狐がいる。
白の面と金色の毛並み。
九つに裂けた尾を持つ妖の狐。
狐は雌だ。
狐は幾つもの妖の術を操る。
狐は人に化け、人の世に溶け込む。
狐は人を狂わす魔性の美貌を持っていた。
狐は戯れに、幾つもの国を滅ぼしている。
狐に名は無い。
時と共に、或いは溶け込む国によって、狐の名は様々に変わった。
狐の今の名は玉藻前。
日の本の上皇に賜った名。
狐は人の愚かしさが嫌いでは無い。
愛してさえいる。
耳元で偽りの愛を囁いてやれば、たちまちの内に己を放り出す。
褥で淫らに喘いでやれば、たちまちの内に浅ましい本性を曝け出す。
狐は、人の脆弱な精神と生命を愛していた。
時に久寿二年。
近衛天皇の御世。
冬。
狐が玉藻前と名を改めてより一月が過ぎている。
一月前。
狐が藻女と名乗っていた頃。
上皇が出席した和歌の席において、狐は妖術で風を起こし、燈火を吹き消した。
夕刻。
釣瓶落としの日は、とうに山々の稜線の彼方へと没している。
暗闇の中、妖術で光を放って見せると、上皇はいたく感銘を受けた様子で、狐の化けた娘の虜となった。
玉のような光を放つと言う事で与えられた名が、玉藻前。
良い名だと思う。
その晩、上皇は狐を欲し、寝所へと招く。
正確には狐が化けた娘の身体を。
幾つもの飾り立てられた言葉で口説かれた気もするが、そのような戯言の内容を逐一覚えている程、狐は暇では無い。
結局の所、上皇と言えど浅ましい人間の雄にすぎない。
己の欲望を娘の中に吐き出したいだけ。
畜生が発情するのと何も変わらない。
否、種の為に子を為すと言う大儀が存在しないだけ、畜生にも劣ると狐は思う。
そうは言っても、狐からすれば人間の雄と交わるのは何時もの事なので、誘いを断る理由も無い。
下々の者からは神の如く敬われ、自己を肥大させた醜悪な豚と交わるのは思いのほか心地良い。
身体では無く心。
喜びでは無く悦びが、狐の糧へと変わる。
自身の技巧によって、組み伏せた娘が咽び泣いているとでも思っているのか。
狐の演技にも気付かず、涎をたらして交わいに耽溺する雄を弄ぶ戯れ事の面白みは、一度覚えると癖になる。
本来、人間の雄に対して身体を開いてやる必要さえ無い。
その気になれば指の一撫で、吐息の一吹きでさえ、容易く雄を絶頂へと導く事さえ出来た。
妖の性戯は、人間の雌のそれを凌駕する。
それでも、浅ましいと蔑む豚を相手に狐は身体を開く。
獣と成り果て、必死に狐を突き上げる雄の、絶頂を懸命に堪える顔を下から眺めるのは気分がいい。
雄に跨り、見下ろすのも好きだ。
逆に背後から貫かれるのは好きでは無い。
荒い息づかいばかりで雄の表情を観察できないのは、どうにも趣に欠ける。
ともあれ狐は何時ものように、人の世の地位を持ち合わせた雄に取り入る事に成功する。
最も今回の雄は、今まで弄んできた者たちよりも年を得た老人であった為、狐と交わう度、目に見えて残り少ない寿命を消耗していった。
人の医術の及ばぬ病を発症し、衰弱しても、狐を疑うことすらせず、なおも貪欲に狐を求め続ける。
老いてなお盛んと言うが、狐の性戯を持ってしなければ録に使い物にならない枯れ果てた老人の分際で、色欲だけは人一倍と見えた。
人の子の生き死になど、狐には何の興味も湧かない瑣事に過ぎなかったが、折角手に入れた今の生活が、あっけなく水泡に帰してしまうのも考え物。
最も、その時はその時で、新しい雄を探すだけの話なのだが。
人を欺くも、奴隷に貶めるも、実に容易いこと。
一から新しい雄に取り入るも、狐にとっては、さしたる労を伴わない。
その証拠に。
雄の屋敷に住まう数多の女中、警護の兵士、幾度と無くこの身体に精を吐き出した雄でさえも。
誰一人として、この国にいる筈の無い、黄金の髪と尾を持った狐の姿を不思議とさえ思わない。
冬の寒さに立ち枯れてゆく屋敷の庭園の花木を眺め、狐は密やかに笑う。
どうせ永遠には続かぬ仮初めの宿。
いっそ派手に散らしてやるが慈悲かとさえ思う。
ふと屋敷の中に何時もと違う気配を感じる。
手近な衛士を呼び止めて話を聞いた。
まだ年若い衛士。
突然に上皇の寵妃より声をかけられたのが意外だったのか。
頬を紅潮させる男の姿は、狐の嗜虐心をくすぐる。
衛士の語ったところによると、病に伏した上皇の身を案じ、陰陽師を屋敷へと招いたと言う。
狐は思わず零れそうになった笑みを押し堪えるのに苦労した。
招かれた陰陽師と言うのが、どれ程の力を持っているのかは知らないが所詮は人の子の術者。
九尾を持つ妖狐たる自分の術を見抜くなど不可能な所業。
忍び笑う狐の胸中に、ふと悪戯心が顔を擡げてくる。
招かれた陰陽師の足掻きを間近で嘲笑うも一興だろう。
素直に答えてくれた衛士の首筋を、褒美の心算で、指先で“そうっ”となぞってやった。
たちまち衛士は腰砕けとなり、呆けたような表情で宙を仰いだ。
漂う青臭い香りから察するに、どうやら達したらしい。
雄の性ほど憐れなものは無いと狐は笑う。
十二単を纏う狐は上皇の寝所を目指し、屋敷の中を我が物顔で歩きだした。
上皇の寝所へと続く襖を開ける。
屋敷の中、最も広大で豪奢な造りの寝所には、既に目当ての人物が到着していた。
陰陽師。
確か衛士は陰陽師の名を、安倍泰成と言っていた。
安陪泰成と言えば、狐も、その名を耳にした事がある。
平安の世の陰陽師、安倍晴明の子孫にして陰陽寮を統括する一族の一人。
なるほど確かに考えうる限り最高の腕を持つ陰陽師を、上皇は招いたに違いない。
狐の問いに、屋敷へと招かれた客人は答える。
己が確かに陰陽師、安陪泰成に相違無いと。
ふと狐は、そこで曰く言い難い違和感を覚えた。
違和感の正体を掴もうと思案する狐に、陰陽師が問い掛ける。
「……どうかなさいましたか?」
「……いいえ。何でもありません」
狐は首を僅かに振って、己の胸中に生じた違和感を振り払った。
気のせいだろう、と。
そうですか、と暢気に笑う陰陽師を見て、狐は胸中で忍び笑う。
目の前の女が人で無い事にも気付かぬ客人の、愚鈍さを嘲笑ってのもの。
狐は己の耳と尾を、更には黄金に輝く髪の色さえも包み隠さずに、客人の目の前へと曝け出している。
しかし、これまでの客人の所作には、こちらを不振に思った様子さえ見受けられない。
陰陽寮を束ねる一族の出自とは言え、やはり人の子は人の子かと、狐は嘲りの笑みを深くした。
しかし。
狐は客人の姿を、頭の上から爪先まで、値踏みするかのように眺める。
客人は思った以上に若く、そして力に満ちていた。
屋敷に常駐する力無き者たちを、化かし弄ぶにも飽いていた所。
狐は、ふと変わった趣向を思いつく。
他ならぬ狐を討つ為に、屋敷へと招かれた陰陽師。
恐らくは己の力に絶対の自信を持っているであろう、この客人を褥にて弄べば、どれ程に愉しいか。
自分が組み伏せている娘が妖であるとも気付かずに、快楽に溺れる客人の姿を想像するだけで、狐の胸中に昏い悦びが湧き上がる。
「上皇さまの病の因を探る卜占は、何時行うのでしょうか?」
狐は客人へと問い掛けた。
客人は言う。
「今日の内に必要な準備は全て終わらせましょう。明日には上皇さまの病の因も明らかとなり、全ては元通りとなるでしょう」
それが客人の答え。
面白い戯言だと狐は笑う。
すぐ目の前に病の元凶がいる事にも気付かぬ愚図が、如何な卜占を見せてくれると言うのか。
狐は笑いを堪え、客人の身体へとしなだれかかる。
柔らかな温もりと匂い袋にも似た典雅な香りが、狐の身体を包み込んだ。
目に涙を浮かべ、安堵の表情をつくり、客人へと披露してやる。
「屋敷に招かれた者が、貴女のような高名な陰陽師で本当に良かった。これで上皇さまは助かるのですね。何か御礼をいたしたいのですが、生憎と私が持ち合わせているものは何も御座いません」
狐は客人の腕に包まれながら、耳元で声を震わせ囁く。
「いいえ。そのような事は。御心のみで構いません」
客人の腕が己の背へと回されるのを感じとり、狐は面に浮かべた笑みを深くした。
客人の心が情欲に囚われ、堕ちていく様が手に取るように判る。
やはり人は単純だ。
仕種一つ言葉一つで、容易く操れる。
狐は既に客人の心は、己の掌中にあると確信した。
この場で押し倒すか、或いは押し倒させても良かったが、すぐ傍では病に伏した上皇が眠っている。
「上皇さまの眠りを妨げてはいけません。どうぞこちらへ。心ばかりの御持て成しをさせて頂きます」
甘やかな熱を言葉に乗せ、客人の耳元に囁いた。
狐を伴い、客人は上皇の眠りを起こさぬよう寝室より退出する。
狐は客人を、屋敷の中、己の為に用意された寝室へと招いた。
今宵の秘め事は面白い余興となるに違いない。
狐は客人と二人きりとなると同時、物も言わず客人の唇を奪い、床へと押し倒す。
客人は心奪われたかのように狐の為すがままとなっていた。
深夜。
狐は、蒼ざめた月明かりに目が覚める。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
今までに何人もの人の雄と交わってきたが、このような事は初めての事だ。
何やら身体が重い。
視線を彷徨わせると、開け放した障子の向こう、縁側に客人が立っている。
狐はゆっくりと寝床より立ち上がった。
一糸纏わぬ裸身に、冬の凍てつくような夜風が心地良い。
肌を滑る月の光さえ心地良く感じる。
月に照らされ藍色に冴え渡る夜の天幕の下。
静かに佇み、夜空を眺める客人の姿を美しいとさえ思う。
「ようやく起きましたか?」
客人は狐の方を振り返る事もせずに問い掛けた。
「ええ……」
客人の問いに答えながら、またも狐は違和感を覚える。
今、狐は確かに客人の姿を美しいと感じた。
思えば、狐が人の子を美しいと感じたことなど、今までに、ただの一度でもあっただろうか。
何かがおかしい。
言葉に出来ぬ違和感が、徐々に狐の胸中に疑念の花を根付かせていく。
客人は初めて振り返り、言葉を失った狐の姿を見る。
客人の金色の長い髪が、夜風に靡いた。
客人の金色の瞳に見据えられ、狐はようやくの事で違和感の正体に気付く。
「ああ、さすがに身体を重ねてしまうと気付くわね。もう少し、私に化かされている貴女の姿を愉しみたかったのだけれど」
この時代、この国において見慣れぬ紫の着物を纏う客人は、困惑する狐を見据え、歪に唇を歪めて見せる。
――ああ、そうか。
狐が胸中に抱いた違和感が、数多の疑問がたちどころに氷解していく。
日の本において陰陽師と名乗れる者は、男だけと限られている筈だ。
では何故、今、自分の目の前に立っている客人は女なのか。
自分は何故、その事を不思議とさえ思わなかったのか。
居る筈の無い女の陰陽師という異端の存在を何故、容易く容認してしまったのか。
この国にいる筈の無い、金色の髪と瞳を持つ女の存在を何故、受け入れてしまったのか。
狐は困惑する。
知らず、女から逃れるように一歩後ずさっていた。
「ふふ……あの程度の幻術で私を手玉にとれるとでも思ったのかしら?」
「なんだ……なんだ……お前は……!!」
怯えたような声を漏らす狐を、女は亀裂のような笑みを浮かべ見つめる。
「何って……名乗ったでしょう? 陰陽師、安陪泰成と。最も、それは数多ある私の顔の一つ。人の世に溶け込むための仮初めの名に過ぎないけれど」
瞬間、狐の目の前から女の姿が消え失せた。
「ふふ……さっきまでの貴女、本当に可愛らしかったわ。あんなにも拙い性戯で、この私に挑んできて。自分が何度達したか、覚えている?」
狐は驚愕の声を上げる間さえ与えられず、女に背後を奪われる。
女の“ひやり”とした手のひらが、狐の頬を撫でた。
「はっ……!」
狐は、それだけで足が生まれたての小鹿のように震え、倒れてしまいそうになる。
女に頬を撫でられただけで、達してしまいそうな程の快楽が、狐の総身を焼き焦がす。
狐は思い出す。
だらしなく気を失う前の己の姿。
屋敷に招かれた客人を弄ぼうと褥へと押し倒し、そして、なす術も無く組み伏せられ、幾度と無く昇り詰めさせられたという事実を。
「……そんな……嘘……でしょう……!?」
背後から女に抱きすくめられ、狐は呆然と呟いた。
そのような事は認められない。
認めたくない、と。
女は無慈悲に告げる。
「どうかしら? 今まで人を弄び、数多の国を滅ぼしてきた九尾の妖狐。己が化かされる側に回った気分は。ふふ、どうしたの? そんなに震えて。さっきまでは、あんなにも浅ましい声を上げて……私を求めていたでしょうに」
「な、何なの……! 本当に何なの……貴女はっ……!?」
「貴女と同じく人では無い者よ。貴女と同じく人の世に入り込み、人を化かす、貴女よりも年季の入った、ね。ただ一つ違うことがあるとすれば、私は人でない者を化かすのも好きだと言う事」
恐怖さえ入り混じった狐の悲鳴に対し、女はあくまで優しく、睦言を囁くように告げた。
「ふふ。普通の妖怪や妖獣ならね、最後まで気付かないのよ。例え私に抱かれても。どれほど浅ましい肉の人形に成り果ててもね。最後まで自分が化かされている道化であるとさえ気付かずに、私に全てを奪われる破目となるの。でも、さすがに貴女の力は強いわね。私の術を打ち破ったのは、貴女が最初よ。褒めてあげるわ」
女の指が妖しく蠢く。
「は、あっ……!!」
狐は言葉を失い、女へと身体を預けるよう倒れ込む。
「力は強いけれど、こちらの方は弱いわね。まるで生娘ではないの。経験が全然足りていないわ。少しは期待していたのに。いいえ。ある意味では期待以上かしらね」
女の嘲るような言葉にも、狐は答えない。
頭の中に霞がかかり、もう何も判らない。
存在そのものを犯すように沁み込んで来る、女の言葉と指だけが、狐の心を支配する。
二つの足で、まともに立っている事さえ苦痛に感じた。
「貴女の事、気に入ったわ。どうかしら? 私に尽くす式となるのであれば、命だけは助けてあげるわよ? 冬の間、自由に動かせる手駒が欲しかったところでもあるしね」
狐には女の言葉の意味は判らなかったが、ただ一つ、己が完全に敗北したのだと言う事実だけは判る。
「この……っ……狸、女……が……!」
狐は“ぎりり”と奥歯を噛み締め、甘い吐息に掠れる声で女へと吐き棄てた。
女は淫らな花のように笑い、狐へと囁く。
「狸に化かされる狐なんて笑い話にもならないわね」
“ぱきり”と、女が指を鳴らす。
狐の目の前の空間が裂ける。
裂け目には無数の目が覗き、狐の姿を見据えていた。
裂け目より幾つもの黒い腕が植物の蔦か、蛸の脚のように伸びてきて狐の身体に纏わり付く。
「覚えておきなさい。九尾の妖狐。貴女の主となる者の名を。八雲紫。それが、私の本当の名よ」
黒い腕に拘束され、空間の裂け目へと引きずりこまれていく狐の目に最後に映ったもの。
それは美しく澄み渡る、冬の、藍色の夜空。
「貴女の名は、後からつけて上げるわ。貴女に相応しい、新しい名を。今は……これまでの己を忘れ、手放し、捨て去る程の悦楽に溺れなさい。その存在の一片に到るまで犯し抜いて、私と言う存在を刻み付けてあげるわ」
女の言葉を最後に、数多の人を弄んできた九尾の狐の意識は、底なしの奈落へと呑まれた。
「……藍。起きなさい」
もう幾度と無く聞いた主の声で、八雲藍は目を覚ます。
「あ……紫さま……」
目を擦り、霞がかかった頭を振り、起き上がる。
「どうしたの? うなされていたわよ?」
何時もと変わらず、心中を推し量る事の出来ぬ作り物めいた笑みを面に張りつけ、八雲紫は、己の忠実な式を見下ろしていた。
「いえ。少し、夢見が悪かっただけです」
「そう。一体、どんな夢を見ていたのかしら?」
紫は“ころころ”と、全てを見透かすような笑みを浮かべ、藍へと問い掛ける。
「……忘れました」
「そう」
藍の答えを聞き、紫は、詰まらなそうに呟く。
「どうしましたか?」
「ああ。毎年の事よ」
藍は主の言葉を聞き、全てを察する。
「承知いたしました」
藍は、恭しく臣下の礼をとった。
藍の主である紫は、年に一度、寒さの厳しくなる冬から春へとかけて冬眠をする。
今年も、その時期がやって来ただけに過ぎない。
紫は当然のように、藍へと命じる。
藍は主の命に応え、褥に横たわる主へと口づけた。
「……んっ……」
藍が紫の式となってより、年に一度、必ず繰り返される儀式。
紫は唇を触れ合わせるだけで、決して自分から動こうとはしない。
だから、何時も藍の方から、紫の口内へと舌を差し入れる。
生き物のように蠢く藍の舌を口内に感じた瞬間、紫は己の舌で、拙い動きの藍の舌を絡めとる。
「ふっ……んっ……」
“ぴちゃり”と言う水音が響き、ややあって、互いの唇の間に蜜のような糸を引いて、主と式の口づけは終った。
「では……お休みなさいませ。紫さま」
「ええ、お休み。藍」
紫が目を閉じ、静かな寝息を立て始めると同時、藍の眼差しは忠実な式のそれで無く、憎悪を称えた眼差しへと変わる。
眠りについた主の首元に、鋭く伸ばした爪を当てた。
後、僅かにでも力を込めれば、主の首を掻き切れる。
藍は感情の読めぬ瞳で、永遠にも思える程の長い時間、紫の寝顔を見つめていた。
ふいに、藍が紫の首に当てた爪を引く。
無言のままに、主の部屋より退出した。
長い廊下を足音も立てずに歩き、やがて、紫の屋敷の中へと用意された己の寝所へと辿りつく。
「ふん……狸女め。私がその気になれば、お前など何時でも、くびり殺せると言うのを忘れるな」
藍は忌々しげに吐き棄て、“ずるり”と崩れ落ちる。
腰が抜け、最早まともに立っている事さえ辛かった。
「はは……口づけ一つで、この様か……情け無いな。あれから、もう千年近くもたっていると言うのに……」
うっすらと上気させた頬、熱を持ち乱れた吐息。
藍は己の身体の反応を恥じ入るように、自らの身体をかき抱く。
その胸中には、昏い色合いの炎が燃え盛っている。
「八雲紫……ああ、そうだ。殺すだけでは飽き足らない。いずれ……いずれ必ず、踏み躙ってやる。私と同じ屈辱を味合わせてやる。そうすれば……」
かつて世の全てが己の手中にあると信じて疑わなかった九尾の妖狐。
その傲慢を崩し、塗り替えた妖怪の女。
あの日から狐にとって、世の全ては女だけとなった。
狐の存在が女にとって、ただ偶然に見初めただけの都合のいい奴隷であるとしても構わない。
今の女の力を上回り、己が女の主となる。
そうすれば。
女に踏み躙られた日の、藍い夜の歪な月のような笑みを面に張りつけ、狐は呟く。
「そうすれば……貴女は今の私のように……私だけを見てくれるはずでしょう……?」
女は狐の全てを犯した。
ならば狐の全ては女のものだ。
藍は、紫の事を想い、乾いた声で笑い続けた。
ほんでエロい。ていうか淫らだ。
ゾクゾクしますね。すばらしい。
こういう話は大好きです。
自分に子供がいたら見せてはならないと感じる表現が混ざっていました。
ただ、一瞬でグレイズ1000稼げそうな表現にはヒヤッとしましたw(創想話的に
ヤンデレチックな藍さまも素敵ですな。
あと少女セクト氏の話を思い出した。
実際初期はこんな感じだったのかもなー
しかし性的描写のグレイズっぷリがすごいwww
次にこのような作品を書かれるのでしたら例の場所で遠慮無しのガチな作品を期待します。
そんな淫靡で淫蕩な一作でした。けっこう意欲作臭いというか文章が特殊なんでそこが面白いところかな。
自分の中では作者氏の新たな可能性が見えた気がする。
紫カッコいいよ紫
化かし合いで紫に勝てる者無しですね。
しかし……橙はどういったキャラになっちゃうんですかね。こういう場合。気になります。
素晴らしい描写でしたよ。
こんなゆからんも大好きです。
ゆからん素晴らしいよねゆからん
うーん、ヤンデレ藍も中々……橙も混ぜ「そこまでよ!」
ごちそうさまでした。
よろしければ、リメイク版を某所でお待ちしています。
誤字報告
>声をかけられたのが以外だったのか。
意外だと思います。
二人とも美女で素敵過ぎる…!!
ゆかゆゆも読んでみたいなあ。
なんと言うかぼーだーおぶえくすたしぃな感じ
モザイク故に際立つエロさって有るよね?
SSの中核を成す表現に18禁要素を入れざるを得ないのならばそれは
あちらの管轄であり、そのために住み分けができているわけで。
単純に見てもらえる人が多いから、と言った理由でこちらに
投稿されたようにしか見えません。
(事実、絡みの部分を抜くと作品はスカスカになる)
発表できる場がここしかないのなら仕方がない面もあるのかもしれませんが、
きちんと別に用意されているのにこちらを利用するのは書き手の我侭としか。
今回の話も、ただの気違いじみたヤンデレではない、秩序だった病んでる心理状態が読み取れて、氏の構成力や筆力の高さに感服です。
他の方々のコメントに、淫靡、という表現を使われていますが、まさに。この言葉がこうもしっくりくるのはなかなか無いものかと。
ただ、今回は表現が危ないですね、
性的な表現を目的とした18禁要素が含まれてるわけではないから、かなりグレーな白だと思うがどうか、といったところですか。
しかし自重しなければ……、いかん危ない危ない。
とかく。
今回の創話も面白かったです。次回にも期待します。
私の貧困な想像力でさえ、どろりとした空気、心の乱れ、が目の前にあるように感じられました。
敵わない文章力を突きつけられましたが、天晴れとしか思えません。
良い作品でした。
久しぶりに心揺さぶられた
ヤンデ藍さまテラエロイw