのか。そんな大掛かりな金、何処から―――
(信用できないか? もし、嘘なら私の首と……彼女達の首を持って行っていいよ)
……本気、か。嘘は無い様だ。
『パチ』
(よろしい。後程、何らかの形でお渡ししよう。残るは……彼女達だな)
『……パチ』
鬼と僧。愛強く優しき者故に、苦しんでいる。
(君個人としては、先の条件で全て納得してくれるかい?)
『パチ』
所詮、といっては被害者に申し訳ないが、彼らも消費者が殆ど。
相応以上の支援金が入るとなれば、現実問題文句は言わなくなるだろう。金の力は何だかんだ行って大きい。
個人的には、元々被害者に知り合いはいない。赤の他人に情が移るほど善人じゃないので。
寧ろ、お金で解決できる方が面倒が少なくて済む……チョピッとギれる(横領)し。願ったり。
(何か案は?)
『コク』
(はぁ……ったく、体育会系は面倒くさいね)
『パチ』
まったくだ。
(因みに、彼女らが反乱軍に与していたら……どうする? 制裁か?)
『パチ。コク』
(ん?)
正直反乱軍は嫌いだが、それに関与する連中らは今に始まった事じゃない。問題は今も組んでいるのかだけだ。
さとりは意を決め、口を開くことにした。
「勇儀」
「ん?」
「個人的な意見ですが。私は謝罪と示談金で済ませていいと思います」
「そうは言っても……被害者が」
「『今現在』彼女達が反乱軍と提携し、我々に牙を向く脅威なのであれば制裁は必要でしょう。
しかし、そうは思えません。確かに一時は手を『借りた』かもしれませんが」
「うむ……」
むぅと腕を組み、悩み出す鬼。天秤が揺らいだか……賢将が付け加える。
「向日二年間の復興支援金及び衣食薬の支援も出そう。いいね、聖」
「……勇儀とさとりちゃんの判断にお任せします。納得されるのなら」
「……」
二年あれば街は元に戻る。衣食、医療に勝る支援は無い。
勇儀は暫し眼を伏せた後、さとりに問うた。
「さとり」
「はい」
「書類云々はお前に任せていいんだな?」
「はい。誓約書は書いて貰います。連帯保証人付きで」
「そうか……」
呟き、冷めたお茶を一口。
「……白蓮」
「はい」
「良いブレインだな。そのネズミは」
「ふふ、高い金払ってますから」
「やれやれ……被害者には私から言って聞かせる。任せてくれ」
「感謝します」
両手を合わせる白蓮。勇儀は恥ずかしそうに頬を掻いた。
「ん、まあ……ただな。今後もし、反乱軍に与したら……分かるな」
「はい。その時は此の首を」
「……無い事を祈るよ」
一件落着。
* * * * * * *
「ふぅ……疲れました。早く帰りたい」
さとりが足を崩す。同感だとナズーリンは苦笑した。
「さて萃香誘って夜雀の所に……の前に」
ヨイショと立ち上がる勇儀。障子の前に進み、ガッと開いた。
「「「うわぁ!!」」」
「貴女達……自室待機を命じたはずよね」
雪崩れ込んで来る一輪、水蜜、星。
目の前に立つ鬼にビビりつつ、白蓮の問いに答えた。
「だ、だって姐さんが……」
「聖が鬼に攫われたらって……」
「び、微力ながら加勢しようと……」
虚勢を張り白蓮の前に立つ三名。あらあらと苦笑するしかなかった。
「……上にもいますね」
「ん? ああ……おーい、出て来い。喰ったりしないから」
カタッと天井の一枚が外れ、黒い少女が飛び出してきた。
周りには目もくれず一目散に白蓮の胸へ飛び込んだ。
「ひーじーり゛ぃ! バガなごど言わだいでぇ!!」
「ぬえ……」
びえぇーと大泣きするぬえ。つられて三妖も泣き出した。
賢将、覚はやれやれと苦笑。
「白蓮」
鬼が呼ぶ。
「良い仲間を持ったな……水霊、お前らも」
「……はい」
思う。
もし、昔……コイツみたいな導者がいれば、我々は地底へ潜らずに済んだかも。
あの幼い鬼を四天王の頭に祀らずに済んだかも。
この覚の妹は『眼』を潰さずに済んだかも。
『アイツ』は……反乱軍なんて作らずに済んだ、かも……
「ッ! ……帰るぞ」
「はいはい。ナズーリン、後日書類を持ってきます」
「ああ、一応手形をくれ。行き来が不便だ」
悪用しないで下さいよと使い切りの通行手形を数枚渡す。
賢将は丁重に尻尾の籠にソレを仕舞った。
「じゃあな」
「待って下さい。途中まで送ります」
白蓮が一妖一鬼の後ろに続く。
「態々いいのに」
「ふふ、いいのいいの。皆は夕飯の準備をお願いします」
泣き止まない仲間をあやし、白蓮は共に寺を出た。
「真っ直ぐ帰るのですか?」
「屋台に寄ってくよ。一緒に来るかい?」
「今日は遠慮しておきます……それよりも一つ、いいですか」
一妖一鬼は僧を見た。
「先程、反乱軍と与するなと仰いましたが」
「ああ。絶対ダメだ」
「きっとその御約束、破るでしょう」
「……どういう、ことだ」
怒りと疑問が交じった低い声。それに臆することなく白蓮は淡々と告げた。
「彼らは、彼らにも、救いはあります」
「……本気ですか」
「無論」
……莫迦だ。
未だに正義の味方に成れると思っている子供の様な『心』。
「十中八九、無理だぞ」
「一、有れば充分」
偽り無し。
「そうか……なら、止めない」
彼女ならば、もしかしたら、彼ら彼女らを変えてくれるのではなかろうか……
「……此処まででいいよ。今日は楽しかった」
「私もです」
「真面目な話し合いで楽しいとは……やれやれです」
苦笑。
「またな。コッチの約束は破るなよ?」
勇儀は杯を傾ける仕草をした。白蓮は微笑みええと頷いた。
「是非に。では次に会う時を楽しみにしています。さとりちゃんも、ね」
「『さん』付けにしろ、このバb……いや何でもありません」
一瞬真顔になった白蓮に恐怖を感じ、さとりは沈黙。
それではと一妖一鬼は森の方へ消えていった。
「……良い妖怪達ね」
一人残された白蓮は天を仰ぐ。半分より少々欠けた月。
「私は、アマちゃんかしら」
踵を翻す。皆が夕餉を作って待っている。
「繋いだ輪は……二度と離しません」
私の身体、私の力(魔法)。その為に……―――
『姉上は、もっと自分を大事にすべきだよ』
―――……私は、自分が可愛くてしょうがない卑怯者。
『皆、姉上の優しさに惹かれるんだよ』
―――……一人になるのが、怖いだけ。
胸に残る、肉親の声。
「歳、かしら……莫迦ね、私」
返事を求めぬ嘆呟。知らず知らず、門に着くまで繰り返していた。
「ただい」
「「「「ひじりぃー(ねえさぁーん)っ!!」」」」
「ま、うわっ」
波の如く白蓮を迎える彼女達。
どこぞの力こそ全ての中尉みたいな悲鳴を上げ、尻もちをつく住職さん。
「ど、どうしたの?」
「聖! 何もされませんでした?!」
「ケガ、してない?!」
星……ぬえ……
「姐さんの優しさに浸け入って、あいつらぁ!!」
「も、もう鬼なんか怖くないんだからね!!」
一輪……ムラサ……
「大丈夫だと言うに、まったく。まぁ、御帰り。聖」
ナズーリン……
「莫迦、ね」
え? と目を丸くする一同。
ああ、ホントに、莫迦みたいだ。
「ふふ、さあ。ご飯にしましょう」
迎えてくれる者がいる。表も裏も在りはしない。
全てを救い、全てから救われる……―――
「「「「「はい!」」」」」
―――……ありがとう。
* * * * * * *
「勇儀さん。丸くなりましたね」
「……そんなこと無いさ」
暖簾の下で彼女達は八目鰻を頬張っていた。
「勇儀は昔から丸いよ。此処とか、ココとか」
「やめッ! 何処触ってんだ!」
ホレホレと同席していた酒呑童子―――伊吹萃香が二房西瓜の様なモノを突く。たゆんたゆん。
「……私だって」
「さとり、なんか言った?」
「何も」
……別にいいもん。
「まぁ……私じゃ正義の味方には成れないからな。賭けたくなるんだよ、他力に」
「白蓮は、『彼女』さえ救う気でいるのでしょうね」
「『アイツ』の溝は深いよ……救えると思うかい? ローレライ」
「……」
女将―――ミスティア・ローレライは答えない。
ただ、さとりの隣に一つコップと串焼きを置くだけだった。
「みすちー?」
ミスティアは静かに、歌い出した。
―――『彼女』を救えるのは……
最も嫌っている『人間』
若しくは……唯一の『肉親』
そして……嘗ての『友』―――
フレーズは出鱈目。まるで即興の歌。
しかし、一同の心には全てが通じた。
「私は、鰻を焼くか……歌うかしか、できませんから」
「……悪い。辛いのは皆同じだったな」
最後の晩餐の様な雰囲気。今の彼女達には、『彼女』を憂い、酒を飲む以外為す術が無かった。
ただ……必ず、兆しはある。
「あらあら。揃いも揃って暗い顔。折角、久しぶりの地上なのに」
三名は振り返る。其処に立つは一人の女性。
薄い紫の髪。整った顔にモデルの様な体型。和服とスーツが交じった様な不思議な服装。
そして……第三の目。
「楽しく呑まなきゃ損々よ」
よいしょと座り、ポンとさとりの頭を撫でる。
「いらっしゃい」
「久しぶりね、ミスティア。萃香も元気してた?」
「御無沙汰してます。都長」
「固い固い。もっと楽でいいのよ」
苦笑するしかなかった。未だに頭を撫でられてるさとり。
ほにゃ~と昇天顔だったが、ハッと周りの目に気付く。
「か、母さん! 子供扱いしないで!」
「って言ってるうちは子供ね」
そう言って娘を弄る覚妖怪―――古明地かたり。
「相変わらず仲良いな。アンタら」
「当り前よ。自慢の娘だもの」
「……恥ずかしいセリフ禁止です」
一人赤くなるさとり。一同はニヤニヤ。
「さて、娘イジメもこれくらいに」
「この確信犯ッ!!」
「はい……勇儀。書状よ」
封筒を放った。
宛名、副都長様……送り主、無し?
「誰から?」
「中を見なさい」
封を開ける。手紙と券の様な物が出て来る。
勇儀は手紙と券に目を通した。
「……ッ!?」
「どうしたの?」
萃香が手紙を覗く。
「『姐さん、此の様な形でスイマセン。今はこうすることしか……』
……おい。コレ、『アイツ』からの?」
「……ああ」
鬼は券を確認する。多額の金額が書き込まれた小切手だった。
「妹へ……仕送り、だとよ」
さとりは二鬼の『心』を読んで内容を把握した。まったく、噂をすれば何とやら、だ。
勇儀は手紙をミスティアに渡す。
それを読み……夜雀は静かに涙を零した。
「不器用なのは変わって無いのね……安心した」
「まだ救いはある。きっと……きっと助けてみせるさ」
一同は頷いた。
幻想郷の影、反乱軍。負の産物だが……きっとやり直せる。
彼女達は再び誓う。
囚われの姫と悪の魔王は同一妖怪だが、それでも、必ず助けてみせると。
ハッピーエンド以外いらない。
あの頃のように、皆手を取り、ただ歌い騒ぎ呑み笑い合う。
「萃香、早く萃めよう。あの頃のメンバーを……ッ!」
「ああ、妖忌も魅魔も萃めてみせる! ミスティア、お前も力を貸せ!」
「っく……うん……えっく……うん!」
鳴き声交じりの外れ調の歌が夜空に響き渡った。浮かぶ七日月が屋台を照らしていた。
沢山のSSが出てるので、一つぐらいトンデモ設定な作品があっても良いと思います。
っていうか、マンキョウさんの設定は個人的に好きですから。
できれば、続きをお願いしたいです!
いや、しかしこの設定ならば確かにしっくり来る配役ですね。
お見事。
あなたのトンデモ世界観が大好きです。しかし伏線が多すぎるwww
しかしさとりんのキャラが改めて素敵過ぎるwww勇儀の姉さんの二房西瓜をつつきたい
ほんとこの設定での紅魔郷から星蓮船(萃・緋・非含む)までを見てみたいww
主にキャラ同士の会話。
・2番様> またです! すいませぬ!
・4番、冬。、奇声を(ry、12、14番様> ホント、トンデモですよね。書いてて思います(オイw
みとりはこの路線で行きます! 続きも頑張って書いていこうと思うので応援よろしくです!
・15番様> 赤河童スレか神主のフェイクじゃなかったかなぁ、と。姐さんの二房を狙ったら、命がいくつあっても足りませんよ!
新作もよろしくです!
対談はハラハラしましたよ。